しかしそこで待ち受けていたのは彼女の予想を遥かに上回る出来事の連続であった……。
『何事にも報いをっ! それが乃木の生き様だっ!!』
拙稿ですがよろしくお願いします。
この作品がどこかの誰かの目に止まると願ってーー
P.S. コイツらが勇者でたまるか笑
西暦勇者である乃木若葉は香川県のとある町にやってきていた。
「千景殿。ひなたは将来、大切な役目を担う存在だと言っていたな……」
若葉は千景から送られてきた手紙に同封されていた地図を頼りに目的地まで歩いていた。
「地図によるとこの辺りのはずだが……」
示された場所に行くと角のような突起物のついた小屋を見つけた。あまりにも不格好なその突起物は若葉が小学生の頃、初めて目にした進化体バーテックスの隆起した角に似ていた。
「まさかここでは無いよな。ここが千景殿なはずがないよな? ここに千景がいれば話は別だが……」
いた。千景は小屋の入り口でギターを弾きながら立っていた。……いや、あれでギターを弾いているとは表現したくないが……。そんなことを考えながら若葉はもうすでに帰りたいムードをだしていた。
「待っていたわ……乃木さん。弾き語りしながらね……」
「いや、弾けてなかったぞ。そして語ってもなかったろう?」
「実は弾けないのよ。今日の朝始めたばかりだから」
「急にギターを始めるなんてどうしたんだ?」
「今ここで私がギターを始めることで、未来の勇者に託せるものがあると思うの。私はこれを……勇気のバトンと呼ぶわ」
ドヤ顔気味に放つ千景の言葉に若葉は困惑していた。
(千景……。本当に何があったんだ……)
千景はまた何か得体の知れないものに取り憑かれたのではなかろうか。それとも日々のストレスに心が悲鳴をあげているのか。
「落ち着くんだ千景。そんなもので未来の勇者に伝えられるものなんてないし、第一、下手だろう? それでそんな誇らしげな顔でいられても……」
若葉の辛辣な言葉に千景は黙り込み、ギターを高らかに掲げる。
「……じゃあもういいわ。やめてやるわよっ‼︎」
千景は掲げたギターを地面に叩きつけ……ようとはせず、丁寧にケースにしまった。
「ギターは……友達よ……」
「……」
若葉はもう何も言う気が起きなかった。
「さて乃木さん。とりあえずあがりなさい。できたてほやほやの千景殿へ」
何事もなかったかのように入り口を開ける千景。
「あ、待って。お土産を持ってきたわよね……」
「あっ、ああ。やっぱりいる、よな?」
「当たり前よ、乃木さん。ただでこの千景殿に入ろうなんて300年早いわ」
千景の言動に圧倒されている若葉は恐る恐る大きな袋を千景に渡した。
「正直これだけのために貴女を呼んだようなも……⁉︎」
中身を見た千景が硬直する。
「急に呼ばれたからな。マシなものがコレしかなかった」
「貴女は……マシなものがコレしか思い当たらなかったの⁉︎」
袋の中には勇者にとっては見慣れた白いバケモノが入っていた……。
「バーテックスって……、貴女ねぇ……」
千景は鬼の形相で若葉を睨んだ。
「わ、悪かったよ。ちょっとした冗談だ。笑って許してくれ。私だって苦労したんだ。わざわざ結界の外へ出て生まれたばかりの比較的小さなサイズのバーテックスを瀕死の状態にさせてここまで担いできたんだから」
袋の中にいる後に星屑と呼ばれるバーテックスは体を痙攣させている。
「貴女のそういうところが嫌いなのよ。全力でボケを振ってきて、こっちはどう反応していいかわからないっ! キャパオーバーしてるの……!」
「……本当にすまない。そ、それにしても良いところだよな」
苦し紛れに若葉は千景殿に入り、内装をほめた。
「……! やっぱり乃木さんは……、この素晴らしいタワーの良さをわかってくれたようね……」
(あ、機嫌治った)
千景はさっきまでの怒りが嘘のように恥ずかしそうに俯いた。……嬉しそうだ。
若葉はそのテンションの高低差で耳鳴りを起こしそうだったがひとまず安堵した。
「さあ、乃木さん……タワー内部を案内してあげるわ」
(タワーではないのだがな……)
千景の後ろに続くかたちで歩いていく。案内されるのは全て地上1階。所々の部屋は殺風景極まりないが出来たばかりなので仕方ないだろう。しかし、意外と広い。
「ここが応接室よ」
応接室と呼ばれる部屋に案内される。千景は一番豪華そうな椅子にドカッと座る。
「乃木さん、喉乾いたわ……。応接室を出て右奥に台所があるから、お茶……淹れてきて……」
「ああ、台所があるのか……。ん⁉︎ 千景、私が淹れるのか?」
若葉は驚いた。勿論この建物に台所があることもそうだが、仮にも客である若葉が淹れるのはどう考えてもおかしい。
「そう……よ。私は頑張って千景殿を建てた。その苦労を……労いなさい」
彼女の言っていることは滅茶苦茶である。極め付けに千景は、
「私は……勇者よ! 偉いのよ!」
なんて言い出している始末である。
(やっぱりさっきの怒ってないか……?)
千景は恐らくお土産にバーテックスを持ってきたことへの当てつけで若葉をこき使おうとしているのだろう。それに関しては若葉に非はあるのだが、こうもあからさまに上から目線で言ってこられると若葉もイラッとする。
(私も、勇者なのだがな……)
「早く行きなさい……乃木さん。バーテックスが襲来してきた時のようにキビキビと……」
若葉は怒りとやるせなさとがごちゃ混ぜになった感情のまま言われたとおり台所へ向かう。
「千景……、やはり建築でただならぬストレスを感じていたんだな」
千景が勇者の中でも特に繊細なのはわかっていた。だから若葉も、曲がりなりにも建設までこぎつけた千景を労おうとお茶を淹れる。
お茶をお盆に乗せ千景の元へ戻ろうとすると台所の奥にお風呂場があるのを見つけた。
「なぜここに風呂場があるんだ……?」
台所があったりお風呂場があったり、もうここは宿泊施設のようだ。
若葉が興味本位でお風呂場を覗くと、
「……乃木、園子……」
若葉は慌てて千景の元へ走って戻った。
「千景ェェェ‼︎ 風呂に見知らぬ女性が‼︎」
なんと長い黒髪を後頭部で結わえた少女が入浴していたのだ。
「ああ……、それは鷲尾さんね……。大丈夫よ、鷲尾さんには貴女のこと説明してあるから……」
千景は彼女のことを知っているようだが……。
「いや、思いっきり名前間違えられたぞ! 園子って呼ばれたぞ!」
「ごめんなさい……。私が間違えて教えたの」
「どうして千景が間違えるんだ⁉︎ おかしいだろう⁉︎」
「貴女の名前……、覚えにくいのよ」
「なんだと⁉︎ 私の名前は西暦勇者の中でも覚えやすい名前トップ3に入ってるんだぞ!」
それが本当かはさておき、西暦勇者は合計6人しかいないのでトップ3でもあんまり高くない。まあ、少なくとも千景よりは上だと思うが。
「そんなこと……どうでも良いわ……。早くお茶を渡しなさい、乃木お茶葉」
「乃木……お茶葉……だと?」
ピキッと若葉の中で何かがはち切れた音がした。
「……お茶だ。受け取れ」
コトッと若葉はお茶が入った湯呑みを千景の前に置いた……、その前にあるモノを入れて……。
「うわああああ! お茶の中にバーテックスの肉片がああああ‼︎」
湯呑みの中には白いマシュマロのようなものが浮かんでいた。勿論、正体は分かりきっている。
しれっとしている若葉。
(さすが我等が西暦勇者のリーダー……。露骨に地味な嫌がらせをする……)
バーテックスを食べたりお土産にしたりお茶にぶち込んだり……と、やること全部が規格外。これが狙ってやってるのか、天然なのかわからないところがまた恐ろしい。大したやつだ……。
(フッ、いいわ。私も少し……、調子に乗ったわね)
千景は深呼吸を3回ほどし、平静を装う。
「む? もうこんな時間か。じゃあ私は帰らせてもらおう」
若葉がそう切り出し応接室から出ていく。
「あっ、待って乃木さん、せっかくだから泊まりなさい。一緒に枕投げしましょう」
「いや、やらなくていいだろう。私は帰る」
「待って……、待ちなさい。ねぇ枕投げしましょう! 一生のお願いよ!」
千景の必死さに若葉は呆れる。枕投げは前にもやったはずだが、千景はえらく気に入ってしまったようだ。
「やるのは構わないが、二人だけではな……。それに枕でも当たると痛いぞ」
「当たれば、の話でしょう? 前回も私は被弾しなかったわ。貴女は猪みたく迫り来る枕を薙ぎ払っていたけれど……」
千景は勇者随一のゲーマーである。たとえ現実の遊戯でも彼女の才能は衰えることはない。
「枕でも、バーテックスでも簡単に避けてあげーー」
その瞬間、若葉の投げたバーテックスが千景に被弾。右腕をバケモノに喰らいつかれ気の遠くなるような激痛に絶叫する。
「ああああぁぁぁああああっ‼︎」
千景はよろめきながら若葉との距離をとった。
「千景ェ……。避けると言ったじゃないかぁ」
投げつけた当の本人は何食わぬ顔で千景を見る。
「はぁ……はあ……。バーテックスはやめな、さいよ……。あと、開始の合図は……ま、だよ……」
千景は今にも倒れそうだった。声も掠れてうまくでなかった。
(乃木さん……。もしかしてさっきのこと、まだ怒ってるんじゃ……ないでしょうね……)
さすが乃木さん。勇者のリーダーを任されるだけあって豪快だわ。
「……わかった、わよ。もうなんでもありのルールで……、いいの、よ……ねェ‼︎」
ふらつく足を左手で押さえながら踏ん張る千景は、気合いと共に意識を体の内部に集中させ、神樹の持つ概念的記録にアクセスする。すると、千景の周りから6人の千景が現れた。合計7人の千景が枕を左手に持ち若葉を睨む。
「なっ⁉︎ 切り札を使ったのか! ズルいぞ千景!」
「貴女に言われたくなんか無いッ‼︎」
そう言って7人の千景は若葉目掛けて枕を投げつける。
「くっ、私とて簡単にはやられるわけにはいかないッ‼︎ 勇者だからなッ‼︎」
若葉は枕が投げられた瞬間に目を閉じ、一瞬で体の内側に意識を集中させ、勇者の力を遡り、神樹の持つ概念的記録にアクセス。そこから"あの"精霊を身に宿す。
「降りよ! 大天狗‼︎」
途端に若葉の周りから炎が湧き上がり、向かってくる枕を丸焼きにして塵へと化した。
「大天狗……⁉︎ 三大悪妖怪を、使う……なんて」
大天狗とは、伝承によれば天上世界を一夜にして灰燼と帰したという大妖である。若葉は漆黒の翼をはためかせ千景を見据える。
「じゃあ……私も、三大悪妖怪を使う、わ。顕現しなさいッ! 玉ーー」
千景は一旦憑依させていた精霊を解除させ、新たな精霊を憑依……する前にあることに気が付いた。
「……ねえ乃木さん。……建物、揺れてない?」
「ああ。千景もそう思うか。それに、軋むような音も……」
若葉も違和感を感じとっていた。二人は数秒動きを止め見つめあう。……そして。
「千景ェ‼︎ もしかしてこの建物‼︎」
「ええ、乃木さん……。実はこの千景殿、高嶋さんが急ピッチで建てたから柱とか色々ゆるゆるなのよ……」
「ゆるゆるなのかっ‼︎」
「崩れるわ……。乃木さん、玄関へ早く‼︎」
二人が外へ避難して数秒後、千景殿は無惨な姿に変わってしまった。
「……乃木さん……。決めたわ……」
千景殿(だったもの)を眺めながら千景は言う。
「ギター、続けてみようと思う……わ」
「千景ェ……」
若葉はそう呟くと遠い目をして瀬戸内海がある方角を見る。
千景殿で一番特徴的だった角は、まるで枯れた彼岸花のようであった……。
前編は短く、後編は長く。
入口を簡単そうに見せかけて、中に入る人を貶める訪問サービスみたいだなぁ〜〜