気がついたら祟り神様(純粋)と一緒に呪術の世界にいた話 作:時長凜祢@二次創作主力垢
呪霊が無限湧きしていたのは、廃村に残されていた“宿儺の指”のせいだった。
封印が緩まっていたことと、そんなことを知らないで廃村に肝試しにやってきた人々の負の感情が、かなり集まっていたことで、あのような事態になっていたらしい。
“宿儺の指”を見せながら、そう説明してくれた五条先生。彼は、しばらく“宿儺の指”がありそうな場所を探してみると私たちに告げ、この日の任務の終了を口にした。
それを聞いた私は、そろそろ原作が始まるんだなと考えた。
“宿儺の指”から始まる、一人の少年の地獄のような物語。
その物語の中で、私はどんな立ち振る舞いをしたらいいのだろうか。
……廃村で私を助けてくれた神格の力を使いこなせるようになれるのだろうか。
そんな不安に駆られながら、自身に割り当てられた自室にて眠りについた。
程なくして聴こえて来たのは穏やかな濤声。
部屋の中で眠っていたし、海が存在しているわけないから、これはきっと私の夢。
でも、ただの夢ではないようだ。
感じ取れるのはどこか懐かしい神格の気配。鼻腔をくすぐるのは海の匂い。
頭を撫でてくるその手つきは優しくて、触れてくる温もりはとても温かい。
夢はここまでハッキリとした感覚を感じない。だけど私は感じている。
どこか、前見た夢と似たような……だけど、あの時間軸よりはかなり昔のような……そんな気がする。
『よぉ。目を覚ましたみたいだな。』
不意に頭上から声が聞こえて来た。記憶の中の私は、その声に反応するように、ゆるりと体を起き上がらせる。
どうやら眠っていたようだ。この記憶の中の私は。
『───。』
音として聴こえない言葉が紡がれる。これもあの時によく似ている。記憶の中にいる誰かの名前を、口にすることができない状況に。
『お前の主神様がせっかく嵐海殿に連れて来てやったって言うのに、眠って相手にしてくれないとかひどくねぇか?』
『ごめん。ちょっと昨日夜更かししちゃって。』
『は?夜更かし?なんで夜更かししたんだお前?まさかとは思うが、俺以外の奴と……』
『ちょ、なんでそんな話になるのさ!?巫女の仕事をしていただけだよ!!』
『本当か?俺以外にうつつ抜かして浮気とかしたんじゃねぇのか?』
『そんなことできるわけないだろ。私は問題ないかもしれないけど確実に相手が死ぬし、そもそも私は──以外と夜を共にするつもりはないと何度も言っているじゃないか。』
だけど、あの時の記憶とは全然違う。あの時の記憶は、相手の顔を認識できなかったのに、この記憶では、相手の顔も輪郭も、髪の色すらも把握できる。
目の前にいるのはガタイのいい青年。たくましい筋肉を持ち合わせている、黒い髪を持つ男性だ。
瞳の色は海の色。宝石に例えるならシーブルーカルセドニー。美しい鮮やかな蒼の瞳を持つ、
……あれ?
なんで私はそこまで彼を認識できているんだろう……?
『まぁ、そうだけどよ。』
『心配性だね。大丈夫。本当にただ巫女としての仕事をしていただけだよ。なんせ、年末年始だからね。神々の領域に足を運び、言葉を交わすことが唯一許されている人間という立場にある分、無病息災や必勝祈願、他にも様々な祈願に引っ張り出されるから忙しいだけだよ。神々に近い分、私が祈祷すると効果がかなり出るらしいんだ。』
『まぁ、人間っつっても、ルカに名前を与えたのも、巫女っつー立場に座らせたのも全部俺だからな。お前には俺とほぼ同格の神性があるし、ついでに言うと俺の───だし、そりゃお前が起動したらかなりの効果が出るわな。』
『……ちょっと待って?神性諸々の話ははじめて聞いたんだけど?』
『はじめて言ったからな。』
『私人間だよね!?』
『ああ。人間だな。寿命とかは人間と全く同じだ。だが、魂に宿ってる神性はこの海神様と同格だぜ?』
『なんでさ!?』
『なんでって、当たり前だろ?お前は俺の巫女であり、俺の魂の──なんだからよ。まぁあれだ。俺みたいな海神に気に入られて捕まった時点でアウトって奴だ。』
『惚れられた時点でアウトってことか……!!』
『ご名答。ま、諦めて受け入れるんだな、何もかも。』
『すぐに受け入れ難い真実な気もするけどね!!』
どこかの神社とは違う認識と状況に混乱しながらも、私は目の前で起こっている過去の自分と、神格を持つ青年のやり取りを眺める。
……人間だけど神性を持っていて、その神性は目の前にいる蒼眼の青年と同じもので、私は青年の──で……うん?──ってなんだっけ?
「へぇ、随分と懐かしいもん見てんじゃねぇか。」
「!?」
引っ掛かりを覚える単語に首を傾げていると、背後から誰かに抱き寄せられた。
驚いて声の方へと目を向けてみると、そこには記憶の中にいた青年と全く同じ青年の姿があった。
「いつの記憶だったか……ああ、そうだ。お前がまだ十六歳の時の大晦日の記憶だな。俺が暮らしてる神殿である嵐海殿に連れて行って、二人きりで年越しをしてやろうと思ってたのに、お前はグースカ寝やがって……クソ姉貴の目から離れたってのに夜伽もすることができなくて、そんでちょいと苛立ってた時だったな。」
言葉を失って固まっていると、青年が目の前の記憶がいつ頃のものだったかを口にして、懐かしむように笑みを浮かべる。
その姿をじっと見つめれば、彼は私の方へと目を向けて、穏やかな笑みを見せた。
「ルカ。これ以上記憶を眺めていたら、お前にかけといた記憶封じがぶっ壊れるぜ?そうなったら最後、お前はまた俺のところに戻ってくることになる。まぁ、お前の爪の先から頭のてっぺん、髪の毛一本から魂の全部まで元は俺のもんなわけだし、俺としては戻ってきてもらえる方がいいんだがな。ただ、今のお前は、俺の記憶を封じているから自由に過ごせてるようなもんで、俺を思い出したら最後、その自由は消え失せる。そう言う縛り。そう言う決まり。そう言う繋がりが俺たちにはあんだよ。」
しかし、その穏やかな笑みはすぐに消え、真剣と言う言葉が当てはまる表情へと塗りつぶされる。
「……だからこれは一つの忠告。そして、一つの助言だ。人間としての当たり前の幸せを掴み、人間と言う枠組みの中での終わりを迎えたきゃ俺を思い出すな。多少能力の制限がかかるが、呪いを祓うだけの力を使うだけなら制限された能力でも十分いける。だが……もし、力を解放し、あらゆる生き物を救うために力を振るうと言うのなら、当たり前の幸せと当たり前の最後に別れを告げて俺を思い出せ。お前が持つ神性を取り戻しゃ、全員を助けることなんて容易くなるし、お前が使っていた武器も解放できる。」
紡がれた言葉を脳裏で反芻する。
人間としての当たり前の幸せと、人間としての当たり前の終わりを迎えたければ記憶を封じたままに放置しろ。
当たり前を切り捨てる覚悟があるのであれば、記憶を全て思い出せ。
……なんとも難しい選択である。
でも、みんなを助けると言う意味では、全てを思い出す必要があるのか……。
「別にすぐに決めないといけないわけじゃねぇよ。ただ、全ての力を取り戻すには、かなりのメリットとデメリットがあるってことを頭の片隅に入れときゃいい。」
無言でどちらを選ぶべきか考えていると、穏やかな声で今決めなくてもいいと告げられる。
考えるために外していた視線を青年の方へと向けてみれば、彼は小さく笑って私のことを見下ろした。
「力を取り戻したいと思ったなら、俺のことを考えろ。そうすれば自然と俺の生得領域にお前は導かれる。ついでに、前思い出したであろう邪魔臭ぇ狐野郎も呼んでやるからよ。だが、俺のところにやって来て、記憶と力を解放した場合、お前はまた俺から逃げられなくなるぜ。体を交えることができるのも、睦ごとを囁けんのも、全部俺だけになる。つまり、俺以外の奴と恋愛なんてできなくなるし、子を成すこともできなくなるってわけだ。まぁ、俺が納得できる野郎となら、多少なりとも許してやらなくもないが、基本は俺優先になるってわけだな。……よーく考えてから俺のところに来いよ。」
青年の大きな手が私の両目を覆う。それに従うように目を閉じれば、意識が少しずつ遠くなっていくことに気づいた。
あの時と一緒。
でも、どうしてだろう?現実で目を覚ましたとしても、この夢だけは、この逢瀬だけは、忘れていないような気がする。
「そろそろ起きる時間だろ?なら、このまま現実で目を覚ませ。六眼持ちのガキンチョが、何かしらの知らせを持ってくるだろうしな。」
六眼持ちのガキンチョ……って、どう考えても五条先生なんですがそれは……。
ていうか、あの人をガキンチョ呼ばわりってなんだ。
「まぁ、神代の頃から生きてるんでね。俺にとっちゃ、人間は全員ガキンチョなんだよ。ああ、だがルカのことはガキンチョ扱いしないぜ?お前は俺の大切な女。俺が唯一特別と見る愛し子だ。だから、自分もガキンチョだとか言う勘違いだけはすんじゃねぇぞ。」
人の心を読むなし。
言葉を発していないのにスラスラとこっちが聞きたい答えを口にしてさ。助かると言えば助かるけど、なんかちょっと解せない。
そんなことを考えていると、それも読んだのか青年はくつくつと喉を鳴らすような笑い声を漏らした。
「なぁ、ルカ。」
ちょっと不服だと思いながら、意識を手放そうとしていると、穏やかな声で名前を呼ばれる。
同時に両目を覆っていた手が離れ、再び世界が視界に入る。
気のせいだろうか?先程まで見えていた記憶の景色とは全く違う景色が辺りに広がっているような……。
そんなことを考えていると、ふわりと体が傾いた。
背中から地面へと倒れていき、柔らかい布の上に倒れ込むことで体は静止する。
見えるのは木造りの天井と、私の大切な主神様。
「お前をここで待っている。だから、できれば俺を思い出す選択を選んでほしい。だが、それじゃあ幸せになれないと思うなら、俺を忘れて今生を謳歌してくれ。」
どことなく寂しげな笑みを浮かべながら、穏やかな声で言葉を紡ぐ彼の姿を見て、私は無意識のうちにその手を伸ばしていた。
触れたのは彼の滑らかな頬。相変わらず彼は暖かい。
私が手を伸ばしたことに驚いたのか、彼は一瞬目を丸くした。
しかし、すぐに小さく笑い、再び私の両目を片手で覆う。
「おやすみ、俺のただ一人の愛し子。俺はお前を見守っている。お前のことを求めてはいるが、お前の幸せも願っている。まぁ、お前を世界で一番幸せにできんのは間違いなく俺だろうがな。」
自信満々に告げられた言葉に、思わず小さな笑い声を漏らす。
彼の名前は思い出せないけど、主神としてではなく、
「ありがとう。うん、いざと言う時は君の元へと足を運ぶよ。その時が来たらお願いするね、私の主神様。」
「ああ。」
短い会話を最後に交わし、私はこちらの意識を手放す。
その際に感じ取れたのは、彼の唇の温もりだった。
࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶࿐·˖✶
「……スター……マス……ー……マスター。マスター。起きてください、マスター。」
「ん……」
不意に聞こえて来た声に目を覚ます。
静かに瞼を開けてみれば、そこにはコヤンスカヤの姿があった。
どことなく表情は嫌悪というか、うげぇ……とでも言いたげな表情が浮かんでいる。
「どうかしたのかな、コヤンスカヤ?」
「どうしたもこうしたもありません。なんて気配をさせてるんですか?明らかに神格の気配なのですが?」
「ああ……多分……いや、きっと夢を見たせいだろうね。まぁ、夢と称するには、あまりにも形がありすぎるのだけど。」
「……マスター?あなた、そのような話し方をされていましたか?」
「うん?ああ……これかな?まぁ、ちょっといくつか思い出してしまったものがあってね。少しばかり、こっちにも影響が出たみたいだ。」
「……どうやら、夢の中で彼に出会したようですねぇ。」
「うん。」
「ですが、完全に思い出してはないみたいですね。」
「そうだね。思い出してしまったら、確かな力を得る代わりに、いくつか縛りができてしまうから、まだ思い出していないよ。まぁ、忘れていたら忘れていたで、別の縛りと抑制が入ってしまうのだけど。」
「でしょうね。……思い出さない選択を選ぶのですか?」
「今のところは。」
「はい?」
コヤンスカヤに明確な疑問と言う感情が現れる。
今のところはとはいったいどう言う意味ですか?って聞きたいんだろうな。
そんなことを思いながら、私は静かに言葉を紡ぐ。
「今はまだ、記憶を取り戻したりはしない。明確に必要なタイミングが出てくるまでは封じておくつもりだよ。まぁ、なんとなく近い将来必要になりそうな予感はあるけどね。」
小さく笑いながらそう答えれば、コヤンスカヤはしばらく私を見つめたのち、そうですかと小さく呟く。
「……この話は終わりにしようか。ところで、なんか私に用事があったんじゃないの?」
「ええ。確かに用事はあります。あなたからかの神格の気配を強く感じたので、思わず忘れておりました。五条さんからお話があるようですよ。指でも見つかりましたか?と聞いたところ、そんなにすぐ見つかるわけないよと返されたので、別件か、これからのことについてのお話があるのではないかと思われます。」
「そっか。わかった。すぐ行くよ。」
とりあえずコヤンスカヤから話しかけて来ていた用件を聞いた私は、すぐにその場で寝巻きから制服へと着替える。
そう言えば、太歳星君とアビゲイルがいないような?
「太歳神とアビゲイルさんなら、マスターが目覚める前に部屋から出ていかれましたよ?マスターが夢を見ている時に、とてつもなく大きな神格……さらに言うと、陰陽で示すところの陽……荒御魂と英雄神の側面を持つ、大海原の神格の強大な力が全体的にマスターを覆っていたので、息苦しさを感じたのではないかと思われます。悪性持ちからしたら、マスターが本来持ち得る能力は、少々居心地悪く感じてしまうので。」
「おっふ……そっか。お高めのお菓子か、好きなお菓子を買ってお詫びしないといけないね。」
「それがよろしいかと。あ、
「あはは……了解……」
苦笑いをこぼしながら、コヤンスカヤの交渉を受け入れる。
かなり高い奴買わされそうだけど……まぁ、なんとかなるかな。父さんからおかしな量のお小遣いもらってるし。
そんなことを思いながら鏡の前に座れば、コヤンスカヤがすぐに私の背後に回って来た。
「ん?」
「たまには気分転換に髪型を変えたらどうかと思いまして。少々櫛とシュシュをお借りしますわ。」
「え、あ、はい。」
不思議に思いながら眺めていると、私の手元からシュシュと櫛を取り上げて、こちらの髪を弄り始めるコヤンスカヤ。
髪質としては
……さて、五条先生からの話とはなんなのやら。
瑠風
再び自身の記憶を夢で辿っていた異世界からの訪問者。
しかし、今回は前の夢とは違い、はっきりと何を見ていたか覚えたまま目を覚ました。
夢の中で出会した黒にも近い濃紺の髪を持つ海神 ──── の ── という立場にあり、同時に海神 ──── の巫女としてかつては別の世界で過ごし、最後を迎えた。
海神 ──── に名を与えられ、魂の結びつきを持ち、同時に惹かれ合う体質を持ち合わせているのだが、海神 ──── との記憶をもうしばらく封じておく道を選び、人間としての当たり前をまだ手放していない。
だが、いずれはそれを手放すつもりらしく、時が来たら海神 ──── の領域へと足を運ぶつもりでいる。
????
かつての瑠風に名を与え、自身の巫女、および ── として自身の手元に置くことにした海神の一柱。
例え瑠風が自身との記憶を忘れていても、彼が抱く彼女を愛する気持ちは変わっておらず、彼女を手に入れるためなら強制的に思い出させることも厭わない。
だが、彼自身は瑠風の意思を尊重することを信条としているため、まだ思い出さない、まだこのままでいると望む彼女の好きなようにさせている。
しかし、彼女が危うくなったり、悲しむようであれば、その信条を捻じ曲げることに躊躇いはない。
闇のコヤンスカヤ
瑠風から海神の神格と同格の神性を感じ取り、表情をかなり歪めていたが、ちゃんと秘書として働いていたフォーリナー。
瑠風の中にいる神格が何者か理解しているが、彼女が気づくまでは黙っているつもりである。
瑠風がお休み中、休憩を挟みながらも仕事をこなし、高専関係者からの瑠風への言伝等を引き受けては伝える作業を行う。
太歳星君&アビゲイル
名前だけしか出ていなかった二人組。実は瑠風から溢れ出た海神 ──── の神性を感じ取り、居心地が悪くなって離れていた。
このあと、瑠風からとびきり美味しいパフェを食べることができるお店に連れて行ってもらったことにより機嫌を治す。