気がついたら祟り神様(純粋)と一緒に呪術の世界にいた話   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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08.記憶のカケラ

 不思議な夢を見た。

 私が今の私になる前の、いわゆる転移前の私の記憶。

 視界はそれなりに高い。地面の距離や見える景色からして、中学生ぐらいだろうか。

 春の花が咲き誇る昼下がりの道のりを歩き、記憶の私はどこかへ向かってる。

 記憶の私の視点のようだけど、この体を自分で動かすことはできないようだ。

 多分、記憶を追走しているだけだから、動くことができないのだろう。

 そういえば……転移前の世界でも、私は生まれた時から東京にいたわけじゃなかったと、流れる景色を眺めながら思う。

 どの県で過ごしていたのかは覚えてないけど、東京じゃない場所だったことだけは確かである。

 

『……こんにちは、──さん。』

 

『おや……瑠風じゃないか。久しぶりだね。』

 

『うん。久しぶり。』

 

 そんなことを考えていると、記憶の私は穏やかな声で誰かに話しかける。

 景色は田舎を思わせる砂利道ではなく、古びた神社へと変わっていた。

 おそらく、この記憶の私がさっきまで向かっていたのはこの神社だったのだろう。

 神社には狩衣を着た誰かがいる。

 声はどこか低く、色気を含んでいるような穏やかな声だ。

 誰かに例えるとしたら、井上○彦さんだろうか。

 どことなく、某刀の上杉公が使っていたとされる、一文字のお頭さんのような雰囲気の声をしている。

 

『今日はどうしたのかな?』

 

『……ちょっと、お話がしたかっただけ。』

 

『?……どうしたんだい、瑠風?どこか、すごく寂しそうに見えるが……』

 

 その人の顔はわからない。いや、思い出せないが正しいのだろうか。

 思い出そうとすると、靄がかかっているようになり、少しだけ頭が痛くなる。

 悪い記憶ではないと思うのだけど……。

 いったい、目の前の男性は誰なのか……昔の私と親しいようではあるけど、どうして思い出せないのか……いくつか浮かぶ疑問の中、記憶の私は言葉を紡ぐ。

 

『あのね……私、来月からこの地域からいなくなっちゃうんだ。親が仕事で都会の方に行くから、それについて行かなきゃいけないの。向こうの学校に受かっちゃったしね。』

 

 ポツリポツリと紡がれた言葉は、呪術廻戦の世界に来た私によく似た状況を説明するためのものだった。

 私の言葉を聞いた狩衣の男性は、一瞬驚いたような表情をしたあと、どことなく寂しそうな笑みを浮かべ、そうかと一言呟いた。

 相変わらず目元から上は見えないけど、声音から十分寂しいという感情が伝わってくる。

 

『ごめんなさい。私がいなくなっちゃったら、あなたが消えちゃうのは知っていたんだけど……母さんたちが、高校を卒業するまでは側で成長を見たいからって一人暮らしを許してくれなくて。おばあちゃんも……つい最近亡くなっちゃったし。』

 

『謝らなくても大丈夫だよ。いつかこうなることはわかっていた。わかっていたんだ。だから覚悟はしていたさ。……だが……うん。実際にそれを告げられると……やはり、寂しくなってしまうね。君と過ごすこの穏やかな時間は、とても楽しくて好きだったからな。』

 

『…………。』

 

 どこか悲しげな声音で紡がれた言葉をに、記憶の私は答えることなく下を向く。

 少しだけ視界が歪んでいるのは、きっと彼女の涙のせいだろう。

 他人事のように言葉を聞くしかできない私の意識。でも、ひどく悲しいと思ってしまっているのは気のせいじゃない。

 これは、この時私が感じていた気持ち。それを思い出した。

 

 不意に、記憶の私に影が差す。同時に感じたのは温もりに包まれる感覚。

 視界に広がるのは男性の狩衣の布。記憶の私は、彼の腕に抱きしめられている。

 

『泣かないでくれ、瑠風。君の涙は得意じゃない。私も苦しくなるし、悲しくなってしまうからね。』

 

 穏やかな声音で宥められ、優しい手付きで頭を撫でられる。

 それを合図にしたかのように、私の両目からはぽろりぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちていき、地面や男性の狩衣にシミを作っていく。

 頭上から小さく漏れたような笑い声が聞こえてきた。仕方がないなと言うような、どこか呆れているけど優しいものだ。

 涙は得意じゃないと言っていたのに、私が泣いてしまったからだろうか。

 でも、彼は突き放すでもなく、怒るでもなく、私が落ち着くまで抱きしめてくれている。

 

『……落ち着いたかな、瑠風。』

 

『……うん。ごめんなさい。』

 

『謝らないでと言ったはずだ。君は何も悪いことをしていないのだから。』

 

 しばらくは涙を流した記憶が続いていた。しかし、ずっと見つめていればその記憶は終わり、記憶の私と神社にいた狩衣の男性が、神社に併設されている古びた家の玄関に座って話す記憶が現れる。

 記憶の私の顔はわからないけど、きっと目元が腫れているのだろう。

 それほどに長く、彼女は涙を流していた。

 でも、狩衣の男性は気にしていないのか、穏やかな声音で言葉を紡ぐ。

 

『……瑠風。遠くへと行ってしまう君に、私から贈り物を贈らせてもらうよ。』

 

『贈り物?』

 

『ああ。君が寂しくないように。君がこれから先で深く傷つかないように。いざと言う時は、私がすぐに君の元へと駆けつけることができるように。』

 

『──さん……。』

 

『ここの私は、君がいなくなってしまったら確かに消えてしまう。だが、君が私を忘れたりしない限り……仮に忘れてしまったとしても、心のどこかで覚えていてくれる限り、私は完全に消えることはない。だからこそ君に託そう。私からの祝福と共に。』

 

 ふわりと両頬に大きな手が添えられる。その手により顔は上に向かされ、吸い込まれそうなほど美しい紅玉の瞳と自身の瞳が重なり合う。

 ようやく見えたその顔は、何よりも美しく気高いものであり、同時にどこか強大な力を持ち合わせている存在だった。

 

『あなた……は……』

 

 息を呑むような美しさを持ち合わせている存在を見て、ようやく記憶ではない私自身が言葉を紡ぐ。

 だが、その瞬間視界は全てノイズにより塗りつぶされていき、私の意識も遠のいていく。

 

『瑠風。私は君のことを愛してしまった。だからこそ与える祝福と力だが、これはきっと、いつか過剰なものへと変わってしまうだろう。だとしても私は、君を手放したくはない。できることなら全てをこの場で奪い去ってしまいたいとも思ってしまうほどに。祝福を与える前にこのようなことを言うなどどうかしているとは思うが、これだけは告げさせてもらう。……すまない。そして愛している。例え君がどこまで遠くへと行ってしまっても、必ず見つけ出すための証を刻み込んでしまうほどに。』

 

 どこか遠くで、しかしすぐ近くにいると錯覚してしまうような声が鼓膜を揺らす。

 最後に見えたものは、美しくも悍ましい存在の端正な顔が、私の方へと近づけられる記憶だった。

 

 

  ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽

 

 

「………今のは……?」

 

 不意に意識が浮上する。

 ぼやける頭と視界の中、私はポツリと小さく呟く。

 何か夢を……大事な記憶を見ていたような気がするのだけど、雲がかったように曖昧で、何を見ていたのかハッキリと思い出せない。

 

「るかるか……。」

 

 そんな中、すぐ近くから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 すぐに声の方へと目を向けてみれば、そこには太歳星君がいて、なんだか心配しているような視線が送られている。

 

「……どうしたの、セイ?」

 

 どこか不安気な様子を見せている太歳星君に声をかければ、彼はぎゅっと私の手を握りしめてきた。

 その手は少しだけ震えていて、何かを怖がっているようだった。

 

「セイ……?」

 

「……さっき…………。」

 

「うん?」

 

「さっき……るかるかから、普段は感じることがない大きな力を感じたのだ。ワガハイやあの狐、あびあびとは全く違う力だった。」

 

「……セイでもなく、コヤンスカヤでもなく、アビーでもない大きな力…………。」

 

「うん……。」

 

「………そっか。」

 

 太歳星君の言葉に対し、小さく呟くように相槌を打つ。

 おそらく、私が見ていた夢に関わりあるものだろう。でも、夢でハッキリと見ていたはずなのに、その力を持つ者が誰なのか……曖昧になっていて思い出せない。

 どうして思い出せないのだろうかと考える。小さい時の記憶だから?転移する前の記憶だから?それとも、何かしらの外的要因によるものなのだろうか?

 そんなことを考えながら、近くにある目覚まし時計に目を向ける。

 時計が指し示しているのは午前3時。高専の方へと移動するのは昼間だったし、アラームをかけているのは7時。

 まだ起きるにはあまりにも早すぎる。

 

「……もう一眠りするか。」

 

「るかるか、まだ寝るか?」

 

「うん。」

 

「じゃあワガハイも寝るのだ。」

 

「そうだね。じゃあ寝ようか。」

 

「うん!」

 

 そこまで確認した私は、再びベッドに横になる。太歳星君も同じように横になり、私の体をギュッと抱きしめてきた。

 抱き枕じゃないんだけど……と少しだけ苦笑いしたくなったが、太歳星君が満足そうにしているし、指摘はせずに抱きしめ返す。

 

「わはー。るかるかあったかいのだ〜。」

 

「セイもあったかいよ?」

 

「ワガハイもあったかいのか?」

 

「うん。」

 

「そっかー。ワガハイもあったかいんだな〜。」

 

 へにゃんと笑う太歳星君の頭を優しく撫でれば、彼はすぐにウトウトし始める。

 程なくして寝息が聞こえてきて、彼が眠りについたことがわかった。

 小さくお休みと呟いて、自身も眠りにつこうと目を閉じる。

 その際、一瞬だけ自室の出入口付近に、穏やかな笑みを浮かべる狩衣の男性がいたような気がしたけど……あれは、気のせいだったのだろうか……?

 

 

 

 




 瑠風
 転移前の世界で、不思議な出会いを経験し、同時に出会った存在から愛されてしまっている異世界からの訪問者。
 しかし、出会した存在が誰で、どこにいたのかは覚えていない。
 眠る時に狩衣を着た誰かがいたような気がしたが、再び目を覚ました際に忘れてしまった。

 太歳星君
 瑠風の内側から普段は感じない大きな力が渦巻いたことに気づき、目を覚ましてしまった祟り神様。
 自分のものでもなく、コヤンスカヤのものでもなく、アビゲイルのものでもないその力に含まれている執着のようなものが少しだけ怖かった。

 ????
 瑠風が過去に出会っている狩衣の男性。しかし、どういうわけかその記憶は忘れており、夢で見た時も名前にはノイズが入り、その顔も夢の終わりになるまで見えなかった。
 瑠風に対して、執着とも取れる愛情を向けている様子があるようだ。
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