特戦軍による反レイヴンズ活動によって弾圧に苦しんでいた人々が救われるなか、メイファンにレイヴンズがエクセリオンを参考にした新兵器を開発中との情報がもたらされる。
ファイル012『不穏な影』
――――オーストラリア・某コミュニティー地区
特戦軍のヘリがとある施設に着陸し、そこから兵士達に護衛されながら囚人服姿の人々が降りて用意されたたき火の周りへと集まり始めた。
そしてヘリから人々が全員降りたタイミングを見計らって、兵士達と同じく漆黒の戦闘服に身を包みバラクラバで素顔を隠した男が進み出る。
「ようこそ、我々のコミュニティーへ」
兵士達と同じヘルメットではなく、赤いベレー帽を被ったその男が話し始めると同時に人々が注目し始めた。
「ここでは、皆さんの人権は保障されます。過酷な労働も思想の強制も拷問もありません。最低限の衣食住は我々の方で用意いたしますのでご安心ください」
それでも、不安そうな表情が消えない人々。
「もちろん、我々を直ぐに信用できないのは分かります。ですが、我々は口先だけではなく行動によって証明いたします」
そう言うと将校は横に控えていた兵士に目配せし、栄養バーらしきものが詰まった段ボール箱を持ってこさせた。
「とりあえず、お腹が空いたでしょう。簡単ではありますが食事をお持ちしました」
不安は消えないものの、空腹には抗えない――――ひとりが栄養バーにかじりつくや否や夢中で食べ始める。それにつられて周りの人々も勢いよく食べ始めた――――
――――――――――――――――――
執務室のデスクでキーボードを叩くメイファン。
「お疲れ、お茶を持ってきたぞ」
聞き慣れた優しい声と共に紅茶の入ったポットと茶菓子を乗せた台車を押してくるアレク。
「アレク、肩揉んでー」
恋人以外には絶対に見せない甘えた表情と声色でねだるメイファンにアレクも普段はめったに見せない笑顔で応じる。
「疲れているようだな、メイファン」
「うん、めっちゃしんどいー」
――――数分後
ソファーに座る自らの膝を枕にして眠る恋人の表情を見つめるアレク。
(こういう時は女の子なんだな)
人々を保護するコミュニティーのリーダー、そして特戦軍のリーダーとして、凛とした指揮官を演じるメイファンが自分の前ではひとりの女の子に戻って飾らない素顔を見せてくれる――――それが嬉しくてたまらない。
(もうしばらく、このままでいるか)
――――――――――――――――――
しばらくして眠気が少し取れたのを感じ、目を開けるメイファン。
「おはよう」
そう声をかけてくれるアレクの身体が山のように大きく感じられる。
「もう少しこのままでいい?」
もう少し、指揮官としての重責を下してこの安心感に包まれていたい――――そんなワガママにアレクは頷いて応じてくれた。
――――しかし、無情にもPCから緊急通信のアラームが聞こえてくる。
――――――――――――――――――
デスクに戻り画面を見つめるメイファンの表情は指揮官のそれに戻っていた。
「――――――――」
その厳しい表情が気になりアレクもPC画面を覗き込んでくる。
そこには、エクセリオンとよく似たパワードスーツの試験映像が流れていた。
戦車砲の直撃を受けても破壊されず大きな損傷もない。と、同時に解説らしき音声が流れてくる。
『特殊な金属で作られた装甲に一定の電圧で電流を流す事で、戦車砲などの大型火器を含めた物理的な衝撃を無効化しています』
そして、そのままライフルを構えてビームを発射するや否や、強靭な防御力を誇ることで知られる戦車が一撃で爆発炎上した。
『今の無人戦車のように、既存の技術レベルでは最も強靭とされる装甲すら一撃で貫通可能な高エネルギーライフルも開発に成功しています。先ほどの特殊装甲もこれは防御不可能です』
そしてパワードスーツの設計図らしき図面とメンテナンス中の様子を隠し撮りしたと思しき映像に切り替わる。
『ただしエネルギー源は大容量バッテリーであり、活動時間には制限があるようです』
詳細なスペック表を確認したメイファンの表情が安堵したものになる。
「――――出力はエクセリオンのスタードライブの2%程度…か。スーツの性能自体はこちらが圧倒的に有利ね」
しかし、直ぐに厳しい表情に変わる。
「けれども、“星の民”の技術に依存しているエクセリオンと違って量産は容易ね。エクセリオン無しでコイツに対抗するのはかなり厳しい」
――――――――――――――――
ビルの屋上に出たメイファンが空を見上げると、夕暮れ空に照らされながら雪が降り始めたところだった。
「これから厳しくなるわね――――おそらくレイヴンズも今まで以上にこちらを意識してくるし、本気で潰そうとしてくるわ」
厳しい表情で眼下に広がる居住エリアの建物群を見下ろすメイファン。きっと家の中でそれぞれの生活を営んでいる人々を案じているのだろう。
――――と、メイファンの肩にコートがかけられる。アレクだ。
「確かに今まで以上に君の指揮官としての手腕が必要にされるだろう。だが、独りで背負い込む必要はない。辛い時や悲しい時は甘えてもいいんだぞ」
すると、表情を緩ませたメイファンがアレクの胸に顔を埋めてきた。
「アレク、ぎゅっとしてくれる?」
――――――――――――――――――
ぎゅっと抱きしめてきたアレクの大きな身体に包み込まれるような感触に安らぎを感じるメイファン。
「今夜はずっとそばに居てくれる?」
「ああ、もちろんだ」
これから起こる大きな波乱に対して、自分は多くの部下を率いて対峙しなくてはならない。しかし――――それでも今この瞬間だけはその責務を肩から下してひとりの女の子として恋人に甘えよう。そう思うメイファンだった。
~次回予告~
ファイル013『星の民』
メイファンがその存在を口にした謎の勢力・星の民。
エクセリオン誕生に繋がる超技術を持った人々を率いる指導者『シーザー』の娘、ヴェガは『星の織り手』となるべく修業の日々を過ごしていた。
そんなある日、最も優れた『星の織り手』にして兄であるアルタイルが拉致されたとの知らせが入り――――!?