星の民のプリンセスであるヴェガの兄にして、星の民でも最高の織り手と呼ばれるアルタイル。
そんなアルタイルがレイヴンズの極秘施設に囚われているとの情報が特戦軍に入り、救出作戦が決行される。
『ぎゃああああーーーーーーーーー』
志穂の脳裏に響く断末魔の叫び。
「こ――――このノイズは……人の悲鳴?」
志穂――――エクセリオンが構えるライフルの銃口は先ほどビームを撃ちこみ、炎上している戦車に向けられている。
『熱い、熱い、お母さん!』
ハッチが開かれ火達磨になった戦車兵が現れるが、そこで限界を迎え息絶える――――と、同時に脳裏に響いていたノイズも消える。
「――――――――――――――――」
頭部を覆っていた装甲を解除し、膝をつくと志穂は胃の中身を思い切りぶちまけるのだった――――
――――――――――――――――――――――――
――――数日前・コミュニティー地区本部ビル・オフィス
「アルタイルの居場所が分かった!?間違いないの、アレク?」
メイファンが確かめるような口調で訊き返す。
「ああ、少なくとも1ヵ月前にこの施設に収容されたのは間違いない。今もそこに居るかどうかは確実ではないが――――反レイヴンズ活動の中枢を担う主要メンバーが収容されている。アルタイルが居なくても十分な成果が期待できる作戦だ」
そう言いながらアレクがデスクに置いたタブレット端末にはグアムに位置する施設の地図が表示されている。
――――特戦軍・駐屯地
「反レイヴンズ作戦に参加してほしい?」
かつての部下であるエドワード・ハラダ少尉とファン・バー・ズン伍長を前に訊き返すラルフ・フォルツ大尉。
「はい、今回の作戦は相当な規模になります。部隊の指揮経験が豊富な大尉が参加してくださると助かる、と司令が仰っていました」
「――――ホームを襲われて仲間を殺された無念は私も同じです。しかし、だからこそ大尉には立ち上がって欲しいのです」
ファンが口にしたホーム――――CSS北米支部を思い出し、苦い顔になるラルフ。
レイヴンズは自分達が暗殺対象としていた少女を守ったラルフの行動を、元々レイヴンズの活動に懐疑的だった北米支部を力で捻じり伏せるチャンスと考えたのだ――――
そして、ラルフの見知った仲間が何人も「反逆者」として殺された。
「大尉は人としての筋を通したに過ぎません!それを何故負い目に感じる必要がありましょうか?誰も人としての筋を通さない世の中こそ地獄そのものです」
仁義を重んじるファンらしい真っ直ぐな言葉にラルフの表情が少しずつ決意を秘めたそれに変わる。
「――――分かった、作戦に参加しよう」
――――ビル屋上
「大規模な作戦に参加する――――大丈夫だとは思うが一応、な」
マーカス・サイモン軍曹は恋人であるリンダ・コスタの顔を真っ直ぐ見つめながら言った。
「ん――――ちゃんと生きて帰って来てね」
その眼差しがマーカスの瞳を捉える――――人差し指で自らの唇を指して見せると、ゴーグル越しでも動揺しているのが見えた。
「約束の証にあなたから」
胸を両手で抑えながら何度も深呼吸するマーカス。
「う、うん――――」
大きな手が、タンクトップ姿のリンダの肩に触れる――――素肌にグローブの感触がする――――
――――そしておでこにバラクラバ越しの唇の感触。
「――――はい?」
きょとんとするリンダ。
「ご、ごめん!今はまだ唇は刺激が――――ああっ!」
両手で顔を覆ってしまうマーカス。その頭からは湯気が噴き出していた。
「このヘタレ!一度は唇でしたでしょ!」
頬を膨らませてマーカスに詰めよるリンダ。
「さあ!今度こそ唇に!」
「あ、あ、ちょ、待って~~~!」
――――そんな2人の様子を離れた物陰から見守るイルヴァ。
「ほんと、リンダちゃんの彼氏ってヘタレだよね~」
そう言いながら隣のガイオ・コルツァーニ曹長に同意を求める。
「決して悪くない男なんだがな。女の子への耐性が低すぎる」
苦笑いしながら見守るコルツァーニ曹長の視線の先で腹を決めたマーカスがリンダに向き合って姿勢を正す。
「おっと、これ以上は見ない方がいいな。撤収だ」
――――――――児童保護施設
同施設を訪れる九鬼 志穂中尉。
その目的は――――今、隣で壁にもたれている少年だった。
「――――久しぶりだな、フェイ」
フェイと呼ばれた少年――――楊 飛蓮 ( ヤン・フェイリィェン )は嬉しさを隠せない表情で志穂を見つめている。
「施設には慣れたか?」
「うん――――みんな優しいし良いやつばっかり。寂しくなる時もあるけど辛くはない――――」
憧れのヒーローを前に頬を紅潮させる様子が可愛らしい――――
「しばらく仕事で会えなくなる。――――だがまた会える、心配するな」
フェイはその言葉に一瞬寂しげな表情を見せるが、直ぐに笑顔を作る。
「待ってるからね――――約束だよ」
その頭を撫でると、フェイは手の甲で目を拭うのだった。
――――――――志穂とフェイの様子を離れた場所から見つめるヴェガとマルス。
「マルス、あの子――――“縁”を感じる」
「縁――――スタードライブに適合すると?」
その言葉に頷くヴェガ。しかし――――
「どうも星の流れがおかしい。スタードライブから感じる気配も――――九鬼 志穂の魂に喰らい付いているように思えてならない」
――――――――――――――――――――――――
「やだー!まだ遊ぶ!」
駄々をこねる少女、もとい幼女――――エリカ。
「だから晩飯の時間つってんだろ、聞き分けろ」
やれやれ、と言わんばかりに首を横に振るヨハン・ヴェルトミュラー。
「仕方ないな、今日はデザートにアイスを付けてやるよ」
「ほんと!?じゃあご飯食べる!」
エリカはさっきまで駄々をこねていたとは思えない笑顔でヨハンについていった。
(――――今回は作戦要員には選ばれなかったが――――)
笑顔で後ろについてくるエリカを横目で見つめる。
(まあ、これはこれで悪くないか)
実の兄妹のような2人とすれ違い、振り向く金髪の少女。
「微笑ましいですわね、レイラ」
自らの護衛であるアフリカ系の女性に話しかける少女――――ミレーヌ。
「はい――――故郷の兄弟姉妹を思い出します」
普段は無表情であるレイラの頬が珍しく緩む――――
「あら、その話もっと聞きたいですわ」
おねだりをするような表情のミレーヌに、やれやれと言わんばかりの苦笑いを浮かべるレイラ。
「お嬢様、子守唄代わりに聞かせますから今は収録の事を考えましょう」
――――――――――――――――――――――――
「イェーイ!!!」
大掛かりな作戦を前に後悔しないよう美味しいものを食べよう――――そう考える兵士が多かったのか、レストランは事実上の貸し切り状態になっていた。
「カラオケで勝負しようぜ!負けたチームが店の掃除な!」
「おおー!」
特戦軍のエース部隊であるサムライ小隊の3人も熱狂の中にいた。
「空もいいけど、やっぱり地上もいいですね。隊長」
「ああ――――こういうバカ騒ぎをやっている時が一番生きているという感じがする」
「お酒が飲めないのは残念ですけど、それでも楽しいです」
彼らにも物語があるが、それはまた別の機会――――
――――――――――――――――――――
そして時は現在。
(――――作戦はまだ続いている、ここで離脱するわけにはいかない――――)
炎上する戦車と黒焦げの死体――――それを一瞥して再び顔を装甲で覆う志穂。
しかし、その脳裏には敵兵の断末魔がこびりついて離れなかった――――
~次回予告~
ファイル020『極秘施設を攻略せよ!』
救出作戦に参加したヴェガとマルス。そんな2人の前にレイヴンズのパワードスーツが再び立ちはだかる。
その一方で施設に潜入したラルフ・フォルツ大尉はレイヴンズの恐るべき粛清計画を掴む。