サイレント・ナイツ ―無名のヒーロー達―   作:趣味全開人生

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最悪のテロリストとして知られるスペードがCSSに宣戦布告、各支部および駐屯地の連携が断たれた状態で本部が攻撃されてしまう。


そして、スペードへの復讐心に駆られたラルフは単身で本部へと向かうのだった。




ファイル002『復讐者』

────────────────────

 

 

──────10年前

 

 

 

 

 

ラルフ・フォルツ准尉は子供を救う為に自分と共に本隊と別行動を取った上官の肩を支えながら歩いていた。

 

 

「グレコフ少佐、もうすぐ味方と合流出来ますよ」

 

 

 

「そうか。お前には助けられたな、礼を言うぞ。フォルツ准尉」

 

 

 

 

 

 

すると、グレコフ少佐の腕がラルフを抱き寄せてきた。

 

 

 

 

「────────お前が私を女性として好いている事には気付いていたよ。お前さえよければ結婚してはくれまいか」

 

 

 

そう言うと、マリーヤ・グレコフ少佐は恥ずかしそうな笑顔でラルフを見つめた。

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

───────9年前

 

 

触れ合う肌の感触、温もりが心地良い。

 

 

 

「愛しているよ、マリーヤ」

 

 

 

 

永い孤独の果てに掴んだ幸せを噛みしめながら、最愛の妻を抱きしめるラルフ。

 

 

 

「私もお前を愛しているよ、ラルフ」

 

 

 

───────────────────

 

 

─────8年前

 

 

 

 

赤ん坊の泣き声が聞こえる。

 

 

「ああ、そろそろミルクをやらないとな」

 

 

 

 

娘にミルクをやり、ベッドで休む妻の所にスープを持って行くラルフ。

 

 

 

「どうだ、身体の調子は」

 

 

「ああ………まだまだ休みが必要だな」

 

 

 

産後でまだダメージが残っているのか、しんどそうな妻の様子に不安を覚えるがマリーヤは大丈夫だと言わんばかりに笑ってみせる。

 

 

「なに、数ヶ月もすれば元通りだよ。母さんがそうだったからな。それに部下のエリセーエフ少尉に隊の指揮を任せっきりにするわけにもいかん」

 

 

こんな時もCSSの部下の事を気にかけるマリーヤの生真面目さに思わず苦笑するラルフだった。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

────────5年前

 

 

 

「先輩、本気なんですか」

 

 

アレクセイ・エリセーエフ少尉が信じられないと言わんばかりの表情でラルフに問う。

 

 

 

 

「ああ、そうだ。マリーヤとは離婚した。彼女と子供達の事を君に頼みたいんだよ、アレク」

 

 

 

そう言いながら、アレクの隣に立つマリーヤを見つめる。

 

 

 

 

「身勝手な頼みだが、分かってくれ。俺はCSSの過激派を見過ごせない。だから過激派と戦う。

 

 

君は過激派の目に留まってはいけないし、過激派と戦う俺と関わってはいけない。

 

 

君の意思を無視する形になってでも、君と子供“達”の身の安全を守る必要があった」

 

 

 

 

 

マリーヤはラルフに対して僅かに怒りを見せたが、直ぐに笑って見せた。

 

 

「仕方ないさ。お前がそういう性格なのは知っていたし、そういう性格だからお前に惚れたんだ」

 

 

 

 

そして、自分のお腹を見つめて再びラルフを見る。

 

 

「男の子、だそうだ。お前にはこの子を抱いて欲しかったんだがな」

 

 

 

そんなマリーヤの隣で涙が溢れ出るのを止められない娘が、それでも下唇を噛んで必死に堪えている。

 

 

 

────────────────────

 

 

───────4年前

 

 

子供を抱っこし、その背中を撫でてやるラルフ。

 

 

 

妻や子供と離れ離れになった自分を案じた上官の意向で、CSSが保護した子供達を世話する部署に配属されたラルフにとって、ここの生活は安息の日々だった。

 

 

 

───────そう、安息の日々“だった”。

 

 

 

 

気が付くと毎晩見る夢の通り、辺り一面は血まみれになり血まみれで息絶えた子供達が転がっている。

 

 

そして、自分が抱っこしている子供もいつの間にか血まみれになり動かなくなっていた。

 

 

 

 

────────そうして現実世界に引き戻され、子供達を殺したスペードへの怨みと共に目覚める。

 

 

 

ラルフの4年間はこの繰り返しだった。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

─────────数日前:とあるホテル

 

 

スーツを着た男がスマートフォンを耳に当て、相手の言葉を待つ。

 

 

 

『この日にCSS過激派に属する将官クラスの人物が本部に集まります。それを排除して頂きたい』

 

 

その言葉に男が微かに反応する。

 

 

「それは間違いないのか」

 

 

 

『はい、確かな情報です。何しろCSS内部の情報には自由にアクセス出来ますから。

 

報酬は100万米ドル。既に半分はアナタの“裏”の口座に入れています。依頼を達成してくだされば残りも支払います』

 

 

────────わずかに不快そうな顔になる男。表向きの生活用の口座と裏の口座を使い分けている事実を知られているからだった。

 

 

 

 

 

 

「いいだろう、お前の言うターゲットを片付けてやる。但し───」

 

 

 

『────但し?』

 

 

 

「今後、私について余計な詮索はするな。良い関係を築きたいならば」

 

 

 

しばらく沈黙が続く。

 

 

 

 

『─────承知しました、スペード』

 

 

 

「それにしても、よくCSSの内部情報を流す気になったな?お前のような人間が」

 

 

 

今度は相手が不快な顔になるのが頭に浮かび上がる。

 

 

『……………………私の事はお見通しですか。いいでしょう、話します』

 

 

自分自身の素性を知られ不機嫌になるのが声色から分かる。しかし、返答はとても正直なものだった。

 

 

 

『20年前のパリにおける大虐殺の時からCSSはあまりにも大きく深い闇を抱えてしまった。

 

数億人の貧しい子供を救済する為なら、富裕層の子供を数千人殺す事も厭わない。

 

そういう危険な思想を持つようになってしまった事を私は憂っているのです』

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

───────現在:CSS本部

 

 

 

ある会議室にCSSの軍服に将官クラスの階級章を付けた軍人達が集まっていた。

 

 

 

 

 

「アムステルダムで発生した反CSSデモですが、一個大隊を投入して殲滅しました。あの場にいた反CSS活動団体のメンバーは全員の死亡を確認しております。

 

なお、子持ちの者については子供の身柄を確保し、矯正施設に送りました。素質次第では育成施設に移される者も出るでしょう」

 

 

 

 

壮年の少将がタブレットに表示された報告書を片手に簡潔に報告すると、年老いた大将は静かに頷いた。

 

 

 

「そうですか。あちらは当分は大人しくするでしょうな。そう言えば記者の件は?」

 

 

 

大将に促され、30代半ばの准将がタブレットを操作して会議の出席者にデータを送る。

 

 

 

 

「はい。パリの件を探っていた記者の方は本人と家族を捕らえて処刑しました。遺体は見せしめとして放置しています」

 

 

 

「宜しい。私利私欲の為に人々を飢えさせる輩、それを擁護する輩に慈悲は無用です。

 

たとえ非人道的であっても躊躇わず効果的な手段を選ぶ。それがCSSには必要なのです。

 

ところで子供達に違法な重労働を課していた経営者夫婦の隠し財産500億の件はどうなりましたか」

 

 

 

別の少将が静かに挙手し、許可を求める。

 

「その件で報告が」

 

 

「宜しい、報告しなさい」

 

 

 

モニターを操作し、報告書と照らし合わせながら読み上げる少将。

 

 

「容疑者の夫婦を1ヶ月間拷問するも効果はありませんでした。そこで夫婦の子供達をマジックミラー越しに目の前で30分間拷問しました。

 

そして猿轡を外すと直ぐに隠し財産の所在を白状しました。

 

財産は没収、子供達は我々の施設で治療と記憶消去・洗脳を並行で進行中です。完治後、そのまま我々の施設に移送します。

 

没収した財産については、貧困層の子供を対象とした無償の教育と食事に充てております」

 

 

 

 

それぞれが近日中の事について報告し、満足げに頷く大将。

 

 

 

その時、地響きと爆発音がした。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

────────数分前:CSS本部

 

 

『各支部・駐屯地との連絡が出来ません!』

 

『正確な被害状況、不明!』

 

 

 

 

オペレーター達の緊迫した声が響く中、CSS実働部隊の総司令は頭の中でテロ攻撃にあった基地の所在地名を攻撃された時刻順に並べていた。

 

 

 

 

Seattle (シアトル)

 

Paris (パリ)

 

Amsterdam (アムステルダム)

 

Darmstadt (ダルムシュタット)

 

Elche (エルチェ)

 

 

 

それぞれの頭文字を見ると、SPADEという並びが出来る。

 

 

 

 

───────スペード。

 

 

 

 

 

奴がCSSに宣戦布告した……………………!

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、地響きと爆発音がしたかと思うと本部内のカメラ映像にCSSのものとは異なる戦闘服を纏った兵士達が次々と姿を現した。

 

 

 

 

「──────────!」

 

 

 

 

 

敵兵の練度は非常に高く、少数でありながら本部防衛の為に集められたCSSの精鋭達を次々と撃破していく。

 

 

 

 

 

「あの動き──────まさか…………不味い、本部で保護している子供達をシェルターに!」

 

 

 

 

 

何かを察した総司令が青い顔でそう命じた瞬間、子供の悲鳴がモニター越しに響いた。

 

 

 

 

 

「まずい、子供が撃たれた!」

 

 

 

 

 

不幸中の幸いと言うべきか即死せず腹を押さえながらうずくまる男の子を、駆け付けたCSS隊員が抱え上げシェルターへと駆けだしていく。

 

その様子が映り、部屋にいる誰もが祈るような気持ちでモニターを見つめた。

 

 

 

 

 

 

やがて数分後、無事にシェルターに逃げ込む様子が確認でき安堵の息が漏れる───────が、子供を逃がす為に殿になった隊員達の半数は死亡。

 

 

子供の安全を確認して投降した者も捕虜になる事すら許されず、その場で射殺されてしまった。

 

 

 

 

「敵兵達は非武装の職員まで射殺しています!」

 

 

 

モニターの中で逃げ惑うスーツ姿の男女が次々と銃弾を浴びせられ、血まみれになって倒れる。

 

 

 

 

(何てことだ………………あの事件の生き残りだとしたら大変な事になる)

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

会議の為に本部に集まっていたCSSの将官達を射殺した兵士達。

 

 

 

 

「ボス、内通者の情報通りにCSSの将官クラスが集まっていました。これで大打撃は与えられたものかと」

 

 

 

 

「ご苦労、よくやってくれた」

 

兵士と同じ装備をしたスペードが兵士達を労う。

 

 

 

 

「“パリを忘れるな”、“血のクリスマスを忘れるな”だ。CSSとCSSを支持する者には相応の代償を支払わせる」

 

 

 

スペードがそう言いながら顔を向けた先にはCSS本部で保護されている子供達が身を寄せ合って怯える姿があった。一部の者は顔に殴られた跡がある。

 

 

 

 

「まだ殺すなよ。見せしめとして効果的に使うのだ。かつてCSSが我々にしたようにな」

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ラルフ・フォルツは勝手に持ち出した小型ジェット機で本部まで急行していた。

 

 

 

「スペード…………………!遂に貴様を殺すチャンスが来たぞ……………」

 

 

 

 

あの日、血まみれになって死んだ子供達。マトモに死体すら残らなかった子供。

 

 

それを目の当たりにした日から密かに燃え続けてきた怨念は限界まで燃え上がっていた。

 

 

 

 

「パラシュート降下後、自動操縦で基地まで帰還するように設定………………と」

 

 

バズーカ砲を含む各種の武器や装備を確認し、不備がないことを確かめてジェット機の扉を開けると迷わず飛び降りる。

 

 

 

 

 

 

 

パラシュートを開かずに猛スピードで急降下するラルフの眼下で煙をあげるCSS本部。

 

 

ARグラスのズーム機能で各所を確認すると、あちこちでスペード配下の兵士達がCSSの隊員や職員を次々と射殺している。

 

 

 

「好き勝手にやってくれる……………!」

 

 

 

 

 

安全高度ギリギリの所でパラシュートを展開し、本部ビルの屋上に着地するラルフ。

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

スペード配下の狙撃兵は、本部ビルから逃げ出す職員達をひとりずつ丁寧に撃ち抜いていた。

 

 

 

 

 

胸に空いた大きな穴を見つめたまま倒れる者。

 

 

頭部を木っ端みじんにされる者。

 

 

脚を撃ち抜かれ、恐怖で泣き叫ぶ者。

 

 

 

 

 

そこは彼が生殺与奪を握る絶対的な支配圏だった。

 

 

 

 

 

 

「積年の恨み、存分に晴らさせて貰おうか」

 

 

 

と、そこへ大きなお腹を抱えて逃げる妊婦の姿が視界に入った。

 

 

 

「妊婦か………………まあ、関係ないね。パリを焼いた悪魔に変わりはない」

 

 

新しい命が宿っているであろうお腹に照準を向けて引き金を引こうとした瞬間、彼の意識は銃弾を撃ち込まれた脳もろとも砕け散った。

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

アサルトライフルのスコープ越しに狙撃兵が倒れるのを確かめたラルフは次のターゲット──────────迂闊にも単独で行動してしまっている兵士達に忍び寄り、ナイフで喉を切り裂いた。

 

 

続いて異変に気付いた兵士を角で待ち伏せて、その顔面にナイフを突き刺す。

 

 

 

「どこだ、スペード………………」

 

 

 

赤く濡れたナイフを握り、そう呟く返り血だらけの姿は憎悪にまみれた復讐鬼のそれだった。

 

 

 

─────────────────────

 

 

一方、スペードはラルフの存在を察していた。

 

 

 

先程から配下の兵士達の生命反応が次々と消えていく。数で勝るCSS部隊を少数で蹴散らす精鋭揃いの彼らがやられているという事実は撤退を即断するのに充分な理由だった。

 

 

 

「目的は達した。お前達は先に引き揚げろ。私も後から引き揚げる」

 

 

 

スペードがそう命じるや否や迅速かつキビキビとした動きで引き揚げていく兵士達。

 

 

 

────────────────────

 

 

テロリスト側が撤退を決めたのは何もラルフ1人の力ではなかった。

 

 

 

「ロジエ兵長はフィギス一等兵とペアを組んでその場で敵を阻止せよ!」

 

 

「ベルクマン准尉はその場で狙撃を続行、視界に入った敵兵を排除!チェルネンコ軍曹はベルクマン准尉に敵を近づけるな!」

 

 

「サワダ曹長とアッセル二等兵はジェン少尉と合流して生存者の救助を!」

 

 

腕にベルトで巻き付けた小型タブレットで戦況を確認しつつ、生き残った隊員達に指示を飛ばすラルフ。

 

 

 

 

その時タブレット上に表示される情報に変化が起こり、本部の監視システムが捉えた情報が入ってくる。

 

 

 

───────敵味方識別装置に反応せず、かつ敵対的な赤い反応が次々と外に向かっていき兵員輸送車に乗り込んでいく。

 

 

 

「逃げるつもりか!」

 

 

輸送車を狙える位置に移動、そこからバズーカ砲を構えて引き金を引くと輸送車は中の兵士達もろとも木っ端微塵になった。

 

 

 

 

そして仲間を助ける為に駆けつけてきた兵士をも狙い撃つラルフ。

 

 

 

「殺してやるよ、残らず」

 

 

照準の中で脚を撃たれ、苦しむ兵士。そんな彼を助けに来た仲間の頭に照準を合わせ──────────

 

 

 

横からの殺気に反応して銃撃を回避する。

 

 

 

 

「そこまでだ。私の部下をこれ以上やらせはしないよ」

 

 

ラルフを銃撃した敵は他の敵兵と同じ姿だったが、その雰囲気は一兵士のそれとは大きく異なるものだった。

 

 

 

「───────────ようやく直に会えたな、スペード」

 

物陰から恨めしそうな声で語り掛けるラルフ。

 

 

 

次の瞬間、物陰から素早く銃撃し再び隠れる。が、相手は既に物陰に隠れてしまっていた。

 

 

 

しかし───────

 

 

「この時を楽しみにしていた………………お前が殺した子供の無念を晴らさせてもらうぞ」

 

 

 

 

遂にやってきた復讐の機会にラルフは黒い悦びが自分自身を支配していくのを感じつつも抑えようとはしなかった。

 

 

 

「必ずお前を殺す」

 

 

 

 

 

────────続く

 

 

 

 








~次回予告~



ファイル003『姫と巨人』




時はCSS本部襲撃から10年前。


中国人留学生であるユェン・メイファン(元 梅芳)は留学先の日本でレイヴンズの横暴を目の当たりにし、その運命を大きく変えていく。

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