特戦軍によるレイヴンズ・沖縄基地攻略作戦から一週間後。
沖縄で起きた事を知らないままライブの準備を進めるリンダ・コスタだったが……
オーストラリア・某コミュニティー地区
本部ビルのオフィスでタブレットに表示された報告書の内容に思わず頭を抱えるメイファン。
「沖縄にあるレイヴンズの基地を落としてパワードスーツの生産拠点を押さえたのは良かったんだけど…」
「ああ。北米エリアのデトロイトや中国エリアの重慶エリアでも工場が完成しているがまだ生産を行える段階ではない――――今のところ唯一パワードスーツの量産が可能だった沖縄の工場を制圧できたのは大きい」
メイファンの言葉に同意しつつタブレットに目を落とすアレク。
「電磁パルス発生器でレイヴンズの兵器は電子機器を破壊され単なる鉄くずになり、敵を殺すことなく無力化できた――――まさか我が方の兵士達が無抵抗のレイヴンズ兵士を虐殺するとは想像できなかった」
メイファンはテーブルの上で手を組み、そこに顎を置いた。
「そうね、アレク。私達は部下たちが心の内に抱えてきたレイヴンズへの憎しみを甘く見ていたわ。降伏した者や傷病兵すら容赦なく撃ち殺すなんて」
レイヴンズはおそらく特戦軍側に対して何らかの報復を行うだろう。そう考えると憂鬱だ――――
「それにフィルターで抑制していたエクセリオンの呪いがこんなに早く発現してしまうなんて。沖縄で虐殺される何百人もの兵士達の断末魔を聞いてしまった九鬼中尉は寝込んでしまってる――――」
――――――――――――――――
その頃、コンサート会場の楽屋で可愛らしいアイドル衣装に身を包んだリンダ・コスタは鏡の自分を見つめていた。
レイヴンズの拷問によって受けた傷は自分自身の意思を示す為に敢えて治療せず残している――――だが、可愛らしさを捨てたつもりはない。
だから満面の笑顔を見せないといけないのに――――どうしても負傷したマーカスが心配で表情が陰る。
こみ上げてくるものを抑えられない――――楽屋を飛び出し、会場近くの公園まで走ったリンダは表情をくしゃくしゃにして涙を滲ませていた。
「――――リンダちゃん?」
その声に振り向くと、そこには自分を熱心に応援してくれている少女の姿があった――――
――――――――――――――――
「そうなんだ、恋人さんが大怪我して入院……」
ベンチに座ったイルヴァ・サッソは隣の少女に目をやる。
「うん……どうしても不安なんだ」
すると、イルヴァの瞳がリンダを捉えた。
「じゃあ、会いに行っちゃおうか?」
その表情はどこか悪戯っぽかった。
――――――――――――――――
特戦軍施設・エクセリオン整備ルーム
整備を終えたエクセリオンに視線をやり、パソコンのキーボードを叩くメイファン。
「スーツ本体は限りなく完璧に近いコンディションに戻せたけど、ね……」
その言葉に同意するように頷く橘 柚子技術中尉。
「ええ。九鬼さんが精神的に深い傷を負ってしまいましたわ。こうならないようにスーツのフィルターは厚めにしておいたのに」
その時、エクセリオンの胸にあるスタードライブが強い輝きを放ち始めた。
「――――え?」
そして纏う人間がいないまま動き出し、屋上の屋根を遠隔操作で開けた次の瞬間には上空へと飛び出していった――――――――
――――――――――――――――
――――30分前
病室のベッドから外を見つめるマーカス。
沖縄での戦闘で全身に重傷を負い、全身が包帯に包まれたその姿は痛々しいものだった。
と、そこへ足音が近づいてくる。
医師の診察にはまだ早い――――などと思っていると、扉の開く音と共にステージ衣装に身を包んだリンダが現れた。
「マーカス!!」
マーカスの胸に飛び込み、泣き始めるリンダ。その背中に回された腕が彼女を優しく包み込む。
「心配をかけてしまったな。ごめんよ、リンダ」
しばらくして泣き止んだ彼女の頬に手が重なる。
言葉にしようとしても、言葉にならない――――そんな感情が湧き上がる。
両頬に手を重ねたままリンダの頭を引き寄せて額を重ねる。
「――――」
マーカスの首の後ろにリンダの両腕が回され、無言で愛おしい人の温もりを感じる。
「マーカス、どんなに格好悪くても惨めでもいいから。私を置いていかないで」
「――――――――」
リンダの悲しげな眼差しにマーカスの視線が重なった。
「誓うよ。僕自身の名誉にかけて必ず生きて帰ると」
リンダの背中に手を回し、包み込むように抱きしめる。
「その言葉、嘘にしないでね」
束の間の、それでも代えがたい幸せをひしひしと感じるリンダ。
――――――――――――――――
心満たされたリンダはその時になってようやくライブの時間が迫っている事に気付いた。
「――――どうしよう、ライブ会場に行く電車は混んでるはずだし車道も渋滞だ」
病院まで案内してくれたイルヴァがスマホに表示されたルート検索結果に青ざめる。
(元気になったリンダちゃんの歌声はみんなを元気にする――――絶対に送り届けなきゃ!)
そんな思いと共にリンダの手を握り走り出すイルヴァ。
――――――――すると、空に一点の光が現れ――――それがエクセリオンだと分かった瞬間には、生き物が口を開くように装甲を展開して誰も居ない内部を露わにして――――イルヴァを包み込んだ。
純白の装甲にアクセントを添えるように配置されていた青いクリアパーツが強く輝いたかと思うと青白い光が炎を思わせる赤いそれへと変化する。
「――――え、嘘――――」
イルヴァはスーツに包まれた自らの姿を見回し驚愕した。が――――
「リンダちゃん!これで会場まで行こう!」
「え!?――――――――う、うん!」
リンダを両腕で抱え上げ、走りながら空へと舞い上がるエクセリオン。
――――――――――――――――
ライブ会場ではリンダの登場を心待ちにする観客とは対照的に青い顔で捜索を続けるスタッフの姿があった。
「本番ちょっと前に姿を消すなんて!何かあったらまずいぞ!」
と、その時だった。外から歓声が聞こえてきたのは。
楽屋から外へと飛び出すと上空にパワードスーツを纏った誰かがいるのが見えた。
「――――赤い光?」
すると歓声に交じって歌声が聞こえてくる。
人々を力強く励まし、その背中を押す――――そんな力強さがある歌だ。それはパワードスーツを纏った者が抱えている少女から聞こえてくる。
やがて鋼の騎士はステージに優しく着地し、少女――――リンダを降ろした。
「みんな、お待たせ――――!!!今日は思い切り楽しんでいこう!!」
会場から湧き上がった大歓声がステージを震わせる――――
――――陰りのない笑顔で歌うリンダに会場の人々も心からの笑顔でリンダの歌に熱狂する。
それを舞台裏で聴くイルヴァもスーツの下で笑みを浮かべるのだった――――
~次回予告~
ファイル027『目指すべき場所』
沖縄におけるパワードスーツ生産の拠点を無力化し、レイヴンズの戦力に大きな打撃を与えた今こそがレイヴンズ打倒の好機と見たメイファンは特戦軍の総力をもって国連極東行政区の横浜エリアにあるレイヴンズの本部を落とす決断を下す。