サイレント・ナイツ ―無名のヒーロー達―   作:趣味全開人生

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CSS本部襲撃から遡ること西暦2070年。


旧日本エリアに留学するユェン・メイファン(元 梅芳)は現地に赴任しているCSSの兵士アレクと親しくなり楽しく過ごしていたが、些細なことで運命の歯車が狂ってしまい――――!?




ファイル003『姫と巨人』

 

 

 

“Children Safety Secretariat”(児童安全事務局)と記された看板を掲げる軍事基地の正門を警護する兵士。

 

 

漆黒の戦闘服に身を包み、バラクラバで素顔を隠した彼らの鋭い眼差しが施設に近づく少女の姿を認めると同時に柔らかくなる。

 

 

 

「よう、メイファン!もう大学は終わったのか?」

 

まるで近所の馴染みの店の店主のような口調で兵士が笑う。

 

 

「うん。おじさん、アレクは居る?」

 

「ああ~、今なら訓練場かな。今日は自主訓練だから特にミーティングの予定も無いし大丈夫だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――訓練場のベンチで休憩する兵士たちの中でも一際大柄な男の隣に腰を下ろすメイファン。

 

「アレク~、お疲れ!」

 

 

自分よりも40センチ以上背が高い男を相手に物怖じすることなく元気に声をかけるメイファンとは対照的に無言で頷くアレク。助けて貰った時以来ずっと不愛想だが、バラクラバから覗く穏やかな眼差しに敵意が無いのを分かっているのか、メイファンは笑顔を絶やさない。

 

 

 

「―――――おい、行くぞ。退散だ」

 

周りの兵士達が互いに目配せしてさり気なく席を立つが、その事に気付かず他愛もない話を続けるメイファン。

 

 

 

 

 

 

―――ベンチを夕陽が照らす時間になり、ふと光の方を見つめるメイファンの横顔が物憂げなものになる。

 

 

「――――どうした、メイファン」

 

 

 

ここで初めて言葉らしい言葉を口にするアレク。

 

しかし、相手は一言も答えずにいきなり立ち上がったかと思うとアレクの正面に立ち、言った。

 

 

 

 

「しばらく、こうさせて」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――アレクの足の間に腰を下ろし、その大きな体に背を預ける。

 

 

 

顔を見上げると、彼の優しい眼差しと目が合う。

 

 

 

(あなたは違うよね?アレク)

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――近年になってCSS内部で勢力を増しつつある過激派、“レイヴンズ”。その忌々しいカラスを模ったエンブレム入りの戦闘服を纏った彼らの強権にモノを言わせた暴力的な活動は、確実に結果を残していた。

 

 

 

国連議会による議論を待たず、一部の将軍達の独断によって実行される作戦。

 

 

司法手続きを無視した拘束、過酷な尋問、私刑。

 

 

その結果、得られた莫大な没収財産は貧しさに喘ぐ子供たちの救済に充てられ、数多くの子供を笑顔にしていた。

 

 

 

――――――その裏でレイヴンズによって虐げられる子供達の悲鳴など聞こえないかのように。

 

 

 

 

 

 

 

そして、メイファンは数年前に実際に見てしまった。

 

――――――レイヴンズの私刑によって子供が命を落とす光景を。

 

 

 

 

 

――――――路地裏に響く暴力の音。

 

 

 

『――――――死ね!金持ちの豚が!!』

 

カラスのエンブレムを身に着けた兵士のひとりが子供を罵倒しながら暴力を振るう。

 

 

 

そこに他の兵士が加わり、笑いながら暴力を加える。

 

『良いザマだな!どうだ、今まで搾取してきた連中に一方的に暴力を振るわれる気分は!』

 

 

 

 

 

悲鳴をあげる事すら許されず、ただただ恐怖に震えながら傷だらけになる子供を放っておけず、拳を握りしめて物陰から出ようとするが――――――

 

 

いきなり口を押えられ、再び物陰に引き込まれる。

 

 

 

見上げると、バラクラバを被った兵士が静かに首を振っていた。

 

「レイヴンズに逆らっちゃ駄目だ。適当な理由で罪状をでっち上げられて処刑されるぞ」

 

 

 

 

 

(――――――だから、何よ!放しなさい、この臆病者!)

 

 

 

目で抗議するメイファンの耳に哄笑と子供の断末魔の叫びが響いた――――――

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

忌々しい過去から再び夕陽に照らされるベンチへと戻るメイファン。

 

 

 

(アレクって、子供の頃は苦労したらしいぜ)

 

 

数日前に門番と交わした会話が蘇る。

 

 

 

(きっかけはアレクの弟が心臓病で入院した事だ。幸運な事にドナーが直ぐ見つかったんだが、同じ病を持った金持ちの子供が居てな。その親である大企業の会長に横取りされて、弟は死んじまった。

 

親は怒ってそいつに抗議した。そうしたらあの会長は権力を使ってアレクの親を鉱山で酷使して過労死に至らしめ、アレクは家を追い出された。

 

それ以来、長い間スラム街で殺し合いをしながら生き長らえたんだとさ。

 

普段はああだけど人を貧乏にさせておいて自分達だけいい暮らしをする奴らの前だと目に半端じゃないくらい殺気がこもる)

 

 

 

 

その言葉を聞いて以来、メイファンの中で膨れ上がった不安が胸を締め付ける。

 

 

 

 

 

『そんな事をする人じゃないよね?』

 

その一言を口にしようとする度に口が鎖で縛られたかのように硬くなり、不安で強く締め付けられる。

 

 

 

 

 

(仮に、アレクがそういう人だったとして私にアレクを責められるだろうか?)

 

 

 

 

 

アレクが金持ちに対して憎しみを抱いていたとしても、彼が味わった境遇を考えればそれは当然の結果だ。

 

 

むしろそういった不幸を経験していない自分がアレクに『止めろ』と言うこと自体が傲慢なのではないか――――――

 

 

 

 

再びアレクを見上げ、目を合わせる。

 

 

 

「じゃあ、また明日ね」

 

 

 

 

アレクはメイファンが悲しげな笑みと共に去った理由が分からず首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

その晩、アレクは施設の地下にある、秘匿された部屋を訪れていた。

 

 

清潔な部屋に設置されたベッドの上で無数のチューブを繋げられ酸素マスクで呼吸する包帯姿の子供。

 

側に居た医者がアレクに気付き、近寄る。

 

 

 

「ひとまず生命の危機は脱した。順調に回復すれば手足の再生医療に耐えられるようになるだろう」

 

医者の言葉にアレクの表情が安堵したものになる。

 

 

 

「しかし、本当に良かったのか?

 

この子の父親は貧しい子供達を使い捨ての労働力として酷使して何百人も殺して富を得たクズだ。そしてこども労働者を酷使して得た金でこの子はご馳走を食べ、いい服を着て玩具を買ってもらった。

 

こういう子供を君が助けるとは意外だよ」

 

 

 

その棘がある発言が、医者が医療関係者としての誇りを持つがゆえに抑えている怒りを物語っていた。

 

 

 

「そうだな。だが、俺はこの子に希望を託したい」

 

アレクの手が子供の頬に触れる。

 

 

 

「確かにこの子の親がした事は許されるものじゃない。そしてこの子が食べる飯、着る服や玩具を、父親がこども労働者を酷使して手にした金で得てきた事も事実だ。

 

だが、いつか世の中を見て、学んで、親とは違う道を選択してくれると思いたい。

 

憎しみに身を任せて殺してしまうよりも、未来に希望を託したいと思うのは馬鹿げているだろうか?」

 

 

 

 

医者は暫く黙った後、やれやれと言わんばかりに首を振った。

 

 

「本当にお人好しだな。嫌いじゃないさ」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

今日もいつものようにやって来たメイファンの他愛ない話に耳を傾けるアレク。

 

そして悲しげな笑みと共に帰ろうとする彼女の背中に声をかける。

 

 

 

「メイファン」

 

 

振り向いたその顔は悲しみを堪えるような表情だった。

 

 

 

「何故、悲しい顔をする?」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

『レイヴンズは目的を果たす為なら子供に暴力を振るう事も躊躇わない。こんな奴らがCSS(児童安全事務局)の一員だなんて信じられないわ。テロリストとしか思えない』

 

 

そのメッセージをSNSに投稿し、ベッドに入るメイファン。

 

 

 

 

この時、メイファンは知らなかった。

 

 

この投稿が彼女の人生を永遠に変えてしまう事に。

 

 

 

 

 

 

――――――数日後

 

 

 

国連極東行政管区:横浜エリア

 

 

 

 

大きな建物に相応しく立派な校門に国連マークが翻る、北京国連大学・横浜分校。

 

 

学友達と談笑しながら廊下を歩くメイファンを待ち構える軍服姿の一団。

 

 

 

その先頭に立つ女性の身を包む、将校仕様の装飾が施された漆黒の軍服の左腕に縫い付けられたワッペンを見たメイファンの表情が強張る。

 

 

 

――――カラスのエンブレム――――

 

 

 

 

 

「元 梅芳(ユェン メイファン)だね?SNSで我々の理念を否定し犯罪者を擁護する投稿を行った君をテロ幇助罪で逮捕する」

 

そう言うなり漆黒の戦闘服にカラスのエンブレムを付けた兵士達がメイファンに銃口を向け、『抵抗するな』と短く命じる。

 

 

 

 

 

「ちょっと、何でいきなり銃口を向けるんですか!彼女は丸腰ですよ!」

 

 

友人が抗議するが、将校は顔色ひとつ変えずに拳銃を構えて彼の眉間を撃ち抜いた。

 

 

「死にたくなければ黙れ」

 

 

 

 

 

青ざめて沈黙するメイファンと友人らを尻目に携帯を取り出して耳に当てる将校。

 

 

 

 

「パク中佐、例の女の身柄を確保しました」

 

上司らしき人物に報告した将校が『連れていけ』と命じるや否や、両腕をがっしり掴まれ、連行されるメイファン。

 

 

 

 

――――数時間後

 

 

CSSの建物の片隅にある取調室でメイファンは自分を逮捕した将校と対峙していた。

 

 

 

 

 

「だから、事実を批判して何が悪いんですか!」

 

声を荒げるメイファン。その目の前で腕を組んで冷たい眼差しをこちらに突き刺してくる将校。

 

 

 

 

「事実を批判だと?君は事実を捻じ曲げて我々を侮辱したのだからこうなったのだ、という認識を持って貰いたいのだがね」

 

 

 

 

目の前の将校――――確か、稲生(いのう)中尉という名前――――が、メイファンの胸ぐらを掴む。

 

 

 

 

「子供を拷問して殺しておいて、批判されないとでも思っているの!?」

 

 

稲生を睨み付け、そう言い放つメイファン。

 

 

 

 

 

「では、逆に訊こうか。ほんの一握りの子供が、数多くの貧しい子供達を犠牲にして幸せに暮らすのが正しい世の在り方だと思うか」

 

 

「そんな話はしていな――――」

 

 

メイファンの左頬に稲生の鉄拳が容赦なくめり込み、椅子から転げ落ちる。

 

 

 

 

 

「質問と関係無い事を喋るな」

 

そう言いながら睨み付けてくる稲生の目の中に怒りと憎しみの炎を見たメイファンはただ黙るしかなかった。

 

 

 

「ふん、もういいだろう。連れていけ!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

トラックの荷台で他の“犯罪者”たちと共に揺られるメイファン。

 

 

(ここは東京のゴーストシティ?)

 

 

 

――――授業で耳にした事がある。メイファンの祖父母がまだ20代半ばだった頃に地球規模で流行した新型ウイルスにより世界で多くの人間が亡くなった事を。

 

 

 

 

 

数年に渡り続いた大いなる災いのなかで、仕事を失い生計を立てられなくなった民への支援よりも自らの利益を優先する為政者によって多くの民が見殺しにされゴーストシティと呼ばれる無人都市がいくつも生まれた事を。

 

 

 

そしてゴーストシティの誕生は多くの子供達の死を意味し、人々の怒りが爆発し世界各地で大規模な紛争が発生するきっかけとなったのだ。

 

 

 

 

 

 

22世紀まで残り30年となった今でも傷痕を深く残すほどの熾烈な争いが世界を永遠に変えた激動の半世紀。

 

その歴史を作り出した爆心地のひとつとも言える東京ゴーストシティを見つめるメイファンの瞳に、有刺鉄線に覆われた広大な施設が映る。

 

 

 

 

 

 

収容所らしきその施設の入り口でトラックから降りるや否やメイファンは狂気としか思えない光景を目の当たりにし言葉を失った。

 

 

 

嫌がる幼子に看守が複数人で寄ってたかって容赦なく暴力を振るう。それだけでも衝撃的だったが、看守の容貌の幼さがメイファンには信じがたかった。

 

 

 

 

 

 

普通ならジュニアハイスクールに通い、普通に笑って泣いて平穏な日常を生きているであろう年齢の彼らが笑いながら幼子を虐げる姿はまさに悪夢そのものだ。

 

 

 

地面に叩き付けられ、泣き叫ぶ子供を容赦なく踏みつけて笑う看守。

 

 

『もう止めて!』

 

 

 

看守の制止も聞かずに走りだし、子供の上に覆い被さる。

 

 

『お願い、もう止めて………』

 

 

 

 

 

蹴られ、踏みつけられ、それでもなおメイファンは身体が受ける傷以上に、心を無くして平気で幼子を虐げる“子供”の姿に心を痛め、涙を流すのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

数週間が過ぎる頃には、看守達から暴力を受けて泣き叫んでいた子供は二度と感情を持たなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

いくら暴力を加えても何の反応も示さない子供を看守達は退屈に感じ、やがて見向きもせず暴力を加える事もなくなる。

 

 

それがこの収容所での処世術だと学んだ子供達は次々と自ら感情を捨て、看守の命令に忠実な労働機械へと自らを作り替えていく。

 

 

 

 

 

 

そんな中でメイファンは未だに人間だった。

 

 

 

 

 

(なぜ、ティーンエイジャーの子供がここの看守をやっているの。どうして幼子に平気で暴力を振るえるの)

 

 

 

労働の合間に看守にそれを訪ねようにも「黙れ」と銃口を向けられ、話を聞けなかったメイファンだったがチャンスは唐突に訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

看守が人気のいない所で携帯を取り出し、家族らしき相手と話す様子を目撃したのだ。

 

 

隙を見て近くまで忍び寄り、聞き耳を立てる。

 

 

 

 

 

 

「―――――――うん、こっちは元気にやっている。それにあと2週間で長めの休暇を取れるからナツオの命日までには帰れる。母さんも元気で」

 

 

ティーンエイジャーらしい表情で母親と話す少女の笑顔に胸が痛くなる。

 

 

とても幼子をリンチして血塗れにした鬼のような看守と同一人物だとは思えない。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

―――――同時刻:CSS管轄下の病院

 

 

 

「こら、待ちやがれ!このクソガキが!」

 

 

ヘルメットを奪い取り、それを被って逃げる子供とそれを追いかける兵士。

 

 

 

 

 

 

そこにもうひとりの子供が飛びかかり、両手で頬を引っ張る。

 

 

「こら、降りろ!っ、いててて!」

 

 

 

キャッキャッと笑いながら兵士を翻弄する子供達はいずれも包帯を身に巻き患者服を着ていたが、無邪気で元気一杯な笑顔はとても怪我しているとは思えないものだった。

 

 

 

 

 

 

「チクショー、病院で人手が足りないから来てみたものの何だこりゃ。ガキの世話を俺らに押し付けやがって」

 

 

そこへ彼の部下が歩み寄る。

 

 

 

「ずっと病室で缶詰めだったんですよ。そりゃエネルギーもて余します」

 

 

 

 

 

 

 

何とか顔面から子供を引き剥がしてふわふわのベッドに放り投げたガイオ・コルツァーニ軍曹の視界の隅で子供達が何人も自分の身体にくっついているのに微動だにしない長身の男がひっかかった。

 

 

 

「あのロシア野郎、すっかり木じゃねえか。ガキどもが何匹も登ってやがる」

 

 

「あー、アレクセイ・ヤムキン中尉ですね。あまり喋らないけど何でか子供にはモテるんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

と、そこへアレクセイと同じ部隊らしき兵士が駆け寄り何か耳打ちする。

 

 

「何、メイファンが!?」

 

 

微動だにしなかった彼が思わず狼狽え、びっくりした子供が何人か落ちる。

 

 

「いつ捕まった!彼女は無事なのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

兵士と話し、ガイオらの横を駆け抜けるアレクセイ=アレクのバラクラバから覗く目は“彼女”以外の人間は見ていないように思えた。

 

 

 

唖然とするガイオらの横を更にアレクの部下が駆け抜け、去り際に『子供達を頼む!』と言い残す。

 

 

 

 

 

先ほどびっくりして落ちた時に体を打ったらしく泣いている子供を抱き上げ、あやすガイオの表情がみるみるゲッソリしていく。

 

 

「こりゃ大変だ……………お偉方に手当ての割り増しを要求してやる!」

 

 

 

 

 

結局、泣き止んだ子供の遊び相手をするハメになったガイオがシャワーを浴びてベッドに潜り込めたのは夜10時半頃の事であった―――――――――

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

月光に照らされる東京ゴーストシティを走行するトラック。

 

 

その内部で準備するアレクや兵士達の姿はいつものそれとは異なり、テロリスト等が使う型落ちの装備を身に着けていた。

 

 

「いいな?同じCSSを攻撃する以上はテロリストとして振る舞う必要がある。決して我々がCSSだと悟られるな」

 

 

部下にそう命じ、腰を下ろすアレクの脳裏で元気な笑顔を見せるメイファン。

 

 

(必ず助け出すぞ、メイファン)

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

東京ゴーストシティ・CSS管轄収容所

 

 

 

 

 

夜のパトロールで欠伸をした看守が轟音に気付き、そちらを見やると大型トラックが豪快にゲートをぶち破って侵入してくるではないか!

 

 

 

直ぐに通信機を取り収容所全域に非常事態を知らせようとするが、寸前で敵の銃撃が通信機を弾き飛ばし、彼自身もゴム弾をまともに喰らい気を失った。

 

 

 

 

 

 

『低威力仕様ゴム弾の使用を徹底しろ!間違っても子供を殺すなよ!』

 

 

アレクの指示で素早く収容所に広がっていく兵士達。

 

 

 

 

と、そこへ看守から奪った通信機が鳴る。

 

 

『おい、報告はどうした!?』

 

 

 

 

 

 

 

すかさず物陰で待ち構え、調査に来た看守の背後に忍び寄るや否やスタンガンで気絶させる。

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、本当にガキばかりだな…………レイヴンズのお偉方は鬼畜か何かか?」

 

 

「お偉方の代わりに囚人のヘイトを浴びる為の弾除けなのさ。こいつらは気付いちゃいないが」

 

 

 

 

 

 

 

兵士達はそんな会話を交わしつつ、看守の動きを見極めて次々と無力化していく。

 

 

 

「とりあえず看守達を全員無力化したらトラックで運び出すぞ。囚人達に報復で殺されかねない」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

瞬く間に制圧された収容所から看守達を乗せたトラックが次々と出発する様子を見守るアレク。

 

 

 

「これで看守は安全だな。囚人エリアの解放に取りかかれ!」

 

 

 

そうして解放された囚人を迎えたアレク達だったが―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆、死んだ目をしていた。

 

 

兵士に誘導されている彼らは、解放された事を喜んでいるようには見えず単に誘導に従っているようにしか見えない。

 

 

 

信じられない事に幼い子供でさえそうだ。ああ、顔が痣だらけだ――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、メイファンの姿を認めると思わず彼女の名を叫び駆け寄る。

 

 

「メイファン!無事か!」

 

 

 

目の前の兵士がアレクだと気付き、その胸に飛び込むメイファン。

 

 

 

 

 

 

 

「アレク。助けに来てくれたんだね」

 

 

 

メイファンを抱きしめたアレクは、その時になって初めて彼女の様子が変わっている事に気が付いた。

 

 

 

 

 

(――――――――――もっと明るかった筈だ、メイファンは)

 

 

 

「メイファン、何があったんだ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

メイファンから聞かされた話は、どれもレイヴンズの非道を裏付けるものだった。

 

 

 

だが、これを明らかにする気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

囚人である幼い子供に暴力を振るう看守のひとりが子供に向かって泣きながら『この人殺し、家族を返せ』と罵る様子を聞かされたアレクはそれを自らの記憶と重ね合わせる。

 

 

暴力を振るわれ、血を流しながら泣き叫ぶ子供。

 

 

貧しく弱い立場が故に虐げられた怨みを抱え、泣きながら子供に怒りをぶつける看守。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてメイファンはこう言ったのだ。

 

 

 

「レイヴンズを力によって滅ぼす――――――――それではきっと、本当の意味で弱者を救う事にはならない。必ずどこかで弱者を切り捨てる事になるから」

 

 

 

その瞳は、強い決意を秘めたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレク。私………世界で何が起こっているのかを知らないまま笑って生きてきた。

 

けれども、その陰で虐げられ苦しむ人達が居ると知ってしまった以上は見なかった事には出来ない。

 

だから…………世界と向き合う。絶対に逃げない」

 

 

そう言い、アレクの手を握る。

 

 

 

「私についてきてくれる?」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

――――――――10年後・国連軍施設

 

 

 

「CSS本部からの救難信号、途絶!」

 

 

 

「クソ、CSSの各支部が攻撃を受けて麻痺している時に!」

 

 

 

ヘッドホンを被った軍服姿のオペレーター達が慌ただしく動き回るなか、ひときわ背の高い兵士を伴って通路を歩む白衣姿の女性。

 

 

 

 

 

 

 

「CSS本部が例のテロリスト、スペード率いる部隊に襲われて壊滅状態らしい」

 

 

「それはまずいわね。本部施設の子供達は大部分がシェルターに避難したみたいだけれどいつまで保つかは分からない」

 

 

 

 

やがてふたりは研究室と書かれたプレートの貼られたドアをくぐり、大きな部屋へと入る。

 

 

 

「橘さん、“エクセリオン”の準備は?」

 

 

「バッチリですわ、メイファンお姉様」

 

 

 

 

その視線は人間がひとり入るサイズのカプセルに注がれており、そこでは人間が纏うパワードスーツらしきものが展開され着用者を待っている状態だ。

 

 

 

 

「赤と金で塗れば完璧だったな」

 

 

後ろの兵士――――――アレクが軽い口調でそう言うとメイファンもつられて笑った。

 

 

「それは駄目だって言ったでしょ。マー●ル社に怒られるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

「さて――――――――九鬼中尉、用意はいい?」

 

 

着用者であるひとりの女性に歩み寄り、その肩に手を置くメイファン。

 

 

 

「はい、ドクター・ユェン。覚悟は決まりました」

 

 

 

 

 

その真っ直ぐな眼差しにメイファンが深く頷いて応えると、九鬼と呼ばれた女性はカプセルに入り準備オーケーの合図を伝えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、7年かけて進めてきたエクセリオン計画…………その成果を見せて貰うわよ!」

 

 

 

メイファンの指がパソコンのキーボードの上でテンポ良く踊り、カプセルの蓋が閉ざされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて青白い光が部屋を照らし、メイファンの表情が達成感で満たされた――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 








~次回予告~



ファイル004『鋼鉄の天使』



時はCSS本部襲撃の数日前。メイファンが開発したパワードスーツ『エクセリオン』のオペレーターとして選抜された士官、九鬼 志穂は自身とスーツがマッチングしない問題を抱えていた。


しかし、ある子供から与えられた勇気に背を押されて大きな一歩を踏み出していく――――!







【人物紹介】



①…ユェン・メイファン(元 梅芳)

人種…アジア系(中国・漢民族)

性別…女性


年齢…21(2070年時)

《解説:2070年時》
極東行政管区の旧中国エリア出身。行政に携わるエリート官僚を両親に持つが本人は科学者を志望しており、科学者の育成に力を入れている旧日本エリアの大学に通っている。

女子高生に絡んだセクハラ親父を中国拳法で叩きのめして大騒ぎになったのがきっかけでCSS(児童安全事務局)の兵士であるアレクと知り合い、無口ながらも優しい彼を好きになる。


正義感が強く、CSSの過激派であるレイヴンズの横暴な振る舞いに義憤を抱いておりそれを隠そうともしないが、それが原因でレイヴンズに目を付けられ収容所に入れられてしまった。


後に自由の身となり国連軍が主導する『エクセリオン計画』の中心メンバーに名を連ねる。




年齢…31(2080年時)

階級…技術中佐

《解説:2080年時》
現在(2080年)のメイファンは国連軍のエクセリオン計画における中心的なメンバーとなっており、その頭脳を活かす為に特例で技術中佐のポジションを得ている。

自分が目撃した悲劇を繰り返さない為に、自ら開発したパワードスーツ“エクセリオン”に特殊な機能を組み込み、それを操れる者に希望を託している。






②…アレクセイ・ヤムキン

人種…スラブ系(ロシア)

性別…男性

年齢…25(2070年時)

階級…中尉(2070年時)

《解説:2070年時》
CSS(児童安全事務局)の兵士でありロシア支部所属。同僚からはアレクと呼ばれている。

無口だが実はロシア語のみならず英語もペラペラであり、文化交流プログラムによって日本支部に派遣されている。

(それ以前はマリーヤ・グレコフ少佐の部隊に配属されており、新人時代のラルフ・フォルツとも面識がある)



セクハラ親父とメイファンの口論を目撃し仲介しようとするも彼女が中国拳法で叩きのめしてしまった為、自身が身に付けていたカメラの映像を証拠として提出し彼女の正当性を証明した。


これがきっかけでメイファンと知り合い、明るく活発な彼女に惹かれていく。(これが理由で中国語の勉強まで始めた)


子供時代に家族を大企業の会長に殺された(※1)事がきっかけでスラム街での過酷な生活を強いられたという過去を持ち、CSSに保護されていなければマフィアに入っていただろうと本人も認めている。

その為、金持ちに対する憎しみは人一倍激しいが無差別な報復は行わないと心に決めている(※2)。



※1…心臓病を患った弟の分の心臓を、会長の子供の手術に使われた上に抗議した親が鉱山での強制労働に就かされ過労死している。


※2…安い賃金で労働者を使い捨てていた企業の社長に怒った一般市民が暴徒化して、彼と彼の家族を惨殺する場面を目撃してしまった為。

特に女子供に対する報復があまりにも酷く、それによって正気を取り戻した。

後にメイファンの正式な護衛となり、彼女と行動を共にしていく事になる。




年齢…35(2080年時)

階級…少佐(2080年時)

《解説:2080年時》
現在のアレクは、CSSから国連軍に異動しておりエクセリオン計画の中心的なメンバーとなったメイファンの正式な護衛となってる。

かなりの奥手でありメイファンとの関係は進展していない。(施設の女の子達からは意気地無しと突っ込まれており地味にダメージを喰らっている)





③…ガイオ・コルツァーニ

人種…イタリア系

性別…男性

年齢…35(2070年時)

階級…軍曹(2070年時)

《解説:2070年時》
CSSヨーロッパ支部所属のベテラン兵士。現場の兵士を纏めあげる兄貴分でもあり、口は悪いものの子供の世話はちゃんとやる。

およそ模範的とは言い難いが『権力を振るうなら責任を持て』をモットーとしており、たとえ上官だろうが理不尽な命令には反発する気概を持つ反骨精神の持ち主。

その気概が上層部に評価され、日本支部の体質改善を行う為に文化交流プログラムに参加するよう命じられた。


パスタを使った料理が得意であり、『パスタにケチャップは使わない』事に拘っている。(本人はトマトソース派であり、ケチャップは邪道と見なしている)



後にCSSの穏健派につき、ラルフ・フォルツと出会う事になる。





④…橘 柚子(たちばな ゆず)

人種…アジア系(日本・大和民族)

性別…女性

年齢…26(2080年時)

階級…技術中尉(2080年時)

《解説:2080年時》
10年前、セクハラ親父に絡まれていた所をメイファンに救われた高校生。

メイファンに憧れており“お姉様”と呼んで慕っている。かなりの努力家でありメイファンと一緒に仕事をする為に大学の科学コースを首席で卒業し技術中尉待遇でエクセリオン計画に参加した。

なお、エクセリオン計画には彼女を含め日系人の志願者が多い。(日本エリアがレイヴンズの方針に賛同し全面的に協力している事への反発、日系人の名誉回復という意味合いが大きい)






⑤…九鬼 志穂

人種…アジア系(日本・大和民族)

性別…女性

年齢…24(2080年時)

階級…中尉(2080年時)

《解説:2080年時》
国連軍に所属する士官で、パワードスーツ“エクセリオン”の着用者として選抜されたひとり。

エクセリオンのとある弱点で、選抜メンバーが次々と精神を病んで病院送りになってしまった為、今のところエクセリオンを着用できる唯一のメンバー。

エクセリオンの致命的な問題を承知で着用を決意したその理由は、次話にて明かされる。




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