レイヴンズの降伏によって国連内部の過激派が沈静化、世界に再び平穏が訪れて数ヵ月。
もはやレイヴンズの圧政に怯えることなくいきいきと暮らす人々の笑顔の影で神奈川の虐殺を生き延びた人々の怨念は静かに、しかし確実に膨れ上がっていた。
――――オーストラリア・某コミュニティー地区
『みんな、今日も会いに来てくれてありがとう!!』
ライブ会場にリンダの元気な声が響き渡りファンの歓声がそれに続く。
その歌声を舞台裏で聴きながら作業するイルヴァ・サッソ。
臨時のスタッフとして雇うようマネージャーに強く懇願した結果、簡単な作業のみではあるもののライブを手伝うことを許され気合いが入ったイルヴァは精力的に働いていた。
(――――憧れのリンダちゃんを手伝えるなんて夢みたい!)
そんな幸せを嚙み締めるイルヴァだった。
――――――――――――――――
一方、特戦軍本部のビルでエドワード・ハラダ少尉はここ数日活発になりつつある闇SNSのネットワークを探り、侵入を試みていた。
「ここ数日活発になっているという事は、何らかのテロを企んでいる可能性があるな……」
皮肉にもそのお陰でネットワーク侵入の糸口をつかめたわけだが。
そして侵入に成功したことを示す表示と共に画面表示が切り替わる。
「――――――――え!?」
侵入したページに記載されていた情報に絶句するハラダ。
――――――――――――――――
オフィスでパソコンのキーボードを叩いていたメイファンのインカムにアレクから通信が入る。
「メイファン、ハラダ少尉が新たなテロ計画の情報を捕捉した!実行日は今日!リンダ・コスタのライブが行われている会場だ!!」
「会場の方に通達して観客を避難させて!部隊は準備が出来次第直ちに出撃!」
即座に命令を下したメイファンだが、その額にはびっしりと冷や汗が浮き上がっていた。
――――――――――――――――
爆発音と共に会場の各所から上がる炎。
観客の悲鳴が響き渡り、リンダの視界のあちこちで阿鼻叫喚の地獄が繰り広げられる。
恐怖で竦む身体――――と、その時。リンダのインカムにイルヴァからの通信が入った。
『リンダちゃん!今救助部隊が向かってる。歩ける人は歩けない人を手伝って出口から避難するよう呼び掛けて。会場のスピーカーは駄目みたいだから』
会場の人々を見回すリンダ――――その視界に苦悶の表情ひとつひとつが焼き付く。
そして意を決したリンダの両手がマイクを強く握り締める。
『みんな!歩ける人は歩けない人を支えて!慌てず落ち着いて出口から避難して!救助部隊も向かっている!』
――――――――――――
同時刻、特戦軍本部施設では異常事態が発生していた。
格納庫で保管されていたエクセリオンが着用者もなしにひとりでに動き出し、ハッキングでハッチを開放したのだ。
「またこの現象だと!?」
「まさか………彼女が呼んでいるのか?」
整備兵たちが驚愕の表情を浮かべるなか、エクセリオンは勢いよく飛び上がり青白く光る粒子の軌跡を引きながら空へと消えていった。
――――――――――――
マーカス・サイモンとイルヴァ・サッソはそれぞれ歩けないライブ客に肩を貸して避難を手伝っている所だった。
――――リンダはまだ避難できていないライブ客を不安にさせない為に彼らが避難するまで会場に残ると言った。その強い意志を秘めた目を見てマーカスは説得を諦め、一刻も早く客を避難させることにしたのだ。
その時、会場の方から轟音が響く。
「リンダ!!」
思わずそう口にしたマーカスが後ろを振り向くと、リンダがいるステージの上部構造物が今にも崩れようとしているではないか!!
マーカスの横で何かに気付いたイルヴァが空を見上げると一点の光が見えた――――
「ごめんなさい、誰かにこの人を手伝うよう言ってください!」
そう詫びながら踵を返し会場の方へと走るイルヴァ。
そして空から一直線に降りてきた光点と彼女が一体になる――――
――――――――――――――――
リンダの頭上で構造物が瞬く間に炎をまとい、崩れる――――
恐怖で歪む表情――――思わず神に祈ったその瞬間、力強い腕に抱かれる感触がした。
リンダが崩れる構造物に押し潰される――――その様子にライブ客達が絶望の表情を浮かべた、まさにその瞬間だった。
構造物の一部が弾け飛び、そこから何かが飛び出してくる――――それは純白の装甲に身を包んだ人物だった。そしてその腕には所々煤だらけになりながらも無事なリンダの姿が。
「――――――――」
リンダが唖然として自分を抱きかかえる人物を見つめる。
確か、エクセリオンのオペレーターだった九鬼さんという人は亡くなった筈――――そこまで思考した時に心当たりのある人物が脳裏に浮かんだ。
「――――まさか、イルヴァなの?」
装甲に身を包む人物がそれに応えるようにリンダの方を見返す。
「良かった、リンダちゃんを助けられて」
と、その時。会場上空を飛行するドローンとの情報リンクで所属不明のパワードスーツ部隊が接近しているとの知らせが入った。
「リンダちゃん、もうすぐ救助部隊も来ると思うから死なないでね。私――――テロリストをやっつけてくる」
その声色にリンダが不安を覚えるが、イルヴァは彼女を地上に下ろすとそのまま飛び立ってしまった。
――――――――――――――――
ライブ会場に接近するパワードスーツ部隊。鋼の装甲で全身を覆われ表情は窺えないが彼らの心の中には憎悪が満ちていた。神奈川で繰り広げられた惨劇に目もくれず自分達だけ平和を謳歌する人々――――彼らに同じ地獄を味わわせて大量の血を流さなければ怒りは収まらない。
そして今まさに会場へと踏み込もうとした瞬間、眼前に純白の装甲を纏う人物が着地した。
「――――ここでビーム兵器を使うのはリスクがある――――」
自分にそう言い聞かせながら、ヘルメット内部のスクリーンに表示された推奨武器である刀を抜いて構えるエクセリオン――――イルヴァ。
生まれてこのかた人間相手に命のやり取りをした事など無かった彼女の人生が決定的に変わろうとしていた。
「――――リンダちゃんやファンのみんなを殺させはしない!!」
自らを激励するかのような言葉と共にエクセリオンが敵めがけて駆け出す!!
~次回予告~
ファイル033『エクセリオンの涙』
皆を護る為――――自らにそう言い聞かせ、戦う事を選んだイルヴァ。
純白の装甲が敵兵の返り血で赤く染まり、イルヴァの手が一生取れない汚れに染まっていく。
そんな彼女を目の当たりにしたリンダは――――