リンダ・コスタのライブを突如として襲ったテロリスト達。
神奈川で反レイヴンズ勢力が行った虐殺によって大切な人を踏み躙られた怒りが憎しみとなり新たな流血を望む時、イルヴァはエクセリオンを纏って人々を守護するヒーローとなる。
しかし、それはイルヴァにとって決して軽い選択ではなかった。
地を蹴り、会場に上がった炎を受けて赤く輝く刀を振る――――
イルヴァの一太刀がパワードスーツを纏った敵を上下真っ二つにし鮮血が舞い上がったかと思うと破損したバッテリーが熱暴走して爆発を起こした。
「撃て!撃て!」
隊長らしき者が悲鳴じみた声と共に引き金を引き、部下達がそれに続く。
(――――まずい!!)
推進用スラスターにスタードライブからエネルギー粒子が流れ、一気に10メートル以上跳躍する――――必然的に敵のビームは何もない空をすり抜けていった。
(長引けば流れ弾が会場に飛んでいく――――あそこにいるリンダちゃんや観客の人達を危険に晒すわけにはいかない!)
一気に降下し、その際に敵の1体を刀で左右真っ二つにする。
爆発――――煙の中から飛び出したエクセリオンは純白の装甲を敵兵の血で汚していた。
「この!神奈川で嬲り殺しにされた兄さんの仇だ!!」
パワードスーツの1体が剣の柄のようなものを取り出し、プラズマの刃を発生させる。
そして勇猛果敢に斬りかかってくるが――――
圧倒的な性能を持つエクセリオンの敵ではなく一撃で切り伏せられるのだった。
――――――――――――――――
戦闘の音が止み、静かになると観客たちが不安そうに顔を見合わせる。
敵が来ないという事は全滅したか撤退したかのどちらかだろう。だが、イルヴァが戻ってくる気配もない。
不安になったリンダが会場の外に出ると、そこには――――
至る所に敵が爆発した時にぶちまけられた鮮血が花のような模様を形作り、その惨状の中心には呆然としたように立ち尽くすエクセリオン――――イルヴァの姿があった。
そして、その純白の装甲は血で赤く汚れている――――
リンダはあまりにも酷い光景に言葉が出ず立ち尽くすしかなかった。
――――――――――――――――
――――1時間後
負傷した観客は救助部隊によって救い出され、今は手当てを受けた軽傷者が病院に搬送されるのを待っている状況だ。
そしてエクセリオン――――イルヴァは急遽、特戦軍の基地へと帰還し検査を受けるよう命じられた。
「――――多くの観客が助かったのは喜ばしいのだけど……」
メイファンが複雑そうな表情を浮かべる。
その視線の先にあるモニターは病室のベッドで横向きの姿勢のままビクとも動かないイルヴァの姿を映したカメラ映像が映し出されていた。
完全に表情が失われており時折ブツブツと何かを呟いている。
「かわいそうに。まだ14歳になったばかりだというのに」
悲しげな表情でモニターを見るアレク。その隣に立つマーカスも無力感に苛まれている。
――――そんな時、兵士に案内されたリンダが室内に入る。
「――――イルヴァに会わせてくれますか?」
――――――――――――――――
イルヴァの意識は真っ赤に染まっていた。
皆を護るヒーローになる――――その決意と共に戦った結果は血にまみれた光景だった。そしてスーツとはいえ自分自身の手が血で汚れるのを実感した――――
きっと何度洗ってもこの汚れは取れないだろう。
すると病室の扉が開き、リンダ・コスタが室内に入ってきた。
――――あんなにリンダちゃんに憧れて、本人を目の前にするだけでも心躍ったのに今は何も感じない。
すると自分がリンダに抱き締められているのに気が付いた。
「――――イルヴァ、あなたが戦ってくれなかったら観客のみんなも――――私も死んでいた」
その言葉にイルヴァは応えない。だが――――
「――――本当は殺したくなんかなかったんだよね?」
ピクッと身体が震える。
慈しむように抱き締めてくれるリンダの腕の中でイルヴァ自身が押し殺していた感情が湧き上がってくる。
そしてイルヴァはリンダの胸に顔を埋め、身体を震わせるのだった。
――――――――――――――――
――――数日後
基地エリアのリラクゼーションスペースにある花畑、そのベンチに腰を下ろすイルヴァ。
美しい花を眺めるが――――イルヴァにはそれが返り血で赤く汚れているように見えた。
「――――――――」
すると、右隣にリンダが腰を下ろしてきた。その左手がイルヴァの右手に重なる。
――――花畑に響くリンダの歌声。
ライブの時より近いどころか直ぐ隣でリンダの歌声が聴ける――――
そんな嬉しさが胸の内に湧き上がってくる。
横目でイルヴァの方を見たリンダは、イルヴァの口が微かに笑みを浮かべている事に気付いた。
――――胸の奥に嬉しさが湧き上がり、歌声に弾みがつく。
そして花畑にはリンダの歌声がいつまでも響くのだった――――
~次回予告~
ファイル034『癒えぬ傷は再び血を流す』
神奈川の悲劇、そこから生まれた憎悪と怨嗟の連鎖は終わっていなかった。
そしてイルヴァはまだ癒えていない心の傷を背負って再び戦うことを選択する。