これは作中から3年後(2085年)のとある時期。
成人したリンダ・コスタとその恋人マーカス・サイモンの物語。
――――オーストラリア・某ビーチ
「海だー!」
マーカスが敷いたシートに脱いだパーカーを置き、純白のビーチを駆けるリンダ。
南米系の褐色肌に刻まれた傷痕の痛々しさを感じさせない弾けるような笑顔を独り占めできる幸せをマーカスは堪能していた。
(――――人気アイドルなんだからお忍びで遊べるビーチ、紹介するわよ。1カ月バカンスするんだから2人きり水入らずで楽しんできなさいな)
数日前にそう言ってくれた上司であるメイファンの表情がやけにロマンスを期待しているように見えたのは気になるが、他の男たちがリンダのビキニ姿を目にしなくて良いことには素直に感謝するのだった。
海水浴用に調達した、口元と鼻の下の面が露出したバラクラバを着用し、シャツを脱いで鍛えられた筋肉を露わにするマーカス。
「マーカス、こっちこっち!」
マーカスが差し伸べられたリンダの手を取り、一緒に波打ち際を走る。
「つめたーい!」
はしゃぎながら楽しそうにするリンダにつられてマーカスも笑顔になる。
「えいっ!」
マーカスが海水をリンダにかけると楽しそうな声と共に海水が飛んできた。
今だけは戦いの事を忘れてリンダだけ見ていたい――――そんな事を考えながら目の前の天使を見つめるマーカスだった。
――――――――――――――――
キャピングカーの近くでバーベキューを楽しむ2人。
「ん〜!遊んだあとのバーベキュー、最高!」
マーカスが焼いた肉を堪能するリンダ。
「あ〜、お肉だけ食べていたいなあ」
アイドルならではの苦労が滲み出ている言葉にマーカスが苦笑する。
「はい、あーん」
マーカスが差し出したフォークの先にある肉の塊から焼きたての香ばしい香りが漂う。
「ん〜!幸せ!」
肉の旨味を噛みしめたリンダがフォークで肉を差し出す。
「私からもあーん」
その肉をパクっと食べたマーカスが笑顔でサムズアップした。
――――――――――――――――
夕方になってメイファン達が用意してくれた要人用のゲストハウスに到着した2人。
ビーチや海を一望できる位置にある豪華な家の玄関にある掌紋認証センサーにリンダが手をかざすと、鍵が開く音がした。
「ようこそ、リンダ・コスタ様とマーカス・サイモン様。当館はお二方を歓迎します」
管理AIの案内で家に入ると、広々とした空間に圧倒される。
「当館は雨天時も水泳を楽しめる屋内プールや海を一望できる大浴場、AIが全自動で調理するダイニング、映画を鑑賞できるシアター、最高の寛ぎを提供するリビングとベッドルームを備えております。どうぞお楽しみください」
――――――――――――――――
大浴場で湯船に浸かりながら海を眺めるマーカス。
「お待たせ」
身体を洗い終えたリンダが隣に座る。
微かにシャンプーの香りがする髪はアップでまとめられており、露わになったうなじが艶めかしい――――
「あ〜、気持ちいい」
遊び疲れた身体を温かいお湯が包みこんで癒してくれる心地よさにリンダがリラックスした声を漏らす。
「いつもライブやイベントでゆっくりする暇ないもんな」
護衛としていつもそばに居たマーカスだからこそリンダの苦労を理解しているだけにリラックスした表情の彼女を見て思わず笑みがこぼれる。
「でもマーカスがそばに居てくれるから頑張れるよ」
そう言いながらマーカスに身体を寄せるリンダ。マーカスもこれまでに何度か触れて慣れたのか動じる様子はない。
「それでも大変だろ?」
しばし沈黙するリンダ。それはマーカスの言葉を肯定するものだった。
「こんな時代だもん、私の歌で誰かが心から笑顔になったり前を向けるようになったりしてくれたら嬉しいから」
そこで言葉を止め、マーカスの方を見る。
「でも、マーカスの前ではアイドルじゃなくてひとりの女の子でいさせて」
すると肩にマーカスの手がかけられる。
「ああ、リンダがどれだけビッグになっても俺にとってはいつだって世界一可愛い彼女だよ」
――――――――――――――――
――――テラスで水平線の上空に広がる星空を眺めるマーカス。
その隣に立つリンダが身体を寄せ、その肩をマーカスが抱く。
「このままずっと時間が止まったらいいのに」
「2人の時間はまだ沢山あるさ」
リンダはまだ知らない。この先に待ち受ける苦難を。
自らに課せられた大いなる使命を。
それでも今この瞬間だけは恋するひとりの女の子だった――――――――
いかがでしたか?
今後はこういうラブラブ番外編を時々入れていきたいと思いますのでお楽しみに!