レイヴンズ残党による無差別テロ攻撃を防ぐため、まだ完全に回復していない心身に鞭打って出撃したイルヴァ――――エクセリオン。
激戦の最中、イルヴァはエクセリオンの動力源であるスタードライブが生成する粒子を媒介にしてレイヴンズ側の新型パワードスーツを着用する青年、鳴神 修の記憶を感じ取る。
――――「子供を飢えさせたくない」、「子供を苦しめる者を許さない」
始まりはそんなシンプルな感情だった。そして、それは重税を課す富豪に対する民衆側の原動力となったのだ。
しかし、富豪たちが豪勢な暮らしをする為に踏みにじられ犠牲になった人々の屍の山は人々の心の中に果てしなく深い闇を生み出した。
そして、富豪たちの最後の拠点となったパリを陥落させた際にその闇は牙を剥く。
――――非戦闘員に対する容赦ない殺戮の嵐であった。そして、殺戮を行った将兵たちは国連内部において過激な派閥となり、「レイヴンズ」を名乗り始める。
そして国連内に創設された、虐待に苦しむ子供を守る組織であるCSS(児童安全事務局)において勢力を拡大したレイヴンズは「子供が虐待されるような環境を作る原因を潰す」という方針のもと、誘拐・暗殺・拷問・公開処刑といった過激な手段でブラック企業の経営者やその家族を排除する事によって成果をあげる。
これによって社会環境は大きく改善され虐待で苦しむ子供の数を大きく減らすことに成功。
しかし、レイヴンズのこうした過激な活動で自身もしくは愛する者を傷付けられ殺された者達の怒り、憎悪は大きく膨れ上がっていった。
また、レイヴンズの過激な活動に疑問を持った人々が集結し「特殊作戦軍」(略称:特戦軍)を結成する。
特戦軍は各地でレイヴンズと戦い、遂にその本拠地である神奈川を攻略するに至るがここで計算外の事態が発生してしまう。
特戦軍が支援していた反レイヴンズのレジスタンスが、レイヴンズ関係者の非戦闘員に対して大規模な略奪と暴行を行ったのである。特戦軍はただちにこれを止め、実行犯を処刑したものの「神奈川虐殺」と呼ばれるこの事件の生存者達は特戦軍に対する激しい怒りと憎しみを抱くようになる。
そんな彼らの一部はレイヴンズ残党と合流してテロ活動を始めた――――
そして、神奈川で妹を惨たらしく殺された青年、鳴神 修もまた憎しみの牙を剥く。
その牙が幸せに生きている人々の人生を壊すのを止めようとするエクセリオン――――イルヴァは過酷な選択を強いられる。
――――――――――――――――――――――――――――――――
イルヴァの中に流れ込む修の記憶、感情。
冷たくなった妹の身体に刻まれた暴行の痕。
妹を傷つけ殺した者たち、そして妹を守れなかった自身への怒り。
やり場のない怒りは増大し、人々を無差別に傷付ける暴走マシンに変貌しつつあった。
「――――――――」
活性化したスタードライブがイルヴァの意識とリンクする。――――初めてなのに何度もやってきたかのように何をすべきかが理解できた。
目の前の敵、パワードスーツ・リンクスを纏う青年――――修をここで討たなければその復讐の牙は後方の街で暮らす人々を切り裂くだろう。
イルヴァは武器をイメージし、それを「織った」。
「――――何!?」
修は驚愕の表情を浮かべた。
目の前でエクセリオンが大量の粒子を発生させたかと思うと、その粒子を一ヶ所に集め薙刀の形にしたのだ。
光の薙刀を構え、こちらを睨むエクセリオン。
「どうやって武器を作ったかは知らんが!」
リンクスが大剣を振り上げ、思い切り振り下ろす――――が、光の薙刀がそれを止める。
――――それどころか刃と刃が交わってもなおイルヴァの勢いは止まらず、そのまま大剣の刃が切り飛ばされた。
宙を舞いながら回転した刃がそのまま地面に深々と突き刺さる。
「くっ…!」
リンクスが手に持った大剣の残った刃をパージし、柄の部分だけ握って構える――――すると柄の部分からプラズマの刃が展開した。
明らかに動きが違う。――――修は目の前の相手にそんな感想を抱いた。
何かの決意を固め、迷いが消えたのか躊躇いもなく刃を繰り出してくる。それに加えてエクセリオンの圧倒的な性能。もうスーツの性能差を技術でカバーしきれない。
「さっさと大人しくやられろ!」
プラズマソードを振り下ろすが、横にかわされる――――これは想定内――――そのまま刃を横に薙ぐ。
だが、エクセリオンはまるで走り高跳びの選手の如く華麗に身体をしならせ、難なくかわしてしまった。
そしてリンクスは無防備な脇腹を晒してしまう――――前に気付き、今度は反対方向へと刃を走らせる。
が、その刃は薙刀に防がれそのままエクセリオンの圧倒的なパワーで押しのけられる。
「うわあっ!」
思わず怯んでしまう――――そして下から振り上げられた刃がプラズマソードを弾き飛ばした。
残った武器である2丁の拳銃型ビームガンを抜くが、距離が近すぎて敵を狙うどころではない――――
そこへ薙刀を反対に持ったエクセリオンが襲い掛かってくる。
柄が横薙ぎでリンクスに襲いかかり、ビームガンが手から弾かれ宙を舞う。
そのまま柄で一突きされ、地面に倒れる。
――――修の顔の前に突き付けられる薙刀の光の刃。
修は死を覚悟した――――が、次の瞬間にはエクセリオンの手から薙刀が光の粒子となって散っていった。
「――――え?」
目の前で起きた事態に理解が追い付かず困惑するリンクス――――修。
そこにエクセリオン――――イルヴァが片膝を地につける形で屈んできた。
「あなたが受けた傷、どれだけかかっても完全に癒せないのはわかっている」
敵意のない言葉でイルヴァが語りかけてくる。
「私たちへの恨みを捨てられないのもわかっている。どれだけ恨んでくれても構わない」
その真摯さに修が沈黙をもって返す。
「それでも約束する。あなたや妹さんのことを決して忘れないと」
――――その言葉は、修の心の底に沁みこんだ。
スタードライブが生成する粒子を介して、それが嘘でないことが心に伝わってくる。
「だから、生きてほしい。どれだけ苦しくても」
心の奥底に優しく触れるような言葉に修の目から涙が溢れる――――スーツに覆われて表情が見えないことが今はありがたかった。
身体を震わせ、妹の名を口にする。
「――――麻衣」
そうだ。本当はただ妹を喪った哀しみを誰かと分かち合いたかったのだ。
人として扱われずゴミのように踏みつけられ殺された妹の死を、ひとりの人間に起こった悲劇として誰かに記憶して欲しかったのだ。
妹が理不尽な死を遂げたことへの怒りや加害者への憎しみはきっとこれからも修の中で死ぬまでずっと残り続けるだろう――――だが、それでも悲しみと共にそれを記憶してくれる人間がいる。
もはやリンクス――――修には武器を手に取る理由がなかった。
――――――――この日起こった国連軍施設への攻撃は、レイヴンズ残党側の強力なパワードスーツ「リンクス」が国連軍に投降したことで収束し、市街地への攻撃は未然に防がれたのだった。
――――――――――――――――
数日後、オーストラリア某コミュニティー地区
本部ビルの屋上で夜明けを待つイルヴァ。オリーブグリーンのフライトスーツに身を包み、フライトジャケットを羽織る姿はすっかり別人のそれであった。
エクセリオンに見初められ、それを操る素質を持った者として出来ることをしたい――――特戦軍に正式に志願したのはそれが理由だ。
世界は未だに混沌としていて、いつ平和が来るかは分からない。
それでも、憎しみの応酬が繰り返される世の中を追認して適応する事など出来なかった。
後ろに気配を感じ、振り向くとリンダとマーカスがこちらを見つめていた。
「――――イルヴァ、本当に軍に入って戦うの?」
イルヴァに歩み寄り、その両手を取るリンダ。
「戦いたくないなら、戦わなくていいんだよ。それにまだ15歳じゃない」
自分を案じてくれるリンダの表情に嬉しさを感じつつイルヴァは穏やかな表情で口を開いた。
「私も本当ならリンダちゃんのライブ行ってグッズ集めて思い切り楽しく過ごしたい」
その表情はある種の諦観が入り混じった、決して子供がしていい表情ではなかった。
「それでも、私がエクセリオンの呪いを受け入れて戦うことで子供達の涙や血が流れるのを少しでも止められるなら私は呪いを受け入れる。戦う――――」
イルヴァの後ろで朝日がその顔を覗かせ始める。
――――東の空から冷たくなった風が吹き付け、イルヴァが朝日の方に振り向いた。
羽織ったジャケットが風ではためく。
哀しい決意を秘めたイルヴァの表情は、それでもヒーローと呼ぶに相応しい凛としたものだった。
――――――――サイレント・ナイツ 第一部 完
そして物語は第二部へと続く――――
まず、ここまでお読みくださりありがとうございます。拙い文章ではありましたが、無事にサイレント・ナイツ第一部を書ききる事ができました。
様々な人物が登場し、それぞれの物語を書いてまりましたが当然彼らの物語はまだ終わっていません。
次の第二部では第一部から9年後を舞台に「絶望と再生」をテーマとした物語を書く予定です。(第一部が長くなっちゃったので、第二部以降は短くまとめたいと思います)
是非ともお楽しみに!
~次回予告~
第二部・序章:葬送曲
ファイル038『悪夢の開演』
時は西暦2091年。エクセリオンを纏って戦うイルヴァはレイヴンズ残党の拠点で衝撃的な情報を見つける。
――――レイヴンズ残党が不完全ながらもエクセリオンの動力源であるスタードライブを独自に製造することに成功しつつある――――
それは特戦軍に捧げられる死と絶望、悪夢の宴の始まりであった。