時は西暦2090年。
日本に拠点を移した特戦軍はクリスマスを楽しんでいた。
――――日本:新東京エリア
昼前にも関わらず、クリスマスで賑わう町。
そんな中、ひとりの女の子が寂しそうにしながら歩いていた。
一緒にクリスマスを過ごすと約束した両親が仕事で帰りが遅くなってパーティーは延期――――
幼い子供には残酷すぎる知らせを受け取った女の子、天野 光 (あまの ひかる)は泣き顔を隠すようにニット帽を深く被り直す。
と、そこに3人の人影が歩み寄ってきた。
「嬢ちゃん、どうした?迷子か?」
膝を屈めて目線を合わせてきたのは訓練部隊のワッペンが付いた戦闘服を身にまとう若い兵士だった。バラクラバで素顔は見えないが、目元から見える青い目は優しい。
「心配するなよ、怪しいものしゃない。ほら、スマホでこれスキャンして」
光がスマホで兵士の差し出した身分証をスキャンすると、本物であり信頼できるという緑色の表示が画面に躍り出た。
「迷子じゃないよ……何もやることがないだけ」
「何もやることがないのか?だが、ひとりでこんなに人がいっぱいの所にきたらママやパパが心配する」
最初の兵士とくらべて体格がいい兵士がグレーの瞳を向けてくる。
「仕事で帰ってくるの真夜中になるって。だから家にいてもひとりぼっち」
すると、琥珀色の瞳をした兵士がイタズラを思いついたような目つきで仲間を見回す。
「オーケー、じゃあ俺達と一緒にクリスマスを楽しまないかい?好きな所連れて行ってやるぞ」
「え、ほんとう!?」
2人の兵士が「さすがにそれは不味いんじゃないか」と言わんばかりに琥珀の瞳をした兵士を見るが、光の期待に満ちた眼差しを見て互いに顔を見合わせた。
「……せっかくのクリスマスだしな、いいか?」
「ああ……孤独なクリスマスほど辛いものはない」
ぱぁっと明るくなった光の笑顔に2人が再び目を見合わせ、「こういうのも悪くないな」と笑いあい、その後ろで琥珀色の瞳をした兵士が腕組して頷く。
そして再び青い瞳をした兵士が光に向き合う。
「僕はアレンだ。よろしく」
「自分はイーゴリだ」
グレーの瞳が光の視線と重なる。
「俺はロッコだ!楽しもうぜ!」
琥珀色の瞳が笑う。
「――――さて、嬢ちゃんの名前を教えてくれるかな?」
「光!」
「ヒカル…Lightか。いい名前だな。ヒカル、行きたい所はあるか?」
アレンの問いに光はしばらく考えたのち、ある場所を指さした。
――――――――――――――――
「よし、いいぞ。上手いぞ」
イーゴリがスケートリンクで光の手を引きながらゆっくりとすべる。
「わあ!」
初めて体験するスケートに興奮気味に頬を紅潮させる光。
「楽しいかい?思い切り楽しもうぜ!」
リンクの外でロッコが笑いながら声をかける。
「怪我には気をつけてな」
心配そうに声をかけるアレン。
~10数分後~
「わーい!!」
「お、おい、あまりスピードを出し過ぎるな」
スケート初心者とは思えないほどめきめき上達し、自由自在にリンクを滑りまわるなか、心配そうについていくイーゴリ。
しかし、冷や冷やするイーゴリの懸念とは裏腹に「周りをよく見る」という注意をちゃんと守っていた光は人とぶつかる事もなくこける事もなくスケートを満喫するのだった。
~1時間半後~
「たのしかったー!」
満足げな笑顔でスケートリンクを後にする光。
「おー!そりゃ良かった!じゃあ昼だしご飯食べる?」
「うん、おなかペコペコ!」
「……子供の体力を甘く見ていた」
「……大丈夫か?」
ロッコに笑顔で返事する光の後ろで疲労困憊のイーゴリとそれを心配そうに見つめるアレンの姿があった。
――――――――――――――――
「おいしいー!」
様々な国の料理の屋台が並ぶ市場で良い香りにつられて買ったミートパイを両手で持って食べる光。
「へー、中国の上海にある豚肉のパイか。美味いな」
バラクラバの下半分を上げ、サクサクした生地とその中の豚肉の旨味に舌鼓を打つロッコ。
「ヒカル、こっちのピロシキも美味いぞ。それ食べ終わってまだ食べられるなら、食べてみるといい」
ピロシキが何個か入った紙袋を抱えながら、その中からひとつずつ食べるイーゴリとアレン。
「まだ足りなかったら骨なしチキンもあるからな」
ピロシキを平らげたアレンが骨なしチキンの柔らかい身にかじりつく。
――――――――――――――――
「おなかいっぱい!」
幸せそうな表情を浮かべる光。
「美味かったな~少し歩こうか」
ロッコの誘いに光が頷き、4人はクリスマスで彩られた街を眺めながら歩き始めた。
「クリスマスってみんなキラキラしてて大好き!」
いつもとは違う街の輝きに目をキラキラさせる光。
「そうか、綺麗な飾りとかいっぱいあるもんな~」
と、そこへ漆黒の戦闘服を纏った男が現れる。
「あ、フォルツ大佐!」
思わず直立不動で敬礼するアレン、イーゴリ、ロッコ。
――――数分後
「そうか、なるほど……私も付いていくから思い切りクリスマスを楽しもう」
男――――ラルフ・フォルツ大佐がバラクラバの目元に笑みを浮かべながら光に話しかける。
「うん!お兄ちゃん達がいてくれるからすごく楽しい!」
そんな光の笑顔に自身が最後に見た、生き別れた娘の姿を重ねるラルフ。
「じゃあ楽しいクリスマスにしようか」
そう言ったラルフはヘッドセットでどこかと連絡を取り、しばらくして光たちと共に街を歩き始めた。
――――――――――――――――
大規模な駐車場を臨時開放して作ったと思しきダンスホールで大人も子供も楽しそうに踊っている様子が一行の目に入った。
クリスマスソングのメロディが響くなか、皆がそれぞれ自由に踊る様子に目を輝かせる光。
「あそこに行くか?」
アレンの問いに光が頷いた。
――――しかし、会場に近づくにつれて踊る人が多く入り込む余地がない事に気が付いた。
「まいったな……」
どうしたものか、とバラクラバ越しに頭を掻いていると南米風の褐色肌が特徴的な女性と、その護衛らしき兵士が現れた。
「フォルツさんじゃないですか!どうしたんですか?」
ラルフが振り向くと、そこには今や大人気の歌手であるリンダ・コスタとその恋人であるマーカス・サイモンの姿があった。
――――事情を聞いたリンダが膝を屈め、光と目を合わせる。
「光ちゃん、私があそこに連れて行ってあげる!」
リンダが優しく微笑むと、マーカスと腕を組んで――――
「みんなー!私も入れてくれる?」
聞いた者が思わず振り返るほど美しい声がダンス会場に響く。
「嘘、リンダ・コスタ!?」
「マジかよ!?」
大スターのサプライズ登場に沸く会場。
「私もみんなと踊っていい?」
その問いに皆が進んで場所を空けてくれる――――と同時にリンダが後ろの光たちを見る。
人という大海を割ったリンダとマーカスに続くように光たちもダンス会場に入っていき、思い思いに踊り始める。
と、同時にリンダの歌声が会場に響き始めた――――
――――20数分後――――
空がオレンジ色に染まるなか、拍手と歓声に見送られながらダンス会場を出ていくリンダとマーカス。
夢のような時間を楽しんだ光たちも満足したような表情で一緒に会場を後にする。
と、そこへ駆け寄ってくる2人の人影。
「光!」
聞き覚えのある声に光が振り向く。
「ママ!パパ!」
「ごめんね!寂しかったでしょ」
光を抱きかかえる母親。
「本当にありがとうございます…!」
ラルフ達に頭を下げる父親。
「お二方がそれぞれ勤めていらっしゃる会社を部下に調べさせ、不正の証拠を押さえました。もう取得した有休を勝手に取り消されて出勤を強制される事はないと思います」
そう言い「安心してください」と付け加えるラルフ。
「せっかくですし、皆で食事でも如何ですか?ちょうど私の仲間が臨時でレストランをやっている所がありましてね」
――――――――――――――――
その頃、街中のビルの一室でエドワード・ハラダ中尉はようやく一仕事終えたと言わんばかりに椅子にもたれていた。
「やれやれ……8年も経てば電子機器もだいぶ進化するもんだな」
8年の冷凍睡眠から目覚めて1ヵ月経ったばかりのハラダにとって見たこともないような機器とプログラムコードの数々は厄介な相手だった。
「――――ま、光ちゃんがご両親とクリスマスを過ごせるようになって良かったよ」
そんなハラダを隣で見ていたヴェガが「お疲れ様」と労う。
「じゃ、俺達もディナーに行くか?」
――――――――――――――――
ホテルの大広間を丸々使った臨時レストランに案内された光たちは、運ばれてくる料理の美味しそうな匂いに思わず目を輝かせた。
「聞いたぜ、嬢ちゃん!今日はスペシャルゲストだ、俺の料理を楽しんでくれ!」
ガイオ・コルツァーニ准尉がシェフの装いで皆を出迎え、しばらくして前菜が運ばれてくる。
その後も次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら幸せな時間が流れるのだった。
――――――――――――――――
楽しいことに美味しい料理でいっぱいになって幸せいっぱいな笑顔を浮かべながら歩く光。
そんな彼女と手をつなぐ両親、それを後ろから見守るラルフ達。
――――と、その時。
突如として街が停電に襲われた。
「――――!?」
予想外の出来事に不安に襲われる人々。
――――次の瞬間。
夜空に光が現れ、漆黒のキャンパスを色鮮やかに染め上げた。
その美しさに人々が見とれ、先ほどまでの不安が嘘のように収まっていく。
――――上空で光を「織り」ながら飛ぶヴェガ。
「――――まだなの?」
ヘッドセット越しに仲間へと呼びかけ、返事を待つ。
『送電ネットワークの再設定にあと2分、いや、1分欲しい』
キーボードを叩く音と共に返事するハラダ。
「よし……派手にやろう!」
空に一際大きな花火のような光が幾重にも広がり、街を明るく照らしたかと思うと消え、静寂が戻る――――
――――と同時に街に再び電気が流れビルやイルミネーションが煌めきはじめる。
そして、割れんばかりの拍手と大歓声が響く。そして、それは光や両親も同じだった。
――――――――――――――――
訓練基地へと帰還したアレン、イーゴリ、ロッコは宿舎の入り口に屈強な男性が腕組みしながら立っている事に気付いた。
――――野戦服越しでも分かる逞しい身体をしたアフリカ系の男の視線が3人を捉える。
「――――本来なら門限超過で罰を与えるべき所だ」
その声に3人が思わず竦み、直立しながら震える。
――――訓練生から恐れられている鬼教官ことマックス・スミス軍曹はそんな3人を見つめ、フッと笑った。
「上から連絡があってな。今日はよくやった。お前達は特別に明日も休暇だそうだ」
そう言うとスミス軍曹は「早く寝ろよ」と言いながら踵を返して去っていく。
――――――――――――――――
部屋の中で楽しい1日の余韻に浸りながら語り合う3人。
「楽しかったな」
ベッドの中でそう言いながら笑うアレン。
「ああ、故郷の家族を思い出した」
隣のベッドからイーゴリの同意する声が届く。
「あんなに遊びまくったのいつ振りだろうな~」
イーゴリとは反対側の方からロッコの声が返ってくる。
「俺達、みんながああいう幸せなクリスマスを毎年過ごせるように頑張ってるんだよな」
その言葉にイーゴリもロッコも笑う。
――――――――この時、3人は知る由もなかった。
自分達が今日出逢った女の子が将来、世界を救う上で必要不可欠な存在となることを。
そして、アレンは知る由もなかった。
その女の子こそが、自分自身の人生を大きく変える存在になることを。
如何でしたか?
今回はひとりの子供を皆が全力で幸せにすることをテーマにして書かせて頂きました。
最後にこのエピソードに登場した人物を登場順にご紹介させて頂きたいと思います。
【人物設定】
・天野 光 (あまの ひかる)
性別…女性
年齢…7
人種…アジア系(日系)
《解説》
どこにでもいるようなごく普通の子供で、クリスマスを孤独に過ごすところだったがアレン達と出逢った事で幸せなクリスマスを過ごす事ができた。
この事がきっかけで心に強い光を宿し、人の優しさや温かさを信じるようになり、10年後に新世代のエクセリオンを纏って戦うことになる。
・アレン・アンダーソン
性別…男性
年齢…14
人種…イギリス系
《解説》
特戦軍が設立した特殊な兵学校(中学・高校を一体化の上、兵士としての基礎を身に付ける科目も取り入れている)の生徒であり、無料で学べる上に衣食住にも困らないという内容に惹かれて入学した。
・イーゴリ・ヤロスラヴォヴィッチ・ソルヤノフ
性別…男性
年齢…14
人種…スラブ系(ロシア)
《解説》
アレンの同級生にしてルームメイトで屈強な体躯と高身長(190cm)が周囲の目を引く。
話し方がやや堅く、表情もあまり変化が無いが実は誰よりも感情豊かで涙もろい。
・ロッコ・サルヴァトーリ
性別…男性
年齢…14
人種…イタリア系
《解説》
アレンの同級生にしてルームメイト。明るく社交的な性格。
その一方で自身が抱えている弱さを決して表に出さない。
・ラルフ・フォルツ
性別…男性
年齢…42
人種…ドイツ系
階級…大佐
《解説》
冷凍睡眠に入ったメイファンとアレクに代わって特戦軍の実質的な指揮官を勤める。
次の波乱を予感しつつも、今の平穏が少しでも長く続く事を願っている。
・リンダ・コスタ
性別…女性
年齢…25
人種…南米系(ブラジル)
《解説》
その歌唱力で世界的に人気な歌手。恋人であるマーカスとの関係は良好。
・マーカス・サイモン
性別…男性
年齢…30
人種…イギリス系
階級…少尉
《解説》
特戦軍の士官で、リンダ・コスタの恋人でもある。下士官の経験を経て士官教育を受けた後に少尉として任官された経緯を持つ為か最初から士官コースで入った他の士官達からは一目置かれている。
・エドワード・ハラダ
性別…男性
年齢…31(※)
※冷凍睡眠期間があった為。
本来なら39
人種…アジア系(日系)
階級…中尉
《解説》
ラルフの部下のひとり。元々は中国系IT企業からの出向だったが正式に特戦軍所属の技術将校となった。
・ヴェガ
性別…女性
年齢…27 (※)
※冷凍睡眠期間があった為。
本来なら30
人種…地球のイギリス系に相当
《解説》
エクセリオンの動力源であるスタードライブを唯一作る事が出来る、『星の民』の一員で宇宙出身者。
『星の民』を束ねる王シーザーの娘でもあり、『星の織り手』としての技術を不完全ながらも継承している。
地球に来たのは兄アルタイルの行方を追う為だったが、彼の生存は絶望的といわれている。
・ガイオ・コルツァーニ
性別…男性
年齢…55
人種…イタリア系
階級…准尉
《解説》
特戦軍所属の下士官だが、実質的には引退状態にあり特戦軍が管轄するエリアで料理店を開いて多くの客の心を鷲掴みにしている。
・マックス・スミス
性別…男性
年齢…45
人種…アフリカ系
階級…軍曹
《解説》
アレン達の教官のひとりで、兵士としての基礎を身に付ける科目を担当する。
屈強な体躯を持ち、加えて厳格であり生徒たちからは鬼のように恐れられる一方で人情に理解を示すなど意外と柔軟な面もある。