時は西暦2091年。神奈川陥落によるレイヴンズの敗北から10年が経っても世界から争いは消えず、国連内部でレイヴンズに代わり主導者としての地位を確立した特戦軍はレイヴンズ残党をテロ組織に指定して彼らを相手に対テロ戦争を戦っていた。
そんな中、レイヴンズ残党内部で不穏な動きがあるとの知らせを受けた特戦軍はイルヴァ・サッソの所属する部隊を調査に差し向けるのだった。
ファイル038『悪夢の開演』
――――北海道北部・稚内
郊外にある研究施設を目指して夜の闇を飛行する兵員輸送ヘリの編隊。その内部では戦闘服に身を包みバラクラバとヘルメット、暗視装置で顔を完全に覆った兵士達がシートに腰を下ろしていた。
「あと10分で研究施設に到着する。心の準備をしておけ」
部隊を指揮するラルフ・フォルツ大佐の言葉で兵士達の間に静かな緊張が走る。
「――――今頃、先行して向かっているサッソ大尉が防空設備を破壊している筈だ」
――――――――――――――――
スタードライブが生成する青白い粒子の尾を引きながら研究施設上空に飛来したエクセリオン・ルフス――――イルヴァ・サッソ大尉。
施設から空に向けられたサーチライトが、特戦軍の研究部門によって新規製造された真紅のボディを鮮やかに浮かび上がらせる。
それを捉えようと機関砲が唸り、曳光弾の軌道がまるで鞭をしならせるようにルフスへと迫る。しかし、ルフスが右肩に装備した戦車砲が火を噴くと機関砲があった場所から爆炎が噴き上がりバラバラの鉄くずが周囲へと散らばった。
続いて白い煙を引きながら迫ってくる対空ミサイルにライフルを向け、細かいビーム粒子を機関銃のごとく無数に放つと同時に夜空に火球が生まれる。
ズシン、という音と共に地面に着地しライフルを腰にセットすると左肩に装備していた矛を構えてスケート選手の如く地面を滑りながらミサイル車両へと迫る――――接触する寸前に身体を一回転させて勢いをつけながら矛を一閃。ビーム粒子でコーティングされた刃はミサイル車両を豆腐のごとく両断してみせた。
「!?」
イルヴァが何かを察し、ルフスが跳躍した次の瞬間。さきほどまでルフスが居た場所に複数のバズーカ砲弾が着弾する。
「まだ抵抗するなら!」
右肩の戦車砲が再び火を噴き、バズーカ砲を構えたレイヴンズの兵士達が居た場所が爆炎に覆われる。
その後も抵抗する敵兵やヘリの着陸に邪魔になる防空設備は次々とルフスの餌食となるのだった。
――――――――――――――――
着陸したヘリから次々と降りて施設内部への突入準備を整える兵士達。
「シールド兵、前方へ!」
ラルフの命令で、特殊な材料で作られたシールドを構えた兵士達が部隊を護るように前方に出て、その後ろに兵士達が続く。
「扉を爆破します!」
工作担当の言葉にラルフが静かに頷く。
「3…2…1…爆破!」
爆薬が扉を吹き飛ばした次の瞬間、シールド兵を先頭に部隊が次々と突入し銃声が響き始める。
次々と敵兵が倒れていく中、見慣れない姿の敵がいる事に気付くラルフ。
「気を付けろ、情報にあった超人兵士かもしれん!プランBだ!」
次の瞬間、その敵は素早い動きで距離を詰め――――ショットガンの弾幕に引っかかり傷を負った。
「危なかったな……事前に対策出来て良かったよ」
ラルフが安堵の言葉を口にする中、傷を負いスピードが落ちた敵はそれでも常人より早いスピードで逃亡を図るが――――
「残念、そっちもとっくに予想してるよ」
エドワード・ハラダ中尉がバックパックからドローンを取り出して腕に固定したスマートフォンを操作すると、2機のドローンは先ほどまで静止状態だったとは思えないようなスピードで敵の追跡を開始した。
ドローンのカメラが捉えた映像がスマートフォンに表示され、こちらを振り返り恐怖の表情を見せる超人兵士が画面いっぱいに映る――――その直後、映像が途切れた。
「ドローン1機目、自爆。カメラを2機目のに切り替えます」
即座にスマートフォンの映像が回復し、動かなくなった超人兵の姿が映し出される。
「生きていたら捕虜にしたい。誰か生死を確認し、生きていれば拘束しろ」
ラルフの指示で兵士が数人ほど超人兵士の方へと向かい、数分が経つ。
「生存を確認しました。拘束の上、遠隔操作で爆破が可能な爆薬を首にセットしました」
兵士から送られた映像を確認すると、兵士の首にチョーカーが着けられており、喉仏が当たる部分に小さな金属部品が見える。おそらくこれが爆弾だろう。
「よし、捕虜をヘリに収容し待機しろ。他の者は私に続け」
――――――――――――――――
一方、ルフス――――イルヴァは、施設の警備にあたっていたパワードスーツ部隊の大半を撃破した所だった。
「――――新しい反応?新型か!」
施設から新たに発進したパワードスーツ――――見慣れないタイプだが、事前のブリーフィングで聞かされたやつだ。
量産機でありながら戦い方次第でエクセリオンと渡り合える新型――――もしかすると今後は苦しくなるかもしれない――――
その1機を矛で貫いて無力化しつつ、特戦軍の今後を憂うイルヴァ。しかし、この時のイルヴァは知る由もなかった。
自身がたった今倒した機体とは比較にならないほど強力なパワードスーツの大軍と戦う事になる自らの未来を。
――――――――――――――――
施設内部はもぬけの殻であり、研究に従事していたであろう者たちは施設を防衛する兵士達を見捨てて脱出したようだ。
そう察しつつラルフは施設のコンピューターを解析するハラダ中尉に歩み寄る。
「何か分かったか?」
「――――ええ。かなり宜しくないニュースです」
そう言いながらハラダが室内のスクリーンに映像を出す。
「――――スタードライブの擬似的な再現?」
そこにはレイヴンズ残党が撮影したエクセリオンの映像や写真、そこから動力源がスタードライブ――――超小型の高性能核融合炉である事を見抜いたコメントが添えられている。
「既に複数の実験炉で実験を繰り返し、パワードスーツに搭載できるサイズまで小型化に成功しているようです。我々の側の――――『星の民』純正品は半永久的に稼働しますが、あちらの方は1週間が限界ですね」
だから『擬似的な再現』か――――ラルフがそう納得していると、新たな映像が出された。
「――――擬似スタードライブを搭載した試験機の映像です」
純白の機体が背中から赤い粒子を放出しながら空中を高速で移動しつつ空中や地上の標的をライフルの一撃で正確に破壊していく様子にハラダもラルフも肝が冷えるのを感じる。
「これは――――我が方のエクセリオンに匹敵する性能だな」
そう口にしたラルフにハラダの言葉が続く。
「この試験は既に半年前に完了しており、パワードスーツの生産は既存のバッテリー搭載型からスタードライブ搭載型に移行。現時点で数十機が量産されているようです。――――いつ我々に牙を剥いてもおかしくない」
――――これが特戦軍を襲う『悪夢』の始まりである事を、ラルフもハラダも感じ取っていた。
~次回予告~
ファイル039『見えない明日』
特戦軍の本拠地、急襲される!!
レイヴンズ残党は量産型エクセリオン――――“エクソル”の大部隊を投入し、オーストラリア・某コミュニティー地区にある特戦軍の拠点に猛攻撃を加える。
拠点が壊滅し数多くの兵士達が斃れる中、アメリカでも国連内部に潜んでいたレイヴンズの内通者達がクーデターを成功させ国連の実権を掌握した。ここに名実ともにレイヴンズは復活を果たしたのである。
一転して反政府勢力となり追われる立場になった特戦軍に明日はあるのか――――?
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【設定紹介】
・エクセリオン・ルフス
《解説》
特戦軍が開発した新型のエクセリオン。「ルフス」はラテン語で「赤」を意味する。
九鬼 志穂や彼女の戦死後はイルヴァが着用していた初期型エクセリオンから大きく改良されておりスタードライブの性能をより引き出しやすくなった。
スタードライブ自体は『星の民』の技術が無いと新造できず、特戦軍に味方しているヴェガも技術が不十分であるため新造ではなく初期型から移植したものを使用している。
・スタードライブ
《解説》
星の民が「星を織る技術」で作り出した指先サイズの太陽をエネルギー源に数千年も稼働する動力炉。要は『超小型でめちゃくちゃパワーがある核融合炉』。エクセリオンにしか搭載されておらず、その圧倒的な性能で少数部隊である特戦軍は数十倍の規模を誇るレイヴンズに対して優位に立っていた。
しかし、レイヴンズ残党の技術者が独自にスタードライブの性質を理解し不完全ながらもそれを再現出来るようになったことで特戦軍の優位は崩れつつある――――
・エクソル
《解説》
レイヴンズ残党が開発に成功した『量産型エクセリオン』で、その基本性能は『オリジナルのエクセリオンと同等』。正式名称は「エクセリオン・ソルジャー(EXelion SOLdier)」であり、略してエクソル(EXSOL)と呼ばれる。
搭載されているスタードライブは不完全であり、オリジナルと比べて稼働時間が圧倒的に短い(1週間)が兵器としては問題ない性能であった事から量産が決定した。