レイヴンズの暴政に対抗する為に結成された特殊作戦軍(略称:特戦軍)は、早速レイヴンズが人体実験プロジェクトを推進している情報を掴む。
そして特戦軍はこのプロジェクトを阻止すべく介入を開始する――――
――――アジア行政区・旧中国エリア・タクラマカン砂漠
AM03:03
闇に包まれた空と大地を赤外線識別モードでスキャンした志穂は砂漠に十数両の戦車が展開しているのに気付いた。
「こちらエクセリオン、敵部隊を確認した。事前情報と一致する」
月もない漆黒の空を飛行するパワードスーツ――――エクセリオンの内部で志穂の瞳が敵を捉える。
『目的の地下研究施設は近いわね、後から来る別動隊の為に可能な限り装甲車両は排除して』
遥か後方の本拠地からメイファンの声が響く。
「了解、これより作戦を開始する!」
エクセリオンがライフルを構え引き金を引くと同時に、胸のエネルギーコア――――スタードライブから供給された膨大なエネルギーが一筋の光となって戦車を貫く。
続いて大爆発と共に先ほどまで戦車だった幾つもの鉄くずが高く舞い上がり四散した。
「!」
飛行軌道を横にずらし、機関銃による迎撃をかわすと同時にビームを叩き込み、また1両の戦車を鉄くずに変える。
「次は…っ!」
複数の戦車が連携して機銃による弾幕を展開、ライフルで照準を定める暇を与えまいと奮闘する。
「なら!」
猛スピードで地面に着地、砂埃が舞い上がる。
一瞬ののち、立ち上がった砂埃を突き破るように地上スレスレを飛行するエクセリオンの手に握られた刀は青白く輝く粒子を纏った刀身を煌めかせていた。
「はぁっ!」
戦車の砲塔が切り飛ばされ、数秒遅れて車体の爆発音が響く。そして次の瞬間、志穂の背中に強い衝撃が走った。
「!?」
爆発音と共にエクセリオンが居た場所を中心に爆炎が立ち上がる。
『……や、やったか!?』
エクセリオンの背後から戦車砲を命中させた車長がそう呟いた次の瞬間、身体に纏わりつく煙を振り払うようにして上空に飛び上がったエクセリオンが自らを睨みつけるのを目撃する。
『あ…ああぁぁ!』
絶望の悲鳴と共に戦車はビームに貫かれ、車長は爆発炎上する戦車と運命を共にした。
志穂は人々を虐げる圧政者の手先に死をもたらす死神となり、敵車両を容赦なく破壊していく――――――――
――――――――――――――――
志穂が装甲車両を血祭りに上げるのと同時に地下研究施設へと突入したマーカス・サイモン軍曹率いる部隊は警備兵を蹴散らし、囚われていた人々を解放していた。
「ヘリが来る!急いで女性や子供から先に地上へ!」
そこへ、幼い赤子を抱えた男が駆け寄ってくる。
「ちょっといいか?あんた達が来る少し前に白衣を着た連中や警備兵が1人の男の子を囲むようにして奥の方へと走っていったんだ……あの子、囚人服を着せられていたんだが助けてやれないか?」
数秒ほど思案し、頷くと同時に無線機を手に取る。
「こちらサイモン軍曹!ベレンセ兵長とバルタ伍長は私と共に施設の奥を捜索だ!残りは捕虜の救出と輸送を!」
――――――――――――――――
施設の奥に向かったマーカスは大きな音がすると同時に咄嗟に物陰に身を隠し、向こう側の様子を窺った。
ヘリパッドらしき広大な空間の真ん中にはエンジンを始動させた輸送ヘリ――――その傍らに立つスーツ姿の男はスマートフォンを耳に当てていた。
「ああ…何処のどいつかは知らんが、施設の場所を知られた。被検体は別の施設に移送する」
エンジン音にかき消されない為なのか大声で話す男の視線は白衣の男たちに両脇を挟まれた幼い少年に向けられている。
その小さな手首に手錠がかけられているのを見たマーカスの胸に怒りが沸き上がる。すると、後から追いついたベレンセ兵長とバルタ伍長が別の物陰に潜むのが見えた。
見たところ、警備兵の数は少ない――――いける、そう判断した瞬間。
ベレンセ兵長とバルタ伍長の潜んだ物陰にロケットランチャーが撃ち込まれた。
――――――――――――――――――――
「――――!?」
「何事だ!」
「ネズミです。さっき物陰に隠れるのが見えました」
スーツの男にランチャーを構えた警備兵が答える。
「急いで出発するぞ!被検体を早く乗せろ!」
マーカスには気付かなかったのかそのまま一団はヘリに乗り込み、天井の扉が開かれる。
「くっ!」
マーカスが銃のようなモノを構え、引き金を引くと何かががヘリに撃ちこまれた。
――――――――――――――――
ヘリの機内シートに座らされた少年――――楊 飛蓮 ( ヤン・フェイリェン )は、絶望の中にあった。
誰も助けてくれない――――自分を縛るものから自由になれない。
ヘリの後部ハッチが閉ざされ、機内は照明がつくまでの一瞬、闇に包まれた。
この闇は自分自身を包み込み、逃がさない為のものだ――――
エンジンの轟音と浮遊感で飛んでいるのは分かるものの、窓を塞がれた空間はまるで地下深く掘られた牢獄のような閉塞感を感じさせる。
――――いきなり衝撃に襲われたかと思うとハッチが強引に引き剝がされ、朝日の光が機内へと流れ込んだ!
思わず両手を前に出したフェイリェンは、陽光を塞ぐように人影があることに気付く。
(――――――――ロボット?)
人型をしてはいるものの、人間離れした鋼鉄の身体をしたそれは、警備兵の銃撃をものともせず、逆に容易く殴り倒してしまった。
そして立ちふさがる者を薙ぎ倒し、自分の前へとやってくる。
(――――大きい)
まだ10歳になったばかりのフェイリェンにとって近くで見る鋼の肢体は巨人だった。その大きさに圧され言葉を失っていると、いきなり巨人が跪いて視線を合わせてくる。
すると、研究員から奪った鍵で手錠を外してきた。
「君を助けに来た」
想像していたよりも柔らかい声で手を差し伸べてくる巨人にフェイリェンは数秒の沈黙ののち、強く頷く。
「しっかり掴まって」
しっかし抱きかかえられ、両腕を巨人の首へと回す。
――――――――――――――――
(――――!?)
少年を抱えたエクセリオン――――志穂はその瞬間、不思議な感覚を覚えた。
そう、包まれるような安心感。
(――――この子だけ厳重な警備で移送されていた理由はこれ?)
直観が告げた答えに暫し思案する志穂だったが、その場合ではない事に気づき己の思考を現実へと引き戻す。
「飛ぶぞ!」
――――――――――――――――
「飛ぶぞ!」
巨人に抱えられ、ヘリの後部ハッチがあった場所から空へと飛び出すと冷たく澄んだ空気がフェイリェンの身体を撫でていった。
「わあ…っ!」
朝日に照らされる大空。眼下には陽光で輝く砂漠。
――――世界はこんなにも広く、綺麗だった――――
その美しさをフェイリェンは生涯に渡って心の奥に焼き付けることになる――――――――
――――――――――――――――
地上へと降り立ち、巨人の仲間らしき兵士が数人駆け寄ってくる。
「九鬼中尉、この子ですか?」
「ああ、後は頼むぞ」
それで別れの時を察し、隣の巨人を見つめる。
「――――え、えっと。ヒーローさん…?また会える?」
巨人はしばし沈黙し、『ヒーロー?』と自分を指さして訊いてきた。
「うん」
「――――私は志穂。九鬼 志穂」
その言葉と同時に巨人のヘルメットが開き、黒いショートヘアが風に靡く。
「君の名前は?」
跪いてきた志穂の笑顔は、自身に溢れて輝くヒーローそのものだった。
「――――フェイリェン。ヤン・フェイリェン」
「フェイリェン、か。――――また会えるさ、フェイリェン」
志穂の笑顔が再び鋼鉄の装甲に覆われ、目の部分が青白く光る。
「私は残敵の掃討に移る。頼んだぞ、サイモン軍曹」
「はい!必ず守り切ってご覧に入れます」
サイモン軍曹と呼ばれた軍人の敬礼に答礼すると、巨人は青白い粒子の跡を引きながら空へと飛び立つ
「わあ……」
青白い航跡を追うフェイリェンの目に恐怖と絶望はなく、ただただ輝いていた。
――――――――この出逢いは、フェイリェンの運命を大きく変え、やがて世界を救う鍵となる。しかし、それはまだ先の話である――――
~次回予告~
ファイル008『小さな怪獣たち』
志穂やマーカスの活躍によって保護された子供達を一時的に保護する施設。
そこは特戦軍にとって『もう一つの戦場』だった。
果たして兵士達は可愛らしくも手が焼ける小さな怪獣達のお世話を無事に完遂出来るのか!?
――――――――
【人物紹介】
楊 飛蓮 ( ヤン・フェイリェン )
※正確には、ヤン・フェイリィェンと読む
人種…中国系
性別…男性
年齢…10
《解説》
レイヴンズの研究施設に囚われていた少年。何らかの能力を持っており、特別な被検体として扱われていたが詳細は不明。なお両親はレイヴンズに拉致された際に殺害されている。
投薬によって精神を破壊され従順な人形にされかかっていたが、志穂と接した短いひと時で感情を取り戻した。