不定期更新になりますが、ご了承くださいますようお願いいたします。
メインは黄金世代ですが、今回は出てきません。
・第一話 貴方はトレーナー
「親父、母さん、俺トレーナーになるよ!」
「「止めなさい」」
「なんでさ!」
「「何でもだ!/何でもよ!」」
ウマ娘、それは別世界の「ウマ」と呼ばれる生き物の魂を宿して生まれてくるとされる。
頭頂部付近にあるおおきなウマ耳、腰のあたりから生えている尻尾、人間離れした身体能力、そして全員が美人。
人によっては「走る芸術品」だの「最速のアイドル」だのと形容される彼女達。
神話の時代より、人々と共に生きてきた親愛なる隣人。
そして、同性のトレーナーと二人三脚でトレーニングを行い、
その集大成として「レース」に出走して走りの頂点を目指す。
ウマ娘達の勝負にかける情熱、走りの中で見せる一瞬の煌めき、レースが終わった後のノーサイドの精神と
全員が一体となったライブは太古の昔より人々を魅了してやまないのだ。
だがここで、注意しておいてほしいのは「異性のトレーナー」の存在だ。
勿論、存在していないわけではない。
過去形となってしまうが「いた」のである。
とは言え、それは文字通り過去の話。
男性が年々減少傾向にあるこの世界において、男性トレーナーなどという物は夢女の妄想の産物であり、
レッドリストに載る絶滅危惧種であり、もしくは絶滅して化石になったものかもしれなかった。
特に顕著なのは1945年以降の男性出生率であり、学者の間では「戦争によりウマ娘達も戦地に赴いた事を3女神が怒ったのだ」
と冗談めいて語られる程に、急下降している。
そんな状態が現在まで続いてしまった、無論、原因は解らない。
ただ、今や男性の絶対数は少なくなり、女性が世界の中心を占めることが多くなり、
その結果として「女尊男卑」が社会問題となった。
女性は仕事へ、男性は家庭へ、そう言っていられたのはもはや過去の話。
今や男性であるというだけで、ちょっとした価値が付いてしまう程度には男性は少数になってしまった。
性犯罪に巻き込まれるのは決まって「男性」であり、女性政治家の男性への失言は政治家生命に直結する。
ツイッターで少しでも男性を批判すれば「マスキュリスト」や「男性差別阻止団体」の
バッシングとネガティブキャンペーンに晒される。
そんな混迷極める世界において、数少ない男性達は「ウマ娘」というヒトならざる種族に対して
あまり良い印象を抱いてはいなかった。
確かに、その外見は文句なく美しい。
女性の強い世の中において、彼女達の外見は時にヒトの女性すら魅了する。
心を通わせ深い愛情を注ぎ、常に寄り添ってくれるその姿勢は、
通常の世の中であれば――特に恋愛方面は――大いに盛り上がっただろう。
『俺もトレーナーになりたい!』と男性諸君は夢を見て、挑戦するものも現れただろう。
しかし、この世界においては異なる。
彼女達は、力においては男性を凌ぎ、頑丈さで男性を凌駕し、その在り方は老若問わず万人を引き付ける。
そんな存在に対して、希少種になってしまった男性が抱くのは「力への恐怖」「人気への嫉妬」「あり方への羨望」等であり、
愛情を抱く男性は稀であった。
更に、男女間の熱愛で夫婦になるウマ娘と男性が居ても、彼女達の在り方として「勝負」という物に魂を震わせる為、
結婚後は「恋の勝負が終わった」と感じてしまう。
その結果、ウマ娘と男性の恋愛は長続きせず、結婚後の生活ではヒトと比べると離婚率が高かったりする。
そして、そのテの醜聞は世の中に広く発信されてしまう為、
更にウマ娘という種族への男性の視線は年を重ねるごとに
厳しいものになっていった。
硬い文章が続いているからぶっちゃけると、ウマ娘は「アスリートやアイドルとしては素晴らしい」けど
「異性としてはあんまりモテないし敬遠されがち」なのである。
《ここまでは導入部である、ただし話の内容とはあんまり関係がない・・・・・・こともない》
《主人公side》
「俺」はどうやら転生者と言うべき存在らしい。
「らしい」というのは、何というか転生したという実感はあるし、
元々の記憶もおぼろげながら存在している。
しかし、前世で何をしていたのかを思い出せず、前世の性別も思い出せない。
だが、俺の転生した世界が「ウマ娘プリティダービー、熱き血潮に」という
育成シミュレーションゲームを元にした世界線なのは解る。
「ウマ娘」という種族の少女達とコミュニケーションを深め、訓練メニューを組み、
レースに出て、最終年度の有馬記念で勝つ。
これは、企業の企画として誕生し現実の競馬とコラボしたのを皮切りに、後にスマートフォンのアプリとなり、
アニメとなり、箱ゲーム、映画化、ゲームセンター、舞台と活動のすそ野を広げていった。
最終的には「ウマ娘プリティダービィ、世界のあの子に愛を叫ぶ」という世界編が誕生し、世界的に「ウマ娘」が認知されるようになった。
開発元のサイキック・ゲーム社(通称サイゲ)のゲーム技術の、一つの集大成に成長したと称される大人気ゲームだ。
現実の競馬も大変盛り上がり、社会現象になったり、馬術以外にレースがオリンピック競技になったりと与えた影響は計り知れない。
そして、この世界はそれが「現実に」起こっている。
テレビにはウマ娘、スマホにはウマ娘、新聞にはウマ娘、身近にもウマ娘。
レース以外に、オリンピックに世界レースとあらゆる分野でウマ娘を見ない日はない。
それを認識した時、俺の胸には歓喜と女神への感謝の念が胸を突き破らんばかりに芽生えたのを覚えている。
転生先の俺の家族は、親父・母さん・姉の4人であり、俺は長男だった。
主夫をやっている親父曰く「真剣に彼女に向き合った結果」俺が生まれたそうだ。
ウマ娘である母は、G1こそ勝てなかったもののダートレースでは勝利を重ねており、
現役ではデビュー戦を含めてダートで6戦6勝という好成績だったそうだ。
選手としての戦績は13戦6勝(デビュー戦含む)であり、結構な成績を残している。
芝のコースにもチャレンジしたようだが、どうにも相性が悪く勝てなかったそうだ。
何でも現役のころは「北関東の英雄」と呼ばれて、ローカルとは言え有名人だったらしい。
現役時代、性別を偽って母さんのトレーナーとなり、のちに性別を明かし、プロポーズして結婚したのだと、親父は照れながら語っていた。
母さんも、そんな親父の話を照れながら聞いていた。
姉はそんな二人を、文字通り砂糖を吐きながら見ており、両親の年のくせに青くて甘酸っぱい空気に当てられて早々に家を出た。
そんな姉は、大学卒業後レース関係の会社である「メジロ・ランニング・インダストリアル(MRI)」に就職しており、
蹄鉄部門の設計とテストランナーを担当しているとのこと。
俺は、そんな家庭環境に育ったからか、将来の夢は意外と早くに見つかった。
そう「トレーナー」である。
もしウマ娘に生まれていれば、俺はレースに挑戦した。
が、今の俺は男だし人間だ。
(ちなみに姉はウマ娘だったがレースの才能は無かったそうだ)
まあ、トレーナーを志したのも前世のゲームとしてのウマ娘の知識があったからというのは大きい。
そして何より、家族の事だ。
親父は、現役引退をした後も母さんのレースを支え続けていたし、
母さんは現役引退した後もチャリティレースに出場していた。
姉さんだって、レースに向いていないとはいえ、レースに関わりたいと企業の蹄鉄部門に行っているし、
テストランナーとして日夜走っている。
そんな親父と母さんと姉さんの背中をずっと見て育ってきた俺にとっては、この選択は非常に自然なことだった。
――――ただ、親父は激しく反対したし、母さんも物凄く渋い顔をして反対し、
姉さんに至っては俺に精神科医を進めたのがかなり引っかかるのだが――――
俺は小学校高学年から勉強し始め、高校卒業後のトレーナーズ・スクールへの入学試験は主席で入学することが出来た。
ただ、入学テストを受けるとき俺の周りには女性しかいなかったように思う。
あと、視線が物凄く痛い・・・・・・いや、舐めるようなねっとりした視線というのか、あれを味わった。
まあ、そんな事を気にしていたら試験の邪魔になるので、全て意識からシャットアウトしていたから別に問題はなかった。
ちなみに、その年のトレーナーズ・スクール入学率がかなり上がったのは・・・・・・なんでなのだろう?
そして、トレーナーズ・スクール入学式当日。
そこで、俺は気が付いてしまった。
(あれ、女の子多くねえか?)
そう、トレーナーズ・スクールに入学してくるのは99.9%女性だった。
男性なんていない、四面楚歌、黒一点、そんな言葉が頭をよぎる。
そして、俺は入学式をブッチしてトレーナーズ・スクールの事務窓口の方々に改めてお話を聞きに行った。
「・・・・・・というのが、我がトレーナーズ・スクールの概要となりますが?」
「おいおい、マジかよ」
話を聞いて、俺は自分の直感が正しかったことに愕然とした。
どうやら、この世界において男性がトレーナーズ・スクールに入学するのは、なんと実にうん十年ぶりらしい。
更に、ウマ娘というヒト族の上位種のトレーナーになろうとする男性というのは、少なくともここ20年はゼロらしかった。
何でも、女装してトレーナーになった男性がいて、それが担当ウマ娘と結婚したというデマが広がった時期があり、
そのせいでモテないウマ娘やトレーナーの間で暴動に近いデモが発生した弊害だという。
(ちなみに最後は本当に暴動になって逮捕者も出たらしい・・・・・・いや、マジか)
あの騒動が、細々とした男性トレーナーという存在へ止めを刺したんですよ、と高齢の事務窓口担当者は語る。
まあ、結婚したというのは都市伝説らしいのですが、とも。
(これは、俺の家族ではないか!?)
聞いている俺は、笑顔を浮かべながらも背中に冷や汗が止まらなかった。
何せ、担当者の方曰く「そのウマ娘はダートで強かった」「男性と結婚して円満な家庭生活を送っている」
「嫉妬と腹いせにウマ娘選手名鑑に写真が乗せてもらえなかった」等々、
余りよろしくない裏話がたっぷり小一時間続いたのもある。
そこから、事務のおばあさんの話はさらに続く。
何でも、残っていた数少ない男性トレーナー達も、今や身の危険を感じて退職したり、
掛に掛かった教え子達に連れ去られたり、
蒸発していたりでゼロになったとの事。
即ち、今の日本に男性トレーナーという存在自体がいないのだ。
もしかしたら、世界的に見ても男性トレーナーは少ないかもしれない、とも。
(これは、やばいかもしれん)
もっとも、親からは学費が振り込まれており、俺自身もここまで来て退くという選択肢はないわけで。
(ちなみに、両親曰く危機的状況に陥ったら一目散に逃げなさいとの事)
全く慣れない女の園へと踏み入れざるを得なかったのだ。
さて、そんな訳だが。
まあ、女の園で学ぶという事を重々肝に銘じて、俺は夢の為に学び出した。
更に、前世の影響からか、女性が不快に思わないように外見に気を使い、清潔を心掛け、
できる限り円滑に過ごすために爽やかな好青年を演じる事にした。
それに、細い外見ではウマ娘達に格好もつかないだろうと思い立ち、
小学生のころから行っていた筋力トレーニング等も回数を増やし、
勉強と並行して肉体の改良に取り組んだ。
更に更に、栄養学や料理を学ぶことで、自身の食生活の改良と並行して
ウマ娘達の疲労回復やスタミナ強化が出来る料理なども作れるようにもした。
極めつけは、一般的な事務から資格のいる仕事まで一通り手を出して基礎的な部分を身に着けた。
これで、この世界が「プリティーダービー」の世界線ならば、ウマ娘達(特にゴルシとかナカヤマとか)の
無茶振りにある程度答えることが出来るだろう。
3年間という長くもいろんな意味で濃密な年をスクールで過ごし、1年間の地方トレセン学園での実地研修を受けた後、
俺は中央と言われる「トレセン学園本校」にサブトレーナーとして配属されることが決定した。
いきなり初年度からトレーナーにはなれない、リモート会議の場で中央のちびっこ理事長の秋川やよい理事長がそうおっしゃった。
学園のナンバー2と言われている駿川たづなさんも、実にいい笑顔で頷いていた。
確かに、親父がトレーナーをしていた時代から色々変わったのかもしれない。
まあ、それはともかく。
(親父、母さん、姉さん、俺頑張るよ!)
親父の夢、母さんの夢、姉さんの夢、俺の夢、4つの夢をかなえるために、俺はその第一歩を踏み出したのである。
《ウマ娘s side》
信じられない物を見た。
奇跡に等しいものを見た
夢が現実になったのを見た。
彼は将来私達の「トレーナー」になるという。
これは、三女神のお導きなのだろうか?
ああ、彼を逃してはならない。
彼に、私の方に振り向いてもらわなくてはならないのだ!
今ここに、私の負けられない戦いが始まるんだ!
――――――――――《ウマ娘Sの内心》――――――――――
(・・・・・・取りあえず、お兄ちゃんの首筋と鎖骨を目に焼き付けておこう)
(あ、ゴールドシップさんその隠し撮り写真いくら・・・・・・いや、最低でニンジン100はぼったくりすぎじゃありません事?)
(脳内でエラーを確認、エラーの根本を男性サブトレーナーの匂いと判断・・・・・・はふぅ)
(どうしよう、お兄様の匂いで賢さが下がってへぅぅぅぅ・・・・・)
(はちみー指につけてぺろぺろするぐらいは、許してもらえないかなぁ)
(どうしよう、一着狙いに行ってみようかなぁ、でも万年3着のアタシじゃぁ・・・・・・)
(おおおおおおおおお、男の人だぁぁぁっつ!? ハヤヒデとタイシンにも連絡しなきゃっ!!)
(ふぅん、いい体をしているじゃないか・・・・・・くくくっ、このゲーミング薬のモルモットは君に決めたよ!)
ウマ娘達の賢さが50下がった。
ウマ娘達の体力が50減少した。
ウマ娘達は200スキルポイント手に入れた。
ウマ娘達のやる気が絶好調になった。
ウマ娘達はスキル「抜け駆け◎」を手に入れた。
ウマ娘達はスキル「アガッてきた!」を手に入れた。
ウマ娘達はバッドコンディション「異性に掛かり気味」になってしまった。
ウマ娘達はバッドコンディション「寝不足」になってしまった。
《フジキセキside》
春、それは新しい出会いの季節。
この私、フジキセキにとってもそれは変わらない。
正式に寮長になった私は、担当する「栗東寮」に所属する問題児達にどう対処しようかという事で少し頭を悩ませている所だった。
そんな私を見かねてか、わざわざ休日の土曜日、その午前中を使って生徒会室で話し合いの場がもたれる事になった。
そして、私と同じく寮長に就任したヒシアマゾンや、生徒会長シンボリルドルフ、副会長エアグルーヴ、臨時書記にビワハヤヒデを迎え、
その妹で生徒会所属のナリタブライアンという面々と共に話し合いをしていた所だった。
1時間程の話し合いのはずが、途中からミスターシービーとマルゼンスキーの二名が参戦して結構熱の入った話し合いになってしまい、
予定時間を1時間オーバーという結果になってしまった。
そう言えば最初に所要があるとか、ルドルフ会長が言っていたけれど何だったのだろうか?
本人が忘れているみたいだし、私が気にしてもしょうがないか。
(まあ、そのおかげで実り多い話し合いだったのだけれどね)
癖が強く我が強く、おまけに負けず嫌い共の集まりが、このトレセン学園だ。
毎年、生徒会や各寮長はその対処対応に頭を悩ませているのだけど・・・・・・今年は多分大丈夫だと思う。
そんな事を考えながら会議で火照った頭と熱を帯びた喉を冷やすために、私は自動販売機に向かっている所だった。
その時、だ。
トレセン学園校舎、中庭を丁度横切っていく黒い影を見つけた。
ウマ娘の視力だからこそ詳細を確認できたし、それを踏まえて信じられないと思う。
本当に非常識な黒い影を。
(えっ・・・・・・男の人、いや、え、嘘だろう!?)
トレセン学園の校舎内部で、信じられないことに「男性」を見つけた。
何を言っているのかわからないけど、私も何を言っているのかわからない。
思わず、生徒会室に置かれていた劇画みたいな漫画の女性キャラ(ジャンヌ・ポルナレフとかいうヒトだ)
が言っていた一節をおぼろげながらに思い出してしまう・・・・・・これで合っていたっけ?
「いや、おかしいだろう!?」
思わず大声で叫んでしまったが、私は悪くない。
今日が土曜日で本当に良かったと思う。
何故か勉学向上という理事長の突然の号令で、生徒はほぼ校舎内にいないのだから。
全員が近くの図書館とか自室とか、そう言う場所で今頃勉強に励んでいるのだろう。
(なんでも一定以下の成績のウマ娘は地下収容所で24時間耐久勉強会だとか)
まあ、勝負にかまけて成績が下がるなんてことはウマ娘の世界では日常茶飯事だし、仕方のない事だと思う。
だけど、曲がりなりにもトレセン学園は教育機関、レースに勝てどもおバカばかり、というのは理事会的にも受け入れがたいのだろう。
ちなみに、補習率の高いヒシアマゾンは何とか対象から外れることが出来た・・・・・・カンニング、はしてないはずだ。
だけど、今日の突然の号令がこの時の為だとしたら、納得だ。
ルートを構築している頭の片隅でそんな事を考えながら、私は男性の進む方向に当たりを付けて走り出した。
確かに校舎内に人が少ないとはいえ、決して全員が出払っているわけではない。
校舎の中には私や一部生徒のような、所用で出入りしている娘だっている。
そんな中で男性が一人で、何の護衛もなしに私達ウマ娘の密集地に入り込むなんて、ハッキリと言える、
あり得ない非常識だし、貞操的な意味で自殺行為だ。
(まずい、なんで男の人がトレセン学園にいるのかわからないけどっ!)
もし、この男の人を掛かったポニーちゃんが襲ったら。
(トレセン学園の存続が危ぶまれる事態にっ!?)
ついこの間も、アメリカURA理事長が男性へのセクハラでクビになったニュースがあったけれど、それがリアルで発生する可能性が出てきてしまった。
何でも近いうちに最高裁判所で裁判をするとか、ニュースキャスターが言っていた。
ただでさえ「女男平等」が叫ばれる今の世の中なんだから、SNSやウマッターで尚更大炎上するのは目に見えている。
(ここで対応を間違えたら、トレセンがまずいっ!!)
「ちょっと、そこのキミ!」
「む、ああ、君は・・・・・・この学園の生徒さんかな?」
「そうだけど、今はそんな悠長なことを言っているわけにはっ!」
「実は理事長室に行きたいんだけど、道に迷ってしまって・・・・・・よければ案内していただけないかな?」
「・・・・・・理事長のお客さん、ですか?」
「うん、実は待ち合わせの時間になっても迎えが来なくて、困っていた所でね・・・・・・恥ずかしながら勝手に動いて迷子になってしまったんだ」
「・・・・・・Jesus」
実に困った、という風に頬を掻く男性。
それを見て、私は一つ心当たりがあった。
(あのウッカリルドルフッ!)
多分、ルドルフが会議前に言っていた用事って、この事だ。
ルドルフの欠点として、やると決めたらとことんやるという事がある。
これは彼女の美点でもあるけど、今回ばかりは大問題だ。
「今度会ったら、ちょっとキツメの悪戯してやろう」
「どうしたんですか?」
「いっ、いえ大丈夫です・・・・・・何でもありませんとも、うん」
いつもの口調も何処かに消えてしまう、正に少女の声が出た。
いや、仕方ないだろう!?
何せ、目の前にいるのは今どき珍しい上下スーツの高身長の男性だ。
髪の毛は短め、鼻立ちは整って舞台役者の男役(プリマドンナ)のようだ。
身なりはすごく整えられていて、清潔感と清涼感を併せ持つ所も好印象。
おまけに、女性受けを狙ったアイドルやその手の男達のどこか細い外見とは違い、服の上からでも鍛えられていると解る筋肉の量。
上半身だけじゃなくて下半身もしっかりとしていて、特に安定感のあるヒップラインをしている。
一部のウマ娘が心底羨ましがる、服の上からも解るきっちり鍛えた肉体美。
そして、言葉を交わして分かったけれど、この人はウマ娘にも優しい人だとすぐにわかる。
何せ、ウマ娘である私と目を合わせても、背けるどころか微笑すら浮かべているのだから。
普通の男性という物は、ウマ娘に会うと目を背けるか露骨に恐怖や緊張の色をにじませるかだけど、彼にはそれが一切ない。
目の中にあるのは、私への慈しみと親しみ、そして親愛の情だ。
目つきが鋭く少し怖いから、その点はマイナスだけど、それを補って余りある
「男性らしい男性(おとぎ話のヒロイン)」が目の前にいるんだから。
(あれ、今の私、走ってきて身なりがダメダメでは!?)
最速で走った結果、今の私はどうなったか。
廊下のガラスに映る私の髪は風圧で乱れていて、制服のワイシャツがスカート部分からはみ出してしまっている。
正直に言って、すごくかっこ悪い。
「あ、あああああああ、の、その、私が案内するので、着いてきてください!」
「え、あ、はい・・・・・・よろしくお願いしますね?」
(うぁぁぁぁぁっ、絶対引かれたっ!?)
口ごもりつつ、急いで身なりを最低限整え、作り笑い100%で対応する私。
そんな私に、目の前の男性は少し笑い気味だ。
何というか、幼子を見る親の目をしている。
最悪だ、父親以外の男性(注1)との初めてのファーストコンタクトがこんな、こんな情けない形でなんてっ!!
(ルドルフ、今回の件はとっても高くつくから覚えておくといいよ・・・・・・)
頭の中でタキオン印の妙薬を使用した、禁止悪戯100選をひも解きながら、彼を理事長室へ先導することにした。
取りあえず、バフを撒きつつ八方睨み、襲われてもいい様に地固めも積んどこう。
《主人公side》
道に迷ってうろついているとき、黒い髪に黒いウマの耳をした少女が俺の方へ全速力で駆けてきた。
息を乱し、肩で呼吸している彼女は、俺にとって見覚えのある顔だった。
(彼女、フジキセキか?)
俺が初めて育成した「マイルウマ娘」の一人であり、かなり思い入れのあるウマ娘だった。
ご存じ家庭用の名作「ウマ娘 プリティダービー~有馬は燃えているか~」では「マイルシナリオ育成編」
における初期育成対象キャラクターの一人で、有馬挑戦シナリオが非常に良いというのが俺の感想だった。
特に、長距離の才能がないフジキセキが、綺麗さやエンターテイナーな所を捨てて、怪我で夢見る事を諦めた少女との約束を守るために、
文字通りがむしゃらに泥と涙に塗れながらも有馬記念で一位を取った時の感動は、数ある名シナリオの中でも屈指の出来だった。
テレビの前でコントローラーを手に男泣きに泣いた記憶がある。
(家庭用は「ライスシャワー」「フジキセキ」「アグネスタキオン」の3人がとてもいい出来だったんだよなぁ)
ヒールと言われた少女が、ヒーローになるまでを描いた「燃えるライスシャワー編」
夢は諦めなければかなうという事を、自分の身をもって証明した「根性のフジキセキ編」
皐月賞の後、怪我と挫折からシニア三冠を手にするまでの「復活のアグネスタキオン編」
全て名シナリオであり、ドリームキャスティング3(略してドリキャス3)の名作ソフトとして今なお語り継がれる逸品だ。
記憶している限り、ネットの掲示板では「お兄様」「ポニーちゃん」「モルモット」の3勢力が、
今なお誰が全体を通して一番なのかで争い合っているほどだから相当だ。
そんな事を頭の片隅で思い出しつつ、目の前のフジキセキから緊張を取り除くために行動を起こす。
スクールで習った『ウマ娘とのっ! コミュニケーション100の事っ!』という講義内容にのっとり、フジキセキに笑顔で応対する。
ただ、俺には表情筋に少々の難があるらしく、笑い方が硬いというのが担当教官の評価であった。
(きちんと笑えているといいんだが)
俺が笑いかけると、残像が残る勢いで前を向いたフジキセキを見て、やっぱり俺の笑顔は硬いのだなという事を再認識することになった。
トレーナーたるもの、ウマ娘の不安の解消に努めるべし、常に笑顔で彼女等の安心安寧を図るべし、とはあの講義の最初に習う事だからな。
何とかして、改善していこう。
理事長室までの道のりを案内してもらいつつ、かつてフジキセキを育て切った時の記憶にあるあの感動を呼び起こす。
(あのフジキセキと、まさか現実で出会えるなんてなぁ)
先程であったとき、彼女の名前を出さなかった自分を褒めてやりたい。
いきなり自分の名前を言い当ててくる男など、不審極まりないからな。
彼女自身、スマホゲームや家庭用ゲームではSNSをやっている。
もし、この世界でも同じことをしていたら、自分の名前が知られているという事は頭の片隅にあるだろう。
だからっていきなり『あのフジキセキさんですよね!?』とがっつくのはない。
だって、ほら、あれだ。
なんか厄介なファンみたいで、嫌だし。
仲良くなれるなら、ちゃんとした方法で仲良くなりたいし。
とは言え、だ。
(フジキセキはこんな歩き方する子だっけ?)
なんで俺の前を行く彼女は「ナンバ歩き」をしているんだ?
いや、まあ、ナンバ歩きって実は体にいいとかそういう事を調べた事はあるけれども、今のフジキセキにそんな悪いところあったか?
(ふぅむ、目星をつけても何もない・・・・・・足の故障を隠しているわけでもないか)
トレーナーズ・スクールにおける必須教科「ウマ娘への目星(注2)」を行い、見える範囲で彼女の異常を観察する。
だが、全く異常が見当たらない、全身に目星の範囲を広げても彼女は健康体そのものだ。
内心首を傾げながらも、彼女に案内されつつ理事長室へ。
理事長室の前まで送ってもらった後、今度こそはと満面の笑顔でお礼を言ったら、物凄い勢いで逃げられてしまった。
何というか・・・・・・俺は、笑顔で人に接してはいけないのだろうか。
《フジキセキside》
あの後、サブトレーナーさんを理事長室まで送って行った。
それはいいんだけど・・・・・・笑顔でお礼を言われてしまった。
多分、これは私の想像だけど、この人はすごく優しくて不器用だ。
不器用な人が、精一杯の笑顔を浮かべながらお礼をいうという行為、私はそんなに嫌いじゃない・・・・・・むしろ結構好きな部類だったりする。
うん、何というか、我ながら惚れっぽいかもしれない。
まあ、何が言いたいのかと言うと。
(笑顔の指導・・・・・・ううん、笑顔の訓練という事で二人きりになる口実ができたかもしれない!)
あのウッカリルドルフのおかげで、こうしてサブトレーナーの事を知れた以上、私が一バ身はリードしているはず。
このリードを保って、後続との差を存分に開かせて・・・・・・ふふっ、なんて、こんな事は考えすぎかもね。
そんな事を考えて、行動に移す算段を付ける私。
少し熱を帯びた頬を緩めながら、私の足取りは軽い。
取りあえず、ルドルフには覚悟してもらうとしよう。
―――――――――――――(数日後)―――――――――――
ある日、生徒会長シンボリルドルフの使用しているボールペンが全部「芯を出そうとすると電気が流れて地味に痛いペン」にすり替えられ、
ルドルフの調子が絶不調になった。
事情聴取を受けたフジキセキ曰く「トレーナーの事を忘れていたルドルフ会長が悪い」の一点張り。
取り調べを行ったバンブーメモリー曰く「今回は無罪っす、あと会長はギルティっす」といってフジキセキの援護に回った。
報告を聞いたエアグルーヴには呆れられ、ナリタブライアンからは思いっきりため息を付かれたシンボリルドルフはその日一日凹む事になるのだが、
これは本編と何の関係もない。
リザルト
・サブトレーナーになる・・・・・・200MP
・トレセン学園内で迷子になる・・・・・・50MP
・トレセン学園でウマ娘に襲われない・・・・・・150MP
・フジキセキと出会う・・・・・・100MP
・家族の夢の第一歩・・・・・・500MP
Total・・・・・・1000MP(注3)
Next・・・・・・黄金世代との接触イベントが発生
注1 トレセン学園の生徒は「男性の夫」がいる家庭が結構多い
注2 トレーナーはウマ娘への目星を必ず成功させなければならない
注3 MPとは「女神ポイントの略」でボーナスがある
(5/3 追記・修正の後再投稿)
(7/5 修正)
今回は、一話というか長い前置きという回になります。
次回投稿より、黄金世代中心に絡んでいくことになります。
感想、誤字脱字等の報告をお待ちしております。
あと、フジキセキが好きだったりする為、ちょくちょく登場するかもしれません。