黄金新星の欠けたピースということで考えた末の人選となりました。
割とここからどうすればいいか、詰まり中です・・・・・・。
熱を帯びた空気が、まるで暴風のように吹き荒れている。
これは比喩表現ではなく、目の前のG1級の猛者達が走ると、
空気が引き締まるだけでなくどこか人を興奮させる熱量を帯びる。
何かをしでかしてくれるのではないか、そういう「夢の熱量」とでもいうのか。
「やはり、レグルスはすごいですね先生」
「あら、今更そんなことを言うの?」
「いえ、部外者の立場になって、改めて認識した次第です」
「ふふふ、今日はよろしくねトレーナー君」
「はい、樫本トレーナー」
先生へ頭を下げる。
今日は、同じトレーナーという立場として合同練習に臨むことになる。
文字通り格の違うチームとの合同練習だからか、スペシャルウィーク達黄金新星
の表情も堅い。
まあ、眼前の光景を見ればそれもそうかと思えるだろう。
「オラ、ペース落とすんじゃねえぞ!」
『『『『『 応 !! 』』』』』
「はーい、それじゃあ本気出しちゃおうかな!」
「おや、ファルコンさん芝は不得意では?」
「みんなと軽く走れないほどじゃあないんだよっ☆」
「ぬぬぬ、2000メートルだって委員長パワーをもってすればっ!」
「バクシンオーさん、無理は禁物かと」
彼女たちの眼前でウォームアップを走っているのは、まさにリギル・スピカ・
カノープス・シリウスといったトレセン学園の顔たる面々と同格の
「レグルス」のAチーム集団だ。
シニア戦線の注目、否、シニア戦線の主役級と言える面々が揃っている。
「2冠ウマ娘」エアシャカール
「マイル女王」ファインモーション
「ダービー・JC制覇」エイシンフラッシュ
「短距離王」サクラバクシンオー
「砂の赤鬼」スマートファルコン
そして、正式に2冠ウマ娘のミホノブルボンが参入し、層がさらに厚くなった。
なお、ライスシャワーはシリウスに所属することが正式に決まったという。
寂しいか、とミホノブルボンに聞いたところ以下の回答が返ってきた。
『愚問です、菊花賞の借りをこれで返せます』
ミホノブルボンは、最初から戦闘モードに突入しているようだった。
彼女たちは全員シニア級だから、黄金新星と当たることはまずない。
それでも、彼女たちから放たれるオーラは圧倒的だった。
勝負服すら着ていない、練習着でこの熱量なのだから、本番ではどれほどの圧力
を相手は感じることになるのだろうか?
更に、所詮『モブ娘』などと言われている面々の面構えがまるでモブではない。
G1戦線でも上位に食い込んできそうだし、G2やG3のレースでは、
優勝をかっさらっていきそうだ。
「それに、クラシック級も濃い面々が揃っていますね」
「あら、とても可愛い子達だと思うけれど?」
「それは、旅程さんと比べれば…………ですか?」
「当り前じゃない」
「ははは…………はは」
そう、クラシック級の面々も、上記に劣らずとんでもない連中が揃っている。
いや、むしろ尖りで見れば負けていないどころか…………。
「ふえぇぇぇ、シャカールさん達ペースが速すぎますぅぅぅぅ!」
「おいおい、泣き言言いながら付いて行けているじゃないか、ドトウ」
「ほわぁぁぁ、皆様とてもお早いですね~」
「ブライト、私達周回遅れなんだから、もう少しペース上げよう!」
「この一周が苫小牧の未来にかかっている…………うう、やっぱり芝はつらいべ」
「声出していくよー、トレセーン!」
「「「「「トレセーン! ファイ、オー、ファイ、オー、ファイ、オー!!」」」」」
覇王のライバル「メイショウドトウ」
宝塚の勝負師「ナカヤマフェスタ」
メジロの至宝「メジロブライト」
新時代の女王「メジロドーベル」
ダートの怪物「ホッコータルマエ」
正直、この5人は俺も知らなかった。
いや、まあ、ずっと黄金新星にかまけて情報収集を怠ったという原因もあるけど。
どうやら、噂ではメジロ姉妹は何らかの交渉の末にこのチームに来たらしい。
声だしを行っているモブウマ娘も、なんだか一発ぶちかましてくれそうな気配を感じる。
具体的に言うと、有馬記念あたりでみんなびっくりさせそう。
「ちなみに、ホッコータルマエは新人さんが見つけたのよ」
「俺の後釜の娘ですか?」
「ええ、いい目をしているでしょう?」
「本当に、いい目をしていますよ…………ナカヤマフェスタは?」
「ふふ、あの娘が推薦してくれたのよ、面白い奴がいるってね」
「まさかの旅程さん推薦…………マジかぁ」
話によると、ドトウ・フェスタ・ブライトの3名は樫本さんが、
ドーベルとタルマエは新人が受け持つことになっているとの事だ。
ドトウの移籍に関しては、リギルにいる覇王との闘いに備えての人的補償らしい。
どうやら、樫本さんはシニア級を本気で勝ちに行くようだ。
そして、俺が一番驚いたのは、恐らく、彼女だ。
「樫本トレーナー、ウォーミングアップ終わりました!」
「あら、早いわねジハード」
「はい! 今日を楽しみにしていたんで!」
ツルマルツヨシとグラスワンダーを足して2で割ったような外見をした、美少女。
しかし、髪に交じる白い流星が、彼女があの「エアジハード」であることを告げている。
そう、黄金世代に数えられる「エアジハード」が樫本さんの所にいるのだ。
どうやら、選抜レースで一番初めに走っていたらしく、その時は5着だったとの事。
ただ、樫本さん直々に口説きに行ったらしく、一発OKをもらったとの事。
(樫本さん、黄金世代全員に目つけていたとかマジかぁ)
どうやら、ジハードと同世代の娘を何人かチームに引き入れようとしていたらしい。
彼女たちが走ったのが、最後でよかったとは思わなんだ。
「えっと、貴方が今日一緒に練習するトレーナーさんでいいですか?」
「え、ああ、よろしくお願いします」
「はい! 改めて自己紹介を、エアジハードですよろしくお願します!」
そう言って、礼儀正しく頭を下げる彼女。
元気なグラスワンダー、健康的なツルマルツヨシ、そんな言葉が頭をよぎる。
そして、ふと気が付くとエアジハードは黄金新星に突撃していた。
「ねえねえ、名前を教えて、何て名前?」
「え、あ、えと、スペシャルウィークです!」
「おお、私と同期なんだよね…………そだ、後でLINE交換しよーよー!」
「ふえ、えと、う、うん」
「そこの貴女、スぺちゃんが困っているでしょうに…………」
「グラース、薙刀は危ないからしまうデース!?」
「すごい陽キャな娘だね~」
「元気なツルマルさん、という所かしらね」
「いやぁ、元気なグラスさんじゃないかなぁ…………ごほっ」
すごい、エアジハード一瞬で溶け込んだだけじゃなく、黄金世代の緊張もほぐしてしまった。
エアジハードのコミュ力の高さはすごい、俺は改めてそう思った。
そして、恐らくこの子が我々黄金新星の好敵手として立ちはだかるのではないだろうか?
「ふふ、何を考えているか当ててあげましょうか?」
「お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「黄金新星の前に、エアジハードが立ちはだかるのでは…………かしら」
「…………」
「沈黙は肯定と受け取るわよ?」
「はい」
「素直でよろしい…………その考えは正しいわね」
先生はそう言い、俺をまっすぐ見つめて言った。
「エアジハードはジュニア級で私が担当する娘の一人だもの」
え、という言葉を喉元で飲み込む。
そういえば、ビターグラッセとリトルココンが今年デビューすると雑誌「優秀」で
言っていたけれど、まさかの3人目がジュニア戦線に来るとか聞いてないぞ!?
「オーマイゴッド」
「どうしたの?」
「いえ、世の不条理を嘆いただけです」
いや、もう、どうしろというんだマジで。
恐らく、脚質的な問題で長距離はないだろうが…………確かこの子、
中距離もいいところに食い込めるほどの脚質ではなかったか。
同じ脚質の、グラスワンダーやキングヘイローとバチバチにやり合うことになるだろうし、
リトルココンとビターグラッセがいるからほかの距離も安心できない。
やばい、とはこのことだ。
樫本トレーナーは本気で同一チーム所属ウマ娘で全階級制覇という偉業を達成するつもりだ。
それは、黄金新星の前に巨大な壁が出てきてしまったことを意味していた。
(超えるビジョンが見えねえ)
冷や汗が止まらない、思考がまとまらない、まさかのジュニア級からの師匠との対決とか想定の範囲外すぎるだろう。
とはいえ、今はまだスタートラインに立ってすらいない以上、まずは黄金新星をスタートラインに立たせることにしよう。
「おーい、みんな、こっちもウォームアップの為に軽く走ろうか」
「「「「「は、はーい」」」」」
彼女たちの返事が堅い。
先ほどよりは解れているようではあるが、声の端々に緊張が残っている。
例えていうならば、強豪校と何故か練習する羽目になった弱小校のようだ。
今の練習を見ても明白だが、いわばチームレグルス全体の一部でしかない。
そもそも、レグルス自体3チーム制をとっているためだ。
先ほどのエアシャカ―ルを筆頭としたAチーム、クラシック級を狙うことができるBチーム、OP戦及びデビュー戦を控えたCチームがある。
まず、シャカール筆頭のAチームが走り切る。
これは先ほどのシャカール達以外だとチームファーストに出てくるいわゆる「強化モブ娘」がこれに当たる。
次にBチームが走り始める。
さすがにクラシックを戦いぬく覚悟を決めているだけあって、足取りは力強く、吐く息は荒く、全身から闘志がにじみ出ている。
そして、これから我々黄金新星を含めたCチームが走り出すのだ。
「全員、いつも通りの軽いジョギングだから…………早まっても競争じみたことするなよ?」
「わ、わかってます」
「もももちろんでしゅ」
「いエース、エルの調子はぜっこーちょー」
「いやぁ、緊張してるねえこれだけの人数だもの」
「し、仕方ないわよ一流のキングだってそうだもの」
軽口をたたいてみたが、俺の緊張につられてか、スぺシャルウィークはがちがちに緊張しているのが目に見えてわかる。
グラスワンダーは、表向きは自然体だけど、さっきセリフをかんだことでも緊張しているのがわかった。
エルは言わずもがな、明後日の方向を向いて、太陽万歳みたいなポーズをとっている。
スカイだけはいつも通りの自然体に見えるが…………尻尾が足の内に入ってる。
キングはすごい冷や汗をかいていることから、一番緊張しているんじゃないだろうか。
とはいえ、しょうがなくはある。
凡そ15名程度(黄金新星を入れて20人ほど)が一丸となって走るなんて、今まで経験させたことがない。
しかも、デビュー戦の相手となるかもしれない相手が複数人交じっている可能性もある。
ということは、ここでの走りからデビュー戦では対策を立てられてしまうかもしれない。
(みんなそんな風に思っているんだろうなあ)
ちなみに、今日のツルマルツヨシは、少し微熱と咳があり、見学兼助手としていてもらうことにしている。
本人は元気だと言って交じろうとしたのだが、樫本トレーナーからもお説教されて、大人しく助手の役割に徹してくれている。
「その、トレーナーさん」
「なんだい、ツルマルツヨシさん?」
「いいんですか、あの並びで」
「?」
「ほら、見てくださいあの並び順」
「はて」
俺の目に見えるのは、学園が保有する芝2000メートルのジョギングコース。
学園祭等でチャリティレースが開かれるここは、同時にこういう練習にも使われる。
さて、黄金世代の面々は石灰で引かれた線の上に横一列で並んでいる。
それにつられるように、Cチームの娘達も横一列で並びつつあった。
「なんつーか、レースみたいなことしようとしてないか?」
「私、あんな指示は出していないのだけど?」
「先生じゃないんですか」
「ええ、貴方のやり方ではないの?」
「あー、確かに横一列でいつも並んで…………おぅ」
彼女たちにいつも通り、と言ってしまった弊害が発生してしまう。
レース感を養うために、横一列に並べてからのジョギングをさせていたのが裏目に出た。
「あーツルマルツヨシさん、彼女たちを止めて…………いない」
「彼女なら、フラッグもって所定の位置についているわよ?」
「え!?」
ツルマルツヨシが、大きめの旗を持ってどこから持ってきたのか台の上にいる。
「あちょ、おい、待ちなさいっての!?」
「こら、いつも通りなんでしょう?」
「だからってこれはいかんでしょう、けがしたら大変じゃないですか!?」
「そこらへんは貴方の担当だしきちんと分かっているわよ、大丈夫」
「ですかねぇ…………」
見れば、レグルスのA・Bチームもこの競争まがいのウォームアップを見学することに決めたようだ。
というか、ナカヤマフェスタよ誰が勝利するかの賭博の胴元やっているのはいいのか?
視線を別の所に移せば、エアシャカールが遠隔ドローンでデータを集めようとしている。
更に、ファインモーションがエイシンフラッシュを誘って実況まがいの事をやりだした。
ちなみに、サクラバクシンオーは伸びており、ミホノブルボンはその看病をしている。
スマートファルコンとホッコータルマエが新人応援ライブをやりだした。
救護班と書かれたスペースにも誰かいるようだが、誰がいるのかわからない。
(自由だなぁ)
半ば考えることを放棄しつつ、黄金新星たちに向き直る。
内枠に黄金新星の5人、大外にエアジハードという形になっている。
「位置について!」
ツルマルツヨシの凛とした声が響き、皆が走り出す態勢を整える。
そこには、凛々しい、勝負に臨むウマ娘の顔があった。
「よーい…………スタートォ!!」
旗が空気を切り裂くパァンという音と共に、彼女たちが一斉に走り出した。
──────(スペシャルウィーク)────―
布で空気を打つ乾いた音が響き渡ったとき、私は余韻が残る耳を抑えることもなく自然と一歩目を踏み出すことができました。
(よし、いい滑り出し!)
最初の50メートルで競争の4割は決まる。
私の位置取りは、先行策をとる場合のお手本みたいな場所だ。
前方には逃げのスカイさん、3バ身後には先行のエルちゃん、その間にチームCの3人がいて、私は5人目の位置につけている。
恐らく、その後ろにはグラスちゃん、キングちゃんがいる。
そして、あのエアジハードちゃんも。
(頭は冷静に、心は熱く燃え、肉体は羽のように)
トレーナーさん曰く「日本で初めて5冠を達成したウマ娘の言葉」だそうだ。
レース中はどうしてもレースに集中してしまうから、頭の回転が鈍くなる。
負けたくないという心を常に燃やし続けないと、プレッシャーで闘志が萎えてしまう。
肉体が緊張してしまうと、冷静で闘志十分でも十全の走りにならない。
意味をトレーナーさんから教わったとき、レースのすべてがこの言葉にあると思った。
(大丈夫、全部大丈夫)
いきなり仕掛けた模擬レースとはいえ負ける気は毛頭ない。
何よりも、Cチームの皆さんには悪いけど、ここで私たちが勝つ。
(そうすればトレーナーさんの心の負担も軽くなるはず)
さっきキングちゃんと皆と話し合って、トレーナーさんが緊張していることが分かった。
トレーナーさんのことを私たちが知らないこともわかった。
じゃあ、このレースの勝利をだしにして、質問をぶつけてみようということになったのだ。
トレーナーさんには悪いけど、このレース形式は私達が考えたモノだから。
(考えた以上、実行しちゃった以上、負けるわけにはいかない!)
600メートルを過ぎる、先頭から最後尾までの集団ができる。
スカイさんは1200を過ぎたころから仕掛け始めるし、エルちゃんも同様。
グラスちゃんとキングちゃんはともに最後のコーナーを曲がった瞬間に仕掛けてくる。
何度も走っているからこそ、彼女たちの、友人たちの癖はわかる。
残り1000メートルというところで、一人のウマ娘が先頭に出始める。
Cチーム所属で、ブラックモアという選手だ。
ぐんぐんと伸びてきて、あっという間に私を抜いていった。
先行策だけど、差しよりの先行というタイプだろう。
(早い! だけど、私だって負けないっ!)
私も同様に加速を始める。
空気を吸い込み、肺から全身に酸素をいきわたらせる。
体全体に力が入り、一段重力が重くなるような感覚に陥る。
そして、ためていた足腰のバネを思いっきり伸ばす。
(っ! これでも届かない!?)
重力を振り切るような加速で、私は先頭に迫らんとするブラックモアを追いかける。
スカイさんは必死の形相で逃げ続けているけれど、距離は縮まり続けている。
エルちゃんと並ぶ、後ろからはグラスちゃんとキングちゃんが爆発的な差し足で猛追してくるのがわかる。
でも、でも!
(差が、縮まらない!)
速いのだ、単純に。
私達とはまさにグレードが違うというべき、完成された走り。
先行策のお手本のような走りで、ぐんぐんとスカイさんのセーフティリードを奪っていく。
周囲に見知った存在感が現れる。
視線を少しずらすと、キングちゃんとグラスちゃんがいる、
ただ、二人とも相当スタミナを消費したのか、ちょっと苦しそうだ。
エルちゃんがブラックモアに食らいついているけど、少しづつ離されている。
「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
もう一度、息を入れる。
もう一度、酸素を全身に回す。
もう一度、自分の足腰のバネをつかって加速する!
「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
キングちゃんとグラスちゃんを置き去りに、エルちゃんに追いついて、追い越して、とうとうスタミナ切れでばてたスカイさんを抜き去った。
後は、先頭にいるブラックモアだけ。
後2バ身の差があるけど、それでもっ!?
追い抜こうとした瞬間、後ろからすごい威圧感がぐんぐんと近づいてくる。
この威圧感、全然知らない…………まさか。
耳を後ろへ向ける。
息遣いは知らない、けど知らないからこそ見当がつく。
(エアジハードさん!?)
地面を踏み砕き、轟々と風をまといながら直線一気に距離を詰めてくる。
私たちの中で唯一存在しない脚質、追い込み。
彼女は追い込み脚質だったのだろう。
そして、あっという間に私を追い抜いた。
結果、このレース形式のウォームアップは、1位ブラックモア、2位エアジハードさん、3位私、4位スカイさん、5位エルちゃんという結果となった。
負けたくなかったのに、負けちゃいけなかったのにっ!
────―(トレーナー)────―
その走りは、今の彼女たちができる精一杯だった。
その走りは、今の彼女たちが目指すべきお手本のような走りだった。
その走りは、今の彼女たちにはない暴力的な走りだった。
その走りに、俺は今目を奪われている。
あのブラックモアの完成された先行策、あれはなんだ?
ジュニア級の、身体能力だけで走り切る走りの形ではない。
息を入れるタイミング、仕掛けのタイミング、加速のタイミング。
そのすべてがまるでクラシックの出場選手のように、完成されている。
エアジハードの追い込みを見たか。
ジュニア級で、あれだけの追い込みをかけることができるということは、どういうことか。
それだけ体が仕上がっているという事だ。
クラシックの追い込みと比較すればさすがに粗削りだが、それを使ってくるということはそれだけの自信があるという事だ。
正に、ジュニア級の大きな壁というにふさわしい存在ではないか。
正に、雷に打たれたような気分で俺は目の前の光景から目が離せないでいた。
(完敗、完敗だ、それしか言葉が見つからない)
思考がフリーズし、何も考えることができなくなる。
それでもと、無理やり自分の思考回路を回転させる。
考えることを辞めるな、あの子たちはよくやった、至らないのは俺の方だ。
だが、俺はこれ以上あの子たちに何ができる?
それよりも訓練メニューの見直しを行って本番を迎えるようにしなければならないだろう
しかしそれでは間に合わない彼女たちを勝たせてあげられないそれは嫌だでも
どうすれば………………「ナー、トレーナー聞いているかしら?」…………はっ!?
ひんやりとした何かが首元に充てられ、思わず身震いする。
慌てて振り向くと、そこにはファインモーション殿下とエアシャカールがいた。
殿下が背伸びして、俺の首にスポーツ飲料のペットボトルをあてていた。
「殿下、その、すいません聞いていませんでした」
「むー、きさま~このファインモーションをしかとしたと申すか~」
「はあ…………ファイン、本題はそこじゃねえ」
シャカールが半眼気味に俺を見つめてくる。
こういう時のシャカールは、何か言いたいがこちらの気づきを待っている状態だ。
何が言いたいんだろう?
「あ、スポーツドリンク」
「おう、両手がつめてえからさっさと持て」
「お、おう、すまん」
ファインモーションからも俺の分と合わせて7本、スポーツドリンクの差し入れをもらった。
これをどうすれば…………?
「あのなあ、さっさと走り終わったやつらにやってこいや」
「はっ!!」
「ぼーぜんじしつ、だっけこういうの?」
「ああ、多分使い方も合っているんじゃねえか?」
そんな言葉を後ろに、俺はあの子達に駆けだした。
そうだ、まずあの子たちをねぎらってやらねばならない。
それがトレーナーってもんだろうに!
彼よりも早く、樫本トレーナーは走り終えた彼女たちにねぎらいの言葉をかけていた。
それに遅れることしばし、彼はやっとのことで走り終えた黄金新星の下にやってきた。
「みんな、差し入れだ…………今回の件、よく頑張ったと思う」
「あ、ありがとう…………ございます…………」
彼はねぎらいつつ、スペシャルウィーク達にスポーツ飲料のペットボトルを渡す。
しかし、そんな彼女の言葉には覇気がない。
一度の敗戦で、調子が下がってしまったようである。
トレーナーは焦った。
こんなにもショックを受けるとは思っていなかった。
スペシャルウィーク達もあせっていた。
自分たちが仕掛けたゲームで負けてしまったのだから、その焦りは相当だ。
「「「「「「…………」」」」」」
その結果、双方ともに二の句が継げずに困り果ててしまった。
摩訶不思議な空間が、レース場の一角に顕在していた。
その時だ。
「ハロー、ルーキー諸君! 走り終わったらバイブスぶち上げて、笑顔でお疲れ様っしょ!」
突然、何の脈絡もなしにこんなこと言われたら誰だって驚くだろう。
それが、恐らく相手チームの人員だったら、よほどだ。
そしてこの出会いが、トレーナーと黄金新星の面々の運命を変えることになる。
ということで、今回はここまでとなります。
一応、題名で誰が来るかの予想はつきやすいと思います。
取りあえず、次も早めに投稿できるように努力いたします。
感想・誤字脱字等のご指摘などいただけましたら幸いです。