色々迷ったり、書き方を分けてみたりと試行錯誤した第10話です。
今回、ようやく突っ込み役が黄金新星に合流することになります。
遅れてきた一等星 下
黄金新星たちは、彼女のことを知らない。
だからか、目を白黒させて、どうしていいかわからないという表情をしている。
トレーナーは彼女のことを知っている。
仕方ないな、という表情の中に会えてうれしいという感情がある。
そこで、対応の差が出るのも仕方のない事だ。
「やあパーマー、君も観ていたのか」
「前代未聞のルーキートレーナーとルーキーウマ娘でチームを作成だからね、見なきゃ損でしょ」
「あー、確かにそうかもしれん・・・・・・俺も当事者でなけりゃ確かに見物に来てたな」
「でしょでしょ・・・・・・ってそうじゃない」
そういいつつ、パーマーは視線を移す。
彼女は体操着姿で、右の二の腕には「救護」と書かれた腕章をつけている。
救護スペースにいたのが彼女のようだ。
確かに、彼女の脚力ならば救護にはうってつけだろうと、彼は思った。
「私が救護委員として立ち会っているから、トレーナーは樫本さんの所に行ってきなよ」
「え、ああ、いやその・・・・・・」
「アタシの方で、この子達と話しておくからさ」
「その、ありがとう」
「「「「「・・・・・・」」」」」
正直に言えば、彼は戸惑っていた。
なんでパーマーがこんなタイミングよく自分の下に来てくれたのかとか。
なんで黄金世代の子たちはこんなにショックを受けているのかとか。
さっきの、一位になったブラックモアというウマ娘は本当にジュニア級かとか。
だが、彼の優秀な頭脳であってもすべてを一瞬で理解することは難しい。
彼は連日一人で6人分のトレーニング等の微調整やその他の業務もこなし続けていた。
その結果、今、彼の頭脳はオーバーフローを起こしていた。
そのため、パーマーの一言にもただ純粋にありがとうという気持ちしかわかなかったのだ。
彼は素直に彼女にその場所を任せることにしたのだった。
「さ、貴女達は救護室についてきてもらうよ、えーと立てるよね?」
「え、ええ・・・・・・みんな、行きましょう」
パーマーの問いかけにキングが代表して答える。
そして、6人はぞろぞろと救護室の方へ歩いてゆくのであった。
その光景は、けが人が列をなしている光景に近い、とレグルス所属のウマ娘達はこぞって証言した。
────────(トレーナー)────────
いつもより数段重い足取りで、俺は樫本先生の所に来ていた。
(あのウマ娘、ブラックモアの事を知らなくてはいけない)
エアジハードがあれほど仕上がっているというのは、正直想定していなかった。
しかし、予想はできる。
あの、樫本理子がトレーナーをしているんだから当然だ。
(だが、あのウマ娘は違う・・・・・・少なくともシャカール達のように直接トレーニングを受けているわけではない)
シニア級の熟達した走りではなかった。
クラシック級の研ぎ澄ました走りだった。
しかし、だ。
(何をすればあんな走りができる・・・・・・それを吸収すればあの子たちをより早くできる)
そう、あの走りにこそ黄金世代を輝かせる一つのヒントがあると思う。
だからこそ、聞かなくてはならない。
彼女が何者なのか、どのようなトレーニングをすればいいのか。
「先生、相談に乗っていただけませんか」
「あら、早々にあの子達を強くするための相談事かしら?」
「・・・・・・わかっているならば、教えていただけませんか、あのブラックモアというウマ娘のことを」
「・・・・・・はぁ、重症ね貴方」
「え?」
いいわ、こっちに来て頂戴、と樫本先生が言うと、まさにおずおずといった風に先ほどスペシャルウィーク達を抜かしていったウマ娘「ブラックモア」が現れた。
(やはり、クラシック級の筋肉のつき方をしている)
現れたブラックモアは、すらりとした長身であり、170cmはあるだろうか。
体全体の筋肉のつき方が大変バランスよくまとまっており、特に中距離で非常に強いと思わせる。
競争の際の体の使い方も、かなり柔軟かつ大胆だろう。
(いや、まて、何かおかしくないか?)
しかし、もし仮に、考えている事があっていたとしても、樫本先生がそんな事をするか?
いや何のために俺にこんなことをするのだろうか?
「心当たり、あるみたいね」
言ってみなさい、採点してあげます。
少しきつい口調の樫本先生にそう言われ、俺はブラックモアを観察し、思ったことを言ってみることにした。
「まず、彼女の筋肉のつき方はクラシック級である」
「そうね」
「彼女の走りは、ジュニア級ではない」
「その通り、では結論は?」
「彼女は・・・・・・正真正銘のクラシック級選手である・・・・・・?」
「満点よ・・・・・・ただし、トレーナーとしては今の貴方は落第点だわ」
それは、言わなくてもわかることではある。
「クラシック級の選手がいたことを見抜けなかったことですか、しかしそれは」
「それだけじゃないのよ」
ブラックモア、ありがとう練習に合流していいわよ。
そういわれた彼女は、俺と樫本先生に軽く頭を下げると、全体練習に戻っていった。
「私から言いたいことは2つあるわ、まず一つはブラックモアの事よ」
「それは、そもそも先生がクラシック級のウマ娘を入れてくること自体予想ができませんよ!」
「私の下でトレーナーとしての経験を蓄積していた貴方ならば、整列した瞬間にわかっていたはずよ」
「それは・・・・・・」
ぐうの音も出ない正論であった。
先生の下でサブトレーナーとして経験を積んでいた時の俺ならば、ブラックモアが何か変だということぐらいはカンづいたはず。
そのカンが出てこなかったこと自体、トレーナーとして問題ではないか。
「でも、今の貴方にそこまでの、そうね、目の輝きがないのよ」
「輝き、ですか」
「ええ、ウマ娘へのレーダーと言っても過言ではないわ」
「・・・・・・」
「私の知っている貴方は、私の下で面倒を見ていた貴方だけど、少なくともその時はレーダーを日夜張っていたと思うけど?」
「おっしゃる通りです、はい」
樫本先生が怒っていらっしゃることは、薄々感づいてはいた。
そして、何に対して怒っているのか今までは解っていなかったが・・・・・・今ならわかる。
「さて、トレーナー君、今までのことを含めて私が言いたい事は解るかしら」
「自分がトレーナーとして持つべき余裕・・・・・・全体を見渡すことができる広い視野がない、といったところでしょうか?」
「50点よ、確かにブラックモアだけ見れば満点だけど」
「50点ですか・・・・・・ほかに何が・・・・・・」
少なくとも、あの子達黄金新星の体調管理やスケジュール管理、更にはトレーニングに関する管理などは先生仕込みの管理術で何とか出来ているはずだが・・・・・・。
「灯台下暗し、とは今の貴方に言うべき言葉なのね」
「え?」
「貴方は私仕込みの管理術で、あの黄金新星をスケジューリングしようとしている」
「そりゃあ、そうです・・・・・・貴女は俺の目標ですよ?」
「ありがとう、でも、今の貴方では私には遠く及ばない」
「うっ・・・・・・」
痛いところを突かれた。
確かに、スケジューリングの能力一つとっても、先生に俺は遠く及ばない。
しかし、彼女たちさえいれば・・・・・・まて、彼女たちさえいれば?
そういえば、俺は彼女たち黄金新星にトレーニングメニューを渡すとき、どういう会話をしただろうか?
いや、そもそも俺は今まで黄金新星のあの子たちとひざを突き合わせて話し合ったことがあっただろうか?
俺は少なくとも、樫本先生の下ではひざを突き合わせて話し合ったことが何度もあるぞ?
「ようやくカンが戻ってきたみたいね?」
「いえ、それは、その・・・・・・」
「さっきの50点分、それは貴方と黄金新星とのコミュニケーション不足よ」
「・・・・・・それは」
そんなことはない、彼女たちと俺はコミュニケーションを取っていたはず・・・・・・あれ、彼女たちと本気で向き合って話し合ったのは何時だ?
「貴方は新バ戦に向けて取り組むあまり、視野狭窄に陥るだけじゃなく、一番大切な愛バとのコミュニケーションすら疎かにしている・・・・・・違うかしら」
「・・・・・・」
違う、と言いたかったが声が出ない。
喉の奥に、ぐちゃぐちゃとした感覚がへばりついて、樫本先生の指摘に返答ができない。
なぜなら、それは・・・・・・。
「その、通り、です」
「でしょうね」
絞り出すような声で、いや、実際声を絞り出して先生の指摘にこたえる。
確かにそうなのだ、俺は指摘されたことを疎かにしてきたのだ。
樫本先生の下にいたときは、ある程度のことをやってくれる子(エアシャカール筆頭の経験を積んだウマ娘達)がいたから、俺は細部に気を配って、向き合って、解決してやることができていた・・・・・・はずだ。
しかし、今の俺は全てを自分一人でやらなくてはいけない。
その分、ほかの何かを切り捨てなければ、仕事が回らない。
そして、切り捨てたのが彼女たちとのコミュニケーションだとしたら。
「あの子たちを蔑ろに・・・・・・最悪だ、俺は」
「いいえ、最悪と気が付いたんだからまだいい方よ」
「先生、すみませんがあの子たちの所に戻ってもいいでしょうか」
「ええ、あの子達ならば救護スペースにいると思うわ・・・・・・きちんと向き合いなさい」
これは貴方の先生としての宿題よ、と樫本先生に言われた俺は、小さな声で「はい」と答えるしかなかった。
先生に一礼すると、踵を返し、俺は救護スペースに急ぐことにした。
──────(救護スペース)────―
「すまない、黄金新星のトレーナーだが彼女たちの容態は?」
「あら、今は救護教員が留守にしているから詳細は分からないわ」
「ベガ・・・・・・君も救護係だったのかい」
「ええそうよ、久しぶりね」
救護スペースにいたのは、かつて樫本先生の下で俺が最後に担当した一人、アドマイヤベガだった。
脚のケガでクラシック期後半を棒に振った彼女の復帰戦を俺が担当したのだ。
「その、ベガ、あの、黄金新星の子達は今どうしてる? 練習に戻ったのか?」
「そこの救護ベッドにいるわ、起こさないで上げてね」
「・・・・・・調子が悪かったのか、あの子たちは?」
「ええ、あとは自分で確かめてみなさい」
「すまない」
俺は、救護スペースで出迎えてくれた彼女に導かれて、最奥にある救護用ベッドが置かれたスペースに来た。
そこには、黄金新星の娘達が二人一組になってベッドで寝息を立てていたのである。
「・・・・・・極度の緊張、肉体と精神の疲労、それに寝不足・・・・・・なんで俺は気が付いてやれなかったんだ、チクショウ」
目星を振らなくてもわかる、恐ろしいまでのバッドコンディション。
絶不調も絶不調な状態で俺は、この合同練習にやすやすと乗っかったという事か、チクショウが。
「やっほーベガちゃん、スポドリ買ってきたよ・・・・・・あれ、トレーナーじゃん、さっきぶり」
「ああ、その、パーマー」
「ん、どしたの?」
「この子たちの、容体を教えてくれはしないか?」
「自分で聞いてみれば・・・・・・ああ、寝ちゃったのか」
「すまん、起こしたくないんだ」
「いいよ、教えてあげる」
そう言って、パーマーは俺に先ほどの黄金新星との話をかいつまんで話してくれた。
スペシャルウィーク曰く「トレーナーさんはトレーニングメニューを渡してくれるだけになってしまった」
グラスワンダー曰く「緊張しているのが毎日伝わって話しかけづらかった」
エルコンドルパサー曰く「メニューの中で些細な調整をしたくても、毎日業務をこなしているトレーナーに迷惑をかけたくなかった」
セイウンスカイ曰く「自分たちだけが休むのが、なんだか悪い事をしているみたいで休みづらかった」
ツルマルツヨシ曰く「日に日にやつれていくトレーナーを見ていると、自分たちの不調はただの甘えに思えてきた」
キングヘイロー曰く「今日のレース形式のトレーニングで勝って、トレーナーを安心させてあげたかった」
パーマーから、彼女たちの言葉を聞いたとき、俺は頭を何度も何度も殴られたような、そんな衝撃を受け続けた。
彼女たちは、俺に対して言いたい事や相談したい事があったのだ。
しかし、俺が仕事に追われていて話しかけづらく、しかも、自分たちの新バ戦のことだから余計に言い出しづらかったのだ。
それでも、それでも彼女たちは俺を安心させるべく、今日のレース形式のトレーニングで勝とうとしていたのだ、絶不調なのを隠して。
「みんな・・・・・・」
眠っているキングヘイローの眼の下には、隈ができている。
ただそれを、化粧で覆い隠して今日のトレーニングに臨んでいたのだ。
否、キングヘイローだけではない。
黄金新星全員が、多かれ少なかれ化粧で目の下の隈を隠していた。
「すまない、本当に、すまない・・・・・・っ」
下半身から力が抜け、俺はその場で膝をいてしまう。
慌てて立ち上がろうとしたとき、俺は自分の目が潤んでいることに・・・・・・涙を流していることに気が付いた。
最悪の気分だった。
彼女たちに心配をかけさせた自分が、彼女たちの心配を解決してやれない自分が、彼女たちの不安を払しょくしてやれなかった自分が、ただただ情けなかった。
「なあ、パーマー、ベガ」
「何?」
「どしたの」
「俺は、紙の上では彼女たちのことを知っていたつもりだった」
「「・・・・・・」」
「でも、そういえば、現実の彼女たちのことを何一つ知らないんだな」
ベガとパーマーは黙って俺の告白を聞いてくれた。
心の中につっかえていた事、即ちゲームでしか彼女たちを知らず、現実の彼女たちを知らないという事実はぼかして伝えたが。
それでも、卑怯だとしても、心の中の思いを、誰かに聞いてほしかったのだろう。
最後には、もう俺自身涙を流しながら彼女たちに謝り続けることしかできなかった。
「トレーナー、厳しい事を言うようだけど泣いたところで現実は何も変わらないわ」
黙って俺の懺悔のような、後悔のような、解らぬ心の内を聞いてくれていたベガが開口一番言った。
確かに、そうかもしれない。
泣いたことで、俺の頭の中はすっきりしている、しかし、それだけである。
「いったい貴方は何をしたいの、どうしたいの、それをはっきりさせなさい」
「ベガちゃん、厳しいね・・・・・・だけどパーマーさんも同意かな」
「それは・・・・・・」
ベガたちの追求に、言葉が詰まる。
俺はどうしたいのか、俺は何がしたいのか、ぐるぐると頭の中で回り回って答えが出ない。
おかしい、俺はこんなにも優柔不断でできないタイプだったのか。
「はぁ・・・・・・それじゃあ、今から始めていけばいいじゃない」
「え?」
「今から、彼女たちのことを知っていけばいいのよ」
「今、から・・・・・・」
ベガが呆れたように言う。
それが出来たら苦労はしないんだ、それができないから苦しんで・・・・・・あ。
「そうか、俺は、彼女たちのことを、知らない部分を、少しでもいい、教えてほしいという事か・・・・・・?」
単語を紡ぎ出していくと、すんなりと言葉が出てきた。
俺が本当にしたい事、しなければいけないこと。
そういえば、チームを結成した後に、何かみんなで集まってしたことはあったっけ?
ないような気がする、いや、ない。
「トレーナーさん、あの日使ったパーマー2号があるんだけど、使う?」
「パーマー2号・・・・・・」
確か、俺がローンを組んで購入した、中古のライトバンだったはず・・・・・・ん?
いや、そもそも「パーマー2号」何て名前つけてなかった気がするんだけど。
「それじゃあ、私は天体観測用の望遠鏡を持っていかないといけないわね」
「お、いいね・・・・・・そうだ、キャンプ道具一式持って行ってキャンプしちゃおう!」
「ふふ、それは楽しみね・・・・・・あの時みたいに腕を振るってくれるんでしょう?」
「え、ああ、まあそれはその、やぶさかでもないが」
なんだか、俺の知らぬところで天体観測キャンプが決定している。
今から彼女たちのことを知る、とはいえだ。
「その、新バ戦が近いんだが・・・・・・」
「貴方ね、新バ戦と黄金新星の子達とどっちが大切なのよ?」
「黄金新星だが?」
そんなものは当たり前だ。
「じゃあパーマーさんからも質問、その大切な黄金新星の子たちが絶不調の時、トレーナーさんがとるべき行動は?」
「それは、リフレッシュ・・・・・・あ」
「にひひ、やっとわかったかな?」
「ああ、すまない・・・・・・いや、ありがとうパーマー、ベガ」
「別にお礼を言われるようなことはしていないわ」
「そうそう、単なる連想ゲームだし」
それでも、彼女たちのおかげで俺は大切なことを取り戻せそうだ。
取りあえず、黄金新星の彼女たちに外泊届を受理してもらわなくてはならない。
それに、学園側にも、貴重な時期ではあるがこの外泊届を受理してもらわねば。
「すまないが、樫本先生の所に行ってくる・・・・・・外泊届の件、彼女たちが起きたら話しといてくれないか?」
「はーい、うけたまわりぃ!」
「ほら、さっさと行ってきなさい」
「ありがとう、二人とも」
俺は、黄金新星をリフレッシュさせるための外泊を思いついた。
新バ戦までは残り3週間程度だが、1日程度ならば完全外泊を取り付けることができるだろう。
もしできなければ、樫本先生他を巻き込んで認めさせるだけだ。
────―(救護スペース)────―
「それにしても、よかったね皆の事忘れてないってさ」
「まあ、その、彼を許してあげてほしいわ・・・・・・これは独り言だけど」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
救護スペースのベッドの6人は、彼が泣いているときにはもう起きていたのである。
最も、今更気恥ずかしくて起き上がれないから、顔までシーツをかぶって寝たふりを続けたわけだが。
────―(レグルスチームA)────―
「ふぇ? 黄金新星のトレーナーが樫本さんに頭下げていますぅ」
「あ、ホントだ・・・・・・何を言っているのかな?」
「ちょわ、後姿がシャキッとしていますね!」
「私たちのよく知るトレーナーさんに戻ったみたいですね」
「さっきのトレーナーさんは見てられなかったからね☆」
「マスターのメンタルが良好になったのを感知しました」
レグルスのウマ娘達もなんやかんやで彼らのことを心配していたのだ。
現に、チームAだけでなく、ブラックモア筆頭のチームBも、そしてチームCも。
この全体練習に参加していた全員が、大なり小なり彼らのことを気にしていたのである。
そんな中で、ただ一人、黙々とトレーニングメニューをこなすウマ娘がいた。
そう、エアシャカールである。
ブラックモアがおずおずと、エアシャカールに話しかけた。
「シャカールさんは、その、混ざらなくていいんですか、会話」
「あ? いいよオレは別に・・・・・・そもそも心配すらしていねえからな」
「え?」
「そもそも、アイツは周囲の人間巻き込んでバカやって初めて輝くタイプなんだぜ?」
「そう、なんですか?」
「そうさ、アイツは賢いバカなんだ・・・・・・他人に迷惑かけてなんぼなのさ」
「それは言い過ぎじゃあ」
「はっ、チームAのメンツ見てそう言えるのか?」
「えっ」
「アイツがいなけりゃ、そもそもチームAなんて存在しねえんだよ、迷惑な話だろ?」
ニヤリ、と犬歯をむき出しにして獰猛に笑うと、エアシャカールはまた走り出した。
────―(キャンプ当日)────―
新バ戦まで残りあと2週間というところの土日を使用して、黄金新星は近くのキャンプ場へキャンプに来ていた。
メジロパーマーの所有しているライトバン、通称「パーマー2号」に荷物と一緒に乗り込んでだ。
なお、外泊届受理を渋った秋川やよい理事長に対し、トレーナーは土下座して頼み込んだ。
その姿勢に、何かを感じ取ったのか、秋川理事長は「外泊受理」の大判を押したのである。
とはいえ、決して遠出できるわけではない為、車で2時間ほどのキャンプ場ではある。
なお、このキャンプ場の所有権はメジロ家が握っているため、実質無料なのはトレーナーには秘密であった。
「空が広いーっ、でも北海道よりは狭い・・・・・・」
「あのねスぺちゃん、さすがに北海道と比べたら失礼じゃない?」
「スぺさん、スカイさん、そういうことは言いっこなしよ!」
それより早く準備を手伝いなさい!
私服で怒鳴るキングヘイローに、わーっと走り出したスペシャルウィークとセイウンスカイの両名。
待ちなさいよーっ、と叫びながらダッシュで2人を捕まえにかかるも、やすやすと交わされるキングヘイロー。
最終的にはむきになり、2人との追いかけっこに準ずるのであった。
「あはは、みんな元気デース!」
「そうね・・・・・・ツルマルさん、貴女大丈夫?」
「大丈夫、車に少し、酔っただけですので・・・・・・ちょっと風に当たれば治ります・・・・・・」
「ツルちゃんは川辺を歩いてくるデース、準備は私達でやりますからネ!」
「すみません・・・・・・お願いします・・・・・・」
「はぁ、ごめんなさい、私も彼女に付き添いで付いていくわ」
「ありがとうございます、アヤベ先輩・・・・・・」
ツルマルツヨシは、アドマイヤベガにもたれかかるようにして川岸の遊歩道にまで歩きに行ったようだ。
「ぬうっ!? 抜かったわ・・・・・・」
「どうしたんですか、罠にかかった武士みたいな言動をして!?」
「ああ、いや、今日の調理に使うはずだった魚を持ってくるのを忘れてね・・・・・・くう」
「あ、それなら釣りができるスポットあるし、アタシ達で釣りしてこようか?」
「ああ、頼むよパーマー・・・・・・グラスワンダーさん、エルコンドルパサーさんを連れて行って来てくれませんか?」
「お一人で大丈夫ですか、その準備とか」
「ああ、大丈夫・・・・・・それより、あれを見てください」
「・・・・・・ああ、解りました、行ってきます」
トレーナーが指し示す方向には、本日彼が作る料理「チリコンカーン」の材料の中に激辛パウダーを混入しようとしているエルコンドルパサーの姿があった。
「エル、釣りに行きますから、餌になりなさい」
「ケェッ!?」
「あはは、グラスちゃん、さすがにこの川に巨大魚はいないよ」
「ほっ・・・・・・いや、パーマー先輩、いたらエルを餌に・・・・・・!?」
「シナイヨー、パーマーサン考エテナイヨー」
「ケェェェェッ!?」
それじゃあ行こうか、とパーマーが2人を連れてレンタルスペースに釣竿をレンタルしに行った。
なお、エルコンドルパサーの激辛パウダー混入は、寸前のところでグラスワンダーにより阻止された模様。
「さて、彼女たちが帰ってくる前に料理の準備を始めるとしましょうか!!」
普段のスーツ姿からラフな私服に着替えているトレーナーは腕まくりをしながらキャンプ飯の料理に取り掛かった。
何せ、ウマ娘が8人もいるのだから、料理の量も多くなるというもの。
「だが、燃える」
思いっきり腕を振るえるとあって、トレーナーの眼はギラギラと輝いていた。
彼が作るのは、ダッチ・オーヴンと言われる鍋を使用したキャンプ飯だ。
河原の石を積み上げて即席の炉を作り、そこに木炭を入れ、火をつける。
まずそれを何個も作るのだが、トレーナーの手際は人間やめているレベルだったとか。
────―(夕食)────―
「「「「「「「「おぉぉぉっ」」」」」」」」
「まあなんだ、がっつり食べてくれ」
「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」
「このピラフ、バターの風味とエビの旨みがむぐむぐ」
「チリコンカーンにむぐ、大量の牛肉も入ってもぐ、がっつりしてマースむしゃ」
「うー、釣りに行くならこのセイちゃんを誘ってよ~、ニジマスの塩焼き美味しい・・・・・・」
「すごいわね貴方、ラム肉の香草焼きなんて、それに臭みが全然ない、もぐ」
「まさかキャンプでフライドチキンが出てくるとは思いませんでした、もむ」
「ああ、ポトフの美味しいスープが胃に染みるぅ」
「パーマーさんは牛すねの赤ワイン煮込みが出てくることに驚きを隠せないよ、はむはむ」
「このオムレツふわふわしてないけど、食べ応え十分ね、美味しいわはぐ」
「ふっ、腕によりをかけてよかったよ」
まだまだあるから、たっぷり食べてくれ。
トレーナーはウキウキとした声色で彼女たちに言う。
その様子は、まさにウマ娘達がたっぷり食事をしてくれるのが、心から楽しくてしょうがないという顔だ。
気になる異性の前では食欲が落ちる、なんて社会実験を鼻で笑うかのように、成長期の面々は文字通り山のようなキャンプ飯をお腹いっぱいになるまで堪能した。
(そうだ、彼女たちの笑顔を曇らせることがあってはならない)
トレーナーはしみじみと、食後のコーヒーを飲みつつ和気藹々と話す彼女たちを、少し離れたところで鍋の火を確認しながら盗み見ていた。
なんだか、無性に彼女たちと目をあわせたくなかったのである。
(なんだか怒られた子供みたいだな、俺)
少し苦笑しつつ、鍋の中を見る。
その中には、ラム・シロップを使った焼きリンゴが黄金色をのぞかせていた。
(黄金世代を良くするのも、悪くするのも、トレーナーである俺次第か)
焦げないように、煮詰まらないように、しかし、生にならないように。
ゆっくりと時間をかけて作る焼きリンゴは、まさに彼女たち黄金世代の育成と同じ。
「俺は仕事に逃げていたんだなあ、彼女たちの責任と向き合うことに」
ミスをしないように、彼女たち黄金世代に泥を塗らないように、そう思いつつ、どこかで責任から逃げていた。
彼は冷静になった頭で考え、今までは責任を樫本理子に押し付けてきたんだなあとしみじみと思った。
「もう、逃げるのはやめだ・・・・・・向き合おう、彼女たちと」
向き合い、膝を詰め、話し合う。
今までできていたのだ、これからだってできる。
ただ、自分の責任になってしまうことが怖いが、それは当たり前のことだった。
彼は、ここにきてそのことに気が付いたのである。
────―(メジロパーマー)────―
「パーマー先輩は、その、トレーナーさんとはどういった関係なんでしょうか!?」
ツルマルツヨシ、通称ツルちゃんが私に聞いてくる。
いやはや、其の瞬間ほかの5人が耳だけこっち向けてくるのにはまいったねぇ。
「なんでそんな事を聞くのさ」
「ええと、その、ベガ先輩とパーマー先輩は、二人ともトレーナーさんと親しそうだったし、その、何かあったのかなあと」
「ぷっ」
「な、なんで笑うんですか!?」
「いやあ、素直な後輩ちゃんだなあと」
「へ、いやなでないで答えてくださいよぉ!?」
わしわしともみこむようにツルちゃんの髪をなでる。
さて、どうしたもんかなと考えていると、ベガと目が合う。
(ヘルプ)
(別にいいでしょ私たちの関係なんて)
(そういわずに、こっちから切り出すのはさ)
(はぁ・・・・・・貸し一つよ)
この間1秒に満たない。
いやはや、頼りになるなあこの一等星。
「トレーナー、貴方の事が聞きたいってこの子達が言っているけどー?」
前言撤回、何考えてやがりますかこのポンコツふわふわスキーは。
黄金世代の面々がものすごい勢いで固まっちゃったじゃない。
でもまあ・・・・・・いいか、彼に説明してもらうのも。
──────(トレーナー)──────
さて、ベガから黄金世代が俺のことを聞きたいとのリクエストだ。
そして、ちょうどいいことに焼きリンゴも完成した。
「そうだな、じゃあ食後のデザート食べるついでに話そうか」
「そうね、そうしたらいいんじゃない・・・・・・あら、いい香り」
「軽いなあ・・・・・・お、焼きリンゴかぁ美味しそう」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
「でもその前に、俺の方からも一つ頼みがあるんだ」
ちょっと気恥しいが、これをするための1日キャンプなのだからしょうがない。
「俺の自己紹介をさせていただきたい」
「トレーナーさんの自己紹介ですか?」
スペシャルウィークが目をしばたかせた。
わかるよ、いきなり自己紹介だなんて言われても困惑するのは。
「ああ、その、料理を作っているときに考えたんだが、その俺は、君達のことを書類上でしか知らなかったんだ」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
「だから、改めて、その、黄金新星の結成式もかねて、このキャンプをさせてもらったんだ」
あ、と黄金新星のみんなはあっけにとられた表情をした。
そういえば、そんなことしてなかったね、なんて言葉が顔にありありと浮かんでいる。
その後、俺から始まった自己紹介はベガとパーマーを巻き込んで全員が続けることになった。
書類上ではない、生の声で彼女たちと自己紹介をしあう、ベガとパーマーとどうしてであったのか話す等、色々と話した。
文字通り、話のタネが尽きるまで、今まで俺が逃げてきた時間を少しでも取り戻す為に。
彼女たちを不安にさせていた分を、少しでも埋めるために。
Result
・チーム「黄金新星」の正式な結成
・トレーナーがトレーナーとしての自覚を形成
・黄金世代全員の体力全回復及びコンディション絶好調
おまけ
「ちなみに私達二人が、今後黄金新星に正式に加入することになったわ」
「ということで、よろしくねみんな」
そういうと、ベガがポーチから折りたたまれた一枚の紙を取り出した。
驚く黄金世代、もちろんトレーナーもちょっとびっくりしている。
ベガから渡された紙には、樫本先生の筆跡でこう書かれていた。
トレーナー
貴方のことですから、自分ですべて補おうとしてしまう事でしょう。
しかし、一人でできることは限られています。
だからこそ、チームとしての強みを生かしなさい。
アドマイヤベガとメジロパーマーの二人を貴方のチームに特別移籍させます。
これで少しは、貴方の負担も軽くなるはずです。
私が先生として、何かしてあげられるのは今回が最後と思いなさい。
樫本理子
「先生、ありがとうございます」
そういうと、トレーナーはその紙を折りたたんで、胸の内ポケットに入れた。
その紙は後日、彼のデスクの内側に貼られることになり、彼は毎日それを読みながら、気合を入れることになるのであった。
改行や文章の行間等、読みやすいように変えてみました。
従来のやり方だと、どうしても文章が固まって読みにくかったように思います。
感想・誤字・脱字の指摘、お待ちしております。
おまけ
アドマイヤベガとメジロパーマーなら突っ込み役できるよね?
(実は不安しかない)