ここからはまた、あべこべ要素を出したやつを書いていきたいと思います。
ということで、第11話を投稿させていただきます。
第11話 距離の縮まった新バ戦
ゲートにいる全員がガン見であった。
それは、彼女たちが所詮「あだるてぃ」なサイトでしか見たことがなかった。
それは、まごう事無き男性の半裸であった。
それは、まごう事無き二度見の産物であった。
それは、黄金新星にとって、日常的に見慣れているものであったのだろう。
それは、私達の日常と彼女たちの非日常が大きく分かれたスタートダッシュだった。
結果から言おう、黄金新星は全員大差で新バ戦を勝ったのである。
黄金新星たちは、全員ちょっと不満げな顔をしていたが、まあ勝ったからいいかと、サラリと流してしまったのだが。
そして、負けた方は負けた方で、すごくいいものが見られたとある意味大満足して次の戦いに備えることにしたのだが。
最後に、この新バ戦で一番割を食ったのは、ほかでもない私達トレーナーかもしれない。
新バ戦時の、とあるトレーナーのメモより抜粋
時は遡り、新バ戦当日
「みみみみんな、いいいいいつも通りの成果を出せば、必ず勝てる、うん」
「トレーナーさ~ん、それ、もう10回は聞いてますよ~」
「トレーナーが緊張してどうするンデース?」
「それだけ私達のことを、考えてくださることは、いいことですが・・・・・・」
「んんんもう、そんなへっぽこなトレーナーじゃないでしょう貴方!」
「キングちゃん、ちょっと移ってる、緊張移ってる!」
「あわわ、なんだか緊張が止まらなく・・・・・・ごほっごほっ」
「はいはい、ツルちゃんは深呼吸して、大丈夫だってパーマーさんが保証するよ!」
「なんだか、すごく懐かしいわね・・・・・・私もこんなに緊張していたかしら?」
総勢9人、新人チームとしては異例の大所帯であった。
トレーナーからすれば、自分のチームの、自分の担当が栄光の一歩を踏み出すのであるからして、緊張で歯の根がかみ合わないのは当然のことである。
しかし、担当している彼女たちは全員がリラックスしていて、かついい具合に力が抜けている状態だ。
見るからに華麗なスタートを切れる、周囲にそう思わせるような空気を纏っている。
なにせ、ツルマルツヨシの血色が大変よく、かつ、軽いステップまで踏んでいるのだから、その調子の良さは折り紙付きと言えた。
「なんというか、俺の作る食事でよくこの1週間持ったね」
「あら、逆でしょ貴方の食事だから彼女たちも我慢できたのよ」
「そうだね、そこはベガちゃんに同意かな」
「そうか?」
「「そうよ/だよ」」
軽いウォームアップを行っている黄金新星たちを見ながら、トレーナーはふとつぶやく。
それは、この一週間の食事に関してだった。
レースに出る以上、食事制限等で体重はレース適性の体重にしなくてはならない。
そのため、レース一〇日前から食事制限を始めたのである。
具体的に言えば、黄金新星の6人がトレーナーの自作弁当を食べるようになった。
筋肉量を増やし、かつローカロリーに抑えるメニューで作られたそれは、ウマ娘用に量もそれなりにあった。
だが、それでも育ち盛りの彼女たちには足りないのではないかと、彼は毎日心配をしていたのである。
しかし、体重審査で一発合格、適正体重で勝負に臨めるという事になり、彼は内心歓喜しつつも不思議がった。
足りたの、あれでと。
そんな彼のすっとぼけた態度に溜息をつきつつ、パーマーとベガはそれを訂正する。
(ま、新バ戦に向けての打合せやら何やらで忙しかったのは分かるけどさー)
(あの子達、見せつけるようにしてトレーナー自作弁当を食堂で食べていたものねぇ)
パーマーとベガのアイコンタクト会話。
もうこれぐらいの長文は、声に出さなくてもわかる程度には熟達していた。
なにせ、男性からの手作り弁当なんてもらえるウマ娘が世界広とは言え、何人いるか。
あのシンボリルドルフでさえ、男性からお弁当等もらったことはないのだ。
それが、6人が6人、男性の手作り弁当をもらっているのだから、事は大きい。
食事の際、それを見つめる大勢のウマ娘達の怨念と視線は、凄まじいものだった。
例えばカレンチャンとサトノダイヤモンドの眼からはハイライトが脱走した。
例えばウォッカとダイワスカーレットが喧嘩を辞めて、虚無の瞳で6人を見つめた。
例えばキタサンブラックとサトノクラウンは持っていた食器を握り潰した。
例えばナリタトップロードが箸を握力で粉砕した、そんな怨念。
モテないウマ娘の怨念が、食堂に渦巻き続けていたのである。
それは、あまたの怪奇現象を巻き起こし、食堂は一瞬でホラーハウスに早変わりするほどだったのだ。
まあ、6人は6人でそんな状態の中でも美味そうに(そして実際美味しい)昼食タイムを崩さなかったのだが。
(まあ、あたし達も昼食ごちそうになっているからねー)
(さすがにこれを注意することはできないわね)
そしてちゃっかり、パーマーとベガもお昼を作ってもらっていた。
だから彼女たちは、彼のいう事をやんわりと否定することにとどめた。
ウマ娘への愛情がたっぷりと込められた弁当である、お腹は八分目どころか五分目位かもしれないが、気持ちは満腹だった。
そんな愛情弁当をこれ以上ほかの連中にくれてやるものか、と2人はそう考えていたのである。
なお、8人分の弁当を作っているおかげか、トレーナーの家事力は限界突破しているのだが、それはまた別の話。
そして、トレーナーに忘れられたアグネスタキオンが干からびかけた状態で発見されたのも、また別の話である。
―――――(トレーナー)―――――
「ひぃ、残暑とはいえ、今日は特別に暑いなあ・・・・・・ごくごく」
スマートフォンの天気予報を調べてみると、なんと最高気温が35度もある。
9月の新バ戦において、こんなに暑いんじゃああの子達も熱さと緊張でどうにかなってしまうのではないか?
実は俺は、まさに熱中症にやられていたのだが・・・・・・この時は気が付いていなかった。
そして、俺は女性観衆の中、大変気恥ずかしいことをやってしまうわけである。
(ワイシャツ・・・・・・汗・・・・・・気持ち悪い・・・・・・)
手元の水筒を空にしつつ、頭の片隅にあるのはそんな気持ちだった。
その時、ふと頭の片隅からこんな記憶が、まるで泡のように浮き出てきた。
そうだ、某グルメの原作の彼も言っていたじゃないか。
暑い時にはどうすればいいか、そんなの決まってる。
(そうだ、脱げばいいんだ)
今、こうして冷静に考えても、周囲が女性の中で、なんで脱ごうと思ったのか理解に苦しむ。
だが、その時の俺はこれが解決の一手と信じて疑わなかった。
「パーマー、すまないが飲み物を買って来てくれないか・・・・・・ベガの分も含めて」
「あら、自分の位自分で出すわよ・・・・・・それじゃあ、行きましょう」
「あー、うん、トレーナー今日は暑いから気を付けてね」
「そうね、木陰に避難しておくことをお勧めするわ」
そう言いつつ、ベガとパーマーは席を立ち飲み物を買いに席を離れた。
十分に彼女たちがいなくなったのを見計らい、俺は自分のワイシャツに手をかけた。
レース会場に残念ながら木陰がない、今ならばベガが「木陰で脱ぎなさい」と言っていたとわかるのだが・・・・・・残念ながら当時の俺はそんなこと考えもつかなかった。
ただ、暑さと不快感から解放されたい一心だったのだ。
(うへ、ワイシャツが絞れる・・・・・・)
試しにワイシャツを絞って見ると、なんと汗が大量ににじみ出るじゃあないか。
シャツも脱ぎたいが、周りは女性・・・・・・さすがに上半身裸はダメだろう。
(とはいえ、だいぶ涼しくなったぞ)
体を抜けていく涼しい風は、火照ったからだに染みわたる。
そして、彼女たちのレースが始まる。
(そして運がいい、今回は全員がバラけることができた)
第一から第六まで、全てのレースに黄金新星はバラけることに成功した。
通常のレースならば、むしろつぶし合い上等だし、それがレースだと割り切れる。
だが、新バ戦はデビュー戦であり、むしろデビュー確率を高くするためにもバラけてくれる方がいい。
そのため、俺が恐れた「誰かが敗北」はどうやら起こらないようだ。
え、なんで負けないなんて言えるのかって・・・・・・そりゃあ、俺の愛バだもの。
まず、第一レースはスペシャルウィークが来る。
俺ができることは何か、そんなことは決まっているだろう。
《さあ、各ウマ娘ゲートに入りました》
そのアナウンスが聞こえたとき、俺は立ち上がった。
そして、腹から声を出していたのだ。
「いけるぞ、スぺちゃーん!!」
――――――(スペシャルウィーク)―――――
「いけるぞ、スぺちゃーん!!」
その声が聞こえたとき、私の耳はその声の方を向きました。
でも、視線はまっすぐ前を向いていた。
(はは、勝利の神様が応援してくれている・・・・・・なんてね)
ちょっと柄にもない事を思う、それぐらいの余裕が今の私にはある。
ううん、私達黄金新星には全員ある。
あの日、みんなでキャンプに行った日、私たちの距離は縮まった。
どこかにあった壁は崩れ、今は真剣に、お互い向き合えている。
そんな私達が今やること、それは、一番大事な「最初の1勝」を彼にプレゼントすることだ。
私たちの事を考えてくれていた、そんな彼のためにも、今日この1勝は絶対に落とさない。
今の私ならば、どんな相手だって勝てる!
ゲートが開くまで、秒読みを心の中で唱える。
(3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・今ッ!)
ゲートからのスタートダッシュは最高、今までの中で一番いいダッシュを切れた。
何故か、後ろの子達が全員遅れていたが、そんなことは気にしない。
ぐんぐんと加速して、私が一番になっている。
(いける、行ける、勝てる!!)
中距離直線
中距離コーナー
今はまだ、この2つしか習得していないけれど。
この2つがまさに火を噴いているのがわかる。
だって今の私には、場内アナウンスに耳を傾ける余裕すらあるのだ。
《いやしかし、全員出遅れでスペシャルウィーク独走です!》
《まあ、しょうがないですよ、【あれ】を見ちゃったら・・・・・・》
あれ、が何かわからないけれども、今の私はそんな事関係なしに風になっている!
さあ、トレーナーさんへ捧げる最初の1勝はもうすぐだ!
《さあスペシャルウィーク、2位以下に大差をつけて今ゴールイン!》
見ていてくれましたか、トレーナーさん!!
―――――(モブウマ娘)―――――
緊張している、心臓が口から出そう、正直逃げ出したい。
そんな気分の新バ戦で、一人だけ違うオーラを纏っている子を見た。
なんか、キラキラしてる。
一番大外で、外れの番号なのに、なんていうかもう「勝った」と言わんばかり。
さすがに腹が立つけれど、でも正直その精神力は少しほしい。
「うっぷ・・・・・・」
緊張で吐きそうだ、というか吐いた。
トイレで全部のものを出し切った。
まあ、胃液しかなかったんだけどさ。
しょうがないじゃん、いくら練習したって、勝利するイメージってゆうのが、その、湧いてこないんだから・・・・・・。
うう、トレーナーさんに叱られるかもしれないなぁ・・・・・・怖いもんなあ・・・・・・。
ああ、ゲート動作不良とかで、明日に繰り越しになんないかなあ・・・・・・なんないよなあ。
《第一レース、出走選手各員ゲートイン完了》
アナウンスが流れる、もう後戻りはできない。
その時だ。
「いけるぞ、スぺちゃーん!!」
ありえない声が聞こえた。
いや、新バ戦に男の人の声とか、絶対にありえない。
ありえたらそれは、天変地異の前触れに違いないと思う。
モテない歴=年齢のアタシ達ウマ娘にとって、その、男の人がわざわざ新バ戦に来るなんてありえない。
脳が拒否している、思考がありえないと叫んでいる。
だから、だろうか。
(どこのドイツだ、こんな悪趣味な事をする奴は!)
こんな風に考えて、アタシ含めた全員が声のする方を睨みつけちゃったのは。
そして、見てしまったのだ。
(なん・・・・・・だと・・・・・・)
上半身が汗で濡れ透けている、そんな男の人の姿を。
ゲートが開いた音がして、一番大外のあの娘が走り出した気配がして、たっぷり3秒後にあたしを含めた全員が走り出したのである。
だって、しょうがないじゃん。
男の人の生半裸だよ、年頃のアタシたちがガン見しちゃうのも無理はないよね。
だから、その、出遅れは不可抗力ということで・・・・・・
―――――(スペシャルウィーク)――――――
大変だ、トレーナーさんが大変だ。
「ほふぁあっ!?」
「よくやったぞ、スぺちゃん!!」
今、私は抱きしめられてわしわしと頭をなでられています。
おかあちゃん、私は一足先に旅立ちそうです・・・・・・はっ!!
違う、そうじゃない、そうじゃないってば!!
明らかにトレーナーさんがおかしい、おかしいレベルのスキンシップですよこれは!!
「トレーナーさん、大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫なんだが?」
あ、これ大丈夫じゃないですね。
無理やり自分からトレーナーさんを引きはがして聞いてみる。
その答えがこれだ。
オグリ先輩じゃないんだから・・・・・・。
というか、今気が付いたけど汗がすごい。
シャツは透けていて、上半身裸に近い。
目の保養・・・・・・じゃない、これは大変危険な状態じゃないかな!?
(確か、こんなに大汗をかいている場合・・・・・・)
顔色もなんだか優れないし、汗のかき方が尋常じゃない。
足元もなんだかふらついている気が、いや、ふらついている。
確か保健体育の授業で習った中に熱中症に関することがあった。
「トレーナーさん、この指は何本に見えますか?」
「はは、スぺちゃん何を言っているんだ、勝利のブイサインじゃないか」
「おお、もう」
手遅れ一歩手前だー!?
私は指一本しか建ててないのに、勝利のブイサインと勘違いしているー!?
手元に水はない、手元に頭を冷やせるような何かがない、どうしよう、全部待合室において来ちゃった!!
その時だった。
「貴方たち何してるの?」
「スぺちゃん、百面相になってるよー?」
ベガ先輩とパーマー先輩が、ミネラルウォーターのペットボトルを手に現れたのだ。
「すいません、言い訳は後で話しますからっ!!」
「え、何!?」
「ちょ、スぺちゃん!?」
二人の手から水をひったくると、片方の水をあけてトレーナーさんの頭にバシャりと振りかけた。
頭から湯気が出る、なんて比喩表現が現実で起きるのを私は初めて見ました。
「う、あ、スぺちゃん何を・・・・・・」
「しゃべらなくていいですから、まず、この水を飲んでください!!」
「は、はい」
私の剣幕に押されたのか、ごくごくと水を飲み始めるトレーナーさん。
事ここに至って、先輩たちもトレーナーさんの異常を察知したみたいだった。
「これ、熱中症の症状じゃないかな」
「はぁ、いつも気をつけろと言っている貴方がどうして・・・・・・」
「多分、緊張して暑さがわからなかったんじゃないでしょうか」
「成程・・・・・・医務室に運ぶ?」
「そうね、念のため担架をもらってくるわ」
「いや、ありがたいけど、大丈夫・・・・・・一人で何とか出来るさ」
500ミリの水を飲み干し、そして頭の上からも水をかぶったおかげか、多少回復したみたい。
でも、心配だなあ。
「すまないが、俺が戻るまでこいつを使って応援していてくれないか」
―――――(トレーナー)―――――
これを受け取ってもらえないか。
そう言って、俺は持って来ていたカバンの中身、即ち手作りうちわを差し出した。
スイッチ一つで光る、光ファイバー内蔵型の無駄に凝った応援うちわである。
うちのメンバー全員分を夜なべして作った、俺の自信作だ。
これで、残りのメンツを応援してやってほしいと、スぺちゃん達にそう言った。
勿論、俺はもう大丈夫・・・・・・とはいかない。
近くの自販機に行き、スポーツドリンクを買って戻ってくる。
ただ、次に走るエルの応援には間に合いそうにない。
ううむ、慢心によるこの事態、反省しきりである。
―――――(エルコンドルパサー)――――――
「エルちゃん、がんばれー!!」
「エルー、負けんなー!!」
「頑張んなさい、エル」
おおう、なんという三者三葉の応援デース。
というかトレーナーさんはどこに行ったんですカ?
なんでみんなエルの名前が書いてある応援うちわを用意しているのですカ!?
は、早く終わらせて訳を聞きに行かなくてはなりまセーン!!
《・・・・・・スタート!!》
スタートの合図が聞こえ、エルは飛び出しました。
ゲート練習のおかげか、難なく飛び出すことができただけでなく、なんと、エルは今トップを走っています。
(どうやら逃げの脚質はいないみたい)
即ち、先行策有利の状況であるという事。
あれ、もう1600を超えたんですか?
あれれれ、なんというか、何のドラマもないまま勝っちゃいました・・・・・・まあいいか。
それよりも、あの応援は何だったのか聞きに行きマース!
―――――(キングヘイロー)―――――
「「「「「キング、キング、がんばれっ! キングヘイロー!」」」」」
「何事なの!?」
なんでキングコールしながらギニュー特戦隊なの、なんで!?
いえ、その、うれしいわよ?
ちょっと緊張していたのは事実だし、トレーナーの応援は力になるし、同期の応援はとっても嬉しいわよ?
でも、なんで特戦隊ポーズしながらキングコールなのよ!?
しかも、無駄にきらきら光る応援うちわのせいで、私を応援しているのが丸わかりじゃないの!?
「ふっっ」
「くぅふふふ」
「貴女、大変ね・・・・・・くくっ」
ああああああ、もう、このキングヘイローの華麗なるデビュー戦が、なんか、お笑いの前座
みたいになっているじゃないの!!
《ハイ、そこのノリノリで応援している人たち、少し控えてくださいねー、走る子達の邪魔になりますからねー》
もー、あのへっぽこぉぉぉぉぉぉっ!!
案の定、アナウンスで注意されているじゃないのぉぉぉぉぉッ!!
「あんのおバカ、問い詰めなきゃいけないわ・・・・・・」
この2000メートルを走り切って、さっさとあのへっぽこトレーナーになんでこんなことしたのか、問い詰めなきゃいけないわ。
さあ、全員このキングヘイローの勝利への道を開けてもらうわよ!
―――――(グラスワンダー)―――――
待合室で精神統一を図りました。
これで私の精神は鋼・・・・・・とは言いませんが、ハプニングに動じないと言えるでしょう。
噂では、もう黄金新星のメンバー3人が勝利しているということを聞きました。
(負けていられません、私も勝利を)
そして、トレーナーさんにこの一勝をささげましょう。
そう考えて、パドックに入ったのですが・・・・・・。
「ぶふっ!!」
吹きました。
ええ、思いっきり吹きましたとも。
なんで、皆で某トレインの回るパフォーマンスをしているんですか!
しかも、キングさん、貴女まで!!
パーマー先輩とベガ先輩も、仕方ないなあなんて感じでやらないでください!
スぺちゃんとエルはなんで満面の笑みでノリノリなんですか!!
そしてトレーナーさん、貴方は何をしているんですか、彼女たちを止めなさい!!
いえ、私の応援うちわを用意してくれて、なおかつ、見事なチアリーディングをしてくれるのはいいんです、ええ、目の保養になりますから。
でも、さすがにこれは・・・・・・はっ、まさか!?
緊張するなというメッセージ!?
ええ、解りました、このグラスワンダー空気を読みました。
さあ、出走しましょう、そしてあの乱痴気騒ぎに私も飛び込みましょう!!
―――――(セイウンスカイ)―――――
なんでも、変な応援団がいるらしいんだよねー。
ウマ娘と男性一人の変な応援団、いやぁ、セイちゃんとはなんも関係ないと思いたいな~。
うん、絶対うちのメンツだよね。
セイちゃん分かってる、絶対セイちゃんに仕掛けてくるでしょ。
「まあ、そのすべてを利用して勝利をつかむのがセイちゃんなので~」
誰に聞かれることもなく、私は自分のモットーでもあることをつぶやく。
精神統一というか、レースに入る前にスイッチ切り替える、あれ、あれですよ。
そして、パドックへと言ったわけなんですけれども・・・・・・。
「「「「「「セイウンスカイ!」」」」」」
「あ、命!!」
「ぶほぉっ!?」
セイちゃん名指しですか!?
っていうかネタが古いわっ!!
掛け声にグラスがノリノリで参加しているのもわけわからないしー!
周囲からはものすごい笑い声が聞こえてくるし・・・・・・恥ずかしいぃぃ。
しかもトレーナーさん、命のポーズしてるとき上半身ほぼ裸じゃん、やばいじゃん。
その裸はセイちゃんのものなのに、なんでほかの子にも見せちゃうのさ!!
もう、あれだ。
速攻で逃げ切って、トレーナーさんに文句言いに行かなくちゃいけないよね!
《3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・スタート!》
速攻、逃げ切り、大勝利ってね!
―――――(ツルマルツヨシ)―――――
本日最後の出走になりました、ツルマルツヨシです。
トレーナーさんの作ってくれた食事のおかげで、体の不調はかなり抑えられていて、調子自体は上向きです。
(みんなこのレースで勝ったって聞いた)
噂では、すごい応援でやる気がものすごく上がるって言われていました。
どんな応援なのか、私にはいまいちわかんないけど。
(応援してもらえるのはいいことだよね)
体の弱さからくる、私の体質。
そのせいで、あんまり応援とかとは縁がなかった。
『またツルちゃん最下位だった』
『仕方ないよね、体弱いもん』
『ウマ娘なのに、体弱くて走れないって変なの』
そんな言葉を、小さい時から聞いてきた。
悔しかった、悲しかった。
お母さんにどうして、こんなに弱い体で生まれたのと、今思えばひどい言葉を投げつけたこともある。
友達なんか、できなかった。
ウマ娘の友達は、いなかった・・・・・・走るのが苦手な私のせいで。
人間の友達は、いなかった・・・・・・体が弱すぎる私のせいで。
(でも!)
今は違う、そう思いたい。
こんな体でも、友達として受け入れてくれたスぺちゃん、キングちゃん、エルちゃん、スカイさん、グラスさん。
そして、こんな私を・・・・・・担当すると言い切った、トレーナーさん。
「みんなのためにも、私がここで勝つんだ!!」
小さな声で、しっかりした声で、自分を鼓舞する。
体の弱さに気持ちで負けたら、文字通りすべてに負けてしまう。
「ツルマルツヨシ、行きますっ」
パドックへと私は向かう、どんな光景が広がっているかわからないけど。
「・・・・・・わぁぁ」
感嘆の声が出た。
こんなにも、応援されていたのは、もしかしたら初めてかもしれない。
そこには大きな横断幕でこう書かれていた。
『飛翔、ツルマルツヨシ!』
そして、皆の声がする。
「ツルちゃん、がんばれーっ!!」
「ヘーイ、ツルちゃんが最強って見せつけるデース!」
「ツルマルさん、心頭滅却です、焦らないでっ!」
「ツヨシさん、大丈夫、このキングが付いているのだからッ!」
「ほどほどなんて言わない、全力で行っちゃえー!」
「ツヨシーっ、大丈夫、君は強いよーっ!」
「貴女の全力を見せてあげなさい!」
私の応援うちわがキラキラ輝いていて、すごくきれいです。
そして、彼の大きな声が私の耳に届きました。
「ツルマルツヨシーッ、俺の愛バは日本一、ここで負けるわけがないっ!!」
トレーナーさんの全力の応援が、私の中にあった弱い自分を吹き飛ばしてくれました。
ツルマルツヨシ、行きます!
《3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・スタート!!》
私は、ゲートから勢いよく飛び出しました。
―――――(トレーナー)―――――
ツルちゃんの勝利を見届けたとき、パーマーが俺に話しかけてきた。
「それにしても、こんな大それたことを用意していたなんて・・・・・・さすがに驚いたよ」
「まあな、ほら、よく言うだろう・・・・・・踊る阿呆に見る阿呆、同じあほなら踊らにゃソンソン、だっけか」
「なんか使い方間違ってる気がするけどね」
くすくすと笑い、俺の隣に座る。
俺もこの暑さの中で、目いっぱいを出し切った以上、立っていられない。
観客席に座り込んでいた。
俺の目の前で、ツルちゃんの為に用意した横断幕をスぺちゃんたちが片付けている。
俺とツルちゃんの個人面談の時、ツルちゃんに聞いたことを思い出した。
ツルちゃんは、元気でごまかされそうになるが体が病弱だ。
それ自身、生まれ持ったものである以上、治癒の見込みとかはあんまりない。
だからこそ、ツルちゃんは不安なのだといった。
皆と一緒に勝ちたい、けど、気持ちがどうしても上向かない、怖いと。
勇気をもって、俺に打ち明けてくれた以上、何とかするのがトレーナーというものだ。
その日から、夜なべして大きな横断幕や、応援用のうちわなどを作り始めた。
そして、ツルちゃんが最終レースであることを確認して、チームのみんなを巻き込んでいったのだ。
ツルちゃんが、自分の体のことで不安がっているという事も、打ち明けた。
全員二つ返事でOKしてくれたのにはびっくりしたが、これで準備は整ったんだ。
このレースでツルちゃんは、顔色悪く、下を向くようなことはなかった。
ああ、本当に良かった。
俺は、そう思いながら撤収のためのライトバンを取りに行くため席を立つ。
「パーマー、後の事任せていいかな?」
「はいよー、パーマーさんに任せときなよ」
サムズアップで答えてくれたパーマーに笑いつつ、俺は駐車場に向かうのだった。
なお、これは後日談だが・・・・・・
トレーナーの上半身ほぼ裸の画像が、なぜか出回るようになってしまった。
なんと、新バ戦を取っていたTVクルーが映像を流出させてしまったのだという。
そのため、彼に会いたいと、彼に担当してもらいたいと、地方から中央への編入試験の倍率が200倍を超える事態となってしまうのは、少し先の話だ。
そして、一般公募の倍率が1000倍を超えるという超事態に秋川理事長とたづなさんが胃炎を発症してぶっ倒れるのだが、それもまだ先の話。
これで一区切り、新バ戦までが完了しました。
ここからまた不定期な更新になると思われますので、
よろしくお願いいたします。
感想・誤字等の報告等お待ちしております。