そんなこんなで第11.5話を投稿させていただきます。
ウマ娘世界の蹄鉄に関する、独自の設定がありますので、
苦手な方はご注意ください。
第11・5話 蹄鉄を買いに行こう
「よーし、じゃあ記念写真撮るぞ」
「「「「「「イエーイ!!」」」」」」
「あはは、喜んじゃってまあ」
「いいんじゃない、新バ戦に勝つ事がまず第一歩だもの」
トレーナー室でチーム「黄金新星(ゴールデンノヴァ)」は記念写真を撮っていた。
それは、新バ戦で6人全員が一発勝利をした記念としてだ。
いつぞやの、資料やトレーニングの論文であふれかえっていた黄金新星の部室は、今は写真立てやレース関連の雑誌が入った棚、大型テレビ等が置かれていた。
棚の中には、ゴールデンノヴァ専用と書かれた写真用ファイルが存在していた。
今回撮った写真は、まさにその一ページ目にふさわしいものとなるだろう。
さて、とトレーナーは一息ついた。
紆余曲折ありながらも、彼女たちとの距離も近づいたし、いいことだったのかもしれない。
そう思っていた、この時までは。
「そういえば、スポーツショップで買った蹄鉄もう擦り切れちゃった」
「それじゃあ、新しい奴を買いに行くデース!!」
「そうね…………でも、お小遣いで足りるかしら?」
「そりゃあ、バーゲン品とか買えばいいんじゃない?」
「これから、真剣勝負に挑むのに、バーゲン品はちょっと…………」
「今の私達じゃあそれぐらいしか買えません、賞金手に入れるまでは我慢です!」
「まて、今なんといったんだ君たちは」
女子中学生ウマ娘の他愛ない会話。
しかし、そこにトレーナーとして聞き逃してはいけない単語が含まれていた。
「へ、あ、いやあ蹄鉄擦り切れちゃったなあと」
「成程スぺちゃんありがとう、セイちゃん君はそれになんと返した?」
「え、バーゲン品」
「オーマイゴッド!」
「ど、どうしたんですかトレーナーさん!?」
スペシャルウィークがものすごい心配して彼の隣に駆けつける。
それに対して、彼の一言は彼女を驚かせるのに十分だった。
「スぺちゃん、脱げ」
「ふへっ!?」
「「「「「!?」」」」」
「違うでしょ、トレーナー?」
「はっ、すまんベガ…………スぺちゃん、靴下を脱ぎなさい」
「…………へ、あはい」
そして、靴下の下から出てきたスペシャルウィークの足は、ちょっと酷いことになっていた。
具体的に言えば、足の爪にひび割れがあったのだ。
「ああ、やってしまったぁぁぁ!?」
「うわ~、見事に細かいヒビが入ってる」
「オーウ、スぺちゃん大丈夫ですカ?」
「え、うん…………痛みとかは感じないかな…………うん」
「そうだね、完全に割れてないからそこは安心かな」
頭を抱えたトレーナーに変わり、スペシャルウィークの足をチェックしたパーマーが、心配することはないと言う。
事実、ウマ娘の足の爪は人間のそれに比べて強度は大変強い。
そのため、ちょっとのことでは割れないのである。
とはいえ、ひびが入っているのは問題ではあった。
「よしみんな、これからやることが決まった」
「何をする気なのよ」
「安心してくれキング、突拍子もない事をするわけじゃない、むしろ俺の不手際だった」
「トレーナーさん、自分で何もかも抱え込まないでください、そう何度も忠告しましたよ?」
「その通りだグラス、今日俺たちはこれから【蹄鉄を作りに行く】」
「蹄鉄を作りに行く、デースか?」
その通り、と大げさに頷くトレーナー。
その目にはらんらんとした光と共に「あー行きたくねえなあ」という背反する感情が見て取れた。
何とも珍しいこの反応に、8人全員が顔を見合わせるのであった。
────―(トレーナー)────―
なんという失態だろうか。
彼女たちにまず一番初めに…………勝負服よりも先に渡すはずの蹄鉄を用意していなかったなんて!
クソ、俺のバカ野郎が!
そんな風に心の中で怒り狂いながらも、俺は努めて冷静に彼女たちに接する。
だって、彼女たちに本当に何の責任もないからね、もし八つ当たりしようもんなら俺は自分の舌をかみ切る用意がある。
さて、爆速で外出届を用意し、3倍速で理事長とたづなさんに事情を説明し(3倍速で注意されたぜ)、そんなこんなでパーマー2号を飛ばしつつ俺たち一行はとある企業にたどり着いたのである。
〈レースと言ったらめ~じ~ろ~〉
車内のラジオからも流れてきたコマーシャルソング、これ、歌っているのはなんとあのメジロ一門である。
ちなみにパーマーも歌っているらしく、本人はかなり恥ずかしがっていた、かわいい。
そう、俺たちがやってきたのはメジログループに名を連ねる企業「メジロインダストリアル」傘下にある「株式会社メジロスポーツ」である。
メジロスポーツはただのスポーツ専門会社ではなく、蹄鉄から勝負服の作成に至るまで、レースに関することならば何でもそろういわば「レースの万事屋」なのだ。
そして、ここにはもちろん「蹄鉄部門」がきちんと存在していて、日夜良い蹄鉄を作るための試行錯誤が繰り返されている。
そして、俺の姉の就職先でもあり、俺は姉のつてで本社の方へ来ることができたのである。
「やっと来たか、この愚弟」
「いきなり過ぎないか姉さん」
「アホ、期限ぎりぎりに電話かけてきていきなりも何もあるか」
「すんません、おっしゃる通りです」
「納期にはきちんと間に合わせる、ほら、さっさと始めるぞ」
いきなり現れたウマ娘の女性は、開口一番俺を罵った。
まあ、仕方ない事でもある。
なにせ、本来ならばもっと早く蹄鉄を発注しなければいけなかったのだ。
だが、全員が新バ戦に勝ったことで有頂天になっていた俺は、まさに期限ぎりぎりのところで、今回の【オーダーメイド蹄鉄】のことに気が付いたのである。
これから先、ジュニア級以上を戦うことになるため、一般的な市販品ではなく、使用者の足に合ったオーダーメイドの品を購入しなくてはならない。
市販品は、その「微妙な差異」を考慮に入れていない為、先ほどの足の爪のひびのような事態が発生しやすいのである。
特に、彼女たちウマ娘はレースの最後、最終直線におけるあの超前傾ともいうべき姿勢を維持するために、足の指に負担がかかりやすい。
そのため、地面をつかむ強力なグリップ力が当然必要となる。
だが、レースの賞金がまだない新バ戦を勝ったウマ娘にとって、よい蹄鉄というのは高い。
その為、新バ戦を勝ったウマ娘に蹄鉄をプレゼントするのが中央トレーナーの暗黙の了解なのだ。
新バ戦がウマ娘からトレーナーへのプレゼントだとすれば、この蹄鉄はトレーナーからウマ娘への激励の意味合いがある。
その激励を、俺は忘れていたのである。
「さあ皆、これから足のサイズとかを図るから、用意してくれ」
「うわぁ、なんというか、すごい人でしたね」
「トレーナーさんのことを愚弟と言い切りマスカ…………」
「一種の、達人の域に入った、そんな気配を感じます」
「うーん、レースに出てる私達と違う空気を纏ってるね~」
「キャリアウーマンとはちょっと違うわね…………」
「企業所属のスポーツ選手、みたいな感じでしょうか?」
「ほら、話していないで貴方達用意をしなさい」
「「「「「「はーい」」」」」」
いきなりの事で目を白黒させていたチームの面々だったが、ベガの一括でぞろぞろと姉の後に続いて作業場に入り始めた。
ベガ自身、この会社に来るのは2度目くらいだとは思うが、それでも慣れている子がいてくれると助かる。
パーマーか、彼女はもう姉と一緒に奥の試着場に行ってしまったよ。
なんだかんだ言っても、彼女もまた『メジロ』なのだという事だろう。
────―(試着場)────―
試着場というと、どのようなものを想像するだろうか。
デパートの紳士・淑女服の売り場を思い浮かべるだろうか。
それとも、多少カジュアルな店を思い浮かべる人もいるかもしれない。
だが、このウマ娘用の試着場は少々事情が異なる。
紳士・淑女の洋服売り場のように多種多様な蹄鉄や勝負服、更には本番用の靴が用意されており、選んだ蹄鉄を実際のレース用靴にはめて見る。
そして、併設されている2000メートルコースで走って調子を確かめるのである。
「すっごーい」
スぺちゃんの眼が点になっている。
いや、ほかのメンツも同じようなものだ。
ただ唯一、メジロパーマーとアドマイヤベガだけが慣れたように寛いでいる。
まあ、ベガに関してはおそらく何回か訪れているし、パーマーからすればいわば「自分ちの延長線上」にある場所だ。
だから緊張なんてしないんだろう、たぶん。
姉以外にも、複数人の(おそらく同僚か)蹄鉄部門の人がいる。
「それで、アンタの担当6人+2名の蹄鉄を見繕えばいいんだな?」
「ああ、それでいい…………けど姉さん、その、大変じゃないか?」
「ああ、普通なら日にちを分けて一人一人十分な時間を…………どこぞのバカがギリギリに申請を出したおかげで、巻きで仕事せにゃあならない…………納期ってわかるか?」
「その節は、まことに申し訳ありませんでした」
平身低頭とはまさにこのことだろう。
その気になれば、文字通り土下座する勢いで俺は姉に頭を下げた。
弟という生き物は、姉に一生勝てない生き物なのだ、ああ哀れ。
しかも、言っていることは至極当然のことだから、何の言い訳も思い浮かばぬ。
「本当ならアタシが一人一人やるところだが…………今回は先輩や同僚に話をつけてある、全員別々の人の所に行ってくれ」
「「「「「「はーい」」」」」」
「うん、いい返事だ…………それじゃあ、スペシャルウィーク、こっちに」
「はいっ」
姉の言葉に、スぺちゃんは元気よく頷くと、試着スペースにかけてゆくのであった。
────―(スペシャルウィーク)────―
「成程、靴のサイズが左3.5の右が3.0ね…………」
「…………」
「それで、蹄鉄はどうするかな…………スペシャルウィークさん、どんな蹄鉄がお望みですか…………スペシャルウィークさん?」
「へ、あ、すいませんトレーナー…………じゃなくてお姉さん」
「ふむ…………あー、そのなんだ、呼びにくいなら『ダッシュ』でいいぞ?」
「ダッシュ、さん?」
「ああ、中央に入学しても一勝もできなかった…………そんなよくあるウマ娘の名前さ」
「う、あの、その」
「ああ悪い、そもそも私はレースより蹄鉄とかそっち方面が好きでね、初めから中央でその方面を学ぶために入学したんだ」
「へー、すごいんですねえ」
作業をしている横顔が、トレーナーさんに非常によく似ていたので、見とれてしまいました。
いつも頑張っているトレーナーさんのお姉さんだけあって、横顔が本当によく似ています。
「うん…………なんだ、アタシの弟と似ているかい?」
「えっ、言葉に出しましたか!?」
「いや、目は口程に物を言うというだろう?」
「うぅぅぅ、恥ずかしいぃぃぃ」
「ははは、厄介だろうあのバカは」
ポンポンと会話を交わしつつ思ったのですが、全体的にお姉さんはトレーナーさんと雰囲気がよく似ています。
こうして話しているときも、緊張を感じさせないというか、緊張がどんどん解れていくというか、こう、話しやすいというか。
更に、その手は口とは真逆にすごい勢いで動いていて、この人が所謂「職人」と言われる人なんだなあとしみじみと思います。
ふぅ、とお姉さんが一息つきました。
まあ、確かにずっと作業しっぱなしでは疲れるだろうし、休憩でもするのかな?
「スペシャルウィークさん、一応これで君の蹄鉄は仮止めできた」
「へっ」
「ちょいとボコボコしているが、あの2000メートルコースを軽くでいいから走ってみてくれないか」
「え、あ、はい」
「全速力で走ると、スカートの中が見えちまうから、気を付けてな」
「はいっ!」
驚いたことに、私の足には不格好ではあるけども、しっかりした造りの競技用ブーツが装着済みでした。
足の裏を見ると、銀色に光る蹄鉄もきちんと装着されています。
(いつの間に取り付けたんだろう…………)
体をひねってみると、少し骨の鳴る音がします。
軽くストレッチをして、制服で走り出しました。
「うわぁ、すごい」
軽く走るだけで、足元が全然違うのがわかります。
なんというか、こう、足で地面をつかむ感覚が全然違うんです。
今までの、スポーツショップの蹄鉄はこう、その「グッ」て感じだったのが、この蹄鉄を付けた足は文字通り「ガシッ」と地面をつかんでいる、そう感じます。
(軽く走っているだけなのに、すごく気持ちよく走れる!)
蹄鉄一つでこれだけ変わるのか、と実感させられました。
あっという間に2000メートルを走り切ります。
あれ、少し重く感じるのは、なぜだろう?
「あの、その、ダッシュお姉さん、すごいですこの蹄鉄…………お姉さん?」
「ダメだな、その蹄鉄は外そう」
「え、でも…………」
「足の裏見てみ」
「?」
渋い顔をしていうダッシュお姉さんの言葉通り、足の裏を見てみます。
「えっ!?」
「ちっ、やっぱりか」
右足の蹄鉄が、大きく浮き上がっていました。
更に、浮き上がった蹄鉄の間に砂と芝が入り込んでいて、それがさっきの違和感の正体でした。
「ふむ、オーソドックスな鋼鉄製だったんだが…………やはり剝がれたか」
「やはり?」
「ああ、これはいわゆる「一般的なウマ娘」が使用するタイプの蹄鉄だ…………可もなく不可もない、特徴がないのが特徴のやつだ」
「あ、あはは」
「だが、君の脚力は軽い流し走りでこの蹄鉄をダメにして見せた、いいじゃないか」
「えっ、でも、その、弁償とかそういうの…………」
「いや、蹄鉄を勧めたのはこっちだから、責任はアタシにある、心配すんな」
少し椅子に座って待っていろ、とそう言ってダッシュお姉さんはバックヤードに引っ込んでいきました。
何をしに行ったのかなぁ?
-----(全員side)-----
スペシャルウィークが大人しく椅子に座って待っていると、ほかのメンツもスペシャルウィークの所に集まってきた。
どうやら、彼女たちを担当していた店員に、スペシャルウィークの所に集まるようにと言われたらしい。
「どういう事なのかしら?」
キングヘイローが開口一番に切り出す。
なんでも、彼女の走りを見た店員は、顔色も目の色も変わったらしい。
そして、それはほかのメンツも同じだった。
そこに、ダッシュがやってきて言った。
「お前さん達には、いわゆるレースの才能ってやつがある」
「「「「「「…………」」」」」」
バックヤードで聞いたが、全員普通の蹄鉄ダメにしたんだってな。
そういうダッシュの顔は、非常にうれしそうで、楽しそうだった。
「そこで、ちょいと材質が変わっている蹄鉄と、精製方法が変わっている蹄鉄を用意したから、こいつで試走をしてみてほしい…………あ、全員汎用勝負服を着用してな」
「あの、トレーナーさんはどこに?」
「ああ、スペシャルウィークさん、心配無用さ君たちの勝負服のことで、被服部との打ち合わせ中だ」
「ほぁぁ」
トレーナーの仕事の件について、スペシャルウィークがあんぐりと口を開けた。
まさか、ここで自分たちの勝負服も作っちゃうんだあ、という思いがありありと浮かんでいる。
それは、ほかの面々も同じなようで、程度の差はあれどもトレーナーの行動力には驚いているようだった。
「というわけで、これから皆の蹄鉄に関してはこのパーマーさん達が担当しちゃうから、よろしくね」
「一応、私達も蹄鉄を使用しているから、アドバイスとかできると思うし」
「ああ、なるほどデース」
「確かに、走りに関することは、トレーナーさんでは難しいですね」
「そういう事、それじゃあぱぱっと始めちゃおうか」
「「「「「わかりましたお嬢様」」」」」
「そのお嬢様ってやめてよー、恥ずかしい」
パーマーのやる気に満ちた声に対して、従業員たちが全くそろってお嬢様と呼んだ。
そのことで、黄金新星の面々は「そういえばパーマー先輩はお嬢さまだったなあ」と今更ながらに思い出したのであった。
そこからの流れは、まさに圧巻である。
なにせ、次から次へとブーツが出てくるのだ、シンデレラもびっくりの高速ブーツ履き替えが始まった。
その速さたるや、かのキングヘイローとグラスワンダーが揃って音を上げた程には凄まじいものだった。
「それで、この、キングの、一流の…………もういいわ、ちょっと疲れた…………」
「あはは、キングちゃん、私も疲れたよ…………」
「スぺちゃんが、疲れるとは、相当の、負担のようですね…………」
「グラス、そういうグラスも足がプルプルふるえてまーす…………」
「セイちゃんは、そういうの無いと思っていたんだけどなあ…………」
「せ、咳をする暇すらなくこの速さとは…………ごほっ」
「ま、まあ全員プロだからねえ…………あははは」
「な、なんというか、全然貴方達にアドバイスできなかったわね」
「「「「「「「「疲れた…………」」」」」」」」
そして、そのターゲットはメジロパーマーとアドマイヤベガにも及び、とうとう8人全員が疲れ切ってベンチに腰掛けて休んでいるという構図が生まれていた。
その構図は、子供たちに付き合ってぐったりとしている若い母親にも似ていたという。
さて、そんな彼女たちだが、蹄鉄は以下の通りの物となった。
・スペシャルウィーク 鋼鉄(歴代日本総大将がつけてきた蹄鉄
・キングヘイロー 玉鋼(現代科学でも未解明
・セイウンスカイ 超々ジュラルミン(軽くて強い
・ツルマルツヨシ チタン合金製(腐食しない
・グラスワンダー ジュラルミン製(足の負担にならず極力強い
・エルコンドルパサー 合金鋼(踏み込んだ際に崩れない
なお、パーマーとアドマイヤベガに関しては、自分たちの蹄鉄を持っている為、それの付け替えで済んだ…………が、なぜ彼女たちも疲れているのかというと、その恰好にある。
「いやー、汎用勝負服を着て、合わせを何度もやることになるとはねぇ…………」
「レースをするより疲れるって、どういうことなのよ…………」
「全員を代表してお礼をさせてください、先輩方」
「いいよキング、別にそんなことは大した負担じゃあないからさ」
「そうね…………何か、特別にふわふわしたものを献上すればチャラにするわ」
「おーい、このふわふわスキー、この流れでそんなこと言うかねこら」
「ふ、ふわふわ…………?」
「ああ、ほら、キングが真に受けちゃったじゃないか…………」
ふわふわって何、と残りのメンツに聞きに行ったキングを見送りつつ、パーマーがベガの側頭部を小突く。
それに対して、ふん、と鼻を鳴らしながらベガが言う。
「じゃあ貴女はここまでの事態になったかしら」
「…………それは、今日のことかな?」
「そうよ、私はせいぜい20分で終わったのよ…………でもあの娘達は違うわ」
「そうだねえ、一人20分だから、2時間かー」
もし一人一人、別々の日にちで行っていたらどうなっていたことか。
そう言いたげなベガに対して、パーマーはニヤリと笑っていった。
もしかして、可能性に嫉妬してる?
そう言ったパーマーのにやけ顔に対して、ベガは不満そうに顔をそむけた。
それが答えだった。
彼女たちの前で、汎用勝負服に身を包んだ6人が、一斉には走り出す。
それぞれがそれぞれにあった蹄鉄を持ち、試走用コースでレースするその姿は、まだまだ粗削りだが、見ている全員が息をのむほどの「可能性の塊達」の一端が見えた。
ベガは、そんな彼女たちに嫉妬しているのだ。
シニア級に上がり、成長が頭打ちになりつつある彼女と、まだまだ伸び盛りな彼女たち。
いずれ自分すら追い越してゆく可能性の塊、原石たち。
うらやましいなちくしょー、パーマーもまた、そんな彼女たちの、のびのびとした走りを見つつ、こころの中でそう思ったのである。
なお、その時トレーナーはというと。
「よっし、いいよーいいよーその表情、実にいいよー」
どっかのデジタルが乗り移ったかのように、スマホの録画機能で彼女たちの走りを記録していた。
ちなみに、被服部の担当者がちょっと引くぐらいの熱量だったという。
次回
女神ポイントが溜まり、とうとう強制休暇を取らされることになったトレーナー。
そこで彼は、幼いころに出会っていた少女たちと出会う。
少女たちの理性は、彼の行動で壊れ気味、さて、彼はどうなるのか。
次回「休もうか、トレーナー」
ということで、次回は女神ポイント回収回となります。
レースを書きたいのに、なぜか横道に逸れる逸れる・・・・・・。
今回、ウマ娘の超前傾姿勢(でいいのかな?)を理由付けするために、
このような無茶な蹄鉄解釈をしてしまいました。
誤字・脱字・感想等、お待ちしております。