ウマ娘逆転ダービー(仮)   作:グレート・G

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皆さま、お久しぶりです(小声)

長いスランプが明けまして、ようやっと書けました。

なので、投稿させていただきます。




第12話 休もうかトレーナー

 第12話 休もうか、トレーナー

 

 

 

 トレーナーの日常業務、なんか変? ~絶好調イベント8連発~

 

 

 

「さて、何故君達をここに呼び出したのか…………わかるかね?」

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

 

 

 理事長室には今、8人のウマ娘がいる。

 

 スペシャルウィーク、グラスワンダー、エルコンドルパサー、セイウンスカイ、キングヘイロー、ツルマルツヨシ、メジロパーマー、アドマイヤベガの8人である。

 

 この8人の共通項目として、チーム「ゴールデンノヴァ」に所属している事があげられる。

 

 しかし、今現在この場にて、その事実は関係ないものであった。

 

 

 

『詰問』

 

 

 

 そう書かれた扇子を片手に、秋川やよい理事長が椅子にどっしりと腰掛けている。

 

 後ろの扉には、たづなさんが重圧3割増しの笑顔でたたずんでいる、逃げられない。

 

 8人の冷や汗はもう限界突破、背中までびっしょりである。

 

 

 

 とはいえ、彼女たちもこうして理事長室に呼び出される心当たりがないわけではない。

 

(もしかして、あれだべか…………?)

 

(もしかしたら、あれ、でしょうか?)

 

(アレのせい、デース?)

 

(もしかしたら、あれのせいかも?)

 

(心当たりが、あれ、しかないわね)

 

(心当たりがあり過ぎて…………うう)

 

(うーん、多分アレの事かな)

 

(アレ、よね、多分)

 

 

 

 全員、何かしらの心当たりがあったのである。

 

 それはもう盛大に、冷や汗かいちゃうぐらいには。

 

 そんな彼女達を見て、秋川理事長の目がすごくすごい鋭くなった。

 

 後ろのたづなさんの重圧も2割くらい増したような気がするのは、気のせいではない。

 

 

 

「さて、思い当たる節を思い出したスペシャルウィークから、教えてもらう」

 

 

 

 拒否権はない、いいね? 

 

 まったく笑っていない秋川理事長の重圧に押され、スペシャルウィークがまず思い当たる節を説明しだした。

 

 

 

 ────―(スペシャルウィークのアレ)────―

 

 

 

 えっと、その、私の実家は北海道にあるから、その、時々差し入れが届くんです。

 

 それで、その、今回届いた差し入れというのが、ニンジンの苗だったんです。

 

 エース先輩の農場を借りて育ててみようということになって……へ、農業の知識ですか? 

 

 ふふん、このスペシャルウィーク農業の知識はおかあちゃんからみっちり叩き込まれていますよ! 

 

 将来的には、トレーナーさんもうちの人になるわけですから、

 その時はきちんとトレーナーに手とり足取り……ふへへへへ。

 

 はっ、いや、まあ、その、そういう事なので、農業の知識はあるんです。

 

 ただ、その時タキオンさんの実験室から、モルモットが逃げ出したらしくて……

 そのせいでエースさんの農園がダメになっちゃたんです。

 

 あ、モルモットって言っても動物じゃなくて、虫だそうです。

 

 それで、私たちの農園にも当然の様に虫がやってきてしまって…………。

 

 ニンジンの苗を食い荒らしていったんです。

 

 それでトレーナーさんに相談したら「スぺちゃん達が丹精込めて作った野菜を食らうなど

 言語道断、害虫死すべし、慈悲はない!」って言って飛び出して行っちゃったんです。

 

 

 

『北海道から届いたニンジンの苗を、学園の畑に植えることに。

 

 しかし、そこには苗を狙う害虫の群れが! 

 

 トレーナーの害虫駆除ミニゲームが始まる! 

 

 トレーナーたるもの、この程度の事は出来て当然! (フルコンプ)

 

 ミニゲーム「スぺちゃんと害虫退治」』

 

 

 

 成功 気力「絶好調」、体力30回復、ヒント「良馬場〇」「道悪〇」Level5を獲得

 

 失敗 気力「絶不調」、体力30減少、ヒント なし

 

 

 

 月曜日、仕事時間+6時間

 

 

 

 ────―(グラスワンダーのアレ)────―

 

 

 

 はい、そのう、私が聞いた話によると、トレーナーさんは居合切りができるという事で、私も見てみたいと思っていたんです。

 

 男性がそういう武道を極めているというのは、とても珍しいですからね。

 

 それで、倉庫に眠っていた日本刀を引っ張り出しまして、それで居合を見せてほしいと。

 

 いえ、本物ではなく、刃を間引いたものでしたので、大事には至りません。

 

 とてもきれいな軌道で、本当に真剣な表情をしていらして、とても恰好がよく……はっ、なんでもありません。

 

 それで、その、試しに廃材を切ってみてほしいと頼んでみたんです。

 

 いえ、他意はなくて、その、少しふざけた提案だったんですが、その、噂に尾ひれがついたのか

 「トレーナーさんが居合い切りショーをやる」ということになってしまいまして。

 

 公衆の面前で居合切りを行うことになったんです。

 

 

 

『トレーナー、居合いができるという事で、グラスは木片を切ってみてほしいと頼む。

 

 すると、いつの間にか沢山の生徒が集まり、トレーナーの居合い切り大会になる。

 

 グラスワンダーの期待に応えるためにも、失敗するわけにはいかない! 

 

 ミニゲーム「刹那の居合い」』

 

 

 

 成功 気力「絶好調」、体力20減少、ヒント「末脚」Level5獲得

 

 失敗 気力「絶不調」、体力40減少、ヒントなし

 

 

 

 火曜日、仕事時間+5時間

 

 

 

 ────―(エルコンドルパサーのアレ)────―

 

 

 

 エルはですねー、元々トレーナーさんにプロレスを付き合ってもらうはずだったんデース。

 

 あ、別に変な意味じゃないですヨ、本当、エル嘘つかない。

 

 ただ、その、トレーナーさんがプロレスの際にかける音楽を間違えて、

 フラメンコの楽曲を持ってきちゃったんデース。

 

 途中からギャラリーも増えて、それでエルも乗りまして、

 気が付いたら二人でフラメンコを夢中で踊っていました。

 

 いやー、トレーナーさんともどもいい汗をかきましタ。

 

 

 

『エルコンドルパサーがプロレスに付き合ってもらうはずが、

 いつの間にか二人でフラメンコになっていた。

 

 ギャラリーも増えて、仕方ないとばかりに、

 情熱的なダンシングを1時間以上踊ることに。

 

 コマンドを入力して失敗しないようにダンスしよう。

 

 ミニゲーム「踊るエルコンドルパサー」』

 

 

 

 成功 気力「絶好調」、体力20減少、「ポジティブ思考」獲得

 

 失敗 気力「絶不調」、体力60減少

 

 

 

 水曜日、仕事時間+6時間半

 

 

 

 ────―(セイウンスカイのアレ)────―

 

 

 

 いやー、その、セイちゃんは釣りが趣味でしょ? 

 

 それで、その、木曜日に何となく「釣りでもしない~?」と誘ってみたわけですよ。

 

 そしたらトレーナーさんが速攻でOKしてくれてさ、まあ、嬉しくなっちゃった訳ですよ。

 

 なんか波止場で人がたくさんいて、なんでも「波止場の主」が現れて困っているというお話だったからさ。

 

 じゃあ、セイちゃん達で釣ろうかとなったわけ。

 

 そしたらトレーナーさん、何を思ったのかモリを持って素潜りで主に挑むという事を言い出しちゃって……。

 

 え? 

 

 波止場の主はどうしたって……そりゃあ捕れましたよ……サメが。

 

 うん、トレーナーさんの調理してくれたサメ料理は美味しかったなぁ。

 

 

 

『セイウンスカイが勇気をもって釣りに誘ってくれたぞ。

 

 波止場にて巨大な魚と格闘することになったトレーナー。

 

 最終的には素潜りで魚をしとめることになった。

 

 セイウンスカイのためにも、この海域を取り戻せ! 

 

 ミニゲーム「海底200メートルの挑戦」』

 

 

 

 成功 気力「絶好調」、体力40回復、「コーナー回復」「直線回復」Level5獲得

 

 失敗 気力「絶不調」、体力40減少、セイウンスカイがトレーニングをさぼる

 

 

 

 木曜日、+時間外勤務

 

 

 

 ────―(キングヘイローのアレ)────―

 

 

 

 えっと、そのう、私は取り巻きの子から「キングコール」を受けるの。

 

 それを受けると、結構テンションが上がるというか、やる気がわいてくるというか。

 

 まあ、悪い気はしないわよね。

 

 それで、その、トレーナーがキングコールをやりたいという事で私の所に来たのよ。

 

 その時、私の後輩でカワカミプリンセスがいたのだけど、

 その子も交じってコールの練習をすることになったの。

 

 トレーナーがキングコールに合わせて切れのある踊りを披露するものだから、

 私達も調子に乗ってしまって…………。

 

 正直、悪いとは思っているのだけど、全力で私を盛り立てようとしてくれているのを見ると、

 嬉しさの方が勝るのよ。

 

 どうしたらいいのかしら…………。

 

 

 

『キングコールをキングの取り巻きやカワカミプリンセスと一緒にやる。

 

 何故か切れのあり過ぎるオタ芸を披露するトレーナー。

 

 キングの期待に応えるためにも、ここでミスをするわけにはいかない。

 

 ミニゲーム「踊るメイドイントレーナー」』

 

 

 

 成功 気力「絶好調」、体力50減少、「切れ者」獲得

 

 失敗 気力「絶不調」、体力80減少

 

 

 

 金曜日、仕事時間+4時間半

 

 

 

 ────―(ツルマルツヨシのアレ)────―

 

 

 

 アタシ、病気がちじゃないですか。

 

 そのことを相談したら、体にいい食材とか集めるの手伝うよって、そう言ってくれて。

 

 それで、試しに頼んでみたら本当に持って来てくれたんです。

 

 アタシも学生だから、その、資金とかに余裕があるわけじゃないし…………。

 

 トレーナーさんの申し出はすごく有難くて、それでちょっと調子に乗っちゃって。

 

 あうぅ、反省しています、本当に…………うぅ。

 

 

 

『病気がちなツルマルツヨシ、そのために色々な漢方などを集めるトレーナー

 

 時には寝込んだツルマルツヨシの看病もしてくれるぞ。(休日とか)

 

 そんなツルマルツヨシの為に、美味しくて体にいい食材を集めよう! 

 

 ミニゲーム「集めてツルちゃん」』

 

 

 

 成功 気力「絶好調」、体力全回復、「好転一息」Level5獲得

 

 失敗 気力「絶不調」、体力全減少、獲得スキルなし

 

 

 

 土曜日(休日出勤)

 

 

 

 ────―(メジロパーマーのアレ)────―

 

 

 

 いやー、トレーナーさんにゴルフを教えたんだけど、結構筋がよくてさ。

 

 私も調子に乗って色々と教えちゃったんだよね。

 

 そしたらそれがどう伝わったのか、メジロ家でゴルフをしようということになっちゃって……。

 

 それで、トレーナーをゴルフ場に招待したんだよ。

 

 え、そりゃあ貸し切りだよ、あくまでプライベートな大会だからね。

 

 ギリギリでいい勝負をしたよ、私が勝ったけどね。

 

 

 

『メジロ家に招かれたトレーナー、パーマーとのゴルフ勝負をすることに。

 

 パーマーに恥じをかかせない為に、ぎりぎりで勝つかギリギリで負けよう。

 

 大差で勝利もしくは敗北だとパーマーが絶不調に! 

 

 ミニゲーム「パーマーゴルフ」』

 

 

 

 成功 気力「絶好調」、体力20減少、「練習上手」獲得

 

 失敗 気力「絶不調」、体力20減少、「練習下手」獲得

 

 

 

 日曜日午前中、+午後3時間

 

 

 

 ────―(アドマイヤベガのアレ)────―

 

 

 

 そうね、彼がいつも忙しそうにしていたのは知っていたわ。

 

 だから、というわけではないのだけど、天体観測に誘ったのよ。

 

 別に、忙しい彼の休息になればと思っただけだったの。

 

 そうしたら、その、天体観測中に変な光る玉が現れたのよ。

 

 嘘じゃないわ、私も彼も、この目でしっかりと見たから。

 

 彼、どこから取り出したのか分からないけど、バズーカ砲で光の玉を撃ち出したのよ。

 

 なんというか……彼には悪いことをしたわ。

 

 

 

『アドマイヤベガと一緒に天体観測に行ったトレーナー。

 

 そこへ、アドマイヤベガを狙う「ふわふわ星人」が襲撃してきた。

 

 アドマイヤベガがよそ見をしているうちに、円盤をすべて撃ち落とせ! 

 

 ミニゲーム「アドマイヤ防衛軍」』

 

 

 

 成功 気力「絶好調」、体力80回復、各ステータス+10

 

 失敗 気力「絶不調」、体力80減少、バッドコンディション「寝不足」取得

 

 

 

 日曜日午後7時~11時まで

 

 

 

※なおトレーナーの体力は回復しない※

 

 この取得できるスキルは全員共通である。

 

 この一週間での出来事であり、本来の順番はランダム。

 

 

 

 

 

「この大馬鹿者!」

 

 

 

 やよい理事長の雷が理事長室に木霊する。

 

 全員が全員、背筋をびくりとさせるがこれはしょうがないと言える。

 

 なにせ、全員トレーナーがこんなに自分たちを優先して、

 なおかつ仕事をしているなど思いもよらなかったのだ。

 

 そして、その結果が……理事長室のソファの上であった。

 

 

 

「zzzzzzzz」

 

 

 

 静かな寝息を立てて、理事長室のソファに横になって爆睡しているトレーナーである。

 

 理事長に用事があってやってきたトレーナーだが、理事長が所用でいなかった。

 

 その際、たづなさんから座って待つように言われて、座って3秒で寝入ってしまった。

 

 そして今、やよい理事長の雷にも動じることなく、すやすやと眠りにつくその様はいっそ堂々としている。

 

 むしろ、こんな業務を毎週続けていた結果がこの爆睡なのだから、トレーナーという人種がどれほど人間離れしているのかという話になるのだが。

 

 仮に常人であった場合、間違いなくつぶれているだろう。

 

 しかし、こればかりはしょうがない。

 

 トレーナーとは、いついかなる時も、彼女たちの為に練習に生かせる知識や経験やあれやこれや思いつくもの。

 

 担当が8人ならば、それが8倍になろうというものだ。

 

 彼が起きていたならば、その位の事は言ってのけるだろう。

 

 だが、トレーナーは今睡眠中であり、一切の事は話さない。

 

 そんな彼を何度も横目に見ながら、やよい理事長は彼女たちに語りだす。

 

 

 

「いいか、確かに彼は男性トレーナーであり、彼にトレーニングをつけてもらう事が嬉しいのはわかる、しかし、物には限度がある!」

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

「彼を独占してしまいたいという気持ちもわからんでもないが、彼が断われないことを知ってやっているのならばそれは有罪である!」

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

「各々、トレーナーに無理をかけないよう努力すべし!」

 

 

 

『名判断!』

 

 

 

 と書かれた扇子を広げてやよい理事長が力説する。

 

 しかし、彼女たちの視線はなぜかジト目だ。

 

「む、むぅ、何か言いたい事でもあるのか?」

 

「その、理事長…………いろいろとブーメランが」

 

「たづな!?」

 

 

 

 ────―(やよい理事長のアレ)────―

 

 

 

 いや、その、なんだ? 

 

 トレセン学園に出資してくれている名族やグループなどの方々にあいさつ回りをする際、

 

 彼に供を頼んだだけだぞ? 

 

 国際的に見て珍しい男性トレーナーが居るという事実は、トレセン学園への出資の増額を引き出すいい手段……ごほん。

 

 彼が安心してトレーナー業に精を出すことは、強いては学園の一層の学業及びレースへの取り組みにつながるという事だ。

 

 べ、別に男性トレーナーを侍らせたいわけでは決してない! 

 

 

 

『秋川理事長と一緒にトレセン出資者へのあいさつ回りをしよう。

 

 評価ポイントが一定に達すれば、出資金の増額も見込めるぞ! 

 

 評価ポイントが一定以下になると、学園の運営資金に陰りが……』

 

 ミニゲーム「集めろ運営資金」

 

 

 

 完全ランダム、業務時間不明

 

 

 

 成功 スキルポイント100ポイント獲得

 

 失敗 スキルポイント100ポイント減少

 

 

 

 

 

「ぬ、ぬう!? いや、これは学園の運営に必要不可欠であり、決して恣意はないのだ!」

 

「なんか理事長が怪しいデース」

 

 本当だぞ、というやよい理事長の扇子には

 

 

 

『ギクリ』

 

 

 

 という何ともわかりやすい擬音が書かれており、割と恣意的に彼を連れ出していたようだ。

 

 

 

「「「「「「「「ジーッ」」」」」」」」」

 

「な、ははははは、まあ、その、やり過ぎはよくないということでここは一つごにょごにょ…………」

 

 

 

 小さくなっていくやよい理事長の語尾と、それに比例するように強くなる非難の視線。

 

 やよい理事長も彼女たちと同類であった。

 

 いや、この場合は仕事を断ることを知らないトレーナーがギルティというべきなのだろうか。

 

 ともかく、最初の勢いはどこへ行ったのか、やよい理事長も小さくなってしまった。

 

 そんな彼女に呆れたように、彼女の頭の上に乗っている猫が大きなあくびをした。

 

 

 

 ────────────―

 

 

 

 何とも微妙な空気の流れる学園長室の中で、トレーナーが文字通り飛び起きて、その場はお開きとなった。

 

 ちなみに、トレーナーが飛び起きた際の一言は「どぼめ・次郎先生の納期が間に合わないだとっ!?」であった。

 

 お前はどれくらい仕事を受け持っているんだ、とはパーマー以外の全員が思ったことだった。

 

 ちなみに、どぼめ先生ことメジロドーベルは、後日おばあ様主催の「メジロ会議」にてさんざん絞られたことをここに追記しておく。

 

 

 

「うーむ、夢の中で練習効率を上げる方法がひらめくかと思ったが…………」

 

 

 

 全然そんなことはなかったなぁ、と肩を落とすトレーナー。

 

 寝ている時も仕事の事を考えているあたり、トレーナーの鏡と見るべきか社畜かお前はとみるべきか、判断の分かれるところではある。

 

 とはいえ、今こうして理事長室から出た彼は、久しぶりにゆっくりした気持ちで、太陽の下で大きく伸びをしていた。

 

 体中からゴキゴキという音がしているが、それは仕方のないことだろう。

 

 なお、自分の担当達は異口同音に『理事長とお話があるので』との事だった。

 

 自分も同席しようか、と言ったらやんわりと断られてしまった。

 

 

 

「しかし、休日と言っても何をすればいいんだ?」

 

 

 

 彼が理事長室を退出するとき、たづなさんから「今日と明日は休日にしておきますからしっかりと休んでくださいね」と、凄まじい圧と共に念を押されてしまった。

 

 腕時計を確認すると、ただいま午後の2時である。

 

 学生たちは勉強に励んでいるし、トレーナーであればトレーナーズルームにて練習内容を練っているころだろう。

 

 だが、今の自分は練習内容を練ることを禁止されている。

 

 

 

「うーん?」

 

 

 

 そして彼は、近くにあったベンチに座り、何をすればいいか考え始めたのである。

 

 

 

 ────―(30分後)────―

 

 

 

 ベンチで黄昏れているトレーナーは、遠い目をしていた。

 

 自分のこれまでを振り返り、なんか違くないと自分でも思ってしまったらしい。

 

 その結果の黄昏れであった。

 

 

 

(だって、彼女たちのお誘いを断ったら、彼女達耳がペタンてなるんだもん、尻尾が内またになるんだもん)

 

 

 

 一応彼も何度か断ろうかなとは思ったらしい、しかし、ウマ娘の感情は耳に出やすい。

 

 顔で笑って耳で泣く、なんて言葉がトレーナー達の間にある程度には、ウマ娘の耳は感情を表しやすかった。

 

 そんな彼女達を悲しませるようなクソトレーナーがここにいると思うか、いねえよなぁ、と言わんばかりに、彼は全力で彼女たちに向き合った。

 

 彼女達が持ってきたトラブルも、だったらフルコンプしてやんよぉと全力対処をしてきたのだ。

 

 その有様はトレーナーとしては及第点、だが人間としては減点なそれを、凡そ一カ月の間延々と続けてきたのである。

 

 そして、彼の脳裏に浮かぶ残業と締め切りに追われるデスマーチの日々。

 

 まさかトレーナーとして休日返上で30連勤もするとは思わなかったのである。

 

 

 

(俺、本格的にやばくないか?)

 

 

 

 彼は、彼女たちの喜ぶ顔が見たい、彼女たちの輝く姿が見たい、その一心で頑張ってきたが、自分を疎かにしていたことを思い出したようだ。

 

 

 

(だが…………どうするよ?)

 

 

 

 今日と明日はお休みとなり、彼にフリーな時間ができた。

 

 しかし、いざフリーの時間をもらっても、何をすればいいのか分からない。

 

 ああ、セルフブラックトレーナー業務ここに極まれり、休みの日まで仕事脳。

 

 

 

「仕方ない、ウマ娘関連の本を買いに…………いかん」

 

 

 

 担当達から「今日と明日は仕事禁止」という事を強く言われてしまっていたのを思い出した。

 

 有無を言わさぬ圧力に、ヒントをひらめきそうになったが(そして閃いたが)、

 そんなこと言ったら何故か怒られそうだと思いやめておいた。

 

 

 

「ウーム、どうすればいいのかなぁ…………ふぁぁぁぁ」

 

 

 

 しょうがない、帰って眠るか。

 

 そう決めた彼は、誰とも会わずにすぐに帰りひと眠りすることにした。

 

 なお、その日はほぼ一日眠り込んだ。

 

 

 

 蛇足だが、黄金新星と理事長とのお話合いは深夜にもおよび全員翌日は揃って休むことになる。

 

 

 

 ──────―(翌日)──────―

 

 

 

「え、休みなんですかあの子達」

 

「ええ、理事長もお休みをいただくと」

 

「困ったな、本当に何をしようか思いつかないぞ…………」

 

「呆れた、貴方に教えたでしょう? プライベートもきちんとしなさいと」

 

「解っていますよ先生、ただ、彼女達を軸に生活していたもんですから…………」

 

「この場合のきちんとするという事は、自分自身の事です」

 

「はい…………」

 

 

 

 本格的にどうすればいいんだろう、と困ったようにトレーナーは頭をかいた。

 

 チームレグルスのトレーナーズルーム、そこでは樫本理子が呆れたようにトレーナーに説教していた。

 

 自分の事を蔑ろにして彼女達が喜ぶかという樫本の一言には、トレーナーも黙るしかなかった。

 

 

 

 

 

「はぁ…………」

 

 

 

 

 

 そんな彼だが、今はレグルスのトレーナーズルームから出て学園内をぶらついていた。

 

 正に暇を持て余している状態の彼は、足取りもおぼつかず、まるで病人のようだ。

 

 学園では体育でもあったのか、ワイワイ、ガヤガヤと周囲は学生でごった返している。

 

 彼は人込みを避け、いつものように三女神像の傍にあるベンチに腰掛けた。

 

 

 

(帰ってオンラインゲームをやり通しとかも考えたけどさぁ)

 

 

 

 トレセン学園に来てしまった以上、何もせずに帰るのは嫌だった。

 

 黄金新星のトレーナーズルームに戻り、業務ファイルを持ち出そうとしたら

 なぜか風紀委員のバンブーメモリーと出くわし、

 『すみません今日の所は業務禁止っす』と注意されてしまう。

 

 彼女の手には、たづなさんと樫本理子の連名で『本日業務禁止』を伝えるプリントがあった。

 

 どうやら彼の考えは見透かされていたらしい。

 

 

 

「どうすりゃいいんだ」

 

 

 

 バンブーメモリーからも『お体に気を付けて!』と元気よく言われてしまえば、彼はもう何も言えず、空白の時間をどうすればいいのかひたすら考えていた。

 

 

 

「そういえばさートレちゃん」

 

「何だい、トラちゃん」

 

「なんかお悩み~?」

 

「いきなりだな、トラちゃん…………」

 

「いきなりなんて、そんなのアタシ達にはよくあることじゃん」

 

「そうだなあ、いきなり話しかけられて悩んでいることを言い当てられたら、そりゃな」

 

 

 

 そんな彼にいきなり話しかけたのは「トランセンド」というウマ娘。

 

 彼女はダート路線にて絶賛売り出し中のウマ娘だ。

 

 そして、彼女は彼が東北のトレセン分校に研修で行っていた際によく出会っていたウマ娘でもあった。

 

 

 

「というか、中央に合格したのか」

 

「まあね~、私ちゃんの実力ならいけるとおもってさ~」

 

 

 

 トレーナーは彼女の合格に心当たりがあった。

 

 というのも、トレセン学園では芝とダートの対比が7:3ぐらいの割合なのだが、それを5:5にしようという理事長の考えにより、ダート枠が拡張されたのだ。

 

 その結果、芝枠がさらに修羅の門になったが、そこは割愛。

 

 

 

(まあ、彼女ならその実力に疑う余地はないが)

 

 

 

 本当に行けるとは思ってなかったんだけどね~、とのほほんという彼女。

 

 彼女はダート専門のウマ娘であり、将来的には砂の赤鬼「スマートファルコン」やコパノリッキー、ホッコータルマエらと戦う運命にある。

 

 枠が増えたから合格できた、というわけではなくそれ相応の実力者なのだ、彼女は。

 

 現に、彼女はダートのプレオープンを苦も無く勝利しており、関係者の間でも

ダートジュニア王者を決める「全日本ジュニア優駿」に出場するという噂で持ちきりだ。

 

 

 

「んでんで、どうして眉間にしわ寄せてるのさ?」

 

「そんなにしわが寄っているか?」

 

「うん、割と深刻な具合」

 

 

 

 跡がついちゃうんじゃないかな、とおどけたように言うトランセンド。

 

 彼にとっては彼女なりの心配が嬉しいものだったし、心配させた自分が悔しくもあった。

 

 いつもの彼ならば、そんなことはないはずだったのだ。

 

 

 

「その、恥ずかしいんだが聞いてくれるか?」

 

「おけ、報酬は~ん~コーヒーでもおごってもらおうかな?」

 

「しっかりしてらぁ」

 

「ぬっふふ~、誉め言葉だよトレちゃん」

 

 

 

 トレーナーが自販機でブラックコーヒーとカフェオレ(トランセンドの好み)を買ってくると、そのまま口を開いた。

 

 

 

 

 

「ぷっ、あははははは、トレちゃん、割と可愛いらしい悩みを抱えているんだねぇ」

 

「笑うな、こっちは真剣に悩んでるのに」

 

 

 

 むすっ、とした顔でブラックコーヒーをあおるトレーナー。

 

 そんな彼の横で、ひとしきり笑った後にトランセンドもカフェオレを一息で流し込んだ。

 

 

 

「そんなトレちゃんにぃ、いい提案があるんすよ~、聞いてかない?」

 

「そうだな、聞いちゃうか」

 

「おけ、それはね~」

 

 

 

 そういうと、トランセンドはトレーナーの耳に口を寄せ、ひそひそと話始めた。

 

 最初は訝しんでいたトレーナーだったが、最終的には「うーん、まあ、やってみるか」となったのである。

 

 

 

 なお、この提案がいろんな意味で大変なことになるのだが、それは三女神ですら知りようはなかった。

 

 

 

 ────―(トレセン学園の空き教室)────―

 

 

 

「いやぁ、被服部に掛け合ってみるもんだねぇ」

 

「まさか、ここまでとは…………」

 

「ねー、被服部ってすごいと思わない?」

 

「いや、すごいけどトラちゃん、君のセットも本格的だよ」

 

「にしし、ありがとね」

 

 

 

 トレーナーは目の前の光景に驚きを隠せない。

 

 目の前にはなんと数十着もの「男性用」衣装が並んでおり、また、写真店にあるような本格的なセットもトランセンドにより組まれている。

 

 その光景にトレーナーはただただ茫然とするしかなかった。

 

 彼は、立て看板を見る。

 

 そこには『トレーナーズガーデン、本日一日限りの開店』だの『好きな衣装を着て写真を撮ろう』だのと書かれている。

 

 確かに、とトレーナーは思う。

 

 

 

「確かに俺は休日の使い方を悩んでいるとは言ったが…………」

 

「いいじゃん、いつもは黄金新星の子達につきっきりなんだから」

 

 

 

 サービスしようぜ、トレちゃん、とトランセンドがどの入っていない眼鏡を人差し指でクイと押し上げる。

 

 トレーナーの目には、ギラリとレンズが光ったように見えた。

 

 

 

 

 

「ああ、そうだトレちゃん、トレちゃんの写真何枚かもらっていい?」

 

「いいよ……しかしなあ、トラちゃん」

 

「何だいトレちゃん」

 

「この一回千円はぼったくり過ぎじゃないか?」

 

 

 

 学生に1000円は中々高額ではないか、とトレーナーは言う。

 

 しかし、だ。

 

 

 

「あのねトレちゃん、確かに普通ならお高いけど、ここはトレセン学園だよ?」

 

「うん、まあ、そうだな?」

 

「解ってないなー、自分の足で稼いでいる子もいるってこと忘れてない?」

 

「あっ」

 

「全く、オープン戦やプレオープンで勝つ以外に、着内でも少なくない賞金が出るわけだし……」

 

 

 

 弱肉強食と言えばそういう事になるが、確かにトレセン学園では過酷なレースで賞金を稼いでいる子もいる。

 

 現に自分の目の前にいるトランセンドもその一人ではないか、と今更ながらにトレーナーは気が付いたようだった。

 

 

 

「いや、しかし、聖蹄蔡でもないのにお金を出させるのは……」

 

「まあまあ、硬いことは言いっこなし」

 

 

 

 お、お客さんが来たみたいだね~とトランセンド。

 

 見ると、小さな金髪の少女が一人、恐る恐るという感じで扉を開けて中に入ってきた。

 

 

 

(おや、この子は……確かブリッジコンプじゃないか)

 

 

 

 その子は、勝つことこそできてはいないが、短距離とマイルで善戦している「善戦ウマ娘」であるブリッジコンプその人だった。

 

 トレーナーこそついていないが、それでも善戦できている為、トレーナーが付いたらどれほど伸びるのかと陰でうわさされている。

 

 また、彼女のファン層も独特な連中が多いことで有名だ。

 

 

 

「えっ、と、あの、看板を見てきたんだけど…………本当?」

 

「ああ、本当だよ」

 

「あ、やっぱり嘘かぁ~あはは、びっくりさせないで…………」

 

「どうしたんだい?」

 

「どぅわっ!?」

 

「うわ、ドゥエリストみたいな挙動」

 

 

 

 トレーナーに声を掛けられ、ほぼ直立で30cm以上後退するという事をやってのけた

ブリッジコンプは、驚きで目をまん丸にしていた。

 

 彼女としては、まさしく冷やかしの為に来たのである。

 

 冷やかすだけ冷やかして、仲間内でちょっとした話のタネにでもしようと思っていたのだ。

 

 そしたら、本当に出会ってしまったのである、男性トレーナーに。

 

 

 

「うっそだぁ…………」

 

「いやあ、ホントなんですよ~お客さん」

 

 

 

 だからだろうか、開口一番に現実を否定している。

 

 それを打ち消すようにニヤニヤとチェシャ猫のように笑いながらトランセンドが近づいてゆく。

 

 そして、驚きで視線をトレーナーから外せないでいる彼女を引っ張って、衣装服コーナーへと連れてゆく。

 

 衣装服コーナーには、多くのウマ娘(トランセンドが声をかけたデザイン科の学生)がおり、ブリッジコンプの着たい衣服を見立ててゆく。

 

 

 

「なんというか、すごくすごい光景だな……」

 

「おう、トプロみたいなことを言ってないで早く着替えろ」

 

「その、なんで君達がいるんだ?」

 

「樫本さんからの言いつけでな、お前が暴走しないようにブレーキ役だ」

 

 

 

 トレーナーをエアシャカールが教室の一角を改装して作られた更衣室に連れてゆく。

 

 見れば、室内にはエアシャカールの他にファインモーション、エイシンフラッシュ、

サクラバクシンオー、ミホノブルボンがいた。

 

 ちなみに、外ではスマートファルコンが呼び込みをやっており、レグルスの面々が交代でそれを手伝っていた。

 

 

 

「ブリッジコンプさん、このままだと3分押してしまいます、脱いでください」

 

「え、いや、ちょっと、まっ」

 

「バクシンオーさん、ミホノブルボンさん、お願いします」

 

「ええ、委員長パワーで、ちょわー!」

 

「解りました、フラッシュさん、目標確認、作業開始」

 

「ふみぃぃぃぃぃぃ!?」

 

「わあ、すごくきれいだよブリッジコンプさん!」

 

「うわーい、リアルお姫様に褒められた~」

 

 

 

 ブリッジコンプは完全に魂が口から抜け出ているようで、どこか遠いところを見ている。

 

 そんな彼女の恰好は、正に「正統派お姫様」といった形だ。

 

 ウェディングドレスをモチーフにしたそれは、所々に花の意向を凝らした「飾り」が邪魔にならない程度にしっかりとつけられている。

 

 色実なども清楚かつしっかりとしたそれは、被服部が突貫工事で作ったとは思えないほどのしっかりとしたものであった。

 

 恰好としては、ファインモーションのウェディング衣装が一番近いだろう。

 

 それもそのはず、デザイン科所属のウマ娘達が「こんなこともあろうかと」と用意していたものだったのだ。

 

 ただ、男性用の衣装も多くあること、そして彼の採寸にちょうどいい事など「どうしてあるのか不明」な衣装も多いのが難点だが。

 

 

 

「いやあ、鬼に金棒とはこのことだねぇ」

 

「誰が鬼だ、このっ」

 

「あいてっ」

 

 

 

 にやにやと笑いながら冷やかすトランセンドに、我に返ったブリッジコンプが突っ込みを入れる。

 

 ようやくここにきて、ブリッジコンプも緊張がほぐれてきたようだ。

 

 

 

「そら、お相手のご登場だ」

 

 

 

 シャカールがそういうと、男性更衣室のカーテンが開く。

 

 

 

「「「おぉぉ」」」

 

 

 

 出てきた彼を見て、誰ともいわず感嘆の声が漏れ出た。

 

 そこにいたのは、まさしく「王子」の恰好をしたトレーナーだったからだ。

 

 元々上背のある彼にふさわしく、黒を基調としてつくられた衣装は、まるで軍服を思わせる重厚感と、礼服に通ずる清涼感を同時に醸し出している。

 

 黒い髪の毛をオールバックにしているのも、それに拍車をかける。

 

 

 

「え、あ、えっと、うえぇ?」

 

 

 

 ここにきてブリッジコンプが現実を受け入れられずオーバーヒートを起こす。

 

 

 

(え、この人と写真撮るの、これから!?)

 

 

 

「どどどどうしよう、髪の毛とか跳ねてないかな!?」

 

「大丈夫、この委員長が素早く、丁寧にとかしましたので!」

 

「はい、バクシンオーさんの髪のすき方は非常に丁寧かつ奇麗なモノでした」

 

「え、あ、はははは…………ひゃいっ!?」

 

 

 

 ブリッジコンプのどこかずれた心配を、バクシンオーとミホノブルボンが丁寧に返す。

 

 そんなやり取りに笑ったブリッジコンプだが、再度オーバーヒートを起こすことになった。

 

 なにせ、体が浮遊する感覚と共に、いきなりトレーナーの顔が目の前に現れたのである。

 

 

 

(堀が深い……まつ毛長い……ていうか男の人とこんな近くで……あう)

 

 

 

 ぴしり、と固まった彼女を「お姫様抱っこ」して、トレーナーは写真を撮る位置についた。

 

 

 

「お、おおうトレちゃん、中々積極的だねえ」

 

「そうならざるを得ないだろうトラちゃん、後ろ見てみ」

 

「はえ?」

 

 

 

 トランセンドが入口を見ると、なんとそこには入ってこようとする生徒たちを憤怒の形相で止めているスマートファルコンとレグルスメンバーがいた。

 

 押しかけた生徒たちは皆が皆、スマホで彼らの写真を撮っている。

 

 

 

「あー、成程、こりゃあ巻きで行くしかないかぁ」

 

「悪イがフラッシュ、整理券を大至急作って渡してきてくれないか?」

 

「解りましたシャカールさん、バクシンオーさん、ブルボンさん、手伝ってください」

 

「了解しましたっ!」

 

「了解、作業開始します」

 

「ファインとデザイン科のメンツは、整理券持った奴から順番に相手してやってくれ」

 

「わかったよシャカール」

 

「「「解りました、シャカールさん」」」

 

「シャカール、俺はどうする?」

 

「お前はさっさと写真を撮って次に移れ、休む暇はネエぞ」

 

「……おう」

 

 

 

 シャカールの指示のもと、全員が動き出した。

 

 この状態でもブリッジコンプの意識は戻らなかったが、それは問題にもならなかった。

 

 

 

「ほいじゃあ、いくよー」

 

「おう」

 

「…………」

 

「はい、撮れました…………もう一枚ぐらい撮るか」

 

「わかった」

 

「…………はっ!?」

 

 

 

 プロの目をしたトランセンドが、シャッターを切る。

 

 デジタルカメラの画面には、顔を赤らめてトレーナーにお姫様抱っこされるブリッジコンプの姿があった。

 

 

 

「はい、それじゃあ次が控えているからねー」

 

「え、ああ、うん」

 

「よし、すまないが下ろすよ?」

 

「あ、はい…………重くなかったですか?」

 

「いや、軽くていい匂いがしたよ」

 

「みっ!?」

 

「あーもう、トレちゃん、口説くより次の衣装行って、次の衣装!」

 

「はは、口説いてるつもりはないんだが……解ったよトラちゃん、それじゃあね」

 

「へ、あ、はい」

 

 

 

 男性更衣室の中に戻ってゆくトレーナー。

 

 その後ろ姿を見送るブリッジコンプだが、その頬が少し赤いのは一体なぜだろうか。

 なお、ブリッジコンプは現像された写真を見てさらに顔を赤くすることになり、

同室のドカドカからアルゼンチンバックブリーカーをくらうことになるのだが、

それはまた別の話。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

「はい、次は33番の子だよ~」

 

「おおおおおおおおおお兄ちゃん、よよおよよよよろしくお願いします!」

 

「え、ああ、そのよろしく」

 

 

 

 凄まじくどもりながらも丁寧に頭を下げたのは、短距離女王にしてウマスタグラマーのカレンチャンである。

 

 カワイイの伝道師にして、不屈の精神性を持つ女傑であるのだが、今の彼女からはそんな気配は少しも感じない。

 

 それどころか、あっちでおろおろ、こっちにうろうろ、一挙手一投足がいろんな意味で心配になってくるほどに定まっていない。

 

 

 

「あー、カレンチャン大丈夫?」

 

 

 

 思わずトランセンドが聞いてしまったほど、彼女は動揺していた。

 

 

 

「お願い、まって、今カレンはどういうポーズで写真撮ってもらおうか考えている所だから、ホントまって」

 

「お、おう」

 

 

 

 余裕のまったくない鬼気迫る顔でそんなことを返されると、トランセンドもそれ以上は言えない。

 

 だが、後ろの行列は更に長くなっている、もっと巻いていかないと写真が取れない。

 

 

 

「しょうがない、トレちゃんやっちゃって」

 

「任せろ…………カレン、ちょっと失礼」

 

「え、ちょっ、お兄ちゃん!?」

 

 

 

 トレーナーはカレンの身長に合わせて少しかがむと、彼女の持っていたスマホをいつの間にか拝借し、自撮りモードに設定し、カレンチャンに返した。

 

 

 

「え、あ、えと」

 

「ウマスタ用に写真を撮ろう、カレン」

 

「う、うん」

 

 

 

 写真写りのいい角度にカレンチャンが設定、ツーショット写真を撮ったその瞬間。

 

 

 

「ほい、いい一枚をいただきましたぁ」

 

「えっ!?」

 

「おお、いい感じに撮れているぞカレン」

 

「あ、ホントだ」

 

 

 

 どう見てもカップルな感じの二人が自撮りしている所をカメラに収めました、という写真が出来上がった。

 

 ちなみに、シャッターを切ったのと同時に、スマホの自撮り機能もきちんと動作していたので、彼女の手元にはツーショット画像が2枚も手に入ることになった。

 

 だが、カレンは知らない。

 

 誤ってウマスタに写真を上げてしまい、モテないウマ娘の嫉妬と怒りにより大炎上祭りが開催されてしまう事を。

 

 だが、カレンは知らない

 

 その火消しに追われていたら、同室のアヤベさんにもらった写真を発見されて深夜まで問いつめられることを。

 

 

 

「んふふっふふっ、えへへへへ」

 

「ありがとうございました~」

 

「カレンはいいのか、あれで…………」

 

「いいんだよトレちゃん、納得はすべてに優先するんだから」

 

「そうか~」

 

「のんびりしている所わりいが、もう時間だぜ?」

 

「えっ?」

 

「あっ」

 

 

 

 見れば時間は過ぎ、トレセン学園の生徒はみなグラウンドに練習に行く時間であった。

 

 

 

「はい、それじゃあトレーナーガーデンは閉店という事で」

 

 

 

「「「「えーっ!?」」」」

 

 

 

 今日一番の叫びが、校舎の中に響き渡るのだった。

 

 

 

 ──────―(放課後)──────―

 

 

 

「いやー、トレちゃんありがとね」

 

「こっちの方こそ、いい息抜きになった…………かな」

 

「そこは言い切ってほしかったなぁ~」

 

 

 

 千円札の束を丸めて財布にしまいながらトランセンドが言う。

 

 そんな彼女に、苦笑しつつもトレーナーも同意した。

 

 休みの日に何をすればよかったのか分からなかった彼にとっては、

この時間はとても有意義な時間だったのだ。

 

 

 

「それじゃあ、本日のメインを撮りましょうかね」

 

「メイン?」

 

「そ、別名青春の一ページともいう」

 

「ほう」

 

「おい、トレーナー、お前は真ん中にたて」

 

「え、ああ、おう」

 

「シャカールったら、ちゃっかりとなりをキープしてる~」

 

「ファインはこいつの後ろでいいな」

 

「やだやだ、私もトレーナーのとーなりっ!」

 

 

 

 トレーナーの周りには、シャカールやファインをはじめ、今日の急な出し物につきあってくれた面々が集まってくる。

 

 更に、トレーナーが撤収しようとしていたデザイン科のウマ娘達にも声をかけ、カメラの前はクラス写真のような大人数になった。

 

 

 

「ほーい、それじゃあ撮るよ~」

 

「トラちゃん、君は真ん中俺の前だ」

 

「うぇ!? いや、わたしは別にカメラマンでいいんだけどさぁ~」

 

「バカいえ、今日の騒動の中心は間違いなくお前だろうが」

 

「あはは、シャカール口悪いよ……でも、シャカールの言う通り、今日の中心はトランセンドさんだよ?」

 

「うっ、なんという説得力、これが王族パゥワーか……」

 

「ほら、トラちゃん諦めてこっちこい」

 

「は~い」

 

 

 

 デジカメのシャッター機能をONにして、トランセンドがトレーナーの前に立つ。

 

 残りは数秒、3秒、2秒、1秒…………

 

 

 

 ────―(トレーナー室)────―

 

 

 

「やれやれ、今日のこの写真とは別に、黄金新星とも写真を撮らなきゃな」

 

 

 

 そう言って、彼は一つのアルバムに集合写真を入れた。

 

 そこには、満面の笑みを浮かべた彼女たちとトレーナーが映っている。

 

 あのエアシャカールも笑顔で映っているのだから、この写真のレア度は高い。

 

 

 

「修学旅行じゃないんだから……なんてな」

 

 

 

 サンキューフォーエバー、マイフレンズ。

 

 写真の裏にそう書き記したトレーナーは、晴れ晴れとした笑みを浮かべた。

 

 夕日が沈みゆくトレセン学園のグラウンドでは、チームレグルスやほかのチームが練習しているのが見える。

 

 レースとは個人戦だ。

 

 だから、今日隣で笑顔を浮かべていたウマ娘とは、レース場でやり合うことになる。

 

 それでも、いや、だからこそ、今日のような日が必要なのだとトレーナーは思う。

 

 

 

(今日という日が、彼女たちの癒しになればいいなあ)

 

 

 

 トレーナーはアルバムを自分の机の鍵付きの引き出しに入れる。

 

 鍵をかけ、そしてトレーナー室を出る。

 

 トレーナー室に鍵をかけて、そして、今日はまっすぐに帰ることにした。

 

 

 

(いや、待てよ……今日ぐらいはいいかな?)

 

 

 

 彼はそう思いなおすと、その足でコンビニに向かうことにした。

 

 あまり酒が飲めない彼だが、なんだか今日は飲みたくなったのだ。

 

 

 

「今日は楽しかったなあ」

 

 

 

 自然に、笑顔で、こんな言葉が漏れてしまうほどには、彼は今日という日を楽しんだのだった。

 

 

 

 

 

 ────―(終わり)────―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────―(蛇足というおまけ)────―

 

 

 

 ここは、学園某所にあるMMUSのアジトの一つだ。

 

 そのアジトでは、現在、熱狂と退廃の取引が行われていた。

 

 

 

「ほ~い、トレーナーのコスプレ写真集、一冊5千円だよ~」

 

「「「「「買った!」」」」」

 

「いいのか、これで……」

 

「いーのいーの、適度にガス抜きしなきゃ、実力行使に出る子もいるでしょう」

 

「なんだかなァ」

 

 

 

 はぁ、とため息をついたのはエアシャカールであり、トレーナーの写真集を販売している。

 

 そこには、MMUSの会員たちが列をなしており、一人一人がお札を手にしている。

 

 そんなシャカールの横では、トランセンドが段ボール箱から写真集を取り出している。

 

 限定50冊、と書かれたそれはもう底が見えている。

 

 奇麗な表紙で撮られたそれは、まさしくプロの手並みをいかんなく発揮している。

 

 

 

「しかしなあ、会長……アンタがこんなことをするなんてなあ」

 

「エアシャカール君、ここではSと呼びたまえ」

 

「へいへい……しかし、あの時これなかった連中が大挙して押し寄せるとはなあ」

 

「ああ、そのことだが、ゲリラ的にやるのではなくきちんと生徒会を通してやってくれ……私達だって参加したいんだから」

 

「ま、それはおいおいね」

 

「頼むぞ、トランセンド君」

 

 

 

 そういうとカイチョーことSは目当ての写真集を手に入れて、自分の学生カバンの中に丁寧にしまった。

 

 そう、あの時来ていたウマ娘のほとんどが「トレーナーの居ないウマ娘」であり、トレーナーが居ないからこそ時間の余裕があり、来ることが出来ていた。

 

 裏を返せば、きちんとトレーナーの居る、所詮「ネームド」はほとんど来ることができなかったのである。

 

 そのことを詰められたカレン……会員Kは、ついぽろっとトランセンドの事を話してしまった。

 

 そしてなんやかんやあって、この写真集発売会となったのである。

 

 

 

「つーか、いいのかよ写真勝手に使って」

 

「いや、トレちゃんに許可はもらってあるから」

 

「本人がここまでの出来事を予測していると思うか?」

 

「まあ、してないよね」

 

「「はぁ……」」

 

 

 

 退廃的な熱気の中、シャカールとトランセンドは溜息をついたのであった。

 

 

 

 

 

 ────―(終わり)────―

 

 

※20240518 不備があり修正

 

 




次回からはレースとかそういうのも書いていきたいと思います。

さて、レースをかけるほどの描写力があるかどうか。

感想などお待ちしております。
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