大変遅くなりました。
第16話の前編を投稿させていただきます。
第十六話 前編、アドマイヤベガとの出会い
「俺と二人の出会いが聞きたい?」
「はい、そういえば詳しく聞いてなかったなあと」
全面オフの今日も今日とてトレーナールームで絶賛業務中のトレーナーは、パソコンから顔を背けて、疑問を呈した彼女――スペシャルウィークに聞き返した。
トレーナールームには棚が増えており、そこにはジュニア級G1のトロフィーやG2、G3のトロフィーがある。
そして、そんな中で大型テレビに映し出されている「はちゃウマ」を見ながら、ふとスぺちゃんが聞いたのだ。
ちなみに、今「はちゃウマ」をしているのはキング・グラス・エル・スカイの4人であり、スぺちゃんとツルちゃんは見学中である。
「そういえば、キャンプの時に少し聞いたキリでしたね」
「ウン、だから知りたいなと」
「そんなものを知って・・・・・・いや、まあ、いいけどそんなに面白い話ではないと思うぞ?」
トレーナーも壁掛けの時計を確認し、背筋を伸ばして立ち上がる。
コーヒーメーカーで少し濃いコーヒーを入れて、席に戻ってきた。
ちなみに、はちゃウマをしている4人の耳がトレーナーの方に向いているので、4人もこの話はかなり気になるらしい。
コーヒーを一口飲んで唇を湿らせてから、トレーナーは語りだした。
―――――(トレーナーとアドマイヤベガ)―――――
まあ、知っての通りベガは故障者として先生に預けられた娘だった。
ベガの場合、菊花賞で足を壊してしまったのもそうなんだが・・・・・・俗にいう「燃え尽き症候群」に似た症状だったんだ。
ベガの菊花賞を見ればわかるが、彼女は最後にテイエムオペラオーやラスカルスズカと激戦を演じたんだが・・・・・・その時に、どうやらけがを負ったらしい。
らしい、というのは俺も先生から又聞きしたからで、ベガの元トレーナーとウマ娘専門医が下した診察というか判断というか、だった。
俺が彼女と会ったときも、なんというか「死んだ魚のような眼」をしていたんだ。
比喩表現じゃない、本当に彼女は疲れ切っていた。
そんな彼女のリハビリを、先生以下レグルスチームが担当することになって、俺もそのメンバーの中に入れてもらった。
先生曰く『こういう娘も、担当していく中で出てくるから』との事だった。
俺も、今だから言えるが、その、この娘は大丈夫なんだろうかと心配になった。
それほどまでに、当時のベガは憔悴していたと言えるかな。
「貴方・・・・・・いいえ、こんな走れなくなったウマ娘に何の用なの?」
「用事という訳じゃない、ただ、君のことが聞きたいと思ってさ」
「バカね、そんな事を聞いたとして何の意味があるというの?」
「いや、それは・・・・・・」
「とにかく、今の私に話しかけないで、一人にしてほしいのよ」
「む、むう」
俺とベガのファーストコミュニケーションはこんなものだった。
正直に言おう、俺自身どうしたらいいかわからなかった。
ただな、俺の中に直感があったんだよ・・・・・・この娘は目を離したらアブナイ、というね。
どう危ないかというのは、こう、あれだ新聞の一面記事飾るような危なさというか・・・・・・。
とにかく俺は彼女が色々な意味でほっておけなかった。
先生もそういう考えだったみたいでな、俺に対して言ったのさ。
『今日からアドマイヤベガの担当になりなさい』
二つ返事でOKしたよ、文字通りな。
彼女を助けたい、そう思ったのさ。
後は、俺自身のカンがあったんだよ・・・・・・このままアドマイヤベガは終わらないとね。
そこからはリハビリの日々が続いた。
恐らく、彼女はつらいだろうと思っていたが、余裕という訳でもなく、なんというか、こう、淡々と日々をこなしているという気がしたよ。
今ではお互い笑い話だが、その時のベガの危うさは・・・・・・え、もういい?
ああ、確かに続きを話さなきゃな。
「アドマイヤベガ、君のその、なんだ、ケガのリハビリメニューなんだが・・・・・・」
「・・・・・・見せて、後、私の事はほっておいて」
「そうもいかない、君の担当として経過を記録しなきゃいけないからな」
「・・・・・・そう」
「っ、とはいえだ、君の体の事もあるから、休憩をはさんでということになるけどね」
「・・・・・・わかったわ」
うん、まあ、なんだ。
慣れてもこんな感じというやつでね、ベガとはコミュニケーションが取れるとはいえ、非常に一方的というか。
ある意味、ベガは俺にとって「壁」みたいなものだった。
押しても引いてもまるでダメ、登ろうとしても取っ掛かりすらない。
お手上げ一歩手前、という状態だったんだ。
それが好転したのは、意外な所からだったよ。
「ハァーッハッハッハッ、どうやら君はお困りのようだね!」
「君は・・・・・・確かリギルの、テイエムオペラオーだね」
「ご名答!」
とうとう俺も、三女神像の横手にあるベンチでうなだれてしまった。
本当にあの時はどうすればいいのか分からなかったからな。
その時さ、高笑いと共に覇王が現れたのは。
「うーん、成程、アヤベ君がねえ」
「オペラオー、君はアドマイヤベガの友人だろう? 何か、知らないか?」
「ふむ、何かという答えを出すことはできないね」
「・・・・・・そうか」
「ただ、ボクから今の君に言えることは一つだけさ」
「?」
「急がば回れ、だよ」
そう言って、まるで台風みたいに去っていったよ、オペラオーは。
ただ、そうだな。
彼女のアドバイスのおかげで、俺もアドマイヤベガを何とか出来るかもしれないと思ったんだ。
なにせ、回り込むという考え自体なかったからな。
その後は、俺はアドマイヤベガの事を調べた。
彼女の事を理解することが、彼女との円滑なコミュニケーションだと考えたからだ。
そこで、彼女が幼いころに自分の双子の妹と死別したことを知った。
え、そんな事私達が聞いていいのかって?
大丈夫さツルちゃん、ベガからも話していいとは言われているからね。
それに、彼女の不調の原因と死別は避けて通れない道だったんだ。
結論から言えば、彼女は「走れなかった妹の分も走る」という事を己に課していたのさ。
だが、彼女は怪我で走れなくなってしまった。
それが彼女の不調の原因となっている、俺はそう結論付けようとしてしまった。
まあ、なんだ。
それはかなり早急かつ無遠慮な考えだった。
俺自身、ベガとのやり取りの中で糸口を掴めずにいたせいか・・・・・・その、触れてはいけない部分をわしづかみにしてしまったんだ。
『ふざけないで!!』
『ま、まってくれアドマイヤベガ!!』
『うるさいっ!! 私の事を何も知らないくせに、私の心の中に入ってくるな!!』
『まっ、まってくれっ!?』
疲れた表情だった彼女が、激怒して机を凹ませたのにはまいった。
俺は間違えた、選択をね。
まあ、なんだ、よくここまで信頼を回復することができたと思うよ、うん。
とはいえ、俺はオペラオーのアドバイスも無駄にしたし、ベガの触れられたくない部分を触れてしまうし、大失敗をしたわけだ。
俺はへこんだよ、本当に自分に腹が立った。
ベガの事を理解しようとして、理解しないどころか触れられたくない記憶を踏みにじったんだから。
でも、とっさに言えたのは、不幸中の幸いだった。
『君の願いはなんだ、アドマイヤベガ!!』
『!?』
『妹さんの事は悪いと思っている、しかし、君を知るためには避けては通れない!!』
『だったら、放っておいて!!』
『それはできない!! 君が消えるかもしれないのに、そんなことはできない!!』
『男だからって調子に乗らないで!!』
『だったら君も、こちらに向き合ってくれ!!』
ははは、自分でも何を言っているのか分からない。
でも、その怒鳴り合いで何とかベガをつなぎとめることができたのではないか、と正直なところ思っているよ。
勿論、それは結果論だった。
今だから言えることで、そのときは文字通り「こちらに繋ぎとめるために」必死だったんだ。
ベガは、そんな危ない雰囲気を醸し出していたからね。
『君は、妹さんとの願いをかなえることができている、後は君の願いだけなんだ!!』
『うるさいっ、貴方に私の何が分かるっていうの!?』
『わからないから言っているんだ、俺はトレーナーだ、《君の》願いを叶えるためにここにいるんだ!!』
『!?』
我ながらすごい発言をしたと思う、でもまあ、それ位言ってもいいと思った。
というより、それぐらい言わなきゃ彼女は向き合ってくれないだろうとね。
いや君達、何をそんなに驚いた顔をしているんだ・・・・・・。
俺はトレーナーだよ?
この程度の事は、普通にするさ・・・・・・君達だってそう。
君達が迷ったり、苦しんだりしていたら、俺は全力でそれを解決するために行動する。
これは覚えておいてほしい。
さて、そんなこと今は置いておこう。
俺は、ベガに対してそう言った。
今だから言えるが、実はその時何も考えていなかった。
俺は、感情のままにベガと向き合っていたわけさ。
『わ・・・・・・わたしの・・・・・・願い・・・・・・?』
『そうだ、君の願いだ、君だってある筈だろう!?』
『そ、それは・・・・・・うぅう』
『アドマイヤベガ?』
『うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
『ベガッ!?』
あの時、ベガは明らかに混乱していたと思う。
俺はベガじゃあないし、解らないけど。
扉を文字通り「蹴破って」走っていく様子を見て、彼女のケガはむしろ心なのかなとかぼんやりと考えていた。
暫く茫然とした後、俺はよろよろと彼女を追いかけた。
頭の中にあったのは、どうやって彼女に謝ろうかという事だった。
しかし、俺はそこでまた失敗した。
直ぐに追いかけるべきだった、とね。
『いない、校舎の中にも、グラウンドにも・・・・・・一体どこに行ったんだ、ベガ!?』
『おや、そんなに急いでどうしたんだい、先程のアドバイス役に立たなかったかな?』
『オ、オペラオー!? す、すまん、君には謝りたいが、今はベガを探すことが先決だ、本当にすまん!!』
ベガはどうやらその時、校内を出ていたらしい。
らしいというのは、後で彼女本人から聞いたからさ。
でも、その時の俺は焦っていたからね・・・・・・その可能性すら考えなかった。
その時さ、三女神像の前でまた覇王に会ったんだよ。
彼女は、俺を一目見るなりこう言ったんだ。
『大丈夫さ、彼女は強い、彼女の強さは僕の方が十分に知っている』
『オペラオー・・・・・・』
『もし、それでも心配ならば、閃光の乙女に聞くといいんじゃないかな?』
『閃光の・・・・・・そうか!』
俺は彼女に礼を言うのも忘れるほどに、ね。
ちなみに後で、オペラオーにはオペラコンサートの特等席のチケットを贈ったよ。
高かったんじゃないかって?
ははは、ベガが無事だったからそれでいいんだ。
最も、2回目の際の事は彼女覚えてなかったらしいんだが・・・・・・なんでだろうな?
まあそれは置いておいて、俺は猛ダッシュでベガの寮の部屋へ突撃したんだ。
答えは単純、閃光の乙女がそこにいたからさ。
『頼もうッ!!』
『ひょわぁぁぁぁっ!?』
『すまないカレンチャン、君に聞きたいことがある!!』
『ほえ、え、なに、なんなの!?』
『アドマイヤベガを知らないか!?』
『アヤベさんに何かあったの?』
そこで俺は説明したさ、初めから今までをな。
まあ、聞いているうちにカレンチャンの眉間にものすごいしわが寄ってなあ。
『お兄さん、正座』
『・・・・・・はい』
『女の子のデリケートな部分に土足で踏み込むとか何を考えているのかな?』
『・・・・・・すみません』
『・・・・・・はぁ、アヤベさんなら裏山にいるよ』
『え?』
『アヤベさんはね、落ち込んだりすると裏山で星を眺めていることが多いの』
カレンも一緒に星を見たことがあったらしくてね、教えてもらったよ。
俺はそれを聞いて、裏山に走った。
裏山の山道を転びながら全速力で駆け上がった。
裏山には複数の広場があるから、どこに行けばいいのか最初にはわからなかった。
けど、ベガの後姿を山で見かけてね、必死に追いかけたんだ。
え? いや、ベガは俺よりずっと前に走っていったから後姿を見かけることはないよ。
ただ、今だから言えるけど、あれは無くなった妹さんの後姿だったんじゃないかなあ。
話を戻すけど、俺は必死だった。
スーツが汗と泥だらけになったが、まあそんなことは些細なことだった。
そして俺は、とうとう星を見上げながら黄昏れているベガを見つけたんだ。
裏山のベンチに座って、星を見ながら彼女は泣いていた。
俺は彼女の涙に、直ぐに何もできなかった。
俺にできたことは、彼女の隣に座るくらいだった。
ああ、それと、ハンカチを渡したかな。
ただ、彼女が泣き止むまでずっと、傍にいた。
それ以上、俺にはできなかった。
『意気地なし、慰めてくれないのね』
『すまない、トレーナーズスクールでも女の子の涙のぬぐい方は教えてもらえなかった』
『バカ』
『ああ、俺はバカだ』
『人の心に土足で踏み込むなんて、最低よ貴方』
『ああ、その通りだな』
『・・・・・・どうしてわかったの、私がここにいること』
『・・・・・・オペラオーたちに助けてもらったんだ』
『そう・・・・・・本当にバカよ、貴方もオペラオーも、そしてカレンも』
『わかっていたのか?』
『バカね、かまをかけただけよ』
『はは、そうか・・・・・・』
『『・・・・・・』』
暫くして、ベガが泣き止んでくれてな。
涙でハンカチは濡れていたし、目も赤くなっていたけど、それでも俺を真っ直ぐに見てくれた。
『貴方は、さっき私に言ったわよね?』
『何を言ったっけか』
『呆れたわね、私の願いは何かと言ったじゃない』
『・・・・・・ああ、確かに言った』
『私の願い、それは』
『それは?』
『走ることよ』
『走る?』
『ええ、それもただ走るのではなく、走って勝つこと』
『・・・・・・それは』
『ふふ、さっき泣きながら自分で考えたの・・・・・・出てきたのはこれだったわ』
『そうか』
『ええ、そうよ・・・・・・結局私も、ただのウマ娘、未練は走りにあったの』
『その願いは自分の願いかい?』
『ええ、これからおせっかいな覇王を倒さなきゃいけないのよ』
『その願い、叶えさせてもらってもいいかい?』
『叶えられると思う?』
『もちろんだ』
『そう、それじゃあお願いね・・・・・・トレーナー』
『・・・・・・ああ、解ったよアドマイヤベガ』
その日、俺は晴れてアドマイヤベガのトレーナーになった。
今までが今までだった、遠回りばかりだった。
でも、彼女のトレーナーになれたのは良かったと思う。
アドマイヤベガは、前を向いてくれた。
あの時も、今でも、俺にはそれで十分だ。
前を向き、進むべき目標が決まったら、その時は俺の出番さ。
目標を達成できるように全力を尽くすのが、トレーナーだからな。
オペラオー、彼女との決着をつけたかったようでね。
彼女のライバルであり友人と全力で戦えるように。
俺は彼女のトレーニングを監修して、メニューを作った。
先生やチームの人たちの協力を得てだけどね。
それでも、当時の俺の最高のトレーニングメニューを作ることができた。
後は、そうだな。
ベガは笑うようになった。
泣いて吹っ切れたのか分からないが、ふとした時にね。
俺としては、またどこかに消えてしまうんじゃないかとひやひやしていた。
実際そのことを伝えらたら、あきれ顔をされたよ。
もうどこにも消えたりしないわよ、だって。
そして、彼女と覇王のリベンジマッチが実現したのさ。
ん、そうだよ、ジャパンカップさ。
怪我は治り、こころが定まらず、その結果自分のしたいことを見失っていた。
そんな彼女が、自分のやりたい事を見定めて、その日に向かって努力した結果だ。
『やあアヤベ君・・・・・・飛び入り参加を歓迎するよ』
『ふふ、菊花賞以来ねおせっかい覇王』
『むぅ、おせっかい覇王はひどくないかい?』
『トレーナーを焚きつけたのは貴女でしょう?』
『まあそうだがね・・・・・・脚は、いや体調は万全かい』
『あたりまえでしょう、貴女は万全じゃなければ倒せないもの』
『ハァーッハッハッハッ、それでこそ我がライバルだ!!』
『ええ、貴女を倒すわ、ここで』
ベガはいつもの冷静な顔を脱ぎ捨てて、文字通りやる気満々だった。
そして、その時が来たんだ。
ジャパンカップ、覇王とのリベンジマッチ、覇王はドリームトロフィーに行くことを明言していたから、現役最後の走りと言えた。
《アドマイヤベガとテイエムオペラオーが激しく競っているぞ!!》
《テイエムか、アドマイヤか、勝利するのはどっちだ!?》
《・・・・・・アドマイヤベガ、アドマイヤベガだ、覇王の絶対王政を終わらせたのは、復活した蒼き流星だ!!》
会場が湧いたのを、今でも思い出すよ。
その歓声を背に俺は、彼女の待合室に向かって走っていてね。
そして、待合室で彼女と出会ったんだ。
『トレーナー? 私これから着替えるのだけれど・・・・・・わっ!?』
『ベガ、ベガ、ベガァっ!! よくやった、よくやったぞ、すごくすごいぞ君は!!』
『何をトップロードみたいなことを言っているの、ちょ、今、汗臭いから、放しなさい!!』
『放すか、放せるか、こんな、こんな、うう、ううううううう』
『ああもう、人の話を・・・・・・はぁ、少しだけよ?』
俺は、彼女を思いきり抱き締めて、そのまま泣き出してしまったんだ。
我ながら恥ずかしいが、あの時はもう感情が高まり過ぎてなあ。
文字通り、感極まった涙だったよ。
彼女の肩に顔をうずめて、俺は男泣きに泣いた。
もう涙が止まらなくて、どうしようもなかったからな。
5分ほど泣いて、流石に離れたが。
それでも、彼女のウィニングライブでまた号泣したよ。
堂々と歌って踊る彼女を見て、俺は・・・・・・自分勝手かもしれないが、良かったと思った。
間違ったことは多いが、得たものも多い。
少なくとも、アドマイヤベガを担当することで、俺は必要な事を見つけたような気がする。
何が、と聞かれるとちょっと困る。
なにせ『迷っている時は即行動』というのが、今の俺のたどり着いた必要な事だったから。
え、なんだよ、スカイ、行動できてない事があったって?
しょうがないだろう、俺はこう見えて新人トレーナーなんだぞ?
ベテラン勢から見たらまだまだ歩きたての赤ん坊みたいなもんだ。
時々行動できないのは、目をつぶってくれ。
まあ、なんだ、これが俺とベガの馴れ初めみたいなもんだな。
――――――――
長い話を終えると、トレーナーはすっかり冷めたコーヒーを一気に流し込んだ。
見れば、「はちゃウマ」は2巡目に入ったらしく、聞いているのがスペシャルウィークとツルマルツヨシから、セイウンスカイとキングヘイローに変わっていた。
「なんというか、思ってたより大変だったのね」
キングが少し目を潤ませながら言う。
本人に指摘したら絶対に認めないだろうが、ベガの話の下りで2回ほど鼻をかんでいるため、鼻水もすごそうだ。
「なんていうか、トレーナーさんは変わりませんね~」
「そうか?」
「そうですよ」
「そうか~」
セイウンスカイと緩いやり取りをかわすトレーナー。
その時だ。
ドアをノックする音がしたと思ったら、アドマイヤベガが室内には入ってきた。
「あら、何をそんなに話しているのかしら」
「あ、いえ、そのアヤベ先輩」
「うーん、まあ、アヤベ先輩とトレーナーさんの馴れ初めを聞いていたんですよ~」
「ふーん、話したの?」
「まあな、話してまずかったか?」
「いえ」
「そりゃあよかった」
「でもそうね、喉が渇いたからコーヒーを頂戴」
「おいおい、自分で淹れてくれよ」
「勝手に話した罰よ」
「はいはい」
そういうと、トレーナーは立ち上がってコーヒーを淹れに行く。
彼がいつも飲むインスタントではなく、少し高いドリップするタイプの珈琲だ。
珈琲のいい香りが部屋いっぱいに広がる。
彼の淹れた珈琲には、アドマイヤベガの為に砂糖を一杯入れてある。
一口飲んで、彼女は相変わらず美味しいわ、と言った。
「そうだ」
「なんだい?」
「パーマーとの馴れ初めを聞きたいわね」
「おいおい、藪から棒にどうしたんだ?」
「私の事を話したんでしょう? ならば私だって聞く権利はあるわ」
「いや、まあ、そうかもしれんが・・・・・・」
そんなやり取りに、はちゃウマを途中で止めて、ゴールデンノヴァの彼女達も彼に向き直り言う。
「そう、ですね、私も聞いてみたいかと」
「そういえば、パーマー先輩との出会いも来てみたいデース!」
「聞いたことなかったっけ、けほ」
「うーん、私は聞いたことない気がするべ」
「それじゃあ、次はパーマー先輩との馴れ初めという事で~」
「ちょ、ちょっと貴女達ねえ!」
「いいのよキング、いないパーマーが悪いんだから」
「えぇ・・・・・・」
いたずらっ子のように笑うベガに、キングは注意する気も失せたようだ。
というか、耳の動きからしてキングも気になっていたのだ。
「やれやれ、あまり面白い話ではないと思うが・・・・・・」
それに気が付いたトレーナーは苦笑しつつ、新しいコーヒーを淹れて自分の席に座った。
後編、メジロパーマーとの出会いに続く
はちゃウマをプレイしたり、
スランプに陥って書けなかったり、
色々ありましたがやっと投稿出来てよかったです。
もしよろしければ感想などいただけましたら幸いです。