ウマ娘逆転ダービー(仮)   作:グレート・G

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皆さま、覚えていらっしゃいますでしょうか?

グレート・Gでございます。

第十六話の後編を投稿させていただきます。

書いていたら、なんというかものすごく量が増えまして。

しかも内容がパーマーというかメジロ家との出会いになってしまいました。

皆様のお時間をいただける内容になっているといいのですが・・・・・・

というかおよそ半年もかかるとは思わなかったです、はい。


第十六話 後編 メジロパーマーとの出会い

「しかし、パーマーとの出会いなあ・・・・・・」

「あら、何か聞かれて困るような事でもあったのかしら?」

「ベガ、顔が怖いが・・・・・・まあ、なんだ、パーマーとの出会いは同時にメジロ家との出会いという形になってしまうからなあ」

「メジロ家・・・・・・というと、マックイーンさんとかライアンさんとかとの出会いという事ですか?」

「そうだよスぺちゃん、どうしてもなし崩し的に彼女達との接点も語ることになるのさ」

「むー」

「スぺちゃんがむくれる理由が分からんのだが」

 

トレーナーが自分のマグカップに濃い目のインスタントコーヒーを淹れて戻ってきたとき、ゴールデンノヴァの面々もまたお菓子を広げて聞く準備を整えていた。

それに呆れつつも、まあ今はオフの期間だしいいか、と許してしまうトレーナーも大概だ。

 

「それで、パーマー先輩との出会いはどんな感じなんです~?」

「スカイさん、パーマー先輩と仲がいいからってがっつき過ぎよ?」

「そ、そんなことないし!」

「おー、珍しくキングが一本取ったデース」

「ああ、緑茶が美味しい」

「もぐもぐもぐもぐ」

「あ、スぺちゃん私にもクッキー頂戴・・・・・・けほ」

「ほら、落ち着いて食べなさい」

「ほんと、うちのチームは自由だなあ」

 

自由な面々に苦笑しつつ、トレーナーは口を開く。

メジロパーマーとメジロ家、その出会いを語るために。

 

――――――――――

 

「ほー、これがフリースタイルランかぁ」

 

トレーナーは口をぽかんと開けて、目の前で行われているレースを見ていた。

いわば大障害レースに相当するのだが、これはどちらかというとサスケのようだとトレーナーは思った。

思っただけで口には出さないが。

彼がこのフリースタイルランを見つけたのは、まったくの偶然だった。

トレーナーに与えられる休日、全くの空白日。

その自由な時間を使って、何か面白い事はないかと歩いていた矢先のことだ。

今日も今日とてスーツ姿の彼は、フリースタイルランの会場では少し浮いていた。

 

「おいおい、アンタなんでこんなところに来てるんだ!?」

「ん? いやあ、フリースタイルランなんて見たことが無くて、興味があったからつい」

「きょ、興味って・・・・・・アンタ男だろう」

「男がフリースタイルランに興味持っちゃいけないのか?」

「いや、そういう事じゃないが・・・・・・」

 

近くにいた男勝りな女性が慌てたように声をかけてくる。

恐らく係員のようなものだろうと、彼はあたりを付けた。

フリースタイルランの会場に男一人で来るなんて、危機感の欠如もいいところだが、彼はそれに気が付かない。

そして、彼の視線は一人のウマ娘の走りに釘付けになった。

明るい茶色の髪に白い流星、その彼女の名前は。

 

「なあ、あれはメジロのお嬢さんじゃないか?」

「あ? ああ、そうだよ、メジロパーマーさ」

「彼女、フリースタイルの選手なのか?」

「あー、まあ、なんだ・・・・・・聞いてみればいいじゃないか」

「え?」

「フリースタイルランは身分も年齢もない、文字通りフリーだ」

「声をかけるのもフリーという事か?」

「まあ、そういう事だ・・・・・・速いなオイ!?」

 

係員から許可を取った瞬間に、彼は残像を残すような速さでパーマーに声をかけに言った。

具体的に言えば、彼女の居る席に近づいていったのだ。

観客の中をすいすいと通り抜けていくその様は、忍者のようだったと係員の女性は語った。

 

「失礼、メジロパーマーさん」

「ん・・・・・・うえっ!?」

「あ、ちょ、大丈夫か!? ほら、ハンカチ」

「あ、えと、ありがとう・・・・・・?」

 

メジロパーマーに声をかけたトレーナーだが、待っていたのは奇麗な二度見と霧吹きのように噴射されたスポーツドリンクの洗礼だった。

最も、彼はそれを気にした様子もなくシャツの袖で顔をぬぐい、自然な動作でハンカチを差し出したのだが。

パーマーはそれに戸惑ったが、ありがたくハンカチを貰って口元を拭いた。

そんな彼女と彼のやり取りに、フリースタイルランの出場者たちは驚いて声も出ないようだった。

 

「それで・・・・・・その、お会いしたことありましたっけ?」

「いや、会ったことはないが、一応トレセン学園のトレーナー見習いでね」

「え、トレセン関係者!?」

「む? 俺が関係者だとまずいのか?」

「あ、えと、その、どういえばいいのかなあ」

 

その様子に、トレーナーはピンときた。

 

「もし俺がメジロ家や学園に言うと思っているなら、それは間違いだ」

「へ?」

「今日の俺は完全にオフでね、ここに来たのは単なる気まぐれさ」

「あー、なるほどねえ」

「だから、もしメジロのお嬢さんがフリースタイルランに挑戦していても、俺は何も見なかったことにできる」

「ぷっ、何それ」

 

彼の仰々しい言葉に噴出したパーマーにつられて、トレーナーも笑う。

ひとしきり二人で笑った後、パーマーはぎょっとした表情になった。

 

「ちょっ、トレーナーさん、シャツが透けてる!!」

「む、まあその内に乾くよ」

「いやいやいや、良くないよ、大変よろしくない!!」

 

ワイシャツが透けているトレーナーを真正面から見たパーマーは焦った。

そして、パーマーはどこかに連絡を取り始めた。

 

「どうしたんだメジロパーマー?」

「まあ、がんばれよ?」

「?」

 

フリースタイルランの参加者の一人が、彼の肩を「まあがんばれ」とでも言いたげにたたいた。

そのことに彼は、ますます困惑した。

そんな彼の目の前に、黒いリムジンが急停車したのだった。

 

―――――(トレーナー輸送中)―――――

 

「私こそ、メジロ家当主《メジロアサマ》である」

「はっ、自分はトレセン学園のトレーナーであります!」

「うむ、いい返事だ・・・・・・メジロ家にようこそ」

「ありがとうございます!」

 

メジロ家の面々が一堂に会する大広間で、トレーナーはメジロ家当主と面会していた。

正にハマーン・カーンのようなその物言いに、トレーナーは思わず背筋を伸ばして敬礼をしていた。

その様に満足そうにうなずいてから、おばあ様・・・・・・否、メジロアサマはパーマーを見た。

メジロ家の女子をすべて足して割ったようなその女性は、正にメジロ家を仕切る女傑と言える。

 

(メジロ家のおばあ様だと思ったのに・・・・・・アサマ様でしたかぁ・・・・・・)

 

老人を想像していたため、どう考えてもお若いアサマにトレーナーは驚いた。

最もアサマはそんな彼の考えに気が付かず、パーマーに優しい目を向けていた。

その目には、良い男を連れてきたという無言の言葉が込められており、視線を向けられたパーマーは困惑したのだった。

 

「いや、あの、おばあ様この人は・・・・・・」

「ふむ、どうしたのだパーマー、歯切れが悪い」

「えと、その、ですね・・・・・・」

「実は、不運な事故で私がびしょぬれになってしまいまして」

「びしょぬれだと!?」

 

メジロアサマがびっくりした様子でパーマーを見た。

パーマーは彼の出した助け船に、素直に飛び乗ることにした。

 

「ええ、それで、場所がフリースタイルランの会場だったからあわてて連れ出したという訳です、はい」

「なんと、君、体は無事だったか!?」

「? ええ、メジロパーマーさんのおかげで事なきを得ました」

「よくやったぞパーマー」

「あ、あはははは、ありがとうございます」

「してトレーナー」

「はい、なんでしょうか」

「別室に着替えが用意してある、着用するように」

「何から何まですいません、ご厚意に甘えさせていただきます」

「よろしい」

 

もしフリースタイルランで不埒な事が発生してしまえば最後、今後フリースタイルラン自体出来なくなるかもしれなかった。

ただでさえ野良レースは「アングラ」じみているのだから、当然と言えば当然なのだが。

そんな事態を未然に阻止したパーマーの行動に対して、アサマは惜しみない賛辞を贈った。

ただし、トレーナーがびしょぬれになった原因はパーマーにあるのだが。

そんなことは決して口に出すわけにはいかないパーマーは、話題をそらすことにした。

ちなみに、トレーナーは執事に連れられて別室に着替えに行った。

 

「その、なんで家の面々が集まっているんでしょうか?」

「む、ああ、その件についてだが」

「はい」

「男のトレーナーを連れ込むという事は、彼をメジロにするという事なのだろう?」

「へ?」

「ならば我が一族に顔を覚えさせねばなるまい」

「あ、ああああ、あの、え、なんで、どゆこと!?」

 

パーマーは混乱した。

この当主何言ってんの、ボケたの、突っ込みまちなの!?

そんな事が顔に出ていたのか、それを見かねた《メジロライアン》がパーマーに注意する。

 

「パーマー、ボケてもいないし本音だよ?」

「いやいやいやライアン、ここはボケてほしかったなあ!?」

「バカ者、私はまだボケるつもりなどない」

「アサマ様もなんで乗っかるんですかぁ!!」

「こほん、パーマー、話が脱線していますわ」

「あ、うん、そうだねマックイーン」

「取りあえず式の日程は何時になさいますの?」

「マックイーン!?」

 

ここにきて《メジロマックイーン》がボケ倒しに来た。

勿論、マックイーンはボケてなんかいない。

真面目だ、真面目に言っている。

 

 

「挙式の前に、まずは親御さんへの挨拶をした方がよろしいのでは?」

「アルダンさん!?」

「そうですわね~、皆でお邪魔させていただきましょうか~」

「ブライト!?」

「ふふ、愛の形は人それぞれよパーマー、応援するわ」

「ラモーヌ姉さんまで!?」

「・・・・・・それで、パーマーはどうしたいの?」

「えーと、ドーベル、それは」

「婿入りの話じゃなくて、トレーナーの話」

「ああ、うん、ドーベルだけだよ真面目に取り合ってくれるの・・・・・・」

「はぁ・・・・・・みんなも真面目にやろう、その後でいいじゃない婿か嫁かは」

「あれ、これ四面楚歌かな?」

 

パーマーは悟る、これ詰んでないと。

しかし、そんなパーマーなんてそっちのけで話は進むのだった。

 

「あー、でも今はパーマーにはトレーナーが居ないんだよね」

「そうですわね~ライアン姉さま、パーマー様が逃げてしまうばかりに、トレーナーの定着率が悪いんですわ~」

「うっ・・・・・・ブライト、痛いところを・・・・・・」

 

そう、メジロパーマーにはトレーナーが居ない。

いや、いるにはいるのだが。

メジロ家の用意したトレーナー(女性)から、彼女は逃げていた。

 

「はぁ、パーマーよ、メジロ家の用意したトレーナーでは不服か?」

「アサマ様、その、そういう訳では・・・・・・」

「ではなぜフリースタイルランに精を出す?」

「それは・・・・・・」

「パーマー、私たちも心配しているんですのよ?」

「マックイーン」

 

そう、パーマーは史実と同じ活躍をしている。

しかし、その活躍と反比例するかのように、彼女のトレーナー定着率はメジロ家の中でも最も低い。

彼女はトレーナーを5回も変えており、ほかのメジロ家の面々のように二人三脚で歩んできていなかった。

それをメジロ家としては心配していたのである。

 

「でも、結果は出してきてるし・・・・・・」

「確かに、宝塚と有馬は勝利していますが・・・・・・」

「だ、だったらいいじゃない、ねマックイーン?」

「あら、そうかしら?」

「ラモーヌ姉さん」

「貴女は、レースという愛からも逃げているのではなくて?」

「う・・・・・・」

 

パーマーはラモーヌの言葉に詰まる。

彼女の言う通り、パーマーは逃げていた。

レースからも、トレーナーからも逃げていた。

 

「何故逃げ続けるのか、それを明らかにしてもらわないと」

「私としても、何故パーマーお姉さまがこんなにも逃げるのか知りたいですわ~」

「ドーベル、ブライトも・・・・・・」

「ふむ、やはり何か不服な点があるのか?」

「・・・・・・」

 

アサマの指摘に、何も答えることが出来ずパーマーはうつむいてしまう。

その時、パーマーの様子を見て何事か考えていたアルダンが思いついたように言った。

 

「その、もしかしてですが」

「何でしょうアルダンさん」

「彼を連れてくるのに必死で何も考えてなかったとか?」

「・・・・・・あはは、お恥ずかしい」

 

耳をペタンと倒して、パーマーの顔は真っ赤になっていた。

本当に彼女らしくないが、どうやらアルダンの言葉通りだったらしい。

それだけ一目惚れだったのだろうか、などとメジロ家一同がとんでもない勘違いを加速させた。

その時だった。

 

「失礼します、トレーナー様のご用意が出来ました」

「うむ、入ってくれ」

「はい」

 

執事がそう言って、トレーナーを広間へ案内する。

執事に連れられて入ってきたトレーナーを見て、メジロ家の淑女たちは思わず感嘆の声を上げた。

 

「「「「「おぉぉぉぉっ」」」」」

「ほう、これは中々の逸材」

「おほめにあずかり恐悦至極です、ご当主」

 

高身長にマッチしたグリーンのスーツは筋肉質な彼によく似あい、オールバックにまとめられた頭髪は彼の外見を一流に高めた。

正に「メジロ家の一員」とした男性トレーナーがそこに立っていた。

そんな彼を目にしたためか、メジロのお嬢様たちが感嘆の声を漏らしたのである。

なお、パーマーはというと。

 

(あばばば、ど、どうすればいいのこれー!?)

 

盛大に焦り倒していた。

耳と尻尾はピンと立ち、目は泳ぎ、両手はせわしなく動いている。

そんな彼女を見つつ、トレーナーは言う。

 

「その、俺はどうしたらいいのでしょうか?」

「ふむ、実によろしい」

「いえ、ですから何が・・・・・・」

「君、単刀直入に言う、パーマーのトレーナーとなってくれ」

「はい」

「うむ、そう言ってくれると思っていた」

「いやいやいやいや、おかしいでしょ!?」

 

メジロアサマの言葉に即答するトレーナー。

それに対してやっとのことで混乱から立ち直ったパーマーが声をあげる。

しかし、その声は少しかすれて小さな声であった。

なので。

 

「ふふふ、これでメジロ家も安泰だ」

「? ええと、その、パーマーさんの為に全力を尽くさせていただきます?」

「ちょ、君、自分で何を言っているのか分かっているの!?」

「いやあ、君のトレーナーになるんだよな?」

「トレーナー(意味深)になるって、それを即答って・・・・・・あう」

「だから、トレーナーになるだけで・・・・・・聞いているかいパーマーさん?」

「ぴぃ」

「ダメだこれ」

 

顔を青くしたり赤くしたりとせわしなく、最終的にはひっくり返って目を回してしまったパーマーとそれを見て途方に暮れるトレーナーだった。

なお、そんな彼らを見て何を勘違いしたのか分からないが、メジロ家一同はなんか生暖かい視線を注いでいたのである。

 

「しかし、私も一言申し上げなければいけないことがあります」

「ほう、なんだ?」

「私はまだ半人前のトレーナー見習いゆえに、パーマーさんの正式なトレーナーになることはできないんです」

「ふむ・・・・・・所属は?」

「トレセン学園本校で、樫本さんに師事しています」

「ほう、あの樫本理子氏か・・・・・・ふむ、おい、電話をくれ」

「はっ、トレセン学園の方に繋いでおります」

「上出来だ・・・・・・やあ、学園長、しばらくぶりだな」

 

トレーナーはアサマ達メジロ家(パーマーは気絶中)の面々に申し訳なさそうに言う。

そんな彼の言葉に、アサマは頷くと、なんとトレセン学園のやよい理事長に電話をかけ始めたのである。

なお、彼女の言葉があまり聞き取れなかったトレーナーだが《トレセン学園への寄付金》だの《系列グループからの物品》だのという言葉が聞こえてきたので、聞くのをやめた。

彼はある程度、空気を読める男だった。

 

「今、理事長と話を付けたところだ」

「・・・・・・理事長はなんと?」

「うむ、理事長曰くパーマーの樫本氏率いるレグルスへの加入を《快く賛成》してくれた」

「うわぁい、メジロ家ってすごーい」

「ははは、ほめるなほめるな」

 

トレーナーも、アサマの剛腕に思わず、と言った風に言葉が漏れ出た。

ちなみに、ほかのメジロ家の面々は「またか」と言わんばかりの顔をしていた。

どうやら、こういった行為は初めてではないのかもしれない。

 

「しかし、何故レグルスにパーマーさんを? 私が担当できるわけではないと思うのですが」

「そこについての問題はない、パーマーももうシニア級でね」

「勝手は分かっていると?」

「うむ、まあそれだけではないのだ」

 

アサマがチラリとマックイーンたちに目配せをする。

その意を汲んだのか、マックイーンが言った。

 

「どうやら私たちはここまでですわね、ライアン、パーマーを運んであげて下さらないかしら」

「ああ、うん、わかったよマックイーン」

 

ライアンがいまだ気絶したままのパーマーをお姫様抱っこで抱えると、ドーベルが扉を開けた。

そのままメジロ家の淑女たちは退出していき、アサマとトレーナーの二人きりになった。

 

「単刀直入に言う、パーマーを見てどう思う?」

「素晴らしいメジロのご息女であらせられる、元気の良さもよいところかと」

「いや、世辞は言い、トレーナーの目線からアレを評価してどう思う?」

「・・・・・・そうですね、彼女はいささか浮ついているように見えます」

「ほう」

「どこか、自分が定まっていないというか、こう、言いにくいのですが」

「構わん、続けろ」

「しいて言うならば《根》のない大輪の花かと」

「ふむ・・・・・・いくら大輪の花を咲かせようと、根が無ければ立つことはできず、直ぐに枯れてしまうという事か」

「そのような認識であっているかと思います」

「そうか、君に目を付けたパーマーは正しかったようだ・・・・・・それとも三女神のお導きかな?」

 

アサマはそういうと、トレーナーに向けて目を細めつつ言う。

 

「あの子はいい子だ」

「はい、出会ってすぐではありますが、私も同意見です」

「だが、あの子は覚悟が定まっていない」

「・・・・・・」

「あの子に常々根性を身に付けろと言ってはいるが、しかし、どこかから回ってしまっている」

「結果の方は?」

「出ている、出ているから問題なのだ」

「成程、実力はある、人柄もいい、しかし覚悟が定まらない」

「そうだ、覚悟が決まれば自然と人としての軸も定まる」

「・・・・・・」

「あの子には、軸がない、だから逃げてしまう」

「脚質の問題ではありませんね、人間性の問題ですか」

「そうだ・・・・・・私が君に求めるのもそこにある」

「ふむ・・・・・・」

「パーマーはフリースタイルレースだけではなく、正規のレースでも輝ける」

「その輝き、私が担当しても?」

「そのためのトレーナーと認識している」

「解りました・・・・・・しかし、本人の希望が無ければ私は」

「そこに関しては、問題なかろう」

「?」

 

そう言うと、アサマは静かに音を立てず扉の近くに行くと、勢いよく扉を開けた。

すると、雪崩を打ってメジロの淑女たちが倒れてきたのだった。

 

「この通り、全員聞いていたからな」

「・・・・・・成程」

 

どうしたものか、とトレーナーは眉間を抑えた。

 

―――――(メジロ家中庭)―――――

 

「えー、先ほどの失態は忘れてくださいまし」

「マックイーン、たぶん無理なんじゃないかな」

「いえ、私は何も見ていません・・・・・・そうですね、淑女の皆さんが転んでしまったくらいの認識です」

「あはは、ありがたいやら恥ずかしいやら」

 

メジロ家の中庭では、メジロの淑女たちのお茶会が開かれていた。

そこにいるのは、以下の面々だ。

「魔性の麗人」メジロラモーヌ

「割れないガラス」メジロアルダン

「名優」メジロマックイーン

「麗しき実力者」メジロライアン

「波乱の逃げウマ娘」メジロパーマー

「クールビューティー」メジロドーベル

「のんびりステイヤー」メジロブライト

はっきり言って、とんでもねえ重賞勝利数の姉妹たちである。

 

そして、当然のように紅茶を用意して、かつ、お茶菓子を配膳しているトレーナー。

執事曰く「ここまで手際のいい方は久しぶりに見ました」とのことだった。

 

「・・・・・・それにしてもさ」

「なんですの、ドーベル?」

「なんでこの人が執事の真似事をしているのかしら?」

「「「「「「「はっ!?」」」」」」」

 

実は男性が近くにいることで混乱の極致に達し、そしてかえって冷静になったドーベルの突っ込みに全員が、はっ、とした表情になる。

かのラモーヌまで目を見開いて驚いているのだから、あまりにも自然だったのだろう。

ちなみにトレーナーはというと。

 

「アルダンお嬢様、こちら本日のお茶菓子『マスクメロンのタルト』でございます」

「まあ、ありがとう・・・・・・いえ、じゃなくてですね」

「それと、こちらは私がブレンドしました特性のミルクティーでございます・・・・・・ミルクインアフターで紅茶の香りも引き立てました」

「あら、いい味・・・・・・ほわぁ」

 

慌てたアルダンがトレーナーを止めようとしたが、トレーナー(執事)に押し切られた。

ちなみにメジロ家一同、今は絶賛オフ期間のため、タルトもミルクティーもたっぷり食べられるのだ。

全員分に切り分けられたメロンのタルトと、彼の手づから入れたミルクティーに舌鼓を打つお嬢様ズ。

そして、和やかに時間は過ぎてゆくのだった。

 

「・・・・・・こほん、おなかも落ち着いたことだし、本題に入りましょうか」

 

メロンタルトをしっかり2人分食べてご満悦のマックイーンがそう切り出した。

ちなみに、頬っぺたにはクリームが少しついているのだが・・・・・・

 

「マックイーンお嬢様、頬にクリームが付いております、動かないでください」

「あら・・・・・・ふみゅう」

「取れました、次からは食べるときに気を付けてくださいね」

「・・・・・・はい」

 

トレーナーからの先制パンチで沈んだ。

頬を赤らめて耳が垂れ、視線が定まらない。

が、そこは最強のステイヤーにして名優のマックイーン、すぐに気を持ち直した。

 

「彼が我々メジロ家と一心同体になるのは確定として、さて、どう世間に公表するかが問題ですわね」

 

否、全然持ち直せていなかった。

むしろ掛かり気味、これでは賢さマックE―ンである。

そんな彼女の言葉は、ちょうど切れてしまったお茶菓子を補充に行った彼には聞こえなかったのは幸いか?

 

「そうね、彼にはこのメジロ家で思いっきり愛を受けてもらう必要があるわ」

「愛っ!? あ、でも、確かに彼がメジロになるならそういうことか」

「ライアン、確かにそうかもしれないけど、彼の気持ちを確かめた方がいいんじゃない?」

「そうですわ~、不一致というのはお互いにとって決して良いものではないですもの~」

「それじゃあ、こういうのはどうかしら?」

「アルダンさん、ノリノリだね・・・・・・」

 

共有財産にする気満々のラモーヌと、その手があったかというライアン。

そんな二人の言葉に触発されたのか、アルダンの言葉に全員が耳を向ける。

そしてアルダンから出た言葉は、彼女たち全員を納得させてしかるべきものだった。

 

「仲がいいなあ、メジロ家は」

 

ちなみにトレーナーはんなことはつゆ知らず、中庭をのぞきつつのほほんと思っていたりする。

そして彼が完ぺきな所作で追加のメロンタルトとミルクティーを持ってきたとき、おもむろにメジロアルダンが口を開いた。

 

「トレーナーさん」

「なんでしょうかアルダンお嬢様? ちなみにメロンタルトのお替りはこちらです」

「あら、ありがとうございます・・・・・・ではなくて」

「ふむ・・・・・・紅茶の味が悪かったですか?」

「いいえ、とてもいい味です・・・・・・トレーナーさん」

「はい」

「あなたには試験を受けていただきます」

「試験ですか」

「メジロ家の私たち全員、一日執事として過ごしていただきます」

「それは・・・・・・パーマーさんを担当するための、ということで?」

「そうですね、私たちの姉妹を得体のしれない人に任せたくない、ということで」

「なるほど、確かにその通りだ」

「いや、見習いとはいえ中央のトレーナーに得体のしれないっていうのはどうなのさ」

 

パーマーが真顔で突っ込むが、全員スルーを決め込んだ。

パーマーはちょっといじけた、が話は続く。

 

「ルールはとても簡単、私たちに一日執事としてついてもらい、私たちが10点満点で採点するというシンプルなもの」

「ふむ、何がどういう点数かは分からないということですね」

「そういうことになります、よろしいですね」

「ええ、そういうことでしたら受けて立ちましょう」

 

そして今ここに、なんちゃって執事であるトレーナーと、メジロのお嬢様たちによる仁義なきテストが幕を開けたのだった。

なお、このテスト期間中のトレーナーはメジロ家で寝泊まりすることとなる。

 

――――――

 

「ちょとまった、トレーナーさんはメジロの屋敷に泊ったの!?」

「そ、そうだが・・・・・・どうしたんだキング?」

「ど、どうしたも何も・・・・・・」

 

どこか焦ったかのように言いよどむキングヘイローに、トレーナーは首をかしげる。

今やトレーナールームは変な緊迫感に包まれていた。

緊迫感の発生源は、黄金新星の面々である。

だが。

 

「なにもなかったよー、それはパーマーさんが全力で保証するからさ」

 

いつの間にか来ていたメジロパーマーが苦笑しつつ彼女たちに言う。

その一言で、アドマイヤベガは全てを察したが、まだまだ付き合いの短い黄金新星の面々にはわからない。

 

「やあパーマー、来たのかい」

「まあね、これから練習と思ったら、みんなで面白そうな話をしてるなあと」

「はは、メジロ家での騒動を話しているだけさ」

「それが面白いんだよ」

「・・・・・・面白いといえるようになるとは、パーマーも根性が座ってるな」

「ふふふ、どこかの誰かさんに鍛えられたからね、半ば無理やり」

「なんてひどい奴がいるんだ」

「あたしの目の前にいるんだな、それが」

 

パーマーの言葉に、トレーナーは笑う。

それにつられてパーマーも笑い出す。

だが、笑えないのが黄金新星の面々だ。

 

(むぅぅ、何かしら、この、こう、お互いわかってますみたいな雰囲気は!?)

(パーマー先輩、意外と強か、ですね)

(なんだかいい雰囲気になっている気がするのは、セイちゃんの気のせいかな~?)

(いえ、気のせいでは、ないようですね)

(グラスちゃん、目が怖い・・・・・・)

(ごほっ、いいなあ、ああいう関係アタシもそうなりたいなあ)

 

6人のうらやましそうな視線を受けて、パーマーは苦笑した。

 

「本当に何もないよ、意外なくらいね」

 

――――――(一日目、ラモーヌ)――――――

 

「さて、貴方はこの絵を見てどう思うかしら?」

「これがテスト・・・・・・というわけではなさそうですね」

「ふふ、さあどうかしら?」

 

うれしそうな顔をするラモーヌは、年相応の女子高生の顔をしている。

ラモーヌの描いている絵には二か所の空白があり、そこにはちょうど「花」が入るようになっている。

そして、そのキャンパスの前にはたくさんの花があり、ラモーヌはその目でトレーナーに言う。

「あなたならばどの花をそこに入れるかしら?」と。

 

「ふむ・・・・・・」

 

ラモーヌのアトリエに入らせてもらえている時点ですごい事なのだが、トレーナーは気が付かない、そしてラモーヌすら意識の外において真剣に花を選んでいる。

なお、ラモーヌのトレーナー(女性)は、彼女のアトリエに入らせてもらえるまでに3年かかっているのを考えると、3分で入れた彼は世界最短記録だろう。

 

「さあ、貴方はどの愛を選ぶのかしら?」

「・・・・・・」

 

ラモーヌの言葉に返答をせず、吟味をしたトレーナーは2つの花束を持ってきた。

 

「あら、意外なものを選ぶのね」

「花言葉には詳しくないもので、少々手間取りましたことを詫びさせていただきたい」

「いえ、無理を言っているのはこちらですもの」

 

右手には深紅の薔薇、左手には純白のユリ、それぞれがメジロの庭園から今朝がた切られたばかりの美しいものだ。

芳醇な香りを漂わせるそれを、トレーナーはラモーヌにひざまずいて差し出した。

 

「まあ」

「貴女と、貴女のレースに」

「わたくしにというのは分かるけれど、どうしてレースにも花を?」

「貴女は純粋にレースを愛している、ならばそれにふさわしい花は【愛情】の薔薇と【純真】の白百合こそふさわしい」

「ふふ、ストレートなのね」

「お嫌いでしたか?」

「いいえ、とても結構・・・・・・いただくわ」

 

そういってラモーヌは、二つの花束を受け取ろうとして。

 

「いっ!?」

「ラモーヌお嬢様!?」

 

おそらく、メイドがとげを切り忘れたのか、三女神のいたずらか、一本だけ薔薇にとげが残っていたのである。

それをラモーヌは指に刺してしまったのだ。

 

「むぅ」

「ふむ・・・・・・とげは刺さっていないようですね・・・・・・しつれい」

「ひゃん!?」

 

血玉が浮いたラモーヌの人差し指を、トレーナーは口に含んだ。

そして舌で血をなめとると、スーツのポケットから絆創膏を取り出した。

 

「・・・・・・」

「雑菌が入らないようにするための応急処置ですので・・・・・・申し訳ない」

「・・・・・・」

「少々お待ちください、これを巻いたら薬箱を持ってきますので」

 

目を見開いて固まるラモーヌをよそに、てきぱきとした動作で彼女の人差し指に絆創膏を巻き付けるトレーナー。

そして、速足でアトリエを後にしたのである。

 

「・・・・・・もう」

 

彼が出て行って数秒か、数分か。

ラモーヌはようやく意識を取り戻し、落としてしまった薔薇と白百合の花束を拾う。

薔薇の花にとげはなく、自分の指に異物が入っている違和感もない。

あの痛みは何だったのだろう、と考えてやめた。

 

「くすっ」

 

少女のようにはにかみながら、更に意外なことに鼻歌を歌いつつ、彼女は筆を執った。

 

(パーマーがだめならば・・・・・・彼を私専属にするのもいいかもしれないわね)

 

そんなことを思いつつ、ラモーヌの筆は止まらない。

そして数分で、彼女は薔薇と白百合の描かれた人物画を書き上げた。

それは自画像であり、しかし。

 

「何かが足りないわ・・・・・・ああ、そうだ」

 

その後、トレーナーが薬箱を持って戻ってきたとき、ラモーヌは彼にモデルとなることを求めた。

後日、完成したその絵にはタキシードを着たトレーナーと純白のウエディングドレスを着たラモーヌが描かれており、彼女の持っているブーケは薔薇と白百合だった。

 

(そうね、もう一度愛を燃え上がらせるのもいいかもしれないわね)

 

――――――(2日目、メジロアルダン)――――――

 

突然ではあるが、ウマ娘というのはこの世界では異性にモテない。

いろいろと規格外の彼女たちにとっては、異性との恋愛というのは絶望的と言っていい。

だからこそ、同性にはモテるのだが・・・・・・それでも格差というものは生じる。

そして、メジロ家というのはある意味その格差を味わう一族だったりする。

すなわち【友達としてみるのはいいけど恋愛対象はちょっと・・・・・・】と言われることが多いのだ。

もちろん、彼女たちも努力はしている。

が、しかし。

メジロのお嬢様たちは背負うものが大きすぎて、そして、無意識的にその背負うものを相手にも求めてしまうのである。

何が言いたいのかといえば、アルダンはその筆頭だったりするのだ。

心のどこかで、メジロを背負う重圧を誰かに一緒に持ってもらいたがっていたのである。

 

「・・・・・・えと、その、トレーナーさん?」

「なんでしょう、アルダンお嬢様」

「あの、もういいですよ?」

「いえ、貴女の足は念入りに念入りを重ねてもまだ足りません」

「あうぅ」

 

そのはずなのだが、アルダンは顔を赤くして、トレーナーにされるがままになっていた。

何せ、トレーナーは開口一番にこういったのである。

 

『さて、今日は私の・・・・・・』

『貴女の足のことも含めて、今日一日とはいえ貴女の背負うものを私に預けてくださいませんか?』

『えっ、あの、トレーナーさん?』

『俺は一日だけとはいえ、貴女の専属です・・・・・・一日だけでもいい、貴女の背負うものを軽くしてあげたいのです』

『な、あう、え!?』

『お願いします、アルダンお嬢様!!』

『え、は、は、はい!!』

 

トレーナーの熱意に押し切られる形で、メジロアルダンはただいまマッサージを受けている真っ最中であった。

トレーナーズスクールで教わった「ウマ娘の秘孔と生命エネルギー」の理論を応用し、トレーナーはアルダンの自己免疫力などを高めるツボを刺激しているのである。

 

(アルダンお嬢様は体が弱い、少しでも体を強く・・・・・・そして怪我無くレースを、練習を終えられるように!!)

 

その真剣なまなざしと、邪念が一切ない手つきは、アルダンにとって未知の衝撃を与えていた。

何を隠そうこのメジロアルダン、異性に自分の体を触られたことなどない。

それどころか、異性と話したことも爺や以外ない。

そんな純粋培養少女が、男性と二人きりで、しかも(大事な脚を中心に)マッサージを受けている。

 

(この方は私が好きなんでしょうか!?)

 

そう、盛大に勘違いをしても仕方がないのである。

そして、彼女のぶっ飛んだ考えは、あながち間違いではない。

彼は全てのウマ娘を愛しているし、支えたいと思っている。

そんな彼にとって、アルダンは決して無視してはいけない存在だった。

だが、そんなことはアルダンには分からない。

 

(これはもう、挙式に一直線で・・・・・・へあああああぅ!?)

 

ビクリ、と背中をのけぞらせるアルダン。

彼の足裏マッサージが文字通り「ツボに入った」のである。

 

「大丈夫ですか、アルダンお嬢様?」

「は、はひ・・・・・・大丈夫でふ・・・・・・」

 

本当は大丈夫ではない、が、アルダンはそう答えるしかなかった。

何せ彼の顔は、邪念なし、いたずら心なし、超真剣という3拍子がそろっていたのだ。

更に、アルダン自身純粋培養お嬢様なため『ツボにはいっているからちょっと待って』なんて、恥ずかしくて言えないのだ。

 

(男性にそんなことを言うなんて・・・・・・へうあ!?)

 

その結果、彼女はいいところに入りまくる足つぼマッサージに悶えつつ我慢を重ねるという、一見すると体に悪いんじゃねえかと突っ込みが入る状況を延々と続けることになったのである。

 

「か、体が軽い・・・・・・!!」

「そういっていただけますと、幸いです」

 

そんな状況が30分ほど続き、彼女が解放されたとき、両足は驚くほどに軽くなっていた。

蓄積していた疲労がすべて取り払われた、と言ってもいいだろう。

 

「アルダンお嬢様」

「は、はい、何でしょうか?」

「トレーニングに精を出すのはいいですが、隠れてトレーニングは体に障ります」

「!!」

「半人前とはいえトレーナーですから、わかるんですよ」

「・・・・・・私のトレーナーはわからなかったんですが」

「わかっていて見ないふりをしていたのでしょう、メジロのトレーナーである以上は」

「あ・・・・・・」

「ですが俺は違う、俺はトレーナーである以前に、貴女の一日限りの執事ですから」

「苦言を呈するのも仕事のうち、と?」

「そういうことです」

 

そういって、トレーナーは笑う。

そんな笑顔に、胸が高鳴るアルダン。

 

「そ、それじゃあ、今日のトレーニングを・・・・・・」

「そうですね、今日は天気もよろしいし庭でお茶をするのもいいと思います」

「え、あのトレーニング・・・・・・」

「だめです、隠れてトレーニングしすぎて、逆に体に負担がかかっていますから」

「うぅ・・・・・・だめですか?」

「そんな顔してもダメです」

「けち」

「けちで結構」

「ぷっ」

「ふふ」

「「あははははははっ!!」」

 

二人はどちらともなく噴き出して、笑う。

それじゃあ、お茶のセッティングをしてきますね、とトレーナーは部屋を出て行った。

 

(パーマーさんには悪いですが、どうか今回も逃げてほしいなあなんて)

 

ちょっと意地が悪いですね、なんてことをアルダンは思ったのである。

 

―――――(3日目、メジロライアン)―――――

 

メジロ家にあるトレーニングルームは、メジロの淑女たちが使用している。

しかし、今日に限っては使用者は違うようだ。

 

「ふぅぅぅぅ、しかし、よろしいのですか?」

「え、あ、何が?」

「いえ、私がこのメジロ家のためのトレーニング施設を使用しても・・・・・・」

「ああ、そのこと、一日とはいえメジロの一員、使って悪いわけないじゃないですかっ」

「ありがとう、ございますっ、と」

 

レッグプレスをしていたトレーナーは、ガチャリ、という音ともにベンチから降りた。

トレーナーの肉体は、現在トレーニングウェアにより解放されており、その筋肉質な体はメジロ家の淑女たちの目に・・・・・・はいらなかった。

というよりも、ライアンが独占していたのである。

 

(うわぁ、いい筋肉してるなあ・・・・・・)

 

理由は単純、ライアン以外は予定が入っていたから。

なお、ドーベルは男性の被写体が手に入ると思ったのにと若干落ち込んでいたのは別の話。

そして、ライアンはベンチプレスとレッグプレスを終えたトレーナーにタオルと飲料水を渡したのである。

 

「お疲れさまでした、これ、タオルとスポーツ飲料です」

「ありがたい、ありがたいのですが・・・・・・」

「何か?」

「なぜ顔を背けているんですか?」

 

トレーナーの疑問は最も。

何せライアンは、ほぼすべての時間を首の可動域を全開にしてトレーナーから顔を背けていたのだ。

そのくせ耳はトレーナーの方を向いているのだから、トレーナーからすればこの状況が分からなくなるのも当然と言えた。

 

(嫌われるようなことしたかな・・・・・・)

(どうしよう、恥ずかしくて顔をみれませんなんて言えないよ・・・・・・)

 

メジロで最も乙女ともいわれるライアンの、そんな乙女心に気が付けないトレーナーは、どこか勘違いをしている。

そして、その勘違いは加速する。

 

(そういえば、トレーナーズスクールで俺の胸筋を触ってくる人が多かったなあ)

(あ、喉乾いたなあ・・・・・・私も水のもう・・・・・・)

 

立派なセクハラなのだが、コミュニケーションの一環と言われてそれを信じてしまう程度には、トレーナーは単純だった。

そしてその単純さは、ここにきて暴走を始める。

 

「ライアンさん」

「は、はい、何でしょうか?」

「俺の胸筋触ってみます?」

「ぶへっ!?」

 

お嬢様らしくない声とともに、水を吹き出すライアン。

それも、トレーニングを終えて汗まみれのトレーナーにぶちまけた。

その結果、透けた、胸筋が。

 

「・・・・・・ライアンさん?」

「・・・・・・」

 

ライアンはめっちゃ見た、もう、目の中に焼き付けんばかりに。

現実的な話をすれば、おっぱい触りますか発言と汗と水でスケスケ衣装という、視覚に悪い組み合わせだ、だが男である。

しかし、この世界においてこんなことを言う男性がいったい何人いると思うだろう。

現にライアンは誘蛾灯に誘われる虫のごとく、ふらふらと両手をトレーナーの胸筋に伸ばしていた。

だが、ライアンの筋肉が彼女の暴走に待ったをかける。

 

「はっ、筋肉がやめろと「まどろっこしいんでどうぞ」・・・・・・はっ!?」

 

しかし、トレーナーはライアンの危機管理能力のさらに上をいく。

両手を掴んで自分の胸筋に触らせたのである。

数年という年月は、彼からこの行為がこの世界におけるセクハラ行為であるという意識をなくしてしまっていた。

その結果。

 

「ぶへっ!?」

「ライアンさん!?」

 

ライアンはキャパオーバーを起こして盛大に鼻血を出してぶっ倒れたのである。

 

「ら、ライアンさん、ライアンさん、ちょ、救急車か!?」

(・・・・・・この人は、私が、守らなきゃ・・・・・・だめだ)

 

薄れゆく意識の中、ライアンはこの男性を守らねばと強く思った。

なお、ライアンは意識が戻るまでトレーナーの膝枕で気絶していた。

そして、意識を取り戻してなお、その膝枕を堪能することになるのだ。

 

―――――(4日目、メジロマックイーン)―――――

 

「貴方、パーマーの事はどう思いますの?」

「ほう、それを聞きますかマックイーンお嬢さま」

「茶化さないでくださいまし、わたくしは本気で聞いていますの」

「そうですね・・・・・・その、計画を話さないと約束できます?」

「メジロの誇りにかけて約束は守りますわ」

「・・・・・・そうですね、キーワードは『開き直り』です」

「開き直り」

「ですがそれ以上はお話しすることはできません・・・・・・安心してください、彼女に危害を加えることは俺の命に代えてもあり得ませんから」

「ええ、そこは信頼していますわ」

 

メジロマックイーンは、自分の練習をトレーナーに見させていた。

とはいえ、マックイーンはチームに所属しており、トレーナーもいる。

トレーニングを見させるのは口実で、実際は彼がパーマーをどうしようとしているのかを聞き出そうとしたのである。

彼もそれをわかっており、キーワードを出すと同時にはぐらかしたのだが。

 

「しかし、肝心のキーワードだけでは何をするのかいまいちよくわかりませんわ」

「わかってしまったら秘密にしている意味がないでしょうに」

「・・・・・・それもそうですわね」

 

ストレッチをしながらの会話だが、それだけでもトレーナーはマックイーンの人となりを知れた気がした。

ストレッチの後、軽く走る。

その距離は2000メートルの中距離で、普通の人間では小走りで走ってもばててしまうかもしれない。

しかし、ウマ娘であるメジロマックイーンにとっては、日本最高のステイヤーともいわれる彼女にとっては文字通り「軽い」ランニングだ。

オリンピアンを優に超える走りで、一周する。

そして、軽く汗を拭きつつの先の会話であった。

 

「さすがですね、中央の平均を3秒も上回るとは」

「この程度、なんてことはありませんわ」

 

ストップウォッチを持っていたトレーナーは素直に彼女をほめた。

褒められた彼女は、顔こそすまし顔だが、しっぽは正直でぶんぶんと振っていた。

そんな姿をいとおしいと思いつつ、トレーナーは続ける。

 

「しかし、マックイーンお嬢様は常にメジロ家の事を気にかけておられるようだ」

「それはそうでしょう、誇りあるメジロ家の未来を気にするのは当然こと、パーマーだってこのメジロの一員ですもの」

「・・・・・・だけれど、貴方様は少々気負いすぎではないでしょうか?」

「どういうことですの?」

「貴方は、誰かに頼られることはあれど、頼ることはないということです」

「・・・・・・トレーナーというのは、ずけずけと人の事に踏み込むものですの?」

「いえ、恐縮ですが、私のような人間は珍しいかと」

「自分でいうんですの、それ」

「ははは、ぐうの音も出ません」

 

マックイーンの突っ込みに、苦笑するトレーナー。

どうやら自覚はあったらしい。

まったくもう、とマックイーン。

朝一番の出来事である。

 

「ですが、なぜ先ほどはそう思ったのか聞いてもよろしいかしら?」

「先ほど・・・・・・ああ、貴女にもう少し頼ることを覚えた方がいいというあれですか」

「ええ、それです」

 

朝の言葉がよほど引っかかっていたのだろう、マックイーンはトレーナーに問う。

今は昼を過ぎ、午後のお茶の時間。

とはいえ、レースが近いマックイーンは減量中で、紅茶のみ。

のはずなのだが、トレーナーの作った低糖質なお茶菓子がたくさんあり、それをパクパクですわと言わんばかりに食べている。

その表情は年相応で、見ていて和むものだ。

その時、ふとマックイーンは聞いた、いや、ずっと聞こうとしていてこんな時間になってしまったのである。

 

「貴女はまさに『メジロたらん』としているんです、ですが・・・・・・」

「ですが?」

「なんというか、周りからすると頼ってほしいんです、もっと貴女に」

「・・・・・・」

「完璧を求めすぎないでください、貴女はまだまだお若い・・・・・・レースは別にしても、日常生活で誰かによりかかったっていいんです」

「寄りかかる、ですか」

「ええ、今からそんなんでは将来的に折れますよ」

「折れる?」

「心も体もね」

「・・・・・・それは恐ろしいですわね」

 

そういうと、低糖質クッキーをほおばり、紅茶を飲むマックイーン。

何事かを考えた後、トレーナーの目を見た。

トレーナーも目をそらさない。

 

「もし、貴方に支えてほしいと言ったら支えてくれますの?」

「そうですね、今は一日だけですが」

「揚げ足取りはおやめなさい」

「ふふ、ですが私よりも適任がいると思いますよ?」

「・・・・・・それは?」

 

トレーナーは何も言わずに中庭に続く扉を開ける、すると。

 

「あら、ひどい人ねマックイーンを一人で甘やかすなんて」

「姉さま、それよりも今は、ね?」

「そうだね、アタシもトレーナーさんの提案に乗っかるよ」

「ライアン、言ったら意味ないんじゃないの?」

「ふふふ、マックイーンさま甘やかし大会の開催ですわ~」

「え、ちょ、皆さん!?」

「貴女を甘やかしたい人たちが、頼ってほしい人たちがたくさんいるんですよ」

 

トレーナーはそういうと、今度は柱の陰に隠れていた人々、マックイーンのトレーナーや執事、更にはメイドたちを引っ張ってきた。

 

「み、皆さんいつの間に!?」

「だいぶ前からいましたよ、マックイーンお嬢様は気が付く余裕がなかったようですが」

「そんな!?」

「それでは、私は紅茶とお茶菓子を持ってきますので」

「え、ちょ、ちょっと、貴方!?」

「皆さんと時には話し合うのも重要だと思いますよ?」

「う・・・・・・それは」

「では」

 

レースが近いから、メジロたらんとしているから、常に自分を追い込んでいたマックイーンだが、今は年相応の少女として戸惑いつつも嬉しそうだ。

それを見たトレーナーは、できる限りゆっくりとお茶やお菓子を運ぶことにした。

数分後、トレーナーがお茶の一式を持ってくると、そこには姉妹や家の者たちと談笑するマック―ンの姿があった。

肩の力が抜け、自然体な彼女の姿を見て、トレーナーはうまくいったと笑う。

そんなトレーナーを見て、マックイーンは思った。

 

(彼をメジロにするにはパーマーが彼と一心同体になるしかない、頼みましたわよ!)

 

―――――(5日目、メジロドーベル)―――――

 

メジロドーベルの私室に通されたトレーナー。

自分の家より広い私室に内心驚きつつも、表情には出さない。

そんな彼を、ドーベルは無視して何かを描いている。

その時だった。

 

「ドーベルお嬢様」

「何よ」

「失礼ですが、枝毛がありますよ」

「え、ど、どこ?」

「お手数ですが、切らせていただいても?」

「・・・・・・わかったわ」

 

ドーベルの髪にあった枝毛を、どこからか取り出したヘアー用のはさみで一閃するトレーナー。

はらり、と一本だけ枝毛が落ちた。

さて、今トレーナーはメジロドーベルとともにいる。

ドーベルは絵を描いており、トレーナーは本来話しかける気はなかった。

ただ、ちょっと目立つところに枝毛があったため、つい話しかけてしまったのだ。

 

「おや、その絵は・・・・・・」

「ちょ、ちょっと、見ないでよ!!」

「あ、いや、失礼・・・・・・ただ」

「ただ、何よ」

「とても上手だと思います、漫画の登場人物ですよねそれ?」

「・・・・・・わかるの?」

「ええ、俺の好きな漫画なんですそれ」

「え、本当!?」

「はい」

 

意外だ、とトレーナーは思った。

そこに書かれていたのは、某吸血鬼であり、その吸血鬼が某神父に対して逆さ十字で銃を構えるところだった。

それが極めて精巧かつ緻密に、白い紙の上に描かれているのである。

ファンアートとしてはかなり上位の部類に入るだろう。

 

「・・・・・・笑わない?」

「なぜ、とお聞きしても?」

「だって、アタシはメジロドーベルよ?」

「そうですね、貴女はメジロドーベルだ」

「メジロのお嬢様が、こんな絵をかいていていいのか、とか思わないの?」

「いえ、まったく思いません」

 

トレーナーの心の底からの言葉だった。

好きなものは好きだと、自由に書いていいと、彼はそう思っている。

さすがに過激すぎるものはあれだが、純粋にファンアートを描くことを、彼は馬鹿にする気も否定する気も全くなかった。

 

「・・・・・・変な人」

「そうでしょうか?」

「そうよ、でも」

「?」

「ありがと、少し心が軽くなったわ」

 

そういったドーベルだが、表情は少し硬い。

なぜだろう、とトレーナーは思った

こんなにうまい絵を描いているのだ、もっと誇ってもいいと思うのだが。

そう考えて、彼は思いついた。

 

「もしかして、そういう漫画を描くのがメジロらしくないと思っていませんか?」

「ふへっ!?」

「図星、ですか?」

「なななななな、何を根拠にそんな」

 

トレーナーの一言は、まさに正鵠を射ていた。

ドーベルの視線が四方八方を向き、彼女のベッドの下に行きついたとき、トレーナーは悪いと思いつつ笑ってしまったのだ。

 

「漫画の隠し場所はベッドの下、と」

「ち、違うわよ!?」

「視線がベッドの下をとらえて離していませんよ?」

「うぐぅ!?」

 

ドーベルは、しばらく視線をさまよわせると下を向いた。

うずくまり肩を震わせている彼女を見て、トレーナーはやりすぎたと思った。

そして、彼女の傍に近寄ってしゃがもうとしたその時だ。

 

「ええ、そうよっ!?」

「あがっ!?」

「「いたたたたっ!?」」

 

身長差があるからこそ、トレーナーはしゃがもうとした。

それに対して、ドーベルは「ウマ娘の筋力で」思いっきり立ち上がった。

その結果、トレーナーは顎を、ドーベルは頭のてっぺんをそれぞれぶつけてしまったのだ。

二人は痛みでしばらくのたうち回ることになった。

 

「それで、ドーベルお嬢様は漫画が好きになったと」

「ええ、そうよ、ライアンの持っていた少女漫画を見てたら、自分でも書きたくなって、その、今に至る感じね」

「いいじゃないですか、何をそんなに恥ずかしがっているのですか?」

「・・・・・・メジロ家としての体裁がなくなるんじゃないかなって、そう思ったのよ」

 

のたうち回ること数分、なんとなく二人の間にあった緊張感はなくなり、自然に話せるようになっていた。

そして、彼はドーベルの迷いを聞いていた。

 

「しかし、ドーベルお嬢様」

「ドーベルでいいわ、なんだかむず痒いし」

「・・・・・・では、ドーベルさんで」

「まあ、いいわよ」

「ドーベルさんがそんなことを気にすることはないと思いますよ」

「なんでよ」

「今はむしろいろいろなことに挑戦するべきだと思いますがね」

「挑戦する、か」

「はい、本業がおろそかにならなければ」

「うーん、それが難しいのよねえ」

 

そういって腕を組むドーベル。

その綺麗な顔立ちの、眉根がゆがむ。

ドーベルはどっちも全力で挑みたいのだろう、とトレーナーはあたりをつけた。

 

「だって」

「だって?」

「私はメジロ家の人間として、みんなの模範にならないと」

「それはだれが決めたんです?」

「・・・・・・私、だけどさ」

「はい」

「なんか、こう、破りたいのよ、その決定を」

「成程、自分で決めた手前、それを反故にしにくいんですね?」

「うん」

「それは・・・・・・問題だなあ」

「あと、この趣味が一過性なのかなあとか思ったりもしてる」

「レースやメジロ家からの逃避と?」

「うん」

 

ドーベルの言葉に、トレーナーは頷く。

彼女の迷いは至極当然のことだと、彼はそう思った。

 

「ドーベルさん」

「なに?」

「やはり、漫画を描くことは続けた方がいいと思います」

「・・・・・・なんで、って聞いてもいい?」

「貴女の精神安定と、逃避のためです」

「逃げちゃいけないんじゃないの?」

 

少なくともマックイーンたちは逃げているようには見えないわ、とドーベルは続けた。

それに対し、トレーナーは少し考えた後言った。

 

「言葉を変えると、息抜きですかねえ」

「息抜き」

「そう、いつもレースばかり考えていたら、頭が煮詰まって変になってしまいますから」

「みんなは違うのかしら?」

「そうですね、皆さん趣味を持っていますから」

 

レース意外にね、とトレーナーは続ける。

ドーベルは真剣な表情で聞き入っている。

彼は続けた。

 

「だからいいんです、時には別の事をして気分を紛らわせた方が肩の力が抜けていい結果につながりますから」

「成程・・・・・・肩の力を抜く、ね」

 

トレーナーの言葉に納得がいったのか、ドーベルはうんうんと頷くと、トレーナーの目を見て真剣に言った。

 

「ちょっとモデルになってほしいんだけど」

「俺が、ですか?」

 

そして、彼は様々なポーズをとることになった。

時には上半身裸になったこともある、が、ドーベルは真剣な表情で彼の体をキャンパスに書いてゆく。

デッサン人形の代わりとして、トレーナーも黙々と従った。

 

「ねえ、トレーナー」

「なんでしょう?」

「アタシ、レースも漫画も全力で取り組んでみるわ」

「それは良かった」

「うん、ありがとう」

 

なお、その後彼女は「どぼめ・じろう」というペンネームでウェブ上とはいえ漫画を投稿するようになった。

今の彼女は知らない、将来自分が学園要注意団体「即バ異界」のトップになることを。

 

(もし、もし私がレースも漫画も大成出来たら・・・・・・彼は私の傍にいてくれるかな?)

 

―――――(6日目、メジロブライト)―――――

 

「ほわぁ」

「ブライトお嬢様、タオルケットをどうぞ」

「あら~、ありがとうございます」

「いえいえ、俺の膝でよろしければ使ってください」

「では~、遠慮なく~」

 

トレーナーとブライトは、メジロの庭園のよく日の当たる場所で昼寝をしていた。

草の上にトレーナーが座り、彼の膝枕でブライトが横になっている。

どこから取り出したのか、タオルケットをブライトのおなかにかけて、寝る準備は万端だった。

朝の練習はつつがなく終わり、今は午睡の時間。

まるでおとぎ話をそのまま切り出したかのように、ブライトはトレーナーの膝枕で眠りにつこうとしていた。

 

(こうしてみると、メジロ家とは言え年相応の少女なんだがなあ)

 

トレーナーは思う、でもこの子超すごいステイヤーなんだよなと。

 

(将来はメジロ家に7回目の天皇賞優勝の名誉をもたらし、数々のレースで健闘し、ライアン2世ともいわれる・・・・・・んだよな)

 

そして、その実力はいかんなく発揮されている。

今はまだジュニア級ではあるが、OP戦やG3戦の中距離でその力を見せつけた。

 

「ほわぁぁぁ」

「こんなにほわほわした娘なのに、レースじゃあすごい気迫なんだよなあ」

「うふふ、ありがとうございます~」

「・・・・・・口に出ましたか?」

「はい、それはもうはっきりと」

「・・・・・・すいません、一日とはいえ貴女のトレーナーなのに」

「いえいえ~、きちんと見ていただけているようで何よりですわ~」

 

トレーナーの膝枕で、ほわほわで、ぽやんとした少女が、果たしてG1を勝てるほどに成長するのだろうか、と本気でトレーナーは考えそうになり、やめた。

あのメジロである、潜在能力は大いにあると考えていいだろう。

 

「トレーナー様?」

「なんでしょう、お嬢様」

「私の不安を聞いていただけますか?」

「もちろんです」

「ありがとうございます・・・・・・私は時々夢を見ます」

「夢、ですか」

「はい、メジロの終焉を」

「・・・・・・」

「皆が早くに進んでいく中で、わたくしだけ取り残されてしまう夢を」

「それは・・・・・・」

「私は、どうしたらよいのでしょうか?」

 

いきなりの言葉に、トレーナーは一瞬言葉に詰まる。

メジロブライトの目は真剣だ。

その湖面のように澄んだ目が、彼の目をとらえて離さない。

普段のふわふわとした感覚からはまるで想像がつかない、真面目な問いかけだった。

そんな彼女だからこそ、トレーナーもまた真面目に向き合った。

 

「ゆっくりでいいと思いますよ」

「え?」

「貴女には目標がある、違いますか?」

「ええ、確かにありますが・・・・・・」

「ならば、ゆっくりであれ目指すべき場所に進んでいけばいいのです」

「・・・・・・」

「貴女には、進むべき場所も目的地も見えているならばゆっくり確実に進めばいい」

「もし、転んでしまったら?」

「その時は、俺が手を貸します・・・・・・非力ではありますが支えて見せますよ」

「まあ」

 

彼の言葉に、ブライトはうれしそうに笑う。

 

「なんだかほっとしてしまいましたわぁ~」

「ふふ、それではおやすみなさい」

「はい~・・・・・・トレーナー様?」

「なんでしょうか?」

「起きたときに、いなくならないでくださいね?」

「もちろんです」

 

彼の言葉に安心したのか、ブライトは彼の膝枕で寝息を立て始めた。

そんな彼女につられて、彼もまた眠ってしまったのである。

 

(トレーナー様と一心同体の言質は取りましたわ~)

 

―――――(トレーナー室)―――――

 

「ね、何もなかっただろう?」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

「みんなが言いたいことは何となく伝わるけど、本当に何もないんだなぁ、これが」

「当たり前だろう、メジロのお嬢様たちに何かするわけがないじゃないか」

「んー、メジロの一員としてうれしいやら悲しいやらで50点」

「なんでさ」

 

長い、長い語りを終えたトレーナーは、コーヒーを飲む。

そんな彼のメジロ家で過ごした6日間を聞いた黄金新星の面々は、唖然としていた。

何せ、男性と一ツ家根の下で過ごすということがどういうことを意味するのか、解っているからだ。

すなわちウマ娘に「ぴょい(隠語)」される可能性がもんのすごく高いのだ。

男性が貴重なこの世界において、一つ屋根の下で過ごす何てことになったら、自分たちだったら何しでかすかわかったもんじゃないのである。

 

「多分、メジロの方々は血涙を流していたんではないかと」

「グラスの言葉に同意でーす、というかドーベル先輩・・・・・・」

「というか、あれよね・・・・・・合宿所の冷房が完備されたのって」

「だね~、トレーナーさんのおかげじゃないかなあ」

「ごほ、それだけじゃなくていろいろとメジロスポーツの製品が増えているのは」

「間違いなくトレーナーさんのせいだべ・・・・・・」

「貴方ねえ・・・・・・」

「まあまあ、ベガちゃん、実際そうなんだから言いたいことは抑えて、抑えて」

「?」

 

アドマイヤベガがものすごく怒りたそうな表情をしているのを、パーマーがなだめている。

そんな彼女たちの光景を見て、トレーナーは首を傾げた。

彼の基準では、問題行動は起こしていないのである、怒られたり、あきれられたりするのは違うと考えても無理はないだろう。

ちなみに、別のクラスではドーベルとブライトが同じような話をして、レグルスの面々があきれ返っていたりするのだが、割愛。

 

「そして、メジロのお嬢様方にOKを貰えてね、パーマーの番になったのさ」

「あはははは、あの時は本当にお世話になったというか、何してくれたのさというか」

「ああでもしなければ、君は逃げ癖が矯正されなかったと俺は思うね」

 

そういって、意地悪く笑うトレーナーにあきれ返るパーマー。

珍しい光景を見て、黄金新星の面々は続きを促した。

 

「まあ、何だ、パーマーの逃げ癖の矯正にちょっと力を借りた面々がいてね」

「力を借りた、でーす?」

「うん、フジキセキとテイエムオペラオーさ」

 

そして、彼は十分湿った口でパーマーの矯正について話し始めた。

 

―――――(7日目、メジロパーマー)―――――

 

「パーマーお嬢様」

「な、なに?」

「これからトレセン学園に行きます」

「いや、いいけど・・・・・・アタシ何されるの?」

「まあ、根性をすえる練習というか、荒療治ですね」

「逃げていい?」

「彼女たちから逃げ切れるならどうぞ」

「・・・・・・うわあ」

 

パーマーが逃げないように、メジロ家のお嬢様方が全員スタンバイしている。

もし逃げれば、スキルを発動する前に全員に羽交い絞めにされるのが目に見えていた。

 

「わかったよ、降参」

「わかっていただけたらいいのです、では行きましょう」

 

そして、彼はパーマー2号に乗り込んだ。

助手席にパーマーが座り、エンジンをかける。

静かな駆動音とともに、パーマー2号は走り出した。

車中で、トレーナーはパーマーに問う。

大事なことだった。

 

「みんなはどうするの?」

「後で合流します」

「わかった」

「パーマーお嬢様」

「パーマーでいいよ、トレーナー」

「・・・・・・ではパーマーさん、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なにかな?」

「なぜ、大逃げを使わないのですか?」

「あー、それ聞いちゃう?」

「ええ、貴女のデータを失礼とは思いますが拝見させていただきました・・・・・・十分に大逃げに耐えうる体力を保持していますよ、貴女は」

「うん・・・・・・たださ、トレーナー」

「なんでしょう?」

「メジロではないよ、大逃げは」

「・・・・・・メジロ、ですか」

「うん、大逃げはさ・・・・・・いわばギャンブルじゃない?」

「・・・・・・」

「そんなギャンブルじみた走りは、メジロではない気がするんだ」

「・・・・・・成程、メジロの名に泥を塗るのではないか、そう思っているわけですね」

「言葉にすると、そういうことかな」

 

パーマーのデータとレースの映像を見たとき、パーマーから「楽しそう」な雰囲気がないことに気が付いた。

もちろん、彼女の交友関係の中にダイタクヘリオスたちギャル軍団は入っている。

彼女を楽しく、レースに向き合わせる友人はきちんといる、ではなぜ彼女は楽しそうではないのだろうか?

だが、今の言葉ではっきりした。

彼女は、メジロたらんとして大逃げを自分で封印している。

パーマーの勝率は非常に高く、また、こぎれいにまとまっている。

きちんとした「逃げウマ娘」の成績を残しているといってもいい。

そう、あのメジロパーマーがである。

優等生の成績、と言ってしまうと語弊があるかもしれないが、とても「面白くない」勝ち方を続けていたのだ、彼女は。

 

「思い切り逃げてみてはどうです?」

「それは無理だよ、トレーナー・・・・・・もしさ」

「はい」

「レースで大逃げして最下位になったらさ」

「・・・・・・」

「メジロの名前にとっては恥なんじゃないかな、とそう思うんだよね」

「うーむ」

 

メジロ家の事を考えるのであれば、彼女の言うことは正しいかもしれない。

だが、トレーナーは彼女の言葉が沈んでいるのに気が付いた。

トレーナーイヤーは地獄耳、ウマ娘の感情をつぶさに拾えないようでは、トレーナー業は務まらない。

 

「やはり、彼女たちに話をつけておいて正解だった」

「彼女たち?」

「これから、貴女には3週間レースから離れてもらいます」

「へっ!?」

「そして、演劇の練習をするのです」

「え、いや、待ってよトレーナーさん!?」

「申し訳ないが、これはメジロアサマ様にも通してある決定事項ゆえ」

「アサマ様―!?」

 

隣で目を向くパーマーをあえて無視して、トレーナーは車を走らせるのであった。

 

「やあ、よく来たね!!」

「あはは、まさかこんなことををすることになるとは思いもよらなかったよ」

「今日はありがとう、オペラオー、フジキセキ、彼女がメジロパーマーだ」

「よろしくお願いします?」

 

彼らがやってきたのは「劇団オペラオー」という、オペラオー自らが座長を務める学生演劇集団だった。

そこには、オペラオー以下40人ほどの劇団員がおり、彼を一目見ようと人垣を作っている。

そして、パーマーはなんだか居心地が悪そうだ。

注目されるのはあまり好きではない、というよりもいっそ逃げてしまおうかと考えている顔をしている。

 

「ということで、これを君に渡そう」

「・・・・・・シンデレラ?」

「そう、今回の演劇は基本中の基本、シンデレラを行う・・・・・・今日から3週間よろしく頼むよ?」

「あ、あはは、頑張ります?」

「相手の王子役は私だよ、よろしくねパーマーさん」

 

そういって、フジキセキがパーマーに握手を求める。

恐る恐るというふうに、パーマーは彼女の手を握った。

その日から、フジキセキとオペラオーのマンツーマンによるパーマーへの指導が始まった。

基本的な声の出し方や柔軟など、様々な基礎を一週間で叩き込みながら、せりふ回しを覚えなければならない。

そのため、パーマーもなぜ、とか、どうして、という考えが徐々に消えていった。

そして、2週間がたったころ。

 

「うぇぇぇっ!? 私が主役ぅ!?」

「いったでしょう、シンデレラだと」

「いや、言われたけどさぁ・・・・・・まさか、私がやるなんて思わないじゃん!!」

「はぁーっ、はっはっはっ、では逃げるかねマドモアゼル?」

「いや、逃げないけよここまで来たらさ」

「うん、その域だパーマーさん、それじゃあ行こうか」

「・・・・・・どこに?」

「衣装合わせ」

「あはは、まじかぁ・・・・・・スリーサイズとか図られたり?」

「そういうこと」

「うわぁい」

 

自分が主役のシンデレラをやることに、今更ながらにパーマーは気が付いた。

だが、彼女は逃げないという。

それはいい、だが、ここからが本番である。

 

「それと、パーマーさん」

「何、トレーナー」

「今回の演劇には貴女のお友達全員に声をかけております」

「・・・・・・シチー、ジョーダン、ヘリオスあたり?」

「はい、全員乗り気で大いに友好関係を使って押しかけるとのことです」

「・・・・・・ま?」

「マジです、あと、アサマ様以下メジロ家の皆様にも演劇の招待状を渡してあります」

「・・・・・・はい?」

「全員が乗り気で、アサマ様に至っては正装でいった方がいいのかなど、かなりノリノリで」

 

パーマーの顔がこの世の終わりみたいな顔になる。

だが、これこそがトレーナーの「根性プロジェクト」の真骨頂だった。

見られることで根性を磨く、というレーサーにあるまじき行為をすることで、文字通り彼女を「開き直らせよう」というのがこの計画なのだ。

 

(開き直るのにも根性がいるからな)

(あー、開き直りには根性がいるねえ・・・・・・なんだか申し訳ないな)

 

トレーナーの真の目的を察したパーマーは、少し耳が垂れた。

そんな彼女の頭を強引に撫でまわして、トレーナーは言う。

 

「貴女なら必ずできる、俺はそう信じています」

「・・・・・・うん、期待に応えられるように頑張るよ」

 

ぼさぼさになった髪で、しかし、はにかみつつパーマーは笑った。

 

「さて、それじゃあ・・・・・・ごほっ」

「フジキセキさん・・・・・・少々失礼」

「あ!?」

「・・・・・・熱は少し高いですね・・・・・・もしかして、他の劇団と掛け持ちしていましたか?」

「ばれたか、実は昨日から寒気がしてね・・・・・・まあ薬を飲んで安静にしていればそのうち治ると思うよ?」

「いけません、それはいけません」

 

フジキセキの顔を見ると、化粧で少し隠しているが、顔が赤い。

熱を出している、とトレーナーはその観察眼で気が付いた。

 

「成程、フジさんはこのままだとダメそうだね・・・・・・うん、代役は見つかったよ」

「本当ですか、オペラオーさん?」

「君さ」

「私ですか?」

「えっ!?」

 

オペラオーの言葉に、すぐさま台本を取り出し内容のチェックをし始めるトレーナー。

そんな彼の様子に、パーマーは慌てた。

 

「ちょ、待ってよオペラオー、さすがにこれは」

「いやいや、フジさんが劇団の仕事でいないときなどに代役を務めてくれたのが彼だ、彼ならば問題ない」

「衣装の方は?」

「こんなこともあろうかと、作っておいた」

「・・・・・・ポスターは私とフジ先輩だよ?」

「ははは、合成技術はすごいのさ」

「・・・・・・」

 

さらりと何でもないように答えるオペラオーに対し、パーマーは白旗を挙げた。

そんなことをしている間にも、トレーナーとパーマーの衣装合わせが終わる。

トレーナーは黒を基調とした軍服風の衣装を、パーマーは白く美しいドレスを、それぞれ着用した。

 

「それでは、よろしくお願いいたしますシンデレラ」

「・・・・・・こちらこそ、王子様」

 

そして時間は流れ、劇の当日になった。

会場となっている体育館は大入り満員、立ち見すら出始めている。

もちろん、大多数のそれは「男性トレーナー」を見ようとしているのもある、が、それ以上にあの「メジロパーマー」が演劇をするという物珍しさからきているのもいる。

もちろん、友人や親族たちは真面目に応援に来ているわけだが。

 

「あ、あうあうあう」

「大丈夫です、パーマーさん」

「いやいやいや、だって、こんな、大量に来る普通!?」

 

さすがのパーマーも畑違いの演劇で、この大量の観客を前にして明確にビビっている。

その反面、トレーナーは笑顔だ、緊張のかけらも感じない。

だが、はたから見ていたオペラオーは、彼の手が震えているのに気が付いた。

 

(やれやれ、君はどこまで行ってもトレーナーとしての任を全うしようとするんだね)

 

にやりと何か悪いことを思いついたように笑うオペラオー。

 

「おっと、失礼」

「ふへっ!?」

「危ない!!」

「ふやっ!?」

「オペラオー、危ないじゃないか!!」

「いやあ済まない、そこのマドモアゼルを何とかしてあげたくてね」

 

そういうと、オペラオーはいそいそと引っ込んでしまう。

 

「まったく・・・・・・大丈夫かい、パーマーさん?」

「・・・・・・」

「パーマーさん?」

「もう少し」

「はい?」

「このままでお願い」

「・・・・・・時間がありませんが、かまいません」

 

トレーナーは腕の中で抱き留める形となったパーマーの言葉に頷いた。

パーマーは、トレーナーの腕の中で彼の鼓動を耳にしていた。

緊張で早くなる心臓の音を聞いていると、彼女は不思議と落ち着いてきたのだった。

 

(トレーナーさんも緊張しているんだね)

 

そう思うと、なんだか勇気が湧いてくる。

パーマーはそう思う、思えてしまう。

 

「さあ、いつまでも抱き合っている時間はないよお二人さん!!」

「「!!」」

 

オペラオーの指摘に、慌てて離れる二人。

にやり、と笑いつつオペラオーは続けた。

 

「それとも、このまま幕を開けた方がよかったかい?」

 

彼女の言葉に、他の劇団員もにやりと笑う。

そう、トレーナーとパーマーは舞台の中央で抱き合っていたのである。

 

「・・・・・・アンタねえ」

「はーっ、はっはっは、さあ幕を開けるよ準備はいいかな!!」

「「「OKです!!」」」

「はあ・・・・・・まあ、いいか、やるしかないよね」

「そうですね、では、よろしくお願いします」

「うん、よろしくねトレーナー」

 

二人が舞台のそでにはけて、演劇の幕が上がったのである。

 

―――――(トレーナールーム)―――――

 

「・・・・・・え、それで終わり?」

「演劇はどうなるよの、演劇は!?」

「いや、スカイ、キング、みんなも何を期待しているんだ?」

 

長い長い語りを終えて、トレーナーはコーヒーを一気に飲み干す。

あつかったはずのそれは、冷えてぬるくなっていた。

太陽が昼過ぎを差しており、朝から昼に至るまで話通しだったということに、今更ながらトレーナーは気が付いた。

 

「後は、うん、真剣にシンデレラを演じてたよね私たち」

「そうだな、そこに関して抜かりはないよ」

 

そう言って笑う二人の間には、確かに同じ苦楽を共にした仲間のような、何かそんなつながりが感じられ、ゴールデンノヴァの面々はものすごく不機嫌な顔をした。

 

「あら、これは・・・・・・すごいことやってるじゃない」

 

そんな中、アルバムをめくっていたアドマイヤベガが、一枚の写真を取り出す。

そこには、お姫様抱っこされたパーマーとお姫様抱っこをしているトレーナーの姿が。

 

「あはは、みつかったか」

「あーまあ、あれだよね、感極まった感じ」

「この写真のおかげで、パーマーも吹っ切れたんだっけか」

「そうそう、そうなんだよねえ」

「「「「「「「・・・・・・納得いかない」」」」」」」

 

アドマイヤベガを含めた七人が、何か納得できないものを感じていた。

女のカンか、それともほかの何かかはわからない。

 

「・・・・・・まあ、何だ、この演劇のおかげでパーマーは吹っ切ることができたわけさ」

「まあ、強制的に注目されればさ、いやでも思いっきり向き合うようになるよ」

「アサマ様にも大逃げの許可はもらえたしね」

「あー、まあ、きちんと向き合わなかった結果、私が思い込んでいただけだったしねえ」

「それでも、思い込みが解けてよかったじゃないか」

「それはそう」

 

トレーナーがそう言いつつ、パーマーの頭をワシワシとなでる。

不器用な撫で方だが、パーマーは目を細めて喜んでいた。

しかし、見せつけられている側は面白くないのである。

 

「う~ん、これはパーマー先輩の体に聞くしかないみたいだねえ」

「へ?」

「そうですね、文字通り根掘り葉掘り聞きましょう」

「え、ちょっと?」

「逃がしませんからね、先輩」

「スぺちゃん、目が怖いよ?」

「一流の尋問術を見せてあげるわ」

「・・・・・・あの、ちょっと?」

「なんだろう、アタシ、ちょっと怒ってます」

「あれ、アタシ地雷踏んでるの?」

「足腰立たねえようにしてやるデース」

「・・・・・・え」

「助けないわよ、今回は」

「・・・・・・さらばっ!!」

「「「「「「逃がすかっ!!」」」」」」

 

パーマーが扉を開けて大逃げをぶちかまし、それを黄金新星の面々が追いかける。

そんな彼女たちを見つつ、アドマイヤベガは改めてトレーナーに言う。

 

「ほんとに何もなかったの?」

「・・・・・・多分、ない、はずなんだが・・・・・・あっ」

「あったのね、じゃあちょっと私もあの子たちに加勢してくるわ」

「え、おい、ベガ!?」

 

明らかに起こった表情で出て行ったアドマイヤベガを見送るトレーナー。

ふとグラウンドを見てみると、爆速で逃げるパーマーを追いかけて、6人が半円状に展開しているところだった。

 

「・・・・・・なんでこうなった?」

 

彼の疑問に答えてくれる存在は、残念ながらこの部屋の中にはいなかったのである。

 

―――――(演劇が終わった後)―――――

 

「・・・・・・頭の中が真っ白になってる」

「そうですね、俺も緊張が解けてすげー疲れた」

「あはは、素が出てるよトレーナー」

「今回ばかりは言いっこなしでお願いします」

「はーい」

 

すべてが終わったそのあとで、休憩中の出来事だった。

トレーナーたちは疲労感と高揚感に包まれていたのである。

 

「・・・・・・トレーナー」

「なんでしょう?」

「アサマ様に大逃げしていいか相談してみる」

「それは、大丈夫ですか?」

「ふふ、立ち向かわなくちゃ今日の舞台を整えてくれた立役者失礼じゃない?」

「・・・・・・ばれてましたか」

「そりゃあね、トレーナーが私に一歩踏み出す勇気をくれようとしてるのは何となくわかってたよ」

「・・・・・・お恥ずかしい」

「でもさ」

「はい」

「トレーナーのおかげで、理由をつけて逃げることから逃げるのはもう止める」

「・・・・・・」

「アタシはアタシの道を行くよ、トレーナー」

「・・・・・・」

「トレーナー?」

「・・・・・・ぐう」

「・・・・・・えぇ、ここで寝る?」

 

パーマーがよく見れば、彼の目の下にはクマがある。

そもそも彼はサブトレーナーとして覚えることがたくさんあるのだ。

そんな中で、彼は自分の為に時間を割いてくれていたのだ。

 

「・・・・・・誰もいない、よね?」

 

パーマーはきょろきょろとあたりを見回し、誰もいないことを確認すると。

 

「ありがとう、トレーナー・・・・・・ちゅ」

 

彼の頬にキスをしたのである。

なお、自分のしたこと気が付いたパーマーは、顔を真っ赤にしていた。

誰も見ていない場所での出来事だった。

 

―――――(別のどこかで)―――――

 

「ええい、まどろっこしいぞパーマーよ!」

「愛は感じるけど、それじゃあ駄目ね・・・・・・」

「パーマー、少女漫画みたいなことしてる・・・・・・!」

「そこはもう少し踏み込んで、口づけを交わすぐらいがいいと思うのですけど」

「・・・・・・(無言でスケッチブックにペンを走らせる)」

「ほわぁ、実に残念なところがパーマー様らしいですわ~」

 

パーマーのキスはばっちりみられていた模様。

 




花嫁ラモーヌが欲しい・・・・・・シーザリオも欲しい。

石がない、石が・・・・・・
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