ウマ娘逆転ダービー(仮)   作:グレート・G

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大変遅くなりましたが、17話を投稿させていただきます。

ウマ娘世界での皐月賞、ダービー、菊花賞のジンクスが分からなかったので、

独自の解釈が入っております。

大変申し訳ございません。



第17話 皐月賞

「今日は走るのにいい日ね」

「なに格好をつけているんだべ」

「スぺちゃん言い方がきついよ…………同意見だけどさ」

「ふふ、何を言われても今の私は受け流せる自信があるわ!」

「カッコつけ、不器用、へっぽこ~」

「実はプラス1キロ~」

「…………二人とも、そこになおりなさい!!」

 

 黄金新星のチームルームは今日もにぎやか、というか輪をかけてにぎやかである。

 何せ、彼女たち黄金新星は今や注目の的、クラシック戦線の有望株たちなのである。

 舞い上がるなという方が酷だろう。

 鮮烈なジュニア級G1デビュー、フューチュリティステークス、ホープフルステークスの激戦冷めやらぬうちに、クラシック級のOP戦やG3級レースに出場して実力を磨く6人。

 そして6人の超新星は、瞬く間に結果を出した。

 外国籍ゆえに皐月賞に出られないとわかっているエルコンドルパサーとグラスワンダーが

 マイルOP戦で暴れまくりお互い3勝、NHKマイル杯出場は確実と称される。

 スペシャルウィーク、セイウンスカイ、ツルマルツヨシの3名もG2の弥生賞で上位3組を独占、

 キングヘイローも若葉ステークスを危なげなく勝利する。

 紙面には、エルとグラスが皐月に出られないのが惜しいという声が多数ある。

 スポーツ紙の一面には6人が出ていないことがないくらい…………だが6人がすごいからというだけではない。

 

「しかし、増えたねえ…………ファンレター」

「段ボール箱何箱目よ、これ…………」

「いや、助けてくれ二人とも…………」

 

 積まれに積まれたファンレターの山に囲まれて、困惑の表情を浮かべるトレーナー。

 そう、トレーナーにもファンが付いたのだ。

 このことはトレーナーを困惑させ、何かの間違いじゃないのかと何度かURAに問い合わせをしたほどだった。

 しかし、URAの答えはNOであり、そのことにトレーナーは首を傾げた。

 最も、黄金新星の8人はその答えがわかりきっている。

 

「ウマッターで画像が拡散されたからね~、こればかりはしょうがない」

「人の口に戸は立てられぬ、という言葉もありますから」

「しかしなあ…………俺トレーナーなんだけどなあ」

((((((((だからでしょう))))))))

 

 トレーナーのボヤキに全員が突っ込む。

 もちろん口には出さないが。

 デビュー戦、G1戦、数々のレースを見に来ているトレーナーは、SNS上で半ば都市伝説となっていた。

 何せこの世界、ウマ娘への好意を抱く異性など皆無に等しいのだ、そんな中に紅一点ならぬ黒一点がいるのだから、そりゃあ目立つ。

 更にさらに、彼はあの「日本一の指導者」である「樫本理子」の弟子である。

 そのこともあいまって、彼の情報は(かなり脚色されたものも含めて)ネットの海に拡散されていた。

 樫本の弟子としての畏怖、異性へのあこがれ、性的興奮、エトセトラ。

 いろいろな感情に、彼は晒されることになったのである。

 そして、そんな彼を守るために黄金新星だけでなく、風紀委員やMMUS、

 更には学園全体が一時的に同盟関係を築いているなど知る由もない。

 とはいえ、彼の目標は眼前の皐月賞であり、暗闘の記録ではないのである。

 

「さて、それじゃあ作戦会議をしようか」

 

 トレーナーの一言に全員がガタガタと椅子を引っ張り出したりして、半円状に座る。

 アドマイヤベガがホワイトボードを用意し、パーマーがPCを立ち上げた。

 まだまだ粗削りだが、これが黄金新星のミーティングの恒例になりつつあった。

 彼を中心に半円を作る彼女たちは、皆真剣に聞く姿勢を見せている。

 そんな彼女たちに頷くと、トレーナーはホワイトボードに【皐月賞について】と大きく書いた。

 

「さて、三冠路線の一発目、皐月賞は【最も早いウマ娘が勝つ】と言われている」

「ウマ娘最速決定戦、なんて考えると幾分気分が楽になるんじゃない?」

「はは、確かにそうかもしれない…………しかし」

「しかし?」

「おそらく、あらゆるレースでも一番の闘志をぶつけてくるかもしれない」

「その根拠、教えてもらってもいいかしら?」

 

 アドマイヤベガの言葉に、トレーナーは頷くとホワイトボードに「最初の一戦」と書いた。

 

「各陣営も、例えばダービーや菊花賞に向けての第一歩として全力でとりに来るだろう」

「成程、三冠のスタートダッシュだからこそ全速力でというわけね?」

「キングの言うことはもちろん、が…………これは、俺自身の考えで通説ではないということをまずは言っておくぞ?」

「「「「「「「?」」」」」」」

「この皐月賞は…………俺の見る限り〈努力〉でとることのできる唯一の一冠であるとそう思うんだ」

「…………根拠を聞いてもいいかしら?」

「もちろん」

 

 そういうと、トレーナーは皐月賞の下に【努力でとることのできる唯一の一冠】と書いた。

 そして、そこに【才能】【総合力】【運】という3点も書き加えた。

 

「さて、三冠を取るということに関する3つのジンクスがあるわけだがわかるかい?」

「確か…………ダービーは【最も運がいいウマ娘】が勝つんだべ」

「それで~、菊花賞は【最も強い】ウマ娘が勝つんだよね~」

「…………皐月賞は【最も早いウマ娘】…………成程、確かに努力で勝てる可能性がありますね」

「なんで皐月賞は努力ナンデース?」

「多分だけど、いいですか?」

「ああ、いいよツルちゃん」

 

 グラスワンダー以外は頭にはてなを浮かべている。

 そんな中で、ツルマルツヨシだけがおずおずと手を挙げた。

 

「ダービーは努力のほかに【才能の差】が出て、菊花賞には【総合力の差】が出てくるから…………かな?」

「うん、正解だ」

 

 そういうと、トレーナーは続ける。

 

「努力することはもちろん当たり前、勝つために努力しないやつはいない」

「そうデース、エルたちも毎日がトレーニングです!」

「そうだな、エル。 だけど、ダービーのころには体も仕上がり努力だけでは覆せない、いわゆる持って生まれた【運】が必要になる」

「だからこその、日本一のウマ娘の称号ですからね」

「補足ありがとうグラス、そして菊花賞では長距離を走りぬく心技体の総合力が求められるわけだ…………もちろん、全員心技体を仕上げるから最後には【力】になるわけだ」

 

 これは俺が調べてみた結果でURA公式見解ではないよ、とトレーナーは続ける。

 

「だが、皐月賞に関してはまだジュニアの延長線上、そうとらえることもできる」

「ああ、だから【努力で何とかなる一冠】なのね?」

「その通りだキング」

 

 キングの言葉に、頷くトレーナー。

 彼は言う、最も早いウマ娘が勝つが、ただ早いだけでは勝てないと。

 まるでなぞなぞのような彼の言葉に、キング以外が首をかしげる。

 だが、キングは朧気ながらも彼の言いたいことがわかる。

 

「皐月賞は目標に向かってがむしゃらに突き進んで、それでとることができる…………そういうことかしら?」

「あー、成程ねぇ…………予想外の釣果が出ちゃうかもしれないわけだ」

「フロックでも何でもない、は有名だけど結構失礼だからね」

「スズカ先輩の同期の…………サニーブライアン先輩への評価ですね」

「うーむ、深刻に考えすぎだ」

「トレーナーがそういったんデース!!」

 

 トレーナーの苦笑い気味の言葉に、エルコンドルパサーがちょっと怒ったふりをしながら言う。

 彼は、深刻に考えさせちゃってごめんね、と言って苦笑いする。

 それに対して、眉間にしわを寄せていた黄金新星の面々はきょとんとした顔をした。

 そんな彼女たちに、パーマーが言う。

 

「パーマーさんが考えるに、皐月賞は【努力の集大成】ってとこかな?」

「ありがとうパーマー、俺自身こんなことを言っておいてなんだが、言っていいのかわからなくてな」

「ま、トレーナーさんの言いにくい事を補うのも私たちの役割ってことで」

「そうね…………じゃあ、私に交代よトレーナー」

「ありがとう、ベガ」

 

 少し困ったような表情のトレーナーは、アドマイヤベガにお礼を言うと交代した。

 

「皐月賞はいわば【すべての努力の集大成】なのよ」

「いや、それはさっきトレーナーさんが言ったよね?」

「いいえ、違うわセイウンスカイ…………微妙な違いがあるの…………いうなれば日々の努力の積み重ね、その全てよ」

「全て…………ですか?」

「そうよ、グラスワンダー、厳しさとか、悲しさとか、嬉しさとか、全部ひっくるめてのすべての努力よ」

「それは、もしかして」

「ええ、スペシャルウィーク、この皐月賞に挑んで【燃え尽きず】【折れない】ならば、ダービーも菊花賞も出場して、手が届く」

「「「「「「…………」」」」」」

「この皐月賞は、いわば、最後の振るい落しみたいなものと思ってちょうだい」

「怖いでーすね」

「ええ、でもその恐怖すらねじ伏せて、走り切ることができれば…………」

「さらなる飛躍ができるかも、ってわけ」

「ちょ、パーマーさん!?」

「怖がらせ続けるの、よくないよ?」

「怖がらせるつもりはなかったんだけど…………」

 

 トレーナーみたいなことはまだ無理ね、と言ってアドマイヤベガは頬をかいた。

 そのしぐさがトレーナーと似ていて、黄金新星の面々は内心面白くはない。

 だが、それ以上に彼女の話には彼女たちを焚きつける「熱」と「怖さ」があった。

 そして、ここで折れるようなメンツでもないのである。

 

 ────―(皐月賞当日)────―

 

【皐月賞 芝 2000M 右回り 晴れ 良】

 

「「すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ、すぅぅぅぅ、はぁぁぁ」」

「スぺちゃん、ツルちゃん、深呼吸しすぎじゃないの~?」

「スカイさんはなんでそんなに余裕そうなのよ?」

「ないしょ~」

「むぅ」

「「「「…………」」」」

 

 彼女たちのどこかぎこちない会話、それも仕方ないことだ。

 今日はG1、その中でも特別な意味を持つ「皐月賞」当日。

 真新しい勝負服に身を包み、新品の蹄鉄を着用し、聞こえてくるのは文字通り彼女たちを待つ人々のざわめき。

 緊張するなという方が無理だ。

 レース場に続く通路の中でこうなのだから、実際の場に立てばそれ以上の「熱」がぶつけられるのは想像に難くない。

 

「勝っても負けても、恨みっこなしよ?」

「うん、わかってる」

「けっぱるべ」

「今日の調子はいいからね、負けないよ」

 

 キングの言葉に、それぞれ返すもどこか上滑りするような感覚。

 熱に浮かされるように、一人、また一人とレース場の中に入っていく。

 そして、彼女たちの番がくる。

 

 ──―(トレーナーSサイド)──―

 

「あー、緊張するなあ、大丈夫かなああの子たち」

「あのね、園児の大会じゃないのよ?」

 

 緊張で泣いてやしないだろうか、と何とも場違いな心配をするトレーナーに対し、

 あきれたように返すのはアドマイヤベガだ。

 4月の風に吹かれ、空は快晴、芝は良馬場という絶好のレース日和。

 しかし、トレーナーの心は彼女たちへの心配が8割を占めていた。

 

「トレーナー、トレーナー」

「なんだいパーマー?」

「くちあけて、あーん」

「あー…………むぐ」

「たぶん朝ごはん食べてないんじゃないかと思ってさ」

 

 コンビニでおにぎり買っておいたよ、というパーマー。

 おにぎりの具はツナマヨだった。

 もしゃもしゃと咀嚼してゆくトレーナーに、お茶の入ったペットボトルが差し出された。

 

「まったく、心配になると食が細くなる癖は直しなさい」

「すまないベガ…………ぐびっ」

「わかっているのかしら?」

「わかってないんだろうね」

 

 パーマーもトレーナーには苦笑い。

 そんな3人を見て、静かに闘志を燃やすのが、今日は出れないエルとグラスの二人だった。

 

(はぁ!? なんでーすか、あの自然な3人カップル空間は!!)

(これが…………目下の敵!!)

 

 恋の炎に燃料がどっさりと投下されたと知らず、トレーナーはパーマーとベガの耳の裏側をなでる。

 そんな行為に、二人は目を細めて気持ちよさそうな表情をしていた。

 

「おう、いちゃついてるとこ悪いが、俺たちも見物させてもらうぜ?」

「あはははは、なんというか、すごく自然にウマ娘と接する方なんですね」

「そーだよ、でもあれでも抑えた方なんだけどね」

「おや、先生はいらっしゃらない?」

「ちょわ、樫本チーフからの伝言です」

「伝言?」

「【エアジハードの最終調整があるからNHKマイルで会いましょう】と」

「…………これは、とんだ招待状をもらったものだ」

「今から闘志がわいてキマース!!」

「ふふ、負けません」

 

 どうやら樫本チーフは、NHKマイルにエアジハードをぶつける気らしい。

 そのために、三冠路線はあきらめたということだろう。

 新人トレーナーがシャカールたちに連れられて皐月賞を見に来ているのは、実地勉強としてだ。

 出走者を見ても、チームレグルス所属のウマ娘はいない。

 

(ブライトあたりが来るんじゃないかと思ったが…………)

 

 そのブライトは、望遠鏡を片手に出走者を見ている。

 その隣にいるドーベルと目が合ったので一礼をしておく。

 少し硬い表情で一礼してくれたドーベルに安どし、トレーナーもコースに向き直る。

 

「みんなそれぞれ、緊張した面持ちだな…………代われるならかわってやりたいが」

「バーカ、緊張も含めての皐月賞だろうが」

「あはは、シャカールの口の悪さは相変わらずだけど、うん、シャカールに同意だね」

「その通り、2000を走ったことはありませんが…………G1の舞台というのは何度も味わえるわけではありませんから」

 

 その全てが財産になりますよ、とバクシンオーが遊びなしの口調でトレーナーに言う。

 彼女の脳裏には、かつてとったスプリンターズステークスの、G1の風を思い出していた。

 全員がレース場を見る、その時歓声が一段と大きくなる。

 

≪まさに綺羅星のごとく現れた、誰がよんだか黄金世代! 堂々の入場です!!≫

 

 地鳴りのように響く歓声は、まさに開戦の狼煙といえる。

 だが、この歓声が敵となるも味方となるも、今日までに仕上げてきた彼女たち次第だということは、

 トレーナーも黄金新星の残りのメンバーも、レグルスのメンバーもわかっている。

 

≪未完の大器が羽ばたくか!? ツルマルツヨシ!!≫

≪青雲を行く逃げ足で圧勝なるか!? セイウンスカイ!!≫

≪北の大地が育んだ豪脚の威力はいかに!? スペシャルウィーク!!≫

 

 そして、とアナウンサーが一瞬の間を作って彼女をコールする。

 

≪ジュニア級の覇者にして今回の一番人気、キングヘイロー!!≫

 

 キング!! キング!! キング!! キング!! 

 

 熱量そのままに口々に飛び出すキングコール、しかし、そのコールの中でもキングは平然としている。

 

(少なくとも、彼女たちはこの雰囲気にのまれているわけではなさそうだ)

 

 黄金新星の彼女たちが、みな堂々と立っていることに、トレーナーは心にあった不安を払しょくする。

 少なくとも、G1の舞台を経験させて良かったとも。

 

「何とか、ツルちゃんも仕上がってよかったね」

「ああ、パーマーたちのおかげさ」

「あら、私たち何かしたかしら?」

「ツルちゃんの個人練習に付いていてくれたじゃないか」

「…………ばれた?」

「ああ、体の弱いツルちゃんの、無理をしないぎりぎりの線を攻めるのは、トレーナーの俺でも難しいところがある」

 

 ウマ娘でもなければ、それはやりにくいからな。

 そういって、トレーナーはパーマーとベガを見る。

 そして、彼は二人に頭を下げた。

 

「ありがとう」

「お礼はいいわよ」

「そうそう、それにツルちゃんが結果を出せるかどうかはわからないからねえ」

「…………そうだな、誰を特別に応援するということができないのが悲しい…………」

 

 トレーナーはパーマーとベガと話しているうちに、だんだん悔しくなってきたのか口をへの字に曲げた。

 彼がただの「レースの好きな男」であれば、だれかを一人を応援することができた。

 しかし、今の彼は「黄金新星のトレーナー」である。

 自分のチームの「誰か」を応援することはできない、そんなえこひいきはできない、そういうふうに彼は考えている。

 

「むう、しかし、うーむ」

「…………不器用だなァおい」

「シャカールがそれ言う?」

「ア?」

「ひゃい!?」

 

 そしてレグルスでは、シャカールの突っ込みに対して、新人トレーナーが余計なことを言ってしまい睨まれていたのである。

 次々とウマ娘たちがゲートに入り、出走準備を整えてゆく。

 ツルマルツヨシが入り、セイウンスカイが入り、スペシャルウィークが入り、キングヘイローが入った。

 準備は、整った。

 

≪さあ、全ウマ娘ゲートイン、準備が整いました!!≫

 

 ──―(ターフ上)──―

 

 ゲートが開くまでの数秒は長く、しかし、開いてしまえばあとは短い。

 綺羅星のごとく輝けるのは、上位三名…………否、たった一人。

 勝者はいつの時代も、一人しかいない。

 そして、今日というその日の勝者は。

 

(この私、キングヘイローを置いてほかにいない!!)

 

 キングヘイローは、まさに心が熱く、頭がさえているという、レースをするウマ娘としては最高の状態だ。

 調子は絶好調、今日の占いは一位、そして何より。

 

(トレーナーが見に来ている以上、負けるわけにはいかないのよ!!)

 

 彼女は、なんとしてもトレーナーにこのG1をプレゼントするつもりでいた。

 なぜなら、彼は、キングヘイローを心配していたから。

 キングがジュニアのトップを取って燃え尽きてはしないかと。

 彼の業務日記を偶然見てしまった彼女は、それに衝撃を受けた。

 まさに、頭をガツンと殴られたかのような、そんな一撃だ。

 

(彼に心配をかけさせること自体、私の本意じゃないわ!!)

 

 ギリギリと引き絞られる弓矢のように、足に力が入る。

 

≪さあ、スタートが切られました!!≫

 

 ゲートが開き、実況の声が響き、そして彼女は完璧なスタートを切った。

 だが、彼女は中段の少し下に構えてレースを見渡す。

 今回のレースには追い込み脚質はいない、逃げ・先行・差しの3種のみ。

 事前の情報収集でそうなっている、そして今自分は下位集団に属しているとキングの頭は冷静に現状を分析してくれている。

 

(私より前には同じくスペシャルウィーク、中段上位にはツルマルツヨシ、そして先頭はセイウンスカイ…………ええ、これも想定道理よ!!)

 

 下位集団から少しずつ少しずつ、キングヘイローは脚を回転させて位置取りを上げてゆく。

 距離にして800メートル過ぎ、仕掛けどころであった。

 その視線の先には、彼女が良く見知った背中…………スペシャルウィークの背中があった。

 

 ──(トレーナーSサイド)──

 

「ほぉ、キングヘイローは中々やるじゃねえか」

「え?」

「見てわかんねえのかよ、あいつ、スペシャルウィークを「前に押し上げた」んだよ」

 

 レグルスの新人トレーナーは、シャカールの言葉に一瞬唖然として、再度目を皿のようにしてスぺシャルウィークとキングヘイローを見る。

 大画面には、スペシャルウィークが集団をかき分けて前に出て、それに追走する形でキングヘイローが前に出ているように見える。

 

「キングはホープフルと同じことをしようとしているのかな?」

「それはないわ、ホープフルと同じことをしてくるというのは織り込み済みでしょう」

「そうだね、パーマーさんとしてはスぺちゃんにプレッシャーをかけ続けた末の、だと思うよ」

「成程、スぺちゃんはキングに根負けしたと」

「うん、キングは初めからスぺちゃんに的を絞っていたんじゃないかな」

 

 トレーナーたちの前で、スペシャルウィークがバ群をかき分けさせられている。

 その後ろを、キングが悠々と抜けている。

 恐らく、スペシャルウィークもなぜ自分がこんな事をしているか分からないだろう。

 いや、わかっていてもそうせざるお得ないのだろう。

 それほどまでに、キングヘイローはスペシャルウィークにプレッシャーをかけ続けた。

 キングは今、スペシャルウィークの走りを制限し、自らに有利な状況に持って行ったのである。

 

「同じ脚質だからこそ、というところかな…………ツルちゃんも初めてのG1だけど、空気に飲まれずにいい走りができている」

「堂々とした先行策だね、ただやっぱりパーマーさんからすると」

「体力的にちょっと厳しいかな?」

「うん、G1の初出走がこれなら上々だと思うよ」

 

 ツルマルツヨシは先行で4~6位の集団につけている。

 ただ、画面から見るに体力の消耗が激しく、先に進むことができない。

 上位には食い込めるが、といったところだ。

 トレーナーとパーマーはツルマルツヨシを見守りつつ言葉を交わす。

 心配と応援が半々といった風で、とにかく無理せずに走りぬいてほしいという思いが伝わってくるようだ。

 

「どうやら仕掛けるみたいね、セイウンスカイの加速が上がったわ」

「ああ、最終コーナーで仕掛けてきたな」

「セイちゃんがトップデース、レッツゴー!!」

「あ、でも、スぺちゃんとキングがすごい勢いで追い上げてきてる」

 

 ベガの指摘に頷くトレーナー。

 その目には、セイウンスカイが逃げの王道のような形でトップを独走しようかという光景が映る。

 しかし、グラスワンダーが驚きに目を見開いたように、スぺシャルウィークとキングヘイローが猛烈な勢いで追い上げてきていた。

 

「さあ、最後の直線で勝負が決まるぞ」

 

 トレーナーが、ぼそっと言った

 

 ────(セイウンスカイサイド)────

 

 くる。

 何がとは言わない。

 勝負の世界だ、私もみんなも、そんなことは百も承知。

 だけど。

 

(こう来るかー!?)

 

 思わず私はそう思ってしまった。

 キングの戦略は、いわばホープフルステークスのさらに強化したもの。

 ただ、その相手に選ばれたスぺちゃんは、たぶんたまったものではないだろう。

 何せ、スぺちゃんは必死の形相で私のまさにほんの2バ身差まで迫ってきている。

 いや、迫らせられている。

 その後ろには、鋭い眼光でスぺちゃんに喰らいつくキングがいる。

 まさに、キングのモットー≪勝つためにはどんなこともする≫が現れている。

 負けたくはない、負ける気もない、だけど。

 

(これはまずいか?)

 

 どこか冷静な私が頭の中でそう分析する。

 スぺちゃんの気配が少しずつ離れて、キングの気配だけになった。

 残りは200メートル、この距離は。

 

(まいったね、キングの距離じゃないか)

 

 キングが、緑の風になる。

 それを見送る私、負ける私、悔しいが今回はキングの作戦勝ちだ。

 

(ダービーでは負けない!!)

 

 そう思わせるほどの、圧倒的加速力で私を追い抜いていく。

 ちくしょう、負けた!! 

 

【今キングヘイローがセイウンスカイを交わしてゴール!!】

 

 実況の大声が、やけに遠くに聞こえた。

 

 ────(観客席Sサイド)────

 

「か、勝った!!」

 

 誰かがそういった、見事な勝利だった。

 キングヘイローは、スペシャルウィークを「加速装置」に使ったのだ。

 スペシャルウィークを文字通り「無理やり走らせて」加速させ、体力が切れた瞬間に残りの体力をつぎ込んで爆発的な加速をする。

 ホープフルステークスの焼き直しといえばそれまでだ。

 だが、そうではないことはキングヘイローの様子が語っている。

 倒れこんで、起き上がれない。

 担架で彼女が運ばれてゆくのを見送りつつ、誰かが言う。

 

「まさにレースを支配した、キングの名前に相応しい一戦だった…………」

 

 その一言を皮切りに、ざわざわとざわめきの輪が広まってゆく。

 そして。

 

 キング、キング、キング、キング!! 

 

 キングへのコールが、レース場に響き始めたのである。

 倒れたキングを起こすような、熱があるコールはキングが再度出てくるまでの3分間、地鳴りのごとくレース場を揺らし続けた。

 

 

 ────(トレーナーサイド)────

 

 

(ちくしょう、うちのキングの一大事によくもまあコールなんてできるもんだ!!)

 

 トレーナーは、キングコールに苛立ちつつ医務室へと走っていた。

 医務室へ向かう廊下にまでキングコールの熱と地鳴りのような響きは届いているが、今の彼にはそれが非常に煩わしいものに思えた。

 

「キング、大丈夫か!?」

「ああ、トレーナー…………大丈夫よ?」

「全然そう見えねえ!?」

 

 駆け付けたトレーナーの前では、キングヘイローが高濃度酸素補給機で深呼吸しているところだった。

 

「キングは、大丈夫なんでしょうか!?」

「ええ、爆発的な加速をした結果の、軽い酸欠みたいですね…………」

「短距離選手が陥ることのある酸欠ですか?」

「はい、ウマ娘でも時々ありますよ…………特に今回のようなG1レースだと特にね」

「…………大丈夫そうかい、キング?」

「ええ、一瞬頭が真っ白になったけど、もう大丈夫だと思うわ」

「無理をするんじゃないぞ、ライブは欠席させてもらっても「主役がいないライブなんて言語道断でしょう?」…………むう」

 

 キングの言葉に二の句が継げなくなるトレーナー。

 酸素吸入器を外して立ち上がるキングは、決してふらつきなどはない。

 いたって正常そのものに見える。

 

(キング、気が付いているのだろうか?)

 

 ライブへと向かうキングヘイローの背中を見送りつつ、トレーナーは思う。

 彼女の適正距離を考えれば、今日の結果は最上であることに。

 本当は短距離に回したいという思いをトレーナーが持っていることに。

 彼女の爆発的な差し足は、短距離で輝くことに。

 そして何より。

 

(その酸欠は短距離ウマ娘が陥るもので中距離ウマ娘は陥らないんだぞ?)

 

 ただ、トレーナーは言えない。

 彼女の笑顔を奪うことになりそうで、自信を折ることになりそうで。

 そんな彼の不安をよそに、キングヘイローはライブを歌い切り、サイン会にも応じた。

 雑誌や新聞の取材にも快く応じていた。

 まるで彼の不安を払しょくするかのように。

 

(どうする、どう伝えるべきだ俺は?)

(彼に心配をかけさせるなんて、キングとして失格よ!!)

 

 二人のすれ違いがどうなるかは、まだ誰も知らない。

 

10月18日、一部間違いを修正

 




サニーブライアン実装されないかなあ、と思う自分

調べるほどに、3冠を取りたいなあ、サニーブライアンでと思う。

個人的に逃げの脚質が好きなことも理由の一つ。

リアル競馬はあんまり見ていないため、どうしてもレースの再現とかが甘いかもしれない。

18話の投稿がいつになるかはわかりませんが、次は学園になります。

見てくださった皆さん、ありがとうございます。
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