ウマ娘逆転ダービー(仮)   作:グレート・G

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前作から時間がたってしまって、もうこの話を忘れている人も多いかもしれないけれど、第4話を投稿させていただきます。

執筆速度が遅くて、お待たせしてしまいますが、5話も執筆しております。

それはそうと、ウマ娘2周年、来ますね師匠とシービーが。

さあ、何連で来てくれるのでしょうか?




第4話 黄金世代の練習風景とその他

 

 

 

 

「「「「「「疲れたぁっっっ‼」」」」」」

 

 

夕焼けに染まるグラウンド、その片隅にあるベンチに7人の男女が集っていた。

この世界の中でも超希少を通り越してレッドリストに乗っかっている『男性』トレーナーと、

彼の担当するチーム『ゴールデンノヴァ』の面々だ。

 

「おあああああっ、ツーカーレーターデースっ!!」

「足腰が、震えて、立てないとは、不覚っ」

「オホホホホ、キングは一流、疲れなんて無いのよっ・・・・・・へっふぁ」

「ああっ、キングちゃんが疲れで大変なことにっ!?」

「いやー、見事に魂が抜けてるねぇ・・・・・・スぺちゃん、膝借りるね~」

「ごほっ、無理のないメニューとは言え、これ程とは・・・・・・スぺちゃん背中借りますね」

「ちょっと、セイちゃん、ツルちゃん!?」

「ふむ、少しやり過ぎましたか・・・・・・とは言え、まずはお疲れ様です」

 

二人に引っ付かれて、ほにゃあ!? という変な奇声を上げたスペシャルウィークを無視して、

トレーナーはねぎらいの言葉をかける。

だが、その言葉は疲れ切った黄金新星の少女達にはいまいち届いていなかった。

 

―――――――(当日昼過ぎ)―――――――

 

トレセン学園の午後、所属ウマ娘達が午前中の授業が終わり、さあ練習だと駆けだす時間帯にて。

 

入学して時間がたったとはいえ、まだまだひよっこの黄金世代の面々に対し、

彼は訓練初日に、まずこんな事を言い出した。

 

『貴女達には、これから芝とダートの両方を走ってもらいます』

 

彼曰く、書面上の適性と、実際の適性が合っているのかの最終チェックだとの事。

実は、書類審査と現実の脚質が異なることが多く、芝とダートの適性が逆だったせいで勝てない

ウマ娘が割といるのである。

 

この実態は、多数の所属人員を抱えるレグルスの樫本チーフにより発見され、

秋川やよい理事長の厳命により、再調査がトレーナー達には義務付けられたのだ。

また、この行為は生徒会長シンボリルドルフも賛成している。

学園首脳部が賛成しているとあっては、どんなに面倒でもやるしかないのだ。

ピカピカの新人ウマ娘と新人トレーナーには、割と不満がある制度ではある。

なお、後のこの調査により『障害競走の絶対王者』とかいう頭おかしい人材が

発掘されることになるのだが、それはまた別のお話。

 

「さて、昨日Lineで連絡した通り、今日は芝とダート双方を走っていただきます」

「入学時の適性検査を改めて行うンデース?」

「あー、確かちょいちょい問題になっていたねぇ」

「そう言えば、理事長が全校集会でも、脚質の話をおっしゃっていましたね」

「えっ、そうだっけ?」

「スぺちゃんは~、半分寝ていたからね~」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ、トレーナーさん・・・・・・大きく船こいでました」

「ツルちゃん、しーっ、しーっ!!」

「はぁ・・・・・・緊張で眠れなかったのかしら、スぺちゃもが!?」

「キングちゃんもそういう事言わないのっ!!」

 

後、最初っから寝ていたスカイさんは人の事言えないでしょう、

スペシャルウィークの拘束から逃れたキングがつっ込んだ。

 

(実に仲がよさそうで何より、さてこれからどうしようか)

 

トレーナーは、じゃれ合う黄金世代に目を細めつつ、手元の端末を見る。

そこには、入学試験時の記録と今回調べたデータを比較して算出された、

最新のデータが記載されていた。

 

トレセン学園が制作したAIである『UMAMUSUMEs・ARC』というAIは、

画像やレース動画を元にAIがその適正を判断するという物だ。

熟練トレーナーにとっては『自分の感覚を説明づけられる』便利なツールとして。

中堅トレーナーにとっては『自分の感覚が正しい事の証明』を示せるツールとして。

普及した瞬間から、かなり重宝されている。

なお、このAIを作成するにあたり、エアシャカールとアグネスタキオンが過労で数日、

彼女達の手伝いをしていた他のトレーナーやウマ娘達も寝不足と疲労で丸一日動けなくなった

という大事件が起きたが、それは割愛。

 

取りあえず、場所を取ってありますからと体操服に着替えた彼女達と共に、

ダートと芝の並立している練習コースへ向かった。

コースは新潟の芝1000m、短距離一本のコースとよく似た練習コースであり、

正に脚質試験の為だけに作られたといっても過言ではなかった。

 

秋川やよい理事長曰く『笑止っ、ウマ娘達の適性を正しく把握できないなど言語道断!』

と言い切った。

彼女の本気度合いを示すかのように、コースは着工から2週間という爆速で制作された。

このコースのおかげで、ウマ娘達が自分の本当の脚質や適性を図れるという事で、

なかなか勝てないウマ娘の受けは上々であった。

なお、トレーナー達は業務量の増加に悲鳴を上げたとか。

 

「それじゃあ、まずはダートの方を走ります・・・・・・準備はよろしいでしょうか?」

『はいっ!』

『位置につきました、いつでも走れます』

『エルの調子は上々デース!』

『ええ、キングの脚も絶好調と言った所かしら』

『うへ~、ダートは苦手なんだけどなぁ』

『今日は調子がいいみたいです、何時でも行けます!』

 

凡そ1000mという距離ゆえに、肉声では届かない。

その為、トレーナーはインカムを使用しており、ゴールデンノヴァの面々もまた、

イヤホンとマイクを着用していた。

 

上空にはドローンが飛行しており、1ハロン(200m)毎にカメラが設置されている。

そのおかげで、脚や速度等を正確に読み取ることが、高い精度でできるようになった。

もっとも、そうしなければならない程に脚質の問題は大きいという事の証左でもあるのだが。

 

それじゃあ、脚質試験を始めます。

そのトレーナーの一言に、黄金世代の目が真剣なものに変わる。

例え試験とは言え、レースでは負けたくないのだ。

そして、彼のスタートという声と共に、横一列で彼女達は駆けだした。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

ぐんっ、という擬音が当てはまるかのように加速し、芝の1000mを駆け抜ける少女達。

その足取りは軽く、大地を駆け抜けるのではなく飛び跳ねながら移動するようで。

そして、全身から発せられるエネルギーはまるで太陽を凝縮したかのような『熱さ』がある。

現に、コース終点で待機しているトレーナーは、彼のいるゴールに迫る彼女達の膨大なエネルギーをひしひしと感じる。

 

(美しいな)

 

思わず、そう思う。

正に時代と共に駆け抜けてゆく彼女達。

その第一歩、まだ粗削りなその速さは美しい残像として、彼の眼の中に残った。

 

驚くべきことに、芝とダート両方の脚質試験で彼の予想外のことが起きた。

一位は両コースともにキングヘイロー、しかし、その後は団子状態。

ダートで勝てるとは思っていなかった彼は、キングの短距離能力に内心驚いた。

 

「ふふんっ、この私、キングこそが一位よ・・・・・・讃えてもいいのよ!!」

「はいは~い、おめでと~キング・・・・・・チクショウ!

「いやー、早いですネぇキング・・・・・・マイルならばっ!!

「うう、負けちゃったよキングちゃん、やっぱり早いべ~」

不覚、短距離でも勝てるようにならなくてはっ・・・・・・

「うぐぐぐぐ、不慣れとは言え・・・・・・欲を言えば勝ちたかったっ!!

「ち、ちょっとっ!? スぺちゃんしか讃える声がないのだけれどっ!? さては称える気ないわね!?」

「「「「うん/デース/はい/はいっ!!」」」」

「ふぇっ!? ・・・・・・えっと、あっと、そのぅ」

「スぺシャルウィークさん、無理に話を合わせようとしなくてもいいんですよ?」

「あ、トレーナーさん!!」

「そしてキングヘイローさん、お見事な走りっぷりでした」

「! そうでしょ、そうでしょ・・・・・・あ、ごほん、一流のキングだもの当然よっ‼」

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

同期4人に塩対応を受けたキングがしょげている。

いつものようにお嬢様なポーズを取っているが、耳は下向き尻尾も力なく垂れている。

とはいえ冗談8割の対応だからか、そこまでダメージは受けていないようだ。

更に、トレーナーからの一言で耳は上向き、尻尾はまるで扇風機のようにぶん回っている。

そんな彼女の反応に、他の五人はジト目で抗議している。

心なしか尻尾も垂れ下がり、耳も絞っているように見える。

だが、背中を向けているキングはそんな事に気が付かない。

 

トレーナーも負けたから悔しいんだろうな、ぐらいにしか思っていない。

彼は手の中のタブレットを見ながら、騒ぐ彼女達を微笑まし気にみていた。

そして、そんな彼の背中には冷や汗が伝っていた。

彼の持つタブレットには、この芝とダート2本を走った結果が表示されているのだが。

その表記を、彼はどうしても信じることが出来なかったのである。

 

(え、何この娘達・・・・・・AIのバグ?)

 

脚のレースであり、勝敗は二の次だが、競い合う黄金世代。

荒々しくも微笑ましい様子に、彼は心底ほっこりとしていた。

そして、手元のタブレットに目を落とし、二度見した。

信じられない、しかし、結果は変わらない。

その結果が以下の通り。

 

・エル 芝・ダートともにA、短距離以外オールA、先行S、足首不安発生率55%

 

・グラス 差しS、短距離以外オールA、膝関節部異常発生確率45%

 

・スカイ マイルA、中距離S候補(将来到達可能性90%)、股関節故障確率30%

 

・スぺ  長距離S、脚部不安確率20%、マイルD

 

・キング 短距離適性S、マイルA、中距離B、長距離B、脚部不安の可能性60%

     (すべての距離に出走した場合100%)

 

・ツヨシ 各種脚部不安の可能性常時50%、芝S、先行S(天才)、中距離S

 

(これは控えめに言って天才の集まりでは?)

 

少なくとも、こんなAI表記を見た事は無い。

そもそも、S適正どころかA適正だってこんなにポンポンと表示されていいものではない。

地方トレセンの娘達は、文字通りB判定で大喜びすることが多いのである。

それに、中央トレセンの娘達の平均的な適正もBが多い。

無論、リギルやスピカ、レグルス等のチームに所属しているウマ娘達だって、

入学当初はBランクからという子も多い。

 

だが、機械はこの破格と言っていい判定をたたき出した。

彼は真っ先にバグや故障等を疑ったが、どうやらそうではない。

何せ、メンテナンスを受けたのが昨日である、調子が悪いわけがない。

機材の方も、エアシャカールお墨付きのパフォーマンス能力が高い機材を使用している。

即ち、疑うべきなのは己の思い込み。

 

(うっそだろ・・・・・・)

 

この表記は事実、という事だ。

恐らく、故障率などはこの粗削りな走りを続けていればという前提条件の為、改善はできる。

問題は、この表記をそのまま伝えていいのかどうか。

 

特に、キングヘイローなんて『全部の距離でキングになるわっ!』などと言い出しかねない。

しかし、練習次第では本当に全距離の王者になってしまいそうでもある。

ツルマルツヨシの常時脚部不安というのも、これからの練習を考えるうえでネックだ。

しかし、その才能はあのシンボリルドルフ以来のトリプルSという、

神様の悪ふざけとしか思えないもの。

 

エルコンドルパサーのダートと芝の二刀流はあまりにも数が少ないレアケースだ。

勇者アグネスデジタルや葦毛の英雄オグリキャップ等、指折り数えられる程度しかいない。

そして、そのすべてが超一流のウマ娘だ。

グラスワンダーも、短距離以外の全適正がAという数値。

しかも、その豪脚は驚きのS適正であり、怪物二世の名に恥じない天才だ。

セイウンスカイの適正が、マイルAあるのには驚きを隠せない。

更に、将来的には中距離でSランクの適性が付与される可能性があるのだ、

成長率半端ないとは、まさにこのことだ。

 

(マイルの対戦相手は地獄を見るぞ、これ)

 

更に、世代のキングことキングヘイローもマイルAなので、ほぼ参戦が決定している。

正に地獄のレース、デスレースといえるだろう。

 

そして、スペシャルウィーク。

マイル適正こそDランクと、彼の記憶の中の適性よりも下がっている。

だが、長距離に対する適正が初めからSなんて、普通思わないだろう。

ああ、これでトントンということかな、と彼は逃避気味にそう考えてしまう。

 

(というか、スペシャルウィークの比較対象がメジロマックイーンなんだが?)

 

AIはご丁寧に現在の比較対象ウマ娘をピックアップしてくれた。

その対象は、メジロ家の至宝とうたわれる『名優』メジロマックイーンその人。

日本最強のステイヤー、メジロの屋台骨、ステイヤーの到達点などなどの異名を持つ彼女。

即ち、スペシャルウィークはジュニアの段階で『あの』メジロマックイーン並みの

長距離の才覚を持っていることになる。

 

(メジロ家が飛びつきそうな逸材なんだが?)

 

いや、メジロ家以外にもほかの連中が、彼女たちの能力を見たら文字通り

なりふり構わず引き抜きにかかるのではないだろうか、

彼の脳裏に嫌な想像がよぎる。

 

『いやー、セイちゃんあっちの条件の方が性に合ってるからね~』

『はぁ・・・・・・一流のキングが信頼できる人材じゃなかったわね・・・・・・さよなら』

『エルが世界を目指すには、トレーナーさんは少し物足りなさすぎマース、チャオ!』

『申し訳ありませんトレーナーさん、より厳しい環境に身を置いてきます』

『ごほっ、なんだか、トレーナーさんの練習で、体が・・・・・・別のチームに移りますげほっ』

『うー、トレーナーさんといると、日本一のウマ娘になれないし、そのごめんなさいっ!』

 

想像の中でとはいえ、彼女たちが自分に背を向けて去っていくところを幻視してしまったトレーナー。

途端に顔が青くなり、冷や汗がだらだらと顔を伝い始めた。

 

(どうする、オレェ!?)

 

地面が急に渦を巻き、自分が飲み込まれるような感覚になりながら、

超真剣にタブレットの画面とにらめっこを開始するトレーナー。

だからこそ、いつもは気が付くはずの黄金世代の心配そうな視線に気が付かない。

 

「どうしたのかしら?」

「あり、トレーナーさんの顔が青くなったり、土色になったりしてますね・・・・・・けほっ」

「私達の結果に、何か問題でも、あったのでしょうか?」

「うーん、でもあんなに大汗をかくような結果わたし達が出すとは思えないけどな~」

「トレーナーさん・・・・・・何とかしてあげられないかなぁ」

 

そんな彼の奇行に対して、少女たちは心配そうにしていた。

黄金世代の少女たちは、彼が想像したことはおそらく一度も言わないし、

彼女たち自身が考えないだろう。

だが、トレーナーは違う。

 

(このまま、彼女達が天狗になって練習をさぼるようになったら・・・・・・?)

 

一度悪い考えが頭の片隅に巣くうと、大変なことになる。

正規トレーナー一年目にして、彼は大変な問題に直面していた。

やっぱり6人同時は無理があったな、とか、やっぱりまずは1人に絞るべきだったかもしれない、

とか、樫本先生助けてぇ!?なんてことを考えていた。

 

「ヘーイ、みんなにエルからプレゼントデース・・・・・・どしたの?」

「あ、エルちゃんどこ行ってたの・・・・・・おっきな水筒?」

「おー、中にスポドリはいってるねぇ」

「貴女ねぇ、きちんと先生とか責任者の方に許可もらったんでしょうね?」

「エル、勝手に持ってきたなら、私も一緒に謝りに行きますよ?」

「ケェッ!? 何故にエルはこんなに信用がないんですか!?」

「あ、これ持ち出し自由の水筒だ・・・・・・よし、これなら」

 

スペシャルウィークが意を決したように、気合を入れるようにして。

ふむ、と全員が注目する中で彼女は一歩を踏み出した。

彼女の手には水筒の中身スポーツドリンクの入った紙コップ、

これをだしにしてトレーナーの調子を聞き出そうというのだ。

それを察したのか、残りの五人は固唾をのんで見守っている。

スペシャルウィークは靴ひもがほどけそう、なんて普段は気を付けていることに

気が付かない程度には、気合を入れていた。

 

「三女神様、なんで俺にこんな天災児達を?」とか「なるほど、これは夢だろうか」とか

「誰から継承したの、誰から?」とかつぶやいている情緒不安定なトレーナー。

いつもならば気が付くが、あまりのことで気が回らず、

スペシャルウィークの接近に気が付かない。

 

「トレーナーさ・・・・・・ひょあっ!?」

「おぁっ!?」

「「「「「!?」」」」」

 

見守っていた全員が、スペシャルウィークの仕掛けに驚き固まり動けない。

トレーナーも、体に感じる柔らかさと熱に目を大きく開けて驚いていた。

スペシャルウィークは、驚くべきことに彼の背中に抱き着いたのだ。

トレーナーの背中には、いまだ成長途中の彼女の体の感触と、

体温がじわじわと広がりを見せつつあった。

なお、抱き着いたスペシャルウィークは、あまりのことに

首が赤くなるほどの羞恥を感じているのだけれど、彼には見えない。

なお、チームメイトには丸見えだが。

 

(ほ、ほぁぁぁっ!? 柔らかい、スぺちゃん、やわらいがががががが!?)

(どっどうしよう、声をかけるつもりが転んじゃって、あわわわっ!?)

「す、スペちゃん大胆だねぇ」

「自分から抱き着きに行きましたネ」

「というより、手前で躓いたような・・・・・・?」

「なんというラッキースケベ、ごほっ」

「ほら、ツヨシさんは落ち着いて飲みなさい・・・・・・スぺちゃん大丈夫かしら?」

 

やはりというか、なんというか。

スペシャルウィークの靴紐が途中でほどけ、それを誤って踏んづけた結果

トレーナーの背中にダイブすることになった。

一般的な男性の反応として、トレーナーは緊張を隠せない。

何せ、まだまだ成長中のスぺちゃんの双大将が思い切り押し付けられているのだ。

不意打ちをくらい、普段は理性と仕事人精神で隠している素の部分が、表に現れてしまう。

同時刻、三女神像が同時にニヤリと笑った、というトレセン学園のもう何個目になるかわからない

不思議が発生したのだが、それは別の話。

 

「その、すぺさん?」

「ふえっ、いや、あの、ごっ、ごめんなさいっ!?」

「ああ、いえ、そのこちらの方こそ皆さんに心配かけていたようで・・・・・・」

 

それでも早くに冷静さを取りもどし、状況を把握し、どうやら自分が心配をかけていたと

スピード認識した彼は、すぐさま黄金世代のみんなにわびを入れる。

なんで心配かけたのかは、いまいちわかっていない。

トレーナーズスクールにおいて叩き込まれた『ウマ娘に心配をかけさせない』という標語が、

無意識のうちに彼にこの行動をとらせたのだ。

なお、それを教えた教官は、なぜか彼にだけボディタッチが激しかったという。

 

「ん~、まあ別に心配しているわけではないからねぇ」

「えー、セイちゃん、あーでもそうですネ」

「その、結果が教えていただけないので、スぺちゃんに聞いてもらおうかと」

 

そんな彼に、セイウンスカイが気にしないでという風に手をひらひらさせながら答える。

そんな彼女にエルコンドルパサーとグラスワンダーが同調した。

 

「それで、スぺちゃんはいつまでトレーナーの背中にくっ付いている気なのかしら?」

「ずるいですよ、それは看過できません!」

「すー、はー、すー、はー、これが男の人の・・・・・・はっ!?」

「「さっさと離れなさいっ!」」

「ほみゃぁ!?」

 

なんだか恍惚とした表情を浮かべながら、背中にくっ付いてトレーナーの香りを堪能している

スペシャルウィークを引きはがすキングヘイローとツルマルツヨシ。

なお、トレーナーからはちょっと変わっているな、程度の認識だった。

 

これは全くの余談ではあるが、なぜトレセン学園で男性トレーナーがここまで極端に少なくなったのか、

その理由の一つが異性のトレーナーへのセクハラ行為だという。

今までセクハラをしたウマ娘が退学処分となることも多く、

2重の意味でトレセン学園全体の頭を悩ませる問題だった。

ゆえに、彼が中央に来た結果、とんでもない事になったのだ。

 

「ごほっ、ごほっ、ぶふっ!?」

「ツルマルさん、大丈夫ですか!?」

「器官に、飲み物、入って、むせっ、ごほっ」

「ちょっと、トレーナー貴方も上着が!!」

「そんなことより、ツルマルさんの方が先です」

「すいません・・・・・・背中さすってもらっちゃって・・・・・・」

 

――――――(屋上)――――――

 

「こちら、狙撃第一班、目標SWがセクハラと思われる行為を働きました」

『こちら司令部、狙撃は許されない』

「なぜ?」

『目標KHとTTを巻き込む可能性がある、驚いたことに防衛対象がセクハラと気が付いていない』

「・・・・・・なんですと?」

『このまま狙撃を敢行した場合、学園の心象が悪くなることが予測される、待機せよ』

「くそ・・・・・・命拾いしやがる!!」

 

屋上にて、対ウマ娘用の麻酔弾を装填した4倍スコープ二脚付きサイレンサー使用の

レミントン700カスタムタイプを構える班員。

彼女は、彼を守るために派遣されたSPである。

なお、彼はそのことに気が付いていない。

ちなみに、班員はアイルランド軍にて狙撃訓練を2年間叩き込まれたプロである。

そんなバックアップを受けている、なんて彼は当然気が付いていない。

黒幕の一人である殿下からの『ニンジャみたいに影に紛れて守るように』という命令を

班員は厳守しているのである。

 

―――――――(グラウンド)―――――――

 

「わかりました、それじゃあ皆さんタブレットを見てください」

 

彼は、弱気な葛藤を上着と共に投げ捨てると彼女達に情報を見せることに決めた。

天才的な脚質を持っている、しかし、彼女たちの脚質問題を開示しなければ

ケガをしてしまうかもしれない。

彼は彼女達が去ってしまうかもしれないという事と彼女たちの安全を天秤にかけて、

天秤は爆速で彼女達の安全に傾いた。

 

彼は、タブレットの全情報を彼女たちに開示し、今後の相談を持ち掛けたのである。

が、しかし。

 

「それで、貴女達の脚質についてですが、非常に優れた素質の持ち主であるといういうことをはじめに申し上げておきます」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

「ただ、今のような走り方を続けた場合、残念ですがクラシック出走はおろか、ジュニア級のホープフルステークス前に故障引退の可能性が高いです」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

「そのため、貴女達にはつらい思いをさせるかもしれませんが、体を基礎から作り、ケガの可能性を極限まで下げることを念頭に・・・・・・」

 

(どうしよう、これ、セクハラ?)

(いや、これ、警察に突き出されても文句言えないよ?)

(トレーナー、ちょっと警戒が甘すぎデース)

(これは、据え膳、なのでしょうか?)

(貴方、体つきも一流なのね・・・・・・嫌いじゃないけど、うーん)

(あわわわわ、さっき私が飲み物を噴きだしたせいで!?)

 

深刻な顔して、彼女たちの今後を語るトレーナーをしり目に、

黄金世代はひそひそ話の真っただ中。

眼前にはワイシャツがいい感じに透けたトレーナー(筋肉質)が立っているのだ。

 

背中あたりにスポーツドリンクをぶちまけたスペシャルウィーク。

その結果、彼の着用していたスーツは少し濡れてしまった。

乾かすためにも脱いだ方がいい、というセイウンスカイの助言を聞いて、

彼はスーツを脱いだうえで話そうとした。

だが、運命の悪戯か、ツルマルツヨシが飲んでいたドリンクを気管に詰まらせる事態が発生。

勢いよく噴出したドリンクは、まるで霧のように広がり、

彼の着ていたワイシャツを濡らしたのである。

ただ、さすがの彼もワイシャツを脱ぐわけにもいかず、そのままで話始めたのだ。

 

「「「「「刺激が、強い‼」」」」」

 

そしてその光景は、彼女達には刺激的に過ぎた。

彼女たちは女子中学生、すなわち異性を意識しだす思春期である。

そんな彼女たちにとって、男性が水分を含んで肌にぴったりと張り付いている

ワイシャツを着用している、という光景は刺激がすんごく強い。

紳士諸君に例えるならば、思春期の中高生の前に、濡れすけワイシャツの若い巨乳女教師がいたらどう思うだろうか。

目が釘付け、いろいろとくるものあるのではないだろうか。

それが、今、黄金世代の眼前にいるのである。

 

「本題に入ります、まず貴女達の脚質についてなのですが――――――」

(セイちゃん、見えそうですよ、何とは言えないけど!?)

(ちょちょちょちょ、トレーナー、ガード緩すぎじゃないの!?)

(ガードの緩さがへっぽこすぎるのよ、このおバカ―!?)

(やばいデース、どう考えてもエルたち犯罪者でーす!?)

(こんな煩悩、心頭滅却すれば・・・・・・ああ、無理、むりっ!?)

(うわ、どうしよう、シャツまで透けて・・・・・・うわぁお・・・・・・え、今日アタシ死ぬの!?)

黄金世代の面々は、全く話を聞いていなかった。

もう、ガン見である。

元の性別だったら、某カボチャテロリストのごとく「いきり立って」いたかもしれない。

でも、この世界では女の子だから心配はないのだ。

 

―――――――(学園某所にて)――――――――

 

「・・・・・・」

「おう、何してんだゴルシ?」

「・・・・・・まじかー、ゴルシちゃん眼福かも」

「いや、どうしたんだホント?」

「フェス、ちょっと双眼鏡で覗いてみ?」

「どれ・・・・・・例の黄金世代?」

「トレーナー見てみな」

「・・・・・・!?」

「でもさ、これ、ゴルシちゃんの知識だと犯罪じゃないの?」

「確かに・・・・・・セクハラとかそこらへんで訴えられたらまず負けるな」

「・・・・・・なあ、フェス」

「嫌な予感がするが、ひりつく予感もする・・・・・・聞くぞ」

「ここに8倍レンズ装着型高性能デジカメがあります」

「撮影して学園の裏ルートに流す、ルート構築は任せろ」

「OK、そう言ってくれると思ってたぜーい!!」

 

葦毛の浮沈艦と宝塚の勝負師が極秘裏に撮影したこの「スケスケトレーナー写真」は、

学園の裏ルートでとんでもない高値で売れたという。

以下、購買者より。

(購買者の安全のため本名は隠させていただきます)

 

女帝『・・・・・・このたわけ、と言いたいが、その、いいんじゃないか?・・・・・・あ、これも頼む』

閃光乙女『うわぁ、これ、いいかも、でも、お兄ちゃんこんな、こんな、うぅ』

緋色一番『な、なななななな、バカバカバカ、ヘンタイッ!!』(手には写真1ダース)

どぼめじろう『いい資料ね・・・・・・新刊はこれで決まり、え、リクエスト? 高いわよ?』

火酒『・・・・・・おふっ』(鼻血を出して倒れた、顔は赤い)

天才幼女『うわぁ、これが男の人の体・・・・・・はぅ』(一番アングルのいい写真を手に)

菱密林『タイマンの張り合いがあるじゃあないか・・・・・・』(目を血走らせてガン見)

 

こんな事態が以下多数。

男に飢えたウマ娘達に、とんでもない燃料を投下してしまった。

重版を重ねた結果、4回の重版すべてが完売し、中央トレセンの生徒で彼の写真を持たないものはほぼいない、と言われるほど売れた。

なお、この際に動いた金額は、都心一等地に5階建てのビルが建つほどだったとか。

 

 

―――――――(グラウンド)―――――

 

「――――――ですので、皆さんにはジュニア級に参戦するときまでは、少々心苦しいでしょうが

基礎練習の反復を延々とこなしていただきます、よろしいですね?」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

「あの、皆さん聞いておられますか?」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

「どうしよう」

 

説明を終えたトレーナーが、黄金新星の面々に確認を取ったのだが、

彼女たちはぜんぜん応えない。

トレーナーはどうしたものか、と頭をかいた。

自分の説明が悪かったのか、彼女たちに隠す素振りが悪かったのか、

彼はまた思考が変な方向へ脱線し始めてしまう。

そんな彼女たちの心境は、彼の思うものとはかけ離れたものであった。

 

((((((鋼の意思、鋼のいし、はがねのいし・・・・・・))))))

 

もはやお経のように、心の中で「鋼の意思」を連呼していた。

男性トレーナーへの接し方、という眉唾物(少なくとも今までは)マニュアルの中に、

もし襲い掛かりそうになったら「鋼の意思」を連呼してやり過ごすように、

と書いてあったのだ。(著者:きりゅーいん)

 

「えっと、皆さん、私の話は理解できたでしょうか?」

「はいっ、にほんいちになるためによろしくおねがいします!」

「まあ、ゆるりゆるりとやっていきましょ~」

「ふふん、このきんぐにかかればどんなれーすもかったもどうぜんよ!」

「えるこそがさいきょうということを、とれーなーさんとしょうめいしまーす!」

「ふふふ、みなさんときそうこと、うえのかたたちときそうこと、いまからたのしみです」

「けがなく、けんこうに、そしてしょうりのいただきにはばたきます!」

「・・・・・・わかってくれたのならいいのですが?」

 

なんで、彼女たちは俺に背を向けつつやる気は満ちているのだろうか?

彼はそんなことを思った。

彼は知らない、実は彼女たちの鋼の意思作戦が、開始2秒で崩れそうになったのを。

彼は知らない、実は彼女達に押し倒されるかもしれなかったのを。

彼は知らない、彼から顔どころか体をそむけた6人全員が、自分の手の甲をつねり上げつつ、

押し倒したい衝動に耐えているのを。

彼は、何も知らないのだ。

 

なお、煩悩と戦い続けていた彼女たちも知らないことではあるが、

実はマジでヘッドショットされる5秒前だったりした。

SP曰く、もし一歩でも前に踏み出したら迷わずに撃っていたとのこと。

黄金新星の面々は、いろんな意味でぎりぎりの綱渡りをしていたのである。

 

「さて、それじゃあ練習の基礎に入りましょうか」

((((((腹筋が・・・・・・シックスパックが見えてる!?))))))

 

そして、冒頭に至る。

彼女たちは話なんて聞いていない。

ただ、彼の考えてくれたトレーニングメニューの基礎の基礎を淡々とこなした。

その際、彼の方をあまり向かないように努力していたのは、彼女たちだけの秘密だ。

煩悩を振り切るために、自制心を取り戻す為に、真剣に基礎の基礎に取り組んだ。

トレセン学園生徒たちの例にもれず、多少なりとも体に自信のあった6人だが、

彼のメニューは地味だが負荷のかかるものばかり。

夕日が地平に沈むころには、全員が汗だくでベンチにへたりこむことになったのである。

これは余談だが6人とも翌日筋肉痛で足があまり上がらなくなるが、ここでは関係ない。

 

―――――――――(学園某所)――――――――

 

「いやー、こんなに売れるとは思わなかったな~」

「まさかここまでとは・・・・・・ゴルシ、これどれくらい売り上げた?」

「データ・写真・抱き枕など、全部合わせても・・・・・・これくらい」

「・・・・・・おい、一般OP戦の賞金がほんの1時間で手に入ったんだが」

「・・・・・・もうちょいやるか」

「おう」

「あのね、君たち何やってるのさ?」

「あーら、寮長お怒りモード?」

「まてフジキセキ」

「遺言なら聞いてあげないこともないよ?」

「これを見ても、か?」

「・・・・・・何それ」

「トレーナーが甘やかしてくれるボイスの試作品」

「・・・・・・いくら?」

「見逃してくれるのなら、タダでいい」

「オーケー、私は何も見なかった」

「助かる」

「フェス、よく作ったなおい」

「ああ、あいつに『調子を上げるための激励を音声にとりたい』と正直に言ったら」

「言ったら?」

「張り切って収録してさ・・・・・・聞いてるこっちが恥ずかしいくらい熱はいってた」

「うわぁ・・・・・・ちなみにアタシも聞けるのか?」

「半日は上の空だが?」

「マジ?」

「マジ」

 

その後、フジキセキが完全にとろけた姿で発見される。

本人は何を聞いても「ふひひ」としか答えなかった。

なお、原因のボイスを聞いてしまった生徒会及び

ヒシアマゾン・マルゼンスキー・ミスターシービーもまた、

その日一日を「ふひひ」としか言えなかったという。

 

――――――――――――――(チームレグルスにて)――――――――

 

「おう、タキオン仕事の時間だぞ」

「はっはっはっはっは、シャカールくぅん、君は鬼か悪魔かい?」

「オレだって嫌なんだよ」

「じゃあいいじゃないかぁ、私は研究と実験に忙しい・・・・・・なんだいこれ?」

「アイツの担当のデータ、オレ達が作ったAIのバグじゃないのだと」

「ふーん、興味深いねぇ、彼に言ったら実験データ取らせてくれないかな?」

「そこも了承済みだ、共同練習の約束は取り付けてある」

「ふぅん、まあ、それならばやらないことはないかな」

「ちなみに、業務担当量はオレが3でお前が7な」

「ちょちょちょっと待ちまえ! 明らかに私の業務量が多いじゃないか!」

「ちなみに、あいつの使っていたタブレットを最後に使用したのは誰だ?」

「・・・・・・わたしだねぇ」

「ちなみに、あいつのタブレットに入っていたのはまだ開発中の『成長予想AI』だったんだが、なんで使われているんだろうな?」

「・・・・・・わたしがじっけんをしていたんだったねぇ」

「調べてみたが、あの成長率はロジックのバグだった・・・・・・適当にデータ打ち込んでも同じ結果が返って来やがった・・・・・・AIのロジックは誰担当だ?」

「・・・・・・あのAIのロジックたんとうはわたしだねぇ」

「オレも時間はあんまりねえが、手伝ってやるよ・・・・・・さすがに哀れだ」

「・・・・・・きょうりょくにかんしゃするよしゃかーるくぅん」

「ちなみに、3日後にまた測りなおしたいとさ・・・・・・さあ、デスマーチと行こうぜ」

「・・・・・・あははははは、はぁ」

「溜息つきたいのはこっちだバカ」

この3日後、成長予測AIに発生したバグを完全に治しきることに成功した2人。

しかし、シャカールは虚空を見つめながら数式を口ずさみ、タキオンはうめき声とも悲鳴ともつかない言葉を口から漏らし続けた。

 

なお、再度検査しなおしたところ、きちんとゲームと同じ適正に収まったという。

 

 

黄金新星の体力が50減少した。

黄金新星のスピードが15上がった

黄金新星のスタミナが15上がった

黄金新星のパワーが15上がった

黄金新星の根性が20上がった

黄金新星の賢さが10下がった

エアシャカールは「寝不足」になった。

アグネスタキオンは「寝不足」になった。

 




もう少し文章量を少なくすれば、早く投稿できるようになるとは思うのですが。

どうしても書きたいことが多すぎて、文字が多くなってしまう・・・・・・。

どうにかしなくては・・・・・・。

※2月18日微調整

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