本来は8話で登場するはずだった彼女たちは、
次の話に持ち越しになりました。
誤字脱字があるかもしれませんが、
楽しんでいただけましたら幸いです。
「ふぅぅぅぅぅ」
ここは、自宅である1LDKのアパートの一室。
業務用のノートパソコンの前で一息つく男性。
彼は、このトレセン学園の唯一と言っていい現役男性トレーナーである。
担当しているのは6名。
日本一の総大将こと「スペシャルウィーク」
怪物二世こと「グラスワンダー」
不屈の王者こと「キングヘイロー」
トリックスターこと「セイウンスカイ」
怪鳥こと「エルコンドルパサー」
大器晩成こと「ツルマルツヨシ」
二つ名と共に黄金世代と未来にて人々に並び称され記憶される豪華な面々である。
そのこと自体は、彼にとって問題ではない。
黄金世代として輝かせてやるという決心、恩師率いる面々と自分が率いる黄金世代とでターフの上で競い合いたいという野望は、今もマグマのように燃え滾っている。
だが、彼を悩ませているのはそこではない。
「む…………遅い時間になったな」
壁にかけてある時計は夜の12時を指している。
彼は学園からの帰宅後に夕食も取らずにPCに向かい合っていたため、今になって空腹を体が認識していた。
机の上にラップでくるんでおいたサンドウィッチを手に取ると、ラップを乱暴にむしり取りかぶりつく。
冷たくなってしまったコーヒーと一緒に流し込んで、どうにか体にエネルギーを供給した。
担当している彼女たち一人ひとりにあった練習メニューを考えていると、どうしても時間が足りなくなってしまう。
ゲーミングPCなどうっすらと埃が積もっているが、それを掃除する気にも彼はならなかった。
「はぁ…………時には逃げ出したくなる時もある、か」
開けっ放しだったカーテンから、空に輝く月を見上げながらふとつぶやく。
都市の電灯も消えるこの時間だからか、月以外にもきれいに星々が見えていた。
都心に近いこの物件で、これだけの星が見えるのは中々ない。
師匠である樫本チーフからの卒業試験の際、担当させてもらった2人のウマ娘のことをふと思い出した。
それぞれ悩んでいた2人に、真摯に向き合い、そして彼女たちの最後を見届けた。
一人は、脚部故障とそれに伴うトラウマに悩み走れなくなっていた。
一人は、生まれからくる重責を受け止めきることができずスランプになっていた。
2人にどう向き合うべきか悩んだ末に、レンタカーを借りて、遠くまでかっ飛ばして、3人で星々を見た。
熱いインスタントコーヒーを3人で飲みながら、1枚の毛布に3人で包まって。
静かな、確かな、大切な時間を共有した。
(その後…………2人とも吹っ切れたんだよな)
故障とトラウマを克服し、再度輝きを取り戻した彼女。
重責を受け止めたうえで逃げるという事を選んだ彼女。
吹っ切れた彼女たちはトゥインクルシリーズを納得のいく形で卒業し、片やシニア級へ、
片やドリームトロフィーリーグへと進むことができた。
ふと、自分のスマホを見てみる。
スマホの電話帳には、2人の電話番号が記載されていた。
(元気にしているだろうか)
トゥインクルシリーズとドリームトロフィーリーグは日程や時間が異なる為、トレセン学園で出会うことはまずない。
勿論、トゥインクルシリーズもジュニア級とシニア級では同様である。
そんな彼女たちに会いたいか、と聞かれると非常に困る。
彼自身、今の自分があの時の彼女たちのように負のスパイラルに陥っている自覚はある。
だが、あの星空を見た日のように、話を聞いてほしいかというと…………。
「はぁ…………いかん、感傷的になり過ぎた」
首を振り、頭に浮かんだことを振り払う。
スマホの電話帳を閉じ、充電器につなぐ。
PCの電源を落としたら、風呂場に行って湯を張った。
「こういう時は、さっさと眠ってしまおう」
服を脱ぎつつ、彼は一人でそう言った。
彼の陥っている負のスパイラルとは、即ち「トレーナーたるものウマ娘を導く存在でなくてはならない」というもの。
彼は、黄金世代の6人を一人前に導くトレーナー足らんとしている。
そのためのトレーニング内容を、彼の持ちうる全力で作り上げようとしている。
そして、それは連日のフル稼働を生み続けていた。
だが、その結果彼女たち6人を蔑ろにしてしまっていたのである。
もし、一対一のトレーナー業務であれば、お互いに膝を詰めて話し合うという事ができたかもしれない。
彼女たちの頑張りや苦悩と向き合い、自分と照らし合わせ、自分の反省に生かすとともに、彼女たちのトレーニングメニューに細かい微調整を加えるという事も出来たかもしれない。
それができていないこと自体、彼自身の根本にある「それでもうまくいく」という一種楽観的な(もしくは転生者特有の万能感)がいまだに抜けきっていないことの証左でもあった。
どんなに優れた身体能力を有していたとしても、頭脳を有していたとしても、彼は一人だけである。
彼自身の自覚がないが、6倍の業務量を処理できるほどの万能選手ではないのだ。
ここにきて、樫本が不安視していた彼のどこか楽観的な態度が彼の首を絞めつつあった。
だが、彼はそのことに気が付いていないのだった。
──────(翌日)──────―
彼は疲れの残るからだを動かしつつ、彼らの根城たるトレーナールームへと向かう。
そこは、今や資料室と見間違うほどに大量の資料に満ちていた。
沢山のデータや、それに関する論文まで存在し、小さな図書館といった風ですらある。
だがその反面、黄金新星の持ち物は少ない。
しかし、今の彼にはそれを気にするほどの余裕がなかった。
(彼女たちの夏のデビュー戦まで残り2か月…………)
壁にかけてあるカレンダーをにらみつける。
しかし、時間は無情にも過ぎ去り、止まってくれる気配はない。
手元にある黄金新星の育成状況を示すグラフ表をにらむ。
6人全員にスピードこそEの文字が見えるが、全体的にF+が並んでいる状況だ。
(これでは、彼女たちに申し訳がない…………)
新バ戦まで2カ月でこれでは、いったいどうすればここから成長させられるのか、彼自身わからない状態になっていた。
勿論、この状態でも勝つ見込みは十分にあるだろう。
しかし、現実とゲームではことなり、レースに絶対というものは一部例外を除いて存在しないのが実情。
更に、彼を悩ませている心配の種はまだある。
(新バ戦で同じ組にならないだろうか…………)
6人全員がデビュー前である為、抽選で同じ組になる可能性が十二分に存在する。
仮にスペシャルウィークとツルマルツヨシが同じ日に、同じレースでデビューを飾るとして、勝つのは一人だけである以上敗北も存在する。
となると、別メニューを考えて次回の新バ戦に備えなければならない。
それだけでなく、負けた方の心理的なケアも必要となるだろう。
(やることが多すぎる、オーバータスクになってしまうのではないか?)
それだけではなく、6人を送迎するためのレンタカーの手配に宿の手配に、何から何まで手が足りない。
マンパワーが足りていない、経験が足りていない、順序が悪すぎる。
彼は自分を責め、そして、どんどんと視野狭窄に陥っていく。
だが、それを指摘する人は誰もいない、誰もいないのだ。
もし、樫本がいれば彼の頭をひっぱたいてお説教をするかもしれない。
もし、エアシャカール達レグルスの面々がいれば理攻め感情攻め双方で、無理やり休ませるかもしれない。
だが、今ここにいるのは『新人トレーナーとデビュー前のウマ娘6人』なのだ。
双方がお互いに距離感を分かっていない上、どこまで踏み込んでいいのかわからない。
だが、黄金新星の最大の懸念事項はそこではなかった。
(何よりも…………同世代に目標とするウマ娘がいないというのが問題だ)
目標、この場合はライバルというべき存在の不在である。
これは、彼自身が失念していたことではあった。
彼女たち黄金新星の過ちでもあった。
勝負の世界において、ライバルの存在は同時に自分自身を高めるための成長剤として作用する。
だが、成長剤として使用するには彼女たち黄金新星の距離は“近すぎる”のである。
たとえ話として黄金新星という輪の中で、誰か欠けていると仮定しよう。
もしスペシャルウィークが欠けていたとしたら。
彼女の夢である「日本一のダービーウマ娘」という目標にひた走る彼女は、残りの5人にとっていいカンフル剤として作用しただろう。
もしグラスワンダーが欠けていたとしたら。
彼女のストイックな練習に対する態度やレースに臨む姿勢は、残りの彼女たちの目標として良い効果をもたらしただろう。
もしキングヘイローが欠けていたとしたら。
彼女の泥臭いまでの努力、それを表に出さない精神性、王者足らんとする行動は、彼女たちの心身に大きな目標として刻まれるだろう。
もしセイウンスカイが欠けていたとしたら。
表に出さないその姿勢、レースに対する静かな情熱、勝利を求める飽くなき探求は、彼女たちの闘争心を大きく刺激し、目標となっただろう。
もしエルコンドルパサーが欠けていたとしたら。
最強を目指す彼女の熱は、同世代の彼女たちに必ず伝播して、彼女たちのレースへの姿勢に大きな影響を与えただろう。
もしツルマルツヨシが欠けていたとしたら。
病気がちでありながらも、勝利へ向かい前進する彼女の姿勢は、残りの彼女たちにレースへの向き合い方等の精神面で大きな成長をもたらす存在になっただろう。
だが、彼女たちは揃ってしまった、
揃ってしまったのだ。
彼女たちは、仲間であり友人になってしまった。
距離は近く、何やら共通の目的でがっちりと硬い友情をはぐくんでいる。
そのような要素が揃ってしまった以上、そこで「輪」が閉じてしまう。
それ以上外へ出てゆかない。
何せ、彼女たちの必要とするすべてがその輪の中にあるのだから。
そのことに気が付いたとき、彼は絶望した。
彼は、自分の目標を達成しようとして、逆に彼女たちの成長を妨害したのだと、自分の愚行をそう理解した。
その日から、彼は彼女たちのトレーニングメニューをすべて考えるようになった。
あえて競わせるようなトレーニングメニューを組んだり、模擬レースの量を増やして本番の空気感を演出しようとしたりと工夫を凝らした。
練習中はなれ合いにならないように、細心の注意を払いつつメニューを組み続けた。
その結果、輪の中で競争がある程度発生し、彼女たちの能力は伸びつつある。
しかし、その伸び率は微々たるものだ。
(そうか、ゲームではカードがあるもんなぁ)
疲れた頭で、彼はぼんやりと考えた。
そう、ゲームではサポートカードが能力上昇の助けとなってくれた。
だが、現実ではそうはいかない。
そんな便利な機能がない為、個々の能力の伸び率が非常に微々たるものになり、それが彼の焦りの原因になっていたのである。
(このままでは、彼女たち全員のデビューが…………危ぶまれる事態になる?)
資料をあさっていた手が止まり、彼の全身がガタガタと震えだす。
自分が不名誉をこうむるのはいい、そんなことは些細なことだ。
しかし、自分の担当しているウマ娘達がもし、デビューできずに失格などとなったら?
その可能性に思い至った彼は、とうとうそこで思考が停止してしまった。
────―(学園某所)────―
学園某所の一室。
ここにあるのは、今年デビューすることになっている新人トレーナーや、新入ウマ娘を手掛ける中堅トレーナーが情報交換等をする通称『談話室』と呼ばれるところ。
喫煙スペースや給茶機などが用意されており、トレーナー達の憩いの場兼情報交換の場として機能していた。
「はぁ…………」
しかし、場の空気は重く、一人が吸っている煙草の煙も心なしかしけったように漂っている。
「なあ、あの噂聞いた?」
「あの噂、ってどの噂ですかぁ?」
「しらばっくれんな、我らが《王子》の噂さ」
「ああ、うん、もう耳にタコができるぐらい聞いたぁ~」
「なんというか、私、自信を無くしそう…………」
「わかるー、なんというか別物よねぇ」
女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、そこに集っていたトレーナー達は話に花を咲かせ始める。
だが、声のトーンはどことなく疲れたモノであり、体中から哀愁が漂っていた。
皆、重賞を勝利したウマ娘をチームに有する中堅トレーナー達だ。
本来ならば、今年入ってきた新入生の新バ戦に向けての情報交換やら何やらが行われるはずだった。
しかし、ここ一週間に限り、そのような事はほぼないといっていい。
それは、彼女たちが話題に挙げた《王子》こと、トレーナーに関することが原因だ。
勿論、初めは『女皇帝』と称された樫本理子が弟子を、それも男の弟子を取ったという事への少し下卑た噂話だった。
しかし、彼がいつしかOP戦を勝利し、G3を勝利した時に変わっていき、その声のトーンに下卑た色は薄れていった。
彼が実績を積むたびに新人は顔色を失くし、中堅はうすら寒いものを感じていた。
「まさか、こんなことがあるとはねぇ」
「いや、その、やばいですよね彼」
「まさか、ドベの娘達をここまで育てあげられるとか…………」
そして、彼が樫本の下から独立し、新しいチームを立ち上げたとき、多くのトレーナー達は共通の認識を持った。
即ち『樫本の所からエース級を引き抜いて独立するのではないだろうか』と。
彼の人心掌握術とでもいうべきコミュニケーション能力から、チームレグルスの中核メンバーと仲がいいのは理解していた。
そして、そこには一種の確信があったのも事実だった。
それは『樫本が卒業記念として中核メンバーから何名か彼の下へつける』という噂がまことしやかに囁かれていたからだ。
「エアシャカールとファインモーションがものすごい機嫌よかったの見ましたよ」
「エイシンフラッシュなんか目が血走ってたぞ、マジで」
「スマートファルコンとサクラバクシンオーがすごいノリノリだったもんねえ」
中堅どころの彼女たちですら、上記メンバーを引き抜いて独立しようとしていると考えていたのだ。
しかし、ふたを開けてみれば彼が選んだのは選抜レースのブービーズと陰口をたたかれていた面々だった。
会場の熱気に飲まれてしまった、哀れな新入生に手を差し伸べるのか、と全員がそう考え、一部のものは肩の荷が下りた気分だった。
(所詮男のトレーナーといえど、樫本の弟子と言えど、こんなものか)
そう思ったトレーナー達は、大変多かったのだ。
しかし、その認識が間違っていたのは彼女たちの手元のタブレットが証明していた。
・スペシャルウィーク
スピード E (240)
スタミナ F+(190)
パワー F+(195)
メンタル F+(180)
インテリジェント F+(185)
彼女たちがブービーと思っていた少女たちは、自分たちが育てているウマ娘よりも能力すべてが勝っているのだ。
これは新バ戦で得られるデビュー枠のうち、6枠がほぼ埋まったようなものだ。
新バ戦は華のクラシック戦線やジュニア級後期と異なり、純粋な身体能力のみで競われるため、身体のステータスが純粋な強さに直結する。
即ち、新バ戦で純粋なステータスの暴力を、自分の愛バ達がぶつけられることになるのだ。
それは、愛バ達の心が折れる可能性が高まるという事でもある。
トレセン学園を辞めていく生徒の内、凡そ半数がこのデビュー戦が原因なのである。
「うちの子、スピードがFにようやくなったって喜んでいたよ…………」
「貴女はまだいいわよ、うちの所は、まだ伸び悩んでるの…………」
「スピードEは、シンボリルドルフとかが叩き出していたわねぇ…………」
「「「…………はぁ」」」
中堅トレーナー達は、打つ手がないとがっくり肩を落とした。
彼の育成は間違ってはいない、ただ、ゲーム基準でものを考えてしまう弊害が起きているだけなのである。
────―(トレーナー)────―
「ちょっとトレーナー、大丈夫?」
「え、あ、すまないキング…………何分ぐらい寝ていたのかな?」
「別に、5分くらいじゃないかしら?」
「そ、そうか…………」
なんてことだろうか、居眠りなんてらしくない。
頭を振り、眠気を追い出す。
その際に、デスクの上にあった資料がバサバサと音を立てて床に落ちたが、まあいい。
見れば、心配そうな顔をしてこちらをのぞき込むキングの後ろには、スカイもいる。
「ん~、寝不足ですか~、トレーナーさん、寝不足は体に毒だよ~?」
いつものどこか間延びした声で、しかし、こちらを気遣ってくれるスカイ。
キングも心配そうだ。
これではいけない、彼女たちに心配をかけるのは、トレーナーらしくない。
「そ、それでどうしたんだい…………今日のトレーニングまでは時間があると思うけど」
時計を目にしながら、取り繕う。
まだ午前中の時間であり、今彼女たちは休み時間だと思う。
まったく情けない事だ。
だが、彼女たちがこうして来てくれている以上、何かあったのだろう。
「ええ、その、これを渡してほしいと頼まれたのよ」
「樫本トレーナーから、トレーナーさんへって」
「先生から?」
スカイがA4サイズのクリアファイルを渡してくる。
そこには、樫本先生から合同練習の誘いが書いてあった。
ありがたいことだ、と思う。
渡りに船とはこのことかもしれない。
彼女たちの実力を、もっと伸ばすためにも刺激が必要だ。
それも、G1級の刺激が。
「ありがとう…………キング、スカイ、この書類は俺の方で預かるよ」
「え、ええ…………それじゃあ、休み時間も終わりそうだから私たちはこれで」
「うん、その、トレーナーさん、無理はしないでね?」
「ははは、こんなもの無理なうちに入らないさ」
「「…………」」
そう、無理なうちには入らない。
俺の使命は、この子たちを本当の黄金世代にすること。
そのためならば、俺がどうなろうと知ったことではない。
────―(黄金世代・キングヘイロー)────―
無理をしている、と思うわ。
だって、彼は私たちがここに来た時には、眠りについていたんだもの。
それも、書類を持ってそのままの体勢で。
見事な物と思ったけれど、時間を見て驚いたわ。
少なくとも、丸まる1時間はその、寝ていたんだもの。
「キング、トレーナーさんすごく疲れた顔してたね」
「ええ、本当に…………あのへっぽこトレーナー」
スカイさんの言葉に同意する。
彼が疲れている、というのは何となくメンバー全員が感じていたことではあるの。
でも、言い出せなかったわ。
彼は、私たちの為に文字通り身を粉にして働いている。
そんな彼に、これ以上はやめなさい、なんて言えるはずもない。
現に、私たちのステータス(あのAIによる数値化の事よ)は
なのに、彼はそこで満足していないの。
油断せず、妥協せず、高みを目指す。
私の理想と同じことをしている。
でも。
(こんなにも心配をかけるような事を、私は目標にしていたのかしら?)
何か違うような気がするの。
考えても、それらしい答えが出てこないけど、直感が違うと告げている。
(でも、何を私たちに求めているのかしら)
考えても出てこない、思いつかない、情報が足りない。
(そういえば、私…………)
「ねえ、キング?」
「…………え、ええ、何かしら?」
「トレーナーさんはさあ」
少しいい淀むスカイさん。
本気で悩んでいたのは、彼女も同じだったのね。
そして、彼女が抱いている疑問は、もしかしたら私と同じものかもしれない。
つばを飲み込み、彼女の次の言葉を促す。
意を決したように、スカイさんは口を開いた。
「私たちの事、愛称呼びにしていたよね?」
「へっ?」
そういえば、と思う。
彼は私たちをきちんとフルネームで呼ぶ。
癖みたいなもの、と本人は言っていたけれど。
(そういえば、さっき私たちの事を愛称で呼んだわ…………)
というか、初めてじゃないかしら、彼がウマ娘を愛称呼びするのは。
「「おっふ」」
見れば私と同じようなリアクションをしているスカイさん。
ちょっと頬が赤い、私も多分同じ。
「おーい、キング、スカイ、こっちデース!」
私たちに気が付いたエルさん達が手を振っている。
取りあえず、さっき愛称で呼ばれたことは秘密ね、とアイコンタクト。
OK、とアイコンタクトで返すスカイさん。
こういうことに関しては、割と口が堅いのよ彼女。
そして、待ち合わせていたみんなと合流した。
その時、私の脳裏に電撃のようにひらめいたことがあった。
「私達、トレーナーのことを全く知らないじゃない」
「「「「「?」」」」」
ああ、なんてことだ。
自分たちの都合を優先した結果、私たちは全員、彼という一人の人間を理解することを忘れていた。
自分たちのトレーナーということに胡坐をかいて、彼の人物像が全然解っていなかった。
(引っかかっていたのは、恐らくこれよね)
さあ、どうしようかしら。
取りあえず、まずはこの気心知れた友人たちに、このことを打ち明けるとしようかしら。
各種機能を使用してみました。
過去の話を見返してみると、見にくいような気がしていましたので、
今回の使用に変更しました。
個人的にはこちらの方が読みやすいため、
過去の話もこの方式に変更しようかなと思っております。
誤字・脱字・感想についてお待ちしております。