ブライアおばさん   作:ちゅーに菌

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まふぃあ

 

 

 

 

 

 ロイド・フォージャー――改めコードネーム黄昏(たそがれ)はスパイである。

 

 彼はこの東国(オスタニア)で日夜諜報を行っており、東西平和のために東国を見張る西国の諜報機関WISE(ワイズ)が誇る伝説のスパイであった。

 

 現在、"オペレーション〈梟〉(ストリクス)"という作戦が行われており、東西平和を脅かす東国の強硬派の国家統一党総裁ドノバン・デズモンドに接触するため、偽装家族を作って彼の次男ダミアンが通うイーデン校に養子を通わせる任務を遂行している。

 

 そのために孤児院からアーニャを娘として引き取り、同じく仕事の為に相手が必要だったヨル・ブライアと偽装結婚し、父・母・娘の疑似家族のフォージャー家が生まれ、ひとつ屋根の下で暮らしていた。

 

 そんなフォージャー家は現在、娘のアーニャの補欠合格者としての合格した後の入学までの虚無期間であり、珍しくやることの無い時期であった。尤も通うためにアーニャに勉学を予習させてはいるが、それはそれであろう。

 

「ふぅ……」

 

 そんな黄昏は現在、自宅のリビングのソファーに座り、たっぷりとミルクを入れたコーヒーを飲んでいた。本来はブラック派な彼らしからぬ様子だ。

 

(胃が痛い……なんだこの無駄な不安と緊張感は……)

 

 そして、下手に地味に長いイーデン校入学までの期間があるせいで、アーニャが入学してからしたりさせてはいけなかったりさせたりしなければならないことを次々と考えてしまい、黄昏は胃から込み上げるものをひしひしと感じている。

 

 それを紛らわすように黄昏は、オペレーション〈梟〉と同時に行っている長期任務――オペレーション〈玉藻〉(タマモ)について思案し始めた。

 

(相手はロンメルファミリーか……)

 

 ロンメルファミリーと言えば、この東国で最大のマフィアであり、それと同時にスタンスとしては穏健派に分類される特異なマフィアである。

 

 東国でのマフィアについては、その成り立ちから遡る必要があるだろう。

 

 そもそもマフィアとは単に一定の地域を起源とする組織犯罪集団を指すが、この東国(オスタニア)においてのマフィアとは、成り立ちから他国のそれとは一線を画する。

 

 まず、戦前に他国から入って来たマフィアらは、戦争の時代に国外へ逃亡したり、兵士として戦った事で一旦そのほとんどが潰えた。

 

 そして、戦後の黎明期には国としての機能が全く無い無法地帯と化した事で、幾つもの国民の小集団が生きるための自警団を作り、それらの中の過激派がそのまま組織犯罪集団へとなるか、群れるゴロツキなどが犯罪集団として、他でもない国民からマフィアと呼ばれたのだ。

 

 つまり、東国のマフィアのほとんどは長くとも二十年程度で非常に真新しく、組織犯罪集団の代名詞としてのマフィアでしかない。

 

 それに引き換えロンメルファミリーは、戦時中にも国内に留まり、戦争で戦った数少ない純粋なマフィアの生き残りであるため、そう言った意味でも他のマフィアとは毛色が違う。

 

 それ故に麻薬や売春の一切を禁じている最大の理由は純粋な東国への愛国心からであろう。戦後の抗争の大部分もそうした礼儀知らずや、恥知らずな愛国心の無い組織犯罪集団に向けられていた。

 

 実際、現在のロンメルファミリーのトップであるギュンター・ロンメルは、戦争によって自身の妻と息子夫婦、更には当時の構成員の85%以上をも失っている。そのため、血筋としてのロンメルはギュンター本人と息子夫婦の遺児たったひとりのみである。

 

 そのせいか、ロンメルファミリーは東国政府の強硬的に近いスタンスから表立って発信することはないにしろ、戦争には消極的な姿勢を示しており、密輸・密造に関しても酒が主流で、武器などを国内向けに流通させてはいない。

 

 故に和平に舵を取っている西国及びその諜報機関(WISE)としては、ロンメルファミリーの幹部と接触し、その動向を探りたい。また、あわよくば和平のための協力関係を結ぶ事や、WISEの活動をし易くするような関係性を築く事も視野に入れていた。

 

(こっちの方が受験よりよほど気楽そうだ……)

 

 冗談ではなく、黄昏はかなり本気でそう思っていた。あわや核戦争の1秒前で停止ボタンを押した時より、他人に結果を委ねる方が緊張すると考えている男は伊達ではない。

 

(とりあえず、当面の目標は"ロンメルの狐"の情報を掴むことか……)

 

 そこでオペレーション〈玉藻〉の最大の障害として立ち塞がるのがロンメルの狐という存在である。

 

 ロンメルの狐――。

 

 東国の裏社会では基本的に眉唾物の伝説やロンメルファミリーの全盛期の過激さそのものの暗喩として知れ渡っているが、WISEはそれが記録に則り実在することを既に掴んでいる。

 

 それは戦後の東国の復興と発展の影で熾烈を極めたマフィア同士の抗争において、ロンメルファミリーが投入した凡そ人間だと思われる個人の事だ。

 

 抗争時代の僅か十数年程の間で、数多のマフィアやアングラ組織を壊滅させ、その過程で数千を超える構成員をほぼ皆殺しにしたという真性の怪物である。言うまでもなく、戦争で構成員の大部分を失ったロンメルファミリーを今の地位まで破竹の勢いで押し上げた立役者でもある。

 

 しかし、ロンメルの狐は意図的に正体を隠している事や、対峙した生存者が余りにも少ないため、その正体は女性であるという点と、ロンメルファミリーにおいてNo.3の地位であるという事しか判明していない。

 

 にも関わらず、ロンメルファミリーの力の象徴として紛れもなく東国では、それが居るためだけに一目を置かれている節はあるため、仮にWISE(ワイズ)にそれを向けられでもしたら幾つもの作戦に多大な支障をきたす可能性すらある極めてハイリスク・ハイリターンな作戦だ。

 

 ちなみにオペレーション〈玉藻〉(タマモ)と名付けたのは、WISEで黄昏の上司に当たる管理官であり、東洋の怪物からその名を取ったらしい。そのため、管理官が黄昏に最大で求めている事がわかるであろう。まさに怪物の力を借りようとするには打ってつけの名と言える。

 

「いまかえった」

 

「ただいま戻りました」

 

 すると玄関扉が開く音と共に公園へ遊びに行っていたヨルとアーニャが戻って来た事で、記憶の整理を止めた黄昏はそちらに顔を向け――。

 

「ああ、お帰り――」

 

「ここが姉さんのハウスね」

 

 玄関の前に立っているヨルと瓜二つの姿の女を目にし、途中で黄昏の思考が止まる。

 

 彼女が着ている服は、ロンメルファミリーが経営している料理店ヴュスタ・ガーデンの制服で、場所はバーリント北区呉服町通り92。仕事はヴュスタ・ガーデン副料理長。掛けている眼鏡は度が入っていないお洒落用。趣味は読書と孤児院通い。

 

 多少の驚きにより、黄昏の中の彼女についてのWISEが知りうる個人情報が溢れ出したが、直ぐにそれらも念頭に置いて思案する。

 

(サヨ・ブライア……! まずいぞ……。いまの時点でロンメルファミリーとの接触は時期尚早だ)

 

 それはヨル・フォージャーの実妹のサヨ・ブライアであった。そして、サヨはロンメルファミリーの構成員として名を連ねており、オペレーション〈玉藻〉の取り掛かりとしては申し分ない相手であった。

 

 尤もロンメルファミリー側もそれなりに秘匿をしているため、WISEでもサヨがどの程度の地位にいるのかまではわかっていない。しかし、ヴュスタ・ガーデンはロンメルファミリーの直営店のためそこで副料理長を勤めているマフィアとなれば、末端構成員という事は無いであろう。

 

 ちなみに黄昏がヨルを妻にした理由は完全に偶々であり、ヨルがサヨの姉であったと言うことを知ったのは、偽装結婚してからで巡り合わせとはあるものだと彼はひしひしと感じる。

 

 そのため、ある意味棚から牡丹餅であったが、流石にオペレーション〈梟〉と同時進行するには些かカロリー過多のため、極力後に回しつつ、偽装結婚を送り続けるためにサヨへどのような対策を講じるかをヨルと打合せしつつ決めている最中だったのだ。

 

「はい、姉さんこれ。生菓子だから早めに食べてね?」

 

「あっ、ご丁寧にどうも。その為だけにわざわざ途中でお菓子をお買いにならなくてもよかったですのに……」

 

「ダメダメ、こう言うところはキッチリしないと。お邪魔しまーす」

 

 手土産をヨルに渡したサヨはフォージャー家の敷居を跨ぐ。その足取りは軽やかで、ヨルと雑談しつつ廊下を歩いて来る。

 

 寝耳に水、藪からスネーク、スパイ歩けば課題に当たる――黄昏の中で東洋の諺のようなそうでもないような言葉が駆け巡り、ひとまず彼はこの場を乗り切るために全力を注ぐ。

 

「ちち、ただいま」

 

「ああ、お帰り」

 

 それを知るよしもないアーニャは帰ったらまず黄昏に挨拶をする。

 

 それからアーニャはリビングの中心に立ち、サヨに向けて両手を掲げて広げると、花が咲くような笑みを浮かべた。

 

「おば、アーニャんちへいらしゃいませっ!」

 

「うっ……」

 

(かっ、かわっ、かわわギャァーーっ! ぎゃんかわ! 可愛すぎかぁーーっ!?)

 

 それを見たサヨは、何故か自身の胸を押さえながら歯を食い縛って破顔する。女性がしてはいけない一歩手前程度の顔をしており、何も知らない人間が見れば心臓発作にでも襲われたかのように見えるだろう。

 

「ええと……大丈夫ですか?」

 

「えへへ、サヨちゃんは本当に小さな子供さんが大好きなんです。たまに感極まっちゃうんですって」

 

(子供好き……? これが……?)

 

 "私もアーニャさんが可愛らしいのはわかります"とヨルは続けるが、目の前の存在は可愛らしい等の次元よりかなりアウトに黄昏は感じた。

 

 色々と考えていた黄昏も流石に心配になり声を掛けたが、どうやらこれがサヨ・ブライアという人間の平常運転らしい。実の姉が言うので恐らく間違いはないであろう。

 

「――んんっ……! ヒッ、フヒッ! イケないわアーニャたゃ……なんて可愛いの……!」

 

「おばもれてる」

 

「サヨちゃんスッゴく子供の面倒見がいいんですよ。小さい頃から教会の炊き出しに参加したりしてました」

 

「大好き……? ははは、そうみたいですね」

 

(……………………小児性愛者……?)

 

 ちなみに現在、黄昏は精神科医ロイド・フォージャーとして働いたりもする。病院が来た。

 

(どうしようどうしたらいいの。落ち着くのよ私。ああ、今の挨拶思い出すだけで可愛くて死ぬ、死んじゃう。謝って!)

 

「おばきもい」

 

「うっ――」

 

 サヨは一言だけ発すると、そのまま床に叩きつけられるように倒れた。

 

 リビングのフローリングに倒れ込み、ピクピクと僅かに蠢くばかりで完全にノックアウトされているサヨは、正直関わりたくない人種である。

 

「サヨちゃんどうしましたか!? ロイドさん、サヨちゃんが倒れちゃいました!?」

 

「ははは……」

 

(これは……(ヨルさん)とは違う方面に突き抜けているな……)

 

(可愛さ密室殺人事件よ……)

 

 外出先などで少し常人と変わっているヨルの様子も思い出しつつ、ブライア家は色々な意味で大丈夫なのかと黄昏は思い始めつつも彼は次の事を考える。

 

(まず、情報収集だ。いったいどうしてこんな事になっている……? ヨルさんは何をどこまで話した? ここにまで来た理由は?)

 

「うぃ、おばとあいすかった。さんだんおいしかった。はは? おばのことはなす?」

 

「あっ、そうでしたっ! 本当に勝手なのですが、サヨには本当の事を話しておいた方が良いと思いまして……」

 

「なるほど……」

 

 どうやらサヨ・ブライアという人間は、ヨルにとってそれだけ信用の置ける存在らしい。今の様子からは想像も出来そうにない点が大問題である。

 

「この昼行灯姉貴様が、私にお口を滑らせ掛けてございましてよ?」

 

 すると何事もなかったかのように床から立ち上がったサヨは、ヨルの背後に回るとその口を左右から指で引っ張って見せた。

 

はよ(サヨ)ひっぱらにゃいれくらはい(引っ張らないで下さい)

 

 それからサヨは二人と公園で会ってから今までの経緯を簡潔に話す。

 

 まとめるとヨルがサヨに結婚したことを普通に話してしまい、サヨはそれをその場で問い質さず黙殺しようとしたが、ヨルが彼女へはキチンと話しておいた方がいいと連れて来たらしい。

 

「まあ、そんなわけでふたりの関係についてまだ聞いてないんだけど、姉さんの方から私には話したいって言ってきたから今日来た訳ね」

 

(ヨルさん……)

 

 "全くもう……昔から嘘が下手なんだから"と言いつつサヨは口から手を離す。

 

 黄昏は改めて素人の他人の価値判断に任せることの難しさを噛み締める。他者を使うことはすれど、頼ることはして来なかった彼にとっては尚のこと難解なのであろう。

 

「もちろん、家長のあなたがダメだって言うのなら私は何も聞かなかった事にして帰るわ。親しき仲にも礼儀あり。誰にだって触れられたくない秘密のひとつやふたつあるものでしょう?」

 

「なるほど、そうでしたか」

 

(これは多少やりにくい相手だな……)

 

 黄昏の経験上、嘘が通じないタイプ、もしくは嘘が知れた時に何を仕出かすかわからないタイプである。総じて腹を割って話す等の行為を好み、後々の事を考えなければならない相手だ。

 

 そして、初対面の印象はアレであるが、このサヨ・ブライアという人間の義理堅さをヨルが評価しているということは理解した。元々、古いマフィアは人情や義理を重んじる傾向があるため、彼女もそれに近いらしい。

 

(黄昏と、いばら姫となんて名前だけでキラッキラね。今にいつか黒歴史になるわ)

 

(おばもこーどねーむある?)

 

「安心して、ハードディスクのデータは墓場まで持って行ったわ」

 

「ははは、それはよいですね」

 

 ハードディスクなるものはまだこの世に存在しないため、その言葉の真意は理解できない黄昏だが、自信ありげなサムズアップしているサヨにそれとなく話を合わせておいた。

 

(仕方ない……)

 

 本当はフォージャー家が偽装家族だという事について話す相手は最小限に留めて置きたいところだが、こうなっては話さない方が不徳である。また、ヨルとの仲の良さからも今後深い関係になる事が予想されるため、関係性を悪くするわけにはいかないであろう。

 

 そのため、黄昏は自ら口を開き、イーデン校の面接官に伝えたようなやや脚色した内容でヨルと取り決めた結婚について話した。

 

「――ふーん、まあそうよね。月に2~3度は会っていたのに、突然1年前に結婚してたは流石にちょっと無茶苦茶よねぇ……」

 

(というか、弟がいるのに一年前を結婚日にしちゃう時点でめっちゃ危ないわよね。普通の人だったらどうやって言いくるめるつもりだったのかしら?)

 

 そして、それを静かに聞き終えたサヨは第一声でそう言う。

 

 サヨにとてつもない正論を吐かれるのは残念だが当然だと思う黄昏。パーティーでああ言ってしまった手前からの設定であるが、早まってしまったと言わざるをえない。

 

 とは言え、そもそも黄昏の失言から始まった事のため、弁明するわけにもいかないだろう。

 

「おば、ぷりんうまい」

 

「お口に合った?」

 

「うむ、ほめてつかわす」

 

「ははー……!」

 

 ちなみに話すために互いにソファーに座っており、サヨの膝の上にはちょこんと我が物顔で腰掛け、その場で手土産のカスタードプリンを食べていた。

 

 明らかにサヨは少々常人から逸脱した性格をしているにも関わらず、アーニャのフォージャー家最速のなつきっぷりに黄昏は益々子供の事が分からなくなる。

 

 少なくともサヨの子供の扱い方の上手さは、黄昏より遥か上であるが、不思議と全く羨望も感心も抱けない黄昏であった。

 

「姉さん、そんなのユーリしか信じないわよ?」

 

「わよ?」

 

「ふぇぇ、すいません……」

 

 どうやらサヨ曰く彼女らの弟であるユーリ・ブライアは信じるらしい。流石にその言葉を黄昏は何かの冗談だと捉えた。

 

「まあ、どうあれ姉さんが家庭をもつ気になって私は安心したわ。ユーリに言い訳するときには私も口添えしとくわね?」

 

「くちぞえ」

 

 そう言うとサヨは膝の上のアーニャの頭を軽くポンポンと触れてからゆっくりと撫で、アーニャは猫のように目を細めて気持ち良さげな様子である。

 

「ねぇ、アーニャちゃん。この家族は好き?」

 

「うんっ! ちちははだいすき!」

 

「それならイイわねぇ……」

 

(あふぅぅ♡ んがわぃぃ♡ しゅきいいいいっ♡)

 

(はーといっぱい)

 

 サヨはそれ以上の追及はせず、膝にいるアーニャにヨルと似た優しげな表情を送るばかりだ。

 

 余りにも何も求めず、受け止めるばかりの姿勢に黄昏はサヨの腹の底を見兼ねていた。

 

「何も言わないんですね」

 

「子供が幸せな家族なら何だっていいわよ。それ以外に何もいらないわ」

 

 その言葉に黄昏は少し目を見開く。

 

 "子どもが泣かない世界"を作るという余りに漠然とした目的でスパイになった彼と、サヨの姿勢は何処か似通っているのかもしれない。

 

「それに家族(ファミリー)に本物も偽物も無いわ。家族だって思えば誰だって家族。血ではなくて絆で繋がっているのよ」

 

 "そもそも結婚だって他人と他人が(くな)ぐものだしね"とサヨは続ける。それはマフィアとしての言葉か、人間としての言葉かなのかを推し量るにはまだ判断材料が足りない。

 

「何はともあれ結婚おめでとう、姉さん」

 

「あっ、ああ……ありがとうございます……サヨちゃん……」

 

 明らかに純粋に姉を祝福しているサヨ。そんな彼女を眺め、黄昏は自身がスパイであることを棚上げしてマフィアという先入観で見過ぎていたのではないかと思い直す。

 

 "誰かのために過酷な仕事に耐え続ける事は普通の覚悟では務まらない"それをヨルに対して言ったのは、他ならぬ黄昏であり、彼の本心でもある。ヨルと同じくサヨもまた自身の信じるモノのためにマフィアとなったならば、それは尋常ではない覚悟だったのだろう。それこそ常識は持ち合わせているサヨならば、スパイよりも余ほどに。

 

 二人を眺めて深慮しつつ黄昏はおもむろにコーヒーに口を付け――。

 

 

 

「そんでよろしくぅ! ロイド義兄(おにー)ちゃん♡」

 

 

 

 派手にコーヒーを吹いた。

 

 黄昏もといロイド・フォージャーは、ヨルと結婚しているため、自動的にそうなるのは確かに自然の摂理である。

 

 しかし、双子にしても似過ぎており、どちらかと言えば落ち着いて奥ゆかしいと認識しているヨルであるが、その顔から想像できない猫なで声でそんな単語が自身へ向けて放たれるのは堪えられなかった。

 

「がほっ、ごほっ、ふぐぅ……」

 

「ロイドさん大丈夫ですか!?」

 

「ちちおにぃ! おにぃ!」

 

「おにぃ! おにぃ! ロイドおにーちゃ~ん♡」

 

「止めろお前ら」

 

 黄昏は素になった(マジレスした)

 

 そして、暫くサヨと接し、観察した結果最終的にひとつの結論が出る。

 

(いかん俺……コイツ苦手かも知れん)

 

 西国伝説のスパイであり、人間関係は無敵と自負していた黄昏であったが、どうやら苦手な人間の一人や二人ぐらいはいるらしい。いや、今増えた。

 

「ちちがんば」

 

「何がだよ?」

 

 何より今後、暫くは家族としても任務としてもコレ(サヨ)に付き合い続けなければならないと言うことを思い、胃から何か込み上げるものを感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 








子供の愛のために戦う女(事実のみ抜粋)





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