ブライアおばさん   作:ちゅーに菌

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感想・評価・お気に入りありがとうございます。そろそろ原作に少しずつ入りたいですね。一旦、これから感想を全て返信するので少々お待ち下さい。






おべんきょう

 

 

 

 

 

 アーニャがイーデン校に入学してから数日経った明くる日。

 

「ぷしゅー……」

 

 授業についていくためのロイドとヨルから勉強を受けていたアーニャは頭から煙を上げており、それを困り顔のような何とも言えない表情でサヨが眺めていた。

 

 オペレーション〈梟〉で国家統一党総裁のドノバン・デズモンドと接触するには、その息子が通うイーデン校の懇親会に出席する必要がある。

 

 その懇親会は、皇帝の学徒(インペリアル・スカラー)と呼ばれる特待生とならなければ出席できない。そのためには学業・スポーツで優秀な成績を収めたり、社会奉仕活動で表彰されたりするなどで(ステラ)と呼ばれる褒賞を貰える星を8つ獲得し、特待生になる必要があるのだ。

 

 そのため、黄昏としてはプランAとして星を8つ獲得するために成績を少しでも上げたいという思惑がある。

 

 とは言え、アーニャの現在の成績はお世辞にも高いとは言い難いため、黄昏は同時にドノバン・デズモンドの次男のダミアン・デズモンドとアーニャを仲良くさせてデズモンド家に接触するプランBを計画していた。

 

 ちなみに星とは逆に定期考査で赤点を取ったり、暴力行為などの不品行をしたりすることで(トニト)と呼ばれる罰点を受け、雷が8つ溜まると即時退学となるのだ。

 

 そして、アーニャは入学の初日にダミアン・デズモンドを殴り飛ばして雷をひとつ貰うという中々にハードでロックな事になっていた。黄昏の胃も順調に荒んでいる。

 

「…………おいでアーニャちゃん。あの二人じゃ勉強にならないねぇ」

 

「――――!」

 

「おい……!」

 

「アーニャさん!?」

 

 すると一目散にアーニャはしゃがんで両手を広げたサヨの懐へ飛び付いた。

 

「おばぁ……っ!」

 

「よしよし、アーニャちゃん」

 

(アーニャたゃ!? ふひぃ、やばぁ……これだけ至近距離で抱き着いてくるとかもう結婚かよ。情緒やられるわ……耐えなさい私!)

 

 サヨの中身(心情)も大概地獄であるが、アーニャにとって言動は以外とまともで、比較的分別と倫理観があり、子供の扱いに長けた彼女は割りと拠り所であった。また、思っているだけで実害も特にはない。

 

 ちなみにサヨは週4~5でフォージャー家に入り浸っており、平日・休日問わずアーニャがいる時間に湧く。仕事はどうしたと言いたくなるが、副料理長かつロンメルファミリーの直営店のため強引にどうにかしているのだろう。

 

 アーニャを目にも止まらぬ速さと、恐るべき力加減でよしよししながらサヨは重い腰を上げるように口を開く。

 

「あのねぇ……黙って見てたけれど、あなたたち子供にモノを教えるセンスがないわ」

 

「なに……?」

 

「がーん……!?」

 

 ちなみに2~3日で黄昏はサヨに敬語を使うのを止めた。

 

 情報屋であり、黄昏の友人とも言えるフランキー・フランクリンと同じく、サヨは敬意を払っても払わなくても大差無く、自覚して悪戯を行い、褒めると何処までも付け上がるというデカいクソガキだからであろう。

 

「というか、姉さんは兎も角、ロイド兄さんまで分数の計算も教えられてないの?」

 

「いや、そんな事はない筈だが……確りと教えていただろう?」

 

 それを聞いたサヨは大きく溜め息を吐き、目頭を押さえながら天を仰ぐ。全身で表現された煽りに黄昏は内心で青筋を浮かべるが、彼女の育児含む生活力はヨルと同じ顔と思えないほど高いためそのまま話を聞く。

 

「あれ? どうして私は省かれているんでしょうか?」

 

「大方、ロイド兄さんは"なんでコイツがこの程度の問題がわからないのかわからない"とか考えながら教えてるんでしょ? 教える側がわからないのに教えられるわけないじゃない?」

 

「ぐ……」

 

 紛れもない図星であった。基本的に全て自身のみで解決するという思考の黄昏にとって、思考の次元が何段階か低い子供にモノを教えるのは決して得意ではない。

 

「そうは言ってもヨルさん共々手を尽くしてだな……」

 

 とは言え、黄昏も無論努力も勉強もしていた。子供の扱い方の本を読み漁り、文献やエッセイにも手を出し、勉強方法も超一流のモノを参考にしている。紛れもなく彼にとって"全力"であった。

 

 それよりも"ヨルさん"という単語を聞いたサヨは苦虫を噛み潰したような絶妙な表情を浮かべる。

 

「姉さんなんて"分母が5だから1の5等分ってことで、えっと……わかりやすくすると四肢と胴体をバラバラにして……あっ、でもそれだと頭が邪魔になるから……あれ……? えっと……5……5……? 5と(エス)って似てますよね"とか大方思ってんだろうから教えられるわけないでしょうが? 舐めてんの!?」

 

「ちょわーすッ!?」

 

「お前、実の姉のことをなんだと思ってんだ?」

 

(な、なんでバレて……うう、計算は苦手です……。みんなゼロにしちゃえばいいじゃないですか……)

 

(すごい、おばせいかい)

 

 アーニャからするとサヨもエスパー能力を持っているのかと錯覚するレベルで、相手の心情を理解している事があるのがわかり、時々白黒絵の未来視のような情景が浮かんでいる事もある。

 

 しかし、サヨと他の皆には内緒だと約束しているため、アーニャはそれに一切触れる事はないのであった。

 

「失敬な……姉さんが余りあるわり算までしか計算が出来ないことぐらい知ってるわよ」

 

「サヨちゃん……そろそろ私がお姉ちゃんだってことを少しだけでも思い出してくれませんか……?」

 

 全身をプルプルと震わせつつ、目の端に少し涙を浮かべながら不満げに頬を膨らませるヨル。

 

 しかし、今はアーニャの方が大事なためか、サヨは目配せしつつ一言"言い過ぎたわ"と謝るのみで、またアーニャの教育に話を戻す。

 

「自分が解ってても教える相手が理解できなきゃ教えたって言わないのよ。それは教えたつもりになっているだけ。互いに時間の無駄ね。子供が覚えられないのは子供の飲み込みの悪さのせいじゃなくて大人の教え方が悪いの。何より教える時に相手のことをあなた自身が本当に考えていて?」

 

「………………」

 

 任務のためにアーニャを全力で利用し、勉強を教える時ですら任務で頭がいっぱいの黄昏からするとぐぅの音も出ない正論であった。

 

(確かにその通りだ……。俺はアーニャ自身の事は何も考えてなかったかも知れん)

 

 本当にこの女、子供が絡むと変態的になりつつも真面目で、真摯な常識人である。その上、結果が伴っており、単純にどれほど多くの子供たちと直に接して来たのかがわかるであろう。

 

「――! でもアーニャべんきょーふとくい。アーニャわるい。ちちよくやってる」

 

「そうねお父さんが頑張ってるのはわかるわ。けれど大丈夫よアーニャちゃん。人間(つまず)くのは何も恥ずかしい事じゃないわ。立ち上がらない事が恥ずかしいのよ」

 

(アーニャ!アーニャ!アーニャ!アーニャぁぁうううわぁああああああああああああああああああああああん!!! あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!アーニャアーニャアーニャぅううぁわぁああああ!!! あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん んはぁっ!アーニャ・フォージャーたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!! 間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!! ちちを庇うアーニャたんかわいかったよぅ!!あぁぁ…ああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!! 素敵な家族ができて良かったねルイズたん!かわいい!あっ間違えたアーニャたん!かわいい!あっああぁああ! 毎日フォージャー家に入り浸れて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃあああああああああああああああ!!!こんな幸せ現実じゃない!!!!あ…漫画もアニメもよく考えたら… ア ー ニ ャ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ――現実だったわ)

 

「おば、やかましい」

 

「はい」

 

 何故か突然サヨがアーニャに怒られ、スッと姿勢を正した事に黄昏は首を傾げるが、それ以上の事は特に無い。

 

 時折、二人は謎のやり取りが発生するのだが、それは黄昏にとって子供とマフィアの複雑怪奇さを強調させる材料にしかなり得なかった。

 

「私はアーニャさんの事をいっぱい考えていますよっ!」

 

「ロイド兄さんが合理的なのは結構だけれど、そこからもう2~3歩踏み込まなきゃ小さい子に勉強なんて教えられないわよ? もっと自分が単純かつアホにならなきゃ」

 

「アホ……?」

 

「時計もまだ読むことが難しい子供に勉強を教えるには、何がわからないのかわからないって事は前提条件。その何がわからないかわからない事を教えてあげなきゃいけないわね」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

 ひとつの問題に対し、何がわからないという事がわからない事を理解し、何がわからないでいるのかを考え、それをこちら側で見つけて教えなければならない。

 

 言ってて意味がわからない事であるが、それをしろとの事である。スパイ活動の方が答えが明確なため、よほど簡単ではないかと考え始める黄昏であった。

 

「じゃあ、試しにひとつロイド兄さんに問題を答えて貰いましょう」

 

 そう言うとサヨはキッチンへと向かい、寸胴のグラスを手に取り、それに縁近くまで水を注いでから戻って来る。

 

「これはコップと水ね。んぐ……」

 

 それから水の入ったグラスを一度掲げてから中身をサヨ自身で飲む。

 

 そして、ちょうど元々水が入っていた5分の1に差し掛かったところで飲むのを止め、随分体積を減らした水が入ったグラスを机に置いた。

 

「はい、ロイド兄さん。これは何かしら?」

 

「なるほど……5分の1だな」

 

(つまり、目で見てわかるようにすれば分かりやすいと……いや、それぐらいなら俺だってやって――)

 

「ぶっぶー、正解は水の入ったグラスでした」

 

「は……?」

 

 突然、ただの嫌らしいなぞなぞのようなことを言い始めたサヨに黄昏は呆けた声を上げる。

 

 そんな彼をニマニマと悪戯っぽい猫のように眺めるサヨは更に口を開いた。

 

「ロイドおにーちゃん、相手が時計もまだ読めない子供だってわかってないでしょ? アーニャちゃん、今何が5分の1になったのかわかる?」

 

「――――ッ!?」

 

「えっ……?」

 

 アーニャは目と口を見開いて驚き、目を白黒とさせ、暫くグラスとサヨで視線を行ったり来たりさせていた。尚、何故かヨルも小さく声を上げていた。

 

 それからアーニャは暫く考え込む動作をした後、サヨの方を見詰めると、とても真面目な顔で呟く。

 

「わからん……」

 

「でしょうね」

 

「なぜだ……?」

 

「これは5分の1じゃなくて1個のグラスと1杯の水だからよ」

 

「は……?」

 

 サヨはグラスを持ち上げ、底をくるくると回すように動かしながら更に続ける。

 

「水が上下しようが水は水だし、コップはコップ。そもそも水が5分の1だけ残ったと言うことは、5分の4だけ水が減った事を理解してなきゃならない。だからこれは例にならないの」

 

「むぅ……」

 

 正解を導くならば得意中の得意の黄昏であるが、他者と間違い、失敗、理解できない事そのものを理解するのは全く別の分野であるという事だろう。

 

 そして、 サヨという女はそれをよくわかっていた。

 

「さて……じゃあ、そろそろ姉さんに頑張って貰いましょうか」

 

「――ッ! わかりましたっ! 何でも言ってください!」

 

 サヨは"ここに簡単な例を紹介しましょう"と述べる。そして、アーニャを両脇に手を入れて抱えて見やすい位置に座らせつつ、ようやく頼られて気合い十分なヨルを少し離れた位置に立つように誘導した。

 

「じゃあ、まずはここにリンゴが2つあります」

 

 更にサヨは持参していた買い物袋からリンゴを2つと共に、懐から反りの強い刃渡り30cmを超える程のかなり大型のナイフを取り出し、その鞘を抜き放つ。

 

(あれはロンメルファミリー構成員の全員に支給される短剣じゃないか……)

 

 ロンメルの小剣――。

 

 誰が呼んだか、いつからかそのように呼ばれるようになった短剣である。

 

 黒い鞘と柄をしており、反りの強い片刃の大型ナイフであり、ロンメルファミリーとなった構成員に認識証代わりに与えられるもので、東洋の技術を輸入し、ロンメルファミリー内で製造されているらしい。

 

「そ、それは……?」

 

「……………………果物ナイフ……?」

 

 顔をややひきつらせた黄昏の問いに、何故かサヨは疑問符を浮かべつつそう答えた。

 

「腐ったミカンとか……捌くわ」

 

(どう言うことだよ……? いや、わかるが……そうじゃないだろう!?)

 

 ちなみに東洋の国ではナイフではなく、小脇差・小刀などと呼ばれる刀剣の類いであり、ロンメルファミリーの間では誰が広めたのか"ドス"などと呼ばれていたりする。

 

「じゃあ、虫除けかしら……? まあ、なんでもいいわね」

 

 東国では、よくロンメルファミリーが壊滅させたアングラ組織のリーダー格の死体の喉・心臓・頭頂部などに突き立てられたままあえて放置されているため、持ってチラつかせるだけで悪い虫を寄せ付けない効果があるらしい。一家に一本欲しい優れものである。

 

(隠す気は……無いんだろうなぁ……。元々、マフィアはこちら(スパイ)とは違って、裏社会の人間に自分達を誇示する事で縄張りを守る存在だ。かと言って向こうから見れば堅気で通っているこちらからマフィアかどうか確認するのは間違っているからなぁ……)

 

(おば、ないふかっこいい!)

 

 ロンメルファミリーとしてのサヨへの対応に頭を悩ませる黄昏とは対照的に、アーニャは久々にちょっとマフィアっぽいサヨにとても関心を抱いた。

 

 そして、そんなサヨはそのナイフを構えると、ヨルへ向かって黄昏が明確な殺意を感じるレベルの軌道と速度で投擲し、それに遅れてリンゴを1つ放り投げる。

 

「なっ……」

 

「姉さん、それ五等分して」

 

「えっ? はい、承りました」

 

 異様な行動に驚く黄昏を余所に、さも当然のようにヨルは、ほぼ垂直に投擲されたナイフが自身に刺さる直前でその柄を超反応で掴み取る。そして、その後に飛んで来たリンゴを一閃する。

 

 少なくとも黄昏には一度ナイフを振るったようにしか見えなかった。

 

「こんな感じですか?」

 

「ははすごい!」

 

 しかし、リンゴは綺麗に5等分され、リンゴの落下地点に添えられたヨルの掌に並ぶ。

 

 最早、絶技や魔技の領域である。世が世なら魔女裁判にでも掛けられていただろう。まあ、ヨルは現代の魔女裁判に掛けられそうだったため、結婚したわけだが。

 

「ありがとう、じゃあそれをこっちのお皿に盛って……っと」

 

「りんご!」

 

「はい、あーん」

 

「あーん!」

 

 ヨルから切ったリンゴを受け取ったサヨは、アーニャにリンゴの欠片のひとつを手渡しで口に入れ、直ぐにしゃくしゃくと咀嚼音が響き、頬を緩めたアーニャの口が上下する。

 

 そんなアーニャの目の前にサヨは皿に残る4つ欠片のリンゴを見せた。

 

「さて問題です。アーニャちゃんは、今リンゴを幾つ食べたでしょうか?」

 

「んー……?」

 

 リンゴを食べつつ問いを考えているアーニャがまた首を傾げている最中、サヨは残っていた1玉のリンゴをふりふりと強調して見せる。

 

(ええと……あれ(リンゴ1つ)が、ははにバラバラにされて(5つになって)アーニャがひとつたべたから(おいしかった)のこってるのは4つ(もともと5つあった)――あっ!)

 

「ごぶんのいちっ!」

 

 その答えを聞いたサヨは感極まったアーニャの両脇を抱え、その場で讃えるようにぐるぐると回り出す。

 

「無理無理無理もうしんど過ぎでやばたん……。アーニャたゃ天才か? 天才だったわ」

 

(正解よ! 良くできたね?)

 

「おばすごい!」

 

「当たり前よ? 遊びでロリコンやってないわ!」

 

「ろりこん!」

 

「変な言葉は教えるな」

 

(あー、アーニャたゃに罵倒されながら褒められてるぅぅ! こんなん供給過多、安定剤超えて最早毒ッ! 5日は何も食わずに生きれるわぁ……)

 

「おば、めしくえ」

 

「うん」

 

 アーニャはサヨに残ったリンゴを渡し、サヨは真顔でそれを頬張った。

 

(こんなに簡単に教えてしまうのか……。育児はどうにもままならないものだな……)

 

 黄昏は育児や教育のスキルも実践的なものを磨かなければならないと考える。とは言え、彼は父親になったばかりでまだ1ヶ月も経ってはいない、これからアーニャの為に動くというのならば、自然とそれらしくもなることだろう。

 

(そう言えばヨルさんは――)

 

 ふと、リンゴを切ってから一言も発さず、まだナイフを振るった位置で佇んでいるヨルを不思議に思い、彼女の方に意識を向け――。

 

 

「はぁぁ……ぁぁ……」

 

 

 さっき渡されたナイフの見事な刃文と滑らかな曲線を見詰めてうっとりしていたヨルが目に入る。

 

 どうやらずっと眺めていたため、大人しくなっていたらしい。殺人鬼でももう少し分別を弁えているものであろう。

 

 見ればヨルが見ているナイフの刃文は、やや不揃いではあるが、ゆったりとした波が寄せるように見え、山と山の間隔が大きな湾れ刃をしており、確かに綺麗ではあった。

 

 しかし、リンゴを斬った場所で佇んだまま動かず、恍惚とした表情を浮かべながら指で切っ先や刀身なぞる姿は、これから通行人でも試し斬りしそうな勢いである。

 

「サヨちゃん、サヨちゃん」

 

「なに姉さん?」

 

 するとヨルはナイフから顔だけ上げて、サヨの方を見詰める。その目は暗い光を帯びていたが、口元は変わらず笑みを浮かべていることが酷く印象的だった。

 

「アーニャさんはとっても頑張りになられたと思います。けれど私もたくさん頑張ったと思うんですよ?」

 

「つまり……?」

 

 その直後、ヨルは目を疑うほどの速度と音のない動作でサヨに詰め寄ると、目を薄く見開き、息を荒げながらサヨの首に沿うようにナイフの刀身を向けつつ更に言葉を吐く。

 

「はぁ……はぁ……サヨ……このナイフ欲しいです……!」

 

「姉さん自分が人妻であることを思い出して」

 

(………………。ヨルさんは料理にでも使うんだろう。果物ナイフか……そうだな。そうに違いない)

 

(アーニャんちのかぞくみんなゆかい)

 

 黄昏は別方面ながら余りにもロックな方向に突き付けたこの姉妹に頭を悩ませ、最終的に考えるのを止めたのであった。

 

 

 

 

 

 ちなみにその後、何故かナイフは3本渡されたが、キッチンには1本しか置かれていない。

 

 

 

 

 

 

 

 







~その日の夕食時~


(あっ、これスッゴいサクサク剥ける)

 尚、ピーラーナイフとしては、フォージャー家の料理担当の黄昏にとても好評だったらしい。







~ フォージャー家+α 色々ランキング ~

・アレ度
1位:サヨ・ブライア
 よく内心限界に達するが、たまに外に漏れる。ロリコン。基本的にまず自身がマフィアであることを軸に生きているため、接すると暗に堅気ではないことがわかる。

2位:ヨル・フォージャー
 こわすことしかできないかなしきもんすたー。ボンド(犬)とどちらが賢いかは、畏れ多くてとても申し上げられない。 

3位:アーニャ・フォージャー
 子供特有の無邪気さ・残酷さ・思いきりのよさを差し引いても割りと振り切れている。かなりの強心臓の持ち主。

4位:ロイド・フォージャー
 色恋に走らないジェームズ・ボンドぐらいにはマトモな人。
 

・常識度
1位:サヨ・ブライア
 堅気には手を出さない分別はあり、常識を理解しつつそれを足蹴にして行動しているだけである。そのため、根底には教養と、彼女なりの正義感と、確かな誠実さが伺える。同じ世界を生きる敵は躊躇なく殺し、恩義には必ず報いる古いマフィア。

2位:アーニャ・フォージャー
 まだ、小さいので常識を知らないだけで誠実かつ正義感のあるイイ子。

3位:ロイド・フォージャー
 生活が波乱万丈過ぎるためか、常人ではあるが常識人ではない。ヨルの一部の行動を身体能力が高い程度に考え、あまり疑問に思わなかったりもする。

4位:ヨル・フォージャー
 先手必勝・必見必殺・まず殺す事から考える。HUNTER×HUNTERどころかバイオレンスジャックに居ても特に違和感がない魔獣。




~スパイアイテム紹介(スパイとは言っていない)~

ロンメルの小剣
 ロンメルの狐が主導になり、製造しているロンメルファミリーの認識票兼護身武器。トレードマークとして威嚇や見せしめにも用いられる。刃渡り30cmを超え、日本刀の刀身と西洋の柄をしたドスであり、東洋から職人を技術ごとぶっこ抜いて来た。そのため、ロンメルファミリーの構成員は、与えられた剣に恥じぬように男女問わず、最低限剣術と体術を修得している。
 尚、ここ最近、《いばら姫》がロンメルファミリーの仕事を受けているとはもっぱらの噂。



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