ブライアおばさん   作:ちゅーに菌

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モンハンたのしい(いつも感想や評価ありがとうございます。これからも投稿を頑張って行来ます。滅茶苦茶貯まっていて申し訳ありませんが、感想も準じ全て返していきます。これからもよろしくお願いいたします)






てんちょー

 

 

 

 

 

 東国の首都バーリントの郊外に佇む打ち捨てられた簡素な廃工場。

 

 風化と蔦にまみれた倉庫のようなこの場所は、周囲を木々で囲まれ、既に人の出入りが無くなって数年経過しており、コンクリートで舗装されていた地面は逞しい自然の力によって浸食され、ひび割れて所々に雑草が生い茂っている。

 

 内部では放置された丸太や角材が、やや傾き掛けた陽射しに照らされ、錆びた作業台や加工機材が並び、恐らく木材の加工を担っていた事がわかるであろう。

 

 そして、そんな場所で開け放たれた入り口で佇む男――ロイド・フォージャーあるいはエージェント黄昏は、工場内部から発生する大気を伝う衝撃と、工場自体の揺れを時折感じながら何も出来ずに佇むばかりだった。

 

 また、彼の視線の先には、ふたつの黒い影が幾度と無く交錯し、ぶつかり、削り合い、その余波や結果として周囲の木材が木屑に、錆びた作業台や加工機材が鉄屑に様変わりする光景が繰り返され、稼働していた頃でさえここまでの賑わいは無かったであろう。

 

「――――――っ!」

 

 そして、彼の隣で余所行きの格好に身を包む娘――アーニャ・フォージャーは、お気に入りのアニメの戦闘シーンでも見つめるように目を輝かせ、その光景を眺めている。

 

「………………!」

 

 また、アーニャの隣には"黄昏がよく知る姉妹の幼少期をそのまま切り取ったような少女"がおり、彼女は食い入るようにその光景を静観し、時折息を飲む様子が見られた。

 

(アニメだろこれ……)

 

 そんなアーニャたちを少し眺めてから黄昏はそう思うと、胃から込み上げる何か熱いものを感じつつ目の前の光景に目を向ける。

 

 

 

「シィイィィ……!」

 

「ねえェェさァあァァぁン……!!」

 

 

 

 そこでは身内の死神()悪魔(義妹)が殺し合いをしていた。

 

 一応、殺し合いではないらしいが、殺し屋や殺人鬼も漏らしながら裸足で逃げ出しそうな表情と気迫をしている様を見ていると、殺し合いとしか思えないであろう。

 

「…………ァアッ!」

 

 怒りなどによって既に若干ヒトの言葉を失っている(サヨ)は、足元の数百kgはあると思われる丸太の端を爪先で踏むことで、空中に回転させながら打ち上げ、大回転する丸太が水平になった瞬間に放たれた掌底打ちにより、巨大な一本の大槍と化した丸太が砲弾のように飛ぶ。

 

「……ふん゛ッ!」

 

 殺到するそれに対して、(ヨル)は水平以上に振り抜かれたハイキックで丸太の先端を打ち払うと、丸太は全体が木っ端微塵に爆散する。

 

 そして、ヨルは勢いをそのままに手を支点に独楽のように身体を回転させ、二度目のハイキックを放ち――それは丸太とほぼ同時に殺到し、全身を回転させていたサヨの飛び回し蹴りと衝突し、人体から出るとは到底思えない音と僅かに感じるほどの大気の震えを生み出す。

 

 

「ネェエェぇさァあぁァアン!!」

 

 

 しかし、それらは二人にとって小技の一部であり、そんな光景が小手先の技のように応酬が繰り返され、時に周囲のものを巻き込み、時に視界で手足が霞むほどの乱打を交え、踏ん張った足だけでコンクリートがひび割れるような攻防が始まってから十分ほど行われていた。

 

 入学式で牛を素手で昏倒させたり、城を借りた時に酔った勢いで交戦したりした事で、ヨルの常人離れした力を知る黄昏ではあったが、それが全力で対峙するとこのようなことになる事は想定外であろう。

 

 人類というものの定義に疑問を覚えるレベルのブライア家の姉妹喧嘩が勃発する中、黄昏は目頭を押さえながら頭を抱える。

 

 

(いったい…………どうしてこんなことになってしまったんだ……!?)

 

(たいへんなことになった……わくわく!)

 

 

 黄昏とアーニャは、ほぼ同時に事の発端である二日前の記憶を(さかのぼ)らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーニャ・フォージャーが在籍しているイーデン校では、現在"体育"の合同授業が行われ、彼女が所属するクラスと別のクラスによるクラス対抗戦のドッジボールが実施されていた。

 

 アーニャのクラスメイトであるベッキー・ブラックベルが、このクラス対抗戦では勝った方のクラスのMVPには、"皇帝の学徒(インペリアルスカラー)"になるための星がひとつ授与されるという眉唾物の噂を仕入れ、それを鵜呑みにしたアーニャは、父の任務を手伝うためにも全力で取り組んでいたのである。

 

 とは言っても既に展開は佳境どころかゲームセット目前であり、アーニャのクラスでコートに残るのは既に彼女だけに思え、対する相手の方は、特に体格のいい人民軍陸軍少佐の息子のビル・ワトキンスを始めとしてほぼ減っていない。

 アーニャは相手の心が読めるため、あらゆる投球を避けられるが、足を挫いてしまったため、既にそれも叶わないだろう。

 

(ははのおしえやくにたたない)

 

 その上、ヨル・フォージャー仕込みの肝心の投球も明後日の方向へ飛んで行った。

 

 目の前ではビルがボールを振りかぶっており、次の瞬間に投げつけられるであろう光景が目に浮かび、思わずアーニャは目を瞑る。

 

(………………?)

 

 しかし、いつまで経ってもボールは来ず、また近くで何かを強く受け止めるような音が聞こえたため、アーニャは瞼を開く。

 

 

「大丈夫ですか、アーニャさん……?」

 

 

 そこにはアーニャの前に立ち、片手で軽々とボールを受け止めた少女の姿があった。

 

 そんな様子のクラスメイトの少女を見たアーニャはポツリと彼女の名を呼ぶ――。

 

「"ヒル"」

 

 少女の名はヒル・ヴィットマン。

 

 長めの黒髪に赤い瞳をし、アーニャがよく知る母と伯母にとてもよく似た顔をしており、やや暗く不満げな顔をした少女であった。

 

 彼女はどうやらずっとコート内に居たにも関わらず、あまりにも気配が無かったためか、どういうわけか誰にも気付かれずに居たらしい。そして、アーニャにボールが当てられる瞬間に動いたのである。

 

 と言うよりも最早、ヒル・ヴィットマンという少女の姿は、小さなヨル・フォージャーか、サヨ・ブライアそのものであった。

 

 入学式の日は欠席していたため、その翌日に見てから驚いたアーニャであり、他人の空似だと思い込もうともしていたが、本人的には軽く握られていると思われるボールは手の形に歪められ、ミチミチと静かな音を立てている。

 

 齢6歳とは到底思えないほど、とんでもない力が加わっている事がわかり、どうあってもよく知る姉妹と関係がないとは言い切れない事をアーニャはひしひしと感じていた。

 

「何が女子には加減するですか……? 幾度となくアーニャさんに不遜極まりない投球をしたアナタにはガッカリですね」

 

「うっ……」

 

 自身が最初に言っていた事を出されたビルは、痛いところを突かれたと言葉を詰まらせる。

 

「アーニャさんが投げるときのフォームはとても良かったと思います」

 

「お、おう……」

 

 しかし、ヒルは彼の反応を求めては居ない様子で直ぐにアーニャへと向き合うと、そんな評価を淡々と始めた。

 

「ですが、投げる瞬間に下を向いてしまえば、ボールをぶち当てるお相手に投げる事が出来なくなってしまいますよ?」

 

「ぶちあてる……?」

 

 物静かで丁寧な口調ではあるが、割りと口汚い言葉を使いつつ、ヒルは片手を鉤爪のように構えて強張らせる事で、ポキポキと指全体を鳴らす。

 

(はは……?)

 

 面接試験の時や戦う前などにヨルがしていた事を思い出し、更にやや冷徹に見える様子が重なり、その様子にアーニャは首を傾げる。

 

「なので、お手本をしますね?」

 

 そう言ったヒルは両手でボールを胸の前に抱えると、捻りを加えた身体の運びから足の移動をゆっくりと行う。

 

「まず、体重移動が大切ですね……。それから踏み込みと全身の捻りを手の一点に伝えます」

 

 そして、これまでウォーミングアップのように指を鳴らしていた方の手にボールを移し、その直後に腕とボールが視界でブレた。

 

「最後に手は――」

 

 その瞬間、ヒルの腕から何かが爆発するような異音と共に一迅の風が巻き起こり、長い細いシルエットになったボールらしきものが弾き飛び、それを常人が視認する間もなくビル・ワトキンスの顔面と首の間に突き刺さった。

 

「――――!?」

 

 命中してからの衝撃で上半身が吹き飛ぶように地面に叩き付けられ、激しく後方に転倒させられながら背中を強打した事による一時的な呼吸困難が起きた事でようやく当てられたと言うことを理解するビル。

 

 遅れて顔面と首に走る激痛に気付き、着弾と同時にひしゃげて弾けとんでいた眼鏡と、裂けた穴が開いて割れた風船のようになったボールだったものが彼の近くの地面に静かに落ちる。

 

 その場にいた学生も教員のヘンリー・ヘンダーソンも絶句しており、痛みに脇目もくれず泣きわめくビルの声だけが酷く空虚に響いていた。

 

「刈り取るように振り下ろし、相手を必ず殺すという強い殺意が籠れば完璧です……」

 

 そして、その現象を引き起こした元凶は、自身がしたことにも結果にもまるで関心がなく、投げる前と同様の様子でアーニャに投球という名の何かをレクチャーしていた。

 

「はは……?」

 

「お、お母さん!? 私が……!? あわわ……」

 

 ふと、思ったことを思わず口に出してしまったアーニャであったが、突如としてコロコロと表情を変えた挙げ句に茹で蛸のように真っ赤になり、両手を頬に当ててブンブンと首を振り始めた事で、再び何か猛烈な既視感を覚える。

 

 ちなみにこの時点で相手のクラスメイトと、教員のヘンリーがビルを助け起こしており、到底ドッジボールどころではない。

 

「わわっ、私がアーニャさんを産むのは……か、解釈違いです! 私はアーニャ……さんのお姉さん! そう、お姉ちゃんになりたいんです!」

 

「きつい」

 

 思わず、サヨ・ブライアこと叔母にするような発言が漏れるアーニャ。6歳とは思えないほど理性的だが、その理性の方向性がとんでもない方向に振り切れている様は、とある血筋を想起させるにはあまりにも事足りた。

 

(ヒヒヒッ……! きっと、アーニャたゃと私は魂で繋がった姉妹なんです。初めて見たときから運命を感じていました……ラブリー天使なアーニャさんは――)

 

(おじ……?)

 

 そして、発言より更に複雑怪奇で地獄な内心を読んだアーニャは、一度しか会っては居ないが、胃がもたれ掛けた相手を幻視する。

 

 少し考え込むが答えは出ず、アーニャは首を傾げるばかりであった。

 

(えへへへ……! 傾いてるアーニャたゃかわいい! 流石は私の未来のお嫁さんです! んがわぃぃぃ! しゅきぃぃ!)

 

(おば……?)

 

 ヒル・ヴィットマン――。

 

 アーニャ・フォージャーの学友にして、既視感の塊であり、アーニャが日頃から頭を悩ませる相手であった。

 

 

 

 

 

(チッ……頭の硬いおジジイさんですね……。私のアーニャたゃ……もとい私のアーニャさんの可愛さを評価したら星100万兆個でもぜんぜん足りませんよ)

 

(おばぁ……)

 

 ちなみにMVPに星が貰えるというモノは、無論ただの噂であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに? クラスメイトが似ている? 誰に?」

 

 カモフラージュの精神科医の仕事から戻った黄昏は、学校を終えて留守番をしていたアーニャが真っ先に話して来た話題に逆に聞き返していた。

 

 それに対してアーニャは、とても真剣な様子の半眼をしつつ更に説明を続ける。

 

「おば、はは、おじ。おばつよめ。ははっぽい」

 

「うん……?」

 

 全く要領を得ないが、とりあえずクラスメイトにブライア家に似た人間がいると言うことは察する事は出来た。

 

 そのため、黄昏は資料として保管してある(覚えている)記憶の中から生徒の情報を浚う。

 

 情報を浚いつつも、入学式の時に見掛けていれば、自身もヨルも気付いていたであろうため、アーニャの訴えは半信半疑であった。

 

(――――!? ヒル・ヴィットマン……? コイツか、確かにヨルさんともサヨともよく似ている)

 

(ちち、すごい)

 

 さながら図書館から資料を抜き出すように記憶を掘り起こしている黄昏に、アーニャは凄腕のスパイらしさを覚えていると、彼は目を通している女子生徒の資料の違和感に気付く。

 

(待て、この経歴は……ロンメルファミリーの偽造文書のパターンだな)

 

 そして、直ぐに黄昏は家族構成を含む少女の全ての経歴が、東国最大のマフィアであるロンメルファミリーがでっち上げた真っ赤な嘘であることに気付く。

 

 しかし、それだけならば大した問題ではない。何せ現在のロンメルファミリーは子供の育成に力を注いでおり、能力のある孤児に対してこうして身元引き受け人となり、無理と無茶を権利と金で誤魔化しつつ、イーデン校とすら蜜月な関係を保っているのである。

 

 イーデン校は親の七光りが容易く罷り通る程度の環境であることは、黄昏もいつぞやの面接で理解しており、そうした一部の裏口に等しい事が平然と行われ、ロンメルチルドレンとも言うべき子供たちがイーデン校に何人もいる事は当然と言えるだろう。

 

(…………子供がいるとしたら何故、アイツがフォージャー家(こちら)にこれまで一言も言わないんだ?)

 

 そうなると疑問の焦点はそこである。

 

 サヨにアーニャ程度の娘がいる事は年齢的にも別段珍しくもなく、黄昏が知る彼女の性格上、その事を一言も語らない事は奇妙以外の何物でもないであろう。

 

(離婚した? 配偶者との死別? ロンメルファミリー内部で何か? いや、アイツに結婚歴の確実な部分には何もない上、それでも子を手放すようには思えない。いっそ、サヨに聞いて――)

 

 そこまで考えたところで、黄昏は自身の思考を止めて目頭を押さえた。

 

(いやいや……本人に直接聞いてどうする)

 

 自身がスパイにも関わらず、真っ先に出た選択がそれだった事に黄昏は少なからず、サヨという女性に気を許し過ぎている事を悟る。

 

 そもそもこの件は、完全にスパイ活動とは関係のないサヨの家庭事情であり、黄昏のオペレーション梟とも玉藻とも関係がほぼなく、彼が首を突っ込む理由は何処にもなかった。

 

(日頃からあれだけアーニャの教育や、俺の教育方針に口出ししているのに、育児放棄をしているのならそれはそれでムカつくぞ……)

 

 しかし、それはそれこれはこれである。

 

 立派かどうかは本人も思っていないが、少なくとも一応は父親である黄昏としては、面白くないと言うよりも裏切られたような気分になる事は致し方ないであろう。

 

 自身がスパイであることを棚に上げる形にはなるが、それでも自身でも驚くほど、サヨにそちらの方面で信用を置いていた事は間違いない。

 

「~♪」

 

(そうだ。とりあえず、ヨルさんに聞けばいいじゃないか)

 

 部屋の掃除を鼻歌混じりにしているヨルを見つめ、そんな事を黄昏は考え、彼の視線に彼女はいち早く気付く。

 

「……? どうかしましたかロイドさん?」

 

「ええ、実はアーニャが学校で――」

 

 若干の私情を挟んでいるためか、黄昏は不確定要素に頼るという彼らしくない事をしてしまう。

 

 何だかんだで、彼の中で姉妹の無意識な信頼性が非常に高い証とも言えるだろう。

 

 

「え…………はわ……? はえ……? 子供……? サヨちゃんに……子供……?」

 

(あっ――)

 

 

 ヨルと結婚してからブライア家や姉妹関係で気づいた事のうち、最たる事のひとつは、割りとヨルは蚊帳の外にされている事があるという事である。

 

 そして、今回もそれだったらしく、超抜級の地雷を黄昏が踏み抜いてしまった事に彼は冷や汗を流した。

 

「あはは、いやヨルさん他人の空似という事の方が――」

 

「そうです……思えば時々……ありましたし……アルバムにも見覚えのない写真が……あれは……あれも……そう思うと……」

 

 どうにか取り繕おうとするが、既にヨルには黄昏の話が聞こえていないらしく、目のハイライトを消しながらぶつぶつと譫言のように呟くばかりである。

 

 そして、しばらくそうしていたヨルは、きゅっと口の端を引き締め、気合いを入れるためか胸の前で拳を作る。

 

「聞いてみましょう! お姉ちゃんにそんな大事な隠し事は許せません!」

 

 ヨルは自身の事を全力で棚にぶん投げた。神棚の更に上にでも乗っていそうな有り様である。

 

「……流石に直接聞いてもダメじゃないですか?」

 

「いえ、サヨちゃんじゃないです! サヨちゃんの"店長"さんですっ!」

 

「サヨの店長ですか……?」

 

 それを聞いた黄昏はサヨが少なくとも表向きには働いているヴュスタ・ガーデンにおり、店長と呼ばれるような役職にあるロンメルファミリーの構成員を記憶から洗い出し――ただ一人とんでもないビッグネームが該当する事に愕然とする。

 

(――――!? は――? いや、それってまさか!?)

 

 それは不味いと止めようとする黄昏であったが、既に黒電話の前におり、ダイヤルを回し終えているヨルを止めるには至らなかった。

 

「あっ、夜分すみません。そちらでお世話になっているサヨの姉のヨル・ブラ……フォージャーですっ。店長さんに代わっていただけませんか? 出来ればサヨちゃんには内密にお願いします」

 

 無情にも既に電話は繋がり、直ぐに電話先の相手はヨルの言うところの店長になる。

 

「こんばんは、店長さん。実はかくかくしかじかでして――」

 

(胃が……ッ!)

 

 店長に事情を説明しているヨルの隣で、黄昏は胃の入り口がきゅっと締め付けられるような感覚を覚え、常備している水無しで飲めると評判の胃薬を喉に流し込む。

 

 そうしているうちに受話器から顔を離したヨルは、したり顔で黄昏の方を向いた。

 

「ロイドさんに代わって欲しいそうです。サヨちゃんの店長さんはちょっと個性的ですが、とてもいい人ですよ」

 

「………………わかりました」

 

 コンマ数秒の葛藤の後、覚悟を決めた黄昏は両手で受話器を握るヨルからそれを受け取る。

 

 そして、丁寧に挨拶をすると、受話器から妙に軽い口調で元々低めの声を高く寄せているような声色の"男性"の声が響いて来た。

 

 その声から歳は恐らく黄昏と近いか、少し上程度の年齢であろう。

 

『ハーイ、ハロハロー、アナタがロイドちゃんね。お噂は姉妹(ふたり)からかねがね聞いているわ』

 

「ええと……不躾なことを聞きますが、どなたでしょうか?」

 

 あまりにも独特過ぎており、ちょっと個性的の範疇に収まらなそうな相手の事を黄昏は既に半ば確信しているが、初対面のためそう返す。

 

『あら、アナタには必要かしら? 欲しがりさんねぇ』

 

 直ぐに電話の相手は嬉しげな声色で自己紹介を返す。

 

 

 

『アタシはヴュスタ・ガーデン店長のフランク・"ロンメル"よん。ヨロシクねー』

 

 

 

 それはギュンター・ロンメルの男孫であり、ロンメルファミリーのNo.2にして、マフィアを始めとした東国組織犯罪集団の事実上の顔役。

 

 東国の怪物――"フランク・ロンメル"本人であった。

 

『それでロイドちゃん、これヨルちゃんにはオフレコなお話よ? サヨちゃんの子のお話ね』

 

 オペレーション〈梟〉(ストリクス)が、東西平和を脅かす危険人物であるドノバン・デズモンドとの接触が任務ならば、オペレーション〈玉藻〉(タマモ)は東国秩序の番兵たる暴力装置のお眼鏡に叶う事が任務――。

 

 

『アナタ()()……東国で条約違反の兵器、人為的な超能力者、IQの高い動物、クローン技術、他にも色々なグレーで眉唾な事をしてた元国家主導の研究機関があった事はどこまで知っているかしら?』

 

 

 すなわち、ギュンター・ロンメルが半ば隠居しているため、ファミリーの経営を担う事実上のロンメルファミリートップであるフランク・ロンメルとの接触が最終目標である。

 

 

 

 

 

 

 

 






↓このへんにわくわくアーニャ(電話中)






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