東方異譚録〜万の神人紡ぐ糸〜   作:金柑太郎

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遅れてすまん。忙しかった。思ったより忙しかったんだ。


十三話 紅霧異変・弐

「何じゃこりゃぁ!!!!」

 

 

 

「だから言ったのに。」

 

 

 

 空が赤い。見間違いでは済まされないほど赤い。その空の赤さはどこか血液を想起させどこか気味の悪い雰囲気を醸し出している。そして何より異臭を放つのが、目の前にドシンと巨人のように佇む巨大な洋館であった。数日間和風建築の中で過ごしてきたのでそっちが目に馴染んでしまって目に違和感しかない。

 

 

 

「でこれから俺たちは何をすればいいんだ?」

 

 

 

「基本的に貴方達はことの成り行きを見守っているだけでいいけど、おそらく屋敷の中での弾幕ごっこが起こると思うの。だからこっそりタイミングを見て中に入ってちょうだい。基本的に貴方達の姿は他人からは見えないけど、物とか動かしたらバレちゃうから気をつけてね。」

 

 

 

「何か無駄に難易度たかくね?」

 

 

 

 こっちの世界のことをよく知らないのに中々に高度なことを要求してくる。まるでかの有名な伝説の傭兵のスニークミッションみたいだ。

 

 

 

「もうすぐで博麗の巫女達がくるはずだから、それまで中には入らない方がいいと思うわよ。じゃ私は用事があるから異変解決したら戻ってくるわ。」

 

 

 

「え?ちょっと侵入方法とか教えてくれないのかよ!?」

 

 

 

「じゃあ、バイバイー♪」

 

 

 

 そうして紫は、何も知らない生まれたての子鹿のような男二人を残し、自らのドレスひるがえして裂け目の中へと消えていった。

 

 

 

「おいどうするんだよこれ?」

 

 

 

「まぁ博麗の巫女が来るらしいからちょっと待ってればいいんじゃね?」

 

 

 

「お前は呑気でいいよなぁ。」

 

 

 

「いやこれでも足りない頭使って頑張って考えてるぞ。」

 

 

 

「ほう?」

 

 

 

「多分その博麗の巫女ってのはこの異変ってやつを解決するやつなんだろ?で、こんな世界を真紅に染めるなんてことは普通人間はできない。この世界の性質からして妖怪が原因ってことだ。そして妖怪は圧倒的な身体能力を持っていると考えられる。だったら騒ぎに紛れて忍び込んだ方がいいだろ。」

 

 

 

「妖怪が身体能力が高いなんてなんで知ってんだ?」

 

 

 

「いや、お前は知らないと思うけど俺深夜に妖怪に襲われたんだよね。ルーミア?とかいうやつだっけ。」

 

 

 

「いつの間に!?」

 

 

 

「なんだったら傷あるぞ。」

 

 

 

 犬斗は羽織で隠されていた右手の裾をたくし上げるとまだ少し赤黒く抉られたような傷が目に入る。その傷は朝まで包帯に覆われていたのかまだ乾ききっておらず少し膿んでいる。

 

 

 

「痛たそうやなぁ。」

 

 

 

「ていうか何だったらお前、ちょっと蕁麻疹ぽくね?」

 

 

 

犬斗の指が指していたのは俺の右手の甲であり、無意識に掻きむしっていたのか少し赤ずんでいる。

 

 

 

「俺今まで一回もなったことないんだけどなぁ。」

 

 

 

「ストレスじゃね?」

 

 

 

 ここ数日間なれない生活を続けていたのでストレスが溜まっていたのかもしれない。そんなくだらない会話をしていたときであった。

 

 赤い閃光が俺たちの真上を突き抜けていく。突然のことで俺たちは口を抑え固まってしまうが、よくよく見てみればその赤い閃光は人であり屋敷の門の前へと降り立ったのがわかった。

 

 

 

「博麗の巫女‥‥か。」

 

 

 

あまりに速すぎて自分の動体視力が追いつけなかった。今、紫の術がなければ完璧に見つかっていただろう。

 

 

 

「これからドンパチやり合うってことか。」

 

 

 

「じゃあ一旦ここから移動して門の近くまで行こうぜ。」

 

 

 

その言葉を合図に俺たちは潜んでいた小山から移動し、門前の様子がよく見える茂みの中へと身を移した。いくら透明でも草木に触れれば、草は揺れてしまうので最新の注意を払いながらここまで来ると博麗の巫女の姿が見えた。

 

 

 

「おい、あいつって。」

 

 

 

 コショコショ話で犬斗に話しかける。

 

 

 

「この間見つかりそうになったやつだよな。」

 

 

 

 そう、そこにいたのは二日前見つかりそうになって紫が逃してくれた少女であった。当時は緊張していて記憶も曖昧だったが、あらためて落ち着いてみるとすごく精悍な顔立ちをしており紫や藍に勝るとも劣らない美少女であった。

 

 

 

「幻想郷ってあんなのばっかなのかよ。」

 

 

 

「男の人権なくなって、もの○け姫のたたらばみたいになってたりして。」

 

 

 

 俺たちそこまでかっこいいって訳でもなのに周りばっか可愛いとこっちのメンタルが持たなそうだ。そんなことを話していると何やら話し声が聞こえる。一旦その談義を打ち切り2人とも耳を澄ました。すると先程まで見えない位置にいたもうひとりの女性が俺たちの眼中に入り込んでくる。

 

 

 

「ちょっとそこ通して頂戴。あんたの主にようがあるのよ。」

 

 

 

「ちょちょなんで勝手に入ろうとしてるんですか!?ここから先はお嬢様に一切の出入りを禁じられているので通すことはできません。」

 

 

 

 何やら梅色の髪に抹茶色のチャイナドレスと華人服の間の子ような服をまとった、高身長の女性が博麗の巫女の申し出をきっぱりと断っている。お嬢様と言っていることから従者なのだろうということはわかるが、

 

 

 

「なんで中華風なんだ?」

 

 

 

 洋館に中華、和風建築と色々なジャンルが出てくる。もしかしたらこの世界はそういったたくさんの文化が混ざっているのかもしれない。

 

 

 

「ふーん。博麗の巫女に楯突こうっていうのね。」

 

 

 

「これでも私も腕が立つ方ですので。」

 

 

 

 眉間と眉間の間にバチバチと散っている火花が草木に引火してしまうのではないかと思うぐらいあたりに緊張感が漂い、俺はゴクっと乾いた喉で唾を飲み込む。弾幕ごっこが始まろうとしているのだ。まだ始まってもいないのに二人からは覇気が溢れ出ており、なんだかこちらが睨まれているような感覚に陥る。

 

 中華風の女性が左足を一歩引き、右手も手のひらを構える。

 

 

 

「勝負です!」

 

 

 

「ったく、素直に通してくれれば楽なのに。」

 

 

 

 その言葉が耳から消えた瞬間だった。光が交差する。色とりどりの弾幕が扇状に放たれた。超速の弾幕が空気を貫き、常人では反応できないほどのスピードで着弾する。風が吹き荒れ前髪がバサバサと乱れ、流れ弾が俺たちの周りに飛んできてヒヤッとした。巫女はというと、圧倒的な反射神経で体を反らしそのままバク転で弾幕を回避する。

 

 

 

「不意打ちとはやってくれるわね。普通この後なんか言って始まりでしょうが!?」

 

 

 

「何のことでしょうか?」

 

 

 

 博麗の巫女はふわりと浮き上がり、距離をとった。しかし中華風の女はふーっと息を吐き、集中するように目を半開きにして構え直す。すらっとした長い足をそのまま踏み出し、踏み込んだ地面から砂煙は舞う。連続で身体を遠心力に任せ助走をつけていく。

 

 その姿はまるで本当の舞にも見えるが、突如その様子は急変した。左足が足についた瞬間、その足で思いっきり踏み込んでカンガルーのように宙に飛び上がる。土の上なのにも関わらず、ドンっという踏み込みの音が聞こえてくる。

 

 

 

「な!?」

 

 

 

お札を右手に構え射出しようとしていた巫女の方は驚いたように声を上げる。

 

 

 

「あんたどういう脚力してんのよ!」

 

 

 

 この声とほとんど同時に中華風の女の長い左足が振り抜かれる。見事な後ろ回し蹴りだ。

 

 博麗の巫女はというと、右手を顔の横に構え蹴りを受けようとする。ドンっと衝撃で右手がぶれそのまま顔面に当たりそうになるが一歩身体を引き、あえて右手の力を抜くことによってその鮮やかに回し蹴りをいなす。

 

 

 

「私の蹴りを捌きましたか。」

 

 

 

中華風のその声には反応せず、博麗の巫女は今度こそ持っていたお札を投げ飛ばす。現実ではヒラヒラとちてしまうはずの紙切れは空気中に綺麗な弧を描き中華風の女へと向かっていく。

 

 

 

「そんな単純な攻撃当たりませんよ。」

 

 

 

そう快活に告げた中華の方は飛んでくるおふだを目視すると、右足を軽くけり左に身をそらす。そして再び博麗の巫女に向き直った時であった。

 

 

 

「ばーか。」

 

 

 

突如巫女がそう呟いた。

 

 

 

「何がですか?」

 

 

 

中華風の女はよくわからないといったいったような困った顔をしており俺たちは首を捻っていると。

 

 ボンっと目の前が爆ぜた。中華風の女の背中に何枚かのおふだが直撃するのを何とか肉眼で捉えることができた。

 

 

 

「バカね。私の攻撃がお札一枚で終わる訳ないじゃない。」

 

 

 

 瞬間理解する。一枚目のお札は囮で相手を引きつけて、周りに放ったお札に気づかせないための布石だったのだ。結構定番な方法だが一回一回が勝負を分けるこの弾幕ごっこでは意外と刺さるのかもしれない。

 

 

 

「なんかこの勝負見てると俺たちの圧倒的な無力感を改めて感じるわ。」

 

 

 

「確かに。お互い元々色々やってた身だけど、この幻想郷では通用する気がしないわ。」

 

 

 

「俺たちはまだ現代っていう枠にはまっているのかもな。俺たちも一回型を忘れて自由に戦ってみた方がいいかもな。」

 

 

 

男2人で反省会をしているとどうやら終わったらしく巫女はズカズカと屋敷の敷地内へと入っていく。

 

 

 

「じゃ、いきますか。」

 

 

 

すっかり血が下に溜まって重くなった足を持ち上げると、先ほどの戦闘があった場所をこっそりと忍び足で通り過ぎる。

 

バレないかと緊張したが中華風の女はグルグルと目を回しており起きる様子はなかった。

 

 俺たちが安心して草むらに腰を降ろしたとき、博麗の巫女が一瞬こちらを振り向いたがその視線は中華風の女に向かっていた。肩をビクッと跳ねさせて危うく声を出しそうになったが、犬斗が口を無理矢理おさえてくれたおかげで何とかバレずにすんだ。

 

 

 

「ったく。びっくりさせるなよ。」

 

 

 

 そう呟き額に滲んだ冷や汗を拭う。その汗は何だかべったりとしていて気持ちのいいものではなかったが、心を落ち着ける事はできた。

 

 相手の視界には入っているのに向こうの焦点が合わないというのは違和感が凄い。そんな事を思いながら少しずつ前に進んでみるとギギギ、と鈍い重厚な音をたて博麗の巫女が玄関らしき門を開ける。

 

 一瞬中の様子が見えたがレッドカーペットが敷いてあり外見通りかなり高価そうだ。そこで博麗の巫女はその屋敷の中へと入っていきドタンとドアがしまった。外にはぽつんと男2人と現在進行形で気絶している中華風の女だけが残されている。

 

 

 

 

 

「じゃ、俺たちも入るとするか。」

 

 

 

犬斗はやる気満々と言った感じで立ち上がっているが、一旦ちょっと考えてみる。

 

 

 

「これ今入るの危なくね?」

 

 

 

 よく考えてみてほしい。扉は中の様子が見えないのだ。今、のこのこ扉を開けて、中に博麗の巫女がまだいたらドアが勝手に開いたと勘繰られてもおかしくないだろう。

 

 

 

「まだ博麗の巫女が居るかもしれないからな。ここは窓とか中の様子が見える所から潜入した方がいいかも。」

 

 

 

「ていうかあんな堂々と入っていって他の従者が駆けつけてこない訳ないもんな。」

 

 

 

 そうして俺たちは屋敷の周りを見て回る事にした。何だか泥棒みたいな感じがしてあんまり気のりしなかったが、こんな大きな屋敷を見る機会が今までなかったので少し好奇心が湧いてくる。窓から覗いてみると屋敷の中は赤に統一されており、羽の生えた小さいメイドが掃除や片づけなど家事を行っている。

 

 結構その数は多く、バレずに侵入するのは中々骨が折れそうだ。

 

 

 

「おーい!」

 

 

 

遠くで犬斗が呼んでいる。見つかったらどうするのかと半端呆れるが見つかったら尚更やばいので急いで駆け出す。

 

 

 

「もう少し小さい声で喋れよ。」

 

 

 

小さな声で注意して、何を伝えたかったのか聞くと

 

 

 

「あそこの換気扇のバルコニーっぽいとこから入れそうじゃね?」

 

 

 

だそうだ。指差された方を見れば、黒い柵に真っ赤な床と何処か幽霊屋敷を彷彿とさせるバルコニーがあった。

 

 

 

「二階だけどどうするんだ?」

 

 

 

「目の前の木を登っていけばなんとかつけるんじゃない?」

 

 

 

「いや、みんながお前みたいな身体能力を持ってると思わないほうがいいぞ。俺は多分この高さは無理だ。学生の時だったらわからなかったけどな。」

 

 

 

「でもここ以外入るとこなさそうだけど。」

 

 

 

「……。お前だけ入って内側から窓開けてくれよ。」

 

 

 

 これしかないだろう。バレないようにふたりとも中に入るには犬斗に先に入ってもらうしかしない。俺にも犬斗みたいな運動神経あったらと鼻の先がむず痒くなるが、物ごと適材適所だ。お互い何も知らない同士、もたれかかって生きていくしかない。

 

 

 

「はぁ〜。しゃーねぇなぁ。じゃあチャチャッと行ってくるから、見つからないようにな。」

 

 

 

「お前じゃあるまいし見つかるわけ無いだろ。でもまぁ、‥‥ありがとな。」

 

 

 

「ったく、ダレトクのツンデレだよ。じゃあ行ってくるわ。」

 

 

 

犬斗はお得意の身体能力でスルスルと木を登っていく。そして軽々とバルコニーに猿のように飛び移ると、こちらに一瞬視線を向けそのまま赤々しい館の中へと駆けて行った。この別れが何を表しているのか俺たち二人は何も知らなかった。




次話は早く投稿できるかも。じゃ、さらーば!
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