東方異譚録〜万の神人紡ぐ糸〜   作:金柑太郎

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今回早かったでしょ。何故かって?それは春休みだからだよ!ということでこれからもよろしく!!


十八話 紅魔異変・終

俺はあいつに笑みを浮かべて走り出す。何で笑ったのかは自分でもわからない。でもそうしたほうが良い気がしたのだ。

 

 犬は飼い主に忠実だ。人間とは違って信頼できる。だから犬が好きだった。でもここに来てあいつと会ってあいつは信用できる気がした。もしかしたら俺は犬のためだけじゃなくて真弓のためにもあの犬を助けようとしたのかもしれない。自分はここ数日で変わったなと思う。まぁ、真弓に対してだけだが。

 

 

 

「俺が行ってもどうせ死ぬだけだ。俺はお前を信用する、だから頼んだ。」

 

 

 

 あいつは俺にそう言った。それを聞いたときに身体の奥が何か熱いものが沸き立つのを感じた。誰かに頼られるのがこんなに嬉しくて、またそれ相応に緊張するものだとは初めて知った。

 

 しかし、もう考え事は終わりにしなければならない。眼下に広がる凄惨な現場が自分を思考の海から現実へと引き戻す。ここからは集中だ。さっさと向こうに行って犬を連れてくるとしよう。軽やかに地面を蹴り瓦礫の上を走り抜ける。まるで義経の八艘飛びのように素早くそして的確に踏む足場を見定め飛び上がる。あの犬を見たところあまり深く挟まっているようではないようだ。瓦礫一つどかせば助けることができそうである。

 

 現場に着いてみるとやはりその犬は見たことのあるあのときの柴犬であった。その犬はかなり興奮しているのか俺が近寄ると、「ワンッ!」と吠えこちらを威嚇してくる。

 

 

 

「お前も紫に巻き込まれちまったのか?」

 

 

 

 そうだとしたら、可哀想と言うしかほかない。もしこれが俺だったら、ムカつきすぎて紫の喉元を食いちぎっていたかもしれない。まぁ犬だったら人間みたいに物事の因果関係を思考することができなのかもしれない。

 

 

 

「落ち着けって、お前になにかしようってわけじゃないんだ。」

 

 

 

頭を犬と同じ目線まで下げて、優しい声音で話しながら手をのばす。柴犬はウルウルと唸っているものの落ち着きを取り戻し始めたのか手で触っても噛んではこなかった。

 

 

 

「犬って眉間撫でられるの好きだったか?」

 

 

 

 今まで犬は飼ったことはなかったが、子供の頃に良く近所の外で飼っている犬を撫でていたのを思い出す。あのゴールデンレトリバーは人懐こくって可愛かったな。

 

 頭をゴシゴシと撫でてやるとさっきまで吠えていた犬は落ち着いて顔を腕に擦り付けてくる。

 

 

 

「柴犬って気性が荒いの結構多いらしいけど人懐っこくて助かったわ。」

 

 

 

 すると上での爆発音がやみふと静寂が訪れる。何が起こったのかわからないが犬を助けるなら今だ。瓦礫の下に素早く手を滑り込ませて腕に力を込める。意外と軽かったので瓦礫はいとも簡単に持ち上がり、気絶して倒れるみたいにゴロンと転がっていった。

 

 犬は瓦礫から開放されると、隠れていた尻尾をブンブンと振りながら自分の方へすり寄ってきた。

 

 

 

「こんなに人懐っこいってことは現代では良い飼い主を持っていたんだな。」

 

 

 

 そう考えると、現代では飼い主が悲しんでいるのかもしれない。

 

 

 

「できれば返してやりたいんだけどな。」

 

 

 

押し元にすり寄ってきた犬の首や頭をゴシゴシと撫でながらそんな叶うはずもない願望を口にする。紫が犬一匹ごときで現代へと繋いでくれるわけがない。あいつはそういう奴だ。

 

 

 

「紫に飼っていいか聞いてみるか。」

 

 

 

 受け取り手がいないならこの犬は野良に放たれてしまうことになるのだろう。この世界には妖怪というものが存在する。いつ食われてしまうかわからない。なにより、望んでここに来たわけではないのに放って置かれて死んでしまうなんて可哀想過ぎる。

 

 そんなことを考えているときであった。

 

 

 

「死ぬぞぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 真弓の声だ。反射的に振り向いて自然と上の様子が目に入る。虹色だった。大きな虹色の弾幕がこちらへと落下してきている。ここにこのままいたら間違いないなく巻き込まれてしまうだろう。

 

 

 

「やばいって!」

 

 

 

足元にいる犬を急いで抱きかかえると、真弓の方向に走り出す。しかし俺でもこの状況でさっきみたいに素早く動くことは難しいだろう。なんせ犬を一匹抱え、足元は瓦礫で埋め尽くされているのだ。

 

 

 

「‥キッツい。」

 

 

 

間に合わないこのままだと下敷きだ。心は速く進めと自分の身体を応援しているのに、身体が全くそれに答えない。もう無理か?そう思っても足は止めない。間に合わなくてもこの犬だけは助ける。それがこの犬を助ける選択をした俺たちの責任だから。今まで社会で責任と聞いても嫌な思いしかしなかったのが、この責任はかっこいいなと思った。突如、

 

ードゴーンッー

 

とそんな音と揺れが俺たちを襲った。弾幕が建物に衝突して雪崩とかした瓦礫が俺たちを飲み込まんとして迫ってくる。

 

 

 

「クソッ!」

 

 

 

 死ぬのか?終わるのか?視界がスローモーションみたいにゆっくりになる。いよいよもう駄目らしい。犬だけでもと犬を胸から放り投げる。犬は綺麗な弧を描いて入り口の近くへと着地した。思ったより死ぬ瞬間でも人間は平然としていられのかもしれない。死は突然やってくる、心がそれを理解する前に身体が死んでしまうのかもしれない。そう考えて俺は目をつむる。死体が目を見開いてたら何かかっこ悪いと思ったからだ。

 

 

 

「俺の全部をくれてやらぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 

 

 その叫びで俺は目を見開く。その声は技名を叫ぶ少女の声ではなくまさに数日を共に過ごした真弓のものであった。自分の頭上すれすれを10本の青い矢が通り過ぎ、頭上の瓦礫を粉々に砕く。

 

 

 

「あいつすげぇな。」

 

 

 

 足に力をこれ以上込められない程込めて前に飛び込む。スローモーションだった視界は通常に戻り後方で瓦礫が地面に打ち付けられる音が聞こえた。

 

 

 

「間に合えぇぇええ!!」

 

 

 

地面についた左足を沈み込ませ、地面すれすれをほぼヘッドスライディングのような形で入り口に飛び込む。真弓は気絶しているみたいだ。踏み込んだ右足は動きそうにない、この痛みと感覚からこれが肉離れであることがわかった。よって必然的に受け身を取ることができずそのまま地面に打ち付けられた。

 

手が地面に付きズザザーと顔面から地面を滑る。助かったのだ。あまりの展開の速さに驚いてその場に呆然としてしまう。右足はジンジンと熱と痛み持って動かすことができない。鼻からは温かいものが滴り、手で触れてみて初めてそれが鼻血だとわかった。隣では真弓がうつ伏せに倒れていて彼が全てを出し切ってしまったのだと直感で感じる。

 

 

 

「ありがとな。」

 

 

 

 静かにそして心を込めてその言葉を告げた。静まり返った入り口にその言葉は優しく消える。終わった。終わったのだ。異変、とんでもないものだったな。こりゃもう何倍も強くなる必要がありそうだ。

 

 

 

「どういたしまして。」

 

 

 

「は?」

 

 

 

驚いて声のした方向に目を向けてみれば上半身を起こして、こちらをニヤッと嫌らしい笑みで見つめている真弓がいた。

 

 

 

「起きてるならいえよ!?」

 

 

 

「いや、寝てるふりしてたら面白いこと聞けるかなと思って。」

 

 

 

「ふざけんなよ!ったくこっちの気持ちも考えろよ。」

 

 

 

 照れくささ半分口調がぶっきらぼうになってしまう。今までありがとう、と心から思って言ったことはあまり無かった気がする。

 

 

 

「いやぁ、助かって良かったよ。このままだとここに僕だけで残ることになってたわ。」

 

 

 

「僕って気持ち悪すぎだろ。でももう少ししたらお前の妹来るんだろ?」

 

 

 

「ははっ、間違えたわ。でも早く妹に会いたいなぁ。」

 

 

 

「お前シスコンだしな。まぁこの状態で紫の術がかかってるのかわからないし誰かにあったらまずいから帰ろうぜ。」

 

 

 

「おう。」

 

 

 

「ちょっと俺右足が動かないから肩貸してくれない?」

 

 

 

肉離れってこんなに痛かったけ?運動をしてた若い頃はこんなに身体はもろくなかったはずなのに、ちょっとショックである。

 

 

 

「しゃあないなぁー。」

 

 

 

そう言って真弓は俺の肩を担ぐと歩き出す。扉から外に出てみると、あたりはすっかりオレンジ色に染まっていて今にも夕焼け小焼けが聞こえてきたそうだ。

 

 

 

「ていうか俺たちここからの帰り道わからんくね?」

 

 

 

「・・・そうやん。」

 

 

 

「「助けてー紫サマー!!」」

 

 

 

と叫んで見るも反応はない。あいつの能力はよくわからないが何かワープできるみたいな感じだったのでそろそろ迎えに来てくれてもいい頃合いだと思うのだが、

 

 

 

「チッ、たくトロいなだからBBAは・・。」

 

 

 

「誰がBBAだこの野郎ーー!!!」

 

 

 

瞬間、目の前から紫が姿を表し怒りの鉄拳が俺の頭に飛んでくる。

 

 

 

「ゴブスッ!」

 

 

 

と情けない声を上げ地面に叩きつけられた。

 

 

 

「せっかく私があなた達のことを迎えに行って上げたのにちょっと様子を見てたら、人のことをBBA呼ばわりしやがって、取って食ってやろうか!」

 

 

 

「今の発言もどこかBBA臭い気が・・?」

 

 

 

「うるさい!!」

 

 

 

 再び倒れ伏している俺の頭に鉄拳が飛んでくる。何も抵抗ができない自分はその拳を頭で受けクラクラと目眩いがする。

 

 

 

「ふんっ!さっさと帰るわよ。」

 

 

 

くるりを紫は背を向けて出てきた裂け目の中に入って行く。なんだか今までのやり取りが自分を再び日常に戻してくれたような気がして少し笑みがこぼれた。

 

 

 

「ほらさっさと行くぞ。」

 

 

 

あろうことか、真弓は動けない俺をズルズルと引きずっていく。

 

 

 

「ちょ待てよ!痛っ、イタタタ痛い!」

 

 

 

そしてやがてあの気味の悪い空間にうつ伏せのまま運ばれ、紫宅に着く。そのまま俺は運ばれて布団に寝かされ怪我の処置をすると藍に言われた。

 

 

 

「ったく、どうしたらこんなに怪我をするんですか?この間も手をけがして・・。」

 

 

 

「なんでか?そんなの・・俺にもわからん。」

 

 

 

「なんかそういった感じの能力持ってたりして?」

 

 

 

「そんなのこっちからしたらいい迷惑だよ。ていうかそんな能力だったら俺は絶対に強く慣れない気がするのだが・・。」

 

 

 

 それだけは絶対やめてほしい。もしそれが本当だったら死にたくなってくる。出落ちすぎだろ。

 

 

 

「そう言えば能力ってものの存在今日知ったんですけど、必ずどんな人でも能力を持ってるもんなんですか?」

 

 

 

 もしこの世界にいる全ての人達みんなが能力を持っているとすれば、今目の前にいる藍や、紫はもちろん俺たちも能力を持っていることになる。

 

 

 

「いやそういう訳でじゃないですよ。なんなら普通の一般人が能力を持っていることは珍しいです。なんなら弾幕を打てる人も一般人の中にはあまりいないと思います。ただし、博霊の巫女は別ですが。」

 

 

 

「あの霊夢って呼ばれていた子か・・。何か遺伝的なものってことか?」

 

 

 

「おそらくね。まぁ能力があったほうが強いでしょうが、結局まずは基礎的な力がそもそも足りないのでそこを強化するって感じですかね?まぁ紫様に聞いてみないとわかりませんが。」

 

 

 

「俺も弾幕打てるようになりてぇな・・。」

 

 

 

さっきの真弓が俺を助けてくれたときに弾幕を撃っていた。この間俺は気絶していたから見ることはできなかったが、あのときに習得していたのだろう。

 

 正直言ってかっけぇ。俺もあいつみたいに遠距離攻撃できるようになりたい。できるようになれば確実に強くなる。この世界では弾幕ごっこによって妖怪と人間が平等に戦う事ができると紫は言っていた。つまり弾幕で戦うというのが正しい戦い方なんだろう。だから弾幕が打てるようにならなければ戦うことができないそういうことだ。

 

 

 

「結局才能ですからね。人里の者たちは多くが弾幕ごっこできませんし・・・・。」

 

 

 

「つまり俺には無理ってことか?」

 

 

 

「まぁ、これから次第ですかね?あっ包帯が切れてしまいました。ちょっと待っててください。」

 

 

 

藍は立ち上がり、その後ろの尻尾を引きずりながら近くの部屋まで歩いていく。話し相手が消え寝室に静寂が訪れる。真弓はどこかにいるのか隣に姿はない。

 

 

 

「はぁ。」

 

 

 

色々あったなと一息つきドサッと布団に寝っ転がる。今日はたくさんのことが起こりすぎて頭の中がごちゃごちゃになってしまっている。まぶたが重い。否応なしに視界が黒に染まり眠りの世界に落ちていく。もう少し話したいことがあったんだけどなと思いつつまた明日でいいっかと、諦めて迫りくる睡魔に従うことにした。

 

 

 

「あら、寝ちゃいましたか。」

 

 

 

 藍の優しい言葉が最後に聞こえた気がした。




次回は今回よりも投稿するのは遅くなると思います。次回もよろしく、さらばだ!
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