東方異譚録〜万の神人紡ぐ糸〜   作:金柑太郎

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今回は早めに投稿できました。話を、前よりもどんどん展開させていきたいなと思ってます。

頑張るので、よろしく!


二十九話 春冬異変・陸

喉の奥が焼きつくように熱い。声を出そうとしても、出てくるのは老婆のような呻き声と乾いた吐息だけだ。

 

 

 

強烈な不快感に襲われて、視界が揺れる。 脳の裏を直接殴られたような激痛。呼吸をしようとしても激しい動悸と過呼吸により胸が圧迫され、吐き気と冷や汗が全身から噴き出して止まらない。

 

 

 

(なんだ……これ……。何が起きてる……!?)

 

 

 

俺は地面に膝をつき、必死に自分の胸元を押さえる。服越しに触れる自分の心臓が、とんでもないスピードで脈動し、この状況が明らかな異常事態であることを表している。

 

 

 

「おい犬斗!? しっかりしろ! 一体何が起きてんだよ!?」

 

 

 

真弓が俺の肩を激しく揺さぶる声が、遠く聞こえる。 まるで水中にいるみたいだ。

 

 

 

返事をしたい。大丈夫だと言いたい。だが、口から出るのは少しでも苦しみから逃れようと発せられる喘ぎ声のみである。

 

 

 

少しでも落ち着くために、呼吸を整えようとしていると、遠くで何かが爆ぜるような大きな衝撃音が聞こえた。もうろうとする意識の中、先ほど倒れていた異変の主犯の方を見ると、倒れていたはずの彼女が、まるで関節の存在を無視したかのように不自然な角度で、ヌッと立ち上がるのが見えた。

 

 

 

先ほどの雰囲気とは大きく変わり、明らかに狂気じみた異様な佇まいだ。 虚ろな瞳からは完全に光が消え失せ、その口元だけが不気味な笑みを浮かべている。

 

 

 

「な、なんなのよアレは!? 急に暴れ出して……!」

 

「霊夢、気をつけろ! 様子が完全におかしいぜ!」

 

 

 

博麗の巫女達にとってもこれは想定外の出来事らしい。まぁ、あんだけ協力して倒した感出てたしな。なんで急に…?

 

 

 

(同じタイミング……?)

 

 

 

ふと、頭の中では冷や汗が凍りつき、身体からは嫌な脂汗がにじみ出てくる。 あの女が苦しめば苦しむほど、暴れれば暴れるほど、俺の胸の奥にある「何か」が歓喜に震えて歓声を上げている。

 

 

 

『あはははは! 素晴らしい!』

 

 

 

幽々子の口から発せられた狂気の高笑いが、俺の脳髄に直接響く。 ドォンッ!! と凄まじい爆音とともに、黒紫色の衝撃波が咲き乱れ、白玉楼の美しい庭園を粉砕していく。博麗の巫女や魔法使い、メイドが叫びながら回避行動をとるのが見えた。

 

 

 

「なん…だよ、これぇ。は…やく、戻れ…よぉ!」

 

 

 

自分の震える手を見る。爪が肉に食い込むほど拳を握りしめているのに、指先の感覚がない。

 

真弓が俺の身体を強引に抱え上げ、必死に後ろへ下がろうとするのが分かった。

 

 

 

(あぁ、もうわっかんねぇ。)

 

 

 

俺はどうしたらいいんだ。

 

***********************************************

 

あり得ない。一度は完全に打ち倒し、異変は解決したはずだった。

 

 

 

なのに、白玉楼の石畳に倒れていた幽々子が、関節の存在を無視した不自然な動きでヌッと立ち上がった。虚ろな瞳には光など微塵もなく、口元だけが歪な笑みを刻んでいる。

 

 

 

「なんなのよ、あの気配……!」

 

 

 

私の直感が猛烈な警告音を鳴らしていた。彼女の身体から溢れ出しているのは、いつも優雅に舞う桜の弾幕じゃない。空間そのものを腐らせるような、粘りつくどす黒い殺意の泥だ。

 

 

 

狂気じみた高笑いとともに、幽々子が両腕を広げる。瞬間、白玉楼の空が紫に染まり、漆黒の死蝶の群れが全方位へ撒き散らされた。

 

 

 

「夢符『二重結界』!!」

 

 

 

私は咄嗟に大幣を振るい、赤と白の光の壁を重層的に展開する。激しい破砕音が響き、結界の表面に黒い光弾が衝突するたび、生じた衝撃波で周囲の石畳が木っ端微塵に砕けていく。桜の木は根元からへし折れ、猛烈な爆風と漆黒の煙が視界を完全に遮り始めた。

 

 

 

「くっそ……! さっきの戦いでマスタースパークを連発しすぎた! もう一発も撃てねぇぞ!」

 

 

 

魔理沙の八卦炉は猛烈な熱気と蒸気を噴き上げ、魔理沙が悔しそうに歯噛みする。さっきの死闘で全力を出し切り、魔理沙の魔力はとっくに限界だ。

 

 

 

咲夜が時間を置き去りにする神速で距離を詰め、数十本の銀ナイフを投擲するも、触れる直前に黒い空間の歪みへと吸い込まれて粉々に砕け散る。

 

 

 

「ったく、 なんなのよ、この力は!物理も弾幕も効果なしなんて…。」

 

 

 

焦る心を何とか押さえつけ、私はおかしくなった幽々子を見ゆる。何か彼女を止める方法はないだろうか。自分の霊力も限界が近い。どうにかして、早々に決着をつけなければならない。

 

 

 

直後、空を覆い尽くしていた漆黒の死蝶が一斉に牙を剥いた。幾千もの黒い光弾が幾重にも重なり合い、螺旋を描きながら、うねる巨竜となって私たちへとなだれ込んでくる。

 

 

 

「咲夜、いける!?」

 

 

 

「ええ、お任せを……!」

 

 

 

咲夜が懐から銀時計を取り出し、カチリと音を立てて時を止めた。 一瞬で世界から音が消え、空間を埋

 

め尽くしていた漆黒の死蝶も、へし折れて宙を舞う桜の幹も、すべてが灰色に静止する。

 

 

 

その停止した世界の中を、咲夜が風のように駆け抜けた。幽々子の背後へと回り込み、寸分の狂いもなく、至近距離から十数本のナイフを解き放つ。そして、空中に固定された銀の刃が、幽々子の肌に触れる寸前で静止する。

 

 

 

──カチリ。

 

 

 

時計の針が動き出し、世界に音が戻る。 停止を解かれたナイフが一斉に速度を取り戻し、幽々子の肉体を穿つ──はずだった。

 

 

 

「──なっ!?」

 

 

 

彼女のはなったナイフは、直前に割り込んできた幽々子の弾幕によって、打ち落とされてしまう。咲夜が空中でバックステップを踏み、悔しげに眉をひそめた。

 

 

 

「マジかよ……時間停止すら通じねぇのかよ!」

 

 

 

魔理沙がオーバーヒートした八卦炉を懐に戻し、残った魔力で両手から弾幕を散弾状にバラ撒いて黒蝶の進路を逸らす。けれど、弾幕の勢いは弱まるどころか増す一方だ。白玉楼の広大な庭園はもはや原型を留めておらず、美しい階段も石畳もことごとく破壊され、崩落した瓦礫が崖下へと崩れ落ちていく。

 

 

 

このままじゃ白玉楼の本館どころか、冥界の境界そのものが破綻する。

 

 

 

「……手加減なしよ。これ以上暴れられたら、本当に取り返しがつかなくなる!」

 

 

 

私は大幣を両手で強く構え直すと、懐から数十枚の符札を一気に天空へ解き放った。

 

 

 

「神技『八方鬼縛陣』!!」

 

 

 

白玉楼の瓦礫の四方に眩い光の柱が立ち昇り、巨大な結界の陣形が幽々子を包み込む。空間ごと彼女の動きを拘束し、邪気を浄化するための絶対的な結界。

 

光の鎖が幽々子の四肢を縛り上げ、その不気味な高笑いを一瞬だけ遮った。

 

 

 

「捕まえた……!」

 

 

 

「霊夢、今だ! 叩き落とせ!」

 

 

 

魔理沙の叫びを聞きながら、私は大幣を振り下ろすべく地を蹴った。 だが──結界のただ中に捉えられた幽々子の瞳が、暗い光を宿し、ギロリと私を見つめ返してくる。

 

 

 

その瞬間、八方鬼縛陣の光の柱が、内側からドロリとした黒い泥によって汚染され、バキンッという嫌な音とともに粉々に砕け散った。

 

 

 

「なっ……結界を、直接腐食させた……!?」

 

 

 

弾け飛んだ結界の破片とともに、凄まじい衝撃波が私を襲う。二重結界で受け止めたものの、その圧倒的な質量に押し切られ、私は石畳の上を激しく転がることになってしまった。

 

 

 

おかしい。絶対にあり得ない。 幽々子自身の霊力はとっくに尽きかけているはずなのだ。それなのに、どこからこの無制限の悪意が湧いてきている?

 

***********************************************

 

爆風と黒煙の影で、俺を強引に抱える真弓の手が疲労で激しく震えているのがわかる。

 

 

 

「ったく、あのBBAどこで何やってんだよ!」

 

 

 

叫ぶ真弓の切迫した声。だが…。

 

 

 

ドクン、と俺の胸が跳ねるたび、幽々子が漆黒の死蝶を解き放つ。 幽々子が攻撃を放ち、破壊の限りを尽くすたびに、俺の脳に邪悪な感情が流れ込み、勝手に口元が引きつる。

 

 

 

(やっぱりか……。)

 

 

 

あのバケモノを駆り立てている要因は、異変の主犯自身にあるわけではないだろう。

 

 

 

おそらく俺だ。

 

 

 

なぜあの悪意の塊が、自分と同調しているのかはわからない。別に自分は博麗の巫女たちを憎んでいるわけでもなく、これといって破壊衝動にかられるような動機もない。

 

 

 

しかし、なんの因果かはわからないが、自分とあの悪意は連動している。つまり、あいつを止めるには…。

 

 

 

「真弓……頼む……っ。」

 

 

 

「な、なんだよ……急にまともな顔しやがって……!」

 

 

 

「俺を……殺せ。」

 

 

 

絞り出した低く掠れた声に、真弓の顔から血の気が引いたのがわかった。

 

 

 

「な、何言ってんだお前……!? 毒でも回って狂ったのか!?」

 

 

 

「狂ってねぇ。 早くしろ。お前も…死ぬぞ。」

 

 

 

俺の口元が、意思に反してまたピクリと歪み、邪悪な高笑いを漏らそうとする。必死に顔を押さえながら、俺は真弓へと伝えた。

 

 

 

「なぜかはわからねぇけど、あの女と俺は……繋がってんだ。おそらく、俺が生きている限り……あいつの暴走は止まらねぇ……!」

 

 

 

博麗の巫女たちの怒号と爆音が破砕音と共に響き渡る。白玉楼の庭園が崩壊していく音がする。

 

 

 

出会った時から真弓はうざい奴だったが、原因が自分で、知人が死ぬというのはどうにも嫌な気分だし、自分はこの人生に何にも悔いはない。

 

 

 

どうせ、現世に戻っても結局待ってるのは労働だ。まぁ、うざいけど、こいつも悪いやつではないしな。自分よりも人を幸せにできそうな性格してるし、まともだ。

 

 

 

「俺を殺して、お前は生きろ。」

 

 

 

「な……なに、言って……。」

 

 

 

真弓はほんとに何を言っているのかわからないような顔をして、こちらを見ている。

 

 

 

「殺せ……? お前、急に何言ってんだよ……こんな時に冗談はやめろよ?」

 

 

 

俺の唐突すぎる懇願に、真弓は完全に狼狽していた。さっきまでの焦りや怒りすら吹き飛び、引きつった笑みを浮かべてどうにか冗談だと笑い飛ばそうとしている。

 

 

 

「早くしろ。」

 

 

 

俺の口元が、意思に反してまたピクリと歪み、邪悪な高笑いを漏らそうとする。俺は必死に顔を手で押さえつけながら、言葉を絞り出した。

 

 

 

「ふざけんな!!」

 

 

 

真弓の怒号が、白玉楼を揺らす爆音を突き破って響き渡った。真弓は俺の胸ぐらを強く掴み返し、その手は激しい葛藤と怒りで震えている。

 

 

 

「 誰がそんなこと頼んだ!? 他人を生かすために自分が死ぬだなんて……そんなキャラじゃないこと言ってんじゃねぇよ!!」

 

 

 

胸の心臓がどす黒く脈打つたびに、視界の端で白玉楼の庭園が木っ端微塵に砕けていくのが分かった。それでも、真弓はしゃべるのを止めない。

 

 

 

「元々……お前なんか出会った時からうざい奴だと思ってたんだよ……。 勝手に人のペース乱して……正直、面倒くせぇ奴だとしか思ってなかった……。」

 

 

 

真弓は顔を歪め、歯を食いしばりながら怒鳴り続ける。

 

 

 

「気取った顔して、自己中で、生意気で......! 何考えてんのか分かんねぇし、人の差し伸べた手も突っぱねる! ほんと、可愛げの欠片もねぇ最低な奴だと思ってたよ!!」

 

 

 

「だったら……躊躇う理由なんかないだろ。嫌いな奴が死ぬだけだ。 労働と理不尽にまみれた元いた世界に戻るより……ここで終わる方が幸せなんだよ……。」

 

 

 

「それが自己中だって言ってんだよ!!」

 

 

 

真弓の胸を引き裂くような叫びが、周囲の爆破音を吹き飛ばした。

 

 

 

「嫌いだった...! 最初はそうだったよ! でもな……一緒にここで酷い目にあって、命がけで切り抜けて……気づいたらお前は、俺にとって『仲間』になってたんだよ。嫌いな奴のままなら、とっくに置いて逃げてるわバカ。」

 

 

 

仲間──その響きが、狂気に蝕まれかけていた俺の脳髄を、冷たく、強く貫いた。

 

 

 

「俺がなんで警官になったと思ってんだ。」

 

 

 

真弓が唇を強く噛み締めながら、胸の奥底にあった魂の叫びをぶつけてくる。

 

 

 

「目の前で困ってる奴を、傷ついてる奴を守りたくて……人を守るために俺は警官になったんだ。なんで

 

そんな俺が……自分の手で仲間を殺さなきゃいけねぇんだよ……っ!! お前が死んだら解決? 冗談じゃねい、誰かを犠牲にして生き残るなんて、俺はそんなの認めない。」

 

 

 

そして、真弓は俺の両肩を力強く掴むと、至近距離からその鋭い眼光で俺を直視した。

 

 

 

「あいつがお前と繋がってるなら、答えは一つだろ。 俺があいつをぶちのめして……お前を守る。」

 

 

 

「な……っ!?」

 

 

 

荒れ狂う黒蝶の爆風と崩落する白玉楼の中で、真弓は力強く立ち上がる。その背中には、どんな絶望的な泥の嵐の中でも、揺らぐことのない決意が現れている。

 

 

 

「歯食いしばって耐えてろ、犬斗……!!」

 

 

 

真弓が拳を強く握り締め、狂威を振るう化け物へと立ち向かうべく地を蹴った。俺は、遠ざかっていくあまりにも大きな真弓の背中を見ながらこう思った。これから何かが起こる…と。




今回は、犬斗におかしくなってもらいました。いやぁ、こんなに早く話を動かすはずではなかったのですが、自分が我慢できなくなっちゃいました。

犬斗と真弓の書き分けが文だと難しいです。なんかアドバイスください。
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