東方異譚録〜万の神人紡ぐ糸〜   作:金柑太郎

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よし今回は遅れずにすんだぞ。嬉しい。


八話 巫女の勘

「「ほら早く起きなさい。遅刻しちゃうわよ。」」

 

 

 

 その言葉で目を覚ました。

 

 

 

「今日友達と放課後遊ぶから。」

 

 

 

 寝起きの寝ぼけた声で告げると返ってきたの母の心地いい返事、ではなく

 

 

 

「お前大丈夫か?」

 

 

 

という真弓の心配した声だった。

 

 

 

「は?」

 

 

 

 慌ててまた閉じようとする目を見開きあたりを見回すと、そこに写っていたのは前に俺が目覚めた屋敷の和室の天井であった。

 

 

 

「寝ぼけてたみたいだわ。」

 

 

 

「ふーん。お前にもそんな可愛いところがあるのか。あんなバケモノみたいな動きしてんのに。」

 

 

 

「うるせぇ。そんなこと言うわりにお前ゴリゴリのシスコンじゃねぇかよ。あんな堂々と叫んでな。」

 

 

 

 カウンターのパンチが強すぎたのか真弓は眉間を抑えてうつむき黙りこくってしまう。こんなことになるのはわかりきっているのに何で叫んでしまったのは謎だ。

 

 

 

「俺たち負けたんだよな…。」

 

 

 

 そんなことお互いわかりきっているのにも関わらず、そう聞かずにはいられない。

 

 

 

「そうだよ。気絶してから丁度一日たつらしい。さっきそこで藍に聞いたからな。で晴れて今は軟禁状態というわけだ。」

 

 

 

 一番辛いはずの真弓は平然その事実を言ってのける。

 

 

 

「そっか……。」

 

 

 

 和室の一室に重苦しい空気が流れる。はぁ。どうしてこんな事になってしまったのだろうかと一瞬考えかけるも、特に現代に置いてきたものは無い。強いて言うならば、会社を無断で抜けてしまったことだろうが、正直言ってあんなブラック企業にいては会社が潰れる前にこっちが壊れてしまう。まるでマリオネット人形のように毎日指示されたことをするだけの職場。残業は確定。最悪だ。なのでこっちにいるという選択肢に気持ちが触れつつあった。

 

 しかしだ。真弓の妹を残してきている心配もわかる。俺だって真弓を冷たくあしらっているかもしれないが、良心は持っているし、人の優しさも知っている。だから真弓の辛い気持ちが痛いほどわかった。最初は警官として敵視していたが、今はもうほとんどなくなってしまった。これが吊り橋効果ってやつか?いや、やめとこう。男同士でなんて俺はそんな趣味は持っていない。

 

 

 

 なんとかならないか?と思考をめぐらしてみるも策はな‥‥あった‥。いやでもこの案は本人が嫌がるかもしれない。聞いてみないとわからないか‥。

 

 

 

 そのことを真弓に言ってみようと口を開けたとたん、目の前の空間が裂け寝不足のときの俺の目がギョロギョロと睨んできた。

 

 

 

「紫‥か。」

 

 

 

「ご名答!それにしても辛気臭いわね。もっと元気だしていきましょ!」

 

 

 

 お前のせいなんだよ!と頭を抱えたくなるが、それを我慢し、質問した。

 

 

 

「なんの要件なんだ?」

 

 

 

「いくら強くなるって言ったってまだよくわかんないだろうしね。見本を見せてあげようと思ったのよ。今日はいわゆる校外学習ね。」

 

 

 

 見本?何がなんだかよくわからんが、行く前にこれだけは言って置かなければならない。

 

 

 

「待ってくれ、お前が言う「強くなる」には条件がある。」

 

 

 

 紫はなにか見定めるように目を細め、真弓は驚いたようにこちらを振り向いた。

 

 

 

「ふ〜ん。言ってみなさい。」

 

 

 

「現世から自分の私物の持ち込みを許可することと、もうひとりここ連れてきてほしいんだ。真弓の妹を。」

 

 

 

「私に意見する気‥‥か。どうせ私がここでそれを断ったらあなた達真面目にやらないでしょ。」

 

 

 

「さぁな。」

 

 

 

「はぁ。わかったわ。認めるわよ。でもそれには色々と手順が必要なの。できても一週間後ぐらいかしら?それまで待ってちょうだいね。」

 

 

 

「あぁ。」

 

 

 

 よし。交渉に成功した喜びを噛み締めながら、真弓の方を振り向く。当の真弓は呆けた顔をしており、まるでイッちゃってる人みたいだった。

 

 

 

「あの‥なんか悪いことしたか?」

 

 

 

 聞いてみると、その焦点の合わない瞳に涙が滲み、やがて顔をつたいポツリとしたに滴った。そして彼の体が壊れかけのロボットみたいにワナワナと震えだす。

 

 

 

「ありがとぉぉぉぉぅぅぅぁぁぁぁぁぉぉぉぉぉおぉ!!!」

 

 

 

「ちょ、抱きつくなって!20近くの男同士が抱きつくなんて誰トクだよ!」

 

 

 

 まったく驚かされた。普段はあんな冷静な雰囲気をかもしだしているのにも関わらず。いざこうなって見れば、泣きじゃくって感謝してくる。少しは可愛げのあるやつだな。

 

 

 

「はぁ〜。」

 

 

 

 ため息をつくも、そのため息がマイナスのものでないことは確かだった。この瞬間、二人のあいだの心の壁が崩れ去ったということは言うまでもないだろう。

 

 

 

「ほら行くぞ!もう強くなるって言っちまたんだ。さっさと行こうぜ。」

 

 

 

 真弓は数回鼻をすすると、起き上がりこちらに頭を下げてくる。

 

 

 

「すまん。感傷的になっちまって。それと‥‥あぁー、ありがとな。」

 

 

 

 こころなしか言葉遣いのさっきよりもフランクになった気がした。この方が話しやすくて助かるな。とそんなことを考えながら、俺たちは二人で紫の裂け目をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間を抜けるとそこは森だった。新緑があたりに広がっており葉と葉の間からチラチラと陽光が見え隠れしている。

 

 

 

「おい。ここはどこなんだ?」

 

 

 

そう紫に聞いてみると。紫は

 

 

 

「この先に神社があるの。そこに行けば何で連れてきたかわかるわよ。あと、これから先は静かにしてちょうだい。あの子は色々と敏感だから。」

 

 

 

「敏感?よくわからんが黙ってついてけばいいんだな?」

 

 

 

 紫はコクリと静かにうなずくと、森の中を先陣を切ってあるき出す。道なき道を数分間歩いていくと何やら建物らしきものが見えてきた。木々の隙間から目を凝らして見てみるとその建物の柱が朱色に塗られている事がわかった。

 

「あれが神社か。」

 

 大きさとしては余り大きく無いようだが、朱色に塗られているということはきちんとした神社なのなだろう。考えることも無くなったのでなんとなく真弓の方を振り返ろうとして、神社が目線から離れた瞬間だった。

 

 

 

 ズドーンと地面が揺れた。今まで感じたことのない揺れだった。まるで地面がまるごとスッポ抜けてしまったかのようだった。地震とは全く違う余震もなにもない突然の揺れだった。

 

 

 

「っなんだよこれ、どうなってんだ!?」

 

 

 

 慌てて聞き返すと、紫は真剣な瞳でこちらを射抜きピンと伸ばした指を唇にあて、「静かにしろ」と訴えてくる。紫はこれを想定してたのか?

 

 こんなことを考えている間もミサイル攻撃のような地揺れは続いており、その揺れはけして軽くない俺の体を上下に持ち上げたり叩きつけたりしている。しかし、そんなことを気にもとめずに紫は歩いていく。

 

 そうして視界は開かれた。

 

 

 

 その先に広がっていたのは‥圧倒的な質量と光量に満たされている景色であった。

 

 いくつもの閃光玉や閃光が行き交っておりまるで昼なのに花火大会に来ているようだ。その光景は規模は違えど昨日の紫の閃光玉を連想させる。

 

 ふと、視界を埋め尽くしている閃光玉の隙間から2人の少女の姿が見えた。この状況から見て二人は戦っているのか?

 

 理解できない混乱を抱えつつも俺はその景色に見惚れる。

 

 そのままその光景に見入っていると横から脇腹をつつかれた。

 

 

 

「ちょっとボーッとしてないで聞きなさいよ」

 

 

 

 どうやら紫から話しかけられていたらしい。

 

 

 

「すまんすまん。」

 

 

 

 軽く会釈して謝ると、紫は話し出した。

 

 

 

「まずこの世界のことを教えるに当たって、あなた達の住んでいる現代と切り離して考えてちょうだい。幻想郷にはあなた達みたいな人間の他に人ならざるもの、妖怪が存在する‥」

 

 

 

「は?ちょっと待てよ‥‥。妖怪?いやでもケモミミがいたからそりゃそうか‥‥。」

 

 

 

「わかってもらえたのは嬉しいけど、いちいち突っ込まれると話が進まないから黙ってて頂戴。」

 

 

 

「すんません。」

 

 

 

「で続けるけど、あなた達が水道がなんとかかんとか言ってたけれど、そもそもそんなものはこの世界には無いの。ここは現世で幻想となったものが流れついて来る場所。それならここに妖怪がいるってこともわかるでしょ。」

 

 

 

 

 

「なるほど。今妖怪って現世じゃ物語の中の話だもんな。」

 

 

 

「ちょっと待ってくれ。紫お前まだこの話した時家にいなかっただろ?」

 

 

 

「隙間でこっそり覗いてたのよ。藍は気づいてたけどね。」

 

 

 

こいつ怖っ。ストーカーみたいじゃん。と口からでかけたが、なにかされても嫌なので黙っていることにした。

 

 真弓が納得した表情でうなずく。

 

 

 

「ここで問題ができたの。人間と妖怪じゃ力の差がありすぎるのよ。だから私は、人間と妖怪が対等に戦えるスペルカードルールを作った。」

 

 

 

「ちょっと待ってくれ。また話を止めちまって悪いけど、私は作ったってどゆこと?」

 

 

 

「あら言ってなかったかしら?この世界を作ったのって私よ。」

 

 

 

「‥‥は?」

 

 

 

「じゃあこの幻想郷が作られたのはここ数十年なのか?」

 

 

 

 驚きで声がでない俺の代わりに真弓が冷静に質問する。たしかに紫の見た目は見た感じ20ぐらいであろう。つまり彼女が生まれてからこの世界を作られたのは最長でも20年ぐらいだろう。

 

 

 

「あっこれも言ってなかったわね。私って妖怪よ。」

 

 

 

「「は?」」

 

 

 

 今度は真弓もそろった。

 

 

 

「まぁ細かく数えてないからわからないけど、だいだい5000歳ぐらいかしら?」

 

 

 

「まじかよ。ってことはお前って結構BBA‥‥。」

 

 

 

俺が言い終わる前に叱咤の言葉と鉄拳がほぼ同時に飛んでくる。どうやら触れてはいけない琴線だったようだ。

 

 

 

「本当に話が進まないんだけれど。」

 

 

 

 紫がこちらを睨みながら言ってきたので、頭にできたたんこぶをさすりながら話を先に進めるように促す。

 

 

 

「はぁ〜。何かあなた達といると疲れるわ。えーと、そう。今目の前で行われてるのがそのスペルカードバトルってわけ。ルールとしては、まず大原則として相手を殺してはいけない。それ以外は意外と自由で弾幕を撃ち合いながら相手を負かせばいいわ。しかし、このルールには醍醐味があるのよ。それはルールの名前にある通り、スペルカードよ!」

 

 

 

 もしこれが漫画だったら背後に集中線を書いて、バーンとでっかく効果音がかいてありそうなぐらいの決め顔である。まぁそれは置いといて、確かに森に木霊する激しい爆裂音の合間からスペルカードと叫ぶ声が聞こえる。

 

 

 

「スペルカード[封魔陣]!」

 

 

 

 片方の少女がそう唱えると、無数の弾幕が虚空から現れ、もうひとりをめがけて放たれる。

 

 

 

「必殺技みたいなもんか。」

 

 

 

「そうね。いわゆるスペルカードはそれを持つ人のアイデンティティみたいなもの。同じものは存在しない唯一無二の技なの。」

 

 

 

「なるほどなぁ。つまり今日お前がここに連れてきたのはこの戦いを実際にみて教えるためだったってわけだ。そして強くなるためこれができるようにならなければならないわけだ。」

 

 

 

 真弓がわかりやすく整理してくれるも、なにか一つ引っかかる。あれ?これ俺たち習得すんの?え?無理じゃね?だって俺たちただの一般人だぜ。

 

 

 

「ま、まさか、ねぇ〜。そんなわけ無いですよね?紫さま?」

 

 

 

「何言ってるの?習得しなきゃだめに決まってるじゃない。」

 

 

 

はい。詰みです。

 

 

 

「ここでは現世とは切り離して考えろって言われたろ。きっとなんとかなるんだよ。」

 

 

 

「流石に楽観的すぎるだろ!」

 

 

 

こいつこんな大雑把なやつだったか?と思わずツッコミたくなる。冷静な時と今みたいなときの落差が激しすぎる。

 

 

 

「まぁくよくよしていても何も始まらないってことよ。くよくよしてるぐらいだったら、物事をプラスにかんがえろって事だ。」

 

 

 

 初めて年齢の差がでたかもしれない。流石は人生の先輩だ。もっともなことを言っている。

 

 

 

「今日はここまでにしましょ。じゃあ戻るわよ。」

 

 

 

と紫が裂け目を開こうとしたとき一際大きい声が響く。

 

 

 

「スペルカード[夢想封印]!」

 

 

 

 今までで一番大きい揺れが俺たちを襲う。あたりに砂ぼこりが舞い、視界がクリーム色に染まる。

 

戦いの決着がついたのだろうか?少しずつ煙がよけていき視界が再びクリアになる。見てみると、赤色の巫女らしきものが、あれなんて言うんだっけ?え〜と。そうだ幣を黄色髪の魔女らしき人物につきつけている。和洋折衷だなと思いつつも、あんな少女達がこんな戦いをしていたのかと驚く気持ちの方が大きかった。

 

 

 

 さて、そろそろ帰ろうかと、その少女から目をそらそうとしたときであった。こちらのことが見えないはずの巫女がこう言い放ったのだ。

 

 

 

「そこにいるのはわかってるのよ、紫。さっさと出てきなさい。」

 

 

 

そのままこちらに歩いてくる。

 

 

 

 あれこれってまずくね?バレちゃ行けないんじゃなかったっけ?紫の方を見てみると額に手を当て呆れているのがわかる。そして紫はそのまま

 

 

 

「バレちゃったかしら?」

 

 

 

といつもどおりの口調で返事をし、俺達の前を通り過ぎていく。フワリとしたドレスで俺たちを隠すように立つと、何故か、紫の指が俺たちの額にふれる。その瞬間紫は何かをゴニョゴニョと唱えた気がした。が紫は何一つ表情を変えずにただその少女を待っている。

 

 少女はもうすぐそこにまで迫っている。しかし俺はそこから動くことができなかった。少女が紫の真ん前にくる。もうバレてしまっただろう。しかし、その少女は一向に俺たちについて触れない。

 

 は?と唖然としていると、紫の後ろにまわした手が、裂け目をさしている事に気づいた。どういう原理だかわからないが、少女には俺たちが見えてないらしい。すぐに立ち上がると、隣で座っている真弓の手を引き、裂け目に駆け込む。裂け目が閉じる瞬間、

 

 

 

「今誰か後ろにいなかった?」

 

 

 

「まさか、そんなわけないじゃない。」

 

 

 

というやり取りがあったのには流石にヒヤヒヤした。




次回がどれくらいになるかわかりませんがまた見てくれるとモチベが上がります。
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