その店の店主「森近霖之助」は、隔離された幻想郷でもっとも不安定であると言われる「無縁塚」へ、いつものように店に並べる自分のコレクション兼商品を探しに来ていた。
そこで彼がたまたま見つけた「懐中時計」は霖之助の興味と目を奪うには十分な程に、その「存在感」を放っていた。
その存在感の理由と意味を、いい拾い物をしたと言わんばかりに頬を緩めている霖之助はまだ知る由もない。
たとえここで「彼」が言葉を発していても、霖之助へは届きはしなかったからだ。
ついさっきまでは、深い深いまどろみに飲まれていた気分だ。
泥酔していたようにも思えるし、毎朝の目覚めにも感じる。
と、言っても自分は時計なので酔ったことも、特に目覚めたことも無いのだが。
何故、自分は自我を持ち、思考しているのか。
実は前の前ぐらいの主人が言っていた言葉で大抵の察しがついているのだ。
これは俗に言う付喪神ではないか、その主人は口癖のように「付喪神になるまで使ってやる」と言って、壊れても壊れても修理してくれていた、ような気がする。
とは言っても、そのあとの主人は所詮時計なぞ消耗品としか思っておらずすぐ使いやすい方へと鞍替えしてしまったのだが。
そしてその二人の主人は父と息子という関係だった、ということもつけ加えよう。
なるほど、それならば今の状況をよく説明できる、このようなガラクタまみれの棚に置かれているということは、そういう事なのだろう。
ここで気になるのは主人の行方、ではなく自分はいくらで売れたのかと言う事だ。
少なくとも、人間では気の遠くなる年月は動いていた筈だし、装飾も修理するたび磨かれ独特の雰囲気を醸し出している筈なのだ、いやそうに違いない。
ハッハッハ、と内心高笑いしていると、多分この店の店主であろう男が柔らかそうな布を持って私をとる。
よもや磨いてくれるのか、と小躍りしそうになるがここはぐっと我慢しそのうち来るであろう快楽を待っていると、ドアが勢い良く開かれる。
「魔理沙、もう少し女の子らしいあけ方は出来ないのかい? こうも毎回騒がしいと客が驚く」
魔理沙と呼ばれたその娘は、妙にニヤニヤしながらもカウンターの前にある椅子に座りお茶を急かした。
「生憎と驚く程に客がいないのだし、別にいいだろ。仮にいたとしてもこの程度で驚くような奴は早々来ないだろうし」
まぁね、と店主は急須と湯呑2つをお盆に乗せ運んでくる。
さんきゅー、と急須から緑茶が注がれた湯呑の片方を魔理沙が取ってこう言った。
「でさぁ、香霖はいつもの行ってきたんだろ? なんかいい物見つからなかったか?」
香霖と呼ばれた男、まぁあだ名のようにも聞こえるのでしばらくは店主と呼ぶ。
店主は少しおどけた。
「いつもと同じさ、それなりの物をそれなりに拾ってきたんだ」
そう言いながら、カウンターに置いてあった私を持つ、おおようやく磨いてくれるのか。
「ふーん、そのわりには大事に扱うじゃないかその時計」
少し興味を持ちながらも、魔理沙はお茶を啜っていた。
「いやぁ、何かこの時計が磨いてくれと言っているようでね。ま、勿論口をきいてくれるわけじゃないが」
そう言いながら、弱くも強くもない、いい塩梅の力加減で私を磨き始める。
おお、よいぞよいぞ店主、なかなかのテクニシャンである。
なおもチマチマお茶を啜っていた魔理沙があきれた雰囲気で。
「要するに気に入って愛着がわいたってことか。いつもの通りだな、香霖は」
「だから言ったじゃないか、それなりに、って。他に拾ったものは適当にそこの棚に並べてあるから見ていくといい」
そう言いながら店主は私が置いてあった棚を指差す。
魔理沙はやりーっ! とその棚へ一目散であった。
おおっ、そこはもうちょっと強く磨いてほしいぞ店主よ。
その瞬間、店主と魔理沙が私を見ながら、まるで時間が止まったように固まる。
はて、何かあったのだろうか?
「しゃ、喋った……」
そんな、ただの懐中時計が喋るわけなかろうに。