いた<て普通のラブコメ 作:君の心を因数分解
当真さんを探して校内をブラブラ歩く。いつの間にか、夕方になっていた。校舎の時計の短針は『log₂32』を指していた。
どうせ保健室か屋上だろうなぁ、と思いながらブラブラ歩く。流石に5時はちょっと早い。もう少し経った方が雰囲気が出る。
何となく歩いていると声をかけられた。聞き覚えのある声だ。
「おー、歩夢じゃん。何やってんの?」
「歩夢君、こんにちは」
同じ中学の佐藤君と田中君だった。上が佐藤君で、下が田中君だ。
「部活見学の途中というか何というか。もう終わったって感じだけど」
「ふーん。俺らも部活見学の途中というか、終わりというかなんだぜ」
佐藤君である。佐藤君は背が高くて大雑把なバカだ。勿論、同じ高校にいるということは自分も同じぐらいバカだ。
佐藤君は語彙力が低いため擬音をそこそこの頻度で使う。自分も同じだ。
「どこ見学してたの?」
「剣道部」
「えぇ……絶対入らないよね。冷やかしは良くないと思うよ」
田中君である。田中君は背が低い慎重な性格のバカだ。石橋を叩いて壊すタイプだが、非力で自己主張が薄いので、石橋を壊す前に叩くのに用いた棒を折ってしまう感じの人。
田中君は無駄に博識だが、その博識っぷりは勉学に置いて一切の活躍を許さない。ようするにバカだ。自分も同じだ。
「そういや、歩夢。お前はA組だってな」
「うん、そうだけど。佐藤君は?」
「おいおい。俺も田中もA組だっつーの。知らないなんて言わせねぇぞ。クラス掲示の時に確認しあったろ」
そんなこともあたかもしれない。しかし、2話辺りを読み返してもそんな描写は皆無なので恐らく初出の情報だろう。
「歩夢君は今から帰る感じかな?」
「まぁ、そうだね。今から変える感じだね」
田中君達は今から帰る感じらしい。確かに、ここは昇降口の近くだ。ちなみにだが、彼らもチャリ通である。本作に電車通の人間はほとんどいない。当真さんはどうだろうか。
ん? 当真さん? そういえば、自分は今から変える感じだった。どうせ名前も覚えて貰えない様な初登場キャラに構っている場合ではないのだ。
「せっかくだし、歩夢も一緒に帰ろうぜ。お前もどうせチャリだろ?」
「あぁ……佐藤君。悪いけど自分はこれから行く所があるんだ」
「ん? そうか。風俗か?」
「んなわけないでしょ」
「そうか。なら雀荘か」
「自分ら、高校生だからね?」
佐藤君はボケである。さりげなく説明をかっ飛ばしているが、自分は男友達相手には丁寧語ではない。流石にね。
「じゃあ、歩夢君はどこに行くの?」
「自分が風俗と雀荘しか行く所がない、みたいな言い方やめて? 普通に保健室だから」
「ほ、保健室!? どこか悪いの!?」
「性格がね」
田中君は良い奴である。自分から進んでボケになっているわけではないが、彼もバカである。結果としてツッコミよりもボケに回ることも多い。
「保健室……か。よし、田中! 俺らも行くぞ!」
何でやねん。
「うん! 良く分からないけど行こう!」
何でやねん。
「だって保健室つったら、美人の先生と相場は決まっているからな!」
それもそうか。本作はいた<て普通のラブコメをベースにしているから、その可能性は大。
「美人の先生? ダメだよ、佐藤君。3次元美人なんて、きっと歩夢君みたいな性格してるよ!」
田中君は3次元の女の子が嫌いだ。もしかしたら何か壮絶な過去があるかもしれないが、どう考えてもただの2次厨である。一応言っておくと、保健室の先生も小説のキャラなので、3次元美人というのは絶対にありえない。挿絵機能でリアルの人の写真を貼って「3次元美人!」なんてネタもやらない。いや、やれば良かったかもしれない。ちょっと後悔。
「そうか。だが、たとえ性格が歩夢でも美人なら許される!」
自分みたいな性格の美人嫌すぎる。と、一瞬思った。しかし、何だかそんな人もいた様な気がする。
……神崎さんか。確かに神崎さんは(あまり描写されていなかったが)美少女である。性格は自分みたいだが。神崎さんは美少女である。たった今、描写した。これから神崎さんは美少女だ。異論は認められない。
「じゃあ、歩夢君は許されないんだね。可哀想だよ、そんなの」
田中君、君が一番酷いこと言ってるよ。
「そうか。歩夢が許されないなら、同理論で俺らも許されねぇじゃねーか……クソッ! イケメンなんて消えろ!」
イケメンが消えたら、中の上がイケメンになるだけだ。それに多分、イケメンが消えたら人類が少子化的に滅亡するだろう。
「佐藤君、イケメンだって、イケメンになりたかったわけじゃないんだよ! イケメンだって『イケメンになりたい』って親に頼んだわけじゃないんだよ!」
何言ってんだ、こいつら。少なくとも親は『イケメンになれ』って願っただろうに。
「そ、そうだ……イケメンだって、望まない生なんだ。それでも頑張って、現実の自分と望んでない自分と一生懸命付き合って…………生きてるんだ。それを、俺は、何てことを……自分がイケメンじゃないからって……消えろだなんて、そんなの、そんなの…………あんまりじゃねーかよぉ……!」
知るか。
「さ、佐藤君。大丈夫だよ。きっと、イケメンも分かってくれるよ」
何を? 佐藤君がイケメンじゃないことと、佐藤君がバカなことしか伝わらないと思う。
「田中……ありがとう。そうだよな……俺には、こんなに優しい友人達がいるじゃないか……もうこれ以上何を望むってんだよ……」
あ、自分入ってるのね。
「さ、佐藤君……僕も……嬉しいよ。友達だ、なんてハッキリと言われちゃうと……何だか……何だか、照れちゃうね」
確かに、友達にハッキリと「友達!」って伝える機会はほぼない。だからこそ、自分みたいな引っ込み思案は「向こうは自分のこと、友達って思ってるのかな」ってなるわけだし。言葉に出してみたら、案外軽~く返されたりして、安心する感じのやつだ。「あぁ、こんな自分でも友達で良いんだな」「ちゃんと、友達いたんだな」って。
人に云うと書いて、伝える。言葉にするってのは、思春期にとっては中々にハードルが高い。動作にしてみればほんの数秒だけど、動作だけ見ればいつもやってることでしかないのに、すっごく重いものに感じる。思いを伝えるって行為は文字通り、口を想くする。
う~ん……50点だな。
「おい、何やってんだ、歩夢。さっさと保健室に行くぞ!」
「あぁ……結局、付いて来るんだね」
「当たり前だろ! もし体調が悪いのに俺らに隠してるってなったら……何て言うかその……汗臭いじゃんかよ」
「水臭い、ね。汗臭くなるのは体育と登下校の後だけだから」
おらおら~、と佐藤君は保健室に向かって歩いていく。
自分もその後ろを歩く。
田中君が自分の横を歩く。
「でもね、歩夢君。佐藤君だって、心配してるんだよ」
「うん。分かってるよ」
「佐藤君はバカだけどさ、良い人だから」
「うん。分かってるよ。勿体無いぐらいに良い奴だよ」
「でね。その……と、友達だからさ!」
「先回りしようか」
「え?」
「田中君も自分のこと、心配してくれたんでしょ?」
「あぁ……うん。ちょっと、ストレートを投げるには恥ずかしくって、言えなかったけど……」
「ありがとう……自分も今、結構恥ずかしい。変化球ピッチャーだからね」
「ありがとう、か。僕もね……あ、あ、ありがとうだよ!」
「それにありがとう」
「えぇっ!? じゃあ、それにありがとうだよ!」
「ではそれにもありがとう」
「それにもありがとうにもありがとうだよ!」
「ではではそれにも――――」
あぁ。自分は幸せだなって思える。
未来のことも、過去のことも、全部いろいろ吹っ飛ばして笑える時間ってやつが、ベタだけど宝物なんだろうな。
……あれ? そう言えば何で保健室に行くんだっけ?
…………う~ん。
あ。
当真さんか。
やべぇ。忘れてたぜ。
というか、佐藤君と田中君も一緒だと、ヤバくないか?
だって、明らかにそういう大人数で押し掛ける雰囲気じゃなかったし。明らかに主人公が追いかけて、何か格好良いこと言って説得する流れだったし。
どうしよう。
あ、そうだ。こういうのは田中君に訊こう。
「例えばさ。ギャルゲーで主人公がヒロインを怒らせた時ってどうなるのかな。シリアスな流れで」
「えーとね……格好良いこと言うんじゃないかな?」
「じゃあ、その時に男友達を引き連れてワイワイ説得したらどうなるかな」
「えーとね……男友達がヒロインと仲良しなら――――」
「あ、面識なしのね」
「それは……説得してもヒロインの心にあんまり響かないんじゃないかな」
やっぱりか。
ヤバいな。今から理由を付けて佐藤君達と別行動を取らないと。
と、そこまで考えた時に保健室に到着した。
自分は思った。
「当真さん、攻略失敗」
【あわび】
作者急旅行のため、今回の次回予告(矛盾風)コーナーはお休みします。リアルだとコロナがあるので、室内でGoogleマップを見て旅行しています。次回もこのコーナーの廃止を、こうご期待下さい。