いた<て普通のラブコメ 作:君の心を因数分解
某レプリカ「俺は悪くねぇ! だって、師匠がやれって……俺は悪くねぇ!!」
某エプロン先輩『僕は悪くない』『だって僕は悪くないんだから』
某不死身の警視「俺に質問するな」
保健室のドアが佐藤君によって開かれようとしている。
自分は考える。
この中には間違いなく当真さんがいるハズ。いた<て普通の流れからすると、主人公 つまり自分だが がヒロインをポッとさせる感じだ。
だがしかし、よくよく考えれば、そんなのは起こり得ないというのは火を見るより確定的に明らかだろう。
自分の周りを見れば中学時代の友人×2(しかもバカ)
自分を見れば格好良さの欠片もない無個性クズ陰キャ。これらにポッするのは明らかに不自然だ。どう考えても無理があるだろう。勿論、フラグである。
そうこう思考している間にも時間は平等に過ぎていく。あぁ、人間は根元的に時間的存在で三次元生物だからなぁ。無情。
この間、およそ15秒。思考が遅い。
「コンコン、誰かいませんかー! コンコン、誰かいますかー!」
佐藤君が今にも保健室に入ろうとしている。到着してから結構時間はあったのだが、未だに保健室の前だ。無駄の多いタイプのバカで助かった。
保健室の中には間違いなく当真さんがいるだろう。ちなみに、屋上に実はいるんじゃね的な描写もあったが、その可能性はない。だって、屋上には鍵がかかっているから。青春の屋上お弁当は教育委員会に敗北するのだ。
「コンコン、誰かいないんですかー! コンコン、誰もいないんですかー!」
さて、どうやって当真さんを説得しようか。今まで『佐藤君と田中君が一番の障壁』みたいな雰囲気でやっていたが、実は一番の障壁は自分がノーアイディアなことだった。
ぶっちゃけ、今まで掘り下げ回の1つもなかったので、当真さんのバックボーンが分からないのだ。普通、シリアスというのは掘り下げ回とか、何か過去を匂わせたりだとか、然るべき手順を踏んでからやるものだ。こんな唐突に来てもらっても困る、というのが現状。
「コンコン、入っちゃいますよー! コンコン、入ってしまいますよー!」
どうしよう。
と、その時だ。田中君がチョイチョイと佐藤君の袖を引っ張った。
「佐藤君、流石にもう入っても良いんじゃないかな……」
「そうだな。コンコンって口で言うのも疲れてきたしな」
口で言ってたのか。いや、ノックしろよ。
「あのね、佐藤君。コンコンは手でやらないと」
それに賛成だ!(日向創)
「口で言っちゃうと咳してると勘違いされちゃうよ!」
保健室の前だから案外あるかもしれない。いや、んなわけあるか。
「そうだよな。でもな。俺が叩けるのはインターネット上だけなんだ……!」
他人じゃなくて性格を叩き直せ。
「じゃあ、保健室で直してもらったらどうかな?」
失礼しまーす。性格が悪いので保健室に来ましたー。
いや、迷惑。行動が本当に性格悪い奴のそれだから。
「その解釈はなかったぜ! まさに自由自在の解釈だな!」
「違うよ、変幻自在だよ!」
両者の違いが分からん。
ちょっと待て。話が……というか思考が進まない。
自分は2人の間に割り込んだ。
「ねぇ、佐藤君に田中君さ。何で来たの?」
佐藤君は即答した。
「だって、歩夢。お前、何かしようとしてただろ」
「そりゃそうだけど。理由なく保健室に来る人はいないと思う」
「また、考えなしに……か?」
急に核心を突かれた。
廊下の壁に画鋲止めしてあるポスターの端っこが揺れていて、初めて窓が開いていることに気付いた。
確かに佐藤君の言う通り、自分は何も考えず、何も意識せず、何を為そうとも思わず、ここに来てしまった。
これは自分の悪い癖の1つだ。直面した問題に対して、思考停止して当たる。それで実際に何とかなってしまってきたから、今でも治ってない癖。
勿論だが、今までにそれを匂わせる描写はない。初見の情報だ。
「歩夢君はね? 勉強はともかくとして、とっても凄いんだよ。ボク達なんかよりもずぅっと頭が良い」
「そんなことはないよ、田中君」
「いや、自分は自分を内側からしか見えないから……悪い所の方が一杯見えちゃうから、そう感じちゃうだけだよ。歩夢君はもっと自分を自覚した方が良いよ」
「そんなこと急に言われても……そうだよ。何で急にそんなことを言い出したんだ……?」
田中君は「それはね」と言ってから、佐藤君と目配せを交わした。
「友達だからだよ」
あまりにも絶好球過ぎて、かえって打ち損じてしまう。そんなストレート。
「こういうのって、歩夢はそんな好きじゃないかもしれないけど……それでも、歩夢はやればできる奴なんだよ。できるのにやらないなんて、勿体ないだろ? 当たり前だけど、歩夢ができる奴なのは歩夢自身が望んだわけじゃねぇ。環境とか、巡り合わせとか、色々噛み合っただけだ。あぁー……何か俺じゃ上手く言えないけど、とりあえず頑張って欲しいんだよ!」
唐突にシリアスだね、とだけ返した。2人の顔を見て、自分の声が掠れていると感じた。
何でだろう。別に悲しいわけでも、怒っているわけでもないのに。いつも通りのお気楽な返事のハズなのに。ちゃんとしたプロセスや伏線があったわけじゃないのに。
返事をすることが急に難しくなった。無意識の内に頭をわしゃわしゃしていた。
「うん……ありがとう。」
少しだけ、自分にできる分だけでも、頑張ってみるか。
「なぁ、歩夢。お前、高校入った時にケータイ機種変したろ」
「そうだけど。あ、伝え忘れてたね」
「ほれ、LINE交換すっぞ。あと、Gmail教えろ」
「はい」
ポケットからスマホを抜き出し、連絡先を交換する。そうだよ。今の時代はLINEだよ。
田中君とも交換して、設定を済ませた。
「これでいつでも連絡できるね。何かあったら……いや、困ったら言ってね!」
おっと、また泣かせに来やがって。この2人といると、自分がストレートに弱いことに気付かされてしまう。
「じゃあ、行ってくる」
保健室のドアを開けると、奥のベッドに誰かがいた。カーテンに遮られた向こうに人の気配がある。そこから、ここ数日で聞き慣れた声が飛んで来た。
「全部聞こえてるわよ、バカ!!」
深呼吸を1回だけして、奥のベッドの方向へと歩む。
「ほら、脱線するのが男子高校生ってやつじゃないですか。そうでしょう、千佳さん」
即座にレスポンスが返って来た。
「誰がトリオンお化けだ!」
思わず笑ってしまう。あぁ、何だ。大丈夫だ。いけるな。
「な、何が可笑しい!」
「おっと、琉球出身でしたか。宇水さんは」
ツッコミがカーテンの奥から聞こえる。
さぁてと。とりあえず、何か良い感じにいつもの雰囲気に持っていこう。
「あんた、さ。何で来たの? 別に放っといても良かったじゃない」
「それは――――」
その言葉への返答は見付けてある。これで当真さんの攻略フラグはビンビンになる。
それは、勿論――――
「友達だから、ですよ」
完璧に決まった。急にこんなこと言われて嬉しくない高校生はいるだろうか、いやない。反語。自分も言われて嬉しかったんだ。いわんや、当真さんも……というやつだ。
1拍遅れてレスポンスが飛んでくる。
「ばっ、バッカじゃないの!?」
勝ったな。
【お知らせ】
――――――――のフラグが建ちました!