いた<て普通のラブコメ   作:君の心を因数分解

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展開「雑じゃねぇよ、適当なんだよ。両者には明確な壁があるからな」

作者「そうなのか……!」

展開「(こいつ……バカだ……!!)」


クソ展開かくあるべき

 「――――だから、スパゲッティより細いやつがスパゲッティーニ。それよりももっと細いのがフェデリーニで、フェデリーニよりもずっと細いガリガリ君がヴェルミチェッリ。つまり、スパゲッティってのは"こういう太さのパスタですよー"ってことを表しているんです」

「へぇー……って、違うわよ! あんた本格的に何しに来たの!? 何の話!?」

「いやだから、スパゲッティというのは太さを……」

 

おっと、ついつい話過ぎてしまった。未だにカーテンの奥から出てこようとしない当真さんの影は随分アグレッシブに揺れている。

 

「ここからが面白い所なんですけどね」

「ここまでがつまらなかったから、ここからにも期待できないんですけど」

「まぁ、そうですよね…………スパゲッティの中でも――――」

「続けるの!?」

「冗談です。それに、今から20分は語れる程の知識は持っていないので」

「持ってたら20分はあんたの謎知識を聞かされてたのね」

 

 持っていたとしてもそんなに話すわけがない。

 ま、冗談はこの辺にしておかないと、そろそろ当真さんがベッドの中にくるまって籠城を決め込むかもしれない。

 ウォーミングアップは終わりにしよう。

 

「この保健室に入る前、自分は一応色々考えていたんです」

 

 単刀直入に話を切り出さず、少しズレた所から話を始めると仔細ありげな雰囲気が出る。良く分からないシリアスな雰囲気を感じ取った相手は、地雷を踏む可能性を考慮し、何かするにもとりあえず話を聞いてから……と大人しくしてくれることが多い。

 

「どう言ったら良いのかなって考えてはいたんです。でも、どんな言葉をシミュレーション上で投げ掛けてみても返答や展開が定まらない。いくつか可能性は考えられるけど、ブレていて、結局どうなるのか分からない。だから自分は思考を停止して、相手のレスポンスに反駁せずに臨機応答して、何となく切り抜けようとしていたんです」

 

 この言葉達だって、今からの言葉達だって、さっき考えたばかりの何となくでしかないのだけど。「何となく切り抜けようとしていたんです」とか言って、何となく切り抜けようとしないぞって文脈のオーラ出しておきながら、今だって何となくでやっている。

 でも途中で都合の悪いことから逃げても、終わりと始まりさえ良い感じなら、別に良いよね。

 

「で、どうしようかなって考えてみたんですけど……どうしようもないんですよね。で、それも何でかって考えてみたんですよ。そしたら分かったんです」

「……何が?」

「さっき自分は恥ずかしげの欠片をダイソンで吸い取ってから『友達だから』なんて歯の浮くような台詞を吐きました。それは恥ずかしかろうと事実だと思うんですよね。でも、それだけです。それだけなんですよ。自分と当真さんはお互いのことを何にも知らないんです。その機会が全くなかった」

 

 とっくに答えは出ていた。

 自分は……自分も当真さんのことを知らない。

 

「バックボーンも何も分からないのに、何か良い感じにやれるわけないじゃないですか。当真さんもそう思いますよね?」

「……えぇ」

「はい。じゃあ、答えも出たのでおしまいです。このお話は終わりました。ご清聴ありがとうございましたー」

「……は、はい?」

 

 何やら色々すれ違ったりしちゃった当真さんを説得する。このクエスト自体が間違っていたわけだ。早過ぎた。時期尚早だった。

 深呼吸を1回した。

 

「だから、自己紹介でもしようかい」

「……つまんな

 

 グサッ!

 即レスだった。自分としてはベストタイミングだったのだが。

 

「あんたの言いたいことは十分に伝わったわよ。自己紹介すれば良いんでしょ?」

「はい、そうです。あ、真面目にやって下さいね」

「どの口が言ってんだ!」

「この上の口です」

「人体に上の口もないから」

 

 未だに彼我の間をカーテンが隔てている。この作品のことだし、もしかしたら、カーテンの奥の影が当真さんじゃないかもしれない。自己紹介はちゃんと聞いておこう。

 

「当真 宏美……当てるに真実の真。広いにウかんむりの宏に美しいの美。誕生日は8/11。血液型はA型。こんなもんかしら?」

「そんなもんですね」

 

 次はそっちだ、と当真さんは言った。

 俺のターンってやつだ。きっちり決めていこう。

 人生で真面目に本気で自己紹介をする機会は少ない。というかない。少なくとも自分は今までしたことがない。

 ちょっとだけ、緊張する。

 

「森部 歩夢です。木が3つの森に部活動の部。歩く夢と書いて歩夢。誕生日は3/21。血液型は確かO型。書く字はガタガタ。こんなもんですかね」

「そんなもんじゃない?」

 

 そうか。こんなもんか。意外と淡白な情報しか交換できなかった。

 質疑応答タイムにでも洒落込むとするか。

 

「そういえば当真さんって、兄妹とかいるんですか?」

「兄妹? いない。一人っ子よ。そういうあんたはどうなの?」

「いませんよ。一人っ子です。兄妹とか憧れますよね」

「そう? 実際いたら『一人っ子とか憧れますよねー』とか言うんでしょ。どっちだっておんなじよ。どっちかしか体験できないんだから」

「そういうもんですか」

「そういうもんよ」

 

 何気ない会話こそ、自分が相手に対して抱いている先入観的なパーソナリティと本来のパーソナリティの差を埋める最高のタイミングらしい。生憎、自分は基本的に脳死で喋る人間なので、そんなことはできない。でも、ちょっとだけ考えに触れることは、触れたことに気付くことはできる。

 当真さんは意外とドライな考え方をするようだ。ロマンがないのだろうか。

 

「でもですね、当真さん。自己紹介ってのはやっぱり『名前と好物とよろしくだけ言って、はいおしまい』ってものじゃいと思うんですよね。何かそういうのじゃないと思うんですよ」

「じゃあどういうのなの?」

「そうですね……では、どん兵衛を美味しく頂く準備をしましょうか」

「10分も語るの? 長くない? 自己主張激しくない?」

「そうですね。キャストオフしますから、ちょっと待って下さい」

「何で0か100なのよ! 二元論の極みなんだけど!?」

 

 ふと、良い感じに決まりそうな台詞を思い付いた。言ってみるか。

 

「当真さん、保健室で2人きりなんて……こんなシチュエーションを経験する高校生の男女って珍しくないですか? もう、ライトノベルですよ」

「2人っきりじゃないわ。あんたとあたしが一人っきりでいるだけよ」

「そんなに自分との二人っきりが嫌ですか?」

「嫌じゃないけど、良くもない」

「そうですか。じゃあ、いまから一人っきりらしく、無言になりますね」

 

 自分はそう言い残すと、勝手にパイプ椅子を拝借して座った。困惑する当真さんを尻目に無言を貫く。

 無言の時が流れた。体感時間は長かったが、保健室の時計の針は僅か3周。自分は恒例の暇潰しである『脳内アニソンメドレー』を開始した。

 気付けば、10分間も無言で過ごしていた。当真さんがポツポツと呟く。

 

「あのね……何か急に怒っちゃって、ごめんなさい。あたしは……あんなの大したことじゃなかったんだけど、自分でも『何でこんなことで怒ってるんだろう』って思ってるんだけど……何か、切れちゃって。何故か、急に」

 

 当真さんの言っていることは分かるかもしれない。全く関係のない日常の些細なことから積もって、溜まって、そびえ立ってしまったストレスがジャブにも満たない鬱憤で、そのバランスを崩してしまう。自分ではストレスが倒れて誰かに当たるのを止められない時。

 

「謝って済むなら、警察はいらないって言うし、あたしが悪かったのがなくなるわけじゃないんだけど……ごめんなさい」

「『謝って済むなら警察はいらない』……か。自分はそうは思いませんけどね。謝る心があるなら、ごめんなさい1つで済むなら、警察はいらないことはいっぱいあるって思うんです。素直に、思いのままに、実直に、直接に、直裁的に『ごめんなさい』が言える勇気があるのなら、大概の人は許してくれると思うから」

 

 ガラにもなく格好良いことを言ってみる。言葉は格好付けているけど、内心は平常心。いつも通りの通常運転。でも、ちょっとばかり恥ずかしい。

 

「……森部、ありがとね」

 

 カーテンが引かれて当真さんが出て来た。

 自分が笑いかけると、当真さんも笑い返して来た。

 

「調子に乗んないでよね」

「それは勿論、言われなくとも。調子は上げるものですからね」

 

 時間的解決。

 実際に直接解決してやる必要はない。迂遠な話し方をして、婉曲に意味深なやり取りをして、時間が経ったら頭は冷える。高校生にもなると、大概の人は()()()だから、時間さえ与えれば勝手に立ち直ってくれる。

 文字数にして何千字程度の時間があれば、小説のキャラの悩みなんぞ、大体は解決してしまうのだ。

 

 


 

 

佐藤「つまり、そういうことだったんだぜ!」

 

田中「僕らって、遅延行為のためだけに登場したんだ……」

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