いた<て普通のラブコメ   作:君の心を因数分解

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現代文は相対性に得意教科です


約5000字で解決する文学的文章の類いの悩み

 昇降口に着くと、下駄箱の影に隠れていた神崎さんを発見した。

 なぜかスペシウム光線のポーズを取りながら、影から出て来る。

 

「おはようございます、神崎さん。何してるんですか?」

「春の風物詩です。楽しいです」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「夏の風物詩でしたっけ?」

「季節の問題じゃないです」

 

 制服を叩き「1限目って現代文でしたっけ」と呟いた。そうですね、と肯定する。

 

「じゃあ、ブッチしても問題ないですね」

 

 そんなわけがない。まだ最初の定期テストも行ってない内に授業のサボタージュを決行あうるなんて、仮にも進学校の生徒として褒められた行為じゃない。

 

「それは流石に良くないですよ、神崎さん」

「所詮、現文ですよ? 何か問題でも?」

「現代文を舐めすぎですよ。文学的文章はどうせ解き方ワンパターンなんで置いといても……評論文は経験がものを言いますからね。問題大ありです」

「問題が嫌いなんですか」

「解答も嫌いですけどね」

「じゃあ、勉強が嫌いなんですね」

「面倒臭いのは嫌いじゃないんですけど、苦手なんです」

「そうですか。私は嫌いなものが面倒臭いなんですけどね」

「どこの京都の大学生ですか……」

 

 神崎さんはサボらない、という選択肢を除外しているらしい。

 先生には何か言われるだろうし、知らない仲じゃないので「神崎さんは今日はお休みですよ。あれ、連絡行ってないんですか」ぐらいは言ってあげよう。

 神崎さんに一礼して教室に向かおうとした時、後ろから声がかけられた。一旦止まって振り返る。

 

「当真さんのは上手くいったんですか?」

「上手くいったかは分かりませんけど、丸くは収まったと思います」

「そうですか……あの、ついでに私もシリアスして良いですか?」

「……はい?」

 

 だから、と繋げて。

 

「私もついでにシリアス回を済ませておきたいんです」

 

 自分は反射的に返した。

 

「本当にシリアスなら、自分から『シリアスする』なんて宣言しませんよ」

 

 神崎さんは本当に変な人だ。自分からシリアスを宣言する奴がいるか。

 

「でも、こんな軽いノリじゃないと、本心なんて怖くて話せないじゃないですか」

 

 神崎さんは本当に変な人だ。この流れから、自分のストライクど真ん中を貫くストレートを投げてくる。キャッチャーのリードが絶妙を極め過ぎている。対自分に特化し過ぎの台詞だ、それは。

 いや、この場合だと神崎投手の捕手は自分なんだから当たり前と言えば当たり前か。

 『本心なんて怖くて話せない』。当たり前だ。他人に話せないから本心だ、という見方もある。

 だから疑問に思ってしまう。

 何で神埼さんは自分に本心を話す気になったのか。あまりにも論理性とか、整合性とか、意味がなさすぎる。まぁ、そんなものはないのかもしれないけど。

 

「屋上に行きましょうか。あそこなら、誰も来ない」

 

 しかし、神崎さん。屋上には入れないよ。

 自分がそう言う間もなく、神崎さんは屋上へと続く階段をダッシュで駆け登っていった。

 どんだけシリアス回が楽しみなんだ。楽しみにするものじゃないでしょうに。

 自分はやれやれ系主人公の如く、無駄に「やれやれ」と呟いて階段を登った。勿論、周りには聞こえないように超小さい声で。

 


 

「ロックされてますね」

 

 ゆっくりと歩き、神崎さんに追い付く。屋上前では神崎さんが屋上に続くドア(閉)に立ち尽くしていた。てっきり先程のやり取りから、鍵ぐらいならハンマーでぶっ壊すのかと危惧していたが、そんなことはないようだ。

 

「仕方ないので、歩夢さん。今からドアに向かって『堅牢にして禁忌なる異界の扉よ! 今、我の前に立ち塞がりし愚かなる貴様に王の宣告を言い渡そう……処刑だ!』ってやってくれません?」

「何でやる必要あるんですか」

「音声認識で開くかなーって思いまして」

「もう既に自分自身で言っていることをお忘れなく。自分がやる理由がないです」

 

 「中々、良い案だと思ったんですけどね……」と言いながら、自分のいる階段の所まで戻って来る。スカートをくるっとやって、階段に座った。自分はやれやれ系主人公ムーヴを継続させながら、横に座った。神崎さんが階段の左端に座ったので、自分は一番離れた右端に座った。間には1人分の隙間がある。

 

「私はですね。欲しいものがあるんです。私が欲しいもの、分かります?」

「富、名声、力とかですかね」

「違いますよ。そんなゴールドなものじゃないです」

「じゃあ、ロジャーの方ですか?」

「海賊王になりたいわけじゃないです」

 

 神崎さんは「シリアスなんですから真面目にやって下さいよ」と珍しく怒り気味で言った。

 だからそれを言っちゃあシリアスじゃないんだって。

 

「愛ですよ、愛。実に陳腐で下らないでしょう?」

「愛……ですか」

 

 正直予想外の答えだった。神崎さん程の変な人ならもっと奇抜なものとか、回りくどい物言いをすると思っていた。

 にしても、これまでにそんな答えを彷彿とさせる描写はあっただろうか。いや、ない。おそらくこれも何の脈絡も文脈も論理性も整合性もなく出現した設定だろう。

 と、ここまで考えた所で1つだけ可能性があったことを思い出した。

 神埼さんに忠告されたので、シリアスな雰囲気を纏った。

 

「もしかして、お兄さんのこと……ですか?」

「え? いや、全然違いますけど」

 

 読み違えた。完全に読み違えた。

 即座に飛んで来た神崎さんのレスポンス具合から、本当に違ったことは自分でも理解できた。

 あー、恥ずかしい。シリアスな口調で言って損した。絶対に後で弄られるミスだわ、これ。

 

「ラノベ好きな歩夢さんなら分かると思います。何で私が欲しいものが『愛』なのか」

 

 ラノベ好きと言っても詳しいわけじゃないが。

 何かのネタなのだろうか。確かに神崎さんはこちらが振ったネタをことごとく打ち返してくれる。壁でも相手にしているんじゃないかってぐらい毎回打ち返してくれる。それだけラノベとかについての造詣が深いのだろう。でも、それを自分にも期待されちゃあ困るって話だ。ラノベよりも森博嗣とか、東野圭吾とか、森村誠一とか、ミステリの方が数読んでるかもしれないってレベルなんだぜ?

 無理だろうな、と思いながら会話を一応遡ってみる。と、その瞬間。ふと、天佑神助。僥倖の如く、望外のカードは舞い降りた。得た答えは描写に見劣りするけれど。

 というかこれはラノベ好きというより、西尾維新好きなんじゃいか……? いや、それだと西尾維新に失礼か。これはただのダジャレだ。あぁ、だからこその昇降口での会話か。

 

「違ったらアレですけど。もしかして、愛ってダブルミーニングなんじゃないですか?」

「……正解です!」

 

 良かった。合っていた。予防線を貼る必要はなかったか。

 神崎さんはシリアスな話をするとは思えない笑顔で語り始めた。

 

「私には自分がなかったんです。何をするにも、何をしたにも、何を考えるにも、何を考えないにも、自分の自由意思が介入していないような気がして……どこまで言っても薄っぺらくて、空っぽで、平べったかった」

「胸の話ですか?」

「良ぇですよ、良ぇ。悪くはないです」

 

 神崎さんは「自分は薄っぺらい」と言った。それも当然だろう。だって、まだ掘り下げ回やってないんだし。

 

「私って実は、すっごい怖がりなんです」

「怖がり?」

「はい。さっきもチラッと言いましたけど『本心なんて怖くて話せない』んです。だから、本心を出さないように、自分が否定されないように……自分じゃなくて否定されても痛くないものを使って逃げているんです」

 

 あぁ、分かってしまう。何となくだが、共感できてしまう。

 youtubeのコメ欄にネタ構文をコピペして回るアカウントがあるように、掛け合いの中にラノベネタなり何なりが良く出てきたりするように、相手が動くのを待っているだけの人間がいるように、ブレブレの言動と原動と行動で生きている人間もいるように……そういうのも全部が『否定されるのが怖いから』の延長線上にあるのだろう。

 否定されるのは、誰だって怖いから。

 

「私は怖くて恐くて、虚構と虚勢と恐怖で彩られたガワに引き込もって、今までそうやって生きてきて……なんて言ったら良いでしょうか。そう、神崎陽彩はただのキャラクターなんですよ。文字通りの、ね。それに頼っている内に、守っていたハズの私まで見失っちゃっただけなんですよ」

 

 じゃあ、何だ。第1話時点でのツッコミ役臭が微かにする方が本体だとでも言うのだろうか。

 

「いいえ。それだってガワですよ。私、誰にも構ってもらえないのも辛いので、初見の人にはなるべく普通の娘っぽく接しているんです」

 

 またしても地味に共感できてしまう答えだ。

 どんなに勉強をしても科目でトップはとれない。どんなに練習をしても体育は上の下どまり。でもね、変なしゃべり方をする自意識過剰の女を演じている限り 皆が注目して喜んでくれた。楽しかったけど、ずっと怖かった。本当の自分がばれたら、きっと軽蔑される。

 パワポケ10でしあーんを何回も攻略している自分に隙はない。嘘だ。隙も好きもありまくりだ。

 向こうが言って欲しい言葉は分かっている。いや、分かっているつもりだ。自分がやられて嫌なことは相手にはするな、と言う言葉がある。逆に言えば、自分がやられて嬉しいことは相手だって嬉しい……かもしれない。少なくとも、無から嬉しいを産み出すより、自分の嬉しいが相手にも適応されることを祈った方が可能性は高い。

 

「変わろうとはしなかったんですか?」

「変わるって大きいじゃないですか。プラスを引っ張って来れずに、大きいマイナスを喰らってしまうのって怖いんですよね。だから、変わらずに小さいマイナスに耐える方を選んでいるんです。現状の保留は楽ですから」

 

 本心を出すのが怖い。でも、キャラクターだけでいるのも嫌だ。

 変わるのも怖い。でも、変わらないのも嫌だ。

 せめて、自分に芯があればな。アイがあれば、それに従うだけで良いのに。辛くても、嫌な思いをしても、自分があるなら迷わないのに。

 自分はカッコいい言葉をジャストでぶち当てることはできない。それっぽい言葉あうら、満足には言えないだろう。

 だから、ゴリ押す。

 自分でも何言ってるか分かんないような適当な言葉の猛襲でゴリ押す。多分、それが今の自分にできるベターだ。

 

「神崎さんはガワが嫌なんですか? 現状を保留してしまうガワが大嫌いなんですか? 自分は違うと思いますね。例えガワでも、本心に合っていないと着ていられないはずだから。傷付きたくないって思って着用した鎧自体が心に傷を付けてりゃ意味ないですからね。だから……」

「だから……?」

「ガワだって神崎さんの本心なんですよ。表面だって自分の大切な一部なんです。ポッキーだって、チョコがないと美味しくないプリッツでしょ?」

 

 神崎さんからシリアスを語った理由を考えてやれば良いだけの話だ。

「何でシリアスを語ったのか?」「悩んでいたから。そして、それに反応してもらいたかったから」

 ようするに、男子高校生と文学少女だ。それっぽい言葉さえあれば良いんだ。自分じゃない、誰かからのそれっぽい言葉が。

 どこの馬の骨とも分からない他人の言葉じゃ、心には響かない。でも、友達からの言葉ならダイレクトに響く……はずだ。自分で実証済みだが、やっぱりちょっと不安でもあるな。

 さて、そろそろフィニッシュだ。とりあえず「友達だよ」ってストレートをぶん投げれば、大抵の人は嬉しい。仲間がいるってのは、どんな人にも通じている普遍的な嬉しさだ。

 

「さて、そんなのはどうでも良いんです。ガワとか、本心とか、キャラとか。今自分にとって大事なのは、それでも自分にとっての神崎さんは、ここにいる貴女オンリーだっていうことなんですから。ガワもキャラも中の人も全部引っくるめて、自分にとっては『神崎陽彩』なんです。どんなシリアスされたって、これからも変わりませんよ。だって、自分は神崎さんの友達なんですから」

 

 勢い任せに言ってから気付く。これはもしかして、かなり酷いことを言ったのではないだろうか。"友達"という嬉しさを利用して、神埼さんに自分の残酷さを押し付けただけなのではないだろうか。しかし、そんな思考も後の祭りだ。

 今自分にとって大事なのは、やっちまった過去のことじゃなくて、目の前の人のことだ。

 神埼さんの声が聞こえる。近くにいるのに、本心をぶつけあっているのに、お互いの感情なんて全然読めない。小説の主人公みたいに上手くはいかない。小説を読んでいる時みたいに上手くはできない。

 

「これからも……ですか」

「はい」

 

 だから、自分は神崎さんを見た。感情なんて読めないから。どれだけ近くにいたって思いなんて普通は伝わらないのだ。掘り下げ回のひとつですらやってないなら尚更だ。だから、自分は神埼さんを見た。頭で分からないなら、直接見て確かめるしかない。

 神崎さんもこちらを見ていた。そういえば、こうやって目と目が合うことはほとんどなかった。ちゃんと見詰め合ったのは、一番最初ぐらいだろうか。

 自分はこんな状況なのに、思わずにやにやとしてしまう。歪む口元を隠しきれない。でも、そんなこと隠す必要はない。好みの女の子を見てにやにやしちゃうことの何が悪い。

 神埼さんは最初から変わらない笑顔で言った。

 

「『これからも』なら、1つだけ約束してくれますか?」

「できることなら」

「……私のこと、嗤わないで。でも、私の前では一杯の笑顔で居て。それで、私をたくさん笑わせて」

「……勿論。それに、今だって笑ってるじゃないですか」

「そうですか? ……笑えています?」

「はい。ちょっぴり、泣いていますけどね」

 

 そんな描写入れないで下さいよ、恥ずかしい。

 神埼さんの言葉はに被さって、チャイムが鳴った。朝のSHRまで残り5分を知らせる予鈴だ。

 

「神崎さん、まだ全然今日の授業に間に合いますよ」

 

 神崎さんは制服で目を擦ると、立ち上がってスカートをはたいた。

 

「登校してから、SHRまでに終わってしまう程度の悩みなんですよ。所詮、高校生の悩みなんてそんなもんなんですよ」

「どうせ自分達なんて文学的文章の類いですからね」

「そうですね。私って、ほんっとうにちっぽけです」

 

 2人ともテンションが上がり過ぎているのか、あんまり頭も口も回っていないやり取りだった。朝イチは頭も身体も本調子じゃないのだ。でも、朝イチでもないと、こんな話はきっと出来なかった。

 自分は笑って神崎さんに言った。

 

「本当にちっぽけですよね……胸の話でしたっけ?」

 

 神崎さんは階段をジャンプして降りる。さながらウルトラマンガイアのようにドシーンと着地。くるりと振り返ってた。

 

「実は私、胸の大きさはそんなに気にしないタイプなんです。だから、胸の話ではないです。それに、そこまでちっぽけでもないです。胸の話なら」

 

 何がツボったのか、2人してたくさん笑った。

 

 


 

 

次回からは迫り来る侵略者達との超能力バトル編に入ります(白目)

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