いた<て普通のラブコメ 作:君の心を因数分解
よって、ネーミングセンスはなくても良い。
高校生になって2日目。色々な感情がエモーシャルにエモーションしてアブゾーブにソルーションしたりとかそういう描写が必要な気がするけれど、そういうのは面倒だし、何より思考よりも目の前の人間を優先するのがいた<て普通の考え方である。
自分は目の前にいる神崎さんに挨拶をした。
「神崎さん。朝っぱらから昇降口前で突っ立っている所、おはようございます」
「おはようございます。朝っぱらから昇降口前で張り込みしていた神崎です」
昇降口に入ろうとする。
神崎さんがすっと横にズレる。
対面してしまったので自分は少し横にズレる。
神崎さんがすっと横にズレる。
対面してしまったので自分は少し横にズレる。
神崎さんがすっと横にズレる。
対面してしまったので自分は反復横跳びをする。
神崎さんがすっと影分身をする。
「何やってるんですか、神崎さん……」
「それはこっちの台詞です。急に反復横跳びしないで下さい。目が回ります」
「それはこっちの台詞です。急に影分身しないで下さい。色々と物理法則に右ストレートをかましています」
何だかんだ言いつつ、神崎さんは最終的に道を譲ってくれた。一体、何がしたかったのだろう。
自分は神崎さんに訊いてみた。
「それはですね……」
神崎さんは自分の下駄箱を開けると、中から紙切れを取り出した。
「これです」
「……授業変更のお知らせ?」
「ラブレターですよ! 下駄箱に入れるのは靴と屈辱とラブレターだけですよ、普通」
「はぁ。にしても、随分と古風ですね」
「まったくです。時代設定を間違えてませんか? もう、令和ですよ?」
第n回お前が言うな選手権初戦突破おめでとう。
ラブレターは淡いピンク色の紙っ切れで、ハートのシールで封をしてあった。
淡いしか色の表現がないのかよ。色んな意味で、薄い。
神崎さんはラブレターをこっちに向けた。
「どうしました?」
「読んで下さい」
まさかとは思うが、自分宛だったのか? まさか、ね。
神崎さんの下駄箱から出てきたからてっきり、神崎さん宛かと思っていたが違うのだろうか。
いや、そう考えると合点が行くことがいくつかある。面倒なので全部は説明しないが。例えば、神崎さんが昇降口前で張り込みをしていたこと。例えば、ラブレターが自分の下駄箱に入っていることに驚きの色が見えないこと。例えば、ラブレターの封が切られていないこと。例えば、入学して2日目でラブレターを出すというのは阿呆の所業だということ。
「……何で自分が読む必要があるんですか?」
「酷い台詞ですね。歩夢さん宛だったらどうするんですか?」
「自分宛なんですか?」
「だったらどうします?」
ふーむ。自分宛ではないようだ。じゃあ、気にする必要はないか。嬉しく思った瞬間に「嘘でしたー!」ってやられて悲しむことはないようだ。いやね? ちょっとは期待してたからさ。
「そうですね……破りますかね」
「ひ、酷いです!」
「ラブレターが破れたってだけなら、ただ書き直せば良いだけですけど『破られたー』なら恋も敗れてより悲惨ですからね」
「最悪ですね。何で私、こんな人とイチャイチャ街道を進むのでしょうか」
「ま、冗談ですけどね」
「歩夢さん。この世には女の子に言って良くないことと、悪いことがあるんですよ。覚えておいて下さい」
「どっちにしてもアウトですね」
会話が一段落したところでラブレターを受けとる。にしても、神崎さんはツッコミみたいな雰囲気で登場したにも関わらず、ボケとネタ成分が強すぎる。自分もどちらかと言えばボケサイドなので大変だ。何がとは言わないけど。あ、だから両思いに将来的になるのかもね。
「もう一度、訊いておいて良いですか。何で、自分がこのラブレター読むんです?」
「私だけが読んだら会話文中で全部説明しないといけなくなるからに決まってるじゃないですか」
「ごもっともです……」
自分はシールを丁寧に剥がすと、中から紙を取り出す。ザッと見たが差出人が書いていなかった。早速、内容をチェックしていこう。
| 冬の寒さを越え、地球が春の芽吹きと温かさを取り戻し始めた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。 |
挨拶が時効過ぎる。
| 早いもので貴女とワタクシが入学してから2日が経とうとしています。笑いたくなりますね。ニカッ! |
さては、ワンピース追ってるな?
| 先日、入学式でお会いした時は、きちんと挨拶も出来ず申し訳ありません。Twitterの垢を貼っておくので後でDMよろしくお願いいたします。出来ればフォローもしてくれると嬉しいです。フォロバ100%です。フォローしてくれると嬉しいです。フォロバもう1000%ですので。 |
どんだけフォローして欲しいんだよ。ちなみに、アカウントの所は謎の力によって消し飛ばされていた。多分、山羊とかが食べたのだろう。
| ワタクシは端的に言えば、貴女様に一目惚れしたのです。貴女のその淡い緑色の髪、そして淡い緑色の髪。さらに控えめなおっぱい。風に靡かせる淡い緑色の髪。控えめなおっぱい。線を引く様に目を惹く淡い緑色の髪。控えめおっぱい。流れる様な淡い緑色の髪先が、ワタクシのハートを刺しました。控えっぱい。ワタクシの振り切ったこの想いをみなぎる紙面に乗せて、貴女の元へ送ります。おっぱい。 |
おっぱい狂! 淡い緑色の髪しか描写がない! 告白が薄い!
| PS(プレイステーション)本日の昼休み、体育館男子トイレ裏で待ってます。 |
昼休みって、昼御飯の時間を潰しに来ているのかよ。ご飯を食べさせずに判断力を鈍らせる作戦か? いや、冗談だけど。
読み終えると神崎さんが笑っていた。失笑だった。
「完走した感想を訊かせて欲しいです」
「えっと……酷いですね」
「まったくです。皆が皆、Twitterのアカウントを持っているとは思わないで下さい」
「そこですか!?」
「ガラケーの人だって、まだ大勢いるんです! 最先端だか何だか知りませんけど、他人をバカにする人は好きになれません」
「時代設定、本当にどうなってるんですか……?」
そして、時は流れて昼休み。
自分は描写のためと一応の護衛として、体育館男子トイレ裏に神崎さんと一緒に来ていた。
そこで森部が目にしたものとは――――!
「ワタクシの名前? 良いわ、教えてあげますわ……」
「田中マリアンヌホリック子ですわ!!」
誰が作り出した……この状況を……!
誰の罪だ……この惨劇は……!
誰が望んだ……この戦いを!
誰の物なのだ……この小説は!
……あぁ、わかっている。
だがしかし、それでも私は……ッ!!
STAGEー6 『せめて哀しみとともに』