いた<て普通のラブコメ 作:君の心を因数分解
ネタは寒いのにね
「田中マリアンヌホリック子ですわ!!」
神崎さんはくるりと体を弧度法でπぐらい翻して、歩いた。真顔だった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいな!」
田何とかさんは慌てて神崎さんの制服の袖を掴む。神崎さんは無視した。
「せっかく手紙まで出しましたの!!」
せっかく特殊タグまで使ったのにね。出番なしは悲しいよね。
神崎さんは無視した。
「無視しないで下さい! お願いします! 昼休みを犠牲にしてるの!」
自分も昼休みをわざわざ犠牲にしてまでここに来た。そう考えると無性に腹が空いてきた。
うん。田何とかさんの外見描写が入る前に帰ろうかな。
「昼休みを犠牲……?」
「そうですの! ワタクシはお昼ご飯も食べてないのですのよ!」
神崎さんがとうとう反応した。一体、ボケ成分多めの神崎さんはどう切り返すのだろうか。
神崎さんは制服の袖を掴まれたまま、硬直した。
田何とかさんは息を飲んだ。
自分もゴクリと唾を飲んだ。
神崎さんは目をフッと閉じた。
そしてそのまま腕を振って歩き出した。
「……え? ちょ、ちょっと待ちなさいな!」
制服の袖を豪快に引きちぎりながら神崎さんは帰って行った。
場が居たたまれない沈黙に包まれる。
田何とかさんは物陰に隠れる自分に気付いたようだ。自分の方を見て、ちぎれた制服の裾をゆらゆらさせた。
「あの……制服……」
「……記念に持ってたら良いと思いますよ」
「はい。そうですか」
自分で言っといて何だが、記念にって何だ。第二ボタンじゃあるまいし。
まだ昼休みは始まったばっかりだ。神崎さんは多分、これから昼食だろう。自分もまだ昼食をとっていない。帰ろう。
と、歩き出した時、自分の制服の袖が引っ張られた。
「……何ですか?」
「ちょっと待って下さい」
「あ、はい」
すぅ~……っと、田何とかさんは深呼吸すると叫んだ。
「田中マリアンヌホリック子ですわ!!」
「……あ、はい」
「はい、じゃありませんのよ!!」
「あ、はい」
「はい、は1回ですの!!」
「あ、いいえ」
「いいえ、でもありませんわ! もっと他にありませんの!?」
「他って?」
「こんなインパクトありますのよ!? もっと他にあるでしょう!」
「あ、感想欲しかったんですか?」
「そうですわ!!」
「じゃあ……自分との天文学的差異に最早、同種族と認識出来ない程の現実を押し付けてこられる方ですね」
「ディスらないで下さいまし!」
「これはディスってるわけじゃなくて、第一印象を如実に叙述しているだけなんですけど、その程度の事も読み取れないとか脳内、鳥取砂丘なんですか?」
「やっぱりディスってますよね!?」
どうやら田何とかさんはツッコミサイドのようだ。ありがたい。
「田な……さん」
「田中マリアンヌホリック子です……あっ、ですわ!」
キャラ付けが完全に一夜漬けのそれだった。お嬢様(一夜漬け)は何だか滑稽で少し面白いかもしれない。
とりあえずツッコミサイドなのは確実なので、ボケをぶん投げてみる。
「鳥取砂丘をバカにしてますよね?」
「それはあなたじゃありませんこと!?」
「いやだって、自分は『脳内が鳥取砂丘なんですか』って言っただけですよ? 自分のどこが鳥取砂丘をバカにしているんです?」
「そこですの! そういうところですの!!」
「それをディスと捉える田な……さんこそ、鳥取砂丘をバカにしているんじゃないんですか? どうなんです? あなたの方こそ、鳥取砂丘を凌辱しているんじゃないですか?」
「凌辱!? 侮辱よね!? 何て酷い言い間違えしてるくれてんの?」
「鳥取砂丘を侮辱したこと、認めるんですね」
「いやいや、認めてないから!」
途中でキャラが吹っ飛んでいた。やっぱり一夜漬けのそれだった。
「あ、そうだ。田辺さん」
「田中です」
「安中さん、お昼ごはん食べなくて良いんですか?」
「田中です。えー……あ、はい。最近はお昼、抜いているんで」
「そうですか。じゃあ、自分はお昼食べに行くので」
「はい」
「では」
完全にキャラを忘れた田何とかさんとお別れの挨拶を交わして、今度こそ校舎に向かって歩いた。
横目で見ると、田何とかさんは茫然自失といった様子だった。あの程度のメンタルとキャラなら、今後出て来ても扱いに困るだけだろう。これが本作での彼女(もしかしたら彼やその他かもしれないが)の最後の出番になるのだ。
自分はお別れの念を込めて、最後に振り返って会釈をした。田何とかさんはワンテンポ遅れて反応すると、こう言った。
「再登場しますから!!」
二度と出んでよろしい。
さ~て、次回のいた<て普通のラブコメは?
「……神崎陽彩です」
「森部歩夢です。神崎さん、次のお話を自分達二人で紹介するんですって。どんな内容か知ってます?」
「…………知らない。ごめんなさい」
「ええぇっ!? そうなの! 困ったなぁ……自分も何にも知らないんだよ。んじゃあ終わりにしちゃうね」
次回、『いきなりは変われないのは力学的エネルギー保存の法則によるものだって誰かが言ったけど、これ物理の話じゃねぇわ』
「1ミリも今回のタイトル回収してないけどいいのかなぁ?」
「お楽しみに……」
「このクオリティでお楽しみは……ね……」