いた<て普通のラブコメ   作:君の心を因数分解

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結局毎カイこんなんカイ!

「次、どこ行きます?」

 

 隣を歩く神崎さんが訊いてくる。

 そうだな。やっぱり運動部かな。絶対入部しなさそうな所と言ったら、まず運動部だろう。

 

「ここから近い所だと……武道館ですね」

「武道館というと、何とか道部ですか」

「剣道部ですね」

「ああ! 見当も付きませんでした……」

「何とか道まで行ってるじゃないですか」

 

 と、他愛のない会話のキャッチボールをしながら武道館に向かう。途中で見知った淡い緑色の髪の毛が視界に映った。神埼さんが大きく腕を振った。

 

「あ! 当真さーん!」

「はい、当真ですけど…………げっ!?」

 

 当真さんは自分達を見ると露骨に嫌そうな顔をした。それとなく帰ろうとするが、一度反応してしまった手前、知らんぷりして帰れず、渋々こちらに歩いて来た。 

 「げっ」って声に出てる辺り、相当嫌なんだろうな。

 

「何か?」

「一緒に部活見学しに行きませんか、当真さん!」

「嫌ですけど」

「えーそんなこと言わないで下さいよー! ねぇ?」

 

 神崎さんは突然、ウザくなった。神話で例えるなら、ウリエルやガブリエル……いや、それを遥かに凌駕しているウザさ……チタンダエルに近いだろう。かなりウザくなっていた。まぁ、本家は可愛いので許されるが。いや、神埼さんも(設定上は)可愛いんだけどね?

 チタンダエルが憑依した神崎さんは、当真さんの制服をガシガシ(隠喩)してマージマジマジーロ(隠喩)した挙げ句、マージジルママジジンガ(隠喩)しながらガガガッ ガガガッ ガーオガイガー(隠喩)する。それはもうハザードオン(隠喩)でグランドタイム(隠喩)って感じに。

 ちなみに、当真さんのことをちゃんと呼ぶ方が神崎さんで、ちゃんと呼ばない方が自分である。

 

「はぁ……分かったから離して? それかまともに話して?」

「おっ、上手いこと言いますねー。食べちゃいたいです」

「……あんたらがまともに話すのを一瞬でも期待したこちらがバカでした」

「あっ、食べちゃいたいってのは勿論、せーてきな意味でですよ!」

 

 場が凍った。

 上手いこと言ったのをせーてきに食べるとは一体何なのだろうか。恐らく聞き間違いだろう。うん、きっとそう。

 神崎さんは一瞬、固まったかと思うと、徐に視線を下げた。少し足を引き摺って神崎さんから距離を取り、肩から掛けていたバッグに手を突っ込む。

 スパーン! と小気味良い音が鳴った。

 

「アホかぁっ!」

 

 それは名状し難いハリセンのような物だった。当真さんは自身の髪色と同じカラーの名状し難いハリセンのような物で神崎さんの頭をぶっ叩いた。いや、ツッコんだ。

 神崎さんの様子を見る限り、痛みは感じなさそうなので、これの影響で自分がボケを減らすことはないだろうと思われる。

 これで恐らく、これからは擬音だけでツッコミを表現出来る様になったハズだ。楽で良い。誰がとは言わないけど。

 

「で、どこに行くの?」

 

 当真さんは神崎さんを無視して、名状し難いハリセンのような物で自分を指して言った。

 

「何とか道部です」

「で、どこなの?」

 

 参ったな。謎の力に阻まれて名前を思い出せない。

 勿論、嘘だけど。

 

「日本発祥の、何とか道部って所なんですけど」

「はいはい。で、どこなの?」

 

 当真さんが見るからに苛立ち始めた。まだネタ振り段階だろうに。しかし、こんなの「ボケて下さい」と言わんばかりの態度だ。

 

「何だったっけなぁ……」

「はいはいはいはい…………えーと? 弓道?」

 

 はいの数が明らかに多かった。多牌だ。

 

「あ、生憎ですけど進むべき道は分かってるので」

「それは求道でしょ……えーと? じゃあ、茶道?」

「それには賛同できません」

「三度目もそれやったら承知しないわよ……えーと? それなら、柔道?」

「え? マスカット?」

「柔道! 柔道と葡萄を聞き間違えて『え? マスカット?』は確信犯過ぎるわ!」

「今のは流石にまずかったか……まずかっとか……ますかっとか……なんちって」

「うっさい! どうせ、剣道でしょうが!」

「……あっ、思い出しました! 思い……出した!」

「どこの聖剣使いだ! で、どこなのよ」

「テコンドーです」

「あ~なるほど。それは紛らわしいわよね~。茶道求道合気道、柔道剣道テコン道…………ってなるかぁ!」

 

 スパーン! スパーン! スパーン!

 最早、文章で表すのが失礼なレベルの華麗で華やかできらびやかな名状し難いハリセンのような物捌きッ! これがジャパニーズツッコミ……ッ!

 とまぁ、エレベーターよりも下らないやり取りを交わしながら武道場へ。

 武道場に到着すると、神崎さんが一歩前に出る。ドアの前に行き、耳をドアにくっつける。

 

「KP! ぅ目星振って良いですか!」

「そういうの良いから。あと、このシチュエーションは目星じゃなくて聞き耳じゃないの?」

「じゃあ、煮干し振りますね」

「KP言っといて、KP裁定無視すなし……いや、申請したの目星じゃなくて煮干し!」

「初期値あるから十分ですよ!」

「初期値って25%ですけど?」

「ほ~ら、41」

「失敗してるじゃない」

 

 神崎さんはボケないと死ぬ病。elonaで初手からかたつむり選ぶタイプ。

 当真さんは多分、反応しないと死ぬ病。RPGで正規ルートを避けてアイテム回収するタイプ。

 楽しそうで何よりだ。ちなみに、神崎さんは最初から目星は申請していない。

 わーぎゃー騒ぎながら、ようやくドアを開けた。

 中ではいかにも剣道っぽい恰好をした人達が竹刀をブンブン振っていた。これが俗に言う素振りか。俗じゃなくても素振りだけど。

 

「へぇ、ここが剣道部の世界ですか……」

 

 神崎さんが呟く。その時、自分達に気付いた部員の1人がこちらへやって来た。

 背が高い女子生徒だ。その堂々たる振る舞いからして上級生だろう。まぁ、当たり前だけど。

 

「当ったり前よ。ここが映研やオカ研に見える?」

「あなたは……?」

「あぁ、ごめんなさい。ようこそ新入部員達」

 

 剣道部員さんは一旦、言葉を切る。そのタイミングで当真さんが呟いた。 

 

「まだ入部してないけど」

 

 剣道部員さんは竹刀をくるりと回す。何をやっているかと思ったが特に意味はない様だった。なので、わざわざ描写してやる必要はないだろう。無駄のない無駄な動きを披露してから言った。

 

「私の名前は剣崎道子。見ての通り、剣道をやっているわ」

 

 またしても竹刀をくるりと回した。回った竹刀は慣性に従って、空を舞い、構えた手のひらへ――――収まらず、床にダイレクトアタックを繰り出した。

 一瞬の沈黙の後、神崎さんが「質問があります」と言いながら、手を挙げた。

 

「本名は何ですか?」

「さっき言わなかった? 剣崎道子よ。()()()()()()()

「だってそれ、偽名ですよね?」

「いいえ。本名よ」

「じゃあ、源氏名は何ですか?」

「教えるわけないじゃない」

「それもそうですね。ありがとうございました」

 

 源氏名、あるのか。

 まぁ、確かに、剣道部の剣崎道子さんなんて怪しさ抜群だ。まさに剣道部に入る運命。それに、剣崎だし。

 剣崎先輩は落ちた竹刀を拾い上げ、また無駄な動きを披露した。勿論、空を舞った竹刀はキャッチできなかった。ちなみに言うと、神崎さんの頭にメテオした。

 

「ま、親の無責任ってやつよね……」

 

 何やら語り始めてしまった。長くなるし、炎上するかもしれないので止めて欲しいところだ。こういう人に1人で語らせると余計問題を生みかねない。

 特に神崎さんなんぞと喋らせたら確実にアウトな感じになる。当真さんを横目で見る。口を挟む様子はないので、ここは消去法で自分が行くしかないだろう。

 自分は手を挙げた。

 

「親が剣道をやっていたとかですか?」

「いいえ。父親は柔道よ」

「武道繋がりってことですかね」

「まぁ、そうなるわね」

 

 お父さんじゃないとすれば、お母さんだろうか。

 

「母親も武道をやってらっしゃったとか?」

「ええ。母はスペインで葡萄を作っていたわ」

「ブドウ繋がり……!」

 

 果てしなく下らなかった。と、思ったが先程、自分も同じボケをしていた。反省反省。

 

「日本に来てからは茶道もやっていたかしら。来てからと言っても、育ちがスペインなだけで生まれは日本なんだけどね」

「ははぁ、なるほど」

「それに、弓道もやっていたわね」

「バラエティーに富んだお母様ですね」

 

 ボケのバラエティーは貧困な様だった。

 

「後は、華道も少し齧っていたわ。私も子供の頃、やらされた記憶があるし」

「クリエイティビティなお母様ですね」

「それから、薙刀に空手に……唐揚げも得意なのよね」

「アグレッシブなお母様ですね

 

 唐揚げには絶対にツッコんでやらない。

 

「古武道に、合気道に……」

「大和撫子なお母様ですね」

「テコンドーもやってたわ」

「朝鮮ですね……いろいろやってますし」

「まぁ、あなたの言う通り大和撫子だったわね。テコンドーは空手だし」

 

 テコンドーの起源とかそういった類いのエニシングはよく知らないのでやめて欲しいところだ。

 後に火薬を少し投下しやがって。会話自体も予定調和的で目新しくなかったし、この人……登場した価値薄いなぁ。

 

「で、あなた達は体験しに来たんでしょ? 良いわ。やってみなさい」

 

 何をだろうか。剣崎先輩は見るからに残念な人っぽいので、面倒事が起こると見て、まず間違いないだろう。勘弁して欲しい所だ。

 剣崎先輩は「やるからにはちゃんとね。適当はダメよ」と言いながら竹刀を置いて、黒くて長い棒のようなものを2つばかり持って来た。1本をこちらに渡して来たので、当真さんがとりあえず受け取った。

 スラァっと棒状のそれをカバーから引き抜くと、棒状のそれ……銀色に鈍く輝く身に光が反射する。剣崎先輩は正眼に構え、叫んだ。

 

「真剣で来い!」

「行けるかぁ!」

 

 思わず、と言った感じでツッコんだ当真さんを剣崎先輩は不思議そうに眺める。

 

「どうしたの? 来ないの?」

「いや……あたし達、未経験ですよ? ケガしちゃいますって」

「大丈夫よ。どうせ女の子は切れたとしても服だけだから」

「既にあたしは切れてるんですけどね……!」

 

 会話の途中でチョイチョイ、と神崎さんに脇腹をつつかれる。神崎さんはカンペを取り出した。カンペには丸文字でこう書いてあった。

 

『あれを使うのです!』

 

 "あれ"か……嫌だなぁ。

 自分は一応の様式美として、神崎さんからカンペを借り、返答をした。

 

『あれって?』

『決まってるでしょう……シナイです!』

 

 自分でやれば良いのに、と思ってしまう自分は性格が悪いだろうか。いや、この場にそもそも性格がマトモそうな人は当真さんしかいなかった。

 諦めの深呼吸をして、会話中の当真さんと剣崎先輩に割り込む。こういう場合はヨウカイって言うんだっけ?

 

「あのー」

「「何よ!」」

 

 2人が同時にこちらを向いた。本当にベタベタなリアクションだった。

 苦笑を隠しきれずに自分は笑った。

 

「竹刀に…………しない?」

 

 場が凍った。でも、今回ばかりは言える。

 神崎さんのカンペを借りて、投げやりに書いた。

 

『僕は悪くない』

 

 滑った事実は、無かったことにはできないのが世の常なのだ。

 

 


 

 

問 目の前に森部と書かれた本が落ちています。どうしますか?

 

当真の答え「届ける」

歩夢先生のコメント「そうですね。落とし物はちゃんと持ち主に届けてあげましょう」

 

神崎の答え「 読む   使う」

歩夢先生のコメント「エロ本ではありません」

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