GATE 近未来日本国国防軍 彼の地にて斯く戦えり 作:国防アレキサンダー
「調査ですか?いいかも知れませんね!」
「いいかもじゃない!君が行くんだ!」
アルヌスの丘に立てられた仮説テントの中。伊丹は上司である檜垣少佐に呼ばれ、新たな任務を言い渡された。
どうやら特地の住民や政治体制などを調べ、のちの交渉への第一歩にするべく調査をすると言う内容だ。しかし、伊丹は面倒ごとを回避したいので頑なに逃げようとする。
「え?嫌です」
「は?」
「まさか一人で行けと?」
「そんなこと言う訳ないだろ……」
伊丹の態度に呆れつつも、檜垣少佐は説明を続ける。
「深部情報偵察隊を六個編成する。君にはそのうちの一つの指揮をしてもらうからな」
「隊長……って事ですか」
「そうだ。可能ならば今後の活動に協力が得られるよう、友好的な関係を結んできたまえ」
「はあ……まあ、そう言う事なら」
伊丹は頭を右手で掻きつつ、面倒そうに頷いた。檜垣少佐によれば、出発は明日だそうで今のうちから準備せよとのこと。編成されるメンバー表もデータで渡された。
そのあとすぐに追い出されたが……
その後仮で作られた施設の廊下にて、伊丹は42式と歩きながら打ち合わせをしていた。最近の42式は、半分伊丹の副官や秘書の様な役割をしてくれている。
「新橋でゆりかもめに乗り遅れてからと言うもの、気づけば隊長か……」
「人生何が起こるかわからないねー」
伊丹にとっては隊長なんて柄じゃない。一応尉官なので指揮指導の教育は受けているものの、大人数を指揮するのは本当に面倒なのだ。
伊丹はデスクに戻るまでの間、折り畳み式のタブレット端末で編成表を確認する事にした。細い板の様なタブレット端末を横に広げ、ホログラムを展開する。
「んじゃ、歩きながらでいいから編成を確認させてくれ」
「あいよー。ほらこれがデータ」
「おう」
42式から渡されたデータ端末を元に、歩きながらその内容を確認する。
「……なになに、倉田やクロちゃん、それから富田もちゃんと居るのか。ラッキーだな」
見知った顔がいるのは大きい。それだけでコミニュケーションの構築が省けるので、馴染みやすくなる。おそらく檜垣少佐もそれなりに配慮してくれたのだろう。
「私も編成に居るけどー、もう一人の戦術人形の子が来るみたいだよ」
「へぇ、あ、もう一人はアイツか」
無論、戦術人形も編成に組み込まれている。特地での単独偵察任務において、もしもの時の戦力として期待されているのだろう。彼女らの存在もありがたかった。
機種を見るに、もう一人の戦術人形はアサルトライフルの子らしく、量産品モデルだった。だが伊丹とは面識があり、見知った顔である。
「他は知らない人ばっかしだな……明日挨拶しとかないと」
他の編成メンバーは、伊丹とは初対面の人間兵士達である。経歴から見るに個性的なメンバーが多く、無能というわけでもなさそうで安心する。
しかし個性的すぎると自分が指揮できるかどうかは不安なところである。しっかりと事前に名前と情報を覚えておこうと、それら情報を読み込んでいるうちに一人気になる女性隊員を見つけた。
「ん?」
「どうしたのー?」
「いや、栗林 志乃伍長って子。確か何処かで聞いた様な……」
気になった、と言ってもルックスに惚れたとかそう言うことではない。確かに胸は大きいが。とにかく、伊丹にとっては前に噂で聞き流した事のある名前だったから気になったのだ。
だが誰だったか思い出そうとタブレットに集中していると、突然の柔らかい衝撃で42式は現実に引き戻された。
「きゃっ!?」
「うわぁ!?」
42式が人にぶつかったことを理解した伊丹は、すぐさま連れ添いとして42式を心配する。幸い相手も大事に至ってないらしく、伊丹の言葉に反応してくれた。
「お、おい……大丈夫か二人とも?」
「大丈夫……だよー」
「す、すみません!こっちこそ!」
と、42式がぶつかったの女性軍人であった。だが伊丹が彼女に対して驚いたのは二つ。まず、相手とは結構な衝撃でぶつかったにも関わらず、女性は仰け反っただけで済んだこと。
そしてもう一つは、先ほどまで見ていた資料の中に彼女と同じ顔が写っていたことである。
「あ……もしかして」
資料を見れば、確かに同じ顔がいた。先ほど話していた栗林志乃伍長である。
しかし、彼女は伊丹には目もくれずに42式の方を見た。
「あの……貴方は戦術人形ですか?」
「えー?そうだけどー?」
それを聞くと、彼女は綺麗に整った眉を吊り上げ、言葉を並べた。
「やっぱり!なのに何でそんなに覇気が無いんですか!」
「え?」
突然のことに動揺する42式であったが、彼女は捲し立てあげるように言葉を続ける。
「仮にもアンドロイドなんだから、もっとシャキッとしてくださいよ!貴方みたいなチャランポランな戦術人形を見ていると、イライラしてくるんです!」
「えっと……」
42式が困惑し、彼女からの言葉の洗礼に反論せずに居るのを見て、伊丹は思わず女性軍人の方に声をかけた。
「おい、アンタ……」
「あ、ええっと」
女性軍人は伊丹に注意されて頭に上っていた血が治まったのか、急に表情を変えた。
「……すみませんでした」
と、一言だけ言ってから彼女は足早に立ち去った。まるで恥ずかしい自分から逃げ出す様、一目散に。
「……大丈夫か?42式」
伊丹が心配する42式は、そこまで傷ついていないらしく、いつもの表情で笑って見せた。
「あー、まあ平気だよ。ああ言う考えの人もいるしさ」
42式はさも慣れているかのような事を言うが、実際には傷ついているのかもしれない。伊丹としては不安材料が一つ増え、何だか少し複雑な気分だ。後であの女性と仲直りさせなければ。
栗林 志乃は全身凶器の人間兵器である。
『エグゾ殺し』『鋼の女』『強化人間』等々、彼女に対する畏敬のあだ名は幾らでもあった。
きっかけは些細な訓練からだった。それはエグゾスーツを装着した教官に対して、一対一の格闘戦で立ち向かうという内容である。
無論、エグゾスーツを装着した兵士に対して生身の兵士は絶対に勝てない。腕力、俊敏さ、全てにおいて生身の兵士を超越している為、生身では3人がかりでも倒せないと言われている。
そのため、その訓練はわざと負ける事でエグゾスーツを着た兵士に対する対処法を学ぶという内容だったのだが……案の定、栗林は素手でそのエグゾスーツ教官をノシてしまった。
彼女は当時の事についてこう言った。
「エグゾスーツが相手だって、努力すれば何とかなるよ。みんな努力が足りない。軍人なのに、論外よ」と。
そんな努力家の栗林であるからこそ、努力が少ない戦術人形には理解が少なかった。
疲れを知らぬ身体をしていて、努力だってプログラムをインストールするだけで完結してしまう戦術人形。無論、それが彼女達の強みであり個性とも言える。
それに関しては理解しているが、だからと言って覇気がなく仕事を怠けてチャランポランとしている戦術人形を見ると、やり場のない怒りが込み上げてくるのだ。
なぜ努力をしない、なぜ機械の身体なのに怠けるのか。人間であるにも関わらず格闘戦で無敵となった栗林にとって、戦術人形とは理解できない存在なのである。
「はぁぁぁぁぁ…………」
だがしかし、昨日の件については流石に罪悪感があった。いくら戦術人形に対して理解が少なくとも、あんなことを言われて傷つかないわけがない。
謝ろうにも悩んでばかりでその戦術人形が誰なのか把握できず、結局この偵察の日がやってきてしまった。
「栗林伍長、大丈夫ですか?」
「うん……ごめん、昨日の件がね」
エグゾスーツなどの装備を整え、集合場所まで行く最中、同じ偵察隊に配属された黒川伍長に心配された。同じ階級で同じ女性軍人というだけあって、配属が決まった数日後には仲が良くなっていた。
「結局外見の特徴だけじゃ誰だが分からずじまい……謝らなくちゃいけないのになぁ……」
「大丈夫ですよ。今は気持ちを切り替えて」
そうは言ってもこれから数日間の偵察任務だ。気持ちを切り替えなければ、任務に支障が出る。
「あ、『おやじさん』黒川 茉莉伍長、栗林 志乃伍長、2名揃いました」
「ああ、二人か。丁度いい、隊長が来るまで自己紹介をしてくれ」
と、『おやじさん』こと桑原曹長がそう言うので、黒川と栗林も整列して自己紹介に加わった。と、順々に自己紹介をしていく中で栗林はため息をつきたくなった。皆の趣味が個性的すぎるのだ。
まず料理は分かる、健全な趣味だ。だが他はカメラが趣味だったり、オタク寄りの趣味だったりといろいろ不安になる。
栗林は昔の学生時代にその手の人間から困らされてきた手合いであるが故、そう言った趣味を持つ人間には嫌悪感が拭いきれないのだ。
と、そんな事している間にも全員の自己紹介が終わってしまった。未だ隊長は来ないのだが、まさか遅刻ということはないだろうか?
桑原曹長は「そろそろ来る」との事であり、しばらくすると二人の女性を連れた一人の男性がやってきた。
「ふんふふんふふーん♪」
「上機嫌だなハルニーナ、何が嬉しいんだ?」
「だって、またイタミ隊長と任務に出られるんだもん!そりゃ嬉しいよ!」
「よかったねー、私もなんか懐かしいよ」
連れてきている二人の女性……というより少女は、どうやら戦術人形のようだった。
一人は黒にメッシュの入った派手な髪をした、ツインテールの少女。背丈はそこそこ高く、少なくとも小柄な栗林よりは大きい。着崩した軍用コートと短いスカートが目立つが、片腕の機械腕が可愛らしさに対してアンバランスである。
二人目は茶髪の髪を結って持ち上げ、身体には巨大な散弾銃と外骨格の盾を持ち合わせている。服装はポリマー製のコートに身を包んでいたが、その外見には見覚えがあった。
「げ……!」
思わずそんな声が漏れ出てしまう。あの時ぶつかった挙句、イチャモンを付けてしまった戦術人形の子だったのだ。
「あ、おやっさんすまんね。彼女達の受領手続きに時間かかっちゃってさ」
「いえ、隊長。これで全員です」
やばい、謝るべきか?と考えているうちに、隊長らしき人物が自己紹介をした。彼にも見覚えがあった。
「あー、という訳で第三偵察隊の隊長に任命された伊丹耀司中尉です。これからよろしく。彼女達は、各部隊に配備されることになった戦術人形だ。仲良くしてやってくれ」
そう言って、伊丹中尉は彼女達の紹介を行った。
「私は"42式自動散弾銃"だよー。知っている人もいるけど、知らない人はよろしくねー」
「私は"Hal-27特殊短小銃"です!見ての通りのアサルトライフルですが、精度には自信があります!」
この時、巡り巡った縁がまさか栗林にとって不幸な方向に向かったのを知り、彼女の理想は愕然と崩れ落ちた。
帝国皇城。
帝国の皇帝が、直接住まい玉座に座るこの城にて、皇帝モルトは部下のマルクス内務相から報告を受けていた。
「諸王国軍の損害は死者行方不明合わせて10万に上るようです。残りの敗残兵は統率を失い、散り散りになって帰路に着いたと」
「……ふむ、予想通りだな」
あまりに大きい損害にマルクスが恐れ慄く中、一方の皇帝は顎を摩り予想が的中したことに対して何の感情も抱かなかった。
「よし、では次の一手としてアルヌスから帝都に至る全ての村、街を焼き払え。そして井戸に毒を投げ入れ食料家畜は全て運び出すのだ」
「はっ……村々を焦土にするということでしょうか?」
「そうだ。略奪ができなければどんな強大な軍隊でも立ち往生する。そこに付け入るのだ」
皇帝は今までの戦の価値観で焦土作戦を実行させる事にした。この世界の軍隊の補給は主に略奪品から得られる。それを運び出し焼き払えば、軍隊は立ち往生するという考えはあながち間違いではない。
だが実際には門の向こうの軍隊は様々な手段での長距離補給を確立しており、全く無意味である。それどころか誰もいない村々を占拠して補給基地にするだろう。
「……しばらく税収が低下しそうですな」
「仕方あるまい。園遊会をいくつか取り止め、離宮の建設を遅らせれば良かろう。それでも反発するようであれば、"よきにはからえ"」
「……ははっ」
その言葉の意味を知っているマルクス内務相は、恐れ多き人物に頭を下げるしかなかった。皇帝モルトがそろそろ元老院の整理をするべきかと考えたその時、奥の扉が勢いよく開かれた。
「陛下!陛下はおられるか!」
見知った顔だった。赤毛の長い髪を結って纏め、騎士のような服装に身を包み、早歩きで皇帝モルトの下へと駆け寄る女性。
「我が娘ピニャ・コ・ラーダよ、どうしたのか?」
「連合諸王国軍が無惨にも敗退し、帝国の聖地たるアルヌスの丘に敵が居座っているとお聞きしました。陛下はこの危機的状況にある中何をなされているのか?耄碌なされたか!?」
彼女は皇帝モルトの娘であり、三人目の子供であるピニャ・コ・ラーダだ。
「我々とて、丘を奪還するための軍の再編を急ぎ──」
「そんな悠長な!何年かかると思っておるのだ!敵の進軍はそれよりも早く、帝都に向かっておるのだぞ!!」
彼女に対してマルクス内務相もたじろぎつつも反論する。しかし、彼女の剣幕に対しては反論できないのも確かだ。
「ピニャよ、其方の言うことも分かる。悠長に構えてはおれんな」
皇帝モルトはピニャに対して、あくまで賛同するかのようにそう言った。
「だが我らはアルヌスの丘に屯する敵のことをあまりによく知らぬ」
皇帝は言葉を続ける。
「丁度良い、其方の騎士団と共に丘の敵を偵察してきてはくれぬか?」
「私が、騎士団と共に?」
「無論、其方のしていることが兵隊ごっこでなければ、の話であるがな」
「っ……」
彼女が従え、騎士団長をしている「薔薇騎士団」と呼ばれる組織がある。今まではお飾りに過ぎず実戦経験のなかった部隊が、皇帝からの勅命で動けると言う滅多にない機会。
だが、ピニャはその裏に隠された皇帝の意図を汲み取り、唇を噛んだ。
「……確かに承りました。行って参ります、父上」
絶望のどん底のような表情をした栗林を他所に、第三偵察隊は
軽装甲車は相輪式の小さな装甲車であり、荷台もそれなりに大きく物資輸送に長けている汎用装甲車だ。国防軍の装甲車両の殆どがこれに当たる。
一方の36式多脚装甲車は、IFVほどでは無いが強力な装甲車だ。8脚の脚が車体に付き、操縦士と車長の2名の他、兵員14名を運べる。武器のほとんどはこの装甲車に乗せられていた。
「空が青いねぇ、流石は異世界」
雲ひとつなく、飛行機も街の姿もない自然豊かな土地を見て、伊丹はそう呟く。
「こんな風景、北海道にだってありますよ。まあ、EMP粒子がないから空が澄んで見えるのは確かですけどね」
北海道出身の倉田がそう言う。
「あー、北海道はシベリアから流れてくるEMPが酷いんだっけ?」
「ええ。ほぼ毎日曇り空で、晴れてても空が霞んでて、憂鬱でしたね」
EMP粒子とは、第三次世界大戦の時に発生した戦争の遺産である。
当時、新ソ連と西側各国は核攻撃による早期解決を望んでいたが、その核兵器は地上や海上からの迎撃手段によって悉く撃墜され、爆発した核兵器から電磁障害だけが残った。
その電磁波がコーラップス汚染地域の大気と混ざり合い、常に電磁妨害を引き起こす特殊な粒子が生み出されてしまったのだ。
それが未だ高高度の大気中に漂い続けており、それを除去する術は未だ確立されていない。結果として世界各国の軍隊から空軍が戦略的価値をなくし、衛星とのリンクも途絶。泥臭い地上戦だけが残ったのである。
そんな世界に生きてきた現代人だからこそ、異世界の空はものすごく澄んで見えたのだろう。実際、伊丹もこんなに青い空は見た記憶がない。
「と言っても期待していたファンタジー要素はほとんどないです。もっとドラゴンや妖精が飛び回っているのを想像していたんですが……」
倉田が愚痴を流すのを見て、伊丹は42式に声をかけた。
「だってさ42式。他の部隊の子は何かめぼしい発見はあったのか?」
「うーん。ツェナーでやりとりはしているけど、他の部隊の子も目立ったファンタジー要素はないってさー」
42式の言う通り、他の偵察隊にも戦術人形が2人ほど配備されている。単純に危険に遭った際の護衛戦力としてだけでなく、見た目が未成年の少女なので警戒されずにコミニュケーションを取る布石の役割もあるのだ。
と、話を聞いていた同じ軽装甲車の座席に座るHal-27が口を開く。
「でも倉田クン、次の村は森の中だしエルフとかいるかもよ?」
「いやいや、エルフってのはもっと神秘的な森に住んでいると思うんすけど……」
「希望は捨てちゃいけないよ?ここはロマンチックに行かなくちゃ、異世界なんだし!」
明るい雰囲気で話してくれるHal-27は、そのコミニュケーション能力の高さから部隊にすっかり馴染んでいた。伊丹としても戦術人形が部隊に受け入れられるのはありがたいし、安心できる。
「そうっすねぇ。まあ、最初は警戒されるかもしれませんが、戦術人形の女の子二人が居てくれるならコミニュケーションも捗りそうっす。さっきのコダ村の時みたいに」
先ほどのコダ村という村落では、初めは警戒されていた。しかし、戦術人形の二人が出て交渉をした事により、村長との話まで持ち込めたのである。二人とも見た目が威圧感のない抜けた感じなので、親和性は高かった。
「倉田クーン?それってー、私達をダシにしようとしてないよねー?」
「そ、そんな事ないっすよー!」
42式と倉田の掛け合いを笑いつつ、伊丹は後ろにいる桑原曹長に声をかけた。
「おやっさん、もうすぐ森?」
「そうですね。この先の川を渡って、川沿いに進めばコダ村の村長が言っていた森です」
桑原曹長が広げているのは、ホログラムの立体地図だ。戦術機や無人機が収集した情報を元に描かれており、深部調査に役立っている。
「それから意見具申があります。森に入らずに、手前で野営しましょう」
「そうだね、それで賛成」
伊丹はエグゾスーツに取り付けられた通信を開き、全員に向けその命令を伝達する。広域通信はツェナープロトコル以外は繋がらない世界であるが、偵察隊の中ではやりとりは可能だった。
「森に入らないんすか?」
「このまま森に入ったら夜になっちゃうでしょ?何がいるかわからない森の中で野営なんて、ゾッとするよ」
倉田に野営の危険さを話しつつ、伊丹はヘルメットのメモ帳を開いた。データの中には先ほどコダ村で録音した様々な言語が入っており、着くまで練習しようと思ったのである。
「えっと……さゔぁーる、はる、うぐるぅー?」
「違う違う!もっと舌を巻いて、
「う、うるせって!」
茶々を出してくるHal-27を叱りつつ、伊丹達は森へと向かって行った。
燃え盛る森。
火の手は森全体に広がり、焦げ臭い匂いが鼻腔を突いて離れない。そんな森が目的地だったとは思わず、第三偵察隊は森の入り口で立ち往生し、状況を測っていた。
「燃えてるわね……」
「ああ、大自然の脅威ってやつか?」
42式の呟きに対して、伊丹は同意した。
「ねぇ、どうするの?ここって集落があるんじゃ……」
そう言って伊丹に指示を求めるHal-27。彼女の言う通り、ここには集落があった筈で、ここの住民のことを心配しているのだろう。
「幾ら何でもこの装備で突入はまずい。二次被害を出すだけだし、何より……あれを見ろ」
伊丹の呟きに、偵察隊の面々は双眼鏡を構えた。その先には、煙の中から火を出し暴れる赤いドラゴンの姿があった。
「何あれ!?」
「ドラゴン……ですか?」
「そうみたい。この火事もあいつが原因だと考えると……」
伊丹は一呼吸置き、最悪の懸念を口に出す。
「ドラゴンの生態がどうであれ、何も無いところに火を吐くとは思えない。つまり……」
「あの下には集落が……!?」
「それって、襲われているってことじゃ無いですか!」
42式や栗林が焦り出し、他の隊員にもその動揺が広がる。
「くそっ、野営は中止だ。全員移動準備!それから対空警戒を!」
「了解!」
夜が明け、ドラゴンは何処かへ過ぎ去って行った。森の炎も上昇気流が作り出す雨によりすっかり消え去り、安全が確保された段階で伊丹達は突入した。
木々や建物だったものは黒焦げになり、その面影はどこにも無い。動物も生物の影も見当たらず、靴を通しても地面が生暖かい。
「酷いわね……」
42式の呟きは、隊員全員の感想と同じだった。ひとまず人道上の観点から生存者を探すことにした。
スキャンデバイスや戦術人形の義眼、時にはまだ火の残る瓦礫をエグゾスーツで退けたりしても、一向に見つからない。むしろ生存者がいるのかどうかも怪しい。
「伊丹中尉、とりあえず報告を」
栗林と黒川が中間報告をしにきた。伊丹は42式と共に壊れた井戸に腰掛け、その報告を聞く。
「建物の跡は32軒。ですが見つかった死体は27体と、いくらなんでも少な過ぎます」
「建物の下は?」
「生体反応は無し。建物の瓦礫と一緒になっているので、捜索は困難です。残りに関しては、おそらくは……」
「焼け焦げたとしても蒸発はしない筈だ。もしくは食べられたか……」
二人が顔を顰める。やはり生きたまま食べられるなんて、想像したくないのだろう。
「捕食って事ー?」
「ああ。銀座でも小型の龍が人を捕食した例がある」
「考えたくないねー……」
42式も同じく怪訝な表情をした。
「その小型種ですら、腹部を12.7mm徹甲弾で貫通できるかどうかでした。かなりの脅威になると思います」
「アイツはさらに大きかったし、ちょっとした爆撃ヘリかもな。それから、ドラゴン類は肉食で人を食べるかもしれないって報告しないと」
そう言って伊丹は井戸へ向かって桶を放り込んだ。水が腐っている可能性もあるが、飲むのではなく水質が安全かどうかを見極めるのだ。
しかし、井戸の奥からスコーン!と言う甲高い音が聞こえてきた。
「ん?なんだ?」
まさか井戸が枯れていたのか?と思って中を覗く。先ほどまで人が住んでいたのでそれは無いだろう。
ライトを付けて中を覗き込むと、義眼によるスキャンを行なった42式が叫んだ。
「──ッ!イタミ、人だよ!中に人がいる!」
「なんだって!?くそっ、人命救助だ!」
中には人がいた。
いや、人というより長い耳を携えたエルフであった。
・戦術人形『Hal-27』
特殊短小銃のHal-27と同期する戦術人形。明るい性格で誰に対してもフレンドリー、なおかつコミニュケーション能力も高い。右腕は機械部品が露出した義手の様な腕になっており、彼女の高い射撃精度に貢献している。
量産された戦術人形であり他にも同型の姉妹達がいるが、第三偵察隊に配属されたHal-27はその中でも個性的。偵察隊の面々からは後に『ハルニーナ』という愛称が付けられる事になる。
本作オリジナルの戦術人形。
・32式多脚装甲車
第3偵察隊に所属している兵員輸送車で、32式多脚戦車装甲戦闘車の車体を流用した兵員輸送車型の兵器。14名の輸送能力と軽量化による高い馬力を有している。
武装は最小限になり、ハッチ上に12.7mmガトリングガン、又は40mm自動擲弾銃を搭載。愛称として"コガネムシ"とも。
本作オリジナルの兵器。
オリ戦術人形達の挿絵は欲しい?
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欲しい
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無くても問題ない