GATE 近未来日本国国防軍 彼の地にて斯く戦えり 作:国防アレキサンダー
ロウリィとの出会いを少しアレンジし、原作から色々書き換えています。
数時間前
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燃え盛る森、肺を焦がす炎。
炎龍が突如襲来するまで平和だったこの村も、地獄の炎に焼かれ地獄と化した。
一体幾つの矢が放たれ、鱗に弾かれた事か。
一体何人の戦士達が焼かれ、食い殺されたか。
テュカ・ルナ・マルソーにとって、この村は故郷であり家族の住む森だ。その森が焼け、荒らされ、親友達が食い殺されていく。
彼女は立ち尽くすしかなかった。弓を持ち、親友を救おうとしたが、矢はまるで効かず無情にも弾かれる。
何故、このタイミングで炎龍が現れたのか。
何故、自分達が殺されるのか。
疑問に答える者はいない。神様はいつだって見ているだけだ。
父が彼女を逃がそうと弓を射り、矢が左目に突き刺さった。聖霊の加護を受けた、必殺の一撃。しかし、怪物は止まらない。
父の助けを借り、井戸の中へと投げ入れられた。
ここに隠れていなさいと、最後にそう言われた。
笑う父と、怪物の大口。
それが、テュカが最後に見た父親だった。
現在時刻
廃村跡 第三偵察隊
特地型エグゾスーツには、射出式のワイヤーが取り付けられている。それを井戸に引っ掛け、ブーストリグを用い、背中からガスを噴射してゆっくりと井戸の中へと降下する伊丹。
本来なら障害物の多い山々を越えるため、特地型エグゾスーツに搭載されているワイヤーとブーストリグ。
人一人を空高くジャンプさせるほどの出力を持つ噴射ガスは、使い方次第でこのようにゆっくりと降下させることも可能なのだ。無論ガスは熱くない上、吸っても害はない。
そして井戸の底へ着地して、倒れていた少女へ駆け寄るとその体温の冷たさに驚く。もしかしたら低体温症に近いのかも知れない、急がなければ。
「伊丹ー!大丈夫そうー?」
42式が聞いてくる。
「体温が低い。黒川は
「はい!」
「伊丹はどうするのー?」
「時間が無さそうだな……このまま上に上がる!」
伊丹は腕のワイヤーを巻き取りモードに切り替え、ゆっくりと井戸の上に上がる。少女を抱えながらであったが、車で引っ張るより素早く登れた。
「おい!大丈夫か?目を開けろ!」
「伊丹隊長、彼女を袋の中に!」
「おう、42式はそっち側持て!」
「了解ー!」
本来ならば負傷者などを袋に入れ、戦場で治療するための装備である救護袋。体液に似た成分の救護液を袋の中に詰め込み治療できるため、低体温症の彼女も中に入れれば体温を回復できる。
黒川が救護袋の電源を入れ、ホログラムが展開し各種バイタルが表示され、彼女の診断を開始する。目立った外傷は無く、体温の問題を解消するべく電熱線の温度をゆっくりと上げていった。
「エルフだったな」
「そうですね!エルフでした!」
伊丹や倉田、その他男性兵士達は少女の裸を見るわけにはいかないので、遠くに退避していた。栗林が怖いというのもあるが……
「なんだ倉田、お前はケモ耳好きじゃ……?」
「エルフが居るってことは、ケモ耳っ娘も期待できるじゃないですか!!」
謎の理論を展開して興奮する倉田と、苦笑いをする伊丹。
伊丹は再び瓦礫の上に腰掛け、長靴の水を抜き、靴下を変えた。そのまま放置すると水虫になってしまうからである。
「伊丹隊長」
「黒川か、どう?」
一方、その二人に黒川が敬礼して来て少女の報告をしてきた。彼女のエグゾスーツは医療用の装備が取り付けられており、ホログラムなどで負傷者の診断が可能である。
一方、42式は少女の下で容体が急変しないか見ている。
「人間の基準ですが、とりあえず体温は回復しました。おデコのコブもすぐに回復するかと思います」
「よかった。さて、これからどうするか……」
伊丹は周りの瓦礫を見渡し、ため息をつきながら頭を掻きむしる。ここにはもう人が居らず、彼女の家族も居ないであろう。
「……仕方ない。森に置いていくわけにはいかないから、女の子は保護という名目で連れて帰ろう」
「良かったです。伊丹隊長ならそう言ってくれると思っていましたので」
「俺って人道的でしょ?」
その言葉に、黒川はニコニコと笑って見せた。
「どうでしょう?隊長が特殊な趣味をお持ちとか、そう言っては失礼に値しますので」
エグゾスーツをカチャカチャ鳴らしながら言われた言葉に、伊丹は冷や汗をダラダラと流すしかなかった。
数時間後
コダ村 大三偵察隊
とりあえず、伊丹達は来た道を戻ってコダ村に再びやって来た。アルヌスに戻るまでの道で、彼らにも知らせた方が良いと思ったのである。
また戻って来たのかと村は騒ぎになった。やはり特地では理解されにくい国防軍の兵士達は、余所者として受け入れられにくいのだ。
「茶髪のおねーちゃんだ!」
「おねーちゃん!また来てくれたんだ!」
「はいよー。ちょっと用事があったからねー」
それでも最初に友好的に接触した42式やHal-27ら戦術人形は子供達と元気に遊んでいた。彼女達は未成年の女性を模して作られている為、子供達ともよく馴染んでいる。
一方、伊丹は電子端末を手に先ほど見たことを村長に伝えている。伊丹がことの顛末を離すと、彼らは人相を変えて大騒ぎになった。
「……えーと、森の村、全滅してた。人、沢山死んでいた」
「なんと……!全滅してしまったのか!?何にじゃ!?」
「大きな鳥が、森、焼いた」
伊丹はあの時撮影したドラゴンの写真をホログラムで見せつつ、村長に説明した。
「こ、これは古代龍じゃ!しかも炎龍じゃと!?」
伊丹は特地の言葉を録音しつつ、より詳しく説明する。
「龍、火を出す。人、沢山焼けた」
「あそこはエルフの村じゃ。しかし、全滅してしまったのか……」
村長は村の人間を何人か呼び寄せ、伝令を飛ばすように伝えた。伝令役はかなり慌てていたが、すぐさま馬に乗って各地の伝令に走る。
そして伊丹は、最後の頼みの綱として保護したエルフの少女をこの村で面倒を見れないかと相談する。
「女の子、一人を助けた。この子、保護して」
「……それは無理じゃ。エルフと人間では風習が違いすぎる」
村長の反応はすげない。
ふと見れば、伊丹の周りの村の人々が慌てて身支度をしている。どうやら炎龍が出たのを知り、村を捨てなければならないらしい。
「村、捨てる?」
「そうじゃ、炎龍は再び村や町を襲うじゃろう。生き延びるにはそれしかあるまい」
伊丹は彼らの不安な表情を見つつ、複雑な感情に駆られた。
本来ならば第三偵察隊はそのまま帰るしかない事態である。だが、伊丹の性格上、この村の人々を見捨てるなどできなかった。
「どうするの、伊丹ー?」
「……見捨てるわけにはいかない。彼らに着いていこう」
そう言って伊丹は、小隊各員に無線を繋いだ。目的は無論、この村の人々を助ける為である。
数分後
コダ村 ????
コダ村のはずれの森、小さな屋敷に住む住人が居た。
この世界にとって炎龍とは、災害や厄災に近い圧倒的な存在である。そのため、村人達は遠くに逃げる事しか生き延びる方法がない。
そのため彼らも、村人からの使いで炎龍が出たと聞き、急いで逃げる準備をしているのである。
「全く炎龍め……50年は早く目覚めおって、こちとら迷惑だわい」
荷車と驢馬を繋げ、荷物を積み込んでいるのは老人と少女。荷車には多数の書物や薬草などが積み込まれ、重たすぎるのか荷車の車軸は地面に埋まっていた。
「それより師匠、早く乗ってほしい。村の人達は既に逃げ出している」
そう言って老人を急かすのは、魔道士の服装をしたプラチナブロンドの少女。彼女は青色の水晶が取り付けられた杖を持っており、驢馬の鞭を持っていた。
「レレイや、やはり魔法を使わねばどうにもならんか?」
「既に荷車は地面にめり込んでいる。けれど魔法を使えば驢馬の負担は減る」
レレイと呼ばれた少女は冷静に荷車の状態を分析するが、老人にとってはまだ積み込みたい荷物があると言う。
「コアムの実とロクデ梨は置いていくのが合理的。貴重だけれど、手に入らないわけではない」
「うーむ、仕方あるまい。薬草らは置いていくとしよう」
薬草を下ろして老人が座ったのを見計らい、レレイは杖を振り翳し、荷車に魔法をかけた。
すると今までめり込んでいた車軸が浮き上がり、驢馬の負担が減る。年老いた驢馬でも、魔法により軽量化された荷車なら動き出せた。
これが、彼らが使う"魔法"と呼ばれる技術の一端だった。
彼らは長年住んだ森の家を後にして、村人達に合流する。村では大騒ぎになっており、荷車に積めるだけの物資を詰め込もうとする村人達がいた。
それを見て、師匠と呼ばれた老人はレレイに対して語りかける。
「賢い娘よ。お前には誰も彼もが愚かしく見えるであろうな」
「命の為には一刻も早く逃げ出さなければならない。けど、持てるだけの生活物資を持って行きたいのは人として当然」
レレイは感じた事を素直に言ったまでだが、老人は彼女に別の見方を教え解く。
「人として当然ということは、結局人は愚かしいのかも知れんの……」
「…………」
師匠がそう言う人だと知っているレレイは、あえて何も答えずに道を進んだ。だがしばらく進むと、荷車が渋滞を引き起こし車列が止まっていた。
「この渋滞はどうしたのじゃ?」
「あっ、カトー先生。それにレレイまで」
彼らの問いには村人の一人が答えてくれた。
「前の方で荷物の積みすぎで車軸を折った馬車が道を塞いでて……」
「大丈夫そうか?」
「残念ながら、後片付けには時間がかかりそうです」
すぐ後ろには多くの馬車が車列を成しており、別の道へ引き返すこともできない。どうしたものかと二人が考えていると、彼らの耳に聞き慣れない言葉が入った。
『避難支援だ!伊丹隊長が許可もらって来たから、瓦礫を片付けるぞ!42式、手伝ってくれ!』
『あいさー!』
聞いたことのない異国の言葉にその方向を向くと、班模様の不思議な服装をした集団が指示を出し合っていた。
統率の取れた動きから、彼らが何処かの兵士の類ではないかとレレイは考えた。しかし、中には女性兵士もいるのか凛とした声が響く。その茶髪の女性の服装は班の集団とは若干違ったが、上着が班模様なのは一緒だった。
『黒川は怪我人の救護!戸津は後続に事故を知らせて別の道に誘導だ!』
『えー!?言葉どうするですか!?』
『ホロでも身振りでもいいからなんとかしろ!ハルはコイツをサポートしてやってくれ!』
『了解でーす!』
驚いたのは、集団の中には女性兵士だけではなく小さな少女も居た。彼女らも何かの武器らしき物体を持ち、兵士たちと一緒に行動している。まさか仲間なのだろうか?
「師匠、様子を見てくる」
レレイはその謎の集団に興味が引かれ、荷車を離れて先へ向かった。
十台ほど前に進むと、村人の言っていた事故現場に辿り着いた。確かに車軸が折れて荷車が横転しており、その横には持ち主と見られる家族が横たわっていた。
集団は瓦礫を撤去しようと荷車に張り付き、なんとたった数人がかりで道から退かしてしまった。普通なら成人の男性でも数十人は必要なところを、わずか数人で。
彼らの体をよく見ると、体の外側に何やら骨の様な装備が装着されている。それらは集団の兵士たちの全身を覆って装着されている事から、レレイは鎧の類ではないかと予想した。
見れば見るほど興味がある集団だったが、横たわっている一家のうち女の子が絶え絶えの呼吸をしているのが見えた。
もしかしたら、危ない状態かも知れない。兵士たちの静止を振り切り駆け寄る。すると黒髪の女兵士が女の子の頭を摩って、骨の鎧から光の文字を形成しそれを読んでいる。
『伊丹隊長。この子、脳震盪の可能性があります。すぐに手当てをしなければ危ないです』
『分かった、後ろから救護袋持ってくる!ちょっと待っててくれ!』
その時だった。
後ろから悲鳴が上がり、馬のいななきが耳をつんざく。見上げれば、怪我をして暴れていた馬が、急にレレイに覆いかぶさろうとしていた。
周囲の時間がゆっくりと進み、視界が影に包まれる。咄嗟に黒髪の女性兵士がレレイを庇おうと動くが、それでも避けきれない。
レレイは衝撃を覚悟した。
『でぇぇぇぇぇい!!』
だが突然、そんな声が響き渡る。
咄嗟に視界の横から、茶髪の女性兵士が馬に対して体当たりをしたのだ。ただの体当たりではない。俊足と脚力から来る突撃が、馬を大きく吹き飛ばしたのだ。
吹き飛ばされた馬は、突然の衝撃にさらに暴れようとする。しかし、女性兵士が持っていた"ナニカ"が至近距離で火を吹くと、暴れ馬は頭が破裂し絶命した。
「この人達が、私を助けた……?」
それらは一瞬の出来事だった。僅か一瞬で暴れ馬は無力化され、レレイは助かったのだ。
『42式、よく動いたな……』
『まぐれだよー、そのまま撃ったら誤射するかも知れないしー』
レレイには彼らが何処に所属する兵士たちなのか、分からなかった。謎の怪力を持つ女性の正体も、その"ナニカ"の事も。
けれど、彼女が助けてくれた事もまた確かであった。
逃避行は長く続いた。
難民達の列は長く長く果てしなく続き、問題は次々と起きて、その度に立ち往生する。傷病者や脱落者はどんどん増えていき、大人は苛立ち、子供は泣き叫び、飢えや渇きが難民達を更に苦しめていた。
おまけにこの数日間の雨で道路状況は最悪で、泥濘に嵌って脱落しそうな者もいる。この三人の親子も、そんな泥濘に運悪く立ち往生してしまった。
「メリザ行くぞ!そぉれ!」
「ハイヤッ!」
母にあたる女性が馬に鞭を弾き、夫の助けを借りながら荷車を押し出そうとする。しかし、相当深くに嵌っているのか全くビクともしない。
「はぁはぁ……こんなところで動けなくなったら野垂れ死にだよ!誰か助けておくれ!」
メリザは逃避行を続ける住民達にそう言うが、彼らは目を逸らして無視する。まるで関わりたく無い、見たくも無いと言わんばかりに。
人間とは弱く身勝手な存在だ。自分とその家族が大事で、それ以外を助ける余裕も義理も無い。今助けてくれる人はおらず、ましてや神様に祈ったって何も変わらない。あんなの、ただ
「誰か……」
メリザがもうダメかと諦めかけていた時、後ろから手が差し伸べられた。
『嵌っているだけだ!ハルはこっちに来い!押すぞ!』
『了解だよ!』
現れたのはたった2人の集団だった。片方は初老の男性で緑の班の服に身を包み、骸骨の骨の様な鎧を着込んでいる。もう一人はなんと年端も行かない黒髪の少女だった。
一体、老人と女の二人で何をするつもりなのか?と思ったら、彼らは荷車の後ろに手をかけ押すのを手伝ってくれた。
『エグゾの出力を最大に……よし行くぞ、3、2、1!』
『えーい!』
なんと、少し押されただけで荷車の車軸が軽くなった。泥濘を抜け、馬車の車輪が地面を掴む。嘘だろ、とメリザは思った。
たった二人で、しかも片方は年老いた老人でもう片方は年端も行かない女の子。彼らが私たちが押しても全くビクともしなかった荷車を、簡単に押し出したのだ。
一体、彼らは何者なんだろう?メリザは彼らにお礼を言おうと振り返る。
『よし、次の馬車だ!』
「あ、あんた達──」
しかし、その二人はすぐさま別の馬車へと向かって行く。チラッと振り返った黒髪の少女が、メリザ達に笑いかけたのが印象的だった。
「……誰だい、あの人らは?」
「さぁ、どこの兵隊さんだろうね?」
息子の疑問に応えることなく、彼らは人助けに尽力している。異国の人だと言うのは分かるが、人間というにはあまりにもお人好し過ぎた。
さて、問題を解決しても次の問題が出てくる。
荷馬車の一団はゆっくりと逃避行を続け、あたりの風景も段々と変わり始めていた。
そんな時、馬車の一団のうちの一台の車軸が折れてしまった。幸いにも怪我人は居なかったが、馬車はもう使い物にならない。
「そんな!荷物と財産を捨てて、これからどうやって生きろと!?」
「ここに止まっても死を待つだけじゃ。背負える分だけ持って、逃げるべきだ」
「くっ…………」
伊丹は村長を呼び出し、荷車の持ち主を説得していた。言葉が通じないので今回ばかりは致し方無い。
しかし、それでも持ち主の家族は荷車を離れようとしなかった。伊丹は痺れを切らし、村長に荷に火をかけさせるよう提案する。
村人により火が掛けられ、最低限の荷物を持ち出した荷車が轟々と燃えはじめる。その家族は泣いていた。
「伊丹隊長、何故火をかけさせたんです?」
黒川が冷たくそう言った。彼女にとっては納得できないのだ。助ける為に自分ちはここにいるのに、何故彼らの荷物に火を掛けなければならないのか、納得できない。
「荷物を前に全然動こうとしないからね、仕方ないでしょ」
「……輸送車両、もしくはドローンの一台でもあれば問題は改善するのに、ですか?」
黒川はそう言うが、伊丹は根拠を出して否定した。
「あのねぇ黒川、ここはエネミーラインの外側なんだよ。俺たちみたいな小数部隊なら無視してくれるけど、大部隊がこの避難民を助ける為に越境してきたら、敵国と大規模戦闘が勃発しちまう。偶発的な衝突から無計画な戦線拡大。考えただけでもゾッとする」
「じゃあ……車両の数台でも」
「それもダメだ。たった数台じゃあ、この人数の大部分を見捨てる事になる。お前は彼らを選別できるのか?」
伊丹はヘルメットを深く被り、首筋を掻きながらそう言った。伊丹としても過去の経験から、そう言う判断を下したまでである。
「……すみません、私の考えが甘かったです」
「いいさ。一応言っておくが、これは本部に相談した上での結論だからな」
伊丹はヘルメットを直し、前に向き直った。
「だからこそ、俺たちが手を貸す。それくらいしかできないんだよ」
こうして伊丹達は、燃料の限り逃避行に着いて行くことにした。
その夜、ある一家が盗賊に襲われていた。その一家は避難民の一団から離れ、近くの街へと進路を変えたのだ。
村長は三人だけでは危険だと言って説得はした。だから皆で集団を組み逃げていたのであるが、彼らにはこの逃避行は耐えられなかったのであろう。
彼らとて、生き残る為に最も近い街を選んだまでである。しかし、不幸だったのは最近この周辺で盗賊が増え始めた事だ。
彼らの荷馬車も何処からともなく現れた盗賊団によって馬を殺され、馬車ごと大きく転倒してしまった。
そして、今まさに下劣な盗賊達によって妻と娘は危険な状態に遭わされている。
「くそっ!離せ!」
「大人しくしてろ、手こずらせやがって」
夫は縄で縛られ、妻と娘は恐怖に立ちすくんでいた。家族を守らんと夫は必死に抵抗するが、縄は固く人間の力では解けない。
「お頭ぁ、この女、上物ですぜぇ」
「そうだな……んじゃ、若い奴からヤるか」
「ひっ……」
盗賊の一人が嫌がる娘に近づき、顔を舐めた。気持ち悪い唾液が彼女の顔に塗りたくられ、娘は逃げようとするが、盗賊に髪を掴まれる。
「助けて!お父さん!!」
「止めろこの野郎!」
夫が娘を守ろうと立ち向かう。盗賊の一人の腕を噛み、縛られた手足で娘の元へ行こうとする。しかし寸前で盗賊の一人に止められ、それでもなお暴れるので首を刎ねられてしまった。
「おい、殺すんじゃねぇ!折角の奴隷が死んじまったじゃねぇか!」
「し、仕方ないじゃ無いっすかぁ。コイツが暴れるのが悪いんすよ」
盗賊達は夫を労働奴隷として売ろうとしていたらしい。リーダーらしき男が怒鳴る。
「まぁ、女と子供は生きているんだぁ。こっちはこっちで、たっぷり楽しませてもらいましょうよ」
「フンっ、まあいい。最初は俺からだぞ?」
楽しむ、と言う言葉に妻と娘は震えて恐怖する。この特地の世界において、囚われた女性がどうなるかは周知の事実である。
「エミリー……」
「お母さん……」
母と娘が身を抱きしめ、恐怖から救われるように祈った。だが、神様なんてこんな時でも助けに来てくれない。見ているだけの存在なのだ。
下劣な盗賊がズボンを下ろし、いよいよ終わりだと思ったその時だった。甲高い破裂音が鳴り響き、盗賊のリーダの頭が爆ぜたのは。
「な!?」
「お頭ぁ!!」
突然の死、あまりにも一瞬で盗賊の頭は死んだ。殺した相手は何処にも見えず、敵の姿もいない。まさか弓矢か?と思った次の瞬間、音のした方向からナニカの足音が聞こえてきた。
まさかと思って振り返った瞬間、衝撃が盗賊の数人を轢き殺す。
「ぐわっ!?」
「ぐえ!!」
それは異形の物体だった。光の逆光によりシルエットが見え、何本もの脚が黒光している。まるで蟲の様な異様を持つ、鉄の荷車だった。
「な、なんだだあれは!?」
そのナニカは盗賊を轢き殺して停車すると、中から緑の班模様の人間が飛び出してくる。なんだコイツらは?何者なんだ?という疑問が届くより前に、彼は散弾に粉々にされた。
「この下劣野郎ー!死んで償えー!」
鉄の荷車の中から出てきた茶髪の女が、何か杖の様な物を振りかざすと仲間達が次々と死んでいく。
粉々にされ、ぐちゃぐちゃにされ、遠くへ逃げようとしても攻撃される。ものの数分で盗賊達は全滅し、後には死体だけが残った。
「クリア!」
「こっちもクリアだよー!」
伊丹と42式が武器を降ろし、周囲の安全を確認した。
鉄の荷車の正体は第三偵察隊の面々であった。夜間に避難民の一人がルートを外れるというので、心配になった彼らはドローンで追跡していたのだ。
無論、ドローンの制御範囲には限界がある為長くは見守れない。それで無事にドローンの届く向こう側に行ければ御の字、と思っていたが、実際には悲劇が起こってしまった。
空からこっそり追跡しておいて、見捨てるわけにはいかない。そこで第三偵察隊は武装を満載した36式多脚装甲車だけを分離し、盗賊の制圧に向かったのだ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……」
伊丹が生き残った女性達に声をかける。彼女達はいきなり盗賊達が蹂躙された事に驚いていたが、外傷は無さそうだ。
「黒川、夫さんの方は!?」
「……ダメです、頭部を切断されて死んでいます」
「……そうか」
伊丹は到着が遅れてしまった事に唇を噛んだ。最低限、助けられた命を助けられないのは軍人として悔しい。
妻と娘が、命を張って家族を守ろうとした夫の骸に泣いて抱きつく。しかし、彼の命はもう戻ってこない。
「どうしようか……」
あまりに気まずい雰囲気にどう声をかけようかと悩んでいた時、後ろから声がかけられた。
「あらぁ。貴方達、彼女達を助けてくれたのぉ?」
「っ!?」
一瞬で飛び退く伊丹達。なぜなら今まで気配がせず、さらには重い鉄の音がしたからだ。武器の類だと思い、盗賊の仲間かと咄嗟に警戒する。
「あらあらぁ、警戒せずともいいわぁ。私も助けに来ようとしていたのよぉ?」
彼女は日本で言うゴスロリ、所謂ゴシックロリータ系の服に身を包み、手には巨大なハルバードを持っていた。
しかし、伊丹達にとってはカタコトしか言葉が通じないので、何を言っているのか分からなかった。けれど、警戒するべき相手では無さそうである。
「ああ、神官様……」
「神官?」
と、そんな会話をしていた時に、助けた妻がロウリィに頭を下げた。伊丹はその様子を見て、影響力のある宗教家であると予測した。
「神官様、夫の魂は……」
「……彼は家族を護らんと勇敢に立ち向かったわぁ。清き魂……決して悪いようにはしないと約束しましょう」
そう言って彼女は夫の目を閉じさせ、その魂が安らかに眠れる様に祈った。
しばらくして、第三偵察隊は夫の墓をスコップで作ってあげた。それでも父の骸から離れようとしない娘を説得し、埋葬する。
それらが全て終わった後、ゴスロリ少女は伊丹達に向き直った。
「さてぇ……貴方達はぁ、どうして彼らを盗賊から助けたのかしらぁ?」
彼女が問いかけるようにそう言う。その受け答えは、最近の学習によりある程度言葉が通じる様になった42式が前に出て行う。戦術人形は機械の身体をしている為、学習能力も早い。
「私らは、炎龍が出るって聞いて逃げ出した人達を助けているんだー。けど、この人達が別の道を通るって言うからー」
「心配で付いてきたって言うのぉ?」
ゴスロリ少女は疑う様な目線で42式を見る。
「嘘は言っていないさ。詳しくは後で避難民に聞いてくれよなー。それで、貴女はー?」
42式にそう聞かれると、彼女は可愛らしい口をニッと笑わせ、自らの名を高らかに名乗った。
「私はロウリィ・マキュリー。暗黒の神、エムロイの使徒よぉ」
・ブーストリグ
強襲型エグゾスーツに搭載されたガス噴射パック。人一人を軽々と跳び上がらせる噴射力を持ち、瓦礫を飛び越えたり、ビル街をゆっくりと降下する事も可能。
特地型にはオプション装備として搭載。今までエグゾスーツの装備は固定式だったのが、特地型からは簡単に取り外して組み替えることが可能になっている。
元ネタはCoD:AWよりアサルトエグゾ。
・救護袋
最前線で負傷者を救護するための寝袋の様な装置。体液に近い特殊な液体を注入した袋の中に負傷者を入れ、安全な状態で治療が可能。第三偵察隊には不測の事態に備え、数袋が配備されている。
本作オリジナル装備。
オリ戦術人形達の挿絵は欲しい?
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欲しい
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無くても問題ない