GATE 近未来日本国国防軍 彼の地にて斯く戦えり 作:国防アレキサンダー
翌日朝
アルヌス駐屯地 避難民施設
『パッパラパラパラッパ♪パパラッパパ〜♪』
アルヌスに住むことになってから初めての朝。避難民達はアルヌス基地に鳴り響くラッパの音で目が覚めた。時刻は午前6:00丁度である。
「ん………」
自然の中で暮らしていたレレイにとっては、朝の早起きは日常の始まりだ。だが、今回は鳴り響く管楽器?の音により先に起こされる事になった。
「ふぁ……」
目を擦りつつも、レレイは少し疑問に思った。何処かで誰かがその楽器を吹いているのは確かなのだろうが、とても大きな音であった。何処で吹いているのだろう?
とりあえずこの音楽は朝の合図なのかもしれない。そう考えたレレイはまだグーカー寝ているカトー老師を置いて、テントから出た。
「あ……」
テントから出たレレイは、真っ先にキャンプの入り口で目立つ人を見つけた。昨日カンズメ、を配ってくれたハルである。朝からこんな所で警備をしているようだ。
「ハル……?」
「ん?あ、レレイちゃん!おはよー!」
明るい雰囲気で挨拶をするハルに、レレイはまたさらに疑問が出てきた。彼女はまさか、夜中ずっとここを警備していたのだろうか?
「ハル、もしかして寝ていない?」
「え?あー、私は寝なくても大丈夫なの」
そう言って飄々と返すハル。そうは言うが、人間は寝なければまともに活動することすらできない。他の亜人達も寝ることは大事なのだ。
だが、彼女は確かに昨日からここで警備をしている。なのに、隈一つ作っていない。ますます気になった。
「おいレレイや、井戸は何処にあるか知っておるか?」
と、後ろから寝癖ボサボサのカトー老師が出てきた。水の場所を知っているのはレレイの方なので、レレイは仕方なく疑問を置いて水汲みを優先する事にした。
水で顔を洗い、朝食の支度をする。避難民達は何から何まで国防軍にお世話になるわけにはいかないので、食事は自分たちで作る事にした。
しかし、ここに居るのは怪我をした女性や料理を知らない男性、後は食べるのが仕事の子供達だけである。
なので、助っ人が駆けつけてくれた。
「よぉ、チビども、元気にしてたか?」
「あ、フルタお兄さんだ!」
「おはようございまーす!」
食材の入った箱を抱えて来たのは、第三偵察隊所属の古田均上等兵である。彼は元板前で料理を得意としているため、これから避難民達に料理を教える事にしたのだ。
「フルタ、これは何?」
レレイが白色をした見たことのない食材を掲げ、フルタに聞いた。レレイの日本語は、ハルが教えてくれているおかげで少しずつ分かってきた。
「ん?ああ、それは大根だよ」
「ダイコン……?」
「野菜だよ。煮込むと柔らかくなるんだ」
「ヤサイ……ダイコン……」
これも食材だと理解したレレイも、大根の皮剥きに加わる。カトー老師の弟子の傍ら、老師の食事などもレレイが作っていたので、包丁捌きは得意だった。
ちなみにこの大根、工場生産品だ。正確に言うと内地に建設された野菜工場で作られた大根で、品種改良によってわずか数ヶ月で収穫された。
ユリシーズ災害の影響で、天然での農作物の栽培はかなり厳しくなっている。2055年の地球の食卓を支えるのは、こうして徹底的に品種改良された野菜達であった。
野菜の皮を剥き、鍋に入れてスープらしきもの煮込む。煮込むまでの間、目玉焼きを作ろうとフライパンにベーコンを投げ入れた。
「フルタ、この肉は何?」
「え?えっと……培養肉ってどう説明したらいいんだ……」
2055年の地球における肉や魚類は、殆どが人工培養で作られている。これもユリシーズ災害の影響だ。
培養肉と言えば美味しくないイメージが付きものだが、2055年では技術の進歩によりかなり天然物に近い味と食感を得ている。これは確かベーコンなので、豚肉のDNAから作られた培養肉のはずだ。
「えっと……これはベーコンって言って、豚肉の切り身だ。ただちょっと癖があって、こっちとは違う味かもしれん」
「ベーコン……ブタニク……」
そんなこんなで卵を上から乗せ、煮込んだ豚汁をよそい、料理が完成した。主食のパン、目玉焼きとベーコン、豚汁、そして簡単なサラダの朝食である。
「よし、食べようか」
「わーい!」
「朝ごはんだ!」
子供達がまず主食のパンに手をつけた。コッペパンであるが、まずその柔らかさに驚いた。中世の価値観で言えば固いパンが主流である為、柔らかめのパンは初めて食べるのだ。
「うんまい!!パンが柔らかいぞ!!」
「このトンジルも美味しい〜」
「うーん、"べーこん"も美味しいけどちょっと固いかな?」
色々な評価が出るのを見て、古田は料理人として嬉しい気持ちだった。板前だった頃は厨房に篭りっぱなしだったので、食べた人の笑顔を見ることは少なかったのだ。
「ん?レレイ、食べないのか?」
「……コクボウグンの人たちは食べる前にこう言う」
レレイは食器を持ち、手を合わせた。
「いただきます、と」
それは、ここに来てから丘の兵士たちから聞いた言葉だった。奇しくも、レレイが最初に覚えた日本語である。
朝食後、避難民改めアルヌス住民達の名前の登録が始まった。彼らは一応、ここに住むことになっているので住民票を作る必要があるのだ。
「わしは賢者、カトー・エル・アルテスタン。こっちは弟子の……」
「レレイ・ラ・レレーナ」
「改めましてぇ、私はロウリィ・マーキュリー。暗黒の神、エムロイの使徒よぉ」
カトー老師、レレイ、そしてロウリィの名前を日本語訳で登録していき、他の子達も改めて自己紹介をする。
「こ、コアンの森、ボードリューの娘……テュカ・ルナ・マルソーです」
金髪エルフの子の名前もここで初めて判明した。だが彼女は何か恥ずかしい事か警戒心があるのか、言葉に詰まっていた。
「それと……えっと……」
「ん?」
彼女何か不自然な事を発言しようとして、言葉に詰まった。通訳をしているHal-27が首を傾げる。
その後ろで、伊丹は住民の名前をホロ端末に記録していた。そして全員の紹介が終わった後に言う事があった筈なのだが……と頭を抱える。
見かねたHal-27が横からホロ端末で翻訳言語を見せた。
「えっと……今日、外に、家、作る……ので……皆さん、準備、終わったら、移動!……を、お願い!」
「イタミ……ちゃんと勉強してる?」
「う、うるせえって!」
そんなこんなで、今日のアルヌスの1日が始まった。
朝9時ごろ
アルヌスの丘 裏手
巨大な鉄塊達が、木々を倒し、地面を掘り進め、平に均していた。国防軍の重作業機械達がアルヌスに住居を作ろうとしているのである。
レレイ達から見れば、その作業スピードは驚愕に値する。屈強な木こりが数十日掛かる面積を、彼らは光の刃が取り付けられた鋸を持つ脚付きの怪異を使役し、僅か数刻で終わらせてしまった。
驚いたのは、その怪異はただ木を切り倒すだけでなく木の加工までその場で行ったのだ。怪異が口を広げて木を飲み込めば、枝や木の皮が全て剥がされ木材になった。どうやらアレを柱に使うらしい。
「なーにをしてるんじゃ、この怪異らは?」
「私たちの家を作っているらしい」
「はぁ……なんともすごい光景じゃわい。まあ、これで荷物を下ろせるのぉ」
カトーはそう言ってテントに戻って行った。
地面の整地も、脚付きの怪異が行った。彼らの使役する怪異は、四足や六足など虫のような見た目の物が多い。門の向こう側の怪異は皆そう言う見た目なのだろうか。
そしてあっという間に整地が終わり、午後には家の建設が始まった。すると今度は鎧のような鉄塊が現れ、背中に乗ったコクボウグンの兵士が家の柱となる先ほどの木材を軽々持ち上げ、地面に立てて固定した。
それを基軸に、今度は壁となる白い板のような素材を貼り合わせ、家の骨組みができてしまった。あとは屋根だけ、このペースだと夕方には完成しそうだった。
レレイも建設に関する技術は見た事があるが、これほどまでに素早く建設を行える技術は見た事がない。
学を極める者として、理解不能なものを放っておくわけにはいかない。レレイは彼らの観察を続けつつ、それらを理解しようとしている。
「こんな凄い光景見逃したって知ったら、お父さんがっかりしちゃうよね」
「ん?」
と、レレイは隣にテュカがいるのに気がついた。レレイも彼女と何度か会話した事があるが、やはりエルフの習慣は分からないことが多く難儀している。
「……後で教えてあげなくちゃ」
彼女は暗い顔で、そのような事を呟いた。
同日夕方
アルヌスの丘 入浴施設
アルヌス駐屯地に、風呂場が開設した。
テントの中に最低限の浴槽とシャワー、そして脱衣所を設けた新たな施設であり、この日初めて開業したのだ。
無論、国防軍の軍人達は我先にと一番風呂を目指して突入……する筈だったが、まずは避難民と、彼らの世話をする第三偵察隊が先に入る事になった。残りは悔し涙を流したと言う。
「はふぅ……」
「はぁぁぁぁ……気持ちいいわぁ」
「…………」
レレイとロウリィ、そしてテュカの三人が、まず一番風呂に入る事になった。その後ろではハルが居て、子供達の体を洗ってあげている。
ちなみに戦術人形も風呂に入る事がある。戦闘だけでなく、普段から活動を行えば自然と汚れや匂いがついてしまう。それらを清潔に流す為、戦術人形にも風呂に入る事が推奨されているのだ。
「どう?湯加減ちょうどいい?」
ハルが子供の頭を洗いつつ、そう聞いてきた。
「えぇ、ちょうどいい感じよぉ」
「暖かくて気持ちいい。お湯のお風呂は初めて」
「よかったー。私もすぐ入るから、ゆっくりしててね?」
特地においてお湯のお風呂というのはとても貴重な設備である。
確かに帝都には貴族達が利用できる大浴場があるらしいが、燃料となる薪を集めるのに労働力が必要なため、貴族しか利用することのできない。庶民や辺境の村人達はサウナや水浴び程度で我慢するしかないのだ。
例外としてロウリィのような宗教的に特別な神官関係者も、一応帝国式の風呂に入った事がある。
しかし、彼女は世界中を回る役目を担っており、辺境の地でも風呂に入れるのは幸運としか言いようがない。
「うひゃぁ……疲れが取れるぅ……」
「アハハッ、ハルお姉ちゃん、おじさんみたい!」
「お、おじさん言うな!」
ハルがくつろいでいる様子を見て、子供の一人が思わず笑ってしまう。
「にしてもぉ、貴方達コクボウグンって何者なのかしらぁ?こんなお風呂を毎日用意できるなんてぇ」
「風呂といっても……清潔な水を沸かしているだけだなんだ。そう言う設備があるの」
ハルが説明をする。
「大量のお湯を沸かすだけでも大変なこと。それだけの燃料を、コクボウグンは用意できる事になる」
「まあそうだねー、私たちって凄いのかも!」
本当は安いバイオ燃料を使っているのであるが、まあ説明しても仕方がないだろう。ハルは湯船に浸かりつつ、レレイやロウリィと話しを続ける。
「他にも、貴方達の技術は信じられないほど進んでいる。光る文字のような幻術の類に、虫の怪異の使役、そして魔法の杖にそれを持つ強靭な兵士たち。貴方達は一体、何者?」
「うーん……何者って言われてもねー」
ハルは言葉に悩んでいるのか、しばらく考えてから言い始めた。
「私たちは、門の向こうにある日本って国の軍隊なの。今言えるのは、それくらいかな」
「ニホン……門の向こう側の世界……」
レレイは門の向こう側の世界に興味を示していた。これほどまで進んだ技術を持つ者達が住む世界とは、一体どんな世界なのだろうか?レレイの好奇心は留まるところを知らない。
「まあ、詳しくは伊丹隊長に聞いてよ。あの人まだカタコトだけどさ」
「イタミ……?」
と、彼女らの後ろから声が聞こえた。
「あー、えっと……その人が私を助けてくれた人だって聞いて、どんな人かなって思っていたの」
そう言うのは、あの時第三偵察隊が助けた金髪エルフの少女である。初めて会った時よりかなり話してくれるようになった。
「貴方はぁ、確かぁ……」
「コアンの森の、テュカ・ルナ・マルソーよ」
「へぇ、マルソー?あのマルソーね……」
「ん?」
首を傾げるテュカ。ロウリィの言った台詞に疑問を持ちつつも、まだ人に慣れていないテュカは聞きそびれてしまった。
何故なら、その次に入ってきた女性に話題が釣られてしまったのである。
「ふふん〜♪お風呂だー!!」
入ってきたのは42式だった。彼女の素肌は戦術人形らしくかなり引き締まっており、出るところは出ている健康的な身体である。
「あ」
しかし、避難民達は注目してしまった。
彼女が炎龍との戦いで負傷した筈の脚が、完全に治っていることを。
「あ、あ……足が治ってるぅぅぅぅぅぅぅぅう!?!?!?」
「しまったぁあー!!!」
……しばらくしてから。
「ぎ、義足なんですか……?」
「そ、そうなんだよー!!凄いでしょー!!国防軍の技術なら、前の足ソックリな義足だって作れちゃうんだー!!」
風呂に入っているのに冷や汗を掻いて(本当は汗線などないのだが) しまっている42式。彼女は油断してしまったのだ。
彼女は昨日までメンテナンスに篭っていたので、風呂に避難民達が先に入っている事など知らなかった。なので大丈夫だろうと思って入ったらこの有様である。
「でも、足の繋ぎ目は見当たらない。本当に義足?」
「そ、そうだよー!って、ちょっ、待って近い近い!!」
そう言ってレレイはお湯に映る右足を覗き込み、興味深そうに見つめる。
「れ、レレイちゃんー?気になるのは分かるけど近いから困っちゃうなー?」
「……貴方は平気なの?」
「え?」
レレイはいつになく真剣な表情で聞いてくる。
「普通、手足を失った人間は酷いショックを受ける筈。だから傷病兵などは、心の治療がとても難しい。軍隊だと、戦闘も出来なくなるし、手に負えなくなるので基本捨ててしまう」
彼女が言っているのは、まだ義手義足の概念すら薄かった中世の頃の話だろう。中世では手足を失えば戦うことが出来ず、軍隊では厄介払いされるのが常である。
一方の日本では手足を失っても、元通りに動くバイオ義手などで代用できる。が、それでもショックを受ける人はいるのは同じである。
「う、うーん……私はそんなに気にしていないよー。日本では義手義足が発達しているしー、理解も深いんだー……」
少なくとも戦術人形の人権問題よりは、理解されている分野のはずだ。
「そう……なの?」
「うん!大丈夫だから!あ、ってか私はこの後仕事があるから、また後でねー!」
これ以上ここに居ると更なる追及を受けることになるだろう。そう思って、42式は足早に風呂場を立ち去ろうとする。
「ちょっとぉ、ヨンニイシキぃ?」
「え?」
彼女を、今まで敢えて黙っていたロウリィが呼び止めた。
「あまり、無理しない方がいいわよぉ。たまにはありのままを曝け出さなくちゃ、ねぇ?」
「??」
意味がわからず、首を傾げる42式。
「わ、わかったよー。ありがとうねー」
42式はそう言って適当に返すが、彼女はロウリィの言っている言葉の意味を汲み取れなかった。だが、心配してくれていることだけは伝わったようだ。
数日後
アルヌス駐屯地 車両施設
その数日後、避難民達が「せめて生活費は自分たちで整えたい」と言うので、コクボウグンは彼らの仕事先か、何か売れるものがないかと探していた。
レレイの提案によると、丘の中腹で死んでいる飛竜の死骸から鱗や牙を採取し、それを売れば生活費になると言うので、「ならば是非持っていってくれ」と許可を出した。
国防軍としてはサンプル用の鱗には事足りているので、残りは射撃の的くらいにしか使っていない。ハッキリ言って興味がないのだ。
だからこそ、彼らはそれを大量に採取して生活のアテを手に入れる事ができたのである。
「で?俺たちは荷物運びですか?」
その翌日、再びLAVの運転手になった倉田がそう愚痴を漏らした。
その鱗を売るにはかなり信頼のおける商会に売る必要があるのだが、それがアルヌスからほど近い「イタリカ」という都市に支店があるらしい。
国防軍第三偵察隊は鱗の輸送とレレイ達の護衛のため、自由行動という名目でアルヌスを出発することになったのだ。
「そう言うなって。避難民の自活はいい事だし、特地の経済状況を調べるチャンスでもある。元々偵察隊も、そういう指示だしな」
相席に乗る伊丹がそう言いつつ、タブレット端末で小隊の備品を確認していた。前回より武器弾薬や重装備なども増えており、スパルタンレーザーも一基追加されている。
そして最後に小隊メンバーが全て揃った後に、桑原から集合完了の報告を受けた。
「伊丹隊長。とりあえず隊員は全員揃いました」
「よし、全員点呼。番号、1!」
「2!」
「3!」
「4!……」
偵察隊のメンバーに点呼を行い、規律を正すと共に遅刻が居ないかを確認する。
「42式自動散弾銃、修理も完了して万万全だよー」
「Hal-27、私もピッカピカの状態です!」
42式とHal-27の二人も、メンテナンスを受けて万全の状態で復活していた。
「よし……後はこの前言われた追加の子達か。何やってんだ?」
だが後三人、遅れている戦術人形がいる。今回の作戦から新たに追加された戦術人形らしいので、本当は早めに来て挨拶をして欲しかった。
「はぁ……はぁ……伊丹隊長〜」
と、基地の方角から女の子の声が三人分聞こえてきた。その方向を見ると、ピンク色の髪をした背の低い戦術人形の子が三人、息を切らしながら何か巨大な装置を抱えてやって来た。
「すみませぇん……遅れましたぁ〜」
「遅いぞ?何やってたんだ?」
彼女達は呼吸を整えつつ、その装置を地面に置いた。
「こ、これの受領に時間がかかっちゃって……」
彼女達が言う装置こそ、この三人の戦術人形が同期する"兵器"である。炎龍の出現を受け、第三偵察隊に新たに配備された重装備の一つだ。
「隊長、彼女達が?」
「ああ、紹介するよ。炎龍の件を受けて、今回からうちの隊に配属された重装人形の子達だ。三人とも、自己紹介!」
隊長の言葉に慌てて敬礼をし、息を整える戦術人形三人。彼女達はそれぞれ自己紹介を始めた。
「は、はい!私たちは"中距離高出力レーザー砲"の重装戦術人形です!私は
「
「
「「「三人合わせて、IDL小隊です!よろしくお願いします!」」」
そう言って彼女達は頭を深く下げ、自己紹介を終える……筈だった。
彼女ら三人が背負っていたランドセルのようなバックパックから、おじぎと共に大量の機材や部品が散乱した。三人はひどく狼狽する。
「ああ!予備のバッテリーが!!」
「双眼鏡割れちゃう!!」
「あわわ……あわわっ……」
その様子を見て、なんだか不安になる隊員達。
無理もない、重装備の戦術人形が来ると聞いていたが、こんな頼りない戦術人形だとは思わなかった。果たして大丈夫なのだろうか?と。
「彼女達……大丈夫なんですか?」
「ま、まあ……抜けた所があるけど大丈夫だよ……戦闘になれば頼りになるから……」
第三偵察隊側が不安になる中、レレイ達と鱗の入った袋の第一陣が荷台に積み込まれる。
ジャラッと言う音一つで、人が二ヶ月は遊んで暮らしていけるらしい。龍の鱗がどれだけ貴重な素材かよくわかる。
「ん?テュカ?」
ロウリィとレレイがLAVに乗車した後、俯いた顔をしたテュカが乗るのを躊躇っていた。
「あの……私……」
「テュカ、だいじょーぶ」
彼女に声をかけたのは、42式だった。
「何かあったら、私達が守るからさー!」
「ヨンニイシキ……」
笑顔で答える42式に安心したのか、彼女の手を持って荷台に上がるテュカ。伊丹はそれをバックミラー越しに眺め、安心した。
「隊長、全員乗車しました」
「……よし、出発だ」
LAVのエンジンが始動、さらに後続の36式多脚装甲車もそれに続き、重たい音を立ててエンジンを唸らす。
第三偵察隊は、イタリカへと出発した。
……その間、伊丹は幾つかの不安を脳裏に抱えていた。出発前に黒川と猫宮から言われた、二つの懸念だ。
『テュカの様子がおかしい?』
『ええ、まるで居ない人を居るように扱うんです』
『うーん……イマジナリーフレンド、もしくは特地の葬儀文化じゃないか?てか、Hal-27はなんて?』
『それが……彼女はハルニーナにもあまり懐いていなくて、彼女もよく分からないそうです』
『嘘だろ?あんなにフレンドリーなハルにすら?』
『猫宮、相談って?』
『……42式の正体が避難民達にバレたかもしれない。そのせいで、彼女のメンタルに少し変化が現れた』
『……そうか。まあ、いずれはこうなると分かっていた』
『じゃあ、どうするんだ?』
『……正直に言えば、具体的な事は考えていない。けれど、説明して、ちゃんと理解してもらえれば受け入れてもらえるさ』
『楽観視しすぎだ。そもそも彼らが機械の身体を理解できるとは思えない。差別の問題じゃない、これはそもそもの概念の違いなんだ』
『私達と特地の人間じゃ、常識や感覚が違いすぎる』
『友人として警告しておく。もう、彼女をこれ以上戦わせるな』
・作業用パワードローダー
人が背中に騎乗して操縦する強化外骨格。このタイプは強化外骨格の進化の歴史ではかなり初期の段階に当たり、今のように人体に装着するタイプの外骨格が生まれる前の旧式である。
第三次世界大戦の頃はこれに武装を取り付け、戦闘に活用した武装強化外骨格が実戦に多く投入され、それが大戦時に急速な発達を遂げて今に至る。
現在では旧式化も著しい為、武装を外され作業用強化外骨格として運用されている。
・重装戦術人形
銃などより大きい設置兵器、主に対戦車ミサイル、自動擲弾銃、対物レーザー、迫撃砲などを扱う戦術人形。通常3〜4人グループで一つの兵器を運用する。
・戦術人形・IDL小隊
炎龍出現に際し、第三偵察隊に新しく配備された『中距離高出力レーザー砲IDL』を扱う3人の重装戦術人形。
IDLとは個体高出力レーザー(individual Dynamic Laser)の略で、その名の通り設置式の高出力レーザー砲である。通常モードでは連続でレーザーを照射し敵兵を制圧可能。さらにモード変更で対戦車レーザー砲に切り替えることもでき、チャージした高出力レーザー光線は多脚戦車すら破壊することが可能。
小隊メンバーはアイナ、デール、ランナの3人。名前にはそれぞれ「IDL」の頭文字が付けられている。
全員ちょっと抜けた所のあるAIを搭載しているため、戦闘以外では失敗が多い。部隊からは『三馬鹿』なんて言われている愛される系の馬鹿。
ちなみに彼女らも過去に伊丹と面識がある。