GATE 近未来日本国国防軍 彼の地にて斯く戦えり 作:国防アレキサンダー
特地に派遣された日本国国防軍。
伊丹率いる第三特地偵察隊は、炎龍の被害から逃れる避難民を保護。
アルヌスへと招かれた避難民達はカルチャーショックを受けつつも、国防軍の軍人や戦術人形と様々な交流し、親交を深めて行く。
その後、避難民達は自活をするべく袋詰めの竜の鱗を売却する事にした。
第三偵察隊は竜の鱗を運ぶため、交易都市イタリカへと向かった。
EP.14 イタリカ防衛戦、包囲されし都市
「伊丹を参考人招致、ですか?」
特地派遣軍司令本部、狭間中将の執務室にて。最近建設が始まった滑走路の整備状況を報告した柳田。
彼の話が終わった後、狭間は彼に別の話題を振ってきた。
「ああ、難民を保護した件と、"ドラゴン"との戦闘で民間人に被害が出た件について、それぞれ与党と野党が状況を詳しく聞きたいらしい」
「どっちがどっちです?」
「与党が難民の保護の件、野党がドラゴンに関してだ」
狭間は持ち込まれたタブレット端末のデータを読みつつ、柳田に説明した。
「まず野党だが、"民間人の被害は国防軍の責任ではないか?"と思っているらしい。そもそもドラゴンの存在を疑っている」
「まあ、普通ならそう思うでしょうね。かく言う私も、伊丹の報告を見るまで信じられませんでした」
この特地には、まだ見ない超常現象が多数存在する。それは既に分かっているのだが、流石にドラゴンの様な怪物の存在は地球の人々にとっては信じ難いだろう。
「だがタカ派や銀座事件派にとっては、民間人に被害が出たことが腹の底から面白くて仕方ないらしい。"このまま破竹の勢いで敵の首都まで攻め入り、敵国民を虐殺をしろ"……なんて意見も出ているくらいだ」
「彼らは頭に血が上りすぎでは?」
柳田は右回り特有の過激な意見に対し、吐き捨てる様にそう言った。
「まあ、これは一部の妄言に過ぎないさ。だが国民の一部がそれを支持している以上、野党にとっては面白くない。だから、詳しい状況を追究して真実を暴いて見せる、と言うことだろう」
「なるほど。では、避難民の件については?」
「……そっちは"なぜわざわざ保護したのか?"と言うのが論点になっている」
狭間は続ける。
「さっきも言ったが、内地の特地民に対する憎悪はかなり強い。その上難民自体にも風当たりが強い。"彼らは被害者である"と報告はしたが、それがどうやら過激派にとって都合が悪いらしくてな。これも同じく、追求して真実を暴こうとしているらしい。特地の人間の"残虐性"とやらをな」
これは、実際に日本側の国民が疑っているポイントである。"特地の人間は残虐非道で、地球のルールを守らず荒らし回る化け物だ"と言う、通説が曲がり通っている。
偏見だとは思う。実際の特地の人間を直に見てきた柳田からすれば、それは違うと否定できる。
だが銀座事件が世間に与えた特地の印象はそれほど最悪であったのだ。
「なるほど。タカ派に売国奴ですか……厄介ですね、もう少しマトモな連中は居ないので?」
「さあな。極端から極端に振れるのが、日本人らしいといえばらしいとは思うがね。……とにかく、伊丹がイタリカから戻ったら伝えておいてくれ」
「はっ、了解しました」
柳田はそう言って敬礼をした後、狭間の執務室を後にした。
さて、アルヌスからイタリカまでは車列が朝に出発して午後に着く距離にある。伊丹達第三偵察隊の車列3台は、イタリカへと続く道をひたすらに走っていた。
「今走っているのがテッサリア街道……そしてここがイタリカか」
「…………」
桑原がホログラムで映し出された地図を確認している。この世界で収集した地形の情報が立体的に表示され、今いる位置を割り出そうと計算していた。
流石に衛星や基地局がない特地であるため、現在地の把握は手動で行うしかないのである。光の地図が形成されるのを見て、レレイが横から興味津々に覗いている。
「…………」
「ん?あ、これはホログラムって言うんだ」
「ほろぐらむ……?」
「ああ、紙を使わずに色んなものが映し出せて……」
そう言って桑原がレレイにホログラムの応用として、端末から色んな画像をレレイに見せる。
「おやっさんったら、鬼の軍曹が孫を見る様な目でまぁ。エグゾ無しでハイポート走走らせた人と同じとは思えないっすよね」
「こらこら、それじゃまるでおやっさんがロリコンみたいに聞こえるぞ?」
本人に聞かれたらタダじゃ済まない倉田の冗談にツッコミを入れつつ、伊丹はバックミラーでレレイ達を観察していた。
「ハルが言ったたけど、ここの人達からしたらホログラムって幻術の類に見えるんだってさ」
「まあ、仕方ないっすよね。今でこそ当たり前になりましたけど、普及した当時はみんな驚きましたし」
「だな、もしかしたらこっちの科学ってみんな魔法か魔術に見えるのかも」
過去のSF作家に、そんなことを言い残した人物がいた気がする。進み過ぎた科学は魔法と見分けがつかないが、魔法があるこの世界の住民から見たらどのように見えるのだろうか?
幻術か、魔術か、はたまた災いの類に見えるかもしれない。人間の無知というのは恐ろしいものであり、理解できない物に対して恐怖を抱くこともしばしばある。
なら、機械の身体をもつ戦術人形達はどの様に映るのか?
機械という概念すらないこの世界。似た様な概念さえあれば説明は楽なのだが、あいにく自分達はこの世界の事象についてあまり詳しくない。
じゃあ、どうやって彼女達の存在を説明するのか?伊丹には説明できる自信がなかった。伊丹の想像力は高くても、人にそれを説明するのでは全く違う。
もし、彼女達がこの世界の禁忌に触れる存在だったら?その時は誰かが断罪に来るのだろうか?それは許せない。世界が違うなら価値観が違うのは当たり前であり、片方を押し付けるのは間違いである。
「(じゃあ、俺が彼女達の存在を認めさせようとするのも間違いなのかもな)」
そんな気は薄々していた。
バックミラーを調節し、座席に座る42式を見た。彼女はロウリィやテュカ達と会話しており、特地語で喋っている。
その内容がどんな話かはまだ理解できないが、彼女達と会話する刺激は果たして42式のためになるのだろうか?もし、彼女のメンタルが壊れてしまった時……その原因を断てるだろうか。
「……ん?伊丹隊長、前方に煙が」
その難しい思考は、倉田の報告によって中断された。報告を受けて前方を見ると、確かに山の斜面に隠れて煙が見える。
「ホントだ。規模的にはあの時より小さそうだけど……焼畑かな?」
「違う。焼畑、季節違う」
と、顔を出してきたのは双眼鏡を持ったレレイだった。彼女も双眼鏡を見て煙を確認し、彼女なりの憶測を言う。
「人の起こした"鍵"?でも大きすぎ」
「鍵?」
ちょっと謎の言葉が出てきたので、伊丹が聞き返す。
「"鍵"じゃなくて、"火事"だよー。てか、あの辺がイタリカじゃないー?」
そう言うのは後ろの席にいた42式だ。彼女は自身の義眼を最大望遠にし、その火事らしき煙を見つめていた。
「……状況からして面倒臭そうだな。──全車、周辺と対空の警戒を厳にして接近。何かあったら知らせろ。──」
『02、了解』
『03、了解です』
伊丹達は警戒体制を強めることにした。一応、全員38式小銃などの武装をチェックし初弾を機関部に込めた。備え付けられた重機関銃にも人が取り付き、エグゾスーツも戦闘出力である。
と、伊丹の隣にロウリィが出てきた。
彼女は小声で──
「フフッ、血の匂いだわぁ」
と、唇を舐めた。
戦いとは、一方的であってはならない。
剣を持ち、敵が見えるまで近づき、剣や槍の間合いで闘うべきだ。相手の血肉を切り裂き、確実に絶命させるその感覚こそが、あるべき戦争である。
お互いが鍛錬した技術をぶつけ合い、そうして勝ち負けが決まる戦いこそが、あるべき戦争の姿である。
だからこそ、アルヌスの戦いなど認められない。
あんな一方的な戦い方など、存在してはならない。
あんなもの、戦いの神エムロイに断罪されるべき虐殺だ。
だからこそ、血に飢えた連合諸王国軍の敗残兵達は盗賊に成り下がった。元々は帰路に着くまでの間、近隣の村々を襲って物資を奪っていたのであるが、そのうちにそれでも足りなくなってより大きな街を襲う様になった。
その彼らの行き着いた先が、イタリカだったのである。
イタリカとは、テッサリア街道とアッピア街道の交点に発達した交易都市である。アルヌスに至るまでかなり近く、外国との交易も盛んに行われていた都市なのだ。
現当主は……ミュイ・エル・フォルマール──11歳である。
前当主の急死を受け、他の家に嫁いでいた姉二人がミュイの後継人を巡って争っていた。
しかし、帝国の異世界出兵に参加した両家の当主が死亡。イタリカに構う余裕のなくなった両家は兵を引き上げ、結果不正が蔓延り治安が悪化したのだ。
そして今、そんな脆弱な状態のイタリカに盗賊団が攻め込んできた。
都市を守るのは殆どがロクな訓練を受けていない民兵で、殆どが年老いていたり女だったりと問題だらけである。
しかし、そんな中でも果敢に街を守る彼らには、帝国軍の指揮官がいた。帝国第三皇女のピニャ・コ・ラーダ率いる薔薇騎士団の面々であった。
「よし……敵は退いた!ノーマ!ハミルトン!無事か!?」
「い、生きてます〜」
「こちらも……」
門内で戦っていたノーマとハミルトンが、無事に手を上げる。その様子を見て安堵を覚えるピニャに対し、初老の騎士グレイが笑って問いかける。
「薄情ですな、小官の心配はしてもらえないのですかな?」
「貴様が無事なのは知っているさ、グレイ」
「はっはっは!そうでございますか!」
そう言って騎士グレイは血の付いた大剣を携えつつ、大笑いをした。
「ピニャ様……なんで私たち、こんなところで盗賊と戦っているんですか?」
「し、仕方ないだろう!……妾が異世界の軍勢かと勘違いしたのだ」
彼女らがこのイタリカで戦う理由は、ちょっとした勘違いからである。アルヌスへの行軍の途中、イタリカが武装勢力に襲われているという連絡を受け、ピニャはいよいよ敵軍の攻勢が始まったと思い急行した。
しかし、ふたを開けてみればその相手はただの盗賊、しかも自分たち帝国が招集した連合諸王国軍の敗残兵なのだという。はっきり言って拍子抜け、期待外れだった。
だが帝国軍の騎士としてイタリカを見捨てるわけにもいかず、なし崩し的に仕方なく防衛に加わったのだった。
だがこの都市の兵力はごくわずかで、残りのほとんどは練度の低い民兵。士気は低く、統率もうまく取れず、そもそも人数も敵に対してまるで足りなかった。
「こんなのが妾の初陣か……」
そう愚痴を走るピニャに対し、ほかの誰もは無言のままだった。
とりあえず破壊された城門は木の板で応急処置を施し、周りに油の敷いた藁を敷き詰めて何時でも燃やせるようにする。城門上のバリスタも修復を施し、民兵たちは休む暇もなかった。
それらがひと段落した後、ピニャはイタリカの屋敷の一部屋を借りて休憩を取ることにした。少しの間仮眠を取り、再び敵が来た時の英気を養うためだった。
彼女は夢の中、幼い頃を思い出す。
ピニャは皇帝モルトと側近の間に出来た娘で、これでも皇位継承順位は3位である。
わがままでやんちゃ、ある意味で女の子らしくないピニャであったがそれでもすくすくと育ち、今の年にまで至った。そんな彼女が薔薇騎士団を設立するきっかけとなったのは、女性だけで構成された演劇を見てからである。
すぐさま影響されたピニャは、友達の少年少女たちを集めて騎士を結成した。彼らの軍隊ごっこの始まりで、当初は教育にも良いという事で親たちからも歓迎された。
しかし、その騎士団は年月を重ねるごとに本気度が増していき、彼女らが16になるころには軍人を招いた本格的な戦闘訓練が始まった。
その後、男性たちは一部を残して軍人になり、後には多くの女性騎士が残された。それが今の薔薇騎士団である。
「ッ!!」
そんな過去を思い出していたさなか、冷たい水の感覚がピニャに降りかかった。
「どうした!?敵か!?」
目の前には水をかけて起こすように伝えたメイド長と、グレイがいた。
「さあ……敵なのか味方なのか、殿下自身がお確かめください」
しばらくして……
急いで駆けつけた南の城門。そののぞき窓に注目しつつ、謎の集団の正体を探りかねていた。
イタリカの南門の前にやってきたのは、緑色の集団である。馬がいない奇妙な鉄の荷車らしきものが二台、その後ろに同じ色をした鉄の百足が一匹、中には人が見える。
「奴らは……一体何者だ?」
「わかりません。攻城車の類かと思われますが……それが単独で攻めてくると思いません」
どうするかを決めかねているピニャ達と同時に、城門の上からノーマが大声で叫ぶ。
「何者だ!?敵でないなら姿を見せろ!」
その言葉が聞こえたのか、中から幾人かの人が出てきた。幼い魔導士らしき少女と、風変わりな格好のエルフ……そして──
「ッ!!ロウリィ・マキュリー!?」
その存在に、ピニャは激しく衝撃を受けた。
「知っておいでですかな?」
「知っているも何も、本物の亜神だぞ!あの見た目で齢900を超える化け物だ!」
その強さは並の歩兵隊では全く太刀打ちできないという。しかも体は不死身そのもので、いくら剣や矢を浴びせようとも死ぬことがない。そんな化け物が、まさか盗賊側に回ったのだろうか?
「亜神が盗賊に回るなど、あり得るので?」
「ありえない話ではない。……どうせ神など気まぐれで人を陥れる傲慢な存在だ。奴一人ならこのイタリカを滅ぼすことだって可能なのだぞ?」
「……小官は何も聞きませんでした」
宗教家の連中が聞いたら発狂しそうな言葉を、ピニャは平気で並べ立てる。無論、ロウリィに至ってそんな悪行はしないのだが、ピニャの中には神という存在への嫌悪感があった。
だが、今イタリカの運命がそのピニャによって握られているのも事実である。戦力は最悪、士気が上がる要因もなく、犠牲ばかりが増えていく。もし……彼らが味方だったら?
「……だが今はまだ、味方に引き入れられるかもしれん」
「ッ!?姫様何を!?」
意を決したピニャは、城門の扉を勢いよく開け放った。
「よくぞ来てくれた!!」
門を開けたピニャが目にしたのは驚く三人と追加の女一人、そして地面に倒れた男一人であった。
「……もしかして、妾が?」
三人の女は頷いた。
伊丹は数分で目が覚めた。
その間、ロウリィが伊丹の様子を見ている。ついて来た42式は後ろの車両たちに待機するよう知らせ、同じく伊丹のそばにいた。
テュカはリーダーらしき女性に散々抗議している。端から見てもいきなりドアを思いっき開けた女性側が悪いので、当詰められるのは当然と言えよう。
「……ん?」
「あ、目が覚めたねー」
隣の42式が伊丹が目を覚ましたのに気が付き、そう言った。
「ロウリィに42式か……ここは城門の中?」
「ええ、あなたがノビている間に入れたわぁ」
「一応隊のみんなには待機を伝えているから、大丈夫だよー」
周りを見渡しつつ、先ほどの衝撃で何か壊れていないかを確かめる。38式小銃のホログラムを見ても異常は無しで、エグゾも万全の態勢だった。
「で、あのリーダーっぽい女性は?ここの隊長?」
「帝国第三皇女、らしいよー」
「へえ、皇女様……なんだって!?」
伊丹は衝撃の単語に42式に確認を取る。
「本当か!?なんでこんなところに皇女様が!?」
「どうやらホントみたいだよ、あの栗毛の騎士さんが堂々と言っていたからねー」
頭のいい42式がそう言うのだから間違いはないのだろう。しかし、こんな僻地で敵国の皇女様と出会うなんて予想外である。
なぜこんな所にいるのか、と言う疑問を解決するべく伊丹は行動することにした。
「仕方ない……なんか衝撃で言語野も冴えてきたし、俺が直接話を付ける。二人は待っててくれ」
「了解だよー」
「フフッ、分かったわぁ」
そう言って伊丹はテュカと皇女様が言い争っている場所まで行った。二人が目を覚ました伊丹に気づくと、伊丹は咳ばらいを整え問いただす。
「あー、ゴホン!……で、この街はどういう状況です?」
しばらくして……
伊丹達第三偵察隊はイタリカへと招かれた。まず伊丹が皇女からの状況を聞き、当初の目的である商談もできる状況じゃないと言われ、とりあえず偵察隊の中で相談を行う。
その相談の結果、第三偵察隊はイタリカ防衛に加わることになった。
「あれが噂の緑の人……でもいいんですか?あんな連中を味方に引き入れて……」
ピニャに対してハミルトンが訝しむように言った。
「仕方ない、味方してくれると言ったのは彼らの方だ。こっちも使える戦力はどんな連中であろうと使うしかない」
ピニャはそう言いつつ、緑の連中を深く観察する。
「にしても変な連中です。蛮族見たいな格好に骨みたいな鎧だけなんて」
「それでも炎龍を撃退したと言う噂が立つ者たちだ。油断はできん」
彼らの服装は統一された斑模様であり、草木を表現した柄の布を思い出す。指揮統率もとれており、リーダーの指示に従っていることから軍隊か傭兵か、どちらにせよ武装集団なのは分かる。
分かるがしかし、ほかの部分が何かおかしかった。
まず、彼らの鎧が変だった。鎧とは剣や槍の傷から身を護るための装備であり、基本的に全身を覆う。少なくとも急所は保護するはずだ。
しかし、彼らの付けている鎧はなぜか骨のようにスカスカで、全身にくっ付いているだけだった。胸には何か服と同じ柄のチェストプレートらしきものを付けているが、それだけだ。よほど傷つかない自信があるのだろうか?
そして、奴らの武器らしき謎の杖も気になった。真っ黒で先端に筒のようなものが付いており、ガチャガチャとした見た目をしている。驚いたのは、その杖から常時魔法の類らしき光の文字が浮いている事である。あれは何なのか?
「まあ、いざとなったら南門は奴らを布石に体制を整えられる。ハミルトン、我々は東へ行くぞ」
「はい」
ピニャの疑問と疑心は、緑の人として期待されている彼らに降り注いでいる。だからこそ、ピニャは囮として彼らを使いつぶそうとした。南門の配置は、最初から彼らを期待していない。
「勝本、機関銃はここに」
「了解」
「IDL小隊はここから制圧射撃を。けどすぐ離脱できるようにしておけ」
「了解ですー!」
伊丹達はイタリカの南門に配置された。まず陣地を補強するために土嚢を積み上げ、城門の上に機関銃とIDL小隊を配置。そして、城門の中には36式が戦闘状態で待機している。
「伊丹、暗視装置だよー」
「おう、サンキュ」
42式が暗視装置を持ってきてくれた。
2055年の軍用暗視装置はかなり進化しており、昼間の様な明るさで暗闇を見通すことができる。この装置はヘルメットに取り付けるタイプで、網膜投影で視界に入る光を増幅させるのだ。
「そういえば、ロウリィに聞かれたよ。なんでわざわざこの街を守るのかって」
伊丹は暗視装置を取り付けようとヘルメットをガチャガチャさせながら、42式に話題を振った。
「なんて答えたのー?」
「街を守る気持ちに嘘はない。けれど本当は、別の目的があるって説明した」
伊丹はそう言いつつ暗視装置を付けようとするが、うまく嵌らないのか一向に取り付ける事が出来てない。
「はぁー……伊丹、ヘルメット貸して」
「すまんね……」
42式がヘルメットを持ち、伊丹は話を続ける。
「あの姫さんに、俺たちの実力を知ってもらう」
「っ……」
「そしてイタリカの住民達に恩を売って、今後の統治の足掛かりにする。そうすればあの姫さんも、俺たちと戦うより話し合った方がいいって思うだろ?」
42式は伊丹の考えが分かった。
つまり、皇女の方に国防軍の実力を見せつけ力の差を理解させる。そして、それと同時にイタリカの住民に恩を売って、あわよくばそのまま駐留する権利を引き出す。
おそらく上層部に連絡した上でそう考えているのだろう。中々にえげつない考えだ。これなら、交渉の窓口と支配地域の拡大を同時に得ることができる。
「伊丹えげつないねー。指揮官の頃の記憶、蘇ってる?」
「30代前半の頃とは考えが違くてね。お前達のおかげさ」
伊丹は暗視装置をヘルメットに装着すると、42式の手からヘルメットを受け取り、再び頭に装着した。
「そしたらロウリィ、俺たちを気に入ってくれたみたいでな。彼女は戦う理由を重んじるらしい」
「へぇー、じゃあ私たちは神様に気に入られたわけだ」
「そうだな、だと良いが……よし、ヘルメットありがとな」
「あいよー」
そう言って伊丹の話が終わり、彼は別の場所へ指示を出しに行った。
「なぁにぃ?イタミと秘密の会話でもしてたのぉ?」
「うひゃっ!?」
と、痛みの後ろ姿を追っていた42式に、ロウリィが背後から声をかけた。
「ろ、ロウリィ……別に大した話じゃないよー」
「そぉ?じゃあ貴方にも聞こうかしら」
ロウリィは42式に向き直り、改めて質問した。
「貴方にとって戦う事って、なぁに?」
「戦う事……」
42式は思い出す。
自分は戦術人形で、戦うために作られた戦闘用ロボットだ。今まで戦う事も人を殺すことも、それが自分の使命だと思ってやってきた。
それに対して改めて疑問を抱くと、うまく言い表せない。なんというか、考えたことが無かった。
「わかんないなー……けど、私にとって戦うことは使命だと思う」
「使命ぃ?」
「そう、私はそのために生まれてきた。そんな自分が肯定されるためには、戦わなくちゃいけないんだと思う」
そう、それが戦術人形としての使命であり責務なのだ。戦えない戦術人形など国防軍は必要としていない。私たちは機械だ。
けれど、そんな機械に対して伊丹は優しくしてくれた。血染めの手を握ってくれた。あの感情は何なのだろうか?思い出そうとする。
「なるほどぉ、それが使命だから……つまり貴女は、人間じゃないのでしょう?」
「っ………」
ロウリィがいきなり確信を突く答えを出してきた。そうか、やっぱり彼女は最初から自分達戦術人形の正体を分かっていたんだ。
「あー、わかっちゃったー?」
「ええ。あの炎龍に吹き飛ばされ時、あなたの足からは血の匂いがしなかったわぁ。それにお風呂の時の事、あれはバレバレよぉ」
「……そだよー、私は生き物じゃ無い。戦術人形って言うんだー」
「センジュツニンギョウ?」
「そー、要は人間に造られた、人間を模したナニカなんだー」
42式は自分のあまり覚えていない生い立ちを話す。
「私の身体は機械と鉄で出来ていて、生まれた場所は研究所のベットの上。生まれた時からこの見た目だし、成長も老化もしてない」
その言葉に対して、ロウリィは少し驚いた様な顔をしつつも言葉を返した。
「不思議ねぇ……こんなに人間そっくりなのに」
「気味が悪いかい?」
「そんなことは無いわぁ。むしろ、貴女みたいな存在は見たことが無いから、興味がある。それにぃ──」
それにぃ、と言って彼女は続ける。
「主神様は、高貴に戦い続ける者を祝福するわぁ。貴女が例え人でなくとも、貴女が神に召される事もあるかもしれない。その時には、きっと分かるはずよぉ」
ロウリィは立ち上がり、クルリと踊った。42式を祝福する様に、ヒラヒラとしたスカートを靡かせる。
「戦いなさい。その時が来るまで、貴女の生き様を見せれば、主神様も認めてくれるはずよぉ」
ロウリィは42式に、そう言った。
「……そっかー。つまり努力すれば、神様だって認めてくれるんだなー」
「ふふっ、そうよ。ただ、その身に恥じる様な悪行は、断罪に値するわぁ」
「おお、怖い怖い。じゃ、神様を怒らせない生き方をしてみるさー」
どうやらロウリィは怒らせない方がいい、という学習を記録しつつ、42式は去り際にこう言った。
「……ありがとね」
「ん?」
その小声が届いたかどうかは分からないが、42式は城門を歩いて行った。
残されたロウリィは、彼女の後ろ姿を見送りつつ、城門の下にいる伊丹に声をかける。
「女の話を盗み聞きとは、良い趣味じゃ無いわねぇ」
「勘弁してくれ、たまたま聞こえただけさ。まあ、そのまま聞き入ってたのは事実だけど」
伊丹はこっそり話を聞いていたのか、城門の下からそう言った。彼自身も偶然耳に入ったその会話が、単純に気になったまでである。
「……それで、彼女をどう見る?」
伊丹は補強作業を進める隊員達を見つつ、ロウリィに疑問を問いただす。
「そうねぇ……彼女みたいな存在はこの世界では今まで存在しなかった、新たな概念ねぇ」
「こっちには、似た様な存在すらないのか?」
「ええ。作られたとは言え、彼女には確かな人間らしさがあると思う。今はまだ言えないけれど、いつか認められる日が来る筈よぉ」
「……そうか。そうだよな」
伊丹は曖昧ながらに神秘的な答えに満足し、言葉を続ける。
「ロウリィ、彼女の精神は今不安定なんだ。何かあったら教えてくれないか?」
「ええ、もちろん」
そう言ってロウリィも満足し、城門の外を見つめた。夕焼け空が地平線に沈み、夜が訪れようとしている。
その頃、東門には騎士ノーマが配置されていた。日中に南門が攻撃されたので、再び攻撃されるのは南門だと予想されていた。
「まもなく夜か……」
しかし少数の部隊を置いて警備をしておくのに抜かりはない。東門にはノーマ、西門にはグレイがそれぞれ配置されている。
ノーマは暗くなり始めた城壁の上で、松明に火が焚べられるのを横目で眺めている。
「あの、あなたがノーマさんですか?」
「ん?」
ノーマは後ろから声を掛けられ、後方を振り向く。そこにはあの緑の人に付き添っていた小さな少女が居て、ノーマに対して背筋を正していた。
「あ、失礼しました。私、緑の人?から東門に伝令役として来ました。Hal-27です」
「あ、ああ。緑の人の使いですか……」
東門にはHal-27が連絡役として配置されることになった。西門にも分隊が移動しており、彼らも連絡役として門の防衛に加わっている。
「敵は来ますかね?」
「さあな、だがまあ大丈夫だろう」
ノーマは彼女が伝令役だと聞いて少し不満げだった。
誰が来るかと思えば幼い女で、細く華奢で防衛の役に立つとは思えない。手には何か魔法の杖らしきものを持ってはいるが、魔導士だとしたら確実に近接戦闘になるこの状況ではむしろ役立たずである。
まあ、伝令役なのでこっちで戦闘が始まったらすぐさま南門へ走っていくだろう。そんなことを考えつつ、ノーマはその幼い女に作戦を伝えた。
「もし来たとしても、城門は補強しているし兵力もそこそこいる。君は敵が来たら、緑の人たちに伝えればいい」
「そうですけれど……」
ハルニジュウナナ、と言ったか。彼女は首をかしげるようにノーマに聞く。
「もしかしてノーマさん、緊張しています?」
「なっ!?ば、馬鹿にしないでくれ!私は実戦経験者だぞ!?」
と言っても初実戦は今朝の戦闘なのだが、というのはノーマのプライドから敢て隠した。
「き、君みたいな女の子は知らないだろうが……我が薔薇騎士団は実戦を意識した本格的な騎士達なんだ!私とてその一員、私一人でも門を守って見せる!心配は無用だ!」
「……」
と、ここまで論したノーマに対してハルニジュウナナは言葉を続けた。
「あんまり無理しない方がいいですよ。怖かったら誰かに相談するのも手ですから」
彼女は続ける。
「まあ、何かあったら助けるかもしれませんので……その時は射線に入らない方がいいと思いますよ♪命あっての物種です♪」
「だから、君に何が……」
彼女が小ばかにする様にそう言うので、いよいよ怒ろうとしたノーマ。しかし、彼の目に映ったナニカに目を奪われ、その先の言葉に詰まった。
「ん?どうしましたか?」
「き、君の右腕は……一体?」
「ああ、これですか?」
ハルニジュウナナはノーマに指摘され、その右腕を持ち上げてみた。
彼女の右腕は明らか人の物ではない、鉄でできていた。鋭い爪のような手先とごつごつした金属が見え、腕全体が黒く光っている。
「義手です。ちゃんと動くんですよこれ、ホラ」
「ッ!!!」
彼女の腕が、まるで甲冑の腕のようにカチャカチャと音を鳴らして有機的に動いた。その動きは滑らかで、人間と同じように5本の指が自由に動いている。
「これは……」
「こっちじゃ珍しいですよね。気持ち悪かったですか?」
「いや……すまない」
ノーマはこの時、彼女が実戦を経験しているのではないかと思った。義手を付けるという事は、右手を失う経験をしたという事。それが戦いによるものだとしたら、その大事を経験したという事になる。
それでも気にせず飄々としているのを見て、彼女が潜り抜けた修羅場を想像した。彼女が腕のことを気にしなくなるほどの実戦経験とは、一体どんな辛い出来事なのか、想像にたやすい。
ノーマは彼女の方が自分より上手かもしれないと、そう感じた。
・網膜投影暗視装置
暗闇を網膜投影のレーザーによって光を増幅させ、見えている視界そのものを明るくする装置。従来のゴーグル型から脱却し、目元が軽くなったので2020年代と比べてもかなり進歩している。