GATE 近未来日本国国防軍 彼の地にて斯く戦えり   作:国防アレキサンダー

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今回の話、かなり寒い表現が多々ありますが……許してください。


EP.15 イタリカ防衛戦、勇気ある者たち

 

 

 夜のイタリカ。

 戦闘の合図は、城壁上で警戒していたノーマが放たれた火矢を見たところから始まった。

 

「敵襲!敵は東門だ!!」

 

 矢を防ぐ為に城壁に身を屈めたノーマは、張り詰めた声で叫んだ。伝令は急いでイタリカ宮殿まで馬を走らせ、ピニャ達本隊にも伝わる事になる。

 増援が来るまでの間、ノーマは現場で指揮を取らなければならない。まず先陣として弓矢の応戦が始まっている為、こちらも弓兵で応戦しなければ矢の雨は止まない。

 

「弓兵!盲撃ちでも良い、矢を放て!!」

 

 ノーマの命令により、民兵達から弓が放たれる。盗賊達の火矢に比べれば本当に少ない矢で、発射のタイミングもバラバラである。に対して盗賊達は民兵が一本の矢を射れば十本のお返しを放ってきた。

 

「くそっ!ここを死守するぞ!」

 

 ノーマは盗賊達が学習しているのを感じながらも、闘志を失うことなく戦い続けた。

 

 

 

 

 

 

 アルヌス駐屯地は夜中にも関わらず大騒ぎであった。理由は伊丹の第三偵察隊が戦闘に巻き込まれた事により出された支援要請である。

 多脚戦車が唸り、戦術機が地面を歩行し、ヘリ軍団がローターを温める。全ての部隊が武装化や整備を終え、やる気満々である。

 伊丹の支援要請により真っ先に動いたのは、すでに編成が完了した第一戦闘団であった。第一戦闘団は歩兵と多脚戦車を中心とした主力部隊である。

 

「狭間中将!第一戦闘団の多脚戦車、装甲車、全て出撃準備完了です!今回の作戦は是非我々に!」

「各士官や機械化歩兵部隊も配置についています!」

 

 高らかに前へ出るのは、第一戦闘団の指揮官、加茂 直樹大佐である。連合諸王国軍との戦い以降、陣地構築と補給の搬入が主だったために戦闘ができておらず、鬱憤が溜まっている様だ。

 副司令の柘植二佐も、よほど出撃したいのか浮き足立っている。その二人の様子を見て頭を抱える狭間中将は、彼らの重機甲戦力がイタリカの盗賊団を踏み潰しながら前進する様子が目に浮かんだ。

 

「ダメだ!地上戦力では遅すぎて間に合わん!ここはヘリボーンと行きましょう、我々第四戦闘団を!」

 

 割って入ってきたのは健軍 俊也大佐、第四戦闘団の司令官である。

 第四戦闘団はヘリコプターを中心とした機動戦力だ。強襲ヘリを中心に爆撃ヘリ、観測ヘリ、さらには大型の輸送ヘリまで持ち合わせている。

 

「おい待て健軍、間に合わないわけじゃない。中将、第一戦闘団にはイタリカの近くまで偵察で進出していた第102中隊がいます。彼らをイタリカまで派遣しましょう」

 

 加茂大佐はこんな事もあろうかと、事前に狭間中将に装甲部隊での偵察を進言していた。

 炎龍出現の件でここら一帯の村々は人が逃げ出しているため、その村々に進出している。そのうちの一個中隊が、近隣の村に進出していたのだ。

 

「おいおい、事前の部隊配置は狡いぞ?」

「何を言う、地上からお前らを支援してやるんだ。その後の地上制圧はどうする?ヘリで多脚戦車の一台でも吊り下げたらどうだ?」

「ハッ、クソ重い"カブトムシ"なんか乗せてやるかよ!」

 

 地上戦力と航空戦力の二人が一番槍を競って争う。狭間はその二人の様子に頭を抱えていたが、頭を巡らせて戦力配分を考える。

 おそらく、今回は第四戦闘団と第一戦闘団の一個中隊での合同作戦になるだろう。だが第四戦闘団はともかく、第一戦闘団の一個中隊では地上戦力の不足は否めない。

 

「お待ちください二人とも。地上戦力であれば、第六戦闘団をお願い致します」

 

 言い争う大佐二人の間に入ってきたのは、一人の女性軍人だった。加茂や健軍と同じく大佐の階級章を付けており、身体には強化装備を既に着用していた。

 第六戦闘団司令官の、雨宮 真菰大佐である。

 

「我が第六戦闘団の戦術機なら機動力で第四戦闘団に追従可能。そのまま地上戦力にもなります。我が第六戦闘団第601中隊が、両戦闘団を援護します」

 

 第六戦闘団は戦術機を中心とした打撃部隊である。今までは施設の建設や陣地構築などにしか活動していなかったので、衛士達が浮き足立って出撃の準備を整えていたのだ。

 かく言う雨宮大佐も指揮官用の強化装備に身を包み、やる気満々である。

 

「……よし、ならば第一戦闘団より近隣の第102中隊を、第四戦闘団より第401中隊を、第六戦闘団より第601中隊をイタリカへ向かわせ、合同作戦を取れ。司令官は……健軍大佐とする!」

 

 全員が出撃できると聞いて、三人が感激を露わにしてガッツポーズを決めた。

 

「健軍大佐、指揮は頼みますよ?」

「了解だ!そっちこそ遅れるなよ?特に加茂!」

「フンッ、俺たちが一番乗りしてやる!」

 

 大笑いをしながら出撃していく指揮官三人を見つつ、狭間は天を仰いでいた。

 

「こいつら……何の霊に取り憑かれているんだ?」

 

 彼が頭を抱えることなどいざ知らず、指揮官三人はそれぞれの兵器達に乗り込んでいく。

 健軍は中隊の指揮機となる戦闘爆撃ヘリ、"スズメバチAV"に搭乗した。このヘリは本来攻撃ヘリなのであるが、高い指揮能力を持っている為二人乗りに改造され、中隊指揮官機として運用されている。

 加茂の方も地上部隊の指揮の為、強襲ヘリのアオムラサキに搭乗した。こっちの方はその名に近い黒い塗装を施され、二枚のローターが翼の左右に付けられたステルス汎用ヘリコプターだ。特地では多少の武装を施して強襲ヘリとして扱っている。

 

「こちら"ワルキューレリーダー"健軍大佐だ、各部隊状況報告!」

『こちら強襲ヘリ第1小隊、準備完了』

『同じく強襲ヘリ第2小隊、準備完了です』

『爆撃ヘリ小隊、準備完了だ』

 

 全ての小隊の準備が完了したのを確認し、健軍は連携して出撃する第六戦闘団の様子を確認する。

 

「雨宮大佐は?」

「もう既に出撃してますよ」

 

 前席の操縦士の言葉に、健軍が戦術機格納庫の方向を見た。モニターにはハンガーから戦術機が出撃し、地面を滑走して次々と飛び立っている様子が映った。

 

「さすが速いな。よし、我々も出撃だ!エンジン回せ」

「了解!」

 

 アオムラサキ、スズメバチらのダクテッドファンが始動。独特なエンジン音を出しつつも、静かに離陸するヘリ部隊各機。

 先行する戦術機部隊に続き、第四戦闘団はアルヌスを出撃した。

 

 

 

 

 

 

「どうしてぇ?こっちに攻めてくるんじゃなかったのぉ!!」

 

 一方の南門では、ロウリィが焦ったそうにそう叫んだ。

 伊丹達は伝令が来るより早く東門に敵が来たことを、Hal-27の連絡通信により察している。既に東門で火矢による火災が広がっており、炎と煙が夜の闇を照らしていた。

 

「0300、夜襲には絶妙な時間だな」

「盗賊も言っても元正規兵だからねー。学習はするよ」

 

 伊丹の呟きに対して、42式が答える。

 

「東門から応援要請はない……いや、その余裕がないのか。Hal-27は?」

「今は安全な所に居るらしいけどー……彼女、"私も戦わせてくれ"って言っているよ」

「……今はダメだ。彼女一人だと弾薬もない中無理させてしまう。戦闘の許可は俺たちが向かう事になったら、だ」

 

 伊丹の懸念もあり、Hal-27は東門での待機を命じられていた。本人は助けに行けなくて訝しんでいるだろうが、待機命令は絶対なので素直に従っている。

 そして何人かの隊員達はすでに武器装備を持ち、東門へ向かう準備をしていた。

 

「う、うぅ……」

「ん、どうしたロウリィ?」

 

 伊丹はロウリィが苦しそうに何か甘い声を出しているのが聞こえた。

 ロウリィは身体をくねらせハルバードにしがみ付き、それでも込み上げてくる何かに耐えようと、必死に舌を噛み締め我慢している。

 彼女の身体に何かが起きているのは確かであるが、その甘い声は男性陣のアレコレを刺激してしまい、気を取られてしまう。

 

「あ……あっ、ダメぇ……」

「おい、本当に大丈夫……」

 

 伊丹が本気で心配しようとした時、彼の行動はレレイが止めた。テュカも同じように伊丹の肩に手を置き、首を左右に振った。

 

「……なあ、彼女に何が起こっているんだ?」

「彼女が使徒だからこうなっている。戦場で倒れていく戦士達の魂が、彼女の身体を通してエムロイの元へ召されていく。その際、彼女には麻薬のように作用してしまう」

「……止められないって事?」

「今は無理。いっそのこと狂ってしまえば楽になる。けどそれができない。止めるには、彼女の戦闘欲求を満たすしかない」

 

 つまりは死者の魂が媚薬のように作用している、と言うことだろう。それで既にロウリィは暴れたくて仕方ないのか、ハルバードを土嚢に叩きつけたりして抑えている。

 

「だけど彼女を戦場に出したら最後……敵と見做した者を殺し尽くすまで、制限なく暴れ回ってしまう」

 

 それはそれで危険かもしれない。

 だが敵はここには来ないだろう。おそらく敵の主力どころか、全ての兵力が東門に集まっているはずだ。

 彼らに町全体を包囲する戦力はない。ならば全兵力を集中させて一点突破を図るだろう。伊丹が敵側ならそうする。

 このまま南門に居座っていても埒が開かない。それにどの道、駆けつけてくる友軍の誘導もしなければならない以上、東門に行くべきだ。

 

「仕方ない……栗林!」

「は、はいっ!」

 

 伊丹は手の空いていて、かつ頼りになるであろう栗林を呼ぶ。

 

「ロウリィに付いてやってくれ。俺とお前と42式、後富田で東門へ向かう」

「了解です!」

 

 それぞれに命令した後、名指しされた三人は支度を始める。

 

「アイナ、デール、ランナもだ!火力が足りない、お前達も来てくれ!」

「りょ、了解です!!」

 

 追加で呼ばれたIDL小隊の面々も、出発準備に加わった。大型のレーザー砲を折り畳んで持ち上げ、LAVへと乗り込もうとする。

 

「はぁ……はぁ……」

「ほらロウリィ、東門へ行くよ。後もう少しだから」

「っ!!」

 

 栗林がロウリィを診ようとした瞬間、ロウリィは城門から勢いよくジャンプし、門の下へと降りた。そして追いかける間も無く、彼女は東の方向へ走っていった。

 

「早っ!?」

「ろ、ロウリィー!?」

「あ、おい!くそっ、おやっさんここ任せた!」

 

 伊丹達は階段を降りるのも億劫になり、エグゾスーツの性能に任せて城門から飛び降りた。同じく飛び降りた42式、栗林、富田、IDL小隊と共に急いでLAVに飛び乗り、エンジンを全開に南門を飛び出していく。

 

「ロウリィ速っ!全然追いつけないじゃんー!」

 

 42式の言う通り、LAVの全力を持ってしてでも屋根の上を走るロウリィには全く追いつけなかった。それどころか、どんどん引き離されている気がする。

 

「こりゃ彼女が先陣になりそうだな……42式、ツェナーでHal-27に援護要請。時間を稼がせてくれ」

「了解だよー」

 

 42式はツェナープロトコルにて伊丹の命令を流す。おそらくハルは東門の周辺で待機していたのだろうが、これで戦闘に加わることになる。

 そして42式は近接戦闘が予想される為、箱型マガジンのみを準備していた。もう一つのドラムマガジンでは嵩張り近接戦闘には不向きなのだ。

 

「アイナ、デール、ランナは現場に着くまで上を見張ってろ。もしかしたら飛竜が来るかも」

「了解!デール!この重たいの上げるの手伝ってよぉ!」

「ちょ、ちょっと待ってよぉ〜……」

 

 後席のメンバーが準備をしている間、伊丹は夜明けになり不要となった暗視装置を外した。そして腰に掛けた私物のバックパックから、一本のナイフを取り出す。

 

「あれ?隊長も銃剣持っているんですか?」

「ん?お前"も"か」

 

 同じく銃剣を取り出していた栗林の疑問を受け、伊丹はそのナイフの鞘を抜き取り、彼女に見せた。それは今の国防軍ではほぼ廃止されている銃剣である。

 

「伊丹隊長は、なんでそれ持っているんですか?」

 

 率直な疑問を聞く栗林。確かに彼女の様な格闘主義とは違い、伊丹はあまり格闘戦を好まなそうな印象を受ける。

 それに対して、伊丹はヘルメットのツバを上げて懐かしむように言った。

 

「そりゃ、昔の名残さ」

 

 

 

 

 

 

 これこそが戦争、これこそが戦争だ。

 敗残し身を寄せようとも彼らは戦士、本来あるべき正しい戦争を、盗賊達は求めていた。分かり易い殺戮、分かり易い自分の死、これこそが本当の戦争だ。

 アルヌスの丘の戦いなど、戦争ではない。

 炎と光の弾だけで兵士達が倒れ、敵の姿を見ることすらなく一方的に殺されるのは、戦争などとは呼ばない。

 あんなのは戦いではなく、ただの虐殺だ。

 戦いとは、あんな一方的なものであってはならない。

 戦いの神エムロイに捧げるべきは、彼らが今している分かり易い戦争である。殺し殺され、お互いの剣がお互いを貫き殺していく。それが本来あるべき戦争の姿なのだ。

 

「くそっ、生意気な盗賊共め!お前らが城市を落とそうなどと!」

 

 城門にて陣頭指揮をし続けるノーマも、疲弊しながら城門を守り続けていた。

 盗賊達が城壁に梯子を掛け、何百もの盗賊達が城壁へ登ろうとしている。

 

「矢を放て!壁に取り付かせるな!」

 

 戦闘は既に激化しており、昼間の時とは比べ物にならないペースで梯子が壁に取り付けれている。それに対して民兵達は弓を放って盗賊達を突き落とそうとする。

 しかし、突然不規則な風が吹いた。

 乱れた空気が風となり、矢をずらして無力化してしまった。ノーマは気づいた、今の風は偶然ではないと。城壁から暗闇の奥を見れば、何か淡い光が薄ら薄ら見える。

 

「精霊使いか……!」

 

 厄介な奴だ。精霊魔法で矢を逸らされては、此方の矢が届かなくなる。道理で今まで盗賊達の矢ばかりが、よく飛んできたわけだ。

 

「ならば……ワシに任せろ!」

 

 勇敢な農夫の一人が斧で梯子を破壊、盗賊の一人を突き落とした。だが、そんな彼の勇気も長くは続かない。遠巻きの一人の盗賊が、手に持った大弩の引き金を引き、彼の脳天に矢を当て殺害した。

 弓兵の盗賊は終始笑っていた。

 

「バリスタを放て!槍でも良い、撃ち続け……っ!?」

 

 バリスタならば精霊魔法も効かないと指示を出した瞬間、ノーマの後ろに火の球が吹き荒れた。バリスタがあった場所がひどく燃え盛り、弓兵達が火だるまになって城壁から転げ落ちる。

 

「あれは……!」

 

 空に居たのは飛竜だった。

 連合諸王国軍の生き残りと聞いていたが、まさか飛竜まで温存しているとは思わなかった。しかも、夜間を飛んでいる。

 

「くそっ!奴らの飛竜隊は練度が高い!」

 

 城門の周辺が火の手で包まれているとはいえ、飛竜の夜間飛行は特別な訓練を受けていないと不可能だ。それを奴らは悠々と投入して、使いこなしている。

 その圧倒的な練度の差、まさしく"元"連合諸王国軍の正規兵というべきだろうか。

 

「ぐぁっ!」

「ぐはぁ!」

「でぇぇぇい!!」

 

 そのうちに、敵兵達が次々と東門の城壁に登ってきた。剣と剣とがぶつかり合う、血みどろの近接戦闘が始まってしまう。

 民兵達も多少の訓練を受け武器の扱いを学んでいたが、相手はそれを上回る練度の盗賊達である。ノーマも腰から直剣を引き抜き、応戦をし始める。

 

「ぐらぁぁぁぁ!!」

「くっ!」

 

 一人の敵が斧でノーマに斬りかかる。

 分かり易い突撃と上からの打撃、単純でいて強力な攻撃だ。ノーマは直前でその攻撃を左に転がって回避。壁に手をついてすぐさま立ち上がる。

 そして敵が此方を見失ったまま後ろに回り込み、鎧の隙間を一撃で貫いた。

 絶命を確認する間も無く、すぐさま剣を引き抜く。

 さらに後ろ、中段横凪ぎに斬りかかる盗賊の逆刃で受け止め、鍔迫り合いで凌ぐ。そして体制を立て直そうと盗賊が一歩下がった。

 その隙を逃さず、ノーマは強い一歩踏み出し剣の間合いへ。盗賊の首に目掛け、鋭い刃を走らせる。多少の返り血を顔に浴びた。

 

「くっ……コイツら、ここに死に場所を求めているのか……!」

 

 ノーマは敵の戦意の高さの正体が、狂気であることを悟った。先ほど倒した二人は、死に様でもニヤリと笑っていたのだ。普通じゃない。

 

「ここを死守せよ!後がないぞ!!」

 

 ノーマは負けじと戦意を立て直すよう、味方に鼓舞した。

 だが練度も数も戦意もあまりに差が大きく開き、脆すぎる味方は次々と倒れていく。矢に貫かれる者、剣に斬り伏せられる者、斧で頭を砕かれる者、とにかく死が蔓延していた。

 ノーマはそれでも戦っていた。

 味方のため、無垢な市民のため、騎士として戦い続ける。

 袈裟懸けに斬りかかる敵の刃を逸らし、後ろへ回り込んだ。だが、背後から別の殺気がノーマに襲い掛かる。

 

「くっ……!」

 

 相手の斧は回避したが、疲れから石に躓いて転んでしまった。そのまま大きく転げ回るノーマ、立ち上がろうとするも敵が目の前にまで迫る。

 

「ピニャ殿下……申し訳ありません……」

 

 死を覚悟したノーマ。

 だが、彼の敵の刃は何か固い金属に防がれる事になる。

 

「シッ!!」

 

 突然間に入った人影が、金属の右手を大きく振り上げた。それだけで硬い金属のような重い音が、盗賊とノーマの間に重く響いた。

 

「近接戦は……得意じゃないんだけど」

 

 そう吐き捨てると、人影の右手から灰色の刃が突き出る。そして、金属の腕を剣に絡ませ弾き飛ばしてしまう。そしてガラ空きとなった盗賊は、彼女の灰色の爪で首を切り裂かれた。

 人影の正体は女だった。

 だが、女と言うにはその爪の一撃は鋭すぎた。

 指先に付けられた五本のスーパーカーボン製ブレードが、屈強な盗賊の首を丸ごと刎ねてしまったのである。

 

「ノーマさん!大丈夫!?」

「君は……!?」

 

 その人影の正体はHal-27だった。

 あの義手の指先から血に濡れた爪を伸ばし、ノーマに振り返る。

 

「何故ここに!?」

「味方にはもう知らせました!今向かってます、私は時間稼ぎでここにいます!」

「そんな無茶な……そもそも伝令の君がどうやって……!?」

「それは後で」

 

 彼女は爪をまた突き立て直し、盗賊達に対して身構えた。

 

「今は、逃げ道を開きましょう!」

「……分かった!」

 

 どの道この城壁上はもう無理だ。飛龍もいる中、目立つ場所で戦い続けても囲まれて死ぬのを待つだけだ。

 盗賊達は突然の乱入者に身構えるも、その正体が女だと知ってむしろ舌舐めずりをした。下賤な欲望が見えたのだろう。

 

「活路を開きます!合わせてください!」

「分かった!」

 

 Hal-27はノーマにそう言うと、盗賊に向かって一気に近づき、その爪を振りかざす。

 だが盗賊は彼女を下に見ている。手足を掴んでやれば、身動きも取れずに男の力によって屈服するはずだ、と。

 実際盗賊はそれを夢見て、剣で急所を外して足を狙った。だが、彼の妄想は叶わぬ事になる。

 

「邪魔だよ」

 

 Hal-27は片足のみで地面を強く踏み込んだ。その片足のみで空高く飛び上がり、足を狙った剣先をヒラリと躱してしまった。

 盗賊が酷く驚いているのを横目に、彼女は盗賊の目に爪を突き立てる。ザクッという音と共に目玉が切り裂かれ、失明する盗賊。

 さらにHal-27は着地するなり、間髪入れずにその盗賊を回し蹴りで蹴飛ばし、次の盗賊に向かって吹き飛ばす。

 

「がっ!?」

「遅いよ!」

 

 彼女はまだ生きて戦意を喪失していない盗賊に向かい、走りながら黒い物体を構えた。彼女が同期する特殊小銃である。

 そのまま盗賊二人の首に押し当て、引き金を引いた。肉に押し付けられた乾いた音が、盗賊二人の首筋を同時に撃ち抜いた。

 弾丸が首の中で転がり、肉を破壊し、大量の血を噴出させる。確実に死に向かう盗賊達を踏み台にして、Hal-27はさらに高く飛ぶ。

 

「っ!!」

 

 高く飛び上がり、宙返りをする瞬間。

 ついでと言わんばかりに、彼女は後ろに続いていたノーマを援護した。小銃で彼の背後の敵を撃ち抜き、再びの死を免れさせる。

 着地した瞬間、Hal-27は唖然とするノーマに向かって叫んだ。

 

「こっちです!早く!」

 

 その言葉に駆け足で答えたノーマは、Hal-27の元へ辿り着くといきなり持ち上げられた。

 

「のわっ!?」

「すみません、飛び降りますよ」

 

 女とは思えない腕力により、重たい鎧ごと持ち上げられたノーマ。彼は抱えられたままHal-27と共に飛び降り、地面に着地する。

 彼の考えは未だ整理がついていないが、とにかく、生き残る事は出来た。

 

 

 

 

 

 

「こんな筈では……」

 

 現場に駆けつけたピニャは、荒れ狂うイタリカ東門を見て呆然と呟いた。

 味方が脆すぎる。士気は緑の人が来たおかげで上がっていた筈であるが、肝心の練度や戦意があまりに足りていなかった。

 城壁の上に盗賊達のリーダーが上り、高らかに叫ぶのが見える。

 

「くそっ……ノーマは何処か?生きているか!!」

「ピニャ殿下!」

 

 同じ騎士の仲間であるノーマを探すピニャ。それに対して、彼女の横から本人の声が聞こえて来る。

 

「ピニャ殿下!騎士ノーマ、恥ずかしながら生きております!」

「そうか……よかった」

 

 ハミルトンとグレイも仲間の無事に安堵したのか、一旦胸を撫で下ろす。

 だがピニャはほぼ壊滅した城壁上からどうやって生還したのか気になり、それを確認する。

 

「だが、どうやって生き残った?」

「彼女に……助けられました」

「っ……」

 

 ノーマの後ろにいたのは、一人の少女だった。緑の人に着いて来ていた少女の一人で、確か伝令役としてここにいた筈である。

 

「其方は……」

「ちょっとだけ介入しちゃいました……でも大丈夫です、緑の人たちはすぐに来るから」

 

 そう言って淡い笑顔を見せる彼女の右手は、鋭い爪に血が滴っていた。それを見て、ピニャは驚く。

 たった一人で、あの城壁からノーマを助け出したのか?この小さな少女が?

 

「それよりもピニャ殿下、城門が突破されています」

「あ、ああ……これは拙い」

 

 ピニャは思考を切り替え、あまりの戦局の悪さに歯軋りした。

 増援の百人隊一個と民兵集団が後ろから続々と来てはいるが、すでに東門へ入ってきた盗賊達は彼らの数を超えている。

 頭で考えていた事と現実が、あまりに違いすぎた。

 盗賊の一人がガラ空きの門に取り憑き、内側から開いてしまう。開いた門から、邪悪な笑みを浮かべる盗賊達が次々とイタリカの土地を踏み荒らして行く。

 

「くっ……このままでは……」

 

 ピニャの手元には出せる兵力がもう居ない。仲間の生き残りに安堵する暇もなく、絶望が東門を支配する。

 

「ノーマさん」

「ハルニジュウナナ……どうした?」

「このままじゃ、民兵の犠牲が重なります。だから、ちょっと考えがあります」

 

 

 

 

 

 

 門を開け放ち入ってきた盗賊が、馬で何かを引きずって来た。

 外から見ていた住民達は戦慄する。その馬の後ろには、外で殺し犯した大量の死体が引き摺られていたのだ。

 

「あいつら……!」

「テリウス……なんて事だ……」

 

 引きずられた人の中には、まだ生きている人間もいた。そのうちの一人の女性が、苦しげな声を出す。

 

「に、ニコラ……」

「アデリア!アデリア!」

 

 その内、住民の一人が耐えきれなくなったのか柵から恋人の名前を叫ぶ。

 

「ダメだ、抑えろ!」

「よせニコラ!」

「柵から出てはいかん!」

 

 賢明な住民により取り押さえられる若い男であるが、彼の怒りは収まらない。

 

「その薄汚い手を、彼女から離せ!」

「あ?お前の女かぁ、じゃあ返してやるよ」

 

 盗賊達は薄汚い笑みを浮かべ、刃を……彼女の首に突き立てる。住民の若い男は、これから起こる惨事を察してしまった。

 だが、その刃が首筋に通る直前──

 一本の矢が、下劣な盗賊に突き刺さった。

 

「間に合ったか……」

 

 生き残ったノーマが、咄嗟に民兵から奪った弓矢で撃ち殺したのである。

 彼は民兵からも死んだかと思われていた。

 しかし実際は様々な奇跡が重なり、生き残っていた。

 

「誰だ貴様は!?」

「我が名は騎士ノーマ!正ししき清純の薔薇騎士団、第二百人隊隊長である!!」

 

 そして、彼は剣を掲げて高らかに宣言する。

 

「ノーマ!?何をしている!?」

「無茶だノーマさん!あんた一人じゃ……」

「下がっていろ、お前たちは出てはならん」

 

 住民たちが陣頭指揮を続けたノーマを心配し、声をかける。だが、ノーマは住民達を抑えて自ら前に出た。

 

「おやおや、騎士さんがたった一人で何の用だ?」

 

 盗賊たちからすれば、無茶な若い騎士が一人のこのこと出て来た様にしか見えない。だが騎士ノーマは、高らかに宣言した。

 

「貴様らの相手は農民達ではない!薔薇騎士団の騎士たる、この私だ!」

 

 決して生き残った奇跡を無駄にしようとしているのではない。住民を守るべく、騎士を貫くべく、手にした奇跡で新たな人を守るつもりなのだ。

 

「ハッハッハッ……その蛮勇、賞賛に値する!全員、掛かれぇ!!」

「うぉぉぉぉ!!!」

 

 盗賊達が一斉に騎士ノーマに襲い掛かろうと、一斉に突撃して行った。それでもノーマは退かない。それどころか、剣を構えて戦う覚悟だった。

 そして、彼らの槍がノーマに届こうとしたその瞬間──

 

「今だ、ハル!」

 

 柵を飛び越え、宙を舞う少女が一人。

 少女が黒い杖を、逆さまになりながら盗賊に向ける。そして、引き金を引いた。

 女の出現に気を取られていた盗賊達は、乱射される弾丸に次々と撃ち抜かれていった。鎧を貫き、肉を裂き、それでもノーマには誤射しない高い精度の連射。

 

「な、なんだ……?」

 

 彼ら盗賊達の脳裏に、何か重く暗い記憶が蘇る。あの音は、アルヌスの丘で散々聞き思い出したくもない。

 そんな盗賊達を無視する様に、少女ことHal-27は華麗に着地した。ノーマの隣に降り立つ。

 

「ノーマさん……勇気をありがとう」

「こちらこそ……!」

 

 ここに、二人のコンビが誕生した。

 驚く盗賊達に対して、また空から一人の少女が華麗に降り立つ。

 

「私もぉ、混ぜてぇ!」

 

 使徒、ロウリィ・マキュリー。

 

 役者の揃ったイタリカ東門にて、呆然とする盗賊達。

 

 その時、彼らの居る東門が大爆発を起こした。

 

 勇気ある戦士達を祝福する、ワルキューレ(戦乙女)の登場である。

 




情報を出す前に、今回の投稿の間に42式のイラストを描いておきましたのでその報告を。
【挿絵表示】
茶髪にポニーテル、ミリタリーの上着とスカートという出立です。盾は画力が足りなくて稼働部が描けませんでした……
設定の所にも記載しておきます。




・ATH-39戦闘爆撃ヘリ・スズメバチ
日本国国防陸軍と国防海軍が運用する対戦車戦闘ヘリ。大火力と高機動力で、水中以外の全環境における高い攻撃性能を有する。
"スズメバチ"の由来は、胴体後部に可動する30mmガトリングガンポッドを有した特徴的な形状が蜂のように見えるためである。
元ネタは攻殻機動隊S.A.Cに登場した戦闘ヘリのジガバチ。

・スズメバチAV
スズメバチ・アドヴァンスとも呼ばれる近代化改修型のスズメバチ。二人乗りへの改修とローター上の長距離レーダー、そして指揮支援AIの搭載がなされ、主に爆撃ヘリ部隊の指揮を取る。

・UTH-42中型強襲ヘリ・アオムラサキ
国防陸軍と国防海軍が運用する中型汎用ヘリ。兵員22名の輸送と装甲外骨格を搭載して飛行できる他、軽車両を吊り下げての飛行も可能。軽量な武装を施す事も可能で、主に強襲ヘリコプターとして運用されている。
元ネタはCOD:AWのキャンペーンに何度も登場したウォーバードという兵器。


ノーマさん生存ルート&名コンビ誕生
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