GATE 近未来日本国国防軍 彼の地にて斯く戦えり 作:国防アレキサンダー
その深夜、ピニャ・コ・ラーダは執務室にて大いに悩んでいた。騎士団のメンバーのうち、アルヌスへ謝罪に向かうメンバーを決めかねていた。
コクボウグン側は「3人まで」とあらかじめ言っていたので、そのうち指揮官である自分と張本人であるボーゼスは決まっているのだが、あと一人誰を連れて行こうかと悩んでいた。
「グレイやハミルトンはイタリカに残しておいた方がいいな」
だいぶ決まらないので、消去法で決めようとする。
「ボーゼス隊を指揮し続けるにも、パナシュは置いておいた方がいいが……」
とすると、残るのは一人である。
「ノーマか。確かに男手が必要な時が来るかも知れぬが、本人がどう思うか……」
ピニャは一度死にかけた彼を連れて行くことに少し悩ませるが、とにかく一度ノーマを呼んで話してみるのが良いと思い、ベルを鳴らす。
呼び鈴によって駆けつけてきたメイドに、ノーマを呼び出すように言うと、しばらくしてからノーマが来てくれた。
「お呼びでしょうか、ピニャ殿下」
「ああ、少し話がある。そこに座れ」
「はっ」
ノーマは対面のソファに座る。
「実はな、アルヌスへ向かうメンバー決めかねておるのだが、私とボーゼスと、後一人をお主に決めようと思っていてな」
「私が……ですか?」
「ああ、どう思う?来てくれるか」
ノーマはピニャの言葉を聞いて少し悩みつつ、数秒待ってから答えた。
「私は……コクボウグンに、ハル殿に助けられた身です。それだけでなく、イタリカの東門も彼らに助けられた恩があります」
「……そうだな」
「彼らに対して恩義のようなものを感じています。もちろん、幾分かの恐怖もありますが……助けられた恩を仇で返すような真似はしたくないのです」
ノーマは決意を改め、しっかりとした口調で言う。それはピニャのような国防軍に対する恐怖ではなく、恩人としての尊敬に近いのかも知れない。
「私は、騎士として彼らに礼をしたいです。自分達の非を謝罪を謝罪し、彼らに恩を返すことができるならば、私も行きます」
「分かった。男手は頼んだぞ?」
「はっ」
こうして、3人目の騎士が決まった。
翌日の朝を待ち、伊丹達はアルヌスへ帰還の準備を始めていた。第三偵察隊所属の高機動車と36式多脚装甲車が、列を成し物資を積み込んで出発の時を待っている。
「ピニャ殿下……」
「ボーゼス、ノーマ、わかっている」
高機動車の後部ドアにて、かなり緊張した趣のピニャとボーゼス、そしてノーマが、小声で話をしている。
「これから、妾らは敵の本拠地へ向かう。もしかしたら、妾のミス次第でコクボウグンは……」
ピニャの脳裏に、彼らを怒らせた最悪のシナリオと、コクボウグンの軍勢がイタリカを越え帝都にまで迫る様子が見えた。幻であるが、それだけは絶対に阻止しなければならない。
「行くぞ。この先に帝国の未来がかかってるやもしれん」
「はい!このボーゼス、どこまでもついて行きます!」
「このノーマも、地獄の底まで!」
「二人とも、頼んだぞ」
決意を新たに秘めた3人は、彼女らの目線からしたらかなり怪しいであろう高機動車に勇気を出して乗り込み、おずおずと後部座席に座った。
「んで、あの金髪ロールはともかく男の騎士さんも着いてくんの?」
「護衛を兼ねているんだと思うよー。Halちゃんとも知り合いだし、来てもいいんじゃない?」
「こっちからしたら面倒くさいだけなんだけどなぁ……」
前席にて伊丹が愚痴るが、42式が宥めてくるのを聞いて、それ以上はため息を吐くだけに留めた。
「あ、ノーマさん!」
「ハル殿……貴殿もこの部隊の所属であったのか?」
「ええ。貴方達の付き添いです」
ノーマのところに、Hal-27がやって来た。今回、帝国側の思わぬ要人が3人もやって来ると言うことで、護衛兼監視役として抜擢されたのだ。
知り合って数日の男女にしてはかなり気さくに話しているが、二人はそれなりに意気投合しているので会話が弾みやすい。
だが事情を詳しく知らないボーゼスは、コクボウグンの怪しい女兵士がノーマに気さくに話しかけるのを見て、何があったのかと聞き出す。
「ノーマ、このコクボウグンの女と知り合いなのか!?」
「いや、イタリカで共に盗賊と戦ったまでだ!何もしていない!」
「そうなのか?にしてはかなり入れ込んでいるようだが!?」
「いやいや!そこまではしていない!」
と、昔から女好きで色々手を出しては撃退されて来たノーマを疑い、胸ぐらを掴んで問い詰めるボーゼスの様子を見て、ピニャは苦笑いをする。
思えば、ノーマはHal-27に助けてもらわなければ死んでいたかもしれないと言う。部下の恩人にそのような感情を抱くのは、失礼にあたると思う。
だが命の恩人がこの小さな女だと言うのが信じられない。実力者であるノーマが助けられ、イタリカでその実力を見ることになった今では信じるしかないが、それが余計に疑念を持たせていた。
──何者なんだ、彼女らは。
少なくとも人間には見えない。人間の少女があそこまでの力を有するのは、この世界にほとんどいないであろう。それにあの金属の腕も、彼女の人間性に疑いを持たせていた。
その様子を見ていたHal-27は、不敵に笑うのみであった。
ちなみに、この時倉田はペルシアとしばし別れの挨拶をしていて、存分に鼻の下を伸ばしていた。ペルシアも悪い気はない様であったが。
「……よし、出発しよう。倉田!」
「あ、はい!出発します!」
倉田がエンジンに火を入れ、高機動車が動き出した。イタリカの様々な見送りと残留国防軍軍人の敬礼を後に、彼らはイタリカを出発した。
「うわっ!?」
「ほ、本当に動いたぞ!」
「で、殿下ぁ!!」
途中の愉快なお嬢様方の悲鳴を聞きながら、第三偵察隊はアルヌスへと向かう。途中の長い長い街道を抜け、車列は北へ向かった。
『第三偵察隊、前哨監視線通過』
その数時間後、第三偵察隊の上空を無人ヘリコプターが過ぎ去った。小型で武装もない無人ヘリは彼らに信号を送り、定期周回ルートに戻っていく。
無人ドローンが警備を張り巡らせる前哨監視線を越え、第三偵察隊はいよいよアルヌスの丘にたどり着いた。
「殿下、アルヌスです」
「うっぷ……な、もう着いたのか?」
窓の外を見ていたノーマに起こされ、車酔いをしかけていたピニャとボーゼスは飛び起き、窓の外を見る。
「あれか、聖地といえただの丘だった筈だが……」
「連中、麓を掘り返していますね。砦のようなものもあります」
3人が開拓により変わり果てたアルヌスの丘を見て、各々の感想や憶測を唱える。その様子がHal-27には面白くて仕方なく、口を抑えて笑っていた。
そして車列は兵士の訓練場エリアに入って行った。そこでは建設中の施設や避難民居住地などを活用し、エグゾスーツを着込んだ兵士たちが、行進したり格闘訓練を行なったりしている。
「あの骨の鎧……兵士が着込んでいるが、何か意味があるのだろうか?」
ピニャのエグゾスーツに関する感想は、まずその防御力の低さを見た。
「あんなスカスカの鎧、まるで意味がありませんわ。どこを保護しているんでしょう?」
「だが見たところ、兵士全員が着ている様だが……」
この世界での鎧というのは、兵士の急所を保護して生存率を上げる為の防具としての役割である。鉄でできているのに骨組みしかないエグゾスーツは、まるで意味がないように見えた。
「あれは、"えぐぞすーつ"なる門の向こうの装備」
その3人に割り込んできたのは、アルヌスにて国防軍の装備について自分なりに研究したレレイであった。
「"えくぞすーつ"は防具ではあるが、防御を目的にはしていない。特殊な装備に当たる」
「なに?防御が目的ではないのか?」
「そう。説明するより見る方が早い。あれを見て」
レレイは彼らの反対側の窓、つまりレレイ側の窓から見た訓練場の様子を指差さす。その先には、一人の兵士がエグゾスーツを着込んだ状態で小ジャンプを繰り返し、目の前の巨大な壁を見上げていた。
「あの兵士、何をするつもりでしょうか?」
「まさか、あの人二人分の壁を飛び越えようと言うのか?」
そしてタイマーが鳴り、兵士が一気に助走をつけ走り出した。エグゾスーツの出力を最大にし、三段跳びの要領でその大人二人分はありそうな壁を背面跳びで飛び越えてしまった。
「なっ!?」
「ほ、本当に壁を一人で飛び越えましたよ!?」
「嘘だろ!?」
3人がその人間業ではない能力に驚き、目を大きく見開く。
「"えぐぞすーつ"は、着込んだ兵士の身体能力を向上させる」
それを縫い、レレイが説明を続ける。
「あの骨の様な造りは、体の関節を保護し、その骨一つ一つが筋力を補助して超人的な身体能力を生み出させるもの」
「そ、そんな力があの骨の鎧に!?」
「そう。これを装着すれば女の兵士であろうと、屈強な男を殴り倒す事が可能。そしてコクボウグンはこの鎧を全ての兵士に着せている」
ちょうどその時、彼らの目線にエグゾスーツのパンチ力測定をする様子が目に入った。
小柄な兵士がエグゾスーツに力を込め、思いっきり右拳で殴りかかると、案山子として用意したプラスチックのマネキンを粉々に粉砕した。
「拳だけであの威力……あれを食らえば、重装歩兵であろうとひとたまりもないだろう」
「そ、それでは!剣の間合いで勝てないではありませんか!」
ピニャとボーゼスがエグゾスーツの能力に絶句し、同時にその有用性を思い浮かべて戦慄した。
剣の間合いで戦ったとしても、筋力補助を受けているコクボウグンの兵士相手には素手だけで殴り倒されてしまう。相手が武器を持っていれば、その力は亜神に近づくであろう。
勝てる相手ではない。
「それだけではない。ニホンと我々では、根本的に戦術が違う」
レレイは次に、小銃を持って射撃訓練を行う国防軍の兵士たちを見た。彼らは市街地を想定した的から、数百メートル離れた遠距離の的まで正確に撃ち抜いていく。その小銃を黒い物体として捉えたピニャ達が、レレイに質問する。
「あれは……前から気になっていたが、魔法の道具なのか?」
「違う。彼らの世界に魔法は存在しない。あれは"ジュウ"、又は"ショウジュウ"と呼ばれる武器」
「武器だと?」
小銃はピニャ達が思う武器とは到底かけ離れた見た目をしていた。その事実に驚きつつも、レレイに問いかける。
「原理は簡単。炸裂の魔法が閉じ込められた筒の中から、鉛の塊を高速で打ち出している。その威力は絶大で、遥か遠距離から鉄の鎧ですら貫いてしまう」
「そ、そんな威力が!?」
「それでは、近づく前に我々は……」
ピニャの脳裏に、イタリカでの蹂躙の様子が映し出される。あれが武器であり誰でも使える代物ならば、あのような一方的な戦いをコクボウグンはいとも容易く行えるという事だ。
もし、あのような戦いが帝国軍相手に巻き起こったらと考えると、ものすごい寒気がした。最悪の事態を防ぐべく、戦況を一方的なものにしないためにも、彼らの銃を自分たちも作れないかと聞いてみるが……
「それは無理」
と否定されていしまう。
「彼らの銃は精密で工作精度が非常に高い。見慣れない金属も使われている。多分、ドワーフの職人たちですらも作れない」
帝国どころかドワーフでも銃は作れない。
それがレレイの出した結論であった。
正確に言えば、国防軍の銃には銃の状態や兵士のバイタルを表示するホログラム装置が組み込まれていたり、レーザー銃に至ってはバッテリーや高精度なレンズが必要など、銃以外の余計に高性能な部品を見ての結論である。
国防軍の研究者はレレイの魔法を一応研究した結果、彼らでも魔法を使えば第二次世界大戦レベルの銃器なら作成できるかもしれない、と報告されている。
それに必要な錬金術系の魔法の実物はレレイの専門外のため、可能性の領域であるが。
「そんな精密な代物を、彼らは最も容易く……」
「そう。そして作れたとしても、彼らには決して敵わない」
レレイは、少し離れた場所で訓練を行う戦術機を指さした。
舞い上がる土煙の下で、49式戦術歩行戦闘機『疾風』の小隊により4対4の模擬戦闘が行われている。
「あれは!あの時の鉄の巨人!」
右手に長刀を持った『疾風』が、
長刀持ちが横凪に刃を振り払うが、その攻撃は追加装甲によって受け流され、かの機体に大きな隙ができる。
だが長刀持ちはそのことを知っているのか、速度を緩めず地面に足を擦り付けて急制動。さらに跳躍ユニットを吹かして左右の機動を繰り返し、後衛からの銃撃も避けてしまう。
「ショウジュウのショウは小さいを表す言葉。ならばそれに相対する、大きいジュウが存在する。巨人や象が持ち合わせているのがそれ。その威力は、あなたも見ているはず」
「っ…………」
戦術機部隊の後衛からは、30式多脚戦車が丘の起伏を利用しながら主砲を放つ。それを感知した『疾風』がロケットモーターを吹かして緊急回避を行い、ペイント弾が戦術機のいた場所に多数着弾する。
『疾風』は大きく飛び上がりながらも、上空で下向きに跳躍ユニットを噴射。片手を付いて受身を取り着地する。
どうやら戦術機と多脚戦車の共同訓練のようだ。お互いの兵器が上手い具合な連携を果たしている。
「鉄の巨人、鉄の天馬、鉄の象……どれも帝国の有する怪異などとも違う。知性があり、人の命令に忠実に従い戦う。なんなのだあの化け物たちは……」
ピニャの問いには、レレイが答える。
「彼らは、大まかに言うと"キカイ"と呼ばれる門の向こうの種族」
「キカイ?」
レレイは話を続ける。
「彼らの体は多くの場合鉄で造られていて、人間とは比べ物にならないほどの怪力を有する」
「門の向こうには、そんな化け物が……」
レレイはピニャの考察に一旦は頷くが、一部の修正を挟む。
「だけども、彼らは決して怪異などの様な生物ではない。彼らは門の向こうでヒトにより人工的に作られた、人工的な種族」
「ひ、人があの化け物を作り出したと……?」
レレイの説明に、ピニャ達はよく分からず首を傾げる。この世界では神々が実在する為に、『生命の創造』などの行為は禁忌とされている。
だからこそ、門の向こうのコクボウグンが人工的に種族を作り出したと聞いて、その禁忌を破ったのかと恐怖したのである。
「門の向こうでは"キカイコウガク"なる技術が発達しており、彼らはヒトの求める用途に合わせて作られ、ヒトの世界でヒトに従事する。軍事においては、ヒトと共に戦うことがそれにあたる」
レレイは42式やHal-27からの説明を受けて考察した内容を、ピニャ達に一つ一つ説明する。
「彼らはヒトに従事する目的のため、姿、見た目が多岐に渡る。蜘蛛の様な多足、巨人達の様な二足歩行、そして──」
「まさか、ヒトの姿をしたキカイも!?」
「そう、存在する。そこの──彼女の様に」
レレイが指差したのは、ピニャ達の案内をしていたHal-27と42式であった。
「彼女達は人間では無い。門の向こうの"キカイコウガク"で造られた、センジュツニンギョウと言われる種族」
仰天する皇女らの目線が、Hal-27と42式の二人に注がれる。
「長い間説明ありがとう、レレイちゃん」
「んじゃ、そろそろ私たちの説明しないとねー」
42式とHal-27はレレイの代わりに説明をし始める。なんだか気だるそうにしているのは、後で猫宮に叱られないかも考えているからである。
「私たちは機械の中でも、戦術人形って言われているの。人間兵士に付き従って行動する為の機械ね」
「人間と瓜二つな見た目をしていて、なおかつこうして喋れるのが条件かなー。まあ見分けがつかないから驚くだろうけど、そう言うふうにデザインされているからねー」
そこまで話されて、ピニャ達はイタリカで感じた彼女達の違和感の正体を掴む。
「お主らは……人間ではないのか?本当にヒトに作られた存在なのか?」
「……うーん、そうかもねー。公的には人間じゃなくて、キカイだし」
ピニャ達はその言葉に何かの含みを覚えたが、その正体を掴むことなく彼女は話を続ける。
「なんと言うことですの……」
「門の向こうでは、禁忌を平気で破るのが当たり前なのか?」
ボーゼスとピニャが衝撃を受け、聞き返す。
「禁忌?ってのはよく分からないけれど、私たちは普通に作られて、普通に暮らしているよ」
「…………」
普通に暮らしている、と言う言葉が何か恐ろしい意味に感じたのか、ピニャとボーゼスは大きな衝撃を受けた。
その中で、ノーマだけが正気を保ってHal-27を見つめていた。
「なぜ……こんな連中が攻めてきたんだ?」
ピニャが問いかける。
「先に攻めてきたのはそっちでしょー?自業自得ってやつじゃない?」
「くっ……それは……」
言い返すことはできなかった。
門の向こうの相手を侮り、自分から攻めたのは帝国の方だ。強大な相手に喧嘩を売って、仕返しを受けそのまま滅びる無様な様を、誰も同情はしないであろう。
「帝国は……この世界はこれからどうなるのだ……」
ピニャは帝国の未来を案じ、小声でそういった。
機械や戦術人形の事を種族扱いして良かったのだろうか……
と思いつつも、15話目になりました。
『長刀』
戦術機が装備する近接格闘兵装。EMP粒子の影響で戦術機同士の高速戦闘では近接戦闘などが多く起こるようになり、敵の装甲を切り裂いてダメージを与える兵装として開発された。
この手の兵装は世界中で様々な形態があり、イギリスは大剣、ドイツやフランスはハルバード、オーストラリアは直剣、新ソ連は椀部にモーターブレードを内蔵するなど、その国の個性が出る。日本の場合は日本刀のような、特殊な湾刀を装備する。
元ネタはマブラヴ・オルタネイティブより74式近接格闘戦用長刀。
『追加装甲』
戦術機が装備する大型の盾。重量が嵩む代わりに戦術機特有の脆弱な防御力を補うことが可能で、36mm程度であれば何発か弾く強力なフィジカルがある。