GATE 近未来日本国国防軍 彼の地にて斯く戦えり 作:国防アレキサンダー
さて、帰還してもすぐに休めるわけではない。第三偵察隊の隊員達は一息つく前に車両の洗浄や戦術人形達のメンテナンスなどを行う。
一方の伊丹は、参考人招致の説明を受けるべく会議室に向かっていた。
「はぁ〜、参考人招致だるいなぁ……どうしてこう、面倒事ばかり引き連れるんだか」
と、伊丹が廊下を歩いていると右横から嫌な気配がしたのを感じ、足早に過ぎ去ろうとするが、声をかけられる。
「よお、伊丹。お疲れさん」
「……柳田少佐かよ」
現れたのは柳田少佐で、いつものように電子タバコから水蒸気を出しながら、何かを含んだようなニヤケ顔で伊丹に声をかける。
「何しに来たんだよ」
「いや、俺はこれから皇女様の接待をしなくちゃいけないんだが、お前さんが参考人招致の説明を受ける前に一つ確認したいことがある」
伊丹が何のことだと聞くと、柳田少佐はさも当然かのように話を続ける。
「人数だよ。内地に連れて行く特地住民について、候補は誰だったか?」
「は?人数って……まあ、レレイとテュカは確実として2〜3人くらいか?」
「……残念だが、その予定は変更になる」
「……は?」
伊丹がその言葉の真意を、睨みつけるように問いただす。
「参考人招致に連れて行く特地住民に追加だ。皇女様を連れて行く」
「なっ!?お前まさか……!」
伊丹は思わず柳田少佐に吠え、そのまま掴みかかろうとするも、彼は最小限の身のこなしでその拳を避けた。
「その通りだ。皇女様には非公式でも何でもなく、公式に国会に出て答弁してもらう」
「馬鹿か!敵国の重役の人間をいきなり国会に連れて行く馬鹿がどこにいる!」
考え方としては、敵の人質を国の国会に連れて尋問するようなものだ。それは人質を大衆の奇異の目に晒すことになり、人道的に反するのではないか。伊丹はそう思って怒鳴ったのだ。
「伊丹、熱くなるなよ。この件は俺のせいじゃない。むしろ俺は、こういう事態は反対していたんだがな」
「っ……どう言う事だよ」
何か理由があるのかと思い、伊丹は一旦頭に沸る血を落ち着かせ、理由を黙って聞く。
「遺族の連中が騒ぎ立てている。銀座事件を引き起こした現地住民の面を見せろってな」
「頭に血が上っている連中か……それで?」
「まず上層部の急進派は、皇女様の存在をネガティブプロパガンダに利用しようとしている」
「ネガティブプロパガンダ?」
「ああ、遺族の連中は特地を徹底的に叩いて灰にしようとしている連中だ。そしてそう言う右翼的な思想は、古来から軍隊にとっての燃料になっていた。そう言う奴らにとっては、皇女の面ってのは格好の大義名分なわけだ」
つまり、急進派の連中は皇女様が国会で失言するのを求めて、わざわざ国会に出そうと言うのだ。それも皇女様と交渉して得られる利益を全てかなぐり捨てて、である。
「たぶんあの皇女様、このままじゃあ、まんまと思惑に乗せられて国会で無様な様を晒すと思うぞ。もしくは自己中心的な発言をするかのどちらか」
「くそっ……そうか、それが目的なら皇女様を国会に出した時点で勝ちってわけかよ。連中は、それを狙ってやろうってのか?」
「ああ。それで失言をすれば、急進派は思う存分特地を滅ぼせるからな」
伊丹は頭を抱える。確かに遺族の連中からしたら、特地の人間は滅ぼしたくてたまらない害悪にしか見えないであろうが、にしたってやり方が極悪すぎる。
こんな連中を抱えながら振り回されなければならない自分達の立場を鑑み、ため息をつく。
「それだけじゃない。遺族の連中、悪魔に魂を売り渡してでも特地を滅ぼす大義名分が欲しいらしい。これを見ろ」
柳田少佐はタブレット端末を取り出し、何枚かの写真を見せる。
「石川県羽咋郡賀町の海岸で見つかった不審船の残骸だ。すでに中身はもぬけの殻だった」
「このヨット、中華連邦製?いや……そういうことかよ!」
中華連邦製のヨットは、大国の新ソ連が工作員を派遣するのによく使う手段なのだ。それが日本に漂着したとなれば、遺族連中が行ったことが目に見える。
「そうだ、連中は新ソ連の手先に魂を売ってまで恨みを晴らすつもりらしい」
「くそっ、余計な奴らを引き込みやがって……足跡は?」
「追えていない。僅かに通信があった地点を隈無く調べているが、からっきしらしいな」
柳田少佐はタブレット端末を片付けると、再び電子タバコを蒸した。
「そう言うわけで、内地では熱烈な執着に遭う事だろう。身を守るものは現地に用意しとく」
「俺たちは参考人招致に行くだけだ。戦争をしに行くんじゃないんだぞ?」
「ハッ、何を言う!もうすでに戦争は始まっているんだ。どこまで大きくなるかが争点だがな」
柳田少佐は半分笑いながら吐き捨てると、伊丹の背中を叩く。
「まあ、欲しいものがあればなんでも渡してやるよ。戦車とか戦術機とかでもなければ何とかなる。遠慮なく言え」
「……すまないな」
「一応、俺の方からも援軍を寄越しておく。装備に関しては、渡す場所を暗号化しろ」
「はっ、お前の私兵なんかに世話になるかよ。自分で何とかする」
伊丹の言葉に対して「そうかよ」と柳田少佐は一言だけ言い、そのまま立ち去っていった。
「はぁ……休暇が取れねぇ……」
伊丹のぼやきは、夕焼け空に消えて聞こえなくなっていた。
レレイは少し疲れていた。一日中説明や翻訳に忙しく働き、コクボウグンの仕事も少し手伝ったからだ。
「疲れた……」
彼らのことが気になる傍ら、こうして自分に無理をさせて疲れさせてしまうのは反省するべきだと思う。思うけどしかし、彼らコクボウグンの仕事ぶりはこの世界とは全く違う。
例えば書類を片付けるだけでも彼らは"ほろぐらむ"と呼ばれる光る文字盤を使い、力仕事は全て"えぐぞすーつ"の力で片付けてしまう。
それが見ていて本当に気になるのだ。道具の仕組みもそうだが、それを難なく使いこなす教養の高さも気になる。
とりあえず今は疲れているので、魔道士の杖を松葉杖代わりにしてトボトボと歩き、住居まで戻ろうとするレレイ。
「うっ……」
と、ここで柄にもなく立ち眩みをしたレレイは少しの段差に気づかず、そのまま前から倒れそうになる。
しまった、と思った途端に誰かがレレイを受け止めた。
「?」
「君、危ないよ。何やってんの?」
受け止めたのは白い上着を着たニホン人の背の低い女性であった。ボサボサの白髪に"めがね"と呼ばれる補助器具を付けている。
「……住居に戻る途中」
「住居?ああ、君が避難民のレレイちゃんね」
「うん、合ってる。貴方は?」
彼女に質問すると、レレイを抱えていた身体を起こしてそれに答えてくれる。
「私は猫宮日鞠。ここで研究員やってるの」
「ケンキュウイン?」
「そ、要は戦術人形の子達のメンテナンスとかをやってる」
"めんてなんす"というのは、確かセンジュツニンギョウの子達が定期的に行う身体の調節だと聞いた。レレイはそれを女性が行っていることに驚いた。
センジュツニンギヨウの子達を任されているとなれば、精密な専門職になる。それこそドワーフよりも更に鋭い職人社会ではないのか。女性であってそれを実現させたというのは、相当努力したに違いない。レレイはそう思った。
「ちょうど良かった。レレイちゃんに話があるんだけど……話せる状況じゃないよね。じゃあこれ」
と、彼女は徐に腰のポケットから一瓶の香水の様な物体をレレイに差し出した。
「これは?」
「緑茶、少し目が覚める飲み薬よ。少しだけ話したいことがあるから、飲んでほしいの。いい?」
そう言われたので、人の頼みを断れないレレイの性格から、その"りょくちゃ"とやらをひと口飲んでみる。すると少し苦いお茶だということが判明し、子供舌に刺激を与える。
「苦い……」
「ふふっ、まあ子供の舌にはキツイかもね」
そう言って彼女は近くのベンチに手招きし、そこの隣にレレイを座らせた。
「話って?」
「ん、ちょっとね、42式の事で少しだけ」
口直しなのか、彼女は柑橘の搾り汁が入った牛乳をレレイに手渡す。よくお風呂上がりに飲んでいた"ふるーつぎゅうにゅう"というやつだ。
「……伊丹から聞いたんだけど、車の中で皇女様に42式のこと喋ったのって本当?」
猫宮が聞いて来たのは、レレイがセンジュツニンギョウについて説明した時のことだった。
確かあの時は帝国第三皇女を相手に様々な説明を行ったはず。問題はなかったはずだ。なぜそれ今聞くのかと思いつつも、レレイは正直に答える。
「……本当。あの場でセンジュツニンギョウについて説明するには、あの表現が正しかった」
「あの子達を人間じゃない、って表現するのが正しいって?」
「?」
猫宮の声のトーンが少し下がるのを聞き、何か問題があるのかと思いつつも、これまた正直に答えるレレイ。
「実際に、彼女らはヒト族ではなくキカイ。私は事実としてそれを説明したまで」
「……ふーん、そう。じゃあ、これ見て欲しいんだけど」
そう言って猫宮が手渡して来たのは、何か青や赤の折れ線で表された表だった。そこにはニホン語や数字が沢山描かれており、レレイでもよくわからない領域の図であった。
「これは?」
「42式の感情を表すグラフ線。あの子はアンタの言う通り人間じゃないから、今日一日どう感情が揺れ動いたかとかも測れるの」
その説明を聞き、思わず表と猫宮の顔を見比べるレレイ。これは、確かにニホン語で「喜び」「怒り」「哀み」「楽み」などの感情を表す言葉が書かれており、それらが色の付いた折れ線で表されている。
これは、"めんてなんす"の一部としてやっていることなのだろうか。もしかしたら彼女は人間やセンジュツニンギョウの感情を数値にできる人物なのかもしれない。門の向こうの技術の一端を見て来たレレイだからこそ、その様な予測をした。
「これは……凄い」
「んじゃ、そこの赤丸の部分、何が起こったと思う?」
「?」
同じ学者として感心するレレイの傍ら、猫宮が横から指差すのは確かに赤い丸であった。ここには薄い青で折れ線がグイッと上に伸びており、何か急激な変化が訪れた事を表している様だった。
「そこね、アンタがあること言った場面なのよ。そう、"彼女達は人間では無い"って、そう言った場面」
「え?」
その発言の意図を掴みかねているレレイの傍ら、猫宮は小さく俯きながらレレイにハッキリという。
「これは私が言っていなかったから悪いんだけどさぁ、あの子達ね、精神的に不安定なの」
「不安定?」
「そう。アンタが思っているよりあの子達の心はずっと脆くて、壊れやすいのよ」
そう言って猫宮は立ち上がり、レレイからその折れ線グラフをサッと回収した。察しのいいレレイは、猫宮が何かに怒っているのを感じとる。
「これは注意するべきだと思って言っているんだけどさ、今後は彼女達にこういう酷いこと、あまり言わない様にしてくれる?」
「……何を?」
「惚けないでよ!あの子達はアンタが"人間じゃない"って言ったせいで、心が不安定になったのよ!」
猫宮は態度が急変した様に、レレイに向かって大きく吠えた。まるで何かを守るべくレレイに叱りつける様にして、猫宮は訴える。
「……彼女達は人間じゃない。あくまでキカイという種族で」
「違うわ!彼女達の心は人間に最も近いの!確かにあの子達は戦術人形で、体は機械かもしれない……けれどね、メンタリズムは人間のそれと同じで繊細なのよ!」
レレイは猫宮の言っている事の訳が分からず、思わず呆然とした。聞き返そうとするも、それは彼女の剣幕に遮られる。
「だから私たちはあの子達を人間として扱ってた。それなのにアンタは、平気な顔して彼女達を傷付けたのよ!それくらい自覚して!」
果たして何が悪かったのだろうか。レレイにとっては、彼女の言っていることがよく分からない。
レレイとしては事実を事実として言う方が正しいと思っている。あの時説明する時も、嘘を教えるよりは真実を教えた方が皇女の為だと思ったまでだ。
学者の卵であるからこそ、レレイは真実を真実のまま打ち明ける事を大切にして来た。学者として正しいと思ったことを曲げることのないレレイは、それは間違った認識だと反論する。
「人間と異なる種族を人間と見做すのは無理。人間とは暮らしも認識も違う種族を人間と同等に扱うのは、当人にとっても良くない事」
「それはアンタ達の認識でしょ!勝手に異世界の認識を押し付けないでよ!あの子は地球の人間なのよ!!」
そこまで言い放ち、猫宮は呼吸を整え最後に通告を放つ。
「……とにかく、あの子の前では注意して。これは忠告よ」
「っ………」
「一つ言っておくわ。あなたの好奇心は、いずれ誰かを不幸にする事になる。学者として好奇心を持つのは結構。けど、人には詮索されたくないことがあるって事、知っておきなさいよね」
そう言って、猫宮は踵を返して後ろを向き、レレイの下を去って行った。寂しい夜の虫の声に、彼女の足音だけが鳴り響く。
レレイは彼女を止めるべきかと思ったが、呼び止められなかった。レレイに呼び止める勇気はなかったからだ。
その日、レレイは眠れない夜を過ごした。
翌日、避難民キャンプにHal-27たちが訪ね、ある要件を伝えていた。
「え?門の向こうに行けるの?」
「そうそう、近いうちにね」
説明を受けていたテュカは、前々から門の向こう側に興味を示していた。そのためその要件は非常に魅力的で、面白そうな話であった。
「門の向こうには『ヒト』以外もいるって伝えるために、うちの国の元老院のところに挨拶しに行くの。もちろん、レレイも一緒だよ」
「へぇ、元老院に招待されちゃうんだ〜!門の向こうって街になっているんだよね?楽しみだなぁ〜」
エルフの彼女にとっては、大きな街ですら新鮮に映るのだ。東京の街がどう映るかはわからないが、彼女の反応が上々なら許諾は取れそうだ。
「あ、そういえばレレイは?」
「ここにいる……」
と、話を半分聞いていたのかレレイもやってきた。
「昨日はどうしたの?なんか寝れなかったみたいだけど……」
「……大丈夫、ちょっとね」
「?」
と、レレイが何か浮かない顔をしているのを見て、テュカとHal-27は何かあったのかと察したが、レレイに詮索する勇気はなかった。
「ま、まあじゃあ!テュカも行くのは決まりかな!」
「ちょっとぉ、わたしはぁ?」
と、話が決まりそうな流れに抗議したのは、不満そうに顔を膨らませるロウリィであった。
「えっと……なんていうか、ロウリィちゃんはなんか勘違いされそうだし……」
「なんでぇ?奇跡を見せれば良いんでしょぉ?」
「それはダメです!」
彼女からしたら、いつも馴れ合っている仲で仲間はずれにされるのが気に食わないのだろう。それはHal-27も分かっているので、仕方なく伊丹にツェナープロトコルを用いて連絡を取ってみる。
「あの……隊長?ロウリィさんが参考人招致に来たいって言ってて……え?来ていいって?ハルバードは……」
「やったぁ!」
と、言うことで避難民から1人加わることとなった。
そして、その翌日。
照りつける暑い気候の中、内地に合わせた冬服をダラっと半袖にして伊丹耀司は内地に向かうメンバーを待っていた。
「あちぃ……おそい……」
途中すれ違う上官達に挨拶をしながら、かれこれ数時間は待っていた。
「伊丹、大丈夫ー?」
「あっちに戻ればすぐ冷めるよ。ただ、ここの人は時間にルーズだなぁ」
「時計ないし、仕方ないと思うよー。今Hal-27がせっせと支度させてるってさー」
伊丹の隣には、護衛役として42式が着いていた。武器は向こう側で調達できるとはいえ、頭数が足りなくなるのを防ぐために戦術人形の貸し出しも申請しておいたのだ。
その際、柳田に「おやぁ?伊丹は副官連れてデートでもするかぁ?」と皮肉られたが、ムカつきながらも無視した。
こういう権限が使えるのも、伊丹の特殊な立場あってこそだ。その権限を持たせてくれているのは柳田なので、文句は言いたくても言えないのが悲しいところだ。
「あ、そう言えば時間といえば知ってる?世界終末時計の秒針が0.0001に更新されたってさー」
「前回より0.1桁増えてるじゃないか、もう既に滅んだようなもんだろ……ってかアメリカの雑誌はタフだな?西海岸は滅んだってのに、まだそんなこと言えるのか」
かつての超大国だったアメリカは、今やユリシーズ災害の影響で相当な打撃を被って大きく没落してしまっている。
アラスカに始まったユリシーズによる汚染が風に流れ、北米大陸西海岸を飲み込み完全に人の住めない土地となってしまったのだ。その広がりが想定以上に早かったために、アメリカ海軍は組織の半分が西海岸と共に壊滅。
その後も大陸の穀倉地帯をロッキー山脈から降り注ぐ汚染雨の影響で失ってしまい、今やその国力は見る影も無く消し飛んでいる。
一応アメリカの残党はロッキー山脈に要塞を建設し、東海岸を中心に政府を作っているらしいが、滅亡寸前であることは変わりない。
「アメリカが一番に死んだから出来た新ソ連とG8の対立も、体制ができてから20年近く経つけど全く揺るがないよねー。第二の冷戦だって言う人もいるしー」
「冷戦か……第三次大戦を見ればもう既に熱戦のようなものだろうに」
そのアメリカの代わりとして台頭してきたのが、今の新生ソビエト連邦である。
ユーラシア大陸の北半分を有する広大な領土と、高度に機械化された戦術人形中心の軍事力によって大国にのし上がった国だ。目下、日本を含めたG8各国の仮想敵国と目されている。
「今回は……奴らの妨害はあり得るかなー?」
「新ソ連は人を使った工作は不得意なはずだ。何でもかんでも機械化しちまったからな。ただ……」
伊丹は一瞬だけ詰まるが、すぐに言葉を続ける。
「ただ、他の手段ならあるいは……」
「他の手段……他の手駒を使うってことー?」
「それもあるな。とにかく、内地に行った瞬間から敵だらけだと思った方がいい」
「……そうだねー」
相変わらずの42式の声であるが、伊丹は彼女の声のトーンに少し違和感があることに気付いた。
「なあ、42式は何か気になることでもあって……」
「伊丹!」
それを尋ねようとしたが、それを女性の声に遮られた。声の方向を見ると、そこには白衣を脱いで冬服に身を包んだ猫宮日鞠研究員がいた。
「猫宮か?どうしてここに?」
「ちょっとね、私も同行することにしたの」
「は、はぁ?」
いきなり内地メンバーが増えたことに、伊丹は驚嘆の声を上げた。
「お前、任務とかは……?」
「休暇を貰ってきたわ。これは私の個人的な動向よ、一応話は通してあるけどね」
「じ、じゃあ、どうしてついてくるんだよ!」
伊丹が抗議するのを聞き入れず、猫宮は急に伊丹の耳を掴んだ。「痛てて!」と言う伊丹の声など気にせず、猫宮は痛みに耳打ちをする。
「……42式のメンタルの面を気にしてるの」
「……なんだって?」
「昨日ね、
「遠隔じゃ無理なのか?」
「ちょっと難しい。だって、妨害の下に行くんでしょ?」
妨害の下、という言葉を聞いて伊丹は納得した。
「敵の妨害電波とか、そう言うのを気にしてるわけか」
「ええ。まあ、一応私も軍人の端くれだから、自衛くらいはできるわ。だから同行するだけでいいから」
「……分かった」
そこまで耳打ちをし合って、伊丹は納得したのか彼女の口から耳を離した。
「大丈夫ー?」
「大丈夫だ。ちょっと猫宮も事情があるらしいんだ。同行する事になった」
「そっかぁー。まあ、よろしくねー」
42式が明るく手を振るのに対し、猫宮は笑って応えて見せた。
と、三人が揃ったその時に軽装甲車に乗ってきた特地組の6人がやっとの事で到着した。同行者の栗林と富田、そしてHal-27の姿も居る。
「遅いぞー」
「すみません……支度に時間がかかってしまって」
と、ロウリィの方はハルバードにゴテゴテのカバーをつけて武装を隠しているのが見えた。ロウリィは不服そうに頬を膨らませる。
「ねぇ、これ外しちゃダメェ?」
「ダメです!あっちには武装に色々規則があるの!刃物剥き出しじゃ捕まりますよ!」
「神意の徴は、ただの武器じゃ無いわよぉ!捕まえるだなんてとんでも無いわぁ……」
「我慢してください!」
不満そうなロウリィをHal-27が宥めるのを見て、伊丹は出発の合図を送る。
「おーし、揃ったな……皇女様も」
「……よろしく頼む、イタミ殿」
「ああ」
ピニャ達も、護衛のノーマとボーゼスの同行の元で日本に行く覚悟を決めていた。彼女らには一応伊丹からの計らいで、国会へ向かうことは伝えられている。
「ピニャ殿下……」
「覚悟は決めてある。敵地の元老院に向かうとしても、私は負けはせぬ」
そして特地組と伊丹らは、門の施設で様々な検査を受ける。ホログラムによる顔認証と唾液検査による検疫を経て、いよいよ門の前に立った。
「殿下……」
「ああ。この向こうに、ニホンが……」
聳え立つ門の前に、ピニャ達は立った。その向こう側に、日本の首都が待ち構える。
『こちらルイシア、獲物が門を通ったわ。何人か増えてる』
『こちらCP了解、引き続き監視を実行せよ』
『こちらルイシア、了解。人混みに紛れます』
『ルイシア?』
『……なんでしょうか、アヌカフ姉様』
『ルイシアって、異世界人ってどんな人だと思う?』
『……雑談ですか?切りますよ』
『あー、待って待って!ツェナープロトコルの秘匿回線だから、上に傍受される心配はないわよ』
『…………』
『それで、どうよ?』
『そうですね……』
『機械化の恩恵を知らぬ、クソどうしようもない野蛮人共って感じがします』
『感情グラフ』
戦術人形のメンタル状態をグラフで表した物。「喜び」「怒り」「哀み」「楽み」などの感情を表す色付きの折れ線で表され、メカニックが感情の状態を判断しやすいようになっている。