GATE 近未来日本国国防軍 彼の地にて斯く戦えり   作:国防アレキサンダー

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2022/12/11
本小説の大規模改稿により、挿入投稿致しました。


EP.05 銀座事件、終焉

銀座事件二日目

東京 皇居周辺

 

 どうやら自分は幸運の女神に愛されているらしい、とヘルムは思った。

 彼と彼の率いる騎兵部隊は、この世界の住民が作った公園を陣地としており、主戦場から離れていた。そのため戦術機の攻撃を受けずに済んでいた。

 

「しかし、なんだあれは?」

 

 混乱する部下達を尻目に、ヘルムはビルの合間から少しだけ見える巨人の頭部を見て事態を察知していた。

 これは敵の攻撃である、と。

 敵はこれまで、電撃の棍棒、水魔法、煙幕魔法、次いで殺傷力の高い飛礫、巨躯の怪異など、多くの武器の威力をこちらの攻撃や進軍度合いに合わせるように臨機応変に変えて来た。

 そしていよいよ我々を脅威と判断した敵が、その攻撃力をいよいよ極限にまで達させたのだ。

 

「あの巨人の怪異……凶悪にも程があるだろうに」

 

 どんな生物かは知らないが、あの巨人が地表に降り立ってからと言うもの、帝国軍は大混乱に陥っていた。

 こうなると、最高指揮官のレムヌム将軍も生きているかどうか怪しい。

 帝国軍は死に体に陥ったのだ。

 

「直ちに兵を集めよ!そして『門』の周辺に戻らせるのだ!」

 

 ヘルムは呆然としていた部下達を怒鳴りつけ、命令を下した。

 

「た、隊長。一体何をするおつもりですか?」

「味方の退却を援護する。お前も続け」

「た、退却ですか?」

 

 部下の一人が狼狽する。

 

「貴様はこの状況で戦えるほど能天気なのか?」

 

 その言葉に、返すことが出来ない部下達はお互いの顔を見合わせた。

 

「し、しかし……将軍閣下のご命令は……」

「構うものかよ!」

 

 ヘルムは薔薇騎士団に所属していた頃を思い出す。

 その時の経験から、決断できない指揮官は無能だと強く教えられていた。無論間違いを犯すのはよろしくないが、それ以上に決断できない指揮官こそ本当の無能だと、そう教えれていたのである。

 ヘルムは部下に言い放つ。

 

「俺のような中級指揮官は、必要に応じて独断専行をしなければならない場合がある。今がその時だ、責任は俺が取る。生き残りたくば、ここは俺に従え!」

 

 ヘルムは言い放つと、部下達を追い立てるように日比谷公園を出立し、馬が駆け出した。

 そして、この時のヘルムの判断は正しかったと証明される事になる。その直後、日比谷公園の敷地に戦術機機甲連隊の増援、そして多脚戦車の部隊が突入してきたからだ。

 

 

 

 

 

 

同時刻

東京上空

 

 西の方角から、敵の巨人がやってきたと思うと、その直後には味方の帝国軍が壊滅状態になっていた。

 その様子はマジーレスら第一尖兵竜騎兵大隊の司令部からも見て取れた。敵城を攻め立てていたはずの帝国兵達が、今や惨めな敗残兵と化して敵に追い回されていた。

 

「くそっ、なんてことだ!」

 

 マジーレスは敵のあまりに強力な魔法に対し、深く戦慄していた。そして帝国軍をこんな有様にした敵の巨人は、ここから少し離れた庭園らしき場所に着地し、地上に対して魔導を放ち続けている。

 

「大隊長!前方正面!」

 

 味方が叫ぶのを聞い、マジーレスは前方を見据えた。すると先ほどの巨人とは違う、別の物体が数騎、こちらに向かってきている。

 それらは尻尾のような部位を後部に装備し、上で回転するトンボのような物体で飛行している。そして奴らはこちらを見つけたのか、後部の尻尾を垂らして速度を上げ始めた。

 

「アレはなんだ?」

「大隊長、ビッコス隊長補佐の分隊が!!」

 

 見れば、そのハチの様な怪物相手に帝国の竜騎兵三騎が果敢に挑もうとしていた。それを見て、マジーレスは舌打ちした。

 

「くそっ、ビッコスの愚か者!」

「大隊長!我々も加勢しましょう!たった三騎でアレと戦うのは無謀です!」

「分かっている。行くぞ!」

 

 無謀な味方を助けるべく、そして上空を制圧し味方を助けるべく、マジーレスらは降下し攻撃を開始した。

 奴らの闊歩を許せば、味方が一方的な攻撃に曝されてしまう。それだけは、竜騎兵の誇りに懸けて、差し違えてでも許さなかった。

 

 

 

 

 

 

同時刻

東京上空

 

 日本国国防軍、東部方面航空隊所属のATH-39自動爆撃ヘリ"スズメバチ"の4機からなる第一飛行隊は、銀座周辺の空を荒らしていたワイバーンをその搭載レーダーで発見した。

 

『アタッカー2。二時方向、敵ワイバーンを三騎確認!』

 

 網膜投影越しにその姿を見れば、敵の翼竜三騎がシェブロンを組み、こちらに真っ直ぐ向かって来ていた。槍を構え、戦う意思を示している。

 

『槍で突いてスズメバチが落とせるかよ!これより交戦を開始する!各機ブレイク!』

 

 スズメバチの編隊は二機同士のエレメントに分離すると、それぞれ別方向に飛行していく。

 片方の方に敵翼竜が釣られ、急激に高度を下げて地面スレスレまで下がる。大馬力エンジンにより、武装を満載した状態で軽やかにビルの間を縫い、敵の竜騎兵を釣り上げた。

 

「狙い通り!」

 

 それに対し、ビルの間を抜けたもう片方の編隊が現れ、後ろからそれを追う。

 罠に気づいた竜騎兵は慌てて散会するが、時すでに遅く、AI照準の助けを得ながら後部ガンポットから36mmガトリングガンが回転しながら火を吹いた。

 放たれた弾丸は、竜騎兵とその翼竜に吸い込まれるように突き刺さった。外れた弾丸は、無人の道路や乗り捨てられた乗用車を蜂の巣にした。

 

 

 

 

 

 

同時刻

東京上空

 

 味方が一騎やられ、墜落していく。もう一騎も敵の罠に嵌って飛礫の餌食となってしまった。

 

「くそっ!」

 

 ビッコスはその光景に舌打ちしながらも、敵の攻撃の回避に成功していた。どうやら敵が二つの編隊に分かれたのは、こちらを追い立てるための罠だったようだ。

 とはいえ、ビッコスに逃げると言う選択肢はなかった。ビルの間を一周し、再び敵のハチの後方を取る。

 ハチは後ろに目が付いているのか、こちらに気付き急速に振り向いたそのタイミングで、ビッコスは長槍を投じる。

 敵はそれも察知し、容易くその長槍を躱したが、それはビッコスの狙い通りの行動だ。左右が建物に囲まれている以上、奴は上に逃げるしかない。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 それを見越して槍を投げ、そして敵のハチがビッコスの頭上を越えようとしたその時、ビッコスは飛竜の胴を蹴って跳躍した。

 そして、見事敵のハチに飛び付いたのである。

 

 

 

 

 

 

同時刻

東京上空

 

 この暴挙に怒ったのは、アタッカー3のパイロットとガンナーだった。

 

「ば、馬鹿かこいつ!ヘリに飛び付くなんて!?」

 

 スズメバチはその構造上、よじ登れるような場所は少ない。だが敵は見事に左側スタブウィングのハイドラポッドにしがみ付き、剣を突き立てようとしていた。

 

「危ねぇ事しやがる!振り落とせ!」

 

 ガンナーが叫び、パイロットが機体を大きくパンクさせた。上昇し安全な場所まで来ると、そのまま急速に機体を回転させて遠心力で振り回す。

 強烈な遠心力に耐えられなくなった竜騎兵は、ぶら下がり続けることが出来なくなり、手を滑らせてたちまち空中に放り出された。

 

「左前方!もう一騎!」

「クソッタレ!」

 

 その時、竜騎兵の勇敢な行動を見ていたのか、別の竜騎兵が左前方から一気に突進を開始していた。

 パイロットはその突撃を、大馬力エンジンに物を言わせたバレルロールで回避した。そして横向きに回転する視界の中、ガンナーは網膜投影の照準器の中へ、敵の竜騎兵を合わせた。

 

「墜ちろ!」

 

 放たれた弾丸の多くは、敵の翼竜の腹部や翼に命中し、引き裂いていった。

 

 

 

 

 

 

同時刻

東京上空

 

 飛竜が撃墜され、マジーレスは弾き飛ばされるように空に放り出された。

 

「うわぁぁ!!」

 

 幸いにも、マジーレスはビル群と同じ高度位にいた事から、ビルの屋上へ落下するだけで済んだ。マジーレスの身体はコンクリートの屋上で激しく転がり、打ちのめされながらも、転落防止用フェンスに激突して止まった。

 

 

 

 

 

 

数時間後

東京 日比谷公園

 

 一方の日本側視点。

 日本国国防陸軍において、首都防衛を担うのは陸軍第1師団である。場所が市街地であるが故に主力は戦術機と歩兵であるが、少数ながらも多脚戦車などの重装甲兵器も持ち合わせていた。

 今彼らが拠点にしているのは、先ほどまで騎兵部隊が駐屯していた日比谷公園。その周辺に第一師団の第101戦術機機甲連隊が展開し、周囲の警戒を行なっていた。

 日比谷公園周辺が国防陸軍によって制圧されてからは、この地域を仮設駐屯地として補給物資を蓄積した。

 

「弾薬は北側に置け、燃料車両は西側だ!」

「おいこら!洗浄水は此処じゃない、南側だ!東側は開けておけ!」

 

 整備士を始めとした補給部隊が物資の整理を行う中、戦術機の衛士達も休息を取る。

 この間、出動からわずか1時間ほどであった。諸事情があり、出動にまで時間がかかったとはいえ、国防軍の出動からここまでの時間は本当に鮮やかだった。

 周囲には弾薬運搬の車両や戦術機の整備車両なども見受けられる。練馬から駆けつけた補給部隊のものだ。

 戦力としては戦術機の他、多脚戦車や機械化歩兵などの重装甲部隊も展開を完了していた。彼らは東京各地のアスファルトをその脚部で踏み締め、現場の最前線へ急ぐ。

 

 

 

 

 

 

同日午後

 

 ある古参兵がレムヌム将軍をかろうじて連れてきたという一報は、帝国軍に素早く伝わった。

 

「大丈夫ですか、将軍閣下!」

「将軍閣下、お気を確かに!」

 

 周囲の将軍らが清潔な水をかけ、レムヌム将軍を起こし、状態を確認していた。中には貴重な医者もおり、彼に対して付きっきりで観ていた。

 

「げほっ、ごほっ!くそっ、一体何があった?」

 

 掛けられた水を振り払いつつも、レムヌムはやっとのことで目を覚ました。心配していた将軍らはほっと一息付き、ひとまず安心した。

 

「どこまで覚えていますか?」

「これから敵の城へ突撃しようというところだった。まるで背中からド突かれたような衝撃があって……そこから……くそっ、思い出せない!」

 

 レムヌムが懸命に思い出そうとする中、それには騎兵部隊の大隊長であるヘルムが答えた。

 

「敵の攻撃です、閣下」

「ヘルム、生きていたか。どうなったのだ?」

「敵が空から攻撃してきたんです。まるで雷が束になって落ちてきたみたいな衝撃があり、その勢いに吹き飛ばされ、将軍閣下は敵城の堀に落ちていました」

「俺が堀に落ちただと?くそっ……」

 

 あまりに無様な様子だったので、レムヌムは毒付いた。

 

「その後、古参兵の一人が将軍閣下を助け出していたので、私の馬に乗せて、ここまで……」

「ここは何処だ?」

「『門』の近くです」

「門の近くか、それならまあ、安全と言えよう」

「それが……閣下、先ほどから聞こえませんか?この巨人の足音のような音を……」

 

 レムヌムが耳をすませば、確かに銀座周辺のこの空間に、時々地面を揺らすかの如き音と共に、何かの轟音が響いている。

 

「遠くで何が起きているんだ?」

「敵の総攻撃が始まりました。各地で戦闘が発生しており、すでにこの通りの近くにまで迫っているんです」

「それを早く言え!味方は何処までいる!?」

 

 その言葉には、同じく生き残ったマジーレスが答えた。

 

「竜騎兵大隊はほぼ全滅、正規兵、補助兵、獣兵使いは2万余りが集合致しましたが、各集団にて多数の損害が発生している模様です」

 

 そして、マジーレスは続けた。

 

「閣下、単刀直入にお伺いします。我々はどうしたら良いでしょうか?」

 

 その言葉には、他の将軍達は暗く項垂れた。誰もこの現状を打破する術を持っておらず、敵が総攻撃を仕掛けてきている中、できれば退却するのが望まれた。

 だが、総司令官が目の前にいる手前、そのような事を口に出すのは御法度である。そのため、全員が口を摘むんだのである。

 

「とても戦える状態ではない……か」

 

 だが意外にも、閉ざしていたはずの言葉は、レムヌム将軍の口から放たれた。

 

「『門』へ撤退することも考えなければならぬな」

「しかし、将軍閣下……」

「逆に聞くが、2万余りの兵で戦えると思うか?我らは最初に5万程居たが、それでも守勢に回る敵を撃破できなかった。この状態で、敵の猛攻に耐えられるとは到底思えん」

 

 レムヌム将軍は少し暗い表情で俯きながらも、そう言って退却の指示を出そうとしていた。

 

「退却だ。残りの兵が居るうちに、門の向こうへ撤退させる。急いで取り掛かろう」

「はっ」

 

 思わぬ形で退却が叶う事となったが、将軍達は誰一人として喜ばず、むしろ少し暗い表情で自身の敗北を悔やんだ。

 悔しいが、確かに今の状況ではまともに戦えない。今回の遠征は帝国軍の敗北として位置づけられるだろう。

 もしかすれば、レムヌム将軍もその責任を問われ、罷免されてしまうかもしれない。それは将兵達にとっては残念極まりなかったが、最高司令官が言うので納得するしかない。

 命令が受諾され、兵達が撤収の準備を進める中、南の方向で何かが爆発した。

 

「っ、なんだ!?」

「敵襲です!敵が、門の南部の通りから真っ直ぐに……!」

 

 その報告があった方角から、強力な魔法によるものか、爆発音と幾つもの破裂音が鳴り響いていた。

 その向こうには、四足で立つ異形の化け物と、石像のように直立する巨人のような物が見えていた。

 

「あ、アレはなんだ!?」

「アレが敵です!敵は巨人を使役し、我々を魔道で攻撃しています!」

「くそっ、アレが敵か……撤収を急げ!」

「はっ!撤収を早めろ!戦利品と奴隷は置いて行っていい、急げ!!」

 

 兵士たちが急いで撤収作業に入り、慌ただしく動き始めた。レムヌム将軍はマジーレスに手を引かれ、門の近くに置いてあった予備の馬車の近くまで、案内される。

 

「将軍閣下は、まず先にお逃げください!」

「そんな!俺に真っ先に逃げろと言うのか!?」

「我々もすぐ行きます!急いで!」

 

 言い返す暇もなく、レムヌム将軍の乗った馬車は、マジーレスの鞭によって馬が嘶き、門に向かって動き始めた。

 

「この敗北、必ず晴らすぞ……必ずだ……!」

 

 レムヌム将軍は賢明な部下達に感謝しつつ、まだ見ぬ敵への復讐を誓った。

 

 さて、十字に別れた道の先に現れたのは、緑色の体色をした異形の象であった。一本の鼻、もしくはツノの様な物体がこちらに向けられ、4本脚で移動している。

 大きさもかなりのサイズだ。この世界の建物が天を貫く様な大きさで、入り口などは人間の大きさに合わせて作られているのが分かっていたが、それと比較しても緑の象の全高は並はずれている。

 ヒト種5人分くらいはあるだろう。その巨大な像が、帝国兵の目の前で無茶苦茶に暴れ回っていた。

 

『Kutabare』

 

 戦象なのか、それとも敵の指揮官の声なのか。訳の分からない言葉をこちらに発しつつ、その象の鼻の先から火を穿つ。

 そうすれば地面に的確な爆発が発生し、それによって重装備の歩兵達が一気に吹き飛ばされ、陣形が乱れてしまう。

 

「うわっ!くそっ!」

「右腕がぁ!助けてくれぇ!!」

 

 兵士たちが狼狽える中、四本足の像はさらに歩みを進める。

 

「くそっ……なんて威力の魔導だ!」

 

 指揮官は戦慄しつつも、魔導士達に煙幕魔法を焚かせて像達の視界を遮り、やり過ごそうとする。

 だが、そうすると像達は盲撃ちに切り替えたのか、ところ構わず飛礫を大量に放ってきた。それを受けた兵士たちは総崩れとなり、次々と射殺されたいく。

 

「怪異使い!オーク達を前に出せ!」

「ええっ!?今出したら全員死にますよ!?」

「構わん!盾にしてでも食い止めろ!」

 

 指揮官がそう言うので、仕方なく怪異使いは鞭を振るってオークらを前に出そうとする。オークらは調教師が怖いので、仕方なく前に出るしかない。

 

「今だ!陣形を立て直せ!」

 

 指揮官が指揮を取り戻しながら戦い続けたが、敵の戦像らは全く怯えるそぶりなど見せず、むしろその巨大な鼻先を敵に対してしっかりとむけていた。

 

 

 

 

 

 

同時刻

東京 銀座周辺

 

 方や日本側、重機甲部隊の視点。

 多脚戦車小隊の指揮官は、片言で指示を求める思考戦車に新たな命令を下す。

 

『未確認生物ガ接近中。警告ニ応ジズ。指示ノ変更ヲ求メル』

「……投降の余地なしと認める。射撃を許可、掃討を開始せよ」

『了解、命令変更ヲ受諾。応戦開始』

 

 この30式多脚戦車は、国防陸軍の主力多脚戦車として長年尽くしてきた古株の兵器である。

 4本脚に130mm砲一門を主砲とする強力な多脚戦車であると同時に、この戦車は無人で動き戦闘を行うことのできる思考戦車でもあった。

 

──思考戦車。

 

 この兵器は、戦術人形と同じくAIコアを持ち、自分で考えある程度の感情を持ちつつ戦闘を行う戦車の総称である。その定義に多脚であるか否かは含まれない。とにかく無人で、AIで動けば、どんなに形態が違えど思考戦車と呼ぶ。

 30式は決して新しくない。第三次世界大戦の直前にロールアウトし、その戦いを生き残り、配備開始からすでに25年が経過しそうな一世代前の戦車である。

 だがそれでも改修を重ねられ、現在でも国防軍の一線級で活躍している。最新型の戦車は、"日本にとっての脅威"が存在する北海道や九州に優先配備されているのだ。その結果、首都に置かれているのが未だ30式多脚戦車なのは致し方ない。

 

『目標ロック、掃討開始』

 

 それでも中世レベルの戦術である帝国軍に対し、多脚戦車の火力は凄まじいオーバーキルであった。

 まず、距離が近いという事もあり30式多脚戦車は前腕部の12.7mmガトリングガンを使用した。接近してくる生物の防御力が予測できない中での戦闘のため、なるべく火力が集中するよう二つの腕部で同じ個体を狙った。

 しかし、相手には懸念していたような防御力などは存在せず、オークの群れたちは12.7mmの大口径弾丸に貫かれ粉々に粉砕された。醜い豚のような肉隗が、なんともグロテスクに粉砕されていく。

 

『……対象ノ脅威判定ヲ更新』

 

 相手が弱いと分かったのか、30式多脚戦車は掃射のやり方を変えた。一つの個体に火力を集中させるのではなく、薙ぎ払うことにしたのだ。横薙ぎ放たれた弾丸は流れるように他の個体も引き裂いていき、オークたちが次々と殲滅されていく。

 そのあまりの強力さに、知能が低いとされるオークたちも本能的恐怖を感じた。調教師の命令を無視し、方向を変えて一目散に逃げ始める。そして右往左往しながら射殺されたり、それでも立ち向かう錯乱した個体が撃ち殺されていく。

 

『対象ノ沈黙ヲ確認』

 

 2055年の現代において、重要となるのが敵状把握だ。敵がどれくらい居て、何を装備にし、防御力は如何なのかと言う敵の情報である。

 現代軍のドクトリンはそれに準じており、兵器もそれに合わせて製造される。この35式戦車は正規軍との戦いとは別に"ある脅威"とも戦うことを目的としていた。

 目下、日本の仮想敵は二つに分かれる。

 一つ目は2055年における世界最大の軍事力を誇る新生ソビエト連邦。後述する災害により陸繋ぎになった樺太、北海道から侵攻して来ることを想定した陸軍戦力の配置。

 そして、次に出てくるのはユリシーズ災害により出現した崩壊液汚染地域の九州。そこに出現する『E.L.I.D.』との終わらない生存競争である。

 『E.L.I.D.』、正式名称『広域性低放射感染症』。2020年、小惑星ユリシーズという隕石が地球へ落下する大災害が起こったのだが、その隕石には『崩壊液』『コーラップス』と呼ばれる地球外物質を大量に含んでいた。

 コーラップスにより隕石が漂着した地域は、人間が住めないほどに汚染された。それだけではない。高濃度のコーラップスに被曝した場合、生体は崩壊し速やかに死に至るが、低濃度のコーラップスに被曝した場合は即死せず、形態の変異を引き起こす。

 それが『E.L.I.D.』と呼ばれる怪物達だ。彼らは身体が強力な金属で覆われており、生半可な弾丸を通さず強力な腕力も有している本物の化け物である。

 それらが大量に九州に巣食らっていて、日本を脅かし続けている。その化け物達と戦うことを目的とした35式にとって、オークやトロルなどの異世界怪物の実力など、カス同然であった。

 

 一瞬でオーク軍団が全滅し、戦象が帝国軍へ歩み始めた時。帝国兵達は自らの命に迫る危機に恐れ慄いた。次は自分達だ、と。

 

『再度ノ攻撃ヲ要請』

「……許可する」

 

 最後の士気が崩壊し、一瞬でも逃げようと背中を見せた瞬間、30式多脚戦車はガトリングガンの引き金を引いた。

 その後に残っていた帝国兵は全て射殺されたと言う。このような光景は、銀座周辺の各所で見られた。




・ユリシーズ災害
2020年に起きた隕石災害で、太陽系外から巨大隕石"ユリシーズ"が地球軌道へ落下し、世界情勢を完全に塗り替えた。
直前に核ミサイルによる迎撃が行われ、被害は最小限に抑えられたが、幾つもの破片が地表へ落下。しかもただ落下しただけでなく、ユリシーズには「コーラップス(崩壊液)」と呼ばれる太陽系外物質が大量に含まれており、これが地表に落下した地域は人間の生存が不可能なレベルにまで汚染された。
元ネタはエースコンバットシリーズの小惑星ユリシーズと、ドールズフロントラインのコーラップス災害を掛け合わせたモノ。

・E.L.I.D(広域性低放射感染症) 
コーラップス汚染に被曝した生命体が発症する疾病。およびその発症者を指す。高濃度のコーラップスに被曝した場合、生体は崩壊し速やかに死に至るが、低濃度のコーラップスに被曝した場合は即死せず、形態の変異を引き起こす。
変異の様相は様々であるが、おおむね前世紀における「ゾンビ」や「ミュータント」といったものに近く、およそ人間とはかけ離れた様相を呈する。
元ネタはドールズフロントライン。

・30式多脚戦車
日本国国防陸軍の主力多脚戦車。
こちらもAIコアを搭載し、人間が操縦せずとも無人で戦闘行動が可能。"カブトムシ"と言う愛称で陸軍では頼りにされている。
旧世代の戦車と同じくキャタピラを用いて巡航するモードと、キャタピラが6脚に変形し不整地を歩行する二つの形態に変形することが可能で、どんな地形にも対応可能な突破力を持ち合わせている。
主砲は60口径130mm電磁砲一門、副武装として前腕部12.7mmガトリングガンを2門、30mmRWSを1門。
ちなみに旧世代の90式戦車や10式戦車などは第三次世界大戦にてほぼ壊滅しているため、国防陸軍が保有している戦車の大半はこの35式に置き換えられている。
元ネタは劇場版PSYCHO-PASSに登場した多脚戦車。

オリ戦術人形達の挿絵は欲しい?

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