GATE 近未来日本国国防軍 彼の地にて斯く戦えり   作:国防アレキサンダー

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あらすじ:
日本国首都東京、銀座にて発生した異世界からの侵略。
侵略軍である帝国の軍勢は日本国国防軍の活躍により鎮圧され、帝国兵は門の向こうに撤退した。
門を巡って様々な準備が進む中、伊丹は既に銃を手にしていた。
一方の42式は銀座事件での損傷を治すべく、メンテナンスを行なっていたが……


第二戦役 接触編(上)
EP.06 特地突入、準備段階


10月初頭

東京 某所

 

『銀座において発生した集団テロ事件についての続報です。政府は国防軍の部隊を東京に駐留。事件の解明を進めると共に、東京内での治安維持活動を……』

 

『日本政府は今回の事件を「銀座におけるテロ事件」と正式に命名。今後は「銀座事件」と呼称され……』

 

『犠牲者の数は、集計されているだけでも2万人以上と見られます。また、行方不明者はさらに2万人ほどで、主に女性や子供が多く……』

 

『銀座に出現した謎の構造物について、日本政府は「門」又は「ゲート」と呼称。今回の事件については、この門が関わっているとされ……』

 

 

 

 

 

 

同日午前

??? ????

 

 伊丹耀司中尉は雨の中、戦闘服に身を包んでいた。考え事から解放され、任務に集中しようとした時には無意識に銃のボルトを引いていた。

 日本国国防陸軍の野戦戦闘服Ⅵ型は、薄手の布地に緑一色の迷彩がとても際立つ戦闘服だ。国防陸軍の兵士はその上からボディアーマーを着込み、さらにその上からエグゾスーツを装着する。

 手に持っている銃は『Hal-27』という、少し特殊な日本製の銃だ。ブルバップ方式の銃上部からプラスチック製のマガジンを挿すという、前世紀のPDWの様な装填方式を採用している。銃身が短いので室内戦向きでもある。

 

「こちら隊長の伊丹、03小隊は定位置に着いた。オクレ」

『こちらCP(コマンドポスト)了解。目標の内部構造はドローンで偵察している。ディスプレイの戦域マップを参照せよ。オクレ』

「了解、これより作戦行動に入る」

 

 伊丹中尉は後ろを振り返り、自身の部下となる小隊メンバーにハンドサインを投げかけ、合図と共に草むらを進み始めた。

 訓練によりハンドサインの意味を知っている3人の部下は、伊丹の後ろを低い姿勢で追従。目標とされる異国風の建物の前にまで来た。

 

「テラスに2人……いや、もう1人か」

 

 目視だけで敵の存在を確認し、伊丹達はすぐさま物陰に隠れた。相手は見張り兵の様で武装は弓と矢。この暗闇の中、松明の光だけが彼らを照らしている。

 

「隊長の合図に合わせます」

「よし、全員構えろ。倉田は待機だ」

「了解です」

 

 小隊メンバーが手持ちの小銃を構え、ホログラムで描かれた照準器を覗く。敵兵の頭にレティクルを合わせ、一呼吸置き、引き金を引いた。

 銃にはサプレッサが取り付けられており、空気が抜ける音だけが過ぎ去った。弾丸は敵兵士の頭を貫き、完全に殺す。

 他のメンバーも同時に引き金を引いてくれたようであり、同時に3人を殺した。しかし、その後扉の向こうから新たな敵兵が出てくる。

 

「待て、もう1人」

 

 待機していたメンバーが、咄嗟に引き金を引いてソイツを殺す。

 

「よくやった倉田」

「ありがとうございます……!」

 

 小隊のメンバーを褒め称え、伊丹達は素早く身を屈め、建物の中へと入っていく。正面テラスから内部へ入ると、松明の明かりだけが灯る薄暗い部屋に続いている。

 

『CPより03小隊、ドローンが救出対象を発見。南棟、地下室だ』

「了解、室内に入った」

 

 しばらく進むと、木の扉が道を塞ぐ。その向こう側から人の話し声が聞こえるので、おそらく何人か居る。

 

「富田、スレットを投げろ」

「了解」

 

 部下の1人が、小さく開かれた扉の向こう側へ円筒を静かに投げ入れる。スレットと呼ばれる探知機機であり、筒から電磁パルスが周囲に放たれる。

 すると全員のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に、電磁波が探知した人間の反応が映し出される。これにより、扉の向こう側からでも敵を探知する事が可能なのだ。

 

「よし、撃ち抜け」

 

 その後は簡単だ、壁越しに見えている敵を殺せば良い。伊丹達は扉の向こう側へ一斉に発砲し、見えている敵を皆殺しにしてやった。

 

「クリア、行くぞ」

 

 通路が確保され、そのまま地下室に繋がる扉の前にまで来た。木の扉には南京錠が付けられており、簡単には開かないようになっている。

 

「おらっ」

 

 しかし、伊丹はエグゾスーツの出力でその鍵と鎖を引きちぎった。強化外骨格の前では、こんな簡単な鍵など無意味に等しい。

 地下室に入ると、1人の敵兵が寝ていた。すかさず撃ち殺し、安全を確認。そのまま牢獄の中を進んでいく。

 

「居ました。聞こえますか?」

 

 牢獄に薄手の服で囚われていた女性が、伊丹達に気がついた。部下の女性軍人が彼女に対して声をかける。

 

「あ、あの!」

「日本国国防軍です。救出に来ました、もう大丈夫です」

「軍人さん!ああ、よかった……」

 

 彼女の安堵した声を聞きつつ、伊丹達は地下牢をこじ開ける事にした。鍵は先ほどよりも強力に絡み付いているので、地下牢の鉄格子の方をエグゾスーツで破壊する事にした。

 

「いくぞ、せーの!」

 

 成人男性2人+2人分のエグゾスーツの力を用い、鉄格子の間をこじ開けることに成功。人一人が出られるようになったところで女性を外に出し、救出した。

 

「良いですか?姿勢を低くして、離れないでください」

「分かりました……」

 

 女性を救出したところで、彼らは外へ向かおうと地下室を出た。

 

『こちらCP、敵兵の動きが変わった。騒ぎが勘づかれたぞ』

「了解、今度は地下から出る。装甲車を滝壺に」

 

 敵兵士が動いているらしく、伊丹達は来た時とは別のルートで屋敷を出ることにした。角を一つ一つ確認し、うまく敵兵を躱して行く。

 そして、地下室から直結した水路に入った。辺り一面が暗く、足元は水路の水で汚れている。伊丹は小銃だけを突き出し、曲がり角を抜けようとした。

 

「っ!」

 

 その時、敵の待ち伏せに遭った。角で待っていた敵兵士に小銃を掴まれ、攻撃手段が封じられる。しかし伊丹は瞬時の判断で左手を握りしめ、敵兵士の顔を思いっきり殴った。

 

「ぐっ!」

 

 怯んだ敵兵から小銃を奪い返し、数発の発砲で射殺した。

 

「クリアだ」

 

 伊丹はその他に敵がいないのを確認し、先へと進む。その後、滝壺に出た。ここが味方装甲車との合流地点に設定されており、ランデブー地点である。

 

「よし!あそこの装甲車まで走るぞ!」

「了解!」

 

 伊丹達は一斉に走り出し、草原の中心にある装甲車まで一気に駆け抜ける。ここまで来れば、流石に敵兵も追手も居ない。

 このまま任務達成……かと思われた。

 伊丹達の目の前に、巨大な怪物が立ち塞がった。

 

「なっ!?」

 

 咄嗟にその怪物に銃を向けるも、その前に棍棒によって吹っ飛ばされる。しかも、その棍棒から衝撃波が轟き、後続の小隊メンバーまで巻き添えで吹き飛ばされる。

 

「ぐわっ!?」

「きゃっ!?」

 

 保護対象まで転がっていくのを見て、しまったと後悔する伊丹。しかし、もう手遅れである。せめてもの抵抗として拳銃を引き抜き、ジリジリと詰め寄る怪物に発砲するも、まるで効いていなかった。

 そして、怪物は伊丹に向け棍棒を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死亡判定だ伊丹、情けないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シミュレーションをリセット!」

 

 その言葉の途端、周りのホログラムが全て解除された。地面も草木も水も、果てには滝壺の屋敷まで、全てのホログラムが魔法のように解かれる。

 

『訓練をリセット。エキストラは所定の位置に再配置』

 

 これこそが日本国国防軍が誇る最新設備、AR訓練施設である。簡易的な建物とホログラムによって風景を作り出し、軍人に限りなくリアルな訓練を施す事ができる施設だ。

 ドームに囲われた中で訓練を行えるので、仮想敵国の偵察衛星や情報網などに引っ掛かることもないため、普段は特殊部隊の訓練施設として使われている。

 

「いてて……ひでぇやおやっさん、最後にオークが飛び出してくるのはないだろ?」

「最後の最後で油断した伊丹が悪い」

 

 怪物役を務めていたのは人間の男性だった。彼に手頃なコントローラを持たせ、ホログラムでそれを怪物と棍棒に仕立て上げていたのである。

 ホログラムを解いた男性は国防陸軍の軍人で、名前は桑原 惣一郎曹長。この場所、日本国国防軍練馬駐屯地において、臨時で教官を務めている。

 

「いやいや、にしたってあの衝撃波は反則だって。なんだよあれ、オークの癖に遠距離攻撃なんて狡いぞ」

「仕方ないさ、俺たちはオークとやらがどういう生物なのか分からん。だからプログラマーが想像で作ったんだ」

 

 そう言いながら桑原は手を延ばし、伊丹を立ち上がらせる。

 

「難易度鬼畜すぎるだろ……」

 

 伊丹の呟きは、訓練施設のドームに虚しく響き渡った。

 

 

 

 

 

同日午後

東京 練馬駐屯地

 

「だぁぁあ!疲れたぁ!」

 

 伊丹は駐屯地の食堂に入り、今日の定食である鯖の味噌煮定食のトレイをテーブルに広げた。席に座ると、先ほどまでの疲れがどっと押し寄せてくる。

 

「お疲れ様です、伊丹中尉」

「あー、お疲れ様……」

 

 そんな伊丹に声をかけ、向かい側に座るのは二人の若い軍人であった。彼らもそれぞれの定食を広げ、伊丹と食事をしようとしている。

 最初に声をかけた女性が黒川 茉莉伍長、長い黒髪を携えた長身の女性。今は伊丹の部隊で唯一の女性軍人であり、衛生科を務める逸材。

 二人目の若い男性軍人は倉田 武雄軍曹で、最近北海道から転属してきたにも関わらず、伊丹とは趣味が合うので何かと話す機会が多い。

 

「なあ3人とも、こう毎日毎日AR訓練だと疲れないか?」

「そりゃ疲れますよ、AR訓練はVRと違って身体を直接使いますからね……」

 

 倉田が答えるが、一応AR訓練にもメリットや目的がある。それに関しては黒川が味噌汁を啜りながら反論した。

 

「そうは言っても、VR訓練ばかりでは身体が鈍ってしまいますから」

「ええ。それにARの方が五感の再現率も高いので、よりリアルです。有意義な訓練ではあるかと」

 

 最後に発言したのは、伊丹の隣にいる富田 章軍曹。伊丹の副官のような存在であり、長年右腕として務めている。

 

「そりゃ、そうなんだけどさ。デスクワークと並行しなきゃいけない尉官には辛いのよ……あー、昇進するんじゃなかった」

「英雄様がなーに言っているんですか、国防大臣に勲章もらって、罰当たりですよ?」

 

 倉田が箸で指指すように皮肉を言うが、伊丹にとっては的外れな指摘だ。伊丹はそれを説明する。

 

「あのねぇ、俺の人生は趣味第一なの。食う寝る遊ぶ、その間のちょっとの人生で軍人してるだけ」

「じゃあ、最近は?」

「知ってて言ってるでしょ?案の定、連日休暇返上であちこちに引っ張りだこ。まーじでコンチキショウだよ……」

 

 実際、伊丹は一躍時の人となっていた。国防大臣からの直々の表彰に始まり、メディアやタレントからの取材が相次ぎ、しまいにはテレビに出てほしいと言われる始末だ。

 テレビ出演などは断ったが、それでも駐屯地内ではすっかり有名になってしまった。時々同僚が茶化してくるのが、それが無性に伊丹の気質に合わない。

 

「ふふっ……まあ、中尉らしいと言えばらしいですがね」

「結局、即売会にも行けなかったんでしたよね?」

 

 黒川が不敵に笑った後、倉田が発言する。

 

「それ自体が中止になっちまったからなぁ……だからこそ、冬の会には絶対行く!何がなんでもだ!」

 

 伊丹の筋金入り具合に苦笑いをするしかない小隊の面々。であるが、富田は冷静に今の国防軍の現状の話題を振った。

 

「そうは言っても、現実は難しそうです。『特地特別対策法案』がもうすぐ通るそうですよ」

「…………」

 

 伊丹としても、必ず通るだろうと予想していた。

 門や特地関連の問題はとても多く、山積みだ。攫われた人々、そして殺された人々の謝罪と賠償を引き出すにも、敵軍は門の向こうに撤退してしまっていた。

 それらの解決するには、国防軍が直接向こう側へ赴き、相手を武力をもってして制圧、無理矢理にでも交渉のテーブルに着かせるしかないのである。

 それを知ってか予知してか、国防陸軍でも動きがある。特地を想定した仮想訓練が念入りに行われ始めたのだ。先ほど伊丹達が行なったAR訓練もその一つで、特地の環境を予測した様々なパターンで訓練が続けられている。

 

「AR訓練だって特地を想定した内容ですし、銀座周辺は多脚戦車や戦術機が運び込まれています」

「あれ、世間は"銀座駐屯地"なんて言って茶化してますよね。それから知ってます?特地仕様の新しいエグゾスーツも開発されているって話があるんですよ」

 

 黒川と倉田も、大方同じ予想がついているようである。

 

「……つまり、俺が1番避けたいシナリオが起きる、って話か」

 

 伊丹としては正直関わりたくない話ではあるが、軍人である以上避けられないだろう。命令されて特地へ行けと言われれば、逆らえないのが軍人という職業だ。

 

「あら、浮かない顔ですね?伊丹中尉の事ですから、むしろ喜ぶのかと。好きですよね、異世界?」

 

 黒川にそう茶化されるが、伊丹の言動はつれなかった。

 

「つっても、確認されているのは可愛げのない化け物ばっかりじゃん?怖いよああいうの」

「ですよねー。こう、なんていうか、可愛い獣耳の子がいれば良いんですが」

「そうそう。俺やだよ、化け物と真正面から戦うのなんて」

 

 この時代、エグゾスーツのような強化外骨格が普及していても、得体の知れない化け物と戦うのはやはり恐怖心が勝る。

 無論、伊丹自身の化け物に対する嫌悪感もあるだろうし、それに関しては黒川も同感だった。

 

「あるいは特地にも、戦術人形の子が居ればいいんですがね……」

 

 富田の言い方からも分かる通り、戦術人形の戦闘能力は人間の兵士達からも頼りにされている。

 戦術人形の義体を特地にて整備するのは難しいかもしれないが、居てくれた方がありがたいと思う。

 

「あ、戦術人形と言えば、42式ちゃんを最近見てないんすけど、どうしたんです?」

 

 黒川は42式と面識がある。42式はこの駐屯地では伊丹の次に有名なため、彼女を見かけないことが気がかりだったのだ。

 

「ん?あー、銀座事件の後からずっと陸技研で診てもらってる。なんでも腕の調子が悪いんだとさ」

 

 それを聞いて黒川は納得するものの、何か心配そうな表情をした。おそらく腕の調子が、と聞いて心配したのだろう。

 

「えっと、誰ですかその人……」

「あー、そっか。倉田は最近ここに来て、42式と会った事なかったな。彼女は散弾銃の戦術人形だよ。今日迎えに行くからついでに挨拶しておけ」

「あー、戦術人形の方っすか。分かりました、挨拶しておきまっす」

 

 倉田のフレンドリーなところを見れば、どうやら彼女ともやっていけそうだろうと、伊丹はどことなく安心していた。

 今の時代は自律人形が広く受け入れられているが、苦手と思っている人間も少数いる。やはり受け手が人間である以上、どうしても偏見や過去の経験が間に入る。それが心配だったのだ。

 

「まっ、とにかく俺はごちそうさん。この後42式を迎えに陸技研に行くから、そこんとこ宜しくな」

「了解です」

 

 そう言って伊丹はトレイを持ち、食器を返却棚へと持っていった。

 

 

 

 

 

 

 国防陸軍技術研究所、通称『陸技研』。

 主に国防陸軍の装備や兵器、そして戦術人形の開発などを担当している軍属の技術研究所である。各地に研究所の支部が存在し、戦術人形の新規開発、メンテナンスなどを行なっている部署だ。

 伊丹が来たのは東京の郊外にある研究所支部である。ここは少し特殊な場所であり、憲兵隊が厳重に警備を行っている。

 

「パスを」

「ほい」

 

 彼らにパスを見せて中に入ると、研究所らしく様々な設備が整っていた。ここは数ある陸軍技術研究所の中でも、相当重要な研究棟となる。

 

 国防陸軍技術研究所第16棟。

 

 そのような名前がつけられたこの研究棟は、表向きには存在しないことになっている。陸軍の中で最も厳重な研究内容を扱う部署であり、目立たない東京の郊外にその建物が建っているのも、その極秘性の一環であるのだ。

 第16棟の自動ドアを潜ると、真っ先にホログラムで作られた噴水が目に入り、入口が出迎える。このホログラムも、第16棟で生まれた先進技術を用いて作られた作品だ。

 内部を進むと、研究棟の内部に実験室があるのが見え、その隣には訓練施設のようなものもある。ここでは先進装備の実験も行えるようだ。

 壁に吸着してよじ登るグローブや、トンボサイズの新型ドローン、新しい装甲強化外骨格など、この研究棟では色々なものを作っている。

 その中で伊丹の興味を引いたのは、倉田が言っていた特地仕様のエグゾスーツである。ここでもそれのテストをしているようであり、兵士の一人がエグゾスーツの腕から仕込み刃を取り出し、ホログラムの敵役をバッサバッサと切り捨てている。

 

「おっかねぇ、あんな機能があるのか」

 

 エグゾスーツには目的によって幾つかの種類が分かれるが、国防軍が採用しているのは主に二種類に分けられる。

 一つは強襲型。主に市街地で使われ、ジャンプ力を補佐するブーストリグを搭載しており、ビル街などを飛び跳ねながら移動することを想定している。

 もう一つは打撃型。こちらは主に平地が多い地域や特殊部隊などに配られ、通常より高い出力と、防弾シールド、腕部グレネードランチャーを備える。

 一方、こちらの特地仕様はそのどちらにも当たらない。仕込み剣もそうであるが、全体的に装置の露出が少なく、頑丈そうな見た目をしている。暫定的に特地型、と呼ぶべきか。

 

「おっと、見とれてる場合じゃない。猫宮のところ行かねぇと」

 

 伊丹はそのまま訓練施設を後にし、地下へ続く階段へ足を進めた。物が散乱していて少し薬品の匂いがするが、ここの主にとっては気にするほどでもないのだろう。流石にどうかと思うが。

 そして、伊丹は地下区画の1番奥の部屋にたどり着く。部屋をノックして、ここの主を呼びつける。

 

「猫宮、いるか?42式を迎えに来たぞ」

 

 返事がない。今は居ないのかと思ったが、ドアノブを回してみると鍵がかかってない。

 

「入るぞー?」

 

 中は薄暗く、足元には書類や電子機器が散乱している。奥のディスプレイは付けっぱなしのようであり、ブルースクリーンを表示している。

 

「何やってんだか……」

 

 相変わらずの散らかり様に呆れつつも、その奥の空間まで歩みを進めていたが、突然横から人影が飛び出してきた。

 

「ばぁ!」

「おわっ!?」

 

 あまりに突然の出来事に驚き、後ろによろけそうにならが、そこは軍人らしい足腰で踏みとどまる。

 見れば、飛び出した人影はマネキンのようであり、血色が自立人形の素体のそれだった。

 

「おい、猫宮……まーた自律人形の素体をコレクションしているのか?」

「もちろん。そいつは新入りの子だぞ」

 

 そう言って飄々と出てきたのは、背の低い女性であった。ボサボサの白髪と眼鏡に白衣、いかにも研究者らしい服装。しかし何より目を引くのは、機械部品で出来た謎の猫耳?である。

 

「そのカチューシャもまだ付けているのか……」

「どう?似合っているか?」

「猫宮、それはせめてボサボサの髪をなんとかしてから言えよなー」

 

 その後ろからもう一人の女性の声が聞こえて来た。診断中の42式である。猫宮、と呼ばれた女性に野次を飛ばすが、当の本人はどこと吹く風であった。

 

「何を言う、私のようなスーパー美少女は髪を解かさなくても美しいのよ。猫耳だってちゃんと動くし」

 

 そう言って機械の猫耳をカチャカチャと遊ぶこの女性こそが、42式のメンテナンスを担当している猫宮 日鞠研究員だ。

 こんなズボラで自意識過剰な女性であるが、これでも戦術人形研究界では有名な学者である。実際彼女は42式の開発にも携わっており、今でも整備を担当しているのだ。

 

「それで、本題なんだが猫宮。42式の調子はどうだ?」

 

 話を戻すべく、伊丹は猫宮にそう言った。

 

「心配するな。調子が悪かったのは腕だけで、他は問題なかった」

「本当か?」

 

 当の42式に振り向き、話を聞く。

 

「うん、腕が悪かったのは金属片が刺さっていたからみたいでなー。今ではなんともないよー」

 

 どうやら大丈夫そうである。にしてもこんなズボラな女性であるが、戦術人形の診断から治療、不具合の修正まで一人で行えるのは素直に凄いと思う。

 まあ彼女が凄いのは、42式自動散弾銃という戦術人形を、たった一人で開発したところから始まる。それを考えると、今更であるが。

 

「伊丹、これが診断書」

「おう」

 

 一応、伊丹は42式の所有者のような立場である。かなり前、ある事象で彼女を引き取ることになって以来、伊丹が彼女の面倒を見ているのだ。

 

「うへえ、軍持ちとはいえ修理代馬鹿にならねえな……」

「仕方ないさ。私世界に一台しかないんだからねー」

 

 42式がそう言うが、世界に一台という表現はあながち間違いではない。戦術人形は兵器として生まれた存在であるため、同じモデルの戦術人形が複数人存在する。つまり、同じ設計の戦術人形が量産されているのだ。

 だが、当の42式は本当のワンオフ人形であり、量産されていない。理由は銃器の開発に失敗したからだ。

 別に42式がポンコツというわけではない。しかし、武器である42式自動散弾銃がコスト面で開発失敗したのと同じく、42式は高性能であるがゆえにコスト面で不利だった。結局42式は作られたものの量産されず、今の42式は世界に一人しかいない。

 だが伊丹としては、そのほうが個性的で良いと思っていた。いろいろと不便であるが、本当のワンオフ人形という存在は彼女の個性を形作っている。

 

「……よし、確認した。いつもありがとうな、猫宮」

「いいさ、友人の頼みだからな」

 

 猫宮はそう言うが、彼女にも研究者としての仕事があるにも関わらずこうして面倒見を手伝ってくれるのはありがたかった。

 

「んじゃ、あたしは射撃場で肩慣らししてくるよよー。また後でなー?」

「おう、たぶんすぐ行く」

 

 そう言って彼女は地下室の扉を開け、外ヘ行った。その後ろ姿を見送りつつ、伊丹は猫宮研究員に向き直る。

 

「猫宮、彼女のメンタルのことだが……」

「座りなさい」

 

 彼女は伊丹に椅子を差し出し、それに座るように促した。

 

「彼女のメンタルだけど、エラーの頻度は少なくなってきている」

「大丈夫そうか?」

「まだ油断できないわ。原因が目の前にいるんだからね」

 

 伊丹は彼女に言葉を向けられるが、当の伊丹の表情はかたくなだった。

 

「今のところ彼女にウィルスなどは見つかっていない」

「……」

「やっぱりなんだけど、あんまり入れ込まない方がいい。彼女たちは……」

「彼女たちは人間だ」

 

 伊丹は友人が相手であるにも関わらず、強い口調でそう言った。

 

「例え人間に作られた存在でも、身体が機械であろうと、彼女たちには確かな人間性が存在する」

「…………」

「確かに今は偏見の方が多いさ。結局彼女は国防大臣からの勲章も受けられなかった。俺や大臣が許しても、世間が許してくれないしな」

 

 二重橋の英雄として囃される伊丹であるが、同じく市民のために尽力した42式の存在はひた隠しにされた。

 いくら労働力として受け入れられているとはいえ、まだ世間の中には自律人形に対する偏見がある。特に戦闘を目的とした戦術人形に対する偏見は、自律人形のそれよりも大きい。

 だから政府は42式の活躍が影響し、「戦術人形は人殺し」という偏ったイメージが着くことを恐れた。そう言った偏見や極端な意見から他の戦術人形守るため、彼女の存在は修理を装ってひた隠しにしたのだ。

 

「けど俺は思うんだ。あんなに表情豊かで個性豊かで、同じモデルでも性格が全く違う。まるで人間みたいじゃないか?」

「それは認めるさ。けど、その扱いが彼女にエラーを産んでいるのも事実だよ?」

「……彼女たちの自意識との乖離が原因なのは知っている。けど、彼女たちを兵器部品扱いするんなんて、俺にはできない」

 

 それでも伊丹は、彼女たちを人間として扱っていた。例え他人から問われたり注意されたり、はたまた変人扱いされようと、伊丹の信念は変わらない。

 伊丹は元来、42式のような存在を部品として扱う事はできない性格だ。人間関係はあまり得意ではなくとも、彼女の存在は伊丹にとってプラスに働いてきた。だからこそ、その恩義もあるのだろう。

 

「そう……まあ、伊丹の意見は分かった。どのみち今は致命的なエラーではない、まだ大丈夫だと思う」

「……悪いな」

「ただ、今度の派遣先でどうなるかは分からないわ。何せ全く地図に載っていない新天地だからね」

 

 派遣先、と聞いて伊丹はその言葉の意味を悟った。やはり戦術人形を特地に連れて行くことは猫宮も知っているようであり、確定事項のようだ。

 

「彼女たちも特地に連れていくのは確定か」

「ええ、人間兵士だけでは人材が足りないからね」

 

 人間の人手が足りないのは、古今東西の日本の弱点だった。2055年でも、日本は国土の南北で仮想敵国に備えなければならない。人間兵士や士官などは、その南北に貼り付けなければならない。

 そんな国防軍の事情を考えると、特地まで大量の人材を派遣するのは厳しい。なので自律人形や戦術人形を派遣軍に投入して人手を増やすのは、国防軍として当然の判断だと言える。

 

「私はトラブルの元になりそうだから、止めとけって言ったんだけどね」

 

 猫宮の言う通り、派遣に関しては不安の声もある。門の向こうの文明レベルから見て、機械という言葉すらない中世の世界観だと予想されているが、それが問題だった。

 なにせ機械すらない時代で、宗教の力が強い時代。自立人形や戦術人形という存在は、中世の偏った価値観で受け入れられる筈がない。

 宗教観が薄れた現代ですら偏見や苦手意識があるのだから、中世の宗教的価値観ではトラブル必須の存在だろう。連れていく事自体が間違いなのかもしれない。

 

「機械という言葉すらあるか怪しい向こう側の人間が、自立人形を理解できるとは思えないわ。もしかしたら宗教が立ち塞がって、自立人形に対する風当たりが強くなるかもしれない……そこは、注意してよね」

「ああ、覚悟しておくよ……ありがとうな」

 

 そう言って伊丹は診断書を持ち、椅子から立ち上がった。猫宮に一言礼を言うと、そのまま部屋を出て行こうとする。

 彼が部屋を出ていく際、猫宮は近くのコーヒーメーカのスイッチを入れた。コーヒーが焙煎され暖かい状態で出てくる中、彼女は密かにつぶやいた。

 

「まったく、相手に入り込み過ぎよ……」

 

 元来、伊丹はそう言う人間だが。

 




・Hal-27
日本国国防軍が開発した室内戦向け特殊短小銃。P90の様なプラスチック弾倉を銃上部から装着して撃つプルバック式の小銃で、銃身が短いにも関わらず精度が高い事で有名。
元ネタはCoD:AWに出てきたBal-27という初期武器。

・メンタル
AIコア及びホストサーバーに保管されている戦術人形のデータ、および感情の総称。人間と同じ個性豊かな感情を表現できるが、時には葛藤や不確定要素でエラーを出してしまう。それらのエラー持ちは「変異体」と呼ばれ、放っておくと深刻な損傷につながるかもしれないので、メンタルのケアは大切である。
元ネタはドールズフロントライン。変異体という言葉の元ネタは「Detroit:Become Human」より。

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